Super Science Fiction Wars 外伝

島風型駆逐艦の憂鬱

おまけエピソード 函館市の真相


北海道函館市。
この都市は20世紀末から21世紀初頭にかけての時代から出現した都市部と、戊辰戦争の時代から来た五稜郭周辺が混在する事で知られている。

しかし、融合後の函館市はもう一つ「ある事」で有名な都市となっていた。
それは「いさかか非常識な都市伝説が多数存在する」ということである。

都市伝説の内容を挙げると以下の様なものである。

「函館市は古来より巨大なイカの姿をした宇宙人の侵略にさらされてきた歴史があり、それらに対抗するべく非常識な装備が市内の至る所に存在する」
「五稜郭は城砦型の飛行戦艦であり、その技術は宇宙からもたらされたらしい」
「函館のランドマークである五稜郭タワーは巨大なロボットに変形し、稼動させればそのエネルギーで市の財政が赤字になる」
「函館山はNORADも真っ青の地下要塞となっており、そこには最終兵器というべき巨大榴弾砲が鎮座しているそうだ」

他にもいくつかの都市伝説が存在するのだが、現在の函館市を見てもその様な痕跡も無ければイカの姿をした宇宙人が攻めてきたことも無かった。

同時に、これらの都市伝説に対して函館市も沈黙を守っていた。
一度だけ、市長がインタビューの場において「そんな物が本当にあれば、今頃北海道は内戦地帯になってませんよ」と苦笑しながら答えた事はあったが。

それゆえに、上記の都市伝説はいずれも世間においては与太話、都市伝説の類として処理されていた。

では、その真相はどうだったのか?
本当に都市伝説の枠に収まる話なのか?

実の所、これらの都市伝説はそのいずれもが「真実」だったのである。
それもかなり真相に近づいたものなのだ。

誰も真実にたどり着けなかったのは、その内容があまりにも突拍子無いもので逆に信用出来なかった事と連合政府や函館市側が一切の沈黙を守っていたからである。
中途半端に情報を出さなかった事とどれほど噂が流れても沈黙していた事で、これらを追及しようとする人間も馬鹿らしくなった結果都市伝説として世間に流布する程度に留まっていたのだ。

そうなると、これらの技術はどのようにしてもたらされたのか、そしてなぜ函館ばかりに集中しているのかという疑問が発生するのだがそれにはある平行世界の函館がたどった歴史が関係していた。

この世界の函館は今をさかのぼる事、約150年前になんと宇宙人とのファーストコンタクトを果たし「宇宙開港」を成し遂げていたのである。
開港時に宇宙的不平等条約の締結や侵略者の迎撃等もあったが、それでも函館は宇宙に知られる「観光都市・ハコダテ」として成長していった。

だが、現代の函館にやって来た侵略者はそれらを見事ぶち壊しにしてしまった。

その侵略者の名を「イカール星人」という……。

確かに、彼等イカール星人の函館侵略は遠く明治時代から散発的に行なわれていたが、2008年の第三次侵略に際しては極めて大規模な戦力を投入してきたのである。
一説にはイカール星人の総大将「大王イカール」自らが乗り込んできたとも言われている。

そして、これらを迎撃したのが前出の「函館に存在する非常識な装備」だったのだ。

具体的には五稜郭の正体は「万能城砦戦艦・ゴリョウカク」であり五稜郭タワーの正体もまた「タワーロボ」だったのである。
一方、函館山はその内部が「大ハコダテ山要塞」と化しておりそこには太陽系内の全てを射程におさめる「2800㎝宇宙榴弾砲」が配備されている。

他にも「ハマデ式光線兵器」という防衛兵器も存在していたが、これら全てが時空融合後の函館に存在しているのだ。

しかしこれらの装備は実戦に用いられることもなく封印されたままの状態で現状を維持している。
つまり、外見上はただの観光スポットでしかないのだ。

そもそも五稜郭や五稜郭タワーといった観光スポットが空を飛んだり変形してロボットになるなど誰が想像するだろうか?
ある者は言う「東京都庁が巨大ロボに変形する方がまだ真実味がある」と。

だからこそ、真実は眼と鼻の先にあるにも関わらず誰もたどり着けなかったのだ……。

ここで話は連合政府と函館市の動きについて記す。

連合政府がこれら超兵器の存在を知るきっかけとなったのは、五稜郭に立てこもっていた「蝦夷共和国」が投降した後に実施された五稜郭内部調査での事だった。
本来ならば存在しない「出入り口の無い空間」の存在や城砦の設計上ありえない人工物の存在が明らかになったのは調査開始からすぐの事。

この報告を受けた連合政府側はこの調査についてどんなに些細な事でも報告する様に現場へ指示を出した。

それから数日の内に函館から届けられた報告内容とそれらに添付された写真や映像の類は連合政府の度肝を抜くに十分なものだった。
更に調査が進むにつれて、連合政府はこれらが極めて慎重に取り扱いを要し同時に機密指定が必要な物だと判断した。

調査が政府機関中心だった事が幸いし、機密の保持はスムーズに進んだのだが、問題は今後これらの超兵器をどうやって一般の目から隠すかという事だった。
現在は五稜郭もタワーのどちらも破損箇所の修理及び点検ということで民間人の立ち入り禁止状態としているが、観光スポットである以上隠し通すことはできない。
だからと言ってレプリカを用意して本物をどこかに移すのも難しい。

まさにこれは連合政府にとっても頭の痛い問題と言えた。

これに対しては、あれこれと対応策が話し合われたが「どうせなら開き直ってそのままにしておくのがいい」という結論に到る事になる。
まさか、SSS級機密(函館の超兵器群は対宇宙戦想定の物なのでこのランクに該当)に属する代物が堂々と観光スポットになっているとは誰も思わないだろうというわけだ。

同時にそれらしい都市伝説を流布しておけば、その胡散臭さは一層倍増し真相に近づこうとする者はいないだろうとご丁寧にその手の噂話まで作られたのである。
こうして、函館の超兵器群は観光スポットとしてそのまま元の場所に鎮座し続けることとなった。

さて、肝心の超兵器群だが発見され機密指定がされたといえど、非常時になればすぐ使えるというわけでもなかった。

たとえば、五稜郭の場合は万能城塞戦艦・ゴリョウカクとしての機能は持ちながらも周囲の設備やメンテナンスハッチが時空融合の影響で出現せず新たに設置する必要があった。
更にエネルギーのチャージシステムも切れているので、再充填できなければ浮かべないという状態に陥っているので余計なカモフラージュなどしなくても表向きはただの史跡として残されることとなった。
もちろん、ゴリョウカクとしての機能を復旧する作業と調査は続けられており調査が終わり次第修復工事の名目で大規模な改修が行われる予定である。

五稜郭タワーロボについても同じことが言えた。
こちらは変形機構こそ組み込まれているものの、AIは休眠状態であり同時にエネルギーラインも切れていて起動不能状態となっている。
現在は通常の業務電源からとれるサブコンピューターが動いている位だが、普段こちらは函館市のメインサーバーとして使用されている。

SSS級機密指定の代物をメインサーバーに使うというのは驚くべきことだが、これはオーバーテクノロジーの産物故に高性能だった事と予算圧縮の為という理由があったからだ。
ちなみに、調査の結果メインコンピューターは普段からスリープモードになっていた様だが、これは起動に必要なエネルギーが膨大で稼働させる度に市の予算が赤字になるという笑えない理由からだった。

後に、連合政府がタワーロボを一週間連続出撃させれば電気代だけで函館市の財政が破たんし、道南地域で大規模な停電が起こるほどの膨大な電力が消費されることが解かり、関係者の顔は引きつったという。

結果として函館市の超兵器群は稼働すれば暴露以前に市の財政が吹き飛ぶことから相変わらず観光スポットとして元の場所で観光客を出迎えているのである。

では、これらが迎撃するべき侵略者である「イカール星人」はどうなったのだろうか?

現在では「相克界が邪魔で地球に降下できない」というのが大方の見解になっている。
なにしろ、全長が150メートルもある異星人であるから「異星人登録」の前に存在が発覚してもおかしくない。
それが、日本連合だけでなく海外からの情報を調査しても全く姿を確認できないというのは「この地球にイカール星人は存在しない」という以外に考えられなかった。

だが、いずれ相克界が消滅し外宇宙とのコンタクトは可能になるだろう。
その時イカール星人が侵略にやってくる可能性は極めて大きい。

何時か来るその時の為に函館の超兵器群は暫しの休息を与えられたと言えるのかもしれない。

―了―

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