Super Science Fiction Wars 外伝

東京空中戦 -Battle of Tokyo.-

B-part


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>周辺地形サーチ
>>周辺地形、ライブラリに無し
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>惑星圏下用自律サーチ
>>GPS測地衛星とのリンク不可能
>他手段を利用せよ
>>疑似ジャイロによる地域判断
>>地球上、北緯35度東経139度41分周辺。
>>周辺に生命反応多数。
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>統合軍本部との緊急通信
>>電波・レーザー・重力波・フォールド通信一切接続せず
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>周辺敵性体の可能性
>>IFFに反応しない航空機が複数接近中。対空ミサイルのレーダー照射を確認。
>>所属不明の大気圏内航行可能な宇宙艦2隻を南南西に確認。機動兵器の発進を確認。
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>結論
>>周辺空域の敵性体を突破し、所定空域へ帰還せよ。
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 横田・百里からスクランブルした複数のF-15がゴーストをレーダーロックオンした瞬間、ゴーストは弾かれたように行動を開始した。

「あれか、出現した所属不明機というのは……。確認できるのは一機だけみたいだが……」

この日、スクランブルしたF-15Jの空中指揮を急遽まかされた藤堂拓馬二尉は時空融合遭遇からのことを思い出しつつ、所属不明機へのコンタクトを開始しようとしていた。

思えば融合直後は大変だった。
北海道上空で「赤い日本」の放ったミサイルによって機体を損傷し、とどめの一発が眼前に迫ったかと思うと自分の機は紅色の光に飲まれていた。

その後なんとか機体から脱出し、味方との連絡が取れたかと思えば、基地に到着するなり簡単な身分照会の後新しい機体を与えられて「赤い日本」との戦闘に引っ張り出されることになった。

戦闘そのものは「赤い日本」の地上部隊が次々と投降あるいは撤退したおかげで戦略的勝利を得たのだが、その次は昇進するやいきなり関東方面への配置換えである。

横須賀の実家へ久々に顔を出したら10年ぐらい歳をとった両親が驚きながらも喜んで迎え入れてくれたり、成長した弟が妻子もちになっていて驚かされた。

今も相変わらず戦闘機乗りとして飛び続けているが、ここ一年の間、定時飛行と訓練を除けば戦闘らしい戦闘もやった覚えがない。

(あの焼津で暴れた怪獣のときも遠巻きに見ているだけだったからな。川崎の時もそうだったが)

そんな彼にとって今回のスクランブルはある意味久しぶりに経験するある意味「まともな」任務といえたのである。
大戦中の試作機を思わせる朱赤に塗られた機体に対し、藤堂は全領域チャンネルで投降を呼びかける。

「所属不明機に告ぐ、こちらは日本連合国航空自衛隊だ。貴機は我が国の領空を侵犯している。至急我の指示に従え。繰り返す。貴機は我が国の領空を侵犯している」

同時に僚機もAAM(Air-to-Air Missile:空対空ミサイルの略称)をロックオンし、何時でも撃墜できるのだぞ、と言う意思を示す。
無論、このような市街地での空中戦は最悪の選択肢であるため、あくまで「新宿から追い出す」事が目的である。

が、目の前の機体は何も答えない。

「ASTER1(ASTER:百里基地所属305飛行隊のコールサイン)よりDELTA(首都圏防空管制)。該当機は通信に応答せず。言語が通じないか、もしくは無人機の可能性あり」

藤堂の通信に対し、本部の回答は早かった。

「DELTAよりASTER1へ、該当機を地上よりスキャンした結果、機体内に生命体反応は無し。該当機は無人機と判断。撃墜を許可する」

だが、その判断は遅かった。
レーダーロックオンしたまま、誘導するための策を考えようとした藤堂のイーグルの脇を、光が掠めたのは次の瞬間だった。

「!?!?!?!?」

ハードボード、機体を横にロールさせながら必死で光の飛んできた先を見る。

「光学兵器だと!?」

光の正体が、無人機の銃口から放たれたレーザーだと認識した直後、藤堂は驚愕する。
本部から無人機との連絡を受けた段階で、眼前のそれが極めて高度な技術の産物というのはすぐに判断がついたが、流石に光学兵器の類まで装備しているとは思いもしなかった。

「ASTER1より各機へ、すぐに散開し回避運動を取れ!状況に応じてチャフ・フレア展開。反撃も現場判断で許可する!」

『了解!!』

本部からすでに撃墜許可が出ていた事もあり、寮機の反応も早かった。
いずれの機も所属不明機が想像以上の脅威と判断したのかロックオンしていたAAMを一斉に発射した後一気に散開する。
本来なら新宿から追い払ってからの撃墜と行きたかったが、相手が相手でありここで撃墜するしかない。
このことは本部もわかっていたのか通信を割り込ませてくることも無かった。

一度に20発以上のAAMが所属不明機に迫り、誰もが撃墜を確信した。
いくらバケモノじみた機体といえども、これらのミサイルが一斉に炸裂したときの爆風と破片を食らえば確実に致命傷となる。
そうなるはずだった。

だが――

「な、全弾回避しただと!?なんという機動性だ!!」

AAMが炸裂しようかというその瞬間、所属不明機は信じられないスピードでダイブしてそれらを一気に回避し、AAMを放ったF-15に接近し始めたのだ。
所属不明機が先ほどまでいた空域では標的を失ったAAMが空しく炸裂するのが見える。

「ASTER1より各機!直ちに当該空域より離脱せよ!本機が後退を支援する!」

もはやこちらの装備で撃墜するのは困難と見た藤堂は、寮機に後退を命令する。
現状では再びAAMを放ったところで撃墜は難しい。
相手はイーグルより遥かに速く飛び、驚異的な運動性と武装を備えている。
恐らく、その装甲もこちらの想像を超えて強靭に違いないと判断した彼は、自分がおとりとなっている間に寮機を逃がす手を選んだ。

『しかしASTER1、それでは貴方が!?』
「安心しろASTER2、やすやすとは落とされはしない。よく言うだろう『当たらなければどうと言う事はない』ってな」

寮機からの通信を遮るように言ってみせた藤堂は愛機の翼を翻すと、所属不明機との空中戦に突入した。
機体性能だけならF-15では勝ち目は殆ど無いのは彼自身が一番解っている。
しかし、融合前のように撃墜されるつもりもまたなかった。

その様子をはるか上空で見ていたイサムとガルドはすぐにでも急降下して戦闘空域に向かうつもりでいた。

「あの旧式機たった一機でゴーストとやりあうつもりかよ。冗談じゃねぇぜ。俺は助太刀してやるぞ」
『ああ、いくら腕が良くても機体性能に差がありすぎる……。撃墜された後で駆けつけるぐらいなら……いや、イサム待て』
「なんだよガルド……って、センサーに反応?」

このままでは拙いと判断したイサムが、先に向かおうとしてガルドに制される。
一体何かと反論しようとした彼だったが、センサーの反応で機体をその場にとどめる。

二人がそれぞれ上空へ顔を向けると、更に上空から戦闘機とは異なる機体が戦闘空域へ向かうのが見えた。

「まったく、ああ言ったはもののこいつは難儀だ!」

一方、単機で所属不明機と対峙することになった藤堂は、敵機の攻撃をかわしながらも相手の性能に苦戦を強いられていた。
戦ってみればみるほど、相手がとてつもない怪物だと思い知らされたからだ。

バックを取ろうとすればダイブ以外に急上昇、横滑りとトリッキーな動きで回避して逆にこちらのバックを取ろうとする。
AAMが無意味とわかった以上、機銃による空中戦を挑むしかないが、性能差がありすぎてポジションを取れない状態が続いている。

だが、そんな藤堂も性能で劣るF-15で健闘していると言っていい。
背後から飛んでくるレーザーを寸分の差でかわし、フレア・チャフを散布してレーザーの射角から離脱する。

そして、相手の上面へと回り込み、機銃弾を叩き込む。
しかし――放たれた銃弾は命中し、炸裂すれどその表面には幾らかの凹みを作るに留まる。

「やはり予想通りか……。そろそろ此方も離脱を――しまっ!」

一瞬のことだった。
命中を出したことで僅かに緊張感が緩んだのか、藤堂の正面には所属不明機が迫ってきていた。

もはや、この距離では回避できない。
彼は自分の運命を覚悟する。

そして、所属不明機の銃口からレーザーが放たれたその瞬間――

両者の間にひとつの影が割り込んできた。
それに驚きながらも藤堂はすぐに機体を急上昇させて影から離れる。
下を見ると、所属不明機のレーザーは影の正体――急降下してきた人型兵器――によって受け止められていた。

『そこのイーグル大丈夫か!?そちらの支援に来たぞ』
「ああ、確かあんたらは……」
『名乗るのが遅れた。こちらはナデシコA・B所属、エステバリス隊リーダーの高杉だ。コールサインはChangerで頼む』

藤堂はその機体に覚えがあった。
話だけは聞いていた、高高度戦闘を可能にした機体。

そう、それはナデシコA・B所属の「エステバリス・空戦フレーム」だった。
  時空のひずみが徐々に収束し始めていた今、ナデシコA・Bのクルーは自分達の下方での戦闘へ目を向けられる余裕が出来ていた。
そして、空自の不利を知るやすぐさま支援にエステバリスを送り込んだのである。

先ほど所属不明機が放ったレーザーはエステバリスのディストーションフィールドによって無力化された。
見ると、一機だけでなく複数の機体が所属不明機へ攻撃を開始している。

『あんたは此処から撤退してくれ!この赤いのは俺達で何とかするから!!』

エステバリスのパイロットだろうか、威勢のいい若い男性の声の通信が入る。

「ASTER1よりCHANGER1、申し訳ない、そうさせてもらう」

燃料も心もとなくなってきている。
藤堂はスロットルを上げて機体を上昇させ、その場を離脱した。

「行ったか……」

自衛隊機に代わり赤い無人機を取り囲んだ6機のエステバリス隊は、まずは新宿から誘い出すべくフォーメーションを取る。

Changerリーダーより各機へ。コイツはさっきみたとおりエステより速いしはしっこい。搦め手で掛かるぞ!」

今回、エステ中隊の指揮を取る高杉は目の前を飛び回る赤い機体を見据える。

『サブロウタさん。敵機は無人ということですが……私がハッキング出来るかも知れません』

ナデシコBからルリがアドバイスしてくる。

「そりゃ確かにイケますね。誰かがターミナルに成って中継すれば案外……よし!」

しばし考えたサブロウタは、チームを二つに分けると作戦を伝えた。

自分とリョーコが中心となって無人機を引きつけ、一旦上空に引きずり出す。
新宿のビルの間に入り込むルート上に残る機体を集め、徹底した弾幕を張って進路を防ぎ、無人機を東京湾上に誘い出す作戦だ。
その状態で羽田沖に移動したナデシコBより、接近したエステを中継アンテナにしてクラッキングを行い、無人機を停止させる……と言う算段だった。

「じゃ、始めますかね……エステバリス各機、エンゲージ!」

速度で不利なエステバリスでは、簡単に振り切られてしまう危険性もあるために言うほど簡単な作戦ではない。

無人機がわずかに速度を落とす瞬間を見計らい、先読みでライフルをばら蒔く。
感づいてこちらを追いかけて来てくれるか、それが問題だった。

しかしそれは杞憂に終わる。
無人機は自分達に食いついたのか、その後を追撃してきたからだ。

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>新たな敵性体の出現感知
>>機体の形式ならびに所属はデータベースに無し

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>レーザー砲による攻撃の無力化を確認
>>ピンポイントバリアーの展開によるものと判断されるが、データ不足
>>内蔵式ハイマニューバ・ミサイルによる攻撃を推奨
>>残数29基

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ゴーストの人工知能は一瞬にして眼前の新たな脅威――エステバリス――に関する分析を終えると最適な攻撃ポジションを得る為に高杉機への接近を図る。
途中、何度も威嚇としてレーザー砲を撃ちつつ接近していくが、先ほどの戦闘機と異なりはるかに複雑な動作をする為ロックオンできない。

それでも、ゴーストは人間以上の冷静いや冷徹さで効率の高い攻撃方法を探りつつ高杉機・リョーコ機の追撃を開始した。
その動きに対する6機のエステバリスクルーの反応はいずれも「やはり」というものだった。

実際、ナデシコA・Bの中枢コンピュータであるオモイカネはF-15との戦闘データからゴーストがあらゆる障害を排除する動きを見せているのを分析していた。
その情報をもとに引きずり出す作戦を思いついたのだが、大当たりだったらしい。

「食いついてくれたか……艦長、無人機へのハッキングはどうです?」

まだ早いかもしれないが無人機の中枢まで届かなくとも、すでに防壁の分析は終わっているかもしれない。
そう思った高杉はナデシコBのルリへ連絡を取る。
だが、返って来た言葉は彼の予想を裏切るものだった。

『待ってください。今、プロテクトに迫ってますけどオモイカネが時間の猶予を求めてます』
「それはどういうことです?」
『解析を急いでますけど、既知の形式から逸脱したプログラム言語が各所に用いられているみたいで……』

ゴーストのみならず、統合軍の兵器には大なり小なりゼントラーディのテクノロジーが流用されている。
それは制御中枢であるコンピュータやそのプログラムも例外ではない。
このことが、ルリとオモイカネという最強のタッグをして困難と言わせてみせたのだ。

「……機体通信系からアクセス。信号パターンを分析。オモイカネ、外部情報処理系に疑似信号を紛れ込ませて防御系を抜けられる?」
『知覚系がすごく複雑だよ、ルリ。疑似信号でごまかせるのは10秒だけだと思う』
「構いません。10秒あればこの子を抑えられますよ」

オモイカネの「不安」がルリにはわかる。
だがここでためらっていてはサブロウタとリョーコが持たない。
ある程度この無人機……ゴーストの詳細を知ったルリにはまだこの機体が「奥の手」を隠している事が解って居たのだ。

オモイカネが内部信号に似せた疑似信号をゴーストの外部情報処理系に送り込み、通信系からルリの存在をマスクする。
AIの構造を把握したルリはAIの意志決定部分を抑えんとした。

「!」

だが、意外に手薄だったそのフィールドにアクセスした瞬間、ルリは膨大な情報の奔流にのみ込まれた。

聞いたこともない歌。
記憶。
感情。

こことは違う世界。
戦うことしか知らぬ者たち。
圧倒的な業火のもとに消えていく地球の都市。
「歌」を武器に勝利を得た地球。
荒れ果てた地球の復興。
惑星エデン。
二人の男と一人の女。
愛と友情。
思い。

その記憶を見せられているうちに、ある事実にルリは気付いた。

「視覚変換されている!?」

本来、アクセスしている最中にはルリ自身は「視覚」というものは情報として伝わってくるだけだ。
だが、今ゴーストのAI中枢にアクセスしたルリは「視覚」と「触覚」がリアルに感じられていたのだ。

膨大な情報の奔流はルリの視覚を埋め尽くさんと流れ、その中から一つの人影が浮かびあがろうとしていた。

歌姫。
リアルではない虚像の歌姫。

「私はシャロン。シャロン・アップル」

シャロンと名乗ったその歌姫は、ルリにゆっくりと抱きつくような仕草を見せる。
その様は同性であるルリをしても妖艶としか言いようがないものが有った。
だが、先持って「情報」とシャロンの「感情」を読み取って居たルリにとって、それは嫌悪感を呼び起こすだけでしかなかったのだ。

「……!」

妖艶に迫るシャロンから、ルリは必死で逃げる。
シャロンのゆがんだ感情、それをルリは感じ取って居たのだ。

振り向き、逃げようとするルリの目の前に、また別の姿のシャロンが現れる。
今度は快活そうな表情をした、ルリと同世代の少女のような姿だ。

「……!?」

いくつもの影がルリを取り囲み、それぞれに違う歌を歌う。
心にしみわたるような、歌。

「……こうやって……あなたは人を騙したのですね」

ぽそりと、ルリはつぶやく。

「!?」

ルリの言葉に、シャロンは一瞬驚いた顔を見せる。
が、次の瞬間表情を一変させルリに襲いかかった。

「オモイカネ……!」

シャロンの手がルリの首にかかろうとした瞬間、ルリの意識は途切れた。

「どうした?何が起きた!?ナデシコB応答されたし!艦長!」

同じ頃、突如ナデシコBからの通信が一方的に途絶したことで高杉は慌てていた。

ルリとの連絡をとりつつも、当初の予定通り無人機を都心部上空から東京湾上に引きずり出す事には成功。
だが、無人機へのハッキングをルリが開始して数秒後、ナデシコBからの通信が途絶えた。

例えるなら電話機のモジュラージャックを強引に引き抜いたかの様な音の後、ルリ以外のブリッジ要員とも通信不能に陥ったのだ。

(まさか、ハッキングが失敗したのか? だとしたらこれは拙いことになったぞ……)

完全に予想外の事態が起こってしまった。
こうなってはエステバリス隊の戦力だけで無人機を落とすしかない。

(少なくとも、ナデシコAには期待できない)

一瞬自分の頭に浮かんだ案を否定する高杉。
ナデシコAのオモイカネはナデシコBのそれより前の世代に当たる。

当然のことながら性能的に一ランク落ちるわけだ。
ハッキングの成功を期待することそのものが間違いと言わざるを得ない。

だが、そこで高杉の思考は警告アラームにより中断される。
確認すれば、無人機より放たれたミサイルが全ての機体に向かっているのがわかった。

「CHANGERリーダーより各機へ、ミサイル接近!攻撃を中止し回避に専念しろ!」

レーダーによると無人機から発射されたミサイルは12発。
一機辺り2発の計算となる。

自機をナデシコBからの重力波エネルギー送信範囲外へ出ないように機体を操りながらもライフル弾をミサイル向けてばら撒く高杉。
モニターを見れば他の5機もミサイルから逃げ回る姿が映る。

相手がレーザーやビームの類ならばディストーションフィールドで防ぐことが可能だ。
しかし、ミサイルや機銃弾を前にしては流石のディストーションフィールドも効果が薄い。

そして、フィールドの無いエステバリスの装甲は小銃弾を防ぐのがせいぜいの強度である。
必然的に回避するしか方法がないということだ。

だが、ゴーストから発射されたハイマニューバミサイルは高演算による高い追尾能力と対ECM能力を有している。
マイクロミサイルほどの加速性能は無いが、2000年代初頭のミサイルと比較すれば十分速い。
しかも、エネルギー変換装甲を有するVFや軽艦艇並の装甲強度を持つゼントラーディの兵器を破壊するために強力な弾頭を内蔵しているのだ。

エステバリスが展開するフレア、チャフ、電磁パルスといった妨害を潜り抜けた12発のミサイルはゴーストにより設定された標的を捕らえにかかった。

そして遂に――

『まずいッ!回避が…………こんちくしょーーーーッ!!』

通信機を通じて聴こえる悲鳴に近いリョーコの声。
刹那、空電しノイズが走る。

その声に他の全員はモニターを前にして回避中であることを忘れて凍りつく。
そこには、接近するミサイルの一発を撃ち落しながらも、もう一発の接近を許す形になりながらもライフルを撃ちまくるリョーコ機が次の瞬間炸裂するミサイルの爆炎に呑まれる姿が映っていた。

誰もが彼女の生存を絶望視したが、爆炎が晴れたあとのリョーコ機は機体前面が焼き焦げる程度の損傷で済んだのが解り安堵した。
彼女はミサイルの爆発から自身を守る為、フィールドを展開しながら自機の両腕でコクピット部を守ったのだ。

「無事だったか!」
『……ああ、弾がミサイルに当たったらしくて直撃は避けられた……でもこれ以上は無理だ。俺は地上に降りるからあと頼む!』

それだけ言い残してリョーコ機は地上へと高度を下げていく。
恐らく東京湾の砂地にでも降りるのだろう。

しかし安心してもいられない。
残るミサイルが5機のエステバリスへと迫っているのだから。

次の標的となったのは他でもない高杉本人だった。
やはり、際立った動きがゴーストのAIにより危険と判断されたのだろう。

直後、AIによってデータが上書きされ、ハイマニューバミサイルの一部が方向を変えるや高杉機に迫る。
もはや人間業では不可能な芸当だ。

その数、実に6発。
それでも迫り来るミサイルに臆することなくライフルを撃ちながら高杉機は回避に努める。

「なんてしつこいミサイルだ。こっちの妨害が通じないばかりかこれだけの動きをとってもまだ追ってくる!」

時には急降下、時には急上昇、更にターンやローリングを駆使してミサイルの追撃を振り切らんとする高杉。
その間にもあらゆる手段でミサイルの軌道を逸らさんとするが、よほど高性能なのかミサイルは確実にその距離を縮めてくる。

「ヤバイっ!」

一発が近接信管の作動範囲と思われる距離に迫ったときだった。

『ゲキガンパーンチっ!!』

ヤマダ機がワイヤードフィストでミサイルを2,3発横殴りにし、爆発させる。

「ヤマダ!」
『このミサイル、信管は触発しか積んでねぇようだ。かわせばなんとかな……げぇっ!』

チームを組んでいたヒカルが慌てて対空射撃を加え爆発させる物の、一発の爆発に巻き込まれ、ヤマダ機も煙を吹きながら落ちて行った。

「……機動性は対空ミサイル以上、威力は対艦ミサイル並かよ……」

『サブロウタさん、危ない!!』

思わず洩らした一言が隙になってしまったのか、さらなるミサイルが高杉をとらえていた。

「しまっ……」

避けられるか!?それだけを考え、迫るミサイルを前にして高杉は機体を急降下させる。
警告を示すアラームが鳴り響き、機体が激しく軋む。
モニターを見ると、残るミサイルのうち1発がテンカワ機のライフルで破壊され、残りが自分向けて飛来するのが見えた。
そして、現状把握。

「地表を背にしての自由落下状態……っ!味方機は?」

現在の高杉機は重力機関、加速用ジェットエンジン共に停止状態である。
それでも残りのミサイルが自分を狙い迫ってくるのは恐らく熱感知以外に目標の形状特性を記憶しているからだろう。
サブモニターを見ながらそんな考えが高杉の頭によぎる。

「他3機は無事、ミサイル残数5……。追われているのは俺だけか!ならば……」

味方の無事を確認しすぐ高度計を確認する。
高度計の数値はめまぐるしく変化し、海面が接近していることを示していた。
何かを思いついたのか自機をそのまま落下に任せる高杉。

高度5030ft……迫るミサイルの一発を高杉機がラピッドライフルで破壊。
この時点での残るミサイル4発。

高度3800ft……テンカワ機、イズミ機、アマノ機が降下と同時に支援、ミサイルへの射撃敢行。

高度2700ft……3機からの援護射撃により1発が爆散、破壊。残り3発。

高度1500ft……高杉機、加速用ジェットエンジン再起動。これにより落下速度増速し、高度は一気に1000ftを切った。

高度420ft……この時点で無人機の急上昇を確認。

そして、高度30ft時点で重力機関再起動。

今までの戦闘高度からすれば海面スレスレの位置で強引にターンを仕掛け、急上昇する高杉機。
その動きを前に追尾を図ろうとしたミサイルの内2発が急激なGに耐え切れず自爆。
残る1発を撃墜せんとする高杉機。

しかしその時思いもかけぬことが起きた。

先の2本に遅れて耐久力が限界点に達したハイマニューバミサイルが自爆したのである。
それはあまりにも突然だった為、誰もが即座の反応を取れなかった。
高杉本人も、その動きが一瞬遅れてしまう。

『サブロウタさん!!』

アキトの叫ぶ声が聞こえてくる。
結果、爆発した衝撃で飛ばされた破片の一つが高杉機のディストーションフィールドの死角――フィールドの弱点である角度――から飛び込んだ。
他の三人も敵の第二波攻撃を忘れて唖然とする。

しかし、爆発により生じた煙が晴れた時そこにはリョーコ機より度合いの酷い傷を負いながらも健在である高杉機の姿があった。
コクピット内で冷や汗をかく高杉のもとへアキトからの通信が入る。

『よかった……サブロウタさん無事で……』
「あ、危なかった……。連続でフィールド展開しなければ本当に命が無かった」

爆発の衝撃波と大型の破片が飛び込んだとき高杉がとった行動。
それはディストーションフィールドを再度展開しながらの急後退だった。

爆発時、フィールドを突き抜いて内側まで飛び込んで来た衝撃波に揺さぶられながらも、機体を後退させさらにフィールドを再展開。
結果として最初の衝撃で機体の外装を損傷したが、コクピット周りと主要部分は無事で済んだ。

(だが、これで作戦は失敗だ。艦長、あとはお願いします)

ナデシコBとの通信が途切れたままなのは不安だが、今の自分達ではあの無人機を追撃するのは難しい。
残る3機での作戦続行も不可能だろう。

そして、自分の愛機であるスーパーエステバリスも小さくない損傷を受けた。

SCEBAIに戻ったらうちの整備部隊を一足飛びに超えて岸田博士辺りの世話になるかもしれない。
思わずそう考えてしまう高杉だった。

その後、高杉機は健在な3機に守られる格好でリョーコ機が下りた砂浜の方へと降下する。
地上を見ると、リョーコ機とそのすぐ隣で頭から砂地に突っ込んだヤマダ機が見えた。

この時4人の頭にはなぜか「台風クラブ」という謎の単語が浮かんだという。

その頃ナデシコBでは何が起こっていたかというと……。

「艦長!艦長ってば!しっかりしてください!!」

必死を絵に描いたような少年の声で、ルリは眼を覚ます。

「ハーリー君?」

サブオペレーターのマキビ・ハリがルリを必死で起こそうとしていたのだ。
ルリは頭を軽く振ると、ハーリーに状況報告を求める。

「は、ハイ。無人機は艦長が気絶した後、機体内装のミサイル多数を発射後急上昇。エステバリスはサブロウタさんの機が小破したほかスバルさん、ヤマダさんの機体が被弾しています」

落ちつこうと努力しているのか、ハーリーは時々どもりながらも報告する。
ルリも、すぐさまディスプレイを確認しエステバリス各機とパイロットの現状を把握する。

「なんて事……!」

ディスプレイに映し出されたデータからはパイロットについてはいずれも健在を示すコードが表示されていた。
一方、機体についてはハーリーの報告した3機の部分に「Caution」の文字が明滅し、更に他の機体にも「alert」の文字が点灯している。
それは、短時間のうちにエステバリス隊が実質上戦力喪失したことを現していた。

 

だが、艦内の警報がそれだけではない事を伝えていた。

「所属不明機、上空から当艦に向かって接近中です!速力はマッハ3.5!」

別のブリッジオペレーターが、悲鳴に近い声を上げる。

「アップトリム40!取り舵一杯。艦尾を軸に45度回頭の上ダッシュ!」

 何とか指示をだしたルリだが、その命令は通じなかった。

「艦長、ダメです!オモイカネがフリーズしてます!!」

 急上昇で新宿上空を離れたゴーストは、先ほどのクラッキングの主をサーチしていた。
南南西の方角に存在する宇宙艦二隻のうち一隻。
クラッキングの信号はそこから放たれていた。

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>クラッキングに関する対処 >目標となる宇宙艦の無力化は可能か?
>>結論、現在の火力では該当艦の撃沈あるいは無力化は不可能
>自己の保存を目的としない攻撃で有れば?
>>最大加速力にて特攻をしかければ、一隻を破壊することは不可能ではない
>結論
>>対象艦を破壊し、当機に関するデータの損失を防げ
PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN PAN

有人機では考えられないほど小さな旋回半径によるインメルマンターンを決め、超音速航跡を残して急上昇したゴーストは一気に高度40000ftまで上昇する。

弾道飛行でほとんど垂直に上昇し、急降下によるナデシコBブリッジへの体当たり。 己も破壊される確率が高いが、確実にナデシコを葬り去れる攻撃であった。

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