Super Science Fiction Wars 外伝

東京空中戦 -Battle of Tokyo.-

C-Part.


午前10:00 新宿区 東京都庁第一本庁舎地下 大駐車場

「B(ベルタ)チーム、応答しろ!こちらA(アルパ)!……ダメです。応答しません」

共同溝を経由して都庁地下にもぐり込んだチームは、確認されている原子炉へのルートの一つである偽装ゲートの前に来ていた。
だが、ここで合流する予定だったチームのうち一つが、先ほど謎の絶叫を残した後連絡が途絶えてしまったのだ。

しかし、破壊工作は可能な人数であったため、予定通り偽装ゲートから原子炉内に突入する作業を開始したのである。 

「無駄だよ……それよりもこのセキュリティをハッキング出来るか?」

早速周囲のコントロールパネルを探し出し、ゲートを開こうと偽装データを送り込んで居た隊員にリーダーは問いかける。

「だめですね……。指紋網膜紋脳波……ありとあらゆる生体認証を使ってやがる。我々の装備では開放不可能です」

その若い隊員は、苦々しく吐き捨てるとコネクタを乱暴に引き抜く。
その様にリーダーは口元をゆがめ、一言つぶやくように指示を出した。

「どの道暴走させるんだ……なら吹っ飛ばすだけだろう」
「良いんですか?」
「構わんさ。セムテックスと起爆装置をを用意しろ」
「これです」

差し出されたセムテックスを彼は掴む。

が、しかし。

「……セムテックスにしちゃあ妙に柔らかいな……」

「違う、それはセムテックスではない!」

セムテックスのつもりで掴んだその物体の柔らかさと生暖かさに違和感を覚え、顔を上げた彼の視界に入ってきたのは……

「それは私のおいなりさんだ」

パンティで覆面をし、妙に股間のふくらみが目立つビキニブリーフ一丁に網タイツ姿の引き締まった体を持つ異様な風体の男だった。

「みぎゃああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

彼の意識はそこで途絶えた。

「私の名前は変態仮面。テロリストどもめ、不法侵入並びに公衆等脅迫目的の犯罪行為にておしおきする!!」

崩れ落ちるリーダーの体からひらりと洗練された動作で飛び降りた変態男はそう名乗ると、隙のない構えのポーズを取る。

その風体に驚いたのは、気絶したリーダーだけではない。
この時点で合流していた原子炉破壊チームの誰もが目を見張った。

まぁ、相手の姿は公衆の面前でさらすようなものでは到底なかったから当然だろう。
だが一方で目の前の変態男が相当の戦慣れした経験者であるというのも推測できたのも事実。

「くっ、先にそっちの変態を始末しろ!」

古参兵の一人が命令するや、若い兵士が手にしていたAK74を変態仮面に向けて構える。
変態仮面は履いているビキニブリーフの両脇を肩の上まで伸ばし、クロスさせると肩で留めた。

「あたっ!」

まるでスリングショット水着を着たかのような光景に、その場にいた兵士全員が爆笑する。
そう、このパンツをスリングショット水着のようにしてしまうレスリング・スタイルは相手の戦意を喪失させてしまうのみならず締め付けで股間に刺激を与えることで変態仮面のやる気を起こす効果もあるのだ。

爆笑しながら兵士の一部は何とか銃を発砲する。が、変態仮面はそれを驚異的なジャンプでかわし側壁を、天井を蹴って一気に彼等の元へ迫る。

そして……。

「変態か、その言葉この変態仮面の前では褒め言葉でしかないっ!ふぉぉぉぉぉぉっ!」

次の瞬間、変態仮面は古参兵の顔面にボディアタックし、その顔面を己の股間と股布の間に挟みこむや独楽のように回転しはじめる。
そのあんまりといえばあんまりな光景に若い兵士達が呆然としてると、変態仮面が回転したままこちらに突っ込んでくるではないか!

「食らえ!変態流秘奥儀『苦悶の竜巻アタック』!!」
「ぐわあああ~~~~っ!!」

若い兵士達は突っ込んできた変態仮面、正確にはその股間に頭を挟み込んだ古参兵の体に吹っ飛ばされながら壁に床に叩きつけられ気を失っていく。
数秒後には床に倒れ付し気絶するリーダーに多くの兵士達、そしてなぜか恍惚とした表情でとろけきったみたいな笑みを浮かべて気絶している古参兵の姿があった。

と、先ほどおいなりさんを握ってしまったショックで気絶したリーダーが目を覚まし、再び起き上がろうとしていた。

「何が……って……!」

目の前十数メートルの所に居る全裸同然の男のシルエットが視界に入った瞬間、リーダーの意識は完全に覚醒し先ほどの衝撃が脳裏によみがえってきた。

「ひっ……」

訓練を受けた兵士でありながら、彼は思わず悲鳴を声に出す。

「逃さん」

声を抑えようとするよりも早く、変態仮面はリーダーの方を振り向き、猛然とダッシュをかける。

「う、うわぁぁぁぁあ!来るなっ!来るなぁあああっ!」

後ずさりして逃げようとするリーダーだが、その動きは這うように遅かった。
人知を超えた速度でダッシュする変態仮面から逃げおおせるはずがない。

「とぉっ!」
「いっ……嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

地下駐車場としてはやや高い天井を活かし、変態仮面は跳躍すると同時に空中でまるでエビぞリのようなポーズを取ると、ちまき状になった股間を相手の顔面に押し付け、胸に強烈なニー・パッドをたたき込む。

「喰らえ変態流秘奥儀、『地獄のジェット・トレイン!!』」

そのままの勢いで相手の体を地面に押し付け、猛烈な勢いで地面を滑走する。
無論、股間はリーダーの顔面に押し付けっぱなしだ。

「ぎゃぁああああ気持悪いぃぃぃ…………」

10メートル程滑走し、ゲートのドアにリーダーの頭がぶつかってようやく、工作班に取っての悪夢は終わりを告げた。
リーダーが衝突のショックで気絶したのを確認すると、変態仮面はようやく満足したのか立ち上がり、ポーズを取る。

「成敗!……さて、こいつら以外にも地下にもぐった連中がいるかもしれないな……ん?」

変態仮面いや狂介は偽装ゲートを力任せにこじ開けて先を進もうとしたが、そこへ次々と迫ってくる足音に思わず手を止めた。
そして、薄暗い地下通路を真昼のように照らし出す強烈な照明と、それを背にして立つ特殊部隊。

「ERET(イーリート)か……」
「ご名答。この場合は君をなんと呼ぶべきかな?」
「変態仮面……それが私の名前だ」

先ほどの破壊工作員とは明らかに格の違うオーラを漂わせるERETの指揮官、新命の言葉にさしもの変態仮面も搾り出すようにつぶやくのが精一杯だった。
一方の新命は、相手に敵意がないことを確認すると周囲で倒れている工作員の捕縛を部下に命じる。
同時に彼等が持っていた装備品も全て回収していく。

「さて、協力してくれたことには素直に礼を言わせて貰おう。が、変態仮面君にはこれから暫らく我々に同行してもらうことになる」
「……逮捕でもするのか?」
「まさか、テロリストの逮捕に協力し惨劇を未然に防いだ君をそのように扱うつもりはない。ただ……」
「ただ?」
「この短い時間で民間人ボランティアの登録名簿へ照会したところ君の名がなかったので、事情聴取と共に少しばかりこの件について説明してもらいたいのでね」
(しまった!自分みたいな場合でも該当するのか!はぁ……)

思わず失念していた事実に流石の変態仮面も思わず気が抜けてしまい、いつもの狂介に戻ってしまったのである。
だが、その時思わず忘れそうになった事実を思い出す。

「で、でもその場合他のテロリストは!?」
「ああ、それについては安心してくれていい。なぜ我々がすぐここに到着したかわかるか?」

新命がチラと視線を向けた方向には巧妙に偽装された高感度カメラのレンズが輝いていた。
それを見て狂介もすぐ納得が言った。

「今頃、他のルートから潜入した連中や地上の連中も、皆投降するか捕縛されるかの運命を辿っているだろう。案ずることはない」
「わかりました。それなら」

その場でいそいそと変身を解く狂介にはすぐ特殊部隊の装備一式が渡された。
要するに覆面のまま同行してくれという意味らしい。

さて、その頃別ルートを通って原発を目指していたチームは、変態仮面に壊滅させられたチームより過酷な運命が待っていた。
偽装ゲートを通って移動したものの、そこから目的地までのルートを三分の一も進まないところで待ち伏せていた敵の攻撃を受けたのである。

「どういうことだ!?警備は手薄ではなかったのか?」
「わ、私に言われても困ります隊長。このままではどのみち我々は任務が……ぐぁっ!」

指揮官の言葉に反論しようとした副隊長が被弾したのかその場で傷口を押さえて倒れ込む。
すぐ他の工作員が遮蔽物まで副隊長を引きずって助け出し、一方で応戦するが火力が違いすぎる。

「拙い、当初の目的が果たせないのはともかくこのままでは我々の命も……いや、ここでコイツを」

そこまでつぶやいた指揮官は懐から取り出した起爆装置に始動コードを打ち込み、最後のボタンを押そうとする。
だが、そこに銃声が響く。
予期せぬ方向から飛んできた銃弾、最初の一発が起爆装置を彼の手から奪い取り、二発目が装置を破壊した。 
指揮官が銃弾の飛んできた方向を見ると、暗闇に輝く狙撃銃のスコープが一瞬見えた。

どうやら知らぬ間に包囲されていたらしい。
それを悟ると同時に自爆する気も萎えてしまった。

『敵の指揮官に告ぐ!投降されたし!諸君等の生命は日本連合国の名において保証される!繰り返す……』

こっちの気を知ってか知らずか、投降を呼びかける声が聞こえてくる。
部下達は副隊長以下、誰もが縋る様な視線を自分に向けていた。

思えば、何人かはまだ成人して間もない者達だ。
彼等の顔を見たとき、隊長は一人つぶやく。

「ああ、そうだな。ここで若者を死なせてはいけないな」

本国の豊原に彼等と歳の違わない子供達を持つ指揮官は、自分の小銃と拳銃を遮蔽物ごしに敵部隊へと投げつけ「戦闘放棄」をアピールする。
他の者達もそれにしたがって武器を放り投げ、またあるいは白いハンカチを振ってみせた。

こうして、揺り戻し現象に乗じて起こった一連の破壊工作は、最後の残り火が鎮火したのである。

「一つ教えてくれないか。なぜ、我々がこの騒ぎに乗じて行動を起こすとわかったのかを」

戦闘後、最後に投降した部隊の指揮官である大尉は、投降した先の部隊――陸上自衛隊・東部方面普通科連隊――の連隊長である桜坂慎二郎一佐に問うた。
ちなみに彼は桜坂東京都知事の実弟でもある。

「簡単です。我々の防諜組織を通じてあなた達の動きは筒抜けでしたから」
「筒抜けだったと……それはまた」

流石の指揮官も桜坂一佐の言葉に驚きを隠さなかった。

「お気づきになりませんでしたか、東京に拠点を作ってすぐに協力者を得られたのかという点に」
「なるほどな……最初から我々は踊らされていたということか、正直やられたよ」

衝撃の事実を前に指揮官も苦笑するしかなかった。

さて、ここで桜坂一佐の言う防諜組織というのは、時空融合以前から存在した内調を始めとする組織を整理統合の上で再編した五十嵐内閣情報室長が指揮する「首相府情報調査本部」のことだった。
101ことバビル二世や、伊賀野の様な特殊能力者が所属することと任務の重要性から組織内のメンバーは秘密のベールに包まれているが、他にも優秀なメンバーからなる防諜組織。

赤い日本の工作員を手玉にとって見せたのはまさしく彼らだったのである。

そもそも、都庁地下の原発も一応機密扱いであるもの、いずれはその存在を公表するべき代物であった。
別段SSS級機密やそれより下のS級・A級に指定するほどのものでもなかったのだ。
事実発見された段階で、廃炉あるいは安全性が確認され次第首都圏の非常用電力供給システムの一部として存続させることも検討されている程といえばどういう扱いかわかるだろう。

現状で連合政府が機密扱いとしたのは未だ調査中のためであり、国民をだますという意図はなかったのである。
なにより、ネットの掲示板で噂話あつかいとして流れるものが、特定の人間しかアクセスできない極めて強固な機密を掛けられるだろうか?

要するに、連合政府は万全の備えの上でこれらを餌に赤い日本の工作員を根こそぎ壊滅させたというわけだ。
まさにコロンブスの卵的な発想と言えた。

しかも、この為に工作員へ提供した機動隊員の装備品は全部日本連合の正規品だったのだから恐れ入る。

一方場所は変わって、都庁第一本庁舎地下階の一室。

「なるほど。確かに変身方法がそれでは登録も躊躇うわけだ」

狂介を前にしてそういうのは、彼とここまでやってきた新命だった。
一方、当の狂介は自分の正体がバレたことを此処に来る途中で自覚してから、顔を真っ赤にした状態であたふたしている。

あれから、狂介はERETに同行する形で都庁の地下にある一室へ通された。
最初は警察署に引っ張られるかと思っていた狂介だったが、現場からそれほど離れてない都庁が行き先と知って首をかしげた。
なんでも話によると都庁崩壊の危険性がないこと、破壊工作員も全員が投降したとのことで、現在揺れ戻し現象の対策本部となっている都庁に入ったというわけだ。

本来ならERETは任務完了ということで、本拠地にもどるはずだった。
だが、まだ上空では事態が収束してないということもあって以後は都知事の身辺警備と都庁の警備という名目で留まることになったのである。

とりあえず、狂介は地下の一室に通され、新命が直々に事情を聞くことになった。
後日、正式登録の際にはこの手の登録窓口を担当するネリマクイーンにも事情説明することとなるだろう。

もっともERETは元々海上保安庁所属の「警察官」扱いだったから新命も取り調べをやろうと思えば可能なのだが……。

「あの、それで僕はどうなるんですか?」

狂介にすれば、警察に突き出される心配はないものの、こういった事情説明を求められた以上不安になるのは当然だった。

「そう緊張しなくていい、今後君は民間のボランティアとして登録されるだけだ。状況次第では政府の要請で動いてもらうこともあるだろうが、それ以外は今までどおりと思ってくれ」
「はあ……そうですか……」

いきなり自分が政府だの国家機関に登録されるだの言われても今ひとつピンとこないのか、狂介は心ここにあらずという感じで返事をする。

「それに、正式に登録すれば君にとっても好都合と思うがね」
「好都合?」
「本来なら今回の行動は不法侵入に拾得物の隠匿、さらに猥褻物陳列罪でこのまま警察署に直行してもおかしくないし、未登録のまま活動を続ければ最悪テロリスト扱いになりかねない」
「テ、テロリスト扱いというのは流石に……」

いや、テロリストというよりエロリストと呼ばれて三面記事のネタにされるんじゃないか?と心の中で突っ込んだ狂介だったが流石にそれを言うことはしなかった。
そんな狂介の気も知らぬ新命は説明を続ける。

「だが、登録してくれれば今回の件は特例措置として処分の対象にはならない。なにより今後活動を続ける際、変質者と間違われて通報される心配もないわけだ」

それって、昼間堂々と公衆の面前で活動するのを前提にしてませんか?といいたくなる狂介。
しかし、新命の言うことはもっともだったし、このまま正体を知人に隠し通せるか解らない状況では登録を受ける方が色々と保護を受けられるから自分としても都合がいい。
何よりもすでに自分の正体そのものを知っている人が目の前にいるという事実。

こうなると狂介も素直に「お願いします」と言うしかなかったのである。

こうして、この騒動後に行なわれた正式な登録をもって変態仮面こと色丞狂介は政府公認のヒーローとして晴れて表舞台に出られるようになった。
ただ、出動の度に一般市民から通報されるのは変わらなかったが……。 

ちなみに、狂介は新命が登録の際に手を貸したこともあり、彼には頭が上がらなくなってしまった。
だが、この日から数年後、警察官の道を志す狂介に推薦状を持たせたのが他でもない新命その人だったのだから世の中何が縁となるのかわからないものである。

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