Super Science Fiction Wars 外伝

東京空中戦 -Battle of Tokyo.-

E-Part.


6月9日 午前10:00
神奈川県川崎市Gアイランド GGG本部

首都圏上空で発生した揺り戻し騒動から10日後。
GGG本部はいつもと違う空気に包まれていた。

外から見る限りでは普段どおりだが、本部内は通常より一段高い警戒態勢が敷かれ、GGGの職員以外に黒服のSPが多数詰めている。
それもそのはず、この日のGGGには連合政府から加治首相以下の閣僚、各補佐官といった安全保障会議のメンバーが報告内容を聴く為に訪れていたからだ。
もっとも、報告会そのものが行なわれる場所が場所なので余計な心配をするものもいなかったのだが。

騒動の後、2機の可変戦闘機とGGG本部に運び込まれた無人機の残骸は、早くも出現翌日から調査に取りかかった。 
当初はSCEBAIへの移動後に調査を行なうことも検討されたが、結局輸送や機密上の問題もあってそのままGGGで調査を行なうことになり、主だった調査メンバーはGGGまで足を運ぶハメになった事を記しておく。

調査そのものは獅子王博士とSCEBAIの岸田博士、鷲羽ちゃんの3人を中心に説明役としてイサムとガルドが加わって実施され、滞りなく進んだ。
この時、新たな事実がいくつか発見されたが、その内容が内容だった為にそれらについては後日、安全保障会議の場で報告されることとなっている。

その前に、この揺り戻し騒動に関しての政府発表とそれに対する世間の反応について記しておく。

一連の騒動に対する政府の公式発表は、騒動当日から三日後という避難規模からすれば恐ろしく早い時期に行なわれた。
政府から発表された内容を簡単に纏めると以下のような内容である。

《揺り戻しで出現したのは3機の航空機であり、内訳は2機の有人戦闘機が暴走した無人戦闘機を撃墜する為の作戦行動中に巻き込まれた。
その後、無人戦闘機は出現した2機の有人機とナデシコ級宇宙戦艦及び空自の戦闘機隊による共同作戦で撃墜、2機の有人機はパイロットが自衛隊に投降し、政府の保護下にある。
また、撃墜された無人機の残骸は調査の為回収された。パイロットの姓名等個人情報については機密事項である。》

この発表に対して、一般市民やマスコミはこの説明内容を驚くほどスムーズに受け入れた。
左翼系議員からの追求があると思われた自衛隊の出動についても「暴走した無人兵器の破壊」が任務だった事と、民間人に被害が出なかったことで極少数の的外れな批判を除けば普通に受け入れられた。

今回の発表は、当の連合政府側も拍子抜けするほど簡単に世間を納得させたのである。

これは、黄金週間のお台場騒擾に際して発表が遅れたのに比べて迅速な対応が好意的に受け入れられた他、幾つかの幸運な偶然が重なった結果でもあった。

まず、一般市民にすれば避難していた為、その場で実際に一連の出来事を目撃していなかったことが大きい。
首都圏に居を構える人でも、警戒が解除され家に戻ってみれば家屋や財産の損害が皆無だったことで誰もがすぐ日常生活に戻った為、避難中の出来事を気にしなかったというのもある。
存在力の影響で個性の強い人間が多数出現したこの融合世界でも、自分と直接関わりのないことに感心が薄いのはどうやらどこぞの世界と同じらしい。

一方、マスコミは揺り戻し現象と時を同じくして地上で繰り広げられていた破壊工作を目論む「赤い日本」の潜入部隊と対テロ部隊との攻防戦に注目の目を向けた。
都庁地下の原発については政府の手で秘匿されていたが、首都圏上空での出来事よりももっと身近で起こった戦闘行為は人の目をひきつけるのに十分だったのである。
この件について、政府が揺れ戻し現象そのものより詳しい発表を行なったこともマスコミが積極的にとりあげるきっかけとなった。

皮肉にも敵の存在が、より重大な機密を隠す上で煙幕の役目を果たしたのである。

そして、変態仮面の存在。
政府が公表した戦闘中の映像に含まれていた衝撃いや笑撃的な変態仮面の姿はゴシップ誌やスポーツ新聞にとって格好のネタとなり、お茶の間のワイドショーなどでも連日とりあげられたほどだ。
また、一部の地域では事件報道の翌日から子供がパンティを被って変態仮面の真似をするという「変態仮面ごっこ」が流行り、親の頭痛の種になるなどちょっとした社会現象にもなっている。

このような事もあって、首都圏全域を巻き込んだ揺り戻し現象は、日を置かず日常に埋没したのだった。

さて、当の報告会はGGG本部ビッグオーダールームに設けられた特設会場にファイターモードのYF-19とYF-21の2機、そして撃墜後回収されたX-9“ゴースト”の残骸を展示しての普段とまったく異なる状況で始まった。

「単刀直入に言うと、今回出現したこれらの機体は我々の想像を絶する代物じゃったよ」

報告会の席上、冒頭からこのように切り出したのは、揺り戻し発生からこの日までGGG本部に泊り込んでいた岸田博士である。
この数日間、休むことも忘れて調査に報告書の作成、二人からの情報収集に没頭していたにも関わらず、その声は疲労を感じさせずむしろ興奮と活気に満ちたものだった。

「どう言ったことでしょうか岸田博士? 確かに記録映像を見る限りだと20発以上のAAMを掻い潜り、エステバリス隊ですらついていけない高機動を見せてましたが……」

神田空幕長の言葉に、博士は大きく頷くと説明し始めた。

「あの映像だけでも十分かもしれんが、機体の調査中に新たな映像が発見されたのでこちらを見てもらう方が解りやすいじゃろう。ただ、撮影場所や時期に関してはここで明かせんからな」

その言葉の後、会場の大型スクリーンに映し出された映像を前に注目する参加者一同。

映し出されたのは、大空で複雑な飛行機動を繰り返すYF-19の姿。
おそらくどこかの空軍基地上空で撮影されたものだろう、YF-19の飛行機雲が徐々に巨大な太古の翼竜を思わせる絵を描いていく。
見るものが見れば、YF-19が常識外れの運動性と耐久力を持ち合わせ、同時にパイロットが天才的な操縦センスの持ち主であるのが解るだろう。

二番目に映し出されたのは、市街地を模した演習場でバトロイドモードの二機が壮絶な格闘戦を繰り広げる姿である。
殴り合いに銃撃戦、ピンポイントバリアの展開による防御と、とてもレイバーやASでは真似出来ない動きに誰もが息を呑む。

三番目はYF-21の超高速飛行の映像だ。
無数に放たれるミサイルが迫ってくるのを、曲芸飛行の様な動きをとって寸分の差で回避し、遥か遠くへとそれらを置き去りにしてみせる。
更にそこから、今度は出現した多数の無人標的機を次々と撃破していく……。

この時公開された映像は合計して10分にも満たないものだったが、参加者に強烈な印象を与えると同時に、素人目に見ても会場に展示された2機が常識外れの存在であることを理解させるには十分だった。

「どうかな?これを見てもらったところで機体そのものの説明に入らせてもらうが」
「ええ、十分過ぎるほどです」

終始映像に見入っていた神田空幕長がその場にいた全員を代弁する形で頷く。
首相をはじめとする他のメンバーも同様に納得したという表情を見せていた。

「では続きを述べるとしよう。まず、この3機の名称についてじゃが、ベージュ色の機体はYF-19、青色の機体はYF-21、赤色の機体はX-9という。簡単な説明については手元の書類を見ていただきたい」

岸田博士が言うように、報告会の参加者には前もって書類が配布されている。
そこには、3機の簡単な図面と解説が記されていた。

「まず、これら3機の共通する特徴じゃが……エンジンはいずれも熱核融合炉を動力源とする熱核バーストタービンと言う代物じゃ。熱核ターボジェットはスクラムジェット化が容易と言うことで、TDFのウルトラホークなどに採用例はあるが、これは熱核ターボジェットより一歩進んだ代物なのじゃよ」

怪訝な顔をする一同を前に、博士は言葉を続ける。
あわせて大型スクリーン上には説明内容と同じものが表示されていた。

「熱核タービンは熱核融合反応が発する膨大な電力でタービンを回すことにより推進剤を加速し、さらに核融合炉の熱で膨張させることによって高い推力と無限の航続距離を実現しておるが……」

ここで一息入れて博士は再び話を続ける。

「この熱核バーストタービンはもっととんでもない事に推進剤をプラズマの域まで励起させることによって、発生する連続した核爆発を直接推進力としておるのじゃよ」

核爆発を推進力とするという言葉を聞き、周囲は騒然となる。

「あー、無論核爆発と言ってもD-D反応による純粋な核融合爆発なので、放射能による大気汚染などは一切ありませんぞ。ご安心くだされ」

岸田博士の言葉にそれまで騒がしかった参加者も落ち着きを取り戻す。
それを見た博士が話を続けようとしたとき参加者の中から手が挙がった。

「岸田博士、ここまでの発言で一つ質問ですが」
「なんですかな、加治首相?」

質問の主は意外にも、加治首相だった。
彼としても今回の件と、出現した航空機の存在は注目するところも多かったのだろう。

「素人の質問ですが、説明にあった『無限の航続距離』とはどういうことです?」
「私も首相と同じ点が気にかかりました。推進剤が有限である以上は無限というのは……」

加治首相に続いて声をあげたのは神田空幕長だった。
彼の場合は元戦闘機乗りだったことで余計に興味を持ったらしい。

「ああ、言葉が足らんかった。では詳しく説明させていただこう」

そう言って岸田博士は詳細な説明を始める。
同時にバックのスクリーンに映る映像が変わる。準備調査の際に撮影された熱核バーストタービンエンジンのCTスキャン画像だ。

「まず、先ほど加治首相から質問があった航続距離が無限大というのはまさしく言葉の通りじゃ。その理由はエンジンの構造にある」

更に比較対象として、ウルトラホーク1号のロールスロイス製HNR-031熱核タービンも表示される。

「この3機に搭載された熱核バーストタービンは言うに及ばず、これらの前身である熱核タービンにも言える事だが、大気圏内では大気を圧縮して推進剤としておる」

次の瞬間、参加者の何人かからどよめきが起こる。

「加えて、推進剤となるものは大気で有れば何でもOKなのじゃよ。極端に言えば“流体”であればいいわけじゃから液体でも問題ない」

博士の言葉に神田空幕長は怪訝な顔をする。が、しばらく考えてああそうか、と手を打った。

「このエンジンは、燃焼すると言うことが無いわけか……」
「そう、まわりの流体をタービンで圧縮加速した後膨張、爆発させるわけじゃ。熱源として熱核融合反応を用いておるから、燃焼剤が必要ない。つまり、推進剤を外部から取り入れられる限りはこのエンジンは理論上無限の航続距離を持っておるのじゃよ」

岸田博士の言葉は、TDF等の関係者を除いた参加者に深い溜息をつかせるものであった。

「先ほども言ったが極端な話、防水シーリングさえしっかりしておれば水中でも稼働するのじゃよ、このエンジンは。早速うちでは護衛艦の動力源や次世代TSLの推進機に使えんか検討するつもりじゃ」

その言葉に、海自関係者から一斉にざわめきが起こる。

「質問させていただいてもよろしいでしょうか?岸田博士」

と、脇の特別ゲスト席から声が上がった。

「あなたは……?」
「TDFウルトラ警備隊のキリヤマです。これだけ小さい機体だと熱核タービンの場合、宇宙で飛べてもたかが知れているのではないでしょうか?」

全長50m近いウルトラホークの半分も無いYF-19や21の場合、いくら軽量だとしても搭載できる推進剤の量は少ない。
とてもじゃないが、宇宙空間で戦闘可能な機体とはにわかに思えなかったのだ。

「だからこその熱核バーストタービンだったようじゃな。この機体のパイロット達曰く、これより前の世代の戦闘機の場合は宇宙空間用の増槽とブースターが必需品だったと言う話じゃった」

博士も経緯を説明すると、キリヤマ隊長もなるほどと言った顔を見せた。

「だが、熱核バーストタービンで有れば、先に説明した通り推進剤を膨張ではなく核爆発の域まで持っていくことにより、同量の推進剤でもより効率的に使うことができるそうじゃ」

再びスクリーン上の映像が変わった。
表示されたのは熱核バーストタービンと熱核タービンの推進剤消費率と推力比較図のグラフである。
見れば、熱核バーストタービンの推進剤消費率は熱核タービンより小さいにも関わらず、推力では2倍近い数値を示していた。 

「グラフを見てもらえれば解るが、推進剤消費率は大幅に減少しながらも、最大推力は倍近く増加しておる。これによって単独での大気圏突破と増槽無しでの宇宙空間巡航が可能になったという」

その言葉とともに背後のスクリーンにグラフが表示される。
今度はさすがにTDF関係者も絶句せざるを得なかったようだ。

グラフには、F-15の最新型、ウルトラホーク1号そしてYF-19とYF-21のパワーウェイトレシオと推力重量比が表示されていた。

パワーウェイトレシオの数値は、ウルトラホーク1号が0.35とF-15の0.61より小さい数値を示していたが、YF-19とYF-21の数値は0.077と0.073いう数値だったのである。
一方、推力重量比の数値は、F-15が1.04、ウルトラホーク1号が2.8という数値だったのに対して、YF-19は12.9、YF-21は大気圏内で8.63、大気圏外では13.65という数値だった。

更にそれぞれの最高速度が表示されると絶句から再び驚きの声があがる。

ウルトラホーク1号のマッハ4に対してYF-19とYF-21の最高速度は高度10000メートルでマッハ5.1と5.06であり、高度30000メートルではなんと両機ともマッハ21.0という速度を示していた。
これには思わず何人かが目の錯覚ではないかと自分の目をこすったほどである。

「見てのとおり、最大出力だけ見ればウルトラホーク1号に軍配が上がるが、馬力荷重ではこの2機の方が上回る。標準の推力重量比で行くとYF-19はF-15の12.4倍、ウルトラホーク1号の4.6倍以上の数値を出しておる。YF-21の大気圏内数値でもホーク1号比で3倍以上じゃ。最高速度については説明いらんじゃろう」

もはや会議参加者の多くは、何も言えない状態で有った。

「そんな戦闘機を一体どうやって開発できたんだ……」

ようやくもって、一部の参加者からそう言った声が漏れる。

「この二機の出身世界は、いろいろと特殊な歴史を辿ってきておるからのう……。まぁそれは後ほど話すとして、次はこの機体の構造などについて獅子王博士から説明していただくとしよう。お願いできますかな?」

岸田博士が演壇から降りると、今度はGGG科学班の黄色いジャケットに身を包んだ獅子王博士が演台に立つ。

「獅子王です。私からはこの3機の機体構造、その他特殊装備について説明させていただきたく思います」

普段の「ボク」と違い、獅子王博士の一人称は「私」となっている。
それを後ろの席で聞いているGGGの勇者ロボ達と機動隊長である凱は笑いをこらえるのに必死であった。

『父さん……無理しちゃって……』

演台上の水を一杯飲むと、獅子王博士は言葉を続ける。

「まず、この2機は運動性を非常に重視した機体で有ることは先ほどの映像からも皆さんは推測できるでしょう」

一斉にその場にいた参加者は頷く。
変型による重心移動を的確に用い、空力で空を飛ぶ航空機の常識を超えたマニューバ(機動)を見せるこの可変戦闘機には、誰もが度肝を抜かれていたのだ。

「これらの戦闘機は、機体構造材に量産兵器としては驚異的なレベルの素材を多数使っており、機体外板はほぼ装甲と言ってよい強度を持ってます。それどころか、エネルギー変換装甲という技術によりMBT以上の対弾性能を持っており、今回、新宿での戦闘で見られた通り、現状我々が持っているAAMでは破壊不可能と言ってもよいでしょう」

次にその原理が大型スクリーンへと表示される。

「エネルギー変換装甲の原理を簡単に説明すると、熱核タービンエンジンで生じた余剰推力により、空中移動や発電を介して装甲・機体の分子構造そのものを強化させるというものです」

説明と同時に、スクリーン上にはエネルギー変換装甲が電気を流されることで分子構造の結合を強化する簡単な図が映し出されていた。

光子力研究所をはじめとした特機関係者もこの理論には目を見張る。
だが、それ以上に騒ぎはじめたのは陸自の幕僚や防衛省技術研究所の職員たちである。

「MBTに革命を起こせるぞ……」

そんな声もあちこちで聞かれる。

特に技研は、MBTの開発が4月の技研本部襲撃とそれに伴う統制違反発覚等の騒動によってMBTの開発が遅延し、制式MBTの座を民間企業が主導で開発した02式戦車に奪われるという苦い経験があった。

MBT以上の装甲強度を持つ戦闘機を作れる技術でMBTを作れば、軽量化が図れる上に無敵と言って良いレベルのMBTを開発可能になる。
そんな期待を抱かせずにいられないものがこの技術にはあった。

「ですが、難点としては電力消費がけた外れに高いということでしょう。おそらく戦車が搭載可能なレベルの動力機関では強度をまかない切れないと思いますな」

ざわざわとどよめく関係者に、獅子王博士は返す。

実際、最初に実戦運用を行ったエネルギー変換装甲装備機であるVF-0は出力に余裕のあるバトロイド・ガウォーク時のみであり、従来のターボファンエンジン搭載機であるVF-0は戦闘機形態では従来の戦闘機と変わらない程度の装甲強度しか無かったのである。

同時にその事実を残念がる声があちこちで聞こえる。
やはり、物事はそう上手くいかないのが世の常というものだ。

「まぁ、そう悲観したものじゃなかろう。そのまま転用できなくとも部分部分で応用すればいいだけじゃ。そう、実際研究されている電磁装甲などを開発する上で参考になるかもしれんぞ」

ここで、上手くフォローを入れる岸田博士。

「今後解析が進めば、技研のWAPが用いているハイドロエンジンなどでも運用可能になるとは思いますがな……」

合わせて獅子王博士も言う。
技研式ハイドロエンジンや後に北海道に出現したDoLLSが用いていたPLDの陽電子燃料電池が普及するにつれ、主力戦車やアンダー7メートル級機動兵器への応用も進むことになるが、またそれは別の話である。

一方、スクリーンには再び市街地想定の演習場で格闘戦を演じるYF-19とYF-21の姿が映し出される。
その1シーンが静止画像の状態で表示され、ある点を獅子王博士がレーザーポインタで指し示す。

「さて、皆さんこれをご覧ください。この人型形態、通称バトロイドモードですが、従来我が国が有している人型兵器とは全く次元の異なる兵器である事はご承知でしょう」

獅子王博士の言葉に、参加者の多くが頷く。
量産を前提とした兵器でありながら、その戦闘能力は特機(特殊機動兵器)と言う兵器カテゴリに纏められつつあるスーパーロボットに匹敵するといってもよいのだ。

「現在この2機が腕部に展開しているのはピンポイントバリアといいまして、時空連続体の歪みを用いた防御システムです。このバリアは実体弾やビーム等の光学兵器を無効化することを可能としてます」

レーザーポインタで指し示された箇所には、バトロイドモードのYF-19が拳に膜状のバリアを纏っている画像がある。

「また、この画像で見られるようにバリアを拳や脚部に展開することで格闘戦においても非常に強力な武器にもなるわけです」
「もっとも、この2機が搭載する熱核バーストタービンでもエネルギーの70%を消費するから、バトロイドモードでしか使えんのだがな」

すかさず岸田博士が横から一言付け加える。
一方、獅子王博士はその補足説明に感謝しながらも、外野に何かの準備をさせていた。

参加者にはイヤーマフが配られ、全員がそれを着用するよう指示される。
準備が整ったのを確認した獅子王博士は再び話をはじめた。

「さて、ここで皆さんにその威力を実際に見ていただこうと思います。イサム君、宜しく頼む」
『任せてくれ、博士』

直後、ファイターモードだったYF-19がエンジンをスタートさせると参加者の前でバトロイドモードに変形してみせる。
参加者一同がその光景とイヤーマフ越しの爆音で圧倒されている間に、会場へ二種類の巨大な装甲板が運び込まれてきた。

「ただいま運び込まれたのは、一つ目が現在改装中である打撃護衛艦『播磨』の司令塔に用いられているのと同じ1800ミリの鋼鉄製装甲板、二つ目はガオガイガーをはじめとする勇者ロボに用いられている装甲です」

播磨の装甲板は複合装甲でこそないものの、2メートル近い厚みが有無を言わせぬ迫力を持ち、板というよりはもはや鉄塊と言った方が良い印象である。
GGG特製装甲板も厚さこそ播磨の10分の1も無いが、複合素材独特のサンドイッチ構造が見た目よりはるかに頑強なものであることを主張している。

誰もが、なぜここにこんなものが運び込まれたのかと言う疑問を抱きながら、その二つの装甲板とバトロイド形態を取ったYF-19を見比べていたが、やがて獅子王博士の一言でその意図を知った。

「これより、この二つの装甲板をYF-19がパンチで破壊して見せます。ではイサム君、遠慮なくやってくれ」

獅子王博士の言葉に応じて、YF-19は勇者ロボ用装甲板の前でボクサーのような構えを取る。
と、握りしめた拳の周辺にもやのような空間の歪みが現れた。

数瞬の後

『うぉらぁぁぁぁぁ!』

イサムが裂帛の声を上げると共に、YF-19は体重の乗ったストレートを装甲板に向け放つ。
ゴォン、と言う割れ鐘のような音がビッグオーダールーム中に響き渡り、可聴域を超えた空気そのものの振動が辺りを満たした。

イヤーマフ越しでも全身から響く振動に、その場に居た誰もが耳を抑え目を硬く瞑り、その衝撃に堪える。
そしてようやく衝撃が治まった後、そこには拳が貫いたと思われる大穴の空いた装甲板があった。

「す……」

誰もがしわぶき一つせず、その光景に目を見張った。
続いてYF-19は隣に置かれた鉄塊……播磨司令塔部の装甲板の前に立った。

『せいやあぁぁぁぁっ!』

再び構えると右の拳の周りの空間に歪みが現れ、すかさず播磨用の装甲板へ向けてストレートを一閃。
今度の一撃は最初の時を上回る轟音と衝撃で会場を満たす。

結果は、勇者ロボ用装甲の時より巨大な破孔を作りあげ、穴の周囲にも無数の亀裂を生じさせていた。
それどころか穴を中心にして装甲板は大きくひしゃげ、そのすさまじさをことのほか強調して見せる。
一方で、バリア解いた後のマニュピレーターは全く損傷していない。

参加者にピンポイントバリアの持つ性能を知らしめるにはこれだけで十分だった。

「畜生、凄いぜ、凄すぎる」

しかし、その畜生という響きに悔しさはなく、むしろ驚愕と歓喜が含まれている。

「ありゃあ、初めてエステバリスを見たときの比じゃねぇよ……」

声の主は、ナデシコAの整備班長であるウリバタケ・セイヤ。
騒動の当事者であるナデシコA・Bからは、今回の報告会には艦長であるユリカやルリ(大)の他エステバリス隊のパイロットが主に呼ばれていた。
本来なら彼はその中に含まれてなかったのだが、エステバリスを徹底的に叩きのめした無人戦闘機とそれを撃破した可変戦闘機に強い興味を持ち、無理を言って参加したのである。

ちなみにこの件でナデシコ側は、政府の関係者から許可を引き出すのにかなりの譲歩をしたらしく、プロスさんは酷く憤慨していたことを付け加えておく。

さて、そうやって周囲にかなりの迷惑をかけた結果なんとか報告会の末席に位置することとなったウリバタケだが、彼はそれでも十分満足していた。

なにしろ報告会が始まって序盤に見せられた映像で度肝を抜かれ、続いて次々と出て来る機体の解析結果にも驚くばかりである。
加えて先ほど見た機体の可変と、バリアをまとったパンチによる実演……。

彼の精神は、エステバリスを初めて見た時に受けた時と同様、未来の可能性を目の当たりに出来た激しい感激に支配されていた。

(一度でいい、あんな機体を扱えるチャンスが俺にもあれば……)

そう思うのは技術者としての情熱ゆえだろう。
新たな技術を目の当たりにすれば、それを直接自分の手にしたいと思うのは技術者なら皆同じだ。

もっとも、その前に周囲の人間に多大な迷惑をかけた事を反省しなければいけないのだが……。

一方、報告会そのものは参加者のざわめきがようやく落ち着いてきたところで、再び獅子王博士が壇上に立って報告の続きを始めようとしていた。
バトロイドモードだったYF-19も今はファイターモードに戻っている。

「えー、では皆さん宜しいでしょうか?続いてはこれら3機の個別説明に入らせていただきます」

咳払いをした獅子王博士は、背後の大スクリーンに調査段階で撮影されたYF-19の三面図CGを表示する。

「まず、最初に先ほど皆さんにデモンストレーションを披露しましたYF-19、コールサインα1(アルファワン)についてです」

続いて、スクリーンには三面図CGと共にYF-19の全長、全幅、全高、重量の他、既に判明しているデータが表示されていく。

「このYF-19ともう一機のYF-21はいずれも単独作戦の遂行を目的とした高性能機として試作されましたが、YF-19は空力制御装置を駆使した運動能力向上機であることを目指して開発されています」
「よく分からん人もいると思うので簡単に言うと、設計段階から運動性能の追求と向上を目的として開発された機体ということじゃ」

岸田博士のフォローと共に、スクリーン上へ運動能力向上機がどのようなものであるかの補足説明が表示され、例としてF-16ファイティングファルコンやF-2支援戦闘機の名前が出された。
運動能力向上機とは、ミサイル万能論が覆されたベトナム戦争の教訓から空戦能力の向上を目指して運動性優先の設計が行われた航空機の総称である。
電子装置により機体の運動性能・エンジンの出力制御を積極的にコントロールし、従来では考えられないほどの機動性を実現した機体が多数存在している。
具体例としてSu-27系統機が得意とする「プガチョフ・コブラ」や「クルビット」と言った機動が挙げられ、F-22ラプターに至っては短時間で有れば地面に対して垂直に静止してホバリングすることも可能なほどなのだ。

「科特隊のビートルなども一応この分類に入りますが……。YF-19とYF-21はその中でも特に運動能力を向上させる技術が多数盛り込まれてることが判明してます」

獅子王博士が続ける。
具体例としてはYF-19が「空力的には故意に不安定な機体」であることが挙げられる。

「故意に不安定な機体?それは一体どういう……?」

そんな言葉が参加者から出る中、獅子王博士は説明を続ける。

「要するに機体の不安定さを逆に利用し、通常では不可能な機動を可能ととしているわけです。YF-19の驚異的な運動性能は先ほどの映像でもご覧になったとおりですが」

その説明を聞いて、空自の関係者や航空機に関する専門知識を持つ参加者は納得したとばかりに頷いてみせる。
続いてスクリーン上へYF-19の上面図が再び映し出された。

「そして、あの驚異的な運動性を生み出す原動力となっているのが、本機の特徴である前身翼とカナード(前翼)です。この設計が意図的に不安定さを作り出し、あの運動性能を引き出しているのです」

前身翼の特徴としては、後退翼と比較して失速限界が高い為その分運動性も高いという利点がある。
格闘戦を行なうタイプの機体にとっては理想的な形状と言えるだろう。

「もっとも、ステルス性能の低さが欠点であるため、多くの世界では軍用機に前身翼が用いられることは実験機・試作機を除いてありませんでした……が、YF-19はアクティブステルスを実装することでこの問題を克服しています」

その言葉に会場がざわめく。
確かに、従来のパッシブステルスと異なり、敵のレーダー波を分析し逆に妨害するタイプのアクティブステルスならば確かに設計上の問題点を無視することが可能だ。
しかしそれ以上に、日本連合ではまだ一般機には実装されていないこのシステムを当たり前に搭載してるという事実は開発に携わるものへ大きな衝撃を与えたのである。

「機体設計のすばらしさに加えて、YF-19はその運動性を引き出す為にVFC(渦流制御器)の採用による姿勢制御能力の向上、推力偏向ノズルによる機動性の高さを維持する工夫が施されておりまして……」

他にも、フラップやエルロン等の動翼だけでなく機体各所のスラスターを用いる機動制御システムなどを挙げる度に、関係者からは溜息に近い声が聞こえる。
格闘戦を行う機体としては理想形とも言える機体で有ることがはっきりと示されていたのだ。

「ですが、これだけすばらしい機体といえど、問題点が無いわけではありません。YF-19はその驚異的な運動性の高さゆえに非常に扱いづらい機体となっているのです」

ここで、獅子王博士はイサムとガルドから得られた情報を元にYF-19、YF-21の2機が「マシンマキシマム構想」を導入した機体であることを紹介した。

マシンマキシマム構想……操縦者の安全性を考えず、とにかく現時点で追及できる最高の性能を持つ機械を作ってしまうと言う考えである。
ハイテクを多数導入したYF-21に対抗するべく生み出されたYF-19のすさまじい戦闘機動は、その構想のなせる技であった。

だが、同時にこれは操縦者の間口を狭めてしまい、制御サポートに学習型AIを導入してもその操縦は困難を極めるものだった。
実際にイサムがテストパイロットとなる前のYF-19はトラブルの連続でリタイア続出、墜落事故で死者を出すほどだったのである。

「学習型AIがある程度のデータ蓄積を行なったとしても、この機体をすぐ扱えるパイロットが今の日本連合には機体と共に出現した2名以外にいません」
「まずは、ある一定の技量を持ったパイロットの養成が必要ということじゃ。なにしろ従来の戦闘機とは次元が違うからの」

獅子王博士のフォローとして再び岸田博士が一言述べる。

「もっとも、他にも問題点は山ほどあるのじゃがそれは報告会の最後のほうで述べさせてもらうとして、続いてYF-21についての説明に入らせてもらおう。獅子王博士、引き続きお願いします」

岸田博士の言葉に獅子王博士は頷いたあと、一つ咳払いしてもう一機の機体についての説明に入った。

「それでは、次にもう一機のYF-21、コールサインΩ1(オメガワン)について説明させていただきます」

YF-21にはYF-19同様、テストパイロットであるガルドがスタンバイし、獅子王博士からの指示を待っている。

「この機体も先ほど紹介しましたYF-19同様のコンセプトで開発されていますが、そのアプローチは全くの別物です。その一端を皆様にお見せしましょう。ガルド君、頼むぞ」
『了解です。獅子王博士』

獅子王博士がYF-21の方へ向き、合図を送ると、短い返事の後YF-21の翼に変化が起こった。
電源を供給するアンビリカルケーブルに接続されたYF-21は、ほとんど音らしい音も無しにいきなり主翼を大きく膨らませる。
その光景に、YF-19の時とは異質のざわめきが観衆から漏れる。

続いてYF-21は主翼を左右非対称の形状に変え、右翼に上反角、左翼に下反角を付け、何とも言えない怪鳥然としたシルエットを見せた。
と、ここにきてYF-21はエンジンをスタートさせるとアンビリカルケーブルを切断し、先ほどのYF-19同様ホバリングすると有機的な印象を与える、やや人型を離れたバトロイドモードへ変形した。

「今の変形ですが、再度スローモーションでお見せしましょう」

室内が暗くなり、再度降りてきた大型スクリーン上に高速度撮影されたYF-21の変形プロセスが映し出される。
その光景を見て、参加者は驚愕し度肝を抜かれた。

YF-19の変形はまだ、変形における機体各部のブロックの移動が理解できるもので有ったが、YF-21のそれは異様と言わざるを得なかったのだ。
機体各部のパーツを構成する外板が変形中に有るものは膨らみ、あるものは途中で関節もなしに折れ曲がりまたあるものは細く伸びて形を変化させていくのだ。
まさにその光景は「変形」と言うよりは「変態」あるいは「変身」と言っていいレベルのもので有った。

「失礼ですが獅子王博士、この機体はゲッター合金を用いているようには思えんのですが……」

映像が終わり、室内の明かりが点くとゲスト席から質問の声が上がる。
声の主はゲッターロボを運用する早乙女研の責任者、早乙女博士だった。
その手には携帯電話サイズのゲッター線検出器が握られており、その数値は自然放射線レベルのゲッター線しか検出していない事を示していた。

「無論、この機能はゲッター合金とは別種の技術によるものです。基本はYF-19と同じエネルギー変換装甲でありますが、YF-21の装甲はこれに更なるテクノロジーを追加しているのです」
「更なるテクノロジー……?」
「はい、YF-21の装甲には生体素材に近い特殊複合材を用いており、形状自由度はゲッター合金ほどではないにしても先ほどお見せした通り、柔軟かつ剛性の高い機体構造を実現しています」

生体素材に近いという言葉に再び会場からどよめきが起こる。
流石の早乙女博士もこの説明には驚かされたようで、呆気に取られて獅子王博士の説明に頷くばかりだった。

「しかしこの装甲だけであの動きを可能としているのではありません。YF-21の持つ最大の特徴は、そのコントロール系にあると言えるでしょう」

そこでスクリーンに再び文字が現れる。

『BDI(Brain Direct Interface 脳内直接イメージングシステム)』
『BCS(Brainwave Control System 脳波操縦システム)』

「YF-21の最大の特徴として挙げられるのが、このシステムです。YF-21の操縦系は、パイロットと機体のアビオニクスをBDIにより神経接続し、BCSに伝えることで成り立っています。つまり、YF-21は思考制御システムで動いているわけですな」

獅子王博士の言葉に対して、驚く層とそうでない層があった。
驚いたのは航空関係者やコンピュータ関係の技術が進んでいなかった世界の技術者。
そうでなかったのは、すでにエヴァンゲリオンの運用経験を持つGGGやSCEBAIの関係者、そしてナデシコGCR&Dの関係者である。

「機体各部に設置されたセンサーやカメラから表示される情報をBDIにより直接パイロットの脳に送り込むことで、パイロットは機体を己の体のように制御し、同時に機体の外部情報を己の感覚としてみることができる……」

と、獅子王博士はここでいったん言葉を切る。

「マン・マシーンの操作系としては理想的な『人機一体』を実現できるわけですな。パイロットの側に肉体改造などを施す必要も無く、特別適格者を必要とするわけでもない。普遍性の高いシステムだと思われます」

このBDI、BCSあってこそYF-21の用法適応翼(MAW:状況に応じて断面形状を可変させる形の可変翼技術)はモノになり常識はずれの高い機動性を実現できていたのだ。
従来のシステムでは断面形状を変形させるにはタイムラグが発生しやすく、MAWを採用するメリットが薄かったのだ。

「ただ、難点としましては……操縦者に高い精神集中を必要とすることが挙げられますな。事実この機体のパイロットであるガルド君は『雑念』が入ってしまった為に大変なことになり掛けたそうですし」

その言葉に、参加者の間には溜息が流れる。

「まだ可能性模索の段階ではありますが、『首都新浜・福岡世界』などの電脳化・サイボーグ関係の技術が進んだ世界の技術と合わせれば、もう少し敷居を下げられる可能性もあります。メリットを失うことになりますが、電脳化したパイロットで有ればより簡単にこのシステムを扱えると思いますがね」

その言葉に対し、オブザーバーとして参加していたナデシコGCR&Dのイネス・フレサンジュ博士が発言する。

「フレサンジュ博士の仰る通り、ワシらがナデシコGCRと共同でBDIをIFSと合体できんか調査してみるつもりじゃ。これが上手く行けばこのシステムは早いうちに実用化できると思うがの……」

続いて岸田博士もフォローを入れる。
もっとも、参加者の多くはその思考制御という点に驚かされるばかりで、まともな反応が出来るものはごく僅かだった。

一方、報告会の内容をバルキリーのコクピットという特等席で聞いているイサムとガルドは、参加者の驚く様子を見ながら無線通信で話をしていた。

「やれやれ、皆さん驚きの連続で顔面の筋肉が休まらないみたいだねぇ……この世界の技術レベルは俺達の世界と隔たり有りまくりみたいだけど、お前はどう思うよ?」

イサムはそう言いながら、YF-19の通信ウィンドウに映るガルドへと話しかける。
これなら自分達の会話は他の誰にも聞こえないというわけだ。

『いや、そう言い切れないだろう。GGGの勇者ロボを見れば解ると思うが、あれは我々の世界では作れない代物だ。むしろ、一部の技術が突出しているがあとは平凡という感じだな』
「確かにね……。もっとも、航空機について言えばまだVF-1も作れないみたいだけどよ」

この世界にやってきて10日ほどの間に、二人と現在ここにはいないミュンの三人は融合世界に関してのあらましや現在の世界情勢についてGGGや面会に来た政府の関係者から聞かされていた。
その時見せられた、幾つかの兵器類(人型兵器が多かったのが印象的だったが)とその技術レベルについて思い出しながら二人は話を続ける。

『作れたとしても、扱えるパイロットは少ないだろう。最初はシミュレーターで操縦経験を積むしかあるまい』
「で、その教官は俺達ってことになるかもな……ところでガルド、お前の見解ってどうなのさ?あの時、危うく失速したときの話が出たけどよ」

報告会で現在話されている内容を聞きつつ、過去のテスト飛行時のことを思い出すイサムはガルドに話を振る。
そうしたのは、ガルドがテストパイロットであると同時にYF-21の技術主任でもあったからだが。

『ああ、俺も全てのパイロットが平常心を保ってこいつ……YF-21を操縦できるとは思えん。実用化するなら緊急用の手動操縦システムを通常使用レベルまで引き上げてBDIと兼用にするべきだな』
「なるほどね……その時は、俺の機体にも搭載してくれや。頼むわ」

二人は知るよしも無かったが、この時ガルドが語ったBDIと手動操縦の兼用というのは、彼等の世界では後々YF-21の改良量産型として登場したVF-22という機体で採用されたものとまったく同じであったことを記しておく。
そして、この発想はある意味一番現実的なプランだったりするのだが、その事を二人が獅子王博士達に話すのは報告会後のことである……。

ちなみにイサムがBDIの搭載を頼んだのは、本人も人機一体というものを試してみたいという考えから出たものだったりする。
別にBDIを使えば、未来が見えるとか考えたわけではない……多分。

『わかった……。まぁ、しかしだ……航空機に関して言えば1980年代に熱核タービンをモノにしていた世界が有ったというのは驚きだな』

ガルドの言葉に、確かにね、とイサムも相槌を打つ。
ウルトラホーク一号のエンジンが熱核タービンであり、しかも基礎設計が1970年代にできていたと言うことが驚愕であったのだ。

『その事を考えると、VF-1ぐらいならすぐ作れそうな気がする』
「そうかねぇ?」

イサムも一応戦闘機パイロットで有り、航空工学についての知識は有る。
その視点から今の日本連合を見ると、一部の特機と呼ばれる巨大人型兵器はともかく一般的な航空機のレベルを考えるとVF-1を複製量産するまでにも時間がかかりそうだな……と言うのがイサムの感想であった。 だが、専門家であるガルドはそう思ってないらしい。

『VF-1は確かに初めての可変戦闘機だ。だがこの世界、F-22を作れるレベルまで行ってるわけだからな……少なくとも人型兵器の技術レベルを上げれば……』

3年も有れば作れるだろう、とガルドは続けた。

「まぁ、そりゃ飛行機から変形するロボットは掃いて捨てるほど居るけどよ……どれ見ても工業的に量産考えてねー奴ばかりだぜ?」

日本連合に存在する主だった人型兵器の資料やデータを思い出しながらイサムは言葉を返す。

特殊救難機として改装を受けたグロイザーXをはじめとした変形機構どころか合体機構まで備えたロボットは多数あった。
二人ともそのバリエーションの豊富さに驚かされ、ゲッターロボの変形合体シーンを見た時は目が点になったほどである。

だが、そのいずれもがサイズが重爆級の巨大機であったり、スケールダウンして量産化するにしても構造材や動力系に名前も聞いたことが無いような素材や物質が使われていた。
早い話がワンオフの機体ばかりで、おおよそ工業的に生産される兵器としての水準を満たしてるように思えなかったのだ。

だが、ガルドの表情は甘いな、と言わんばかりに口元に笑みが浮かんでいた。

『アレだけ無茶苦茶なものを作れる技術が有るんだ、調べて行けば工業生産可能な設計のモノもあるだろう。少なくともデストロイド並の性能をもっと小さいサイズで実現しているモノだってあるんだからな』

ガルドの脳内には、WAPやASと言ったアンダー7メートル級の機動兵器の存在が有った。
これらの機体はサイズの差を差し引けば機動性などは第一世代のデストロイドよりは上だと言える。
と、言うよりデストロイドは「巨人のゼントラーディ人」との戦いを前提にある程度大きなモノとして設計されており、技術上はもっとコンパクトにできた……と彼自身は学んでいた。
それだけの技術が有るのなら、アプローチの仕方を教えるだけでVF-1レベルならすぐに作れるだろう、と言うのである。

「そんなものかねぇ……」

相槌を打ちながら、なんかガルドキャラ変わってね?と内心イサムがつぶやいた時だった

『ダイソン中尉、ミスタ・ボーマン。そろそろ次の説明に移りますので、機体から降りていただけます?』

命からの通信がコクピットに響く。

「はいはい……っと、んじゃ降りるとしますか」
『そうだな、詳しいことは後で博士達と話してみるとしよう』

二人がそれぞれの機体から降りて報告者側の席に戻るころ、YF-21の説明はハイ・マニューバ・モード(リミッター解除モード)についての部分が一段落付く頃だった。

YF-21の最終兵器とでも言うべきこのシステムは、ある意味で自殺行為と言うべき代物であり参加者の中からも流石にコレは採用できないという意見が相次ぐ結果となる。
しかし、一部にはそう考えてないものもいたらしく、参加者の一人が挙手の後質問を投げかけた。

「先ほど説明のあったハイ・マニューバ・モードについてですが、BDIの際にお話がでましたサイボーグ技術をパイロットに用いれば解決するのではないでしょうか?」

だが、その質問は岸田博士の一言であっさり否定される。

「そりゃ無理というものじゃ。実際この予備調査で得られたデータにサイボーグである獅子王博士の子息……凱君が搭乗した場合を想定してシミュレートしてみたが……」
「結果はサイボーグ化した体が耐えられても、脳髄が耐えられず崩壊するという結論に達しました。要するに体が早いか脳みそが早いかの差ですな」
「ましてや、自殺行為に等しい機構の為にパイロットの肉体を改造するのは流石にモラルを無視しすぎているわい」

今度は、獅子王博士が横から一言付け加え、岸田博士もすかさず結論を述べる。
直後、その結論を聞いて安堵する声と落胆する声が同時に上がった。

前者のほうが圧倒的に多かったのは言うまでも無い。
一方でSCEBAIの関係者には、岸田博士も人の事言えないでしょうが。と思う者がいたのも事実である。

その後も、このハイ・マニューバ・モードについては「タイムリミット付きの限定使用案」をはじめとして幾つかの意見が出て参加者の間でも賛否両論の状態だった。
しかし、今回はまだ報告会の段階である為、この機構についての議論は別の場所で行なうということになった。

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