Super Science Fiction Wars 外伝

東京空中戦 -Battle of Tokyo.-

A-Part.


新世紀2年 5月30日 午前7:05
神奈川県川崎市Gアイランド GGG本部メインオーダールーム

約10ヶ月前のイリス戦の被害からようやく立ち直りかけていたGアイランドは、仮設住宅から新たに建設された住宅団地への引越しなども進み街としての体裁を整えつつある。
そんな中、その街の活気とは無縁の緊張感に包まれていたGGGメインオーダールームに、一際大きな警報音が鳴り響いた。

「空間の異常活発化を感知しました!」

モニターに表示された情報を分析していた命の緊張した声が響く。

「場所は?」

大河がコマンダーシートから腰を浮かし、即座に確認を取る。

「イェス…………東京都新宿区……都庁ビル上空デス!」

スワンの言葉に、その場の空気が一気に張り詰めた。

「いかん!警視庁へ緊急連絡!! 政府にデフコン4発動申請、都内全域に戒厳令の発動と自衛隊の出動を要請しろ!」

新宿上空……今まで考えられなかった人口密集地域での揺り戻し発生。
何が出現するか判らないが、場合によっては尋常ではない被害を及ぼす危険性が極めて高い。

ましてや今は通勤時間のラッシュアワーだ。
場合によっては3週間前のお台場事件など比べ物にならない惨事になる。

使える物は警察でも自衛隊でも使う。
その姿勢で無いとこの事態は乗り切れない。

と、大河は今度の国会でどう左派議員の追及をかわすかに付いて考えながら揺り戻しで出現するものが何なのか、解析されるのを待っていた。

午前7:30 東京都新宿区新宿駅

その日の新宿は、何時ものように数分刻みで到着する通勤電車から吐き出される乗客が駅構内に溢れそのまま新宿の各地に散っていく、何時もと変わらない朝の光景が広がっていた。

だが、その風景は突然のサイレンの音に破られた。
いきなりパトカーの群れが現れ、ボディーアーマーにセブロM23アサルトライフルを装備した機動隊がぞろぞろと降車し警戒態勢を取る。

『現在緊急避難警報が発令されています!近辺住民の方は速やかに避難願います!!緊急避難警報が発令されています!!』

それまで列車案内などを流していた構内放送が一斉に緊急放送へ切り替わり、案内掲示板の表示が緊急事態発生を伝えるものに切り替わる。

「ちょっと!緊急事態警報っていわれても何よ!」

その場に居たOLが、目の前に居たいかつい機動隊員に食って掛かる。
彼女はバブル時代の世界からやってきたため、ある意味恐いもの知らずな側面があったのだ。

「現在揺り戻し現象が発生しています! 何が出てくるか判らないため大至急避難してください!」

負けじと機動隊員も声を張り上げる。

「揺り戻しって……?」
「何が出てくるか判らない?」

その機動隊員が張り上げた言葉は、静かな漣のように新宿駅構内に居た人々に伝わっていく。

「やばいよ……」
「逃げよう……」

そのさざなみが頂点に達した途端、新宿駅構内は蜂の巣を突付いたような騒ぎになった。

「はい!押さないで!! 誘導にしたがって移動してください!! 」

新宿の朝のラッシュは、決して新宿に「来る」人間だけではない。
歌舞伎町の飲食店や風俗店で働く者たちが住処に「帰る」流れも存在する。
その流れが一気に新宿から「逃げる」動きに変わったのだ。
濁流のように流れる人を制するだけで、展開した機動隊員たちも必死となる。

午前8:40 新宿駅西口JR側コンコース

「狂介君!早く逃げないと!」

学校の創立記念日と言う事で朝から新宿へ来ていた色丞狂介は、逃げる最中にふとどうしようも無い焦燥感に駆られた。
先ほど逃げる経路を聞いたのに、まるで故意に無視するかのように去っていった機動隊員を見て以降である。

『……引っかかるんだよな、さっきの機動隊の人たちは……』

機動隊員たちの表情に、通常の機動隊員たちとは明らかに違う臭いを感じたのだ。
狂介の父親は腕利きの刑事で、まだ彼が幼いうちに殉職している。
その父親譲りの「刑事の勘」がなせる業なのだろうか、先ほどの機動隊員たちに違和感を感じずには居なかった。

「まったく、非常識よね~。時空融合ってさ!」

共に新宿へきていた拳法部の仲間たちが口々に不満を言うが、彼はそれを聞きながらも同時に不安を捨てきれないでいた。

『……やっぱり、心配だ』

「……ごめん、携帯落とした!」

そう彼は言うと、踵を返して新宿駅から飛び出していく。

「狂介くん!」
「色丞!」
「後で追いつく!」

警官たちの一瞬の隙を突き、彼は避難の人ごみにまぎれて消えていった。

「色丞くん!」

午前9:00 警視庁新宿中央署

「付近住民、及び新宿駅構内通勤客の避難終わりました」

既に都庁上空の空が微妙に歪み、風が不気味な色を帯びつつあった。

警察に続き市ヶ谷駐屯地から派遣された陸自普通科中隊が到着し、次々と厳戒態勢を敷いていく。
何が出現するか判らないため、特車二課のレイバー隊、自衛隊の空挺レイバー隊も到着し、新宿はわずか一時間少々で針が落ちても響きそうなゴーストタウンと化している。

「新宿中央公園の方は?」
「確認できる限り、ホームレスなどの誘導は済んでおります」
再度確認急いで、可能な限り都庁周辺の地上に居る人間は避難させるように」
「はっ!」

署長が非番のため不在であった新宿中央署では、緊急に署長代行となった野上冴子警視がテキパキと避難の指示を与えていた。
が、彼女は内心呟いていた。

「絶対に避難しない人間も、居るのよね……」

一部では「魔界都市」とも呼ばれる新宿にはこの程度では動じない、人の与り知れない力を持った存在が多数居る事も……。

揺り戻しが発生する可能性が高い、と判断された都庁近辺は可能な限り他の地域へ人を避難させ、避難が間に合わない人間は地下歩道や地下鉄駅に避難する姿勢が取られていた。

既にデフコン4は都内全域にまで広げられ、都内のJR、私鉄、地下鉄各線は緊急運転停止。
羽田へ降りる飛行機は引き返し、あるいMAT基地移転先として再整備途中だった旧横田基地へ着陸し、首都高速及び全ての主要道路も新宿へ向かう各線は通行止めとなっていた。
「成田が出現していれば、避難先に成っていたのだが……」とはとある管制官の言葉である。

同時刻、東京都庁地下防災センター

「周辺住民及び都庁庁舎内の避難及び全職員への緊急連絡、終了しました」
「よろしい」

防災担当官の言葉に、東京都知事・桜坂満太郎は軽く頷く。
万が一に備え、出勤していた職員は地下に避難し出勤途上の職員は帰宅の上待機すると言う形を取る。

同時に都知事を初めとした主要スタッフも地下の防災センターに移動し、緊急事態に備えていた。

「何が出てくるか判らない。細心の注意を払って監視を続けてくれ」
「わかりました!」

その声を聞きながら、情報が表示されたモニターに目をやる。

「ただでさえ何時暴走するかわからない原子炉の上で生活していると言うのにな……」

最近の調査で明らかになった都庁地下にある原発の事が桜坂の頭をよぎった……。
件の原発は、発見されるやすぐに機密扱いとされ早急に無力化・解体に入ることと連合政府から伝えられているが、その中枢である原子炉は未だ稼動状態にある。
もし、原子炉が何かのきっかけで暴走し、炉心溶融――メルトダウン――でも引き起こすというなら。

(そうなったら、「あの時」の被害とは比較にならない事態になるのは目に見えている……)

桜坂は、自分の元いた世界で起こった永田町への小型核兵器によるテロの事を脳裏に浮かべると同時に、背中が粟立つのを感じた。

同時刻 神奈川県川崎市Gアイランド GGGメインオーダールーム

「空間歪曲率上昇。歪曲特異点は新宿上空……高度1万メートルです」

新宿の高層ビル屋上などに設置された放送局の定点カメラや観測機器の情報を元に状況が分析され、現在起きている状況が揺り戻し現象である根拠を明確にしつつある。

「宇津木君、SCEBAIに連絡。特機およびナデシコA・Bを即時スクランブル。調布上空で待機させるように要請してくれ」
「了解です」
「勇者達にも待機指令を。我々も打って出る可能性が無いとも言えない」

命がSCEBAIにチャンネルを開くのを確認したうえで、大河はため息をつく。

「さて……何が出るかだな」

次々と情報が入ってくる中、モニターの中で不気味にゆがむ都庁上空の空を見ながら大河は呟いた。
大河だけに限らず誰もがメインモニターに映し出される時空の歪みに注目し、また計器からリアルタイムで送信されてくるデータに目を向けている。

だからこそ誰も気付かなかったとでも言うべきだろうか。
その時、他のエリアで極めて微弱――都庁上空と比較してだが――な時空の歪み、丁度人間一人分の出現時と同じぐらいの数値が計測されたということを。

ちなみに、これらが明らかになるのは事件が収束した後のことである。

午前9:05 東京都新宿区 新歌舞伎町某所

本来なら警備の機動隊員以外の人影がなくなっているはずの新歌舞伎町ビル街。

その中にある雑居ビルの一室……表向きは新世紀徳政令で取り立てが出来ずに廃業し、関係者が逮捕されたために無人となってる闇金融の事務所……であるはずの一室に、数名の男たちがいた。

「……揺り戻し現象が起きるとはな」
「新宿に拠点を作れただけでも幸運だと思ってましたけど、願っても無いチャンスですね。同志大尉」

彼らは機動隊の出動服を身にまとい、機動隊用の装備を一通りそろえている。
警棒から特殊プラスチック製の盾までほぼ完全と言って良かったが、セブロMN23だけは入手できなかった。
組織としての潔癖性を増した今の警察では、最新装備の横流しを行なう穴を見つけることは彼らには出来なかったのだ。

「だが、我々の偽装は決して完璧ではない。可能な限り他の機動隊とは接触を避けて行動しろ」
「了解!」

その偽機動隊員たちは事務所の一角においてあった大型の工具ケースを掴むと、それぞれ2名ほどの単位(チーム)に分かれて新宿の街角へ消えていった。

彼等の正体、それは北海道にて活動を続ける「日本民主主義人民共和国(通称:赤い日本)」の破壊工作員である。
融合後も日本連合国をかつての日本国(彼等が言うところの「南日本」)と同様の存在として考え、敵国とみなしている彼等はここまで多くの犠牲を払って拠点を設けたというわけだ。

揺り戻し現象の発生に乗じて彼等が行なうのは、東京都庁の地下深くに存在するという原子炉への破壊工作。
日本連合側の「協力者」から得た情報だったが、彼等も最初はその内容に疑いの目を向けていた。
首都の地下、それも行政の中心である庁舎の真下に原子炉を設置するなどという暴挙は、自国が戦略核を保有している彼等といえども正気の沙汰と思えなかったからだ。

事実、情報を知らされた彼等の中には「そんなガセネタなど無視してリスク覚悟で要人の暗殺を実行するべきだ」という意見を口にする者が何人も存在した。
しかし、その後続けてもたらされた情報と確かな証拠――写真をはじめとした原子炉の存在を裏付ける複数の物――を前にして、反対意見を口にしていた者も納得したのである。

もともと要人暗殺というミッションは過去にも特殊戦師団の精鋭などにより実施されてはいた。
だが、それらは実行された数だけ失敗しており、最近では首都圏における拠点の喪失を恐れる上層部がそれを止める有様だった。

それゆえ、新宿へ拠点を作ったものの手持ち無沙汰な状態が続いていた彼等は、これら貴重な情報を上層部に報告することなく、独断で今回の破壊工作を実行したのである。
裏を返せば、拠点を設けた「敵地」の実情を知る彼等はそれだけ上層部の決定に不満を募らせていたということだ。

今回の破壊工作では投入される人数は20名弱と、これはこの時期東京で活動していた工作員の半数以上にのぼる。
このうち最終目的である原発への攻撃を行なうのは全体の半分。
残り半分は囮としてのかく乱工作を実施する手はずになっている。

この時点では誰もが成功する可能性が高いと踏んでいた。
平時ならまだしも、揺り戻し現象の発生とそれによる首都圏の混乱に乗じることで自分達は有利な状況にあったのだから。

その彼等ですら、これから暫しの間に「死ぬより地獄」と称しても大げさではない目に遭うとは思わなかっただろう。

午前9:20 新宿区新宿4丁目

駅構内を横断して新南口から新宿の街へ飛び出した狂介は、そのままの勢いでコマ劇場の前を通り、新歌舞伎町へ向かっていた。
自分が出てきた所で何が出来る? と言う思いも有ったが、彼の勘がとんでもない事を起こすかも知れないという事を感じ取っていたのだ。
警官や機動隊員、自衛隊員に見つからないよう裏通りを走りぬけ、時には隠れながら。

時々振り返ると、大きく歪んだ空を背後にした都庁が見える。
あの揺り戻し現象以外にも何かがある……と言う事を彼は感じていたのだ。

「!」

何故か大きなアルミケースを抱えた機動隊員が二人、彼の隠れた横丁と交差する道を歩いている。
狂介は息を殺して機動隊員が通り過ぎるのを待ちながら、彼等の装備におかしな点があることに気付いた。

「……なんで機動隊員があんなケースを……。アレって防爆仕様の……まさか!」

どうやら狂介の悪い予感は的中したようだ。
現在の揺れ戻し現象の発生と避難誘導という状況からすれば、彼等の持ち歩く装備そのものがおかしい。

「爆弾……だとしたらいったい何を?」

必死で頭を巡らす彼の意識下に、以前聞いたある噂を思い出した。

『都庁の地下に原子炉がある』

以前、ネットの掲示板でちらりと聞いただけの取るに足らない噂だが、目の前の光景は一つの飛躍した結論を彼に齎していた。

「原子炉を爆破、あるいは暴走(メルトダウン)させることによる東京破壊」

突拍子もない結論であるはずなのに、その事が浮かんだ瞬間彼の背中には冷たい汗が流れていた。
真実味がある結論だという事を、彼の中の何かが叫んでいたのだ。

そんなバカな。と頭を振る。
だが、原子炉云々がうわさだとしても、彼等の装備が何らかの破壊工作をもたらすのは間違いない。
しかも、揺り戻し現象の真っ最中で人口密度が一気に低下したこの状況なら破壊工作にはもってこいだ。
自分がテロリストならこの機を逃さないだろう。

狂介は自然と彼等に気取られぬ様、その後を尾行することとした。
先を進む偽者と思しき機動隊員達は、途中で何度も回り道をしながら巧みに他の機動隊員や自衛官と接触するのを避けている。
だが、尾行されているのには気付かないのだろう。
先ほどから無線機でなにやら話しながら先を急いでいる。

そして、ある公園の一角に入った彼等は、他のルートから来たと思われる者たちと合流すると地面へと潜っていった。
すぐさま彼等のもぐった場所に駆け寄る狂介。

「共同溝のマンホール!?そうか、確かに地下へもぐれば堂々と移動できるわけだ」

連中が気付いていない今ならまだ何とかなる。
が、そこで同時に戸惑いも生まれる。

「でも……どうする?」

幾ら中国拳法の心得があるとは言え、武装したテロリスト相手に一人ではどうしようもない。
警察に伝えたところで、一介の高校生の言うことでは警察も取り合わない以前に、この緊急事態下で高校生がうろうろしていることの方が問題視されることは間違いない。

苦悩と焦燥で頭を抱える狂介の目の前に、一枚の小さな布のようなものが落ちてきたのはその時であった。

「?」

なぜかひきつけられるように手に取った狂介は、その物体の正体に気づいた。

「パンティ?」

まだ脱いでからそれほど時間が経ってないのか、その黒いシルク地のパンティはほのかな暖かみを帯びている。
気が付くと、狂介はそのパンティを広げていた。

『何考えてるんだ……この緊急事態に……だけど……だけど……』

……。

『あっ、被っちゃった』

瞬間、顔面に張り付くようなパンティのフィット感と温もりが、狂介の中の「力」を覚醒させた。
その爆発するような感覚が彼の理性を麻痺させ、超越の力をもたらす。

「気分はぁぁぁぁぁーーーーーッ!エックスタシィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

次の瞬間、色丞狂介は服を脱ぎ捨て「変態仮面」となる!
まさしくそれは理性を遥か彼方に吹き飛ばし本能のままに戦う戦士の誕生でもあった!!

「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

そして一気にマンホールの蓋を力任せにこじ開けた変態仮面は、迷うことなく中へ飛び込むと地下にもぐった男たちを追って全速力で駆け出す。
今の彼ならば程なく追いつくのは間違いない。

さて、公園内で雄叫びをあげながらもこの時周囲にいた機動隊員や自衛官が駆けつけなかったのにはわけがある。

実は同時刻、同じ公園の敷地内にて一瞬だが紅色の発光現象が確認され、それを目撃した機動隊員が駆けつけたところそこには女性が一名倒れていた。
現場の状況から揺り戻し現象によって出現したと判断した機動隊員は、対策本部への連絡と救急隊の手配に動いていた為、狂介の雄叫びにも気が付かなかったのである。

女性はその後、救急車によって病院へと運ばれたが、搬送後に誰もが首をかしげる事実が判明する事となる。

  

午前9:50 神奈川県川崎市Gアイランド GGG本部メインオーダールーム

「都庁上空の空間歪曲率100%突破、ディバイディングエネルギー値増大!」
「測定機器の調子はどうだ?」
「順調です」

都庁の上空は未だ大きなひずみを生じておりそこから何が出現するのか予断を許さない。
空間歪曲率が100%を突破した時点でもうすぐ出現するものの正体が判明するはずだが……。

「上空のナデシコAならびにBよりデータ転送あり。モニターに回します」

命の言葉と同時にメインモニターの一角にナデシコA・Bが異なる角度から撮影した歪曲地点座標の記録データが映し出される。
映像からはっきりとした輪郭はわからないが、シルエットからおおよその推測はできる。
それを見た大河はつぶやく。

「これは……鳥……?いや、航空機か……」

高高度での揺り戻し現象だった為、最悪巨大隕石でも落ちてくるのではないかと予想するものもいたが、航空機の可能性が高いと知って誰もが安堵した。

(無人機でもなければ、説得して厚木辺りにでも誘導すればいいだろう)

そう考えると、大河はすぐ空自にもスクランブル発進を要請するべく指示を出し始めた。
だが、それより早く一報が入る。

「都庁屋上のカメラが出現した物体を確認!」
「すぐメインモニターに回してくれ!同時に追尾を開始!」

状況が一変するも迅速に指示を出した大河は流石GGGの司令官というべきだろう。
それにすぐ反応できるオペレーターも立派だが。

直後、メインモニターへ大きく映し出されたのは、空間から飛び出してくる三つの物体。
拡大すると、それぞれ白、青、赤と色の異なる機体であることが解った。

そして、監視カメラがその動きを追尾していくと急に青い機体が赤い機体を追いかけるようにして都庁上空からカメラの監視範囲外へと猛スピードで飛び去るのが見えた。

一方、白い機体を追尾していたカメラはそのまま落下を続ける機体を映し続けている。
しかし、都庁の真上辺りでいきなりロボットの顔のような物体と光の壁状のものを一瞬映した出したかと思うと後は砂嵐を映すだけだった。

「あの監視カメラはどこに設置されているものだ?」
「東京都庁第一本庁舎32階……丁度フタマタニ分カレテイル所デス……」

大河の一言に一瞬何が起きたのか解らないという表情のスワンがなんとか答えていた。

同時刻 新宿区 東京都庁

ここで場所は変わって東京都庁、第一本庁舎。

『バブルの塔』などと称されるこの都庁舎が二又に分かれる所の天井がぶち抜かれたのは、GGGに映像を送っていた監視カメラが破壊された直後のことだった。
その瞬間、巨大な庁舎全体を揺るがすような縦方向の振動と衝撃に襲われ一部の窓ガラスが割れて飛び散る大騒ぎとなり、地下コントロールセンターも一瞬にして照明が消え、暗闇に包まれた。

「落ちつけ!何があった!周辺ビルのカメラに切り替えられるか?」

一瞬パニック状態に陥る防災センター内で、必至に押しとどまった桜坂はあえて大声をあげ、周囲の情報を集めるよう命じる。
緊急用発電装置が作動したのだろう、センター内の照明、モニター類が復旧していく。

「京王プラザホテル屋上からの映像、入ります」

その言葉とともに、都庁と向かい合わせに有る京王プラザホテル屋上に設置されていたテレビ局のカメラが第一本庁舎の状況を映す。

「なんだこりゃ……飛行機でも体当たりしたのか?」

だれともなく、そんな声が聞こえた。
第一本庁舎の特徴的なツインタワーの間の低層となっている部分……そのちょうど真ん中のあたりが小規模ながら穴が空き、もうもうと埃が上がっている。

「都庁建物への影響は?」

真っ先に桜坂が気になったのはその事であった。
桜坂の居た世界でもまた、2001年9月11日の悲劇は起こって居たのだ。
高層ビルへの航空機衝突と聞いて、真っ先に都庁倒壊の危険性が頭に浮かんでもおかしくない。

「わかりません。ですが、衝突した機体はおそらく戦闘機ぐらいの大きさで有ったことを考えると大丈夫かとは思いますが……」

桜坂はしばし逡巡の後、周囲に居た主要職員に集まるよう指示した。

「この防災センターに居る限りは上が崩壊しても大丈夫だとは思うが、状況次第では脱出を考えるべきだな……」

一方、その現場となる32階地点では……。

「……どこだこりゃ?」

新統合軍ニューエドワーズ基地所属、次期新型可変戦闘機テスト部隊「スーパーノヴァ」所属パイロット、イサム・ダイソン中尉が気を取り戻して最初に放った言葉がこれである。

そこで、すぐさま自分が気を失う直前までに何を体験したか一つずつ思い出す。

「そういや確か……」

自分はマクロスのコンピューターブロックを壊し、確かにシャロンを葬ったはずである。
そこで一度気を失い、次に気が付いたときには空の上。
しかも、なぜか乗っているYF-19がバトロイドモードからファイターモードになっていた。

が、それに驚くまもなく眼前にはマクロス?の中央部分が迫っており、一気にバトロイドモードへと機体を可変させピンポイントバリアーを展開。
あのときと同様に二度目の体当たりをかましたというわけだ。

だが、目の前……いやYF-19のモニタ越しに広がる風景はなんだ?
マクロスの艦内ではなく、どう見てもどこかのオフィスビルに突っ込んでいる形だ。

とりあえず機体状況チェックプログラムを走らせて、彼は再び唖然とした。
地球に降下してからのガルドのYF-21との交戦、さらにそのあとのゴーストX9との交戦でほとんど使い果たしていたはずのガンポッドの弾薬やミサイル類が全てフルに揃っているのだ。
ガルドとやり合った際に破損した頭部のレーザーキャノンやFASTパックも元に戻っている。
いや、先ほどシャロンの誘惑を断ち切らんと思いっきり額をぶつけてたたき割ったメインモニタもすっかり元通りだ。

「状態オールグリーン、他武器弾薬が出撃時状態のままって訳わかんねぇな……」

APUスタート。電源が安定したところでメインエンジンをスタートさせる。
熱核バーストタービン独特の唸りが高まるにつれ、コクピット周囲のモニタにも灯りが点り、彼の視界も明るく変わっていく。
機体のアクチュエーターがグリーンになった所で機体を立ち上がらせ、建物の屋上に出る。
だが、目の前に広がる風景を見て、イサムは生涯これ以上ないだろうと思う絶叫を上げた。

「どこだこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

眼下に広がる光景は、つい先ほどまで彼が居たマクロスシティのそれとは明らかに違っていた。
ましてや、先ほどまで夜だったのに、外は奇麗に晴れた青空である。
幾らなんでも、突入した後朝までコクピットの中で気絶していたとは考えられない。

「えらい古臭い街だな……」

彼の眼には、眼下に広がるこの街が子供時代に歴史の授業で学んだ時、映像資料で見た「第一次星間大戦」以前の風景にしか思えなかった。
機体のカメラをフルに活用し、何か地名が書かれたものが無いか調べる。

ふと、地上の標識らしきものを見た瞬間、彼の思考は今度こそ本当に停止した。

「とう……きょう?」

第一次星間大戦時に、ゼントラーディの先制攻撃を受けて地球の都市の多くはわずか5分のうちに消滅した。
東京もまた、その一つである。
だが、目の前の都市は東京であるらしい。

「まだシャロンの洗脳に掛かってるのかね?俺?」

だが、そんな彼の思考を遮るようにオーラルトーンが鳴り響く。

「……ヘリコプター?」

えらく旧式の汎用ヘリが数機、こちらに向かってきている。
投降するにはまだ情報が不足している――そうイサムは思うと、スロットルを緊急出力に叩き込み機体を上昇させてファイターモードへ切り替え、上昇をかける。
一旦背面飛行に切り替え、レーザーキャノンを最低出力で放ち、高度計をリセット。
再びスロットルを開き、一気に上昇をかけた。

「……なんだと?」

陸自のブラックホークから送られてきた映像の中で、それまで都庁屋上に立っていたロボットが突如浮き上がると、変形し急上昇していく様を見た大河は呆気にとられていた。

「今のは……獅子王博士……」
「うむ……レギオスより技術レベルの進んだ可変戦闘機のようだね……」

昨年、遣エマーン艦隊がインド洋上で接触した可変戦闘機のことを思い出していた獅子王博士の言葉に、大河は頷くと再び指示を出す。

「急ぎ空自部隊には追跡するよう連絡を、先ほどの青い機体と赤い機体の動向も見逃すな!」

高度30000ftまで上昇したイサムは、改めて地上を肉眼、カメラあらゆる手段で確認する。

「……マジかよ、本当に日本だぜ……」

眼下には間違いなく、関東平野の特徴的な地形があった。

『イサム!』

と、通信が入ると同時に後方から特徴あるシルエットの機体が見えてきた。

「ガルドか?」

IFF信号はグリーン。
間違いなく、ガルドのYF-21だ。

『一体ここはどこだ?先ほどまでマクロスシティ上空だったはずなんだが……』
「お前さ、タイムトラベルって可能性信じる?」

イサムの言葉にガルドは動揺したらしい。
一瞬、YF-21は大きく機体をぶれさせる。

『な……何言ってるんだお前?』

上ずったガルドの声に、しゃーないな、と内心呟きつつイサムは言葉を続ける。

「少なくとも、星間戦争……いやもしかしたら統合戦争より前の地球だぜここは。実際、外部センサーがキャッチした大気のデータもそれを示している。下の町は東京……みたいだな」

『はぁ?』

YF-21は一瞬失速しそうになった後、小刻みに震えはじめた。
パイロットの動揺でぶれる機体の制御をCCVが強制的に補正しているのだろうか。
よく見れば、機体の表面がガルドの精神状態を示すかのように僅かながら波打ってすらいる。

「いずれ統合軍……いやこの時代ならまだ自衛隊か。が来るだろうな。どうするか考えた方がいいかも知れないぜ」

BDIってのは乗ってる奴が何考えてるかわかって面白れーな、と思いつつイサムは通信機を全周波数受信モードに切り替え自衛隊の動向をつかもうとしはじめた。
案の定というべきか、傍受した内容は地上の混乱振りを示している。

『まずいな……』

と、ガルドのひとりごとのような通信が聞こえた。

「どうした?」
『ゴーストは下の方をエンドレスエイトで飛んでいる……。が、周りに戦闘機が来ている。えらい旧式な事を見ると、お前の言うことは正しいようだが……』
「だからか?こっちに自衛隊の連中が来ないのは?」
『……かもな』

YF-21との交戦のさなか、分析不可能な衝撃を受けたゴーストのAIはそれまで命令を出していたシャロンからの通信が全て途絶えてしまったこと。
さらに緊急時に開くべきはずの統合軍本部とのフォールド通信システムがつながらない事から判断を保留し、周辺の情報を集めるべく高度15000ftをエンドレスエイトで周回し始めていた。

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 <アイングラッドの感想>
 皆さん、マクロスですよ、マクロス。
 マクロスプラスですが、ガンダムが出ない以上最大派閥のSFロボット物と云っても過言ではないシリーズです。
 星間文明のオーバーテクノロジィを利用したSF物の王道ともいえる存在です。
 彼らがどのような影響を与えて行くのか、大変に興味深いです。
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 ・
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 さて、もう一個非常に興味深いシリーズが来てますね。
 実に夜道で出会いたくないです。
 彼がどのような影響を与えて行くのか、大変に戦慄を感じます。
 ではでは。

感想