スーパーSF大戦 外伝
− 闇 −
Cパート
加治 隆介
私の目の前には急な登り坂が立ちはだかっていた。この坂を越えれば、鬼が守るという修行所の大門が見えるはずである。
だがここまで来て私たちは、小龍姫様の試練が既に始まっていることを知ったのであった。
「『神の試練を乗り越えて、初めて神の恵みが与えられる』と小龍姫様は仰っている。ならば、ここからは一人で行きます」
SP達が倒れて麓に送られる中、私は力強く宣言した。そして私は皆が、マリー隊長やミス・マーサ、SATFの中野三佐、アテナ神城戸沙織と聖闘士達が後ろを付いてくるか確認することなく、山頂目指して歩き出した。
しかし私にも実際の所、そう自信がある訳ではなかった。
私はただの人間である。
中野三佐達の様な超能力も、城戸さんや彼女の部下である聖闘士達の様な神秘的な力を持つ訳ではない。
同じくただの人間ではあるが猛訓練を積んだSPやディビジョンMの兵士達ですら、既にプレッシャーに負けている。ましてや訓練を積んでいないただの一般人である私も、修行所の鬼門を見ることなくノックダウンされてしまうだろう。
だが、そんな泣き言は言ってはおれない。人間代表として、神様と対等に交渉するにはこの結界を超えねばならないのだ。
人として神を恐れる気持ちと政(まつりごと)を司る責任との狭間で、心を揺り動かしながら私は歩き続けた。
「はぁ、はぁ」
一歩一歩進むに連れて、息が荒くなる。視界も暗くなり周りの音もだんだんと少なくなってくる。
五感が断ち切られていくようだ。
人間は五感が無くなると発狂してしまうと聞いたことがある。
なるほど、流石に特殊訓練を受けたディビジョンMの戦士達も五感を断たれては、何も出来ずに倒れるしかないか。
小龍姫様のプレッシャーをひしひしと感じながら、彼女たちを襲った結界の効果が見えてきたような気がしていた。
だがそう思えるうちはまだ余裕があったのだ。前へ歩むごとに少しずつ結界のプレッシャーが強くなり、私もだんだん抗えなくなってきた。
何時しか自分の後に続いているはずの彼女たちの足音すらだんだん小さくなり、とうとう聞こえなくなってきた。
そして視界まで断ち切れそうになるちょうどその時、世界は一転し音と光が戻ってきた。どうやら坂を登り切ったようである。
「ふ〜っ」
ここで私は立ち止まって一息付け、そして周りを見渡した。
遙か遠くの山々もくっきりと見え、初夏の日差しに映える緑の木々が目に映るだけである。同行している人々の姿は無い・・・そうだ、今の自分は、個人秘書の西君の同行すら断って、出かけてきたのだ。
私は一人で歩いている状況に気も留めず、ただただ歩き続けた。
「待って〜、待ってよ、お父さん」
そのうち後ろから私を呼び止める声が聞こえてきた。息子の一明が追いかけている。
私は脇目を振らずに歩くうちに、一緒に付いてきた息子を置いてきた様だ。
知らず知らずに自分の息も切れている。
私は一明が追いつくまでその場で立ち止まり、息を整えていた。
「ふ〜、お父さん、非道いよ。僕を置いていくなんて」
ようやく追いついた一明が、息を荒らして自分を責める。それはそうだろう。偶には親子で釣りをしようと、こっちから誘ったのに置いてくるのだから。
「はははっ、すまんすまん。久し振りの釣りだから、つい先が楽しみになって・・・な」
私は苦笑しながら片手拝みで一明に謝った。
「ねぇ、お父さん。お父さんが目指す釣り場はまだ先なの?」
「あぁ、もう少し先だ。良い場所だぞ。父さんが中学生の頃から釣り上げようとしている大鯉が住み着いているんだ」
「へ〜」
その目つきは信じていないな?
「まあ良い。運が良ければ奴を拝めるだろう。お前より大きくなっているかもな」
私は息子を引き連れて、釣り場を目指して再び歩き出した。
「ねえ、お父さん」
「ん?どうした」
目指す釣り場、山中の川なのに殆ど水の動きがない大きな淵に釣り糸を垂れていた私に、一明が声をかけてきた。
「お父さんは、この世界になってから戦争ばかりしているね。どうして戦争をするの?」
突然、一明が難しい質問をしてきた。
「一明、父さんが好きで戦争をやっていると思っているのかい?」
「そう言う訳じゃないけど、戦争をしてもだれよろこばないし、ただ多くの人たちが命を失うだけでしょう?なぜ同じ人間どうしで戦い悲しむだけの事をするの?」
一明は真剣な目で私を見つめている。これは真剣に応えなければいけないだろう。そう思った私は、考えを纏めながら一明に応え始めた。
「そうだな。戦争は確かに悲惨だ。勝っても負けても敵味方に悲惨な傷跡を残す。私だって友人や部下を殺すかもしれない戦争なんてしたくないよ」
「だったら何故するの?」
「相手が、まず戦闘ありきで有無を言わさず攻撃してくるからだよ。今まで現れた敵性体は、何れの場合も実力行使しなければ一般市民に重大な被害をもたらすから、やむを得ず闘いを選択してきたんだ。こちらから戦闘をふっかけた事は一度も無いよ」
「でも、おとなしくしていたら、向こうだって暴力は振るわないかもしれないじゃないか」
「ああ、そう言う考え方もあるね。でも、暴力を持って独り善がりな主義主張を押しつけようとする者の前では、幾ら高尚な考えを述べても、相手は受け入れない。悲しい事だが、人が意見を聴くのは相手が正しいからだけではないんだ」
「でもそんな相手ばかりじゃないかもしれないじゃないか。こちらの言う事を聴いて受け入れてくれるかも・・・」
「それは矛盾しているね、一明」
私の指摘に一明はきょとんとした。自分が矛盾した事を言っている事が判らなかったらしい。私は釣り針を手元に戻すとえさを付け替え、再び淵に釣り糸を垂らした。一明はその間、私が説明してくれるのを待っていた。
「もし攻撃してくる相手が私たちの言う事を聴いてくれるなら、最初から戦闘になる事はない。交渉から始まる筈だよ。そもそも私たちの言う事を聴かず、有無を言わさずに攻撃してくるから、こちらも実力で防がなければならないから闘いになる」
「うん、お父さんの言うとおりだね。僕たちの言う事を聴いてくれる様な相手なら争いなんて起こりっこないね」
一明は私の説明に納得した様だ。
「でも、矛盾しているね」
今度は一明が指摘してきた。私は何処が矛盾した箇所が判らず、一明に逆に問いかけた。
「何処が矛盾しているって?」
「うん、戦争をしたくないって言っているお父さんが、現実に戦争の準備をしなければいけないって言う所がだよ」
「はははっ、それもそうだね」
私は笑いながらそれを認めた。
「けれど、もしもこちらが無力ならば一方的に奴隷の様に支配されてしまう。少なくとも奴隷の様に支配しようという相手が現れた時、それを防ぐ事が出来なくなる。前の世界なら現実に起きる可能性は低かったが、今の世界では何時起きても不思議じゃない。この国に住む人々を守るために、矛盾していても戦争を起こさないために戦争の準備をしているんだよ」
実を言うと、元の世界でも一般市民が知らない所で戦争の危機は何度もあった。薄氷の上を歩く如く慎重に対処し、幸運にも一般市民が気づく前に事態を平穏な方向に持っていく事が出来ただけなのだ。
「それに人間社会は矛盾だらけだ。あちらを立てればこちらが立たない事はかなりある。もちろん、矛盾点は解消していかなければいけないが、根本的に解消できない矛盾がある。戦争への対処もそうだね」
私は釣り糸から淵に広がる波紋を見ながら、戦争にまつわる矛盾を説明し始めた。
「病気が嫌なら病気を研究しなければいけない。火事が起きたら原因を研究しなければいけない。そして戦争が嫌なら戦争が発生するメカニズムを研究しなければいけない。日本ではその研究すら戦争を引き起こすと非難されて公式には全然進んでいなかったが、そんな枷のない欧米ではちゃんと研究している。有名な所では、『平和主義が大戦を招いた』と言う説がある。ナチスドイツのアドルフ=ヒットラーが周辺諸国に軍事行動を取った時、英仏が強硬手段を取って退却させればまだ国内的に脆弱なナチスは崩壊してその後の戦争は起きなかったという説だ」
「でも、それは戦争を正当化して、どんどん戦争しろって言っている様に思えるけど。もしかしてお父さん、日本に集まった武力を思いっきり使いたいと思っていない?」
マスコミでは絶対に出ない様な質問だな、と一瞬考えた。しかしその分、自分の本質に切り込んでくる様な質問だと考えるのは気にしすぎなのだろうか。
だが耳に聞こえたノイズと共にその疑問も一瞬に消え、私は一明に答えた。
「そうだな、この説だけを聴くと軍事行動は起こすべき時に起こさないといけないと考える。そして安易に軍事力を行使する事に躊躇わなくなるだろう」
そう砲艦外交と言う言葉もある様に、確かに戦争は政治の延長だと言われている。政治の一手段として軍事力を行使する選択肢もある事はあるのだ。
例えば私がまだ防衛庁長官だった頃、プルトニウム運搬船がハイジャックされた事件があった。結果として運搬船を公海上に沈めたが乗組員は無事に救出された。しかし救出手段が見つかる以前に私は強硬手段を取る事を主張した。つまり核兵器の原料となるプルトニウムをテロ国家に搬入される前に人質となった乗員ごと運搬船を攻撃し沈める必要がある、それもこのまま手をこまねいていれば米軍が実行するであろうから、日本国の世界に対する責任として自国の手で自衛隊の手で沈めろと。国民に反米感情が高まるより私も含めて現政権が恨まれる方が、まだ日本の国益になるという事だ。
国家運営は綺麗事だけでは済まされない。個人的な好き嫌いの感情ではなく、マキャベリズムに基づく判断もまた必要なのだ。
「今の日本ほどの軍事力が集まると、力を信奉する者なら一度は振るってみたくなるだろうね。お父さんも誘惑された事は否定しないよ。だからといって、政治家が安易に実力を振るう手段を取ってはいけない。安易に軍事行動をとって、国を破滅させた事例は歴史上多々あるからね」
私はこの日本に出現した数々のスーパーロボットやヒーローヒロイン、そして連合艦隊に自衛隊、警察その他の特殊部隊の数々を思い出していた。彼らの力を制御する必要があったとは言え、直接的間接的にと方法は色々あったが自分の指揮下に置いた軍事力の大きさを改めて思い出しながら、自分の思う所を続々と吐き出していた。まるで外から強制されている様に。
「だからなの?例えば北海道の共産政権を戦争で倒そうとしないのは」
一明が言った北海道の共産主義政権とは、北海道網走地方に成立した共産主義政権「日本人民共和国」の事である。
本来は南樺太と稚内あたりを含む北海道東北部を領土として成立していたのだが、時空融合で中心地たる南樺太がソビエト連邦崩壊直後のロシア領と入れ変わり、さらに現地のロシア人が共産国家より日本連合に所属する方を選んだために、今北海道に残っているのは元の勢力の数分の1と言った所まで弱体化していた。
私らは彼らも日本連合に所属する様に説得を続けていたが、共産国家の支配層は特権を失う事を恐れて自ら国を閉じて没交渉に入り戦争準備をしつつあった。
「そうだな。いま言った信念もあるが、他にも理由がある」
確かに今の日本連合が有する全戦力をつぎ込めば、軍事的に相手を敗北させる事は可能であろう。しかし、政治的理由と世界情勢がそれを許さなかった。
政治的理由には日本連合の成り立ちが関係している。
日本連合が地域社会つまりお互いにとっては異世界同士の自主的参加を前提にしている事もあり、たとえそれが敵対性が高い共産政権相手であってもそれを破る軍事行動は現段階では取れない。新潟にも出現した共産政権、東日本共和国政権がその親衛隊の一部に依る反乱で崩壊した様に、彼らの内部でも反乱が起きればこちらも大手を振って介入できるのだが。
またゾーンダイク軍の全人類に対する宣戦布告が1年以内にあると予想している現在、彼らとの接触が無きに等しい状態では交渉で戦争を回避できる可能性もまた無きに等しい。とすれば確実に起きる戦争のために今は戦力を整える時期である。たとえ国内であっても無駄な戦争は避けるべきである。
また、彼我に起こりえる戦災が強硬手段を主張する者達の想像よりも遙かに大きいと判ってからは、戦争オプションを今は取らない事に決めていた。
その代わり彼らの言う国境を封鎖して彼らの攻撃を防ぎ、またこちらの繁栄を数々の手段で見せつける事により戦争意欲をそぎ落として降伏へ誘導する些か時間と手間のかかる戦略をとる事にした。歴史上から似た例を引けば、豊臣秀吉の小田原攻めで取った戦略に近いだろう。
「だから今は彼らを封鎖し、自発的に段階を追って交流する様に説得する計画で行動しているのだよ。最初から開戦を前提に外交交渉をする様な、何処かの大統領と一緒にしないでくれ」
古くは大日本帝国、また時空融合前の世界ではあるが力には力で対抗し合う中東など、いろいろな事例を思い出しながら結論を伝えた。
「じゃぁお父さんは、好きで戦争をしているんじゃないんだね」
「あぁ、私は確かに戦争を始めたり終わらせたりする権限を持っている。それに戦争を仕掛けてくる相手には同じ力を持って受けて立つしか無いのも事実だ。だからといって戦争を好んでいる訳じゃない。それどころかこちらから戦争を始める前提で行動した時点で政治家として敗北したと考えている」
「それはなぜ?」
「一明。以前教えたお祖父さんの言葉を覚えているかい?」
ここで私は、私を政治家への道に誘った祖父の日記にあった言葉を、以前一明に教えた事のあるあの言葉を思い出させた。
「うん、憶えているよ。『個人を超えて自分の選挙区を超えて日本国を超えて世界的なスケールでの「人類の幸福」の実現こそが我々政治家の取り組むべき最大の命題である』だったね」
「そうだ。『人類の幸福』の敵には疫病や天変地異など幾つか有るが、とりわけ戦争が起きている社会は『人類の幸福』にはほど遠い社会である事は、一明も誰が考えても否定しないだろう。そんな『人類の幸福』を政治家の最終命題と考えて自分の政治信条だと公言している私が、安易に戦争を引き起こしたらそれこそ自分自身を否定する事になるよ」
「うん。良かったよ、お父さんが安易に力を振るう様な人じゃ無くって」
一明はようやく笑顔を再び見せる様になった。
「結局、簡単に軍事行動を起こさない慎みと、やはり本当に軍事行動が必要な状況なのかを見極める資質が最高責任者には必要だと思うよ。交渉で解決できる相手ならば人事を尽くして交渉し、それでも戦争が避けられない事を確認した上での最終手段として軍事力を行使したい。その場合も味方の犠牲は最小限にして負けない闘いをしたい。それにやるからには『人類の幸福』をまた一つ実現する結果を得たい。第2次世界大戦を境に植民地帝国主義が崩壊したようにね、そう考えている。父さんはお祖父さんの言葉を心に留めて、『人類の幸福』を実現する手段の一つでなければいけない『軍事力の行使』が、不幸を呼ぶ『軍事力の行使』に変わらない様に自分を諫めているんだよ」
「首相って大変だね。そう言えばニュースを見る限り他の世界の総理大臣も山程出現したのに、良くこんな大変な首相に成る気になったね。どうして他の人に任せずお父さんが首相になったの?」
「首相をやる理由は簡単だ。さっきの『人類の幸福』を実現する政治は首相になるのが一番やりやすいからだ」
「じゃぁ、どうやって首相になったの?」
「そうだな、この話は時空融合直後の臨時政府代表就任から話を始めなければいけないだろう」
私は時空融合直後に開いた「総理大臣会議」を思い出していた。
「集まった総理達は、皆・・・まぁ数名程絶対させたくない人々も居たが、その少数を除いた皆が私に替わって臨時政府代表や首相になってもおかしくない人物が揃っていたと思う。だがどうして最初に自分が臨時代表に選ばれたか解るかい?一明」
「それは・・・お父さんが大多数の支持を受けていたから?」
一明は考えながら答えた。
「ふふふ、それは違うよ」
「えっ!?だってお父さんは教えてくれたじゃないか。政治家という者は過半数の有権者の支持があって成れるものだって。だから首相になったのも過半数に支持されたからじゃないの?」
一明は私の言葉に目を見開いて反論してくる。
「それは違うよ、一明。確かに今でこそ自分の政治信条が広く知られて、大多数の国民にも支持されている。けれどあの時あの会議に集まってくれた総理達は、まだお互いに人柄も政治信条も知らなかったのだよ。ましてや殆どの国民は私を知らなかったのだから」
「じゃあ、何故なの?お父さん」
「あの時、時空融合直後の全国の情報を一番知っていたのがお父さんだったからさ」
つまり最初に日本各地と連絡を取り、テレビにも出たりしたのが私であった。運良く融合時から曲がりなりにも自衛隊を指揮下に置いていられた為に、情報の収集と発信が出来たのである。
他の総理大臣達も腹心の部下と共に出現したり、新聞各社やテレビ局などの報道機関に日本国総理大臣であるという記録が残っていたが、私と違い国家レベルの組織的バックアップが無かった為に、私の記者会見が報道されるまで国民に向かって意思表示が出来なかった。
まさしく「情報を制する者が主導権を握る」という古典的な経験則がこの場合にも働いたのである。
出遅れた他の総理大臣や集まった官僚達は、それでも私から主導権を取り戻そうと会議の場で喧々囂々の発言を繰り広げたが、それも米海軍第七艦隊と使徒ラミエルが交戦した情報が入るまでである。
私を含め、会議に参加していた総理達と官僚達にとり、米海軍第七艦隊は日本の安全保障の要だった。それが未知の敵性体により壊滅させられた情報は、まさに青天の霹靂の如く集まった人々にに降りかかった。
けれど私は、自衛隊経由でGGGから人類以外の敵性体が居るという情報はその前日に貰っていた。
「だから私は直ぐに気持ちを切り替える事が出来て、その場の主導権を握れたのさ」
私の説明に一明はがっかりしたような返事を返してきた。
「じゃぁ、お父さんは運だけで首相になったのか・・・」
「最初は運だったかもしれない。けれどそれだけであの男達が私を支持する訳はないだろう」
釣り針にえさを付け替えながら、一明の考え違いを指摘した。一明もそれを聞き、一度俯いた顔をまた上げて期待に満ちた表情を私に向けてきた。
私は釣り針を淵に落とし微妙に浮き沈みする浮を眺めながら、あの時集まった総理大臣達を思い出していた。
「自分こそ日本の総理だ」と主張していた多くの人々。
今では野党代表となり、政界の良きライバルとして私の政策に建設的反論を行っている者。
その場で暴力沙汰を起こし、鎮圧された人。
良き後継者となる資質を持ちながら暴力団と見なされた男が親友であるが為に、彼らが世間に受け入れられるまで内閣や党の役職を自ら外れた漢。
色々な考えを持つ男達が集まったが、最後には一つの意見に治まった。
「ラミエルにより第七艦隊が壊滅した事件で、今の世界は容易ならない状況であると、私を含めて集まった総理達は実感したんだ。そして手をこまねいて滅亡を待つような愚鈍な総理は流石に居なかった」
第七艦隊壊滅の情報を受けて混乱する官僚達を尻目に、私は自衛隊の出動を命じた。だがどう蟇目に見ても、残念ながら第七艦隊を壊滅させた怪物に対抗できる戦力は当時の自衛隊には無かった。私にしても自衛隊員達を、そんな敵にぶつけるような無謀な命令は出せなかった。
私が出来た事は、防衛庁がGGGやTDFから受け取った作戦に基づいて陸上自衛隊が作成した横浜・川崎地域緊急避難計画にゴーサインを下すだけであった。
「自衛隊員達はその命を賭けて任務に就く。だからと言って成功の可能性の無い必死の任務に出せません・・・」
そしてその私の判断を集まってくれた総理達が支持してくれた。
「私でも他に有効な手段は思い付きませんからな」
代表して竹上総理が理由を述べてくれた。
「ともあれ、ラミエル迎撃が終了して会議が再開された時には、皆が冷静になり全員一致で臨時政府の設立、そして将来の新政府樹立に向けて協力する事を誓ったんだよ」
「その時、父さんが代表に選ばれたんだね」
「そうだね。冷静になったその会議で、私が臨時政府代表を務める事になった」
この時は事実上有効的に働いた組織が全国的には自衛隊と、首都圏内では警察だけであった。そして私はその両者を既に指揮下に置いていた。
現実的な総理達は、その事実だけでとりあえず私を臨時代表に推薦してくれた。
私もそれに甘えているだけでは、次に控えていた正式政府代表、つまり今の日本連合政府首相に成れなかったろう。
全国から国民の代表を集め、臨時国会を開き、現在の情勢をまとめてこれを打破する方針を示し、同時に自分の政治信条もアピールしていかなければいけなかった。
「世界が変わってしまったが、自分の政治信条は変わっていない。折に触れて何度も何度も口に出し、それに反しない行動を取ったから、自分が首相である事を国民は支持してくれた。もっとも『人類』の範疇が些か拡大してしまったけどね」
「うん、そうだったね。人間だけでも超能力者や霊能力者が出てきたり、エマーンのように現世人類とも異なる人類、宇宙人までいるんだったね」
「そうだ。私は日本に出現してきたこれらの人々をまとめ上げねばいけなかった」
異質の人々を融合できねば、この日本はあっという間にバラバラになり、そして滅亡するだろう。
その事に気づいた私は、その全員とただの『人間』という立場で接する事にしたのだ。
私も国家的な力を持っている。相手も普通の人には持ち得ない超能力を持っている。
そんな両者が力を前面に押し出せば、ただ対立するだけである。
だから私はそんな『力』を抜きに、社会を構成する一員として互いに尊敬できる人格を有するか否かでつき合い方を判断してきたつもりだ。
卑屈にならず、かといって高飛車にもならず。卑屈になれば相手がつけ上がる。高飛車になれば相手は反発して力を前に押し出してくる。あくまでも対等の個人同士でつき合い始めるのが理想だ。
その姿勢が幸いにも良い方向で評価され、日本連合をまとめる事が出来ていた。
「やっぱりお父さんはすごい。僕なんかそんなすごい力を持つ人と話し合おうものなら卑屈になりそうだもの」
「はははっ。とは言っても私も上手く行かなかった事もある。こちらが対等のつもりでも向こうが嵩に懸かって礼儀を忘れて見下して来た様な事もあるし、逆にこちらが威圧していると非難された事もある。上手く行き始めたのも大臣と言われてからだよ」
「やっぱり社会経験が必要だね」
ここで一明は何か考え込む様に口を噤み、浮き沈みする浮を見つめていた。
そして暫く経ってまた質問してきた。
「じゃぁお父さん。もし神様や悪魔、魔物と言われていた人たちとつき合う事になっても、やっぱり対等に接するの?」
「うん?そうだな。相手がこちら、人間をどう捉えているかに依るな。少なくとも私は相手が最高神だろうと大魔王であろうと人間にとっては大して差は無いと考えているんだよ」
「どういう事?」
私の発言に一明は目を見張った。
「つまり、どちらにしろ人間の手に負える者じゃ無いってことさ。その存在を敬うか恐れるか、はたまた盲目的に追随するかは結局一人一人の心構えにかかってくる。私に限って言えば、やはり『能力』を特技として持っている人と見なして、対等に交渉するしかないと思う」
「それって、お父さん。神様も『人』と見なしているという事?」
「そうだな。ふふっ、最高神が自分にとって良き事を示す象徴なら、こんな考え方も受け入れてくれるんだろうね」
その時、釣り竿にあたりがあった。私はあたりに合わせて竿を振った。物の見事に大物をヒットした様だ。
竿がしなり、糸を引く力は今までに経験した事のないほど強い物である。
水面に大きな鯉がジャンプした。その勢いで力が抜けてばれそうになったが、私はどうにか合わせられ逃がす事はなかった。
「一明、これは大物だ。主かもしれん」
その鯉を釣り上げようと夢中になり、一明の返事が無い事に気が付かなかった。いや何時の間にか周りの景色も消え失せていた。
それに気が付いたのはもう一度鯉がジャンプした時である。
あたりは暗闇に包まれ、その中で鯉にだけ光が差し込んでいた。
今度こそ釣り針が外れて自由になった鯉はそのまま空中を舞い踊り、鱗や飛び散った水滴に反射した光が虹を描いていった。
私が呆然と見守っているうちに淵から水柱が立ち上り、その中を鯉が泳いで空中に飛び出した。
いや空中に飛び出した時には既に別の姿に、そう、龍に変化していたのである。
「加治隆介さん。貴方の考え方は解りました・・・」
龍から声が聞こえた時、既に私は気を失いかけていた。
「そうか、あの龍が小龍姫様なのだな・・・」
自分が神族と会うために妙神山に登山中である事、そして息子とはまだこの世界で出会っていない事を思い出しながら・・・
改訂版での後書き
え〜、後書きは最後にまとめて書くつもりでしたが、このパートしかも今回の改訂版だけは例外です。
ほぼ1年前の2003年1月29日にアイングラッドさんからご感想が転送されてきました。
(プライバシー保護のため、差出人名およびメールアドレスは伏せさせていただきました)
><@homepage mail>
>Name:※※※※
>Address:XXXXXXXXXXXXXXX@xxxx.co.jp
>Subject:S-SSFW-o-kaji-6a
>
>メッセージ:
>戦争をしてもだれよろこばないし、ただ多くの人たちが
>命をうしなうだけ。なぜ同じ人間どうし戦いかなしむだ
>けのことおするのですか?
>
>suki-kirai:普通
>star:普通
ご感想ありがとうございました。この場を借りてお礼を申し上げます。
しかし、なかなか重い問いかけでした。この問いかけへの回答が今回の改訂版です。
戦争は誰でも嫌な事です。でもやらなければいけない事態もまた考えられます。
ただこの1年いろいろな文献を参考にして言える事はただ一つ、その戦争に歴史的な意義が有るか無いかは関係なく、こちらからは決して手出しをする物ではない、と言う事です。
特に「自分たちが正義である」という意識に凝り固まっている相手にはですね。誰相手とは言いませんが。
この考えもまた一つの回答です。現実世界でもいろいろ激動があるでしょうが、その場になってあわてふためくよりこんなSSでも前々から思考実験していれば少しは慌てないで済むかなと考えていますが。
では、また。
イラクで働く日本自衛官達の御無事を祈って 2004/01/25(Sun)
<アイングラッドの感想>
OkadaYUKIDARUMAさん、「闇 Cパート」ありがとうございました。
続きが大変に気になる展開ですね。
小龍姫様の能力が原作には無い物ですが気になりません、却って「おお、まるで神さまの様だ」と新鮮な感じが・・・
みょんみょんみょん・・・
はっ! この効果音はキャラコメ時空発生音、しまった!
「光速の刃(レーザーブレード)」 ズンバラリンッ 「仏罰覿面」
ドッカーン
「自身の更新を滞るその罪最早許し難き、この佛法の守護者たる小龍姫が折伏せしめん。まったく、何ヶ月本編を止めていると思って居るんですか、アバンタイトルを書いたのなんて一昨年の夏ですよ? 人に頼ってどうするんです、聞いていますか?」
・・・
「あら? やりすぎたかしら」
岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
感想、ネタ等を書きこんでください。
提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。
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