スーパーSF大戦 外伝



− 闇 −

Dパート インターミッション 工藤明彦


 ブンブンと辺りに響く、重い風切り音。
 巨大な岩を思わす巨漢が、女性の腰程もある太い鉄棒を振り回し、先端が音速を超えて生じる衝撃波の音である。
 巨漢は全身に剛毛、口に牙、血の如き真っ赤な目、頭に金冠が被さるその姿は、明らかに人間ではない。
 だが凶暴さは微塵も無く、ただ力の大きさだけを見守る者達に伝えていた。
 そして巨漢に対峙している男が居た。
 彼は鉄棒に比べれば遙かにか細い木刀を青眼に構え、木刀が軽く揺れる以外は時折掠める鉄棒にぴくりとも動かずに制止し続けていた。
 鉄棒の軌道が自分に当たらないと見切っているためであるが、巻き起こる衝撃波と共に地面に散らばる小石が風で大量に吸い寄せられ、鉄棒と一緒に吹き付けてくる中で制止を保つ姿は、自然な物ではなかった。よく見ればその肌全体がうっすらと光りを放っている。
 この二人が対峙する場所は、妙神山山頂。すなわち修行場である。
 巨漢は修行場最高のトレーナー、斉天大聖ハヌマーン。そして彼が稽古をつけている相手は工藤明彦、身につけた念法の技を使い、数々の妖魔を倒してきた漢である。


 その彼がここにいるのは、お根婆さん事、下宿の大家である根白楊婆様の所為である。

「だからね、ひとみさんの病気を治せる存在は、もう神様しかいない。そしてこの世界には神様が降臨している」

 とある日の早朝、古ぼけた下宿の工藤の部屋では、お根婆さんが工藤に詰め寄っていた。
 工藤と同居している女性、南風ひとみは工藤と出会った事件で妖魔に犯され、感情が高ぶるとこの世の男共を喰い殺す鬼女と化していた。工藤も念法治療を施したが、鬼女と化す衝動を抑え込むだけであった。また自衛隊超常能力遊撃隊の九龍の伝手でスーパーソルジャーを生み出した自衛隊の生物医学研究所でも治療を受けたが、人間の科学力では原因を掴むどころか対症療法も出来なかった。時空融合前から藁をも掴む気持ちで名高い霊能力者や奇跡を起こすルルドの泉の類の聖地を訪れてもいたが、何れもが「力になれない」と言われ続けていた。
 お根婆さんも融合前に一度かなり有力な神様降臨の情報を掴んでいたが、結果は芳しいものではなかった。
 寝起きたばかりの下着姿のままで、工藤は融合前に大黒様と出会ったその事件と、最近ニュースを飾る女性達を思い出していた。

「今度は大黒様よりご利益があるんだろうね。その神様って政府の城戸沙織さんかい?それとも四国で持ち上げられている女性達かい?」
「馬鹿言うんでないよ。城戸さんは確かにアテナ神様の生まれ変わりだけど、あの方は戦いと技能の神様であって病魔は専門外だよ。その他は問題外。マスコミに出る女共で神様であった者は事は一人もいないよ」
「じゃぁどこに」
「ここさ」

 婆様は懐から出版されたばかりの地図を出し、あるページを広げると一点を指さした。

「ここさ、妙神山。ここなら確実に神様がいるよ」

 こうして彼と南風ひとみは根白楊婆様がどこからか聞きつけた情報を頼りに、南風ひとみを神様の元で治療出来ないかと妙神山に登ってきていたのである。が、何処でどう間違ったのか、工藤はハヌマーン師匠の元で修行する羽目になっていた。
 ハヌマーンが攻撃し工藤が静かに受け止める静かな攻防が数時間続き太陽が天頂に昇りきった頃、ハヌマーンは振り回す鉄棒、即ち如意棒を一瞬で止めた。
 辺りに静寂が染み渡る中、ハヌマーンは工藤に声をかけた。

「ほう、流石に噂に聞く『念法』だけの事はある。この程度の攻撃ではお主の相手にはならない様だな」
「いえ、それほどの事でも無いですよ。師匠の攻撃をかわすだけでもかなり消耗してます」

 その言葉通り、工藤の体力、生命力そして霊力、工藤は『念』と呼んでいたが、これらはかなり衰退していた。
 工藤は念を体の表面に流す事でハヌマーンの攻撃を受け流していた。先ほど彼の肌にうっすらと光る物が工藤の『念』であったのだが、それだけの事で『念』を消耗し尽くしたのである。
 妙神山の修行は、修行者の霊力に直接働きかけるため、体力だけでなく生命の根元から消耗してしまう。下手したら死んでしまう修行の中で己に眠る力を目覚めさせる事が出来れば、力の大きさだけでなく質も何段階もレベルアップできる。その良く知られている例がGS横島の文珠である。横島が持っていたそれまでの『栄光の手』が悪霊すら切り裂く万能のナイフであるなら、『文珠』はナイフとは全く違った力である。『栄光の手』がパワーアップして神や悪魔を切る事が出来ても、いやこれはこれでかなりのレベルアップなのだが、その延長線上に『文珠』は存在しない。言霊で世界を動かす『文珠』はそれほど質が変化した物なのである。
 まぁ横島ほど極端な変化を見せる修行者は少なかったが、成功した修行者は大概自分の持つ技にある程度の質的変化が起こっている事を自覚するのであった。
 さて修行場の方ではハヌマーンの攻撃がいったん止んだ今、工藤の腰部、脾臓、臍、心臓、そして喉の体内五ヶ所のチャクラが全力を挙げて『念』を生み出し、失われた生命力を回復しようと努めていた。
 しかしハヌマーンはそんな工藤に満足していなかった。

「だが、まだまだお主の力は目覚めてはおらぬ。儂も久し振りに全力を出さねば、お主は成長せぬようじゃ。今度は全力で行くぞ」

 そのセリフと共にハヌマーンの巨体は更に膨れ上がり、再度頭上で如意棒を振り回しはじめた。見た目は先ほどと同様だが、全力を出すという宣言通りハヌマーンは如意棒に神気を加え、己の演舞が生み出した衝撃波に霊気を重ねた鎌鼬を作りだしていく。即ちハヌマーンの霊気が混じる鎌鼬は、肉体を傷付ける物理的な攻撃だけでなく、霊魂まで切り刻む霊的攻撃に変わっていたのである。
 工藤もいつも周りに安心感をもたらす彼の笑顔が消え、顔の大きい事で有名な漫才師に似た風貌がきりりと引き締まった。
 そして再び、工藤は木刀『阿修羅』を青眼に構えた。如意棒に比べて今にも折れそうに細い木刀は、ゆっくりと揺れていた。そして時空融合後のこの世界ではありとあらゆる霊的な力が目に見える様になった今、阿修羅には工藤が生み出した『念』が溜まっていき、それに連れて光輝く全く異なる姿を見せていた。
 今までの攻撃は物理的な範疇に辛うじて収まっていたので、工藤は第五のチャクラまでで生み出される『念』で防ぐ事が出来た。『阿修羅』に溜まりそして吹き出す『念』が工藤の周りに壁を作り、衝撃波をそよ風に変え小石の軌道を外に曲げていたのである。
 だがハヌマーンが神気を加えはじめた今、第5のチャクラが生み出す『念』ではハヌマーンの神気と相殺され、無力化されていった。このままでは『念』がはぎ取られた剥き出しの体を魂ごと鎌鼬が切り刻む事になる。

「くっ、流石に名高い斉天大聖だけのことはある。かわし続けるのもしんどいな」

 他人事の様なセリフを吐きながら工藤はそれまで青眼の構えから、器用にステップを踏みながら鎌鼬をかわし始めた。

「工藤よ。踊っているだけでは儂に反撃できんぞ!」

 第五までのチャクラが生み出す『念』ではハヌマーンの霊気を防げ無いための苦肉の策であったが、ハヌマーンにはお見通しであった。
 ハヌマーンの神気を防ぐには第六のチャクラが、そして反撃するには第七のチャクラが生み出す『念』、それも神々そのものに等しいと言ったレベルにまで高められた『念』が必要となる。
 だが工藤の眉間そして頭頂には、まだ光がともる事はなかった。

 この二人の、久々に猿神斉天大聖ハヌマーン師匠自らが全力で施す修行を、妙神山に滞在している者達が大勢見物していた。

「ほう、ハヌマーン師匠は神気を込め始めたか。工藤はついて行けるかな」

 円谷と共に訪問し、先に修行を終えた元陸上自衛隊公安部超常遊撃隊所属、現在SATFに所属している九龍一尉がいた。彼は修行の成果でハヌマーンの技を見切り、工藤明彦がそれに対応できるかを見極めようとしていた。

「すごい、ここまで本気で力を出す師匠を初めて見ました」

 頭に角の生えた少女、ご存じ妙神山の管理人小龍姫が呟く。

「私たちの時より3倍は力を出しているな、師匠は」

 自衛隊の作業服を着た男、スーパーソルジャーの円谷が自分たちの時と比較していた。彼らは加治首相の親書を届けに妙神山を訪れ、そしてそのまま思い掛けない成り行きでハヌマーン師匠の修行をやらされ、そして全員が新しい力を身に付けていた。
 彼らスーパーソルジャーの他にも己が持つ能力を高めようと修行しに訪れた挑戦者達も僅かながら逗留しており、そしてその彼らを指導するトレーナー、小龍姫とハヌマーンも引き続き妙神山に住んでいる。
 そしてその他に色々な世界からの修行者ではない訪問者達が時空融合後の妙神山に滞在していた。
 神界に属する者、魔界に属する者、完全な神魔ではないが物質界に有りながら高次空間に属する性質の肉体をも持つ、例えばM78星雲『光の国』の住人の様な者達が、現世での肉体を維持するに必要な神気、霊気とも言われる高次エネルギーを求めて集まっていた。何せ彼らは相剋界のおかげで高次エネルギーを補給できる宇宙空間や元の世界へ帰る事が出来なくなり、数少ない地上の霊気吹き出しポイントに頼るしかないのである。霊気が吹き出している場所は、オカルトにはおなじみの竜脈(レイライン)に沿って富士山を始めとする山岳や湖、出雲大社や伊勢神宮、高野山と言った神社仏閣など他にもあることはあるが、ここ妙神山は霊気の質と無礼な人間が居ない生活環境の良さで彼らの人気の的になっていた。
 もっともこの者達に取っては娯楽の少ない亡命生活が続いてしまう事になってしまうが、人間の修行を見物する事は彼らの良い気晴らしになっているらしい。たまに小龍姫やハヌマーン師匠の代わりに稽古をつける事もある。

「いや、すごい。妖魔(ルシファーホーク)最強を自負する我々でも、今の二人と互角に戦うには、ここでメネシスの力を1年程ためる必要があります」

 避難してきた者の一人、天使の様に頭上に光輪を、背中に白い翼を生やした人影が、弱くなった自分たちを自嘲する様に呟いた。
 そんな見物人達が見守る中、ハヌマーンの棒術と工藤の念法の対峙も終わる時がついに来た。
 風切り音がピタッと止み、ハヌマーンは瞬時に右半身の構えになった。

「今日はここまでかの?工藤よ」

 ハヌマーンは工藤に呼びかけた。
 呼びかけられた工藤は前にも増して息絶え絶えであったが、ようやく返事をした。

「はぁ、はぁ、ぁ、ありがとうございました・・・」

 苦しい息の中からようやくお礼の言葉を述べた工藤は、その場に片膝を付いた。

「じゃが、安心するのはまだ早いぞ!これが最後の一撃じゃ、見事受け止めてみぃ!!」

 全てを話し終わる間も無く如意棒を頭上に振り上げ、そして工藤目掛けて振り下ろした。

「工藤さん!」

 見物人の中から工藤を呼びながら一人の女性が飛び出してきた。彼女は工藤と共に妙神山に登り、神の治療を受けている南風ひとみであった。
 彼女は悪鬼に変身してもハヌマーンの如意棒を受け止め、工藤を助けようとしていた。工藤の『念』は既に尽き、第六第七のチャクラが開くそぶりも見えない中、ただ叩き潰される様に見えたからである。
 だが部外者を入れない結界が彼女を阻み、彼女では惨劇を防げなかった。
 ガキーン、と辺りを打ちのめす程、あまりにも巨大な衝突音が響いた。
 音の発生源には、見事木刀で如意棒を受け止めている工藤の姿があった。最後まで見物していた者の霊視には、その時工藤の眉間にくっきりと光るチャクラが映っていた。
 だがハヌマーンが戦闘モードを解いて小柄な小龍姫より更に背が低い姿に変化すると同時に、工藤のチャクラは一瞬で消え去った。
 ハヌマーンは汗が浮き出ていたが、それほど疲れた様には見えない。
 だが工藤の方は地面に寝転がり荒く息を継いでいた。喉までのチャクラが全開となって消耗した『念』を再生していたが、心臓もしばらくはほぼ停止した状態が続くほど生命力が消耗していた。
 ハヌマーンは工藤を見下ろしながら声をかけた。

「人間界の妙な薬を飲んでいた所為で、神気の感受性が鈍っている様だな」

 工藤はお根婆さんが調合する霊薬を飲み、なかなか目覚めない眉間と頭頂部のチャクラを開いた事がある。それが生む『念』でしか倒せない妖魔と戦う必要があったためでは有るが、積み重ねれば着服した薬はかなりの量となり結果は。

「お根婆さんの霊薬も、師匠にとってはドーピングですか・・・お根婆さんが師匠のセリフを知ったら、興奮してひっくり返るぞ」

 工藤はハヌマーンの意図を察して、苦笑した。

「まぁ今回でその薬は抜けきったようじゃ。明日から本格的に修行をはじめるぞ」

 ハヌマーンは耳かき程の大きさに縮めた、工藤が第六のチャクラの力で受け止めたおかげでくの字に折れ曲がった如意棒を見ながら、静かに宣告した。

「げっ、明日もやるんか。死ぬぞ、絶対死ぬぞ。いや、今死んでやる」

 工藤はそのまま静かになった。

「工藤!」「工藤さん!」

 最後まで残った見物人の中から、九龍とひとみが飛び出して工藤の元に走っていった。今度は遮る物が無く、二人は工藤の元に辿り着き、ひとみが工藤の頭を抱きかかえて名前を呼び続ける間に、九龍が工藤の脈をみた。

「安心したまえ、南風さん。死ぬ程疲れ切ってはいるが、眠っているだけだ」

 その言葉に安心したのか南風ひとみは工藤に膝枕をしてあげて、静かに彼の寝顔を見守っていた。

続きます


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