『パンドラの箱』


Dパート




 新世紀2年3月24日 静岡県陸上自衛隊東富士演習場


「偵察31より入電、敵軍はDポイントにて橋頭堡を確立したもようです」
「第1特科連隊より入電、MLRS及び203mm自走榴弾砲、発射位置に展開完了」
「第11施設隊より入電、155mm榴弾砲FH70発射準備完了」
「第1戦車大隊より入電、突入準備完了」

 臨時司令部に次々と報告が入ってくる。
 目を閉じていた司令官が立ちあがって叫ぶ。

「よし、作戦開始だ!!」
「了解、本部より各隊、本部より各隊、攻撃を開始せよ。繰り返す、攻撃を開始せよ」
「了解、連隊本部より全車、攻撃開始」

 すぐさま轟音を立てて、MLRSによる一斉射撃が開始される。
 空に綺麗な軌道を描いてロケット弾が飛んで行き、敵軍橋頭堡に襲いかかる。
 敵軍橋頭堡のあちこちで、連続して爆発が起こる。
 しかし、敵もさるものすぐに発射位置を割り出し反撃してくる。

「AOP班より入電、敵砲兵陣地の座標です」
「すぐに各班に伝達!第11施設隊に敵砲兵陣地への支援攻撃を要請」
「はっ!」
「第1特科連隊より支援砲撃の要請です」
「よし、全砲照準合わせろ!準備が整い次第、一斉発射だ」
「はっ…………発射準備完了です」
「遅い!40秒もかかったぞ」
「申し訳ありません」
「砲撃用意、射撃5秒前、4,3,2,1」

 秒読みの間に射撃手と班長以外は耳をふさいでしゃがみこむ。
 刹那、凄まじい射撃音と共に砲弾が発射される。
 発射された砲弾は風を切る音を立てながら目標に突き進み、炸裂する。

「敵砲兵陣地は沈黙。第1戦車大隊突入せよ!繰り返す、突入せよ」
「富士一号より全車、突撃!!」

 戦車用掩蔽壕から次々と戦車が飛び出し、敵軍に対して突撃を開始する。

「奇数号車左へ、偶数は右だ!!」

 指示に従い戦車隊が左右に分かれる。

「敵は数が少ない!囲んで殲滅しろ!」
「「「了解!!」」」
「空挺が降下空域に侵入しました。只今より降下を開始します」

 雲を割って、C−130の編隊が現れた。

<降下開始、降下開始>

 後部ゲートが開き、空挺レイバーが次々と降下する。
 下方へ向けて機関砲を乱射する。
 着地すると、バックパックが切り離されパラシュートが飛ばされていく。

<空挺1より各機、第1大隊へ支援を開始する>
<空挺2了解>
<空挺3了解>

 三体のレイバーはすばやく展開し、戦車大隊への支援を開始した。
 たちまちあちこちで爆発が起こる。

「第1戦車大隊より本部へ、敵軍の全滅を確認」

 司令部に歓声が起こる。

「了解、以上で演習を完了する。帰還せよ」



 実は今までのは全て演習だったのである。
 この日、東富士演習場にて陸上自衛隊総合火力演習が行われていた。
 参加したのは、実に1個師団。
 これだけの部隊を動員しての演習は久しぶりであり、当然マスコミも押しかけた。
 そして、この日はWAPが国民の前に始めて登場する日でもあった。

「それでは、これが陸上自衛隊の新型兵器なのですか?」

 レポーターが尋ねる。

「はい、正式名称は二式特別攻撃車両といいます」
「へえー、しかし、これって特機に入るのではないのですか?」
「いいえ、このタイプは陸自の戦力低下に対する対策として技研が研究開発していた物ですので」
「なるほど………あら?」

 不意にレポーターは空のかなたを凝視した。

「へ?」

 つられてカメラもそちらを見る。
 綺麗なピンクの飛行機雲がこちらに向かってくるのが見えた。

「あのー、たしか演習は終わってますよね?」
「ええ、そのはずです。少々お待ち下さい」

 そう言うと案内役の三曹は通信機の所へ走っていった。


 −−陸上自衛隊富士駐屯地高射教導隊指揮所−−

「はいこちら富士高射教導指揮所」
「こちら第1独立機動中隊水戸三曹です」
「なにか?」
「演習場11時の方向よりピンクのスモークが見えるのですが、現在そちらに報告入ってますか?」
「少々お待ちを……隊長、デモ飛行なんて聞いてますか?」

 傍らの隊長に尋ねる。

「いや、そんなはずは無い…レーダー!反応は?」
「いえ、ありません」
「たしかか?」
「はい」
「………しばらく観測を続けるように言え」
「はっ、水戸三曹、こちら高射教導指揮所観測を続けられたし」
「了解」

 無線を切ると、すぐに別の駐屯地から報告が入ってくる。

「こちら北富士駐屯地、現在当基地上空をUNKNOWN機がピンクのスモークを出しつつ通過中、そちらのレーダーに反応は?」
「こちら高射教導指揮所、レーダーに反応は無し。無線に応答は?」
「無線に応答無し、IFFの作動も確認できない。現在、浜松基地よりF−15J3機がスクランブル。UNKNOWN接触まで二分弱」
「了解、引き続き呼びかけをお願いします」
「了解」


富士山上空


<こちらエンジェルリーダー、浜松AB応答せよ>
<こちら浜松AB、感度良好>
<現在3機編隊にてUNKNOWNに接近中>
<了解、UNKNOWNに可能な限り接近し、目視にて外観を伝えられたし>
<エンジェルリーダー了解>


 指示を受け取った編隊は、直ちにアフターバーナーに点火しUNKNOWNに接近する。
 すぐにその姿が見えてくる。

<こちらエンジェルリーダー、浜松AB応答せよ>
<こちら浜松AB>
<UNKNOWNは、灰色に塗装されている模様。えー形状は、四角い箱に翼をつけたような極めて特異な形状をしている。機体正面部に目のようなものが付いているようです。あ、機体正面開口部より、ピンクの粉末を排出しています>
<了解エンジェルリーダー。他に特徴はありますか?>
<他に際立った特徴はありません、監視を……ううっ>

 不意に眩暈のような不快感がパイロットを襲った。

<エンジェルリーダー?どうした!?応答せよ>
<こ、こちらエンジェルリーダー。畜生!頭が…………ガガッ>

 突然無線が切れた。

「どうした?エンジェルリーダー?おい!」
「大変です!F−15のブリップが消滅しました!」

 レーダー手が叫ぶ。

「なに!計器に異常は!?」
「ありません!」
「大変だ……すぐに防衛省に連絡!」
「はっ」


 迎撃に出たF−15が撃墜される。
 この衝撃的なニュースは、すぐさま防衛省に知らされた。
 報告を受けた防衛相土方俊太郎は直ちに付近の全自衛隊に防衛出動を要請。
 直ちに浜松、静浜、小牧基地から迎撃機が舞いあがり、富士、北富士、滝ヶ原駐屯地から高射部隊が召集される。
 富士山上空を舞台に、いま闘いの火蓋が切って落とされようとしていた。




 さて、演習場から少し離れた所に、大型コンテナがたくさん置いてある更地があった。
 その更地の中心には、なんと機械獣が!
 しかし、今は活動していないようであった。
 そして、その機械獣の周りを大勢の研究員が走り回っていた。
 当然、技研の人間ではない。

「黒崎君、これが例の機械獣って奴のなのかい?」

 アロハが似合いそうなにこやかな男が言う。

「はい課長、これの技術を応用すれば、特機の機体を越える物が作れるはずです」

 黒崎と呼ばれた男が答える。

「…黒崎君は、あまり彼らが好きではないようだね」

 課長と呼ばれた男がにこやかに尋ねる。

「正直言いますと、しかし……」
「だ〜めじゃないかぁ、仲良くしなきゃ」
「しかし…」
「分かってるよ、だけど、背に腹はかえられない、だろ?」
「はい」
「まあ、今はしょうがない。充電期間だと思って我慢しようよ」
「はあ」

 黒崎と呼ばれた男は額の汗をぬぐった。

「それより、そろそろ時間じゃないかな?」

 時計を見ながら言う。

「……そうですね、おい!撤収だ!!」

 向こうの研究員に向けて叫ぶ。
 あわてて機材を収納し始める研究員達。
 それを横目に車に乗り込む二人。

 東京へ向かう車の中で、黒崎と呼ばれた男が不機嫌そうに言った。

「それにしても頭に来ますね」
「なにがだい?」
「連中、物資をあんなに援助してやったのに、その見かえりが時間制限付きの非破壊調査のみなんて、ここまでばれずに運ぶのにどれだけの金が掛かったか……」
「まあまあ黒崎君! 今回だけでもだいぶデータがそろったみたいだし、次に期待しようよ!」
「課長……その金はどこから出てると思ってるんですか?」
「会社だろ?」
「はぁーー、その度に嫌味を言われる私の身にもなってくださいよ」
「いつもすまないねぇ」
「また心にも無い事を……そんな事より、そろそろ時間ですね」
「ああ」

 誰も居なくなった更地。
 その中心に置いてある機械獣。
 その目が、突然光った。
 そして、ゆっくりと立ちあがる。
 機械獣は辺りを見まわすとSCEBAIに向け歩き出した。




 Dパートのお届けです。
 諸事情によりWAPの活躍は次回まで延期です。
 さてさて、今回らへんから、通信や会話に専門用語が入ってきます。

 多分分からない人が多いと思うので『パンドラの箱』解説編を読んで下さい。


 ここに書いてある用語は解説してあります。
(なお、解説は私の所有している資料に基づいて書いてありますが、ひょっとしたら間違っている所があるかもしれません、間違いを発見したら、メールにてご指摘をお願いします)
 それではEパートでまた。




<アイングラッドの感想>
 と云う訳でT・Mさんの投稿第4弾です。
 今までほとんど出番の無かった陸自の方々の活躍の場がやってきました。
 果たして陸自期待の☆、WAPは機械獣に充分対抗できると云うことを示す事が出来るのか。
 初の実戦が迫ってきています。
 そしてまたしても地下で策謀を巡らせるシャフト・エンタープライズ・ジャパン企画7課、単独でASURAシステムを搭載したグリフォンと云う化け物レイバーを作り出した彼らが大規模人型ロボットの技術を手に入れ何をするのか。
 取り敢えず「根の国の使い」で出てきますが。乞うご期待。
 ではでは。




日本連合 連合議会


 岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
 感想、ネタ等を書きこんでください。
 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


スーパーSF大戦のページへ


SSを読んだ方は下の「送信」ボタンを押してください。
何話が読まれているかがわかります。
その他の項目は必ずしも必要ではありません。
でも、書いてもらえると嬉しいです。






 ・  お名前  ・ 

 ・メールアドレス・ 




★この話はどうでしたか?

好き 嫌い 普通


★評価は?

特上 良い 普通 悪い