Super Science Fiction Wars 外伝

Steel Eye'd ladies~鋼鉄の眼差しの乙女達

第12話 もう一度、演習場にて……

C-Part.


「やるねぇ……悪いけどさ、まだ終わってないんだぜ!」
「な、この声は!?」

次の瞬間、DoLLSメンバーではない声が彼女達の会話に割りこんで来たと思いきや、フェイス機のコクピットに接近警報が鳴り響く。
咄嗟に大きくバックステップしたフェイスだが、土煙の中から飛び出した影を見てわが目を疑った。

「人型ぁっ!?」
「やってくれるじゃないのよ、特にそこの奴!!」

右手の周りの空間を大きくゆがませた、X-5シリーズより大きい人型が突進してくる。
冷静なフェイスをして、その光景は軽くパニックを起こさせるものがあった。

「ちょっと、さっきのリニアキャノンによるダメージはどうなってんだ!!」
『わずか……いえ、最終的な数値は終了後に出しますが戦闘に影響を与えるほどではありませんでした』
「な!?」

審判を担当するオペーレーターにあっさり返されたフェイスは思わず目が点になる。
一方その光景を目にした他のメンバーも口々に驚きの声をあげていた。

「全高15メートル以上……X-7からすれば倍以上の相手だったなんて!」
『ど、どうしましょ……』
『油断したわね。こうなったら数で押すしかない!』
『相手も人型ってのなら機動力はこっちと変わらないはず!』

いきなり土煙の向こう側から現れたバトロイド形態のYF-19に度肝を抜かれたのはフェイスだけではない。
ヤオ、セルマ、フェイエン、エイミーといった参加している全員がそうだった。

しかし、まだ数の上で優勢を保っていることが彼女たちの士気を維持していた。
すぐさまYF-19を包囲するようにフォーメーションを組んで攻撃を開始する。

その返礼は、最初の一撃を回避したYF-19のガンポッドによる一連射だった。
高初速で放たれたペイント弾は、一番近かったフェイスの機体に命中しその上半身がペイントで染まる。

『DoLLS07(フェイス機割り当てのナンバー)、上半身全損及びパイロット死亡判定。戦闘不能』
「なんて火力よ……!」
『数発当たっただけで、X-7の上半身を吹き飛ばすなんて……』
「今の……長銃身の35mmガトリング?だとしたらリニアキャノンとほぼ威力は同等って事か……」

ヤオは内心呟く。
戦車砲並みの威力を持つガトリング砲と言うのも非常識だが、それと同等の威力を持つリニアキャノンの直撃に耐える装甲を持つ戦闘機と言うのも非常識だ。

だが、文句は言ってられない。

「全機散開、ビーダンスパターンで一撃離脱に徹しろ!!」
『『了解!!』』

すぐさま、陣形が包囲から散開型へと変わる。

「そう来るならこっちはスピードで攻めさせてもらうぜ!こういうときは各個撃破というのがセオリーだろ?」

その動きを見たイサムも、YF-19を加速させ一気に突っ込む。
脅威度の数値がモニターに表示され、それを見てまずどの機体から戦闘不能にするかを判断する。

この場合、指揮官機を潰すべきだがやはりそこにたどり着くには数を減らすことが重要だ。
指揮官機は最初にDoLLSが待っていた開けた平地から、市街地を模した場所に移った。

最後の戦場はあそこになるだろうと思いながら、イサムは次の攻撃を繰り出した。

「遅い、そこだ!」
『え、ちょ、待って……こっちは心の準備が……』
「こっちは全力だ!待った無しで行くぜ!」

その餌食になったのは、親友であるフェイスの撃破判定に呆然としていたミリィとすぐ隣にいたエイミーの機体だった。
とっさの判断でミリィ機を突き飛ばしたエイミー機だったが、YF-19によるガンポッドの射撃をモロに受けることとなる。

『DoLLS11、脚部ユニット全損及び腰部・下半身フレーム部損壊判定。移動不能』
「このぉ!」

ミリィの機体がYF-19に向けてアサルトライフルを放つが、弾丸は相手の高機動性を前に全て回避される。
それ以上に彼女を驚かせたのは、照準機能が繰り返す「error」の文字。

「速すぎて捉え切れない!照準システムがパニックしているなんて!」

ミリィはモニターのデジタルフレームがコマ落ちしているのを見てAIがパニックしているものと思ったが正確には違った。
X-7のセンサーとAIはYF-19の動きを正確に捉えていたが、標的を撃つに当たって自身がどの様に動き、出力をコントロールしバランスを取るか動力系統へ伝達するまでにロスを生じさせてたのである。

流石のミリィもこれには焦った。
いや、フェイスがあっさりやられたのも道理だ。

だが、彼女も第一期DoLLSの一員である。
すぐさま射撃システム系統のAIを落とし、マニュアルモードに切り替えての射撃に入る。

同時にライフルのモードをフルオートから三点バーストに変更し、無駄弾を減らす策をとった。
リニアキャノンでもまともなダメージを与えられなかったが、ダメージが蓄積すればという意図がそこにあった。

高速機動でYF-19が迫ってくる。
その時、一瞬YF-19の動きが止まった。

『まだ、死亡判定は出てない!これで!!』
「うおっ、いきなり背後からってのは酷いんじゃないのかい?」

YF-19が止まった原因、それは両足が全損の判定を受けたエイミー機からの射撃だった。
移動こそ出来なかったが、まだ上半身と腕部、各種装備は無事だった為彼女はペナルティが出るかもしれないという覚悟でミリィへの援護射撃を行なったのである。

これに対して、イサムの方はガンポッドの連射で礼を返した。

今度こそ「上半身完全喪失。パイロット死亡」の判定が全員に知らされることとなる。
ペナルティは課されなかった。

一方、ミリィの方はその隙をついてX-7を突っ込ませ、射撃をお見舞いする。
後ろに気を取られたYF-19には至近弾が命中したがオペーレーターからの報告で「与えたダメージは軽微」というのを知るとガッカリした表情を浮かべた。

「やっぱり、ダメかぁ……」
「そういうこった。せっかくだから『ああ、今回もダメだったよ』と言っておくぜ」

次の瞬間、イサムからの通信が入ると同時にメインモニターがペイントで染まった。

『DoLLS08、頭部及び両腕部喪失。コクピットのダメージはコンソール部損壊及びパイロット重症判定』

以上がミリィ機に関するオペレーターの報告だった。



「……うちの若手エース三人が離脱とはね……」
『ミリィ達ですら足止めにもならなかったとは……』

市街地エリアに移動したヤオ達は何とか陣形を組み直し、アンブッシュ戦術を取ろうとしていた。
ミリィ、フェイス、エイミーの若手組エース三人を持ってして足止めが良い所であったと言うのは、DoLLS側としては想定外の出来事ではあった。

「セル、あの子らは何とか足止めにはなったわ。彼女らが少しでもダメージ食らわしてないと、こっちは戦力分散になってた所よ」
『そうですね……』

突発的事態に弱いセルマを正論で諭し、ヤオ達は対策を考える。

『で、どうするのよあのチートな可変戦闘機。いっそのことグレネードで落とし穴でも掘って落とす?』
「却下(1秒)」

ジュリアが冗談めかして言った意見を、思わずヤオはずんばらりんと切って捨てる。

『多分、アレは人型と戦闘機型の中間形態も持ってるわよ。落とし穴程度ならホバリングで避けるわ、多分』

ファン・クァンメイの言葉に、ヤオは頷く。

「MBT以上の装甲に第4世代ASの機動性。PLDと同等の火力……。しかし何か弱点はあるはず……。落ち着けヤオ、何か有る」

内心ヤオは呟きながら、YF-19の弱点を必至に探す。
その時、今回の模擬戦でヤオに次ぐサブリーダーを担当するフェイエンが口を開いた。

『隊長、お考え中のところ申し訳ありませんが、我々は重要なことを忘れてはいませんか?』
「どういうこと?」
『最初に我々が確認した数は2機いました。ですが、我々はたった一機によって翻弄されています。だとすれば、もう一機はどこにいるのです?』
「あ……!」
『もし残り一機がこの市街地エリアで新たに加わって二機同時に攻撃を仕掛けてくる可能性も想定するべきです』

この時、ヤオの心境は「完全に失念していた」というものだった。
まったく攻撃してくる気配が無いから彼女も目の前のYF-19についてしか考えてなかったのである。
もし、まったくダメージを受けてないもう1機がここで加われば自分たちは本当に「全滅」の判定が下るのも覚悟しなければならない。

だとしても、今はこうしている間に着々と近づいてくるあの機体に対処するのが先である。
その時、ヤオの頭にあるアイデアが浮かんだ。

「あれだけの機体なら、相当数の精密電子機器を詰んでいるはず。スタンポッドで動きを止めてしまえばなんとかなるかもしれない!」
『ですが、一方で耐電シールドを備えている可能性も想定しておいたほうが』
『だけど手段としては、先輩が言う様にそれしかないみたいですね。問題は、あの機動性を前にどうやってそこまで肉薄するかです』
「やはり、どこか開けたところで包囲陣を強いてそこで集中砲火を浴びせた上で足止めするのが上策か……」
『もう一機の機体についてはどうします?』
「この状況でまだ上空にいるなら、まだ攻撃を仕掛けるつもりじゃないということだから無視していいと思う。今はあの機体をなんとかするのが先よ」
『そうですね……とりあえず、最終的に迎え撃つポイントとしてはここが最適と思われます』

フェイエンが提示したのは市街地エリアの中心に近い開けた場所である。
ここならば、建物の影に隠れての攻撃も仕掛けやすく同時にそこそこの広さなので罠を張るにも適していると思われ、ヤオもここで迎え撃つことに同意した。

迎撃ポイントの指示が生き残っている全機に伝えられた直後、相手が市街地エリアに接近しているとの連絡がエリア外周に展開するメンバーの機から入ってくる。

「来たわね。総員敵機を当初の迎撃ポイントに誘導する。攻撃及び撤退については各自の判断に任せる。以上!」

ヤオからの通信後、生き残っている全機から「了解」の返事が届く。
同時に、ヤオ、セルマ、フェイエンは迎撃ポイントである市街地エリアの広場に移動した。



同じ頃、市街地エリアの外周付近では警告を発したジュリア、マーガレット、エレンの三人がトラップを設置していた。
第一期DoLLSメンバーの二人に4thDoLLSのエレンが加わっているのも奇妙な編成だが、これは市街地エリア外周を索敵するマーガレットとエレンの機体をジュリアがカバーするという形になった為である。

また、今後は日本連合を始めとする融合世界出身のDoLLS隊員も加入するであろう。
その前に第一期DoLLSと4thDoLLSの間に残る100年間のギャップを取り払う意味もあり、こういった編成が意図的に組まれるようになっていたのだ。

「設置終わった?」
『大丈夫、模擬とはいえこのトラップに引っかかれば相当のダメージを与えられる筈よ』

マーガレットが設置したのはビルに挟まれた通りの一つに張られたワイヤートラップである。
高さ的にはX-7の身長より高い位置にあり、YF-19の人型形態からすれば丁度胸の高さぐらいだ。

『ですが、本当にあの可変戦闘機が人型のまま来るのでしょうか?』
「飛行形態で来るならもうとっくに来ているし、そうだとしたら他の場所からも戦闘が始まった事を知らせる通信が入るわよ」
『フェイス達3人がやられたポイントから一番近いのはここだから、賭けるしかないわね』

エレンの言葉にジュリアとマーガレットは言葉を返す。
その直後、こちらに接近するエンジン音が響いてくる。
どうやらお目当ての相手が来たみたいだ。

「それじゃ、予定通りに……」
『参りましょうか』
『そうですね』

トラップを仕掛けた地点から市街地エリア側に数十メートル入った地点へ彼女たちは布陣する。
予定ではトラップにより撒き散らされたビルの破片を敵機であるYF-19に浴びせ、相手が怯んだところをアサルトライフルとグレネードの一斉射撃でしとめる手順だ。

ホバリングしているのか、ずいぶんと軽快な音を立てている。
だが、それもここに到達すれば……。

「あれ?」
『何で?』
『爆発しませんね……?』

おかしい、エンジン音が響いてきているのに爆発音は響いてこない。
もしかして不発だった?とマーガレットは思ったがすぐその考えを否定する。

模擬戦で使用する装備品は何度もチェックしていたはずである。
万に一つのミスも無かったはずだ。

聞こえていたエンジン音が途切れたのはそのときだった。

(まさか、気付かれたか?)

マーガレットにすれば、X-7の探知機でも精度を高レベルにしなければ感知できない特殊ワイヤーを仕掛けていたのだから気付かれないという自信があった。
だが、相手がとんでもなくチートな性能ならセンサー類も「そういうモノ」だと考えるべきでは無かったかと同時に思う。

「動きが無いわね……?」
『どうする、こっちから行ってみる?』
『それしかないでしょうね。このまま待っていても事態は好転しませんし』

未だにエンジン音が響いてこないのを怪しみ通りの側に移動したジュリア達三人だったが、直後彼女達は信じられないモノを見ることになった。

「戦闘機に手と足が生えてる?な、何なのよあれ!?」

そこにいたのは、想像していた人型形態の機体とは似ても似つかぬ存在。
まさにジュリアが言うとおり、始めて見る人間なら目が点になる代物だった。

『かっこわる~』
『流石にこれは……』

ジュリアに続いてマーガレットとエレンも思わず脱力してしまう。
だが、それも長く続かない。

目の前のYF-19がエンジンを始動させると急発進してきたのだ。
その光景に三人は度肝を抜かれる。

『DoLLS02より06・09・12!奴さんは戦闘機から変形するのよ!中間形態ぐらいあって当然よ!!』

唖然とする三人にファンからの通信が入る。

『至急退避しなさい!』

と、言いながらファンはスナイパーライフルを構え、ジュリア達にグレネードをばらまきながら逃げるように言う。
ホバリング移動なら、下からの衝撃に弱いはずだと言う確信があったのだ。

しかし、三機が動くより先にYF-19はその戦闘機と人型の中間にであるガウォーク形態のまま一気に建物の壁を駆け上げるように上昇し、途中で人型に変形すると三機の前へと出る。

「きっ、来たあっ!!」
『あ、あわわわわわっ!』
『間近で見るとこんなに大きいなんて!』

いきなり自分たちの前にX-7より遥かに大型の機体が現れたことで三人は軽いパニックに陥る。
その状況を破ったのは、マーガレットによるアサルトライフルの一連射だった。

『DoLLS02より09!バカッいきなり撃つな!狙いが狂う!!』

ファンによる叱責で射撃が止まる。
スナイパーライフルによる射撃は、YF-19が人型形態で背を向けたことで絶好のタイミングをとった筈だったのだが、マーガレットの射撃による流れ弾がファンの方向に飛んできたことで射点が大きくずれたのである。

「今回の模擬戦は味方からの攻撃を受けてもダメージ判定が出るのを忘れたの……え!?」

ジュリアも射撃を制止させようとして、自分の機体にダメージ判定が出たのに驚く。
スクリーンには「DoLLS06、右胴体部にレーザー命中。フレーム損傷度小破、運動性能2.5%低下」との判定が表示されていた。

それがYF-19の固定武装であるレーザー機銃であると気がつくのに数秒の時間を有した。

「余所見をしている余裕があるのかい?こっちは宣言したとおり全力なんだぜ!」

その事に驚く間もなく、YF-19のパイロットから通信が入るや即座にレーザー機銃が放たれた。

「くうっ、なんて火力よ!何発も当たったらダメージの蓄積が半端じゃないわ!」
『まったく、トラップよけたと思ったらどんだけチートだってのよ!!』
『気をつけてください、まだ撃ってきます!!』

エレンからの通信に反応したジュリアとマーガレットの機体がそれぞれ左右に飛びレーザーを避ける。
一方、ファンは再びスナイパーライフルを構え射撃姿勢に入るものの、YF-19も警戒しているのか先ほどからジュリア達に攻撃を加えながら自身も動き回っている為、狙いがつけられないでいた。

(一体どうすれば……そうだ、あれならば!)

次の瞬間、彼女の中で閃くものがあった。
気休めにしかならないだろうと思いながらも、現状でやれる最善の策。
ライフルの狙いを外し、彼女は別の装備を発射することとした。

「一体このまま逃げ回ってもどうにも……ってまたダメージ判定!?」
『こっちもアイツの銃で撃たれまくっているわよ!一発当たっただけで左腕損傷よ……エレン、そっちは?』
『頭部メインカメラを吹き飛ばされたとの判定です。サブに切り替えましたから移動はできます!』

同じ頃、YF-19と対峙していたジュリア、マーガレット、エレンの搭乗機はそれぞれ大なり小なりの損傷を受けながらも致命的なダメージを受けずにいた。
だが現状は押されっぱなしでうっかりビルの間から身を晒せばレーザー機銃とガンポッドの餌食になりかねない。
どうにかして、一度離脱し立て直しを図りたいがそれも難しかった。

何かいい方法は無いかと思っていたところ、煙をたなびかせて複数の物体が飛来する。
その速度は誘導ミサイルとは思えないほどゆっくりしたものだった。

「ミサイルか?じゃあ、先にそっちを撃ち落しますか!」

イサムもそれに気がつくや、ガンポッドとパルスレーザーをそちらに向ける。
ガンポッドの銃弾はあっさり命中しそれらのミサイルと思しき物体を破壊した。

次の瞬間、大量のチャフと煙幕が周囲一体に拡がる。

「ありゃ、こいつは煙幕だったってことか。参ったね……」

先ほど破壊したもの、それはファンの機体に装備されていたスモークディスチャージャーより射出された煙幕弾だった。
ジュリア達が離脱する為の時間稼ぎの手段として彼女が用いたのがこれだったのである。

『早く、こっちへ!』

ファンからの通信が三人の機体に入る。
三人がモニターを見ると、煙幕の中でも脱出できるようにレーザー誘導が同時に行なわれていた。

即座にファンの誘導する方向へ大急ぎで離脱する3人。
しかし、YF-19が彼女たちを追撃してくることはなかった。

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