Super Science Fiction Wars 外伝

Steel Eye'd ladies~鋼鉄の眼差しの乙女達

第12話 もう一度、演習場にて……

A-Part.


新世紀3年2月22日 9:00
静岡県富士 SCEBAI敷地内演習場



その日、SCEBAIの広大な敷地においてあるイベントが起ころうとしていた。
敷地の一角には白とブルーに塗装された人型兵器が20数機集まり、いずれもが完全武装でスタンバイしている。
ただし、装備している火器に装填されているのは全てペイント弾や模擬弾であり、レーザー等光学装備の類も非破壊性の視認出力レベルに設定されている。

その内の一機である指揮官機の内部で、ヤオは後輩で部下でもあるセルマと無線で話していた。
まだ相手が到着してないものの、コクピットから出て空気を吸うほどの余裕も無かったからであったが。

「まったく、本当に果し合いなんてことになるなんてね。あの軟派野郎がどんな機体に乗ってくるのか知らないけど」
『ですが、どんな機体に乗ってくるのか検討つきませんよね……空を飛ぶなんて言ってましたし、上空警戒はしてますけど』
「どうせマジンガーZかゲッターロボの“もどき”かもね。本家とは似ても似つかないデッドコピー品だったら笑ってやるわ」

二人がそんな話をする一方で、ミリィとエイミーは呆れた顔で会話をしていた。

「なんでこんな事になっちゃったのかしらねー……」
『口喧嘩で済んでいたらよかったのにそれが果し合いなんて……』

二人ともこの日が休日だったのでそれぞれスケジュールを立てていたのだが、それが潰れた為うんざりしていた。

『なら、その憂さ晴らしにとことん叩き潰してやったらどうだ?』
『完全武装でここまで来た以上退けないでしょ?』

そんな二人の会話に割り込んできたのはフェイスとジュリアである。
こっちの二人は先ほどの二人と違い、明らかにやる気でいた。

彼女たちが「果し合い」などと言っているのは、新型PLDであるX-7の能力評価を行なうところが急遽変更しての模擬戦闘となったからだ。
なぜこの様な事になったかというと、それは一週間前に遡る……。



新世紀3年2月15日 14:00
陸上自衛隊 富士演習場



「ちょっ!あの乗りこなし誰よ!?」
「人差し指一本立ちにトンボ返りとか、あれだけの操縦が出来る人ってDoLLSにも殆どいないのに」
「大体、X-7の試作機に乗っている人間なんてDoLLSの他には数えるほどでしょ?それもまだシミュレーターでの訓練段階だけのはず……」

この時期X-7の先行量産機が公開され、富士演習場に持ち込まれDoLLSと富士教導師団の手で教本作成に必要な初期段階での操縦訓練と運用が行なわれていた。
だが、DoLLSのメンバーが演習場に訪れた時、多くのX-7がまだ初期段階での機動訓練だったのに対し、2機だけ際立って俊敏な動きをしていたのである。
しかも前の言葉通り、おおよそ初心者が乗っているとは思えないパフォーマンスまで見せたのだから彼女たちが驚いたのも無理はない。

「ミスリルの人かしら?」
「いや、今回はM-9での模擬戦って事でX-7は乗ってないはずですが」
「それならナデシコGCRの関係者じゃない?」
「そちらも確か、今回は不参加のはずでしたが……」
「じゃあ、誰があれを乗りこなしているのよ?」

彼女たちがあれこれ話している間に、当の2機は他の機体に先んじて演習場を離れていく。
どうやら演習場に隣接する整備ハンガーに向かう様だ。

「終わったみたいですね。どうします?」
「ハンガーに行ってみたほうがいいかも知れないわね」
「あれだけの腕前なら、ウチに来て欲しいけど……」

興味津々でハンガーに向かうDoLLSのメンバー一同。
到着してみると、駐機している2機のX-7を前に二人のパイロットが見上げている。
機体に整備員が多数張り付いているのを見ると、先ほど引き上げたのはあの2機で間違いないだろう。

パイロットはというと、一人は優男でもう一人は顔色の悪い?巨漢というのが彼女たちの第一印象だった。
その脇には整備部隊の代表と思われる男が立っている。
彼女たちも、その男はO.M.N.I計画の関係で何度も見ている技研から派遣された職員だとすぐ気が付いた。

「大方、あの二人に意見を求めるって所ね。どんなこと言うか楽しみだけど」
「あれだけ乗りこなしてたんだから、間違いなく入れ込んでいると思うわよ」

そんなことを言いながら、DoLLSのメンバー一同はパイロットが何を言うのかを遠巻きにしながら聞き耳を立てる。
技研の職員が、二人に感想を求めるのが見えた。

「お疲れ様です。どうでしたか、X-7の乗り心地は?」
「ああ、これだけ反応がいいなら文句なしだな。地上戦用の機体としては申し分ない完成度だ」
「俺もガルドと同意見さ。だけどよ……一言いいか?」
「なんでしょう……何かご不満でも」

優男の方が何かあるのだろうか、隠れていたDoLLSのメンバーも思わず身を乗り出す。

「不満じゃないけどよ……こう言いたいのさ『飛ばねぇロボットは、ただのロボットだ』ってな」
「この前見た映画の台詞を使うか、こういう状況で……」

その台詞に巨漢のパイロットは呆れ顔になり、技研の職員は思わず苦笑する。
一方、DoLLSのメンバー一同は思いっきりずっこけていた。
しかし、メンバーの中でつかつかとパイロットの方に歩み寄る者が一人。

「先輩!?」
「フェイルン!?」

周囲が驚きの声をあげるのも気に留めず彼女――ヤオ・フェイルン――は、パイロットの前に向かう。
そして、一言。

「聞き捨てならないね。今の台詞」
「おっ、あんたは……」

ヤオの姿を見て、そのパイロットは驚いた顔で振り向く。

「陸自第二独立機動大隊第201中隊、ヤオ・フェイルン二等陸佐よ。あー言っとくけど、上官侮辱罪とかは関係ないからね二等空尉どの?」

いきなり現れたヤオに対しても動じる様子を見せないイサム。
一方、ガルドと技研の職員は怪訝な表情を浮かべる。

「横から話を聞かせてもらったけど、随分な言い様ね。まるで飛ばなかったら兵器として失格みたいじゃない?」
「おいおい、あんた人の話をちゃんと聞いてなかったのかよ?『兵器として不満は無い』って俺は確かに言ったぜ」
「ええ、そう言ってたわね。でもそれならなんであんな事を言う必要があったのよ?」
「そりゃあ……」

イサムが何を言わんとするのかとヤオは訝しげな顔をし、ガルドは「さっさと『アレは映画の台詞だった』と言え!」と目で合図をする。 一方、他のDoLLS隊員一同は物陰から乗り出して様子を伺っていた。

そして……。

「決まっているだろ。俺の愛機は空を飛ぶからさ!」

それを聞いたヤオは顎がカクンと下がり、他のメンバーは「ハラホロヒレハレ」とばかりにずっこける者もいれば反応に困るといった表情を見せる者などさまざまな反応を示す。

「ちょっとあんた……空飛べるからってそれが優秀と言う根拠にならないわよ?」
「いや、兵器としての性能は置いておくとしても空が飛べた方がいいに決まっているぜ。なにより地面から離れて高く飛べば気分も変わるってやつさ」
「気持ちはわかるけどね。それを陸戦兵器に乗っていながら言うのはどうかと思うわよ……」
「そうだねぇ……こればっかりは実際に体験しないとわからないかな。何なら、お手合わせするかい?コイツと俺の愛機で」

X-7の装甲を軽く叩きながらイサムは笑ってみせる。
彼にすれば、軽口のつもりだったのだろうがヤオにすればそれが挑戦状の様に思えてならなかった。

「いいわよ。やってやろうじゃないの」
「おお、乗り気かよ……それなら決まった。一週間後に模擬戦実施って事にしようぜ!」
「そうね。だけど、やるからにはこっちも全力でやらせてもらうわよ」

ヤオによるその一言を聞いた瞬間、ガルドは呆れた表情となり、様子を伺っていたDoLLSのメンバーは身を乗り出した格好のまま一気に崩れ落ちる。
その音に、技研のスタッフや整備員達がびっくりして振り向くのも気にせず、立ち上がったメンバーはヤオの前に集まった。

「ちょっとフェイ……あんた何考えてるのよ?」

第2小隊(ブルーウルフ)隊長ファン・クァンメイがあわててヤオに言う。
ジアス戦役時の再結成以来落ち着いていた……と思っていたヤオが、突如として瞬間湯沸かし器を沸騰させてとんでもない約束を勝手にしたことを流石に咎めずには居られなかったのだ。

「ちょっとね、あの野郎の物言いが気になったのよ。空が陸を見下して言ってる言葉の典型ね、ありゃ」

X-7にも新型動力のホワイトホールが搭載され、ジャンプ飛行ではあるが「飛ぶ」ことはできる。
これにより戦闘ヘリ相手なら空戦を行える程になったX-7なら、並大抵の「飛ぶ」人型兵器を相手にして負ける気にはならなかったのだ。
海軍出身であるヤオは航空隊員、それも戦闘機乗りの中には海軍師団や海兵隊の兵士を見下してる者がいることを何度も目の当たりにしており彼ら(女性パイロットも居るが……)がえてして陸戦兵器を見て言う言葉の一つが、ちょうどイサムの言った台詞だったのだ。

海軍でPLDに搭乗してきた彼女としては、久方ぶりに腹にすえかねる気分になり、喧嘩を吹っ掛けたくなったと言うのが心境であった。

「今から、宿舎に戻るわよ。同時にハーディにも模擬戦やる旨を伝えて。それから今日非番の全員にも通達すると同時に整備班へも実戦想定での整備に入るように伝えて」
「あ、先輩いきなりちょっと……中佐、どうします?」
「うーん……なるようになるんじゃない?」

セルマからいきなり話を振られたのは、それまでずっとその様子を見ていたタカス・ナミ 二等陸佐である。
他の者にすればX-7の開発初期から携わってきた彼女が一連のやりとりに何も言わないのが気になっていたが、セルマに対する発言は意外だった様である。

「そんなぁ……」
「こういう時は、互いの納得が行く所までやりあうのが一番じゃない?」

その一言は残された他のDoLLSメンバーを納得させるには十分だった。

だが、このときナミが別の思惑を持っている事は誰も気付かなかったのである。



2月19日 4:30
SCEBAI施設内整備場



「連絡があってすぐ準備させておったからな。こっちの準備は整っておるぞ」
「さすが博士、話が分かるぜ」

岸田博士の言葉に、イサムは笑って指を鳴らしてみせた。
富士の裾野に広大な敷地を持つSCEBAIの施設に、YF-19とYF-21の2機がその翼を下ろしたのはこの日の夜明け前の事である。

滑走路に着陸した2機はそのまま誘導されて施設内へと入り、更に機密保持の為地下の整備ハンガーへ下ろされた。
機体から降りた二人を待っていたのが、SCEBAIのスタッフに指示を飛ばしながら機体に向かってきた岸田博士だった。

「まったく無茶を言ってくれるものじゃな。初期ロットが完成したと思えばいきなり使わせろとは」
「申し訳ありません博士。イサムが言った冗談交じりの一言でお手を煩わすことになってしまいまして」
「ま、なっちまったモンは仕方がないんじゃねーの?弾薬とマイクロミサイルの複製が完璧かどうか知るいい機会だしな」
「イサム!お前は反省の色が無いのかまったく……」

整備場では、SCEBAIのメカニックと技研やGGGから派遣された整備員達が岸田博士を中心にYF-19とYF-21を前に各種弾薬の装備と点検を行なっている。
一方、反省の色がないイサムはガルドににらまれながらも、ようやく初期ロットが完成したガンポッド用の弾とマイクロミサイルの複製品を確認していた。
最初の頃は弾薬でも複製にそれなりの時間がかかると思っていたが、それは杞憂に終わった様である。

「ガルド君もそう怒らんでもいいじゃろ。こちらとしてもバルキリーとPLDの戦闘がどんな結果になるのか楽しみじゃからな」
「そう言ってもらえるとこちらとしても助かります。自分は手を出すつもりは毛頭ありませんが……」
「こっちとしても、生のデータが取れる貴重な機会でもあるからな。むしろ張り切って協力するぞ」
「岸田博士もノリノリだねぇ……テストの結果も問題ないなら、あとは弾頭をペイント弾にして装備すれば大丈夫か」
「それについてはもうやっておるわい。あとは、実戦の当日まで寝て待っておればいいじゃぞ」

イサムが岸田博士とあれこれ話しているのを後目に、ガルドは整備員に指示を出すべくYF-21の方に向かったのだった。

「ところで博士、例の美人さん達は何時こっちに来るんだい?」
「DoLLSの一同なら模擬戦の前日にこっちへ来るみたいじゃな。今頃は向こうも準備の真っ最中じゃろう」

二人は対戦相手の事を話しながら、ガルドの後を追って整備員が取り付いている自分の愛機に向かう。
その途中で、イサムは模擬戦が終わったらDoLLSメンバーの誰かをデートに誘うかなどと考えていた。
もっともその直後に「お前、ナンパとか考えているんじゃないだろうな?」と即座にガルドからツッコミを入れられたのは言うまでもない。



同じ頃、富士演習場でもDoLLSの一同が充てられた建物にてシミュレーションと戦術の組み立てに明け暮れていた。

演習場の地図とその脇に置かれたノートPCを前に話しているのはヤオ、フェイエン、セルマ、ファンといった模擬戦に参加する面々である。

「『空を飛ぶ』なんて言っていた以上、通常の陸戦対応型マニュアルは当てになりませんね」
「以前、自衛隊のWAP用戦術シラバスが話にならないと思ったけど、今度はこっちの戦術が当てにならないとは思わなかったわ……」

フェイエンの言葉にヤオは頷きながら呟く。
売られた喧嘩を買った――少なくともヤオはそう思っていた――とはいえ、いざとなると相手がどんな機体に乗っているか分からなかったのである。

「今回、X-7のテストパイロットをやっている以上陸自の関係者と思ったけど、搭乗機が飛行するとなれば案外特自の関係者かもね」

そう言って、対大型機想定の戦術パターンをPCの画面上に開くのはファンである。
テストパイロットが陸自以外からも集められているのはナミから聞かされていたが、そのプロフィール等は機密上の問題もあってDoLLSのメンバーにも公開されて無い部分が多い。
必然的に相手の所属も推測に頼るしかない部分があった。

「所属はこの際どうでもいいわよ。問題はどんな機体に乗ってくるかって事よ」
「現在確認できる機体のデータを総当りしていますが、空を飛べる人型機動兵器の数は限られます。この中から絞り込むしかないのでは?」

セルマが現在日本連合に配備・登録されている人型機動兵器のデータが記された書類をファイルしたものを前に話す。
彼女が言うように、人型機動兵器であり空を飛ぶものは全体からすれば多くない。
それは他の者も同じ考えだった。

「とりあえず、候補を考えるなら次の様になるかと思います」

フェイエンがそこで言葉を切ってホワイトボードにマジックで想定される機体について箇条書きをしていく。

1.高機動陸戦兵器(例:HIGH-MACS)
2.飛行能力を有する機動性の高いスーパーロボット(例:ゲッターロボ系列、マジンガーZ系列)
3.可変式の特機(例:該当候補無し)

「他にも飛行能力を有するゾイドという可能性も考えられますが、日本連合にゾイドが配備されたという話はまだありません」
「出てきたとしても、アグレッサー機扱いになるのは確実だろうからおいそれと出てくるわけ無いわよ。ところで最後の3に該当候補無しって何?」
「最後の一つは、リストの中に今回出現しそうな機体がありませんでしたので……唯一の例外が戦闘機と人型に変形するという『レギオス』ですが」
「新世紀元年にインド洋沖で遣エマーン艦隊が遭遇してそのまま保護したというあれね」
「ええ、ですがあの機体は現在技研での解析を終えて格納庫に仕舞い込まれているとの事ですので対象からは除外した上での『該当候補無し』となります」

事実、日本連合が唯一保有する「レギオス」はインド洋におけるインビットとの遭遇戦の際に日本連合が入手したものである。
パイロットのスティック・バーナード中尉は後にアメリカへ渡った為、残った機体の調査・解析を技研が主導で行ないその後は「パンドラの箱」に収まっているというのが現在までの経緯だった。

「そうなると該当候補の無い3は外すとして1ないし2の可能性を想定して、戦術を練るべきではないでしょうか?」

セルマの言葉に他の三人が一同に頷く。

この時、ヤオの脳裏には何か引っかかるモノがあったのだが、それに気が付くのは模擬戦当日のことであった。
何よりこの後は1と2を想定した戦術シミュレーションの組み立てに忙殺されることとなった為、結果としてそれが何だったのかすら忘れてしまうことになる。

もし、この場にナミがいたならイサム達の機体についてそのものを教えなくても何らかのヒントは与えていた可能性があるだろう。

しかしナミはこの場におらず、ヤオもこの時忘れてしまった「引っかかるモノ」については模擬戦の当日まで思い出す事は無かったのである。

 

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