スーパーSF大戦 外伝



− 闇 −


Bパート

− インターミッション 超兵士 −


 妙神山山頂で修行場の門番を務める二人の鬼は、今日もその役目を真面目に遂行していた。
「ふぁ〜〜〜あ〜〜〜あ〜〜あ〜〜〜」
「おい、右よ。そんな大声であくびをしたら小龍姫様に叱られるぞ」
「すまん、左の。何せ客人も途絶えて、暇で暇でしょうがないんじゃ」
・・・訂正しよう。冬になって訪れる者が絶えたために、この門番達は些か退屈しきっているようだ。
 妙神山も信州にある山であるから、十一月には登山道を閉め、雪山と化した一二月ともなると並の装備では危険な山になってしまう。修行場の噂を聞きつけた霊能者達も、ただでさえ険しい上に慣れない冬山シーズンは避けてしまい、ここを訪れる者も絶えて久しいのである。
 だが流石に頂上では小龍姫様の結界によって、下界の天候とは関係なく一年中春の陽気に包まれている。故に。
「ふぁ〜〜〜あ〜〜〜あ〜〜あ〜〜〜」
「おい、左の」
「すまんすまん。あくびが移った」
 春の陽気に眠気を誘われるのである。平和であった。

 だがちょうどその時、十人弱の人影が門の前に到着した。彼らはコートに付いた吹雪の残滓をはたき落としながら門番に挨拶した。
「こんにちは。私は日本連合自衛隊統合幕僚本部特務調査課の円谷大作と申します。小龍姫様はいらっしゃいますか?」
「お主達も修行希望者か。ならば、ここでは最初に我らを倒さねば修行場に入る事も叶わぬ定めを知っておろうか」
 その言葉と同時に、門の両脇に控えていた首のない巨体が円谷の方へ動き出した。だが円谷を始めとするスーパーソルジャー達は、門番の鬼がそう動くであろうとGS協会から知らされていたので些かもあわてることなく本来の目的を告げた。
「我々は修行に来たのではありません。日本連合政府の使いとして参ったのです」
「そうですよ、おまえ達。この方を早くお通ししなさい」
 タイミング良く急に門が開けられ、中から少女が一人歩み出てきた。背後には3人、ベレー帽をかぶった男女2人と見慣れぬ黄金色の鎧を着た長髪の男が続いていた。
「おお、姫様。解り申した。にしても背後の御仁は?」
「左様、我らはその御方を見てはおらぬが?」
 少女はもちろん修行所の管理人、小龍姫である。そしてベレー帽をかぶった男女は、魔界のデタント派から妙神山に派遣されている魔界第二軍特殊部隊大尉ワルキューレと魔界軍情報士官少尉ジークフリードの姉弟である。だが、黄金の鎧を着た男は門番が初めてみる男であった。
 しかし、小龍姫は門番の問いかけに答えるより円谷に挨拶する方が重要だと心得て、円谷と向き合った。無視された門番は泣いている様であるが。
「こんにちは、円谷さん。そしてスーパーソルジャーの皆さん。私が小龍姫です」
「はっ。統幕特務調査課
SATF(Special Ability Task Force)の円谷大作一佐です。本日は日本連合首相、加治隆介氏の親書をお届けに参りました」
 円谷隊長は敬礼しながら所属と任務を小龍姫に申告した。そして加治首相から預かった親書を懐から取り出し、小龍姫に手渡した。
「ご苦労様です。日本連合政府から使者が詣られるという話は、この方、シャカ殿から伺っていましたのでお会いできるのを楽しみにしていました。同じ日に着くとは意外でしたが」
 小龍姫の言葉に、円谷は小龍姫の背後に立つ男に注意を向けた。
「貴方が
黄金聖闘士(ゴールドセイント)の一人、乙女座のシャカ殿ですか。お噂はかねがね伺っていました」
「どうも。私はアテナ神、城戸沙織様からの使いで小龍姫様の元に直接伺いました。あなた方が来られる事を伝えてしまいましたが、ご迷惑ではなかったでしょうか」
「いえいえ、気になさるほどの事はありませんよ」
 二人は握手しながら、会話していた。残りの隊員達は円谷の背後で直立不動を保ったままである。
 そして二人が会話している内に、加治隆介からの親書を読み終えた小龍姫は顔を上げると、円谷へ微笑んで言った。
「加治首相の願いは承りました。希望通り今年の大晦日にお会いする事にしましょう」
 これを聴いたスーパーソルジャー達は全員、任務を果たせた事にほっとした表情を浮かべた。
 小龍姫は引き続き言葉を繋げた。
「これから加治首相へのお返事を書きますが、その間あなた達全員修行しませんか?」
 急な提案に、一同は驚きの言葉を返した。
「えっ?突然なんですか?」
「お嫌ですか?」
「いや、名高い修行場が使えるなら喜ばしい事ですが、華撃団の話では今は使用中で使えないはずでは?」
 これを聞いて小龍姫は、くくくっと笑いながら訳を告げた。
「ええ、あなた方が使う予約も入っていたので華撃団は使えなかったんです。実はある神からあなた方を鍛えてくれと頼まれています」
「いったい誰が?」
 心当たりのない円谷は逆に質問した。隊員達も互いに顔を見合わせている。小龍姫はその質問に答えを出した。
「あなた方が元の世界で追いかけていたご老人。唯一判明した名前が、確か、『
ドクトル(魔界医師)・ファウスト』と。こう頼まれました。『死んでいた超兵士を融合世界を護る一手に使うため、復活させたは良いがリハビリをさせる暇が無かった。お前の修行場を知れば向かうはずだから、訪れ次第修行させて潜在能力を開花させてくれ』こう頼まれました」
 意外な申し入れであった。確かに死んだはずの部下が復活した裏に、あの『神』の意図があった事は魔導師グレタ婆さんの占いで解っていたが、具体的にその話が来るとは思ってもみなかったのである。
「だが、我々にも任務があります。ここで修行する暇が・・・」
「お返事を書いている間と言いました。時間のかからないスペシャルコースですが、その分死傷する危険があります。ですがあの『神』の力を受けたあなた方ですので十分にやり遂げる事は保証しますわ」
 にっこりと笑いながら、危ない事をさり気なく伝える小龍姫であった。
 これを聴いた円谷は後ろの部下を見渡し、全員の目に怯えが無い事を確認すると妙神山の修行を受ける事に同意した。
 だが、それに割り込んで来た者がいた。
「小龍姫様、我らを通さず修行させれば、我らの存在理由が成り立ちもうさん」
「わっ、わかりました!解りましたから、そんなに泣きながら迫らないで下さい」
 修行希望者の力量を測る役目の門番が、大泣きに泣いて異議を唱えていた。
「まぁしょうが無いですね。円谷さん、貴方なら大丈夫でしょう」
 手加減できるでしょう?と、小龍姫は門番と円谷の対戦を認めた。

 そして門の前で、円谷と門番が対峙した。小龍姫を始めワルキューレジークフリートの二人も、スーパーソルジャー達も黄金聖闘士シャカも見守っている。
「姉上、あの人間の実力はどの程度と見ますか?」
「ふむ、強い様な弱い様な、一目では見抜けない。こんな人間が横島の他にもいるとは面白い世界になったものだ」
 ワルキューレとジークフリートの二人が自然体で立つ円谷の実力を見切ろうとしていた。GS横島の潜在能力を見誤った事のあるワルキューレは、円谷の能力を慎重に測っていた。
「で、シャカさん。貴方はどう見ます?」
 小龍姫もシャカに問いかける。
「我々も別課のスーパーソルジャー達の能力は知りません。ですが、円谷さんの
小宇宙(コスモ)は我々聖闘士(セイント)にも引けを取らないものを持っています」
 円谷の超能力を、燃え上がる小宇宙の大きさで感じ取ったシャカが答えた。もし自分が円谷と戦っても戦況がどう動くか想像できない。と、シャカは考えていたのである。
 スーパーソルジャー達は、自分らの隊長が門番程度に引けを取るはずがないと確信して笑っていた。
 そんな円谷勝利以外の結果を一人も考えていない事を知ってか知らずか、いらいらした門番の二鬼が無造作に動き出した。
「では、参る!」
 左右二鬼が同時に、それぞれの名の腕を円谷に向けて振った。仮にも鬼である門番の拳の威力は凄まじく、円谷の体を貫き、彼が立つ地面ごと爆発させたのである。だが爆煙が収まると円谷は鬼達の背後に立っていた。あの刹那に、体を左右に軽く振り二鬼の腕をくぐり抜けたのであった。鬼の腕は円谷の残像を貫いただけである。
「次はこちらの番だ!」
 円谷はそう叫ぶと両手を鬼の前へ突き出した。円谷のその動作を見た副長の有川二佐が叫んだ。
「でるぞ!!隊長の力が!!」
 その言葉通り円谷の両手に光る雲が現れた。左右それぞれの二つの雲はたちまち人間大に膨れ上がり、新たな人影を生み出した。
「「!」」
 左右の鬼はその姿を見て、驚愕のあまり一瞬動きを止めた。
「隙有り!」
「守りが甘いですわよ」
 先月、帝国華撃団が初めてやってきた時の再現であった。円谷の超能力で呼び出された人影、帝国華撃団のすみれとカンナが再び左右の鬼の急所に蹴りを入れたのである。

 同時刻、帝都大帝国劇場は稽古中の舞台。
「すみれ、カンナ、どうした?急にぼうっとして」
 芝居の最中、急に動きを止めたすみれとカンナにマリアが声をかけていた。
「あっ、あぁマリアか。やっぱりここは舞台だよな」
「えぇ、さっきはまた妙神山の門番の試験をやっていた様な気がしていたんですが」
「えっお前もか、すみれ。俺もさっき門番に蹴り入れた様な気がしてならないんだ」
 そんな二人をマリアを始めとする残りのメンバーが不思議そうに見ていた。
 彼女たちは知る由も無いが、円谷の超能力ですみれとカンナのドッペルゲンガー(二重存在)が造られたのであるが、どちらも本物であるために妙神山での記憶が帝都にいる彼女たちにも残ったのである。

 さて、また急所攻撃を喰らった門番は、彼女たちが消滅すると同時にその場に崩れ落ちた。
「「もっ、もう嫌、こんな役割」」
 涙目になって呟きながら・・・合唱。

続きます。


初出:2002年11月15日
改訂:2003年 1月15日


 感想は連合議会か、もしくは直接こちらへ。




日本連合 連合議会


 岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
 感想、ネタ等を書きこんでください。
 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


スーパーSF大戦のページへ







 ・  お名前  ・ 

 ・メールアドレス・ 




★この話はどうでしたか?

好き 嫌い 普通


★評価は?

特上 良い 普通 悪い