Super Science Fiction Wars 外伝

Steel Eye'd ladies~鋼鉄の眼差しの乙女達

第12話 もう一度、演習場にて……

B-Part.


2月22日 9:30
SCEBAI敷地内滑走路



滑走路上には、既にYF-19とYF-21が完全武装の状態でスタンバイし発進しようとしている。
既に最終チェックも終わっており、あとはDoLLSの側が予定のポイントに展開するのを待つだけだ。

その間、イサムとガルドはそれぞれの機体にスタンバイして無線で会話をしていた。

「そんじゃ、行ってきますか」
『言っておくが、俺は戦わんからな。見物させてもらうぞ』
『こっちにすれば、ガルド君にも参加してもらいたいのだがな』

二人の通信に割って入ったのは岸田博士である。
やはり、生の実戦データが取れるのは嬉しいのだろう。

『博士、正式な形での模擬戦なら結構ですがこれは半ば決闘です。自分としましては納得が……』
「ここまで来てそれを言うかねぇ……」
『まぁ、何も無理して戦えとは言っておらん。だが、実際のデータがあれば複製機を作る時に役立つからな。こっちにはありがたいんじゃよ』
「ところで、DoLLSの皆さんはどうなってんだい?そろそろ準備が整ったと思うけどよ」
『DoLLSなら今しがた展開完了したところじゃよ。今頃二人がどんな機体で来るのか手ぐすね引いて待っているはずじゃ』

今回の模擬戦闘にあたって、イサム達の機体に関する情報は機密の関係もあってDoLLSには伝わっていない。
一応、技研の側からデータを閲覧した人物がいたことは二人とも知らさせているが、実物を見たわけではなくまたDoLLSのメンバーはその一名を除けば殆どの戦闘要員は何も知らないとのことだった。

「こいつを見たらどう思うかねぇ……では、行きますか!」
『やれやれ……』
『では、二人とも気をつけて行ってきてくれ。DoLLSもそろそろ痺れを切らす頃じゃろう』

通信が終わるや、2機のAFVは離陸し急上昇する。
相手も広大なSCEBAIの敷地を全てカバーしているわけではない。
機密保持と奇襲効果を考えて、二人は上昇出来るだけ上昇してから攻撃を仕掛けるつもりであった。



同時刻
演習場上空 指揮管制機VCE-1機内



「……フェイルン……まったく無茶なんだからねぇ」

今回、動向確認の意味も有りナミは実戦には出ず、指揮管制機からのデータ収集という形で参加していた。
ナミには分かっていたのだ、あの二人が何に乗ってくるか。

「止めたところで……無駄だっただろうけどね……」
「は?」
「あ、こっちのことよこっちのこと!」

あの二人が空自の所属でありながら技研のテストパイロットをやっていると知った時、何か怪しむべきだったとナミは今さらながら思う。
しかし、二人が乗っている機体のスペックを他の皆に話すことは流石に機密の関係もあってはばかられた。
模擬戦の前に「どんな機体に乗ってくるか判らないから注意して」と釘をさすのが精一杯だったのである。

(そりゃ、あの二人と例の機体が結びつくなんてすぐ出来なかったわよ……名探偵の推理じゃあるまいし)

どちらにしても、程なく模擬戦が始まる。
そうなったら恐らくDoLLSが正面から戦って勝てる可能性はきわめて低い。

(演習とはいえ、ある意味不名誉な記録になるわね)

たった二機の可変戦闘機にDoLLSが負ける――――-

恐らく、オムニにいた頃ならば圧倒的な数の軍勢を前にしなければ到底許容できなかっただろう“敗北”の文字。
普通ならまず頭に浮かぶはずの無い状況を頭に浮かべながらも、ナミはため息をつく。

(まぁ、ただ負けて終わるとも思えないけどね……。その辺は皆の頑張りに期待しましょうか)

その直後、自分たちの遥か上空からエンジン音が響いてくる。

「来たみたいね。さて、地上にいる皆の配置はどうかな……っと」

ナミがモニターに目を向け様とした直前、衝撃波と送れて爆音が響いてくる。
その時の衝撃波は、一瞬機体が分解するのではないのかと錯覚させられるほどのものだったと後日彼女は語ったそうだ。

「な、何だったのよ……?」

まだ、いくらか頭が混乱しているナミがすぐさま窓の方を見ると、上空には飛行機雲が二本描かれていた。
機体の姿は見えず、どうやら自分たちの頭上を通り越したのだろう。



一方、場所は変わって地上に展開するDoLLS一同も上空から響いてくる爆音で自分たちの対戦相手が到着したのを確認した。

「来たわね……皆、準備はいい!?あの軟派野郎をブチのめしてやるわよ!!」
『了解!!』

その直後、ヤオの機体に通信が入る。

『レーダーに反応!サイズはきわめて小さいですが、速力マッハ5以上!!二機居ます!!』

X-7Rに搭乗していたフレデリカ・アイクマンの言葉に、ヤオ達は冷や水を浴びせかけられたような衝撃を受けた。

「……マッハ5以上で反応の小さい物体……!?」
『しかもこの運動性、ミサイルのたぐいじゃありませんよ』

ヤオの背中に冷たい物が流れる。
それは、どこか脳裏に引っかかっていながらこの直前まで忘却の彼方にあったもの。

「奴さんの機体……まさか……」

以前情報収集の際に見た「脚の生えた戦闘機」の姿が頭をよぎる。
まだ、そうと決まったワケではないもののその可能性は極めて高くなったと思っていいだろう。

「シルバーリードより全機へ、敵はきわめて高機動の特機と推測される。搦め手で掛かって行かないと全員あの世行きよ!!」

それまでと打って変わって緊迫感を帯びたヤオの通信に、全員が通信モニタ内でえっ?という表情を見せる。

自分は、いや自分達はとんでもない連中を敵に回そうとしているのではないかという警戒信号がヤオの脳内に鳴り響く。
しかし実際に戦ってみるまではわからないと思ったその時、上空に影が差した。

直後、地上に衝撃波とそれによって生じた土煙によって視界が失われる。
これがレイバー部隊だったらこの時点で半数近くあるいはほぼ全ての機体が戦闘不能に陥っただろう。

だがそこは百戦錬磨のDoLLSである。
最初こそ若干の混乱を生じたもののすぐに落ち着きを取り戻し、標的を確認しようとする。
ヤオのX-7が真っ先に標的の飛び去った方向を確認し、モニタへその正体を映し出す。

(戦闘機!?あれが今回の相手なの?いや、ただの戦闘機であるはずがない。それにあの機体が放つ爆音どこかで……)

上空にいる戦闘機が放つ爆音とエンジンのノイズに引っかかるもののあったヤオが記憶を辿っている頃、その上空では派手な挨拶を見舞ったイサムのYF-19がエンドレスエイトでDoLLSの出方を待っていた。

「やっぱ最初の挨拶はもう少しデリケートなのがよかったか?いや、向こうもやる気満々だったからこんなもんかね?」
『まったく、お前は何をやっているんだ。いきなり超低空での音速飛行をやれば相手も混乱するのは当然だろう……ま、どうやら相手も立ち直るのに時間は掛からなかったみたいだな』

一方のガルドはイサムと言葉を交わしながらも搭乗するYF-21のセンサーで地上の様子を確認していた。
まだ土煙が完全に晴れていない状態ながら、秩序を保ち体制を立て直しているのがわかる。
恐らく指揮官は相当の人物だという事が各機の動きから伺えた。

「それじゃ、そろそろ土煙も消える頃だから再び行きますかね……っと!」
『やりあうのは勝手だが、機体は壊すなよ。それから俺は見物させてもらうぞ』

急降下していくイサムのYF-19とは対照的に、通信を入れたガルドは直後YF-21を上昇させていった。

同じ頃、ヤオは部隊の指揮を執り全員をまとめ直しながら、相手となる戦闘機の正体を思い出していた。
記憶の奥底に有った独特の甲高い爆音。

(まさか……あの時の……)

この世界に出現して間もないころ、頭上を飛び去って行った謎の偵察機。
あの音と似ていた気がしたのだ。

「マギー!今の音ライブラリと照合!!急いで」
『もうやってます!今の音……まさかあの時の……』

マーガレットもその音の正体に気づいていた。
先ほどの戦闘機が件の「脚の生えた戦闘機」で、更にあの時自分達を偵察していた機体と同一なら性能は相当なものだろう。
ならば、真正面から馬鹿正直にぶつかった所で勝負にならないのは目に見えている。

と言うよりは、今回は地対空ミサイルの用意が足りないのも有った。

「『ゲイ・ボルグ』ぐらい持って来ればよかったかしらね……」

X-7の追加装備として開発された03式超音速多弾頭ミサイル「ゲイ・ボルグ」。
あれがあったなら最初の段階で先制攻撃をかけられたはずである。

しかし、今回は模擬戦用の弾頭が間に合わないという理由から装備類のリストから外されており、リニアキャノン等の銃器が対空攻撃の主力となっていた。
だが、そのゲイ・ボルグがあったとしても今回参加したX-7の相当数に装備させなければいけなかっただろう。

そこまで考えてヤオは頭を振る。
無いものをねだるより今必要なのは、目の前の敵に現状の装備で最善の対処をすることだからだ。

先ほどの機体が再び降下してくるのがわかる。
恐らく超低空での飛行で翻弄するつもりだろうと判断したヤオはすぐに全機へ指示を出す。

「各機!敵は次のタイミングで突っ込んでくる!全機散開しグレネードとリニアキャノンの集中砲火で出鼻をくじけ!!」
『了解!』

次の瞬間、全てのX-7が散開し手持ちの火器を標的機の飛行予測ルートに向ける。

そして、爆音と共に地上を白いモヤが走るのが見える。
モヤの正体は土煙と、それを吹き飛ばす衝撃波だ。
そんなものを地上に生み出すのは……。

「来た!!」
「何ぃ!?」
「あんな飛び方って……!」

誰もが標的である機体を見た瞬間度肝を抜かれた。

相手は見る限り普通の戦闘機である。
彼女たちが驚かされたのは機体の外見ではなく、その飛び方だった。

相手はなんと地表スレスレの高度で、それも機体を逆さにしてキャノピーが地上にぶつかるのではないのかと思えるぐらいの高さで突っ込んできたのだ。
その姿には、ヤオやセルマ、フェイスにエイミーといった独立戦争時代を戦い抜き後世の教本に名を記した第一期DoLLSのメンバーですら呆気に取られたほどである。

「うろたえるな!!相手が技量の面で我々に劣らないというだけに過ぎない!こっちも全力で行く!一斉射撃開始!!」

ヤオの指示が飛び、次の瞬間我に返った全員がYF-19に向けて一気に攻撃を開始する。
グレネードランチャーの模擬弾が炸裂するが、相手はそれらをスレスレで回避し命中判定を示す染料は演習場にぶちまけられていく。

『グレネード、回避され続けてます!』
「構わない!撃ち続けてこのまま牽制を!」

撃ち出される搦め手のグレネード弾が回避され続ける中、ヤオはそのまま指示を出し続ける。

(あれだけの至近距離で炸裂しているのに飛び続けられるって反則なんてものじゃない!)
『敵機、リニアキャノンの射程に入る!』
「!! 今だ、撃てっ!」

YF-19を捕捉したフェイスのX-7が、次の瞬間リニアキャノンを放つ。
誘導弾の様な追尾能力こそ無いものの、超音速で放たれた弾丸はそのまま吸い込まれるようにYF-19の胴体に命中し、機体をペイントで染める。
直後、バランスを崩したのか大きくフラついたYF-19はあさっての方向に飛んでいくのが見えた。

「あちゃあ……致命傷だったかな?」
『勝った事は勝ったみたいですけど……』
『やり過ぎたかな?』
『死んでないといいですが』
『縁起でもないこと言わないでよ……』

土煙が上がり続けている方向を見てDoLLSのメンバーは口々に呟くが、少なくとも自分たちは勝ったと思っていた。
そして誰もが忘れていた。

勝利したなら判定が出た上で戦闘終了が告げられることを。
裏返せば、相手と接触したときのインパクトと驚くほどあっけない勝利でそれ以外頭に無かったという事なのだろう。

Aパートへ

Cパートへ