Super Science Fiction Wars 外伝

Steel Eye'd ladies~鋼鉄の眼差しの乙女達

第3話 接触!日本連合


新世紀2年6月16日 午前1時20分
北海道上川郡美深町

「機動兵器部隊のパイロットたちに告ぐ、こちらは日本連合陸上自衛隊である。諸君らの所属と部隊名を告げて欲しい、繰り返す。こちらは日本連合陸上自衛隊である……」

全周波数受信モードにセットした通信機から流れ出した通信に、一方的な戦いの光景はひとまず終わることとなった。

「来たわね、ハーディ」

上空を飛ぶヘリの飛行灯を見上げながら、ヤオは通信を開いた。

「そうなるか……あの『100年後のドールズ』の連中はどうするか、ね」

いまだ硝煙の匂いがくすぶる戸外へ出たハーディは、おもむろにマイクを取ると通信を開いた。
戸外のひんやりとした空気が、頬を刺激する。
燃料系を打ち抜かれたT-80から上がる炎が、ちろちろと周囲を照らしていた

「こちらはオムニ独立軍軍総省統合作戦本部所属第177特務大隊総司令、ハーディ・ニューランド大佐だ。『日本連合』陸上自衛隊のヘリコプター、交渉を持ちたい。よろしいか?」

同時刻 北海道美深町上空 高度12000メートル

「終わったか」
『その様だな』

DoLLSが自衛隊との交渉をもつことに同意したのと同じ頃。
戦場の遥か上空から、DoLLSと「赤い日本」の戦車隊により展開された戦闘を記録していたイサムとガルドもその通信を聞いていた。

同時に、自分達が機体の機密保持を放り投げてこの場へ介入せず済んだ事に安堵し一息つく。

もしこの時、陸自のヘリを撃墜或いは攻撃していたら、DoLLSのメンバーは間違いなくPLDもろともあの世に転属させられていただろう。
二人の駆るYF-19とYF-21がその性能をフルに発揮して上空から襲いかかれば、地上を抉る衝撃波とレーザー機銃により、先ほどの戦闘を上回る惨状を5分足らずで生み出せるのだから……。

だが、接触が果たされた今それらは杞憂に終わった。

まだ暫らく現場上空をエンドレスエイトで飛行していた2機だが、やがて機首を南に向けると現場上空を離れる。

「さて、何事も無く接触した以上俺達の任務も済んだ。帰ろうぜ」
『同感だ。HecteyesよりG3、地上の戦闘終了と出現した“DoLLS”が自衛隊と接触した事を確認した。RTB(Return To Base、基地への帰還を意味する)』
『G3よりHecteyes、了解しました。気をつけて帰還してください。そして、お疲れ様です』

GGGでも事が無事収束した事に安堵しているのだろう、ガルドからの通信に対する命の表情も緊張が解けている。

『こちらG3、大河だ。二人ともご苦労だった。機体の移送作業は明日以降になるから、帰還後はそれまでゆっくり休んでくれたまえ。』
『了解です。それにしても作業の方、急にキャンセルしてよかったのですか?』
「ああ、ドタキャンしたってのは拙かったかもな……技研のスタッフは今頃きっとカンカンだぜ?」

ガルドの言う様に、本来行なわれる予定だった移送作業のことを思い出したイサムも、こりゃ拙いなという表情をする。
いくら政府からの許可が出てたといえど、今後はテストパイロットとして出向する場所なのだから、今から白い眼で見られるというのは流石に問題だと思ったのである。

『いや、実はそうでもないんじゃよ。意外かもしれんが、技研の方は今回の出撃を歓迎しておるんじゃ』
「へ?」
『はい?どういうことです?』

大河司令に続いて通信ウィンドゥへ出た獅子王博士の言葉に二人とも思わず拍子抜けた声で聞き返す。

『理由はいくつかあるのじゃが、まずは「エレメント」の試作品がトラブルも無く動作したことじゃ。こちらからの遠隔操作だったにも関わらず問題が無かったのも好評だったみたいじゃ』
「なるほど……しかし、このユニットは大した性能だぜ。何しろ連中の通信も捕捉した上に解読した内容をリアルタイムで聞けるってのはよ……」
『これなら、すぐにでも正式採用されるかもしれんな……』

獅子王博士の説明に、イサムとガルドは「エレメント」の高性能を褒めるが、技研の関係者が聞けば複雑な表情を浮かべただろう。

なぜなら「エレメント」は元々技研の地下に存在する「パンドラの箱」に集められた物から偵察装備として使えそうな各種センサーを一つにまとめたものだからだ。
そう、技研が一から作り上げた物では無いのである。

技研が作ったのは外側のボディーだけであり、試作品を元にした複製の開発などはまだこれからの段階にある。
その一方で、技研も完全なオリジナルの電子戦装備が作れないか研究しているのも事実だ。

そして、イサム達は知らないことだが、地上のDoLLSが通信時に盗聴の可能性を想定せず――勿論まだ混乱していたこともあったが――秘匿性の低いモードで通信をしていた事もエレメントによる傍受へつながったといえる。
何よりDoLLSの隊員が、地球の言語それも日本語で話していた事も、当のGGGが驚くほど早い通信内容の解読に成功した理由であった。

ゆえに、技研でも「次はこう上手くいかないだろう」という声が多数出ている。
それでも「エレメント」がテストもろくにやってない試作品でもこれだけ確実に動作したことは誰もが評価していた。

『で、二つ目じゃが何といっても地上の“DoLLS”が未知の人型兵器を有している事じゃ。技研では早くも研究対象に出来るかもしれないとはしゃいでおるぞ』

元祖DoLLSと4thDoLLSがそれぞれの戦場で見せたその大暴れは「エレメント」やYF-21のセンサーにより確認されていた。
その光景を思い出しながら獅子王博士の説明を聞いた二人は大きく頷く。

『で、最後の三つ目じゃが、今回のフライトでYF-19と21の飛行データが新たに得られた事もあるんじゃ。技研が歓迎しているというのはこういう事なんじゃよ』
「それなら、ドタキャンの件は……」
『何も問題は無いということですか』

二人に対し、獅子王博士はそのとおりと頷く。

『うむ、ガルド君の言う通りじゃ。ただ帰還してから見てきたものについての証言と報告書の作成が残っているからの、頼むぞ』
「了解。安心したぜ、んじゃ一路GGGを目指しますか」
『そうだな』

一旦通信を終えるとYF-19とYF-21は高度を維持したままGGG本部を目指す。
その途中、遥か上空に反応を確認する。

「この反応は……そうか」
『間違いない、ナデシコだ。あの時と同じく2隻で行動しているな』

揺り戻し出現の際に、コンタクトをとってきた宇宙戦艦。
姿を確認した二人は機体をナデシコA,Bの高度まで上昇させる。

そして、ナデシコA,Bの周囲を一周すると、翼を振ってみせた。
ナデシコの側も意味を察したのだろう、発光信号を明滅させてみせる。

通信は交わさなかったが、それは両者の間に確かな信頼関係が存在することの現われだったと言えるだろう。

午前10時00分 東京都千代田区永田町 日本連合首相官邸

「なるほど……報告は読ませていただきました」

加治首相は机に置かれた電子書籍ビューア……「レボード」を片手に持ち、土方防衛相に向き合う。
表示されているのは自衛隊ヘリコプター部隊および、GGGが飛ばしたYF-19及びYF-21から得た全ての情報をまとめた第一次報告書だ。

「人型陸戦兵器を駆る女性ばかりの特殊部隊……ですか」
「はい、26世紀および27世紀のアルデバラン星系にある植民惑星オムニの特殊部隊ということです。説得に応じて現在は我々の指揮下に入っていますが……」

先月末に起きた新宿での一件に続いて、また未来の移民者かと加治首相は内心溜息をつく。
台風の当たり年という言葉があるが、さしづめ今年は揺り戻しの当たり年なのだろうか?

美深町に出現したDoLLS陸戦部隊はその後、出現地点から名寄の第25普通科連隊駐屯地に移されていた。

現在、三沢に誘導されて着陸した同じDoLLS航空隊が自衛隊監視の下、千歳基地に出現した専用輸送機で回収に向かっている最中だ。
千歳基地に出現したこれら輸送機は操縦系は理解可能であったものの、レーダー・航法関係といった支援システム関連が難解であり、航空自衛隊のパイロットには荷が重過ぎるとのことからだった。
結果、やむを得ず三沢基地で拘束されていた同じDoLLS航空隊のパイロットを使うしかないと判断され、彼女らは拘束を解かれたのである。

(実際のところはかなりの面でオート化されており、オムニ軍で使用されている輸送機はパイロット一人で十分運用可能なほどなのであるが……)

取石葉月一佐から回収任務にハミングバードを使ってくれと連絡があったが、却下されていた。
いまだ年は若いが天才的センスのパイロット集団とはいえ、今まで存在してなかった大型ティルトローター機や大型ヘリコプターの操縦は問題があるという判断が下されたのである。

また、この半ば越権行使に近い行動へ一部の幹部クラスから「ああいうのを親バカとでも言うのかもな」という批判があったことも記しておく。

「出来れば彼女らを説得して我々の戦力としたいところなんですけどね」

土方防衛相はそう呟くと、加治首相から視線をそらし思案する。

現場を監視した部隊から送られてきたドールズの戦闘に関する情報は、あまりにも衝撃的であった。
技術レベルから行けば先月出現した3機の戦闘機の方がおそらくは高度なものを使ってるに違いないが、これだけ完璧なバックアップ環境込での出現は貴重である。
しかも、そのサイズがWAPと大差がないというのは一つの注目点であった。

戦車並の装甲を持った戦闘ヘリが地上すれすれを飛んでいるようなものだと例えられる機動性を持つWAPの基礎戦術はいまだ模索中の段階であり、日夜教導中隊では様々な敵に合わせた基礎戦術の試行錯誤が続けられている。
本格的な実戦運用部隊の編成には、まだ一年近い時間が必要とされていた。

そこにWAPと類似したサイズ、戦術志向と思われる機動兵器部隊が現れたのだ、自衛隊としては渡りに船と言ってよい。
そう言った面では、早急に協力をしてもらう方向に持っていかねばならない……という気持ちが土方個人の思惑であった。

時空融合直後に日本連合へ保護を求め、そのまま恭順したヨーロッパ各国の艦船や「エクソダス」で日本に移民してきたかつてのドイツ軍人をはじめとしてこれ以上の大規模な軍事組織の出現した事が無いわけではない。
他の惑星から来たという事なら、ほんの10日ほど前にアフリカ大陸へ突如出現したZoids連邦という大陸丸ごと出現したというケースや、新宿の一件で現れた戦闘機の事もある。

だが、今回は「未来の世界で、他の惑星に存在した軍事組織」が「ある程度まとまった数で」日本連合へと出現しているのだ。
それが首脳部にとってどれ程の衝撃だったかは、今更強調するまでもないだろう……。

「現在北部方面隊総監部を中心にした説得を行う方向で調整をしていますが……やはり統合幕僚本部からも佐官クラスを交渉役として送る必要があると判断しております」

土方防衛相の言葉に、加治首相は黙ったまま頷く。
今日中に彼女らを説得し、味方につけてしまいたいというのが日本連合政府側としての考えである。
だが、彼女らがほかの国への亡命を希望した場合はどうなるか。

あるいは、彼女らが特殊部隊であることを考えると多数の「機密」を知っているであろうし、ましてや「オムニ独立軍」などと名乗っている軍隊で有れば地球と対立していた可能性もある。

その機密保持のために彼女らが「自決」する可能性も皆無とは言いきれなかった。
その為にも、人選は慎重を極める必要が求められていたのである。

「今後自衛隊にもネゴシエーターが必要かもしれませんね、土方さん」

悩む土方防衛相を前に、加治首相は苦笑して言葉をかけた。

6月17日 午前8時30分
北海道千歳市 航空自衛隊千歳基地

ここ千歳基地に突如として出現した巨大軍事施設の主、オムニ独立軍第177特務大隊ことDoLLSは4日ぶりにこの基地に戻ってきた。
彼女らを襲った突然の事件から3日目のことである。

「いやー、まさかコレが一緒に出てくるとは思わなかったわね」

千歳基地に降り立ったヤオが開口一番放った言葉である。
原因は不明だったが、上手いことにDoLLSの根拠地となっていた施設そのものがほぼ完璧な形で千歳基地に現れていたのだ。
DoLLSの装備、整備班などのバックアップ環境なども含めてである。

これが後に陸自に置いて彼女らが独立権限を確保できるだけの余裕がもてたことの要因であろう。もし隊員のみの出現であれば、得られる情報も半分以下に減っていたと思われる。
現に彼女らを美深町からここまで連れてきたのは三沢基地からやってきたエアパーソン達が操縦するPCH50輸送ヘリと4thドールズ達のVC213垂直離着陸機だった。自衛隊が持つ装備では彼女らの機体を輸送する手段が無かったのだ。
後に第一空挺師団習志野空挺機動中隊や特殊機動自衛隊5121中隊でも用いられた新型PLD、3式特別攻撃車輌の試作もここの施設を持ってして成し遂げられたものであり、この地は様々な面で陸戦兵器の質的向上を図るきっかけになった箇所となるのである。

輸送ヘリのタラップを降りたドールズメンバーを迎えたのは、千歳基地所属警務隊が向ける銃口と陸戦レイバー、97式ハンニバルの構える35mm長口径ガトリングガンであった。
その姿を目にしたDoLLSのメンバーから驚きの声があがる。

「PLDを持っている!?」
「でも、あんなタイプは戦場で確認が……新型なの?」
「嘘……ここは、20世紀の日本でしょ?なんでPLDを……」

多くの者が驚きの声をあげるそんな中、ハーディ、ヤオそしてフェイエンといった指揮官クラスの者達は自分達がどの様に見られているのかを再認識していた。

「……まだ信用されてないみたいね、ハーディ」

その剣呑な光景に、ヤオは思わずぼやく。

「仕方が無いだろうな……あれだけ派手な大立ち回りをやってしまったんだから」

出現早々DoLLSが壊滅させた「赤い日本」の戦車中隊だが、それ以降赤い日本が何らかの行動を起こしたと言う情報は意図的に封じられているのだろうか、ハーディ達には入ってきていなかった。

それ以上に、まだここはオムニ出身の自分達にとって「敵地」であることを彼女達は忘れていない。
決して口に出そうとはしなかったが。

そうこうしている間に自衛隊の方も交渉の使者が到着したらしい。

「ハーディ・ニューランド大佐ですね。陸上自衛隊北部方面隊司令、斉藤三弥陸将です」

DoLLSメンバーに日本語が通じるということが解っていたのか、北部方面隊総司令を名乗った男は通訳を介せず直接口を開いた。

「オムニ独立軍第177特務大隊司令、ニューランド大佐です。斉藤閣下、以後よろしくお願いいたします」

オムニ軍式の敬礼をすると、斉藤も同様に敬礼を交わす。

「まずはこの状況に関する説明から始めたいと思います。今あなたたちが存在しているここは、あなたたちの世界の地球ではないことはすでにご理解されているとは思います」

そして場所は変わって、陸上自衛隊東千歳駐屯地。

建物内の大会議室に2つの時代から現れたDoLLSメンバー、総計65名。
千歳基地に出現した整備班を初めとしたバックアップ要員160名、合計225名が座っていた。

状況説明を勤めるのは水瀬とか言う三十代末ごろの佐官であった。

「解っています。私たちの歴史には地球に日本連合などという国家が存在した記録はありませんから」

代表して4thドールズの隊長、フェイエン・ノール中佐が答える。
少なくとも地球とのリアルタイム通信が無かったオムニ独立戦争・ジアス戦役当時にも日本は地球連邦政府下の自治国家「日本国」であり、日本連合などという国号を持つ国家は存在していないことが伝えられていた。

「ご理解が早いこと、感謝します。では、先の話を踏まえたうえで今から申し上げることに対してパニックや自棄を起こさず、落ち着いて聞いてください」

このような前置きがなされたことで、大会議室のあちこちからざわめきが聞こえてくる。
すでに、ここが自分達の世界における過去の地球ではない、いわばパラレルワールドにいると知らされたのだ。

それだけでも十分衝撃的なのに、加えて何を説明されるというのかという不安が全員にあった。

「まず、現在の年月日についてですが、新世紀2年6月17日となります」
「新世紀……とはどういうことです?」

最初の一言に質問の手を挙げたのはハーディである。
年月日については20世紀末から21世紀初頭と想定していた為、西暦ではなく「新世紀」という年号が出てくるとは思わなかったのだ。

「簡単に言いますと、今から一年前に時空融合と呼ばれる原因不明の天変地異が起こり、日本だけでも1000を越える平行世界が融合したのです」
「なんですって……!」

その一言は衝撃的だった。
時空が、平行世界同士が融合するとは、パラレルワールドへの転移など問題ではない。

「それだけではありません。この世界は今、様々な世界、時間が融合した状態で存在しています。これは地球全体に及んでいるのです」

水瀬の説明に、DoLLS隊員たちの見せる反応は様々だった。
ある者は頷きまたある者は呆然と天井を見上げたり、うつむいて床を見つめている。

だが、頷いている者――主に、実際戦場で「赤い日本」の戦車隊と交戦したPLDのパイロット――は驚きこそすれ予想出来たことだった。

この世界に出現した直後からの情報収集作業で、あまりにも時代があやふやな印象があったのだ。

この事が判断を一時期迷わせたが、その中で世界の主流が日本連合であったことを推測したDoLLSメンバーの判断力というのは極めて優れていたというべきであったろう。

ただし、彼女らの目の前に現れた赤い日本の戦車中隊が交渉を持とうとせず、いきなり攻撃を仕掛けたことも原因の一つであったかも知れないが……。
交戦後、捕虜にした赤い日本の戦車兵らから聞いたところに寄れば、彼らは出現したDoLLSを日本連合(彼らは「南日本帝國」と呼んでいた)の機動兵器部隊だと思って攻撃を仕掛けたらしい。

だが、必殺を狙って発射したミサイルは1個中隊でイージス艦並みの防空能力を持つPLDの前には形無し。
その後は機動性の高さで照準を合わせられず、懐に飛び込まれ白兵戦でEMPを叩き込まれると言う自衛隊に対してDoLLSの強さを誇示するための示威行為の材料にしかならなかったのだ。

「私からも質問を、我々以外にも地球以外の星から来た人間、或いは出現した世界は存在しているのでしょうか?」

挙手の上質問をしたのは4thドールズのエレン・シュターミツ少佐だ。

元々宇宙軍で超次元理論を研究していただけあってもっとも早くこの事態を理解できた一人であろう。
彼女は後にDoLLSから総合学術会議に出向することとなる。

この質問に、水瀬は他部署――恐らく霞ヶ関の政府機関であろう――と通信によるやり取りの後、説明を始めた。

「他惑星出身の住人についてですが、我が国については所謂『異星人』と呼ばれていた方の登録が約2000人強、他に月や火星などの移民惑星から地球に来て時空融合に巻き込まれた『スペースノイド』或いは『Returnee(帰還者)』と呼ばれてる人々を合わせると10000人前後が登録されてます」
「世界単位ではどうなのです?」
「現時点では約2週間ほど前にアフリカ大陸にて、地球から6万光年離れた惑星から現れたゾイド連邦という国家の存在が明らかになっています。ですが時空融合後、最近までアフリカ大陸は殆どが侵入不可能な雲に覆われ暗黒大陸化していたため、わが国もいまだ状況を掴み切れていません」

その回答を聞いた瞬間、DoLLSメンバー達の間でざわめきが起こった。

オムニの場所は地球から60光年の位置にある。
その1000倍も遠い場所から地球に出現した存在がいる事が大きな衝撃を与えたのだ。

一方で、衝撃によるものと異なるざわめきも上がる。
それは6万光年も離れた惑星から出現した世界があるなら、遥かに近いオムニが出現しているのではないかという期待から上がったものだった。

「落ち着け!諸君!」

それまで聞き役であったハーディがあわてて場を抑える。
さすがに鍛えられた精鋭部隊だけあってすぐさま場は収まった。

「申し訳ありません、水瀬少佐。続きをお願いします」
「私は三佐ですが……続けましょう」

水瀬の説明は続いた。
一番古い時代としては数億年前の古生代から人間の存在が確認されている世界としては、古くは15世紀そして新しくは120世紀まで様々な時代・世界が統合され混沌としている日本連合全体について。

融合直後は混乱があったものの、なんとか一つに纏まり国内の治安も悪くないことが説明された。

勿論、それと同時に複数の犯罪組織や結社が潜伏していることも説明される。
これは、正しい情報を提供することで、最終的な判断をDoLLSそのものに任せる為だった。

更に現在の地球上には人類共通の敵性体が複数存在することと、日本連合も既に怪獣の襲来を受けたことを説明した。
怪獣という単語が出るとDoLLSのメンバーからも驚きの声が上がったが、これは当然の反応だろう。

続いては、現在日本国内に存在する敵性体に関しての説明だった。
特に水瀬は、 地獄(ヘル)一味の機械獣とゾーンダイクの上陸兵器「ウミグモ」に関しては必要以上に時間を割いた。

PLDの戦闘能力ならWAPの配備を待たずに十分に対抗出来るかも知れない。
という目論見があったのだ。

すでにWAPを中核にした機動中隊の編成計画が進行していたが、実戦段階へ入るにはあと半年はかかるかもしれない。
だが、彼女らならすでに実戦経験豊富であり、少なくともWAP中隊が軌道に乗るまでのつなぎにはなるだろう。
DoLLSの戦闘能力について報告を受けていた土門陸幕長直々の通達であった。

「水瀬三佐」

大方の説明を終えた時、ハーディが水瀬に向かい口を開いた。

「何でしょうか、ニューランド大佐」

自分より10歳も若いのに階級は二つも上だという女性の気迫に推されながら、水瀬は答えた。

「我々の扱いについては、あなたたち北部方面隊のみでは判断しきれないと言うことはわかります。ですが、今の時点で言えば我々は今すぐにでもオムニへ帰れるものなら帰りたい」
「恐らく、それは無理な話です……」

ハーディの一言に水瀬は思わず逡巡したが、自分が説明担当者として与えられている知識の全てを動員して答えた。

「それはなぜです?やはりここがパラレルワールドの地球であるからでしょうか?」
「私からも同じく質問させていただきたい。ここに我々が出現したということは、逆に帰る方法もあるのではないのか?」

水瀬の返事に対してハーディとフェイエンが更なる質問を行なう。
流石に、無理な話というのはその理由を聞かずにはいられなかったのだ。

「と、とりあえず落ち着いて聞いてください。少々長くなりますが、順を追って説明しますので」

その言葉に二人が肯いたのを確認すると、水瀬は一息ついてから説明を始めた。

「ここで、皆さんにお聞きしますがこの世界へ出現したとき空に薄もやがかかっているのに気付かれた方はおられますか?」
「あ、そういえば確かに……」

水瀬からの質問に、誰かがそう呟くとそこに集まった者から同様の声が上がる。
先ほど質問した二人やヤオ、セルマの様に出現時から野外にいた人間も、そういえばそうだったと思い出す。

だが、その事に気付かなかったのも無理はない。
彼女達は皆、オムニで生まれ育った者ばかりであり、地球に関して学校で学んだことは大雑把な内容ばかりである。
自然環境については、専門分野を進んだものでもオムニについての事しか知らないものも多く、空にかかる薄もやも「地球ではそんなもの」ぐらいの認識しかなかったのだ。

「あの薄もやは『相克界』と呼ばれる物でして、この融合した地球を外界と隔てているものなのです」
「なるほど、その相克界を抜ければ宇宙に出られるのですね?」
「普通に考えればそうです。が、残念なことに現在の我々では相克界を超えることが出来ません」
「超えられないですって……!?」

その一言に、一度落ち着きを取り戻したはずの室内が再びざわめきだす。
流石のハーディも水瀬からの一言に硬直してしまい、止めるに止められなかった。

「はい、残念なことに相克界と接触した物質はどういった理由かは判りませんが何らかの形で熱・光等のエネルギーとなって消滅してしまうのです」
「ですけど……せめてオムニへ私達のことを伝えるぐらいはできるんじゃ……」
「そうだ、施設の超空間通信を使えば時間がかかってもなんとか……」

オムニに帰れないという衝撃的な事実を前にセルマとナミも次々と声をあげる。
今すぐの帰還が無理でも連絡が取れるなら、まだ今後の指示を仰ぐことができるのではないかと考えたのだ。

「恐らく無理でしょう。現時点ではこちらから外に向けて電波やレーザーを当てても外側との通信が取れない状態となっているのです」
「そんな……」
「なら、私達の事を知らせるどころか、オムニがどうなっているかだってわからないじゃない……」
「仰られる通りです。実際に相克界より先がどうなっているのかすらまだ解らないのですから……」

だが、その言葉に対しても水瀬は残念そうに首を振ると「相克界が光以外を通さない」「相克界の外側がどうなっているかわからない」という事実を告げる。

これらの情報は二ヶ月前に、アメリカがメキシコでムーに対して核を使用した直後に公表された内容であり、既に連合政府では公式見解として相剋界による長期的熱死問題が公表されていた。
余談であるが、同時に相剋界対策研究費が計上され現時点でも研究が続けられている。
国民の一般生活と地球の今後に関わる問題なのだから当然といえば当然なのだが。

話を、会議室内に戻すと、二人の呟きと共に室内のざわめきはいよいよ大きくなる。
まだ暴発する様子は無いものの、失望のあまりに重い空気が漂いだす。

だが、そんな中床を蹴って立ち上がる音が響く。
全員が音の鳴った方向へ注目する。

「ふ……ふ……ふざけるなーっ!!」
「フェイス!?」

立ち上がったかと思うと、感情を爆発させた声の主――フェイス・スモーレット少尉――の声に、隣の席に座っていたミリィが驚く。

「いいか!私達はオムニ独立の為に必死で戦っていたんだ!それがようやく終わったと思ったらいきなり地球へ連れてこられて『オムニには帰れません』『連絡も取れません』だと!?ふざけんな!!」
「ちょ、ちょっと待って!落ち着いてフェイス!」

それまで溜まるに溜まっていた鬱憤を晴らす如く感情をぶちまけるフェイスをなだめようとミリィも慌てて立ち上がる。
同時に、他のメンバーも彼女の前に集まりだす。
激昂したのが普段は冷静なフェイスであったからこそ、他の隊員たちも驚かざるを得なかったのだ。

拙すぎる。
それが、4thDoLLSも含めたこの場にいる全員の感想だった。

ここは地球政府軍やジアスの本拠地である地球であるかもしれない。
しかし、自分達の知る地球とは異なる平行世界の地球なのだ。

相手にも心証というものがある以上感情を爆発させるなど最悪の行動だ。
たとえ心で思っても口に出していいものではない。

「落ち着け少尉、気持ちは皆同じだ。お前だけじゃない」
「今は、地球に我々が現れたという事実を受け入れるんだ。まずはそれからだ」
「言葉が通じる以上、心証を悪くするのはいただけないわ……ほら、座って」
「う……わかった……」

他の全員から諭されたフェイスは、落ち着いたのか再び椅子に座る。
その様子を見て、一安心だろうと思ったハーディは水瀬に向き直って頭を下げる。

「水瀬三佐、私の部下が無礼を働きました。状況が状況ですのでまだ落ち着いてないとはいえ大変な失礼をしてしまい申し訳ありません」
「い、いえ……お気持ちはよくご理解できます」

先に頭を下げられたことは意外だったが、説明役として派遣されていた手前こういう事もあるだろうと想定していたのだろう。
水瀬はその場が収まったのを確認し、説明を再開した。

「皆さん、確かにいきなり地球へ来たことでご家族との連絡もとれないことに不安を感じている方が大半と思います。ですがそれはこの地球でも同じなのです」
「え……」

改めて告げられた言葉に、それまでとは異なる驚きの声が上がる。

「最初に、この世界は複数の平行世界がモザイクの様になっていると説明しましたが、その結果家族と離れ離れになった人も少なくないのです」
「そうだったのか……」
「世界全体では解りませんが、我が国では1000以上の平行世界が混ざり合ったことで万単位での『融合孤児』が発生しました」

その説明に、誰もが納得したという表情を浮かべた。
DoLLSのメンバーも戦災孤児などを見たことは数え切れない。
だが、単に家族と死に別れるのではなく、ある日突然自分のいた世界そのものと切り離されたときの孤独感はどれ程のものか、それが子供ならばと思うと誰もが胸を痛めた。

「我々の方でも今後、我が国が現在に到るまでの政府発表、マスコミによる世間一般の情報についてまとめたものを閲覧していただけるようにしますので、より深くご理解してもらえると思えます」

この対応はDoLLSの側にとってもこの世界のより詳しい情報を得る上でありがたいことであり、この時点で日本連合に対する印象を良くしたと言える。

「数々のご配慮に感謝します。我々は今後の身の振り方についてを決めますが、改めてご質問します。今後、この世界がそれぞれ元の世界に戻る確率はどれぐらいありますか?」
「現時点では元の世界に帰還するというのは確率からして全く不明です。何らかのきっかけで再び揺り戻しが発生するのか、このまますべてが固まってしまうのか……」

ハーディの言葉に水瀬は自分の知っている範囲で回答する。
この時点では、時空融合の原因がこの世界に出現したアメリカが時空振動弾を使用した結果発生したと言う事は国家機密の扱いになっており、末端の将校である水瀬が知ることではなかった。
というよりこの事実を知っている人物は加治首相や安全保障会議のメンバー等ごく限られた人々のみであった。

「解りました、出来れば一度我々だけで状況を話しあいたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

返答に対してハーディの冷静を絵に描いたような表情に、水瀬は内心を図りかねた。
だがしばらくの間を置いて了承することとした。

「では、皆さんには30分ほど協議の時間を与えます」

水瀬が消えると、おもむろにハーディは口を開く。

「ナミ、ノール中佐。今の日本連合による説明の裏は取ったか?」

ナミとサポートに就いていたマーガレット・シュナイダー准尉と整備班のメンバー、4thDoLLSからもハッキングに詳しいスタッフがハーディの周りに集まった。

「この時代のTCP/IPをエミュレートするのに手こずりましたが、なんとか接続できましたよ大佐」

代表してナミが答える。
水瀬の説明を聞いている最中にもナミら技術に詳しい面々は、DoLLS基地のコンピュータを無線で操作しLTE通信網に偽装したアクセスを行っていたのだ。

「上出来。で、どうだ?」
「今のところすべてのデータを把握するまで行っていませんが、ロボット検索を使った単純探査による情報だけを見ると日本連合側はウソは言ってないと断言できます」

そう言うとナミは手に持っていたパッドPC――形状は現在のiPad等に類似しているが比べ物にならない程高性能なシロモノ――を見せる。

ホロディスプレイを表示すると、そこには「時空融合」以後一年程の政府資料から新聞社やテレビ局ウェブサイトの情報。
はてはアングラ系の情報に至るまでの詳細な情報が表示されていた。

「もう少し時間をかければ非合法エリアの情報も吸い出せると思いますが、時空融合に関する最新情報は物理的に隔離されているのかロボット検索では限界が有りますね」

フェイエンがぼやくように言う。

「……判った。簡単にまとめて皆に渡してくれないか」
「判りました」

ハーディは頷くと、おもむろに壇上に上がった。

「諸君、今まとめた情報を見てもらうと判るが間違いなく我々は今、別世界の地球……と言って良いのだろうか。とにかくオムニ以外の場所に何らかの天変地異によって連れ込まれてしまった……という事は理解してもらえると思う」

誰ともなくそこにいたメンバーは頷く。
認められない気持ちもあるが、今この現状は間違いなく夢でも幻でもなく現実であるという事は、皆何処かで認識しはじめていた。

「とりあえずだ、我々がここで日本連合と交渉していくためには名目上の総司令を決めなければいけないが……」

と、そのハーディの言葉を遮り、フェイエンが手を上げ答えた。

「我々としては、ニューランド大佐にすべてを一任したいと思います」

戦闘後、ジアス戦役当時の元祖ドールズが出現していたことを知ったフェイエンたちは即座に会合を開き、ハーディにすべての指揮権限を委ねることを決めていた。
これは階級が最上位のハーディに指揮を委ねるというのもあったが、自分達の偉大な先達へ敬意を払ってのことでもある。

「良いのか?」
「構いません」

その言葉を聞いて、ハーディはなんとも灰汁の強そうな4thドールズの面々を見つめた。

「了解した、出来るだけ早くお互いの世界に戻りたいものだな」
「はい」

お互いに視線を交わすと苦笑する。

「それでは……今後我々がどうするか、についてだが……。今自衛隊から説明を受けた事と、現在我々が掴んでいる情報を照らし合わせるとこのまま日本連合に所属することを良しとするか、それとも他の国へ亡命するかのどちらかになると思う」

ハーディは一応、メンバーの意思を考えて口を開いた。
オムニリング(開拓当初からのオムニ住民:言うならばアメリカのWASPに近い)出身者が多いドールズにとって、「地球」と言うだけで敵対意識を持つメンバーも多い。
それだけに何の因果かわからないが地球に来ているという事実を再認識させる必要があったのだ。

ハーディの言葉に、しばしドールズメンバーの間にざわついた空気が流れた。
言うならばこれは、暗にこの場でのDoLLS解散を意味していたとも言えるのだ。

「司令、確率論的に言えば我々は一纏まりで居た方が確実に帰還できる可能性があると思います」

エレンが答える。
何らかの形でここにいる面々がバラバラになる事は出来るだけ避けるようにしたほうがもし「揺り戻し」で帰還できる可能性がある限りは良いだろうと言うのが彼女の判断であった。

「だと思うわね。それに現在把握している情報を見る限り、帰還のきっかけを掴む可能性としては日本連合が一番可能性が高いと思われます」

ファン・クァンメイが肯定するように言う。日本連合は技術レベルでは遅れているようだが、この事件に対する研究深度と言う点ではもっとも研究が進んでいるらしいことが判明している。
それに出現した地点でもある事を考えると当然だ。

同時に、首脳部メンバーの脳内にはある可能性が浮かんでいた。
もし、時空融合がオムニにまで波及していた場合はどうなっているのか?

ジアスとサイフェルトが手を組み、オムニを蹂躙している可能性すらあるのだ。
そうなった場合、この融合世界が今後どういう歴史をたどるか判らないが、日本連合主導による統一政府が生まれていても暴走するジアスを止める手立てがない可能性もある。

それを考えると、自分達が地球においては「地球の主導権を握れる国」と手を組み、「親オムニ的」な地球とする事でジアスの後ろ盾を失わせ、また同時にサイフェルトの暴走を防げるのではないか……という考えが浮かんでいた。

諸外国の状況はわからない要素が多かったが、情報に日本連合のバイアスがかかってないとすれば以下のようなものだろうとDoLLS首脳部は見解を出した。

ネット上でも最も情報の多かったアメリカは謎の侵略を受けて右傾化・鎖国化傾向にあり、とてもではないが危険だということ。

時空融合発生から早期に接触したエマーンは高度な技術を持ってはいるもののあまりにも文化・思想が違いすぎて生活できないということ。

というよりこの二勢力ではいいように扱われ、捨て駒程度にしかならないだろうということは少なくとも予想できていた。

残るはソビエトと中華共同体、それにゾイド連邦と言った所であるが、ソビエトの住人が熊から進化した(?)人間だと言う話を聞いた途端DoLLSメンバーは一斉に青ざめた顔を見せた。
何より、ハッキングにより確認できた外交関係の情報によるとソビエトは東欧諸国へ軍事侵攻を行なっていることを示す記録もあった。
この時点でソビエトは彼女らの頭の中から候補から消えることになる。

もっとも、ソビエトが熊人の国でなかったとしても彼女たちが候補とする可能性は低かっただろう。
特に、初代DoLLSは地球からの独立を目指して戦った、いわば「圧政からの解放」を目指した側の立場である。
そんな彼女たちが侵略者の傘下に入り、最悪その尖兵になるなど容認するはずも無いのだから……。

中華共同体は日本連合以上に安定した政治体制に見えたが、かつてのヨーロッパ以上に政治が一本化しておらず、つかみ所の無いその姿はいかんせん政治的・技術的・経済的なバックアップを必要としたDoLLS達にとっては不安に思えたのだ。
ゾイド連邦はいまだ詳細が明らかになってない地域の上、DoLLS達の時代からさらに未来の世界であり、技術的アドバンテージを取れる可能性が低いという結論から候補を外れた。

最終目的をオムニへの帰還と定めたDoLLSとしては、政治体制が積極的にバックアップについてくれる必要があるのだ。
その点で日本連合は積極的にバックアップについてくれる可能性があると見えたのだ。

それに約束を取り付けるだけの交換条件もこちらにはある。
西暦2000年前後の時代を中核としているのであれば、民需・軍需問わずPLDを初めとしたDoLLS関連の装備に関する技術を特許化すれば、飛びついてくる企業はあるだろう。
どちらにしても異なる二つの時代の組織が合わさって存在している今のDoLLSには早急に共通仕様のPLDが必要となるのは目に見えていた。

「……他の皆には異議は無いか?私としては今の時点で考える限り日本連合に付くのが得策だと思われるが……」 「異議はありません!」

綺麗にメンバーたちの声がハモった。
アメリカ系の人物が多い初代DoLLSであったが、現在のアメリカに関する報告を聞いた瞬間彼女らの顔に浮かんだのは明らかな嫌悪感であった。

規制と似非エコロジー主義、訴訟にがんじがらめにされた一番嫌な時代のアメリカに行こうとする気持ちはさすがに生まれなかったらしい。
これは翌年のチラム政権樹立後に日本連合や中華共同体に亡命したアメリカ人らが抱いた気持ちと同じであった。

少なくとも彼ら亡命アメリカ人はアメリカの正義と自由を信じていたのだ。 後に彼ら亡命アメリカ人達に協力する形でDoLLSメンバーの何人かはチラム国内の反チラム主義運動に参加する事となる。

「解った、我々ドールズは今後オムニ帰還の方法を見つけるまでの間、日本連合および自衛隊への協力を行うこととする」
「了解!」

不安だらけではある。
だが、いつか帰還するための努力は惜しまない。
たとえそれが自分達の生きている間でなくとも。

自分達には故郷に帰ることを許されず、オムニの自然と闘ったオムニリングたちの血筋が流れている。
侵略の建前ではない、原始の自然を相手にして戦った本物のフロンティア・スピリットがオムニリングの誇りでもあった。

壇上に立ったままハーディは、自分の中に熱い物がこみ上げていることに気づいていた。

午前6時30分 東京都千代田区永田町 首相官邸

「彼女らの自衛隊編入、同意を得ました」

会議用モニターに写る斉藤総監の報告を見ながら、加治首相と土方防衛相は頷いていた。

「彼女らの受け入れ態勢が大変ですね」

アユミ=セリオの入れた玉露を啜りながら加治首相は呟くように続ける。

「千歳に彼女らの基地らしき施設が出現していたのが不幸中の幸いです。協力を得られれば我々の戦力強化にもつながります」
「美深町に出現した通信施設も、早急に分析が必要ですね。どうやら恒星間のリアルタイム通信を可能にする施設のようですから」
「そうですね。彼女等を自衛隊で用いるとなると、所属をどうするか判断をつけないと行けませんが……」

なにせ一個大隊の中に陸戦兵器から支援砲、輸送機、戦闘攻撃機までそろえている部隊である。
陸自、空自、特自間で熾烈な駆け引きが行われるのは目に見えていた。
だがそれ以外にも、土方防衛相にはいささか引っかかるものが残っていた。

その気持ちを察してか、加治首相が言葉を続ける。

「ですが、2個戦車中隊が壊滅したにも関わらずあの連中が音沙汰なしと言うのは不気味ですね」

『あの連中』とは、赤い日本のことである。
彼ら赤い日本がこれだけの打撃を受けたにも関わらず一切合財動きを見せないのは異様に不気味に思えて仕方が無いのだ。
昨日中からナデシコA・Bを交代で道北上空に待機させ監視を続けているが、全く動きが無いと言う報告のみが定時に入ってくるだけであった。

「逆に言えばラッキーだとも言えます。監視を続ける以外に選択枝は無いでしょう……」

加治首相は頭が痛い、と言った感じで苦笑する。
彼らが報復措置に出た場合、彼らがここでのんびりと会議をしていられないのは確かであった。

下手をするとすでにこの世の人間ですらなかったかもしれないのだ。
彼らは密かに、「赤い日本」の側に冷静な戦略家がいたらしいことを神に感謝した。

「出来れば彼らとは戦いたくない。ギリギリまで話し合いを出来るように説得したいものです」

赤い日本の求めるものはただ一つ、日本全土の赤化。
強力なカリスマを持った指導者川宮勝次の下、共産圏随一の豊かな国であった彼らにとってはそれが理想なのだ。
だが、すでに多くの人類にとっては共産主義の理念が画餅に過ぎず、実際には特権階級(ノーメン・クラツーラ=赤い貴族)による停滞と堕落しかもたらさない事を知る加治らにとってはどうにかして彼らに現実は違うことを教え、日本連合に加わることを望んでいた。

彼らはムーやゾーンダイクとは違い、少なくとも同じ人間であり話合いの通じる相手だ。
それだけに問答無用で排除することはためらわれるのである。

「明日以降、彼女らの扱いや所属などに関しては首脳部と協議に入ることとします。出来るだけ早いうちに装備の分析などもしたいところですね」

特に一部のスーパーロボットを除いて緊急展開能力で劣る特機と散発的に続く戦況を抱える北部方面隊はこれだけの装備と戦闘能力、緊急展開能力を持つ連中を引き込もうと必死になるに違いない。
今から口角泡を飛ばして議論を戦わせる土門陸幕長と剣特機長の姿が目に浮かぶようだった。

土方防衛相は週末は丸つぶれになるな、と内心思いながら湯飲みに残った最後の玉露を飲み干した。

6月20日 午後11時20分
北海道札幌市南区定山渓温泉 翠山亭倶楽部定山渓

「いやとんでもないのが転がり込んできたね、黒崎君」

ここは札幌の奥座敷と言われる定山渓温泉。
その中でも高級と言われるホテルの特別室である。
端から見ると能天気なほど朗らかなように思えるその男は又とも無い機会を与えられたと言った顔でテレビに見入っている。

傍らのノートパソコンには各種新聞のニュース速報と、融合後管理人とアメリカにあったサーバが現れなかったため閉鎖状態であったが有志によって最近復活した巨大匿名掲示板「2ちゃんねる」の融合問題に関するスレッドが表示されている……のだが、今はスクリーンセイバーが作動してトトロがくるくると踊っていた。

「……課長、又何か仕掛けるつもりですか?」

黒崎と呼ばれた目つきの鋭い男が呆れた口調で答えると、男はその笑顔をこれ以上ないほどに輝かせて答えた。

「彼女らの事をちょーっとばかり調べさせてもらおうかな、ってね」
「赤い日本の戦車中隊を10分足らずで全滅させた連中ですよ、たとえグリフォンとバドが居ても返り討ちに遭うのがオチでは?」

バドの事を気に入らなかった黒崎であったが、彼の実力は認めていた。
だが、今バドは全く持って消息不明である。警察に保護された後時空融合に巻き込まれ、いまだに消息が掴めていない。

「改良はするさ、機械獣のデータは十分調べさせてもらったしね。今回運んでいるものを彼らに渡したら近いうちに仕掛けてもらおう」

そういうと美味そうに傍らの陶器製マグに入ったビールを飲み干す。

「くぅ~っ。小樽の地ビールは美味いねぇ。どうだい黒崎君、君も一杯やらないかね?」
「遠慮しておきます」

またこの人に振り回される事になりそうだな、と思いながら黒崎は内心溜息をついた。

しかし……直後二人がノートパソコンに映る2ちゃんねるのスレッドを見ると……。

●おまいらの勤務先での裏話ついて語るスレ Part153●

20 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:03:11 ID:kAIentaI
   俺の勤め先、融合後1年ぐらいで事業拡大しまくって怖い
   初期投資成功で( ゚Д゚)ウマーだからって何でも買収してんじゃねーよ!

21 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:05:40 ID:mEnDoW3d
   >>21 それは裏話ですらないだろうw

22 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:09:01 ID:SHafUtoe
   ウチの会社、元多国籍企業だけど融合前は人身売買とかやってたらしい……
   koeeeeeeee!

23 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:12:25 ID:sYaHU10q
   勤務先の某課長だけど、部下の一人とアッー!な関係みたいだ。
   いつも一緒にいるしどこ行くのも同じだから……。

24 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:15:30 ID:SHafUtoe
   >>23 勤務先kwsk

25 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:16:01 ID:sYaHU10q
   >>22と同じく、元多国籍企業。
   融合前はトイレットペーパーからスペースシャトルまで手広くやるのが
   キャッチフレーズだった。

26 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:16:48 ID:SHafUtoe
   >>25 ちょ、おまwwwwww

27 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:16:50 ID:KAnduki1
   >>25 シャフト?

28 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:17:59 ID:SHafUtoe
   >>27は空気嫁
   ID:sYaHU10qは某課長の特徴kwsk

29 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:20:14 ID:sYaHU10q
   課長はいつもヘラヘラ笑っている眼鏡中年。
   お相手の部下は黒メガネの兄ちゃん。

30 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:21:50 ID:SHafUtoe
   >>29 もしかして企画○課のUとKか?
   そういえば数日前からつれだって北海道に出張しているな。

31 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:28:01 ID:jou3KEiS
   >>30 北海道なら、そいつ等と思われる客がうちのホテルに泊まっているんだけど。
   特別室に男二人きりで一日中引きこもっているし。
   少し前に、若い外人の男が部屋から出ていったけど、あれ出張ホストでも呼んだんか?

32 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:33:43 ID:sYaHU10q
   >>31 ホテル名よろ

33 :名無しさん@新世紀 投稿日:0002/6/20(火) 22:36:03 ID:RyoUTsUk
   祭りのヨカーン

「………………」
「………………」

暫らくの沈黙。
そして。

「………………黒崎君」
「…………はい?」

ぽつりとつぶやいた内海の言葉に思わず返事をする黒崎。
だが、次の瞬間彼は耳を疑う。

「や ら な い か ?」
「お、お断りします~ッ!!」

かくして夜は更けてゆく……。

午後11時30分 北海道岩見沢市郊外 道央自動車道

内海と黒崎がホテルの特別室で話していた頃、札幌市から北へ向かう高速道路を走る一台のミニバン……そこにある男女の姿があった。

「宜しかったのですか?あの男を信用されても」
「私が交渉相手を間違うと思うか、少尉?」

ミニバンの後部座席に座る若い男が隣にいる少尉と呼ばれた浅黒い肌に金髪の女性へ答える。
二人ともその外見からヨーロッパ系であるのは明らかだが「エクソダス」などによって所謂“欧州系日本人”が増えた今では職質にあっても若いカップルぐらいにしか思われないだろう。

「能ある鷹は爪を隠す……」
「は?何と仰いました?」
「この国にある格言の一つだ。あの男の事だよ」

男は窓の外に目をやる。
視線の先にあるのは札幌の夜景だ。

「実に面白い……この世界は……」
「面白い、ですか……」
「そうだ。なぜ我々が極東の島国に現れたのかは知らないが、あらゆるものが混ざり合った『混沌』の世界。私が望むべきモノの半分がなされた世界だ」

くくっと喉を鳴らして男は静かに笑う。

(最初は混沌の狼煙を挙げるのも私の手でと思っていたが、その手間が省けたということか……。ならば私は「再生」に全てを注ぎ込めばいいわけだ)

男はそこまで考えると、自らの野望を脳裏に描く。
彼が目指すものは「再生への混沌(グラン・ケイオス)」。
かつて、それは単に祖先が建国した祖国の復興と世界に覇権を唱える為の題目であった。

(だが、それは軌道修正を余儀なくされるだろう)

それを成し遂げるという思いは今も消えていない。
しかし、現実がそれを不可能にしていることは彼もよく理解していた。

この世界は混沌と同時に人類共通の敵が存在する。
野望をなす前にそれらの障害を排除するのが先だろう。

或いは、祖国を復活させ体裁を整えるべきか……。

(まあいい、先はまだ長い。とりあえずは彼等の紹介してくれた者達と接触するべきだ)

次の予定を思い浮かべた後、彼はふと加治首相の理念とする言葉を思い出す。

(「世界が平和である事が日本にとっての幸福」か。首相、その言葉と理念は正しい。だが、それをなすのは貴方とこの国ではない。それは……)

そこから先はあえて言葉にしようとはしなかった。
それを宣言するのは今ではないからだ。

(さて、それは兎も角あの集団が日本連合と接触した以上幾らか“こちら側”の日本にもてこ入れが必要だろう。どうしたものかな)

己の野望に思考をめぐらすのもそこそこに、男は属する勢力が受けた予想外の損害を思い出し考える。
先ほど、ホテルでの会合によりある程度戦力となるであろう物資の援助をとりつけたが、到底足りるものではない。

いずれ見限るとしても彼等にまだ滅ばれるのは困る。
もう少しばかりどこかから援助をとりつける必要があるだろう。

彼は、札幌の夜景から目を外すとその事について再び思案し始めた……。

男が持つその野心、信念は常人では到底持ちえぬものだろう。
彼はいわば「覇者となる者」とでも称するにふさわしい。

だからこそ気付かない。

自らとは逆の方向に確たる意志を持って突き進む者がよりによって“協力者”の中にいることを。

同時期 北海道某所

それは、ここ「赤い日本」の有する拠点の一つにてのこと。

「大したものだな。戦車中隊2個、随伴していた機械化歩兵中隊4個が10分足らずの戦闘で全滅か」
「そういうお前も驚かないな。それを南日本の機動兵器によって壊滅させられたというのに」

あの戦闘でかろうじて逃げ延び、帰還した兵士による報告書を机の上に投げ出した男へ同僚であるもう一人の男が話しかけた。
二人とも若さの残る顔立ちだが、報告書を投げ出した男は戦闘の経験豊富さからか獰猛な目つきをしており、同僚の方は飄々とした空気を漂わせている。

「何が起きても可笑しくない世界さ。これぐらいでは驚かん。それにしてもお偉方が報復に走らなかったのは懸命だったな」
「それどころか、損害を恐れて当面は威力偵察も禁じるそうだ。今度のことは余程堪えたらしいな」

自軍の受けた損害をまるで他人事の様に話していた男は、同僚の言葉に「当たり前だ」と呟く。
そもそも、数の上で圧倒的に劣勢であるにも関わらず威力偵察などやる兵力などあるわけが無い。

「まぁ、気付いただけでもマシだ。今後は上も無茶な命令はそうそう出さないだろうよ。ああ、そういえば知っているか?」
「何がだ?」

同僚の言葉に思わず聞き返す男。

「今度の戦いで喪失した車両、装備の類は補充するそうだ。それも最新のものに更新する形でな」
「なんだと……バカな。補充するならまだしも最新だと?笑わすな」

その一言に対しても男は僅かに眉を動かしただけで表情を変えようとしない。
何割かは冗談として聞いていたからだ。

「そう言わずにこれを見てみろ。その証拠を示す書類だ」

男の方に同僚が懐から取り出した紙切れを投げる。
それを拡げると、そこには複数種の武器が補充されたことを示す文字が記載されていた。

「これは……」
「ああ、我々が敵対しているもう一つの勢力、米国のものだよ」
「なぜ連中が、仮にも奴等は“まだ”南日本の同盟国であるはずだ」
「そうさ、米国は“まだ同盟者”というだけだ。いずれはかつての様な同盟関係は解消する。南の流している民間放送でもその内容が伝えられている」
「そいつは知っている……それにしても気前がいいものだ。なんでもありか」

そこに記されていた武器は銃器、弾薬は言わずもがな。
対戦車火器に分解組み立て型の野砲、更には装甲車までもあった。

「極めつけは戦車ときたか。それもただ同然でばらまくとは」
「それらが数回に分けて封鎖突破船で送り込まれるとの事だ」
「封鎖突破船とはまた古い言葉だな。だが、寄航するべき港はどうなる?」
「忘れているわけでもないだろう。あそこだ」
「ああ、解っている。紋別しかないのは確かだがな……」

紋別市……「赤い日本」の勢力化にある数少ない都市の一つであり、殆ど唯一の「交易拠点」でもある。
日本連合の側も遠巻きにして制圧する様子も無いことから、男も書類にある物資が陸揚げされるのはここしかないだろうと思った。

(だが、あそこの指揮官がどう出るかだな)

紋別市の防衛指揮官は若い少佐とのことだったが、なんでも一年前の大異変の直後に治安を回復してそのまま指揮官になったらしい。
切れ者であることは、上層部でも知られている話だったがそれ以上にかなりの変わり者とのことだった。

(だとしても、俺には関係の無いことだ)

男はそこで思考を中断すると、書類を同僚に投げ渡し席を立つと何処かへと歩き去ろうとする。

「どこへ行く?」
「ここで話すことが他に無いからな。自分の部署に戻るのさ」
「そうか。ああ、今思い出したが報告書にあった戦闘の際、全滅した部隊のかなり近くにいたんだって?」
「それがどうした?」

同僚の言葉に男は足を止めて振り返る。
確かに彼は自軍の戦車隊が機動兵器に全滅させられたとき、極少数の部隊を率いて行動していた。

「助けなかったそうじゃないか。別に上へ報告するわけじゃない、理由を知りたくてな」
「俺の率いていた兵力が少なすぎただけのことだ。それから……」
「それから?」
「全滅した部隊の指揮官が言ってたのさ『人でなしの手は借りぬ』そうだ」

そう言った男は、もう振り返ろうとせず自分の部署に戻っていった。

男は、部署に戻ると自分の机でなにやらメモを書き始める。
周囲の部下は、それがなんであるか問うことも無い。

だが、男にとってはそれが好都合だった。

(さて、人型機動兵器とは厄介な代物がでてきたものだ。今後、上層部も警戒を強めるみたいだが……)

そんなことを考えながらメモ帳に「人型兵器」「脅威」「戦車中隊相手にならず」と走り書きをしていく男。
そこで、それらの単語を丸で囲むと矢印を書き加え「対処方法」と記す。

(兵器である以上、それは人間が運用することは戦車と変わらんはずだ。ならば、兵器に共通する最大の弱点を潰せばいい)

無人兵器である可能性もあったが、男はこの際その事は無視していた。
そんな代物はいくら非常識に見える南日本でも簡単に、それも一度に複数実戦投入できるとは思えなかったからだ。

(一つは、パイロットが乗ってないところを破壊すればいい。これが一番簡単な手段だ。もう一つは、パイロットがコクピットを降りたところを狙えばいい)

どちらも、戦いにおける定石といえる。
だが、男は更に考えたあとでもう一つの手段を思いつく。

(いや、何もパイロットだけに限らない。人型機動兵器を扱う以上それを整備する人間もいるはずだ。拠点があれば人型機動兵器が出撃したあとを見はからって後方の人間を虐殺する手もある)

三つ目の手段は、段取りに手間取るだろうが、自分の所属部隊の持つ技量をもってすれば可能だと男は思う。

(親鳥が帰って来てみれば、巣は荒らされ卵は踏み潰され、雛鳥は皆殺し……怒り狂って理性を失うには丁度いい……そこで拠点ごと吹き飛ばせば……まぁ、最終的にはこれしかないのだがな)

考えが纏まったのか、男は更に矢印を引くと赤いペンでこう書き加えた。

「皆殺し」と。

(どちらにしても、まだ先のことだ。今は我々に協力する怪しい奴等に目を向ける必要もあるか)

そして、最後に以下の一文を加える。

「最終目的、復讐完遂、対象を問わず」と。

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