Super Science Fiction Wars 外伝

Steel Eye'd ladies~鋼鉄の眼差しの乙女達

第1話 時を越えた出逢い


新世紀2年6月15日 午後11時
神奈川県川崎市Gアイランド:GGGメインオーダールーム

三ヶ月ほど前にようやく完全復興したGアイランドは、いつに無く喧騒に包まれていた。

「時空の不安定化をキャッチしました、場所は……北海道名寄市郊外、美深町です」

メインオペレータである宇津木命の声が響く。
常時待機と言うわけではないGGGオペレーションであるが12時間シフトが組まれており平時でも決して楽な仕事ではない。

「うむ、揺り戻しか……科学技術庁に連絡。調査隊の派遣を要請してくれ。陸自には先行調査と名寄市近辺の住民の避難誘導を」

命の言葉に、GGG長官大河功太郎は指示を出すと、再びシートに腰を沈める。
現時点で、日本国内の時空融合に関する観測施設はGGG、SCEBAIの両者がメインとなっていたが、無人モニタリングポストがメインの現状では、両施設とも実際の観測は発生地域の自衛隊や気象庁の観測班に依頼するしかなかった。

「了解、陸自旭川駐屯地に連絡。北部方面隊第2師団所属のヘリコプターを向かわせるとの事です」
「そうか、ならば……あとは万一に備えて勇者達、いや『彼等』に出動準備と待機の連絡を入れてくれ」

同日午後11時10分
北海道旭川市春光町 陸上自衛隊旭川駐屯地

時空融合後、様々な非合法組織の襲撃を受けた東京以上に緊張を強いられている地域がある。

ここ旭川もその一つだ。
時空融合の際に人口が希薄であった道東・道北地域は様々な勢力が出現していた。

一つは、原始の時代からやってきたナウマン象を初めとした野生動物達。
北海道に拡がる広大な原生林や都市近郊でもその姿が普通に見られることから、単純に数だけならばこれが最大勢力といえる。

もう一つは、北海道開拓以前の時代から来たアイヌの人々。
彼等については、その文化と風習を侵害しないことを条件に連合政府への編入に成功していた。

そして北緯44度線を境として、北海道の一部と樺太を領土としていた共産主義国家「日本人民共和国」――通称「赤い日本」――の残党であった。

このほかにも融合後の混乱期に北海道に上陸、以後潜伏を続けているドラグノフ軍(実際にはそれですらないのだが)という戦力もあるがこの時点では知られてない。

この中で危険な存在なのは言うまでも無く「赤い日本」の残党であった。

赤い日本は首都を樺太最大の都市、豊原に置いていたのだが出現したのは彼らの首都である豊原市を含んだ樺太ではなく、ソビエト崩壊直後の1990年代からやってきたロシア領サハリンであった。
首都からのコントロールを失った赤い日本軍の殆どが直後の混乱の最中、自衛隊及びロシア軍の説得に応じて投降し多くが自衛隊に編入されたものの、未だ数個師団に相応する戦力が頑として投降してくる気配をみせていない。
彼らの中にはMBTを含む機械化部隊も多数確認されており、小競り合い程度の戦闘記録は融合以来の一年間で20件以上にも及ぶ。

このため、旭川から名寄を経由して稚内へ向かう国道40号線は地雷を警戒して通行できず、日本連合下の自治領となったサハリンへの連絡は軌道強化された状態の宗谷本線を使い戦前の規模で現れた稚泊連絡船か、小樽か留萌から船舶を利用するしかなかった。
いつ大規模な戦闘が発生するかわからない状況の上、旭川・名寄などの復興作業に持ち込まれたレイバーによる犯罪対策に警察が躍起になったため、治安維持の意味合いも含めて道北の守りを固める第2師団は優先的に戦力増強が図られていた。
近いうちに中央に先駆けてWAP中隊の編成も考慮されている。

GGGからの連絡が入ってまもなく、第2飛行隊所属の偵察ヘリOH-1・2機とAH―64Jアパッチ・2機。
そして観測機器を搭載したMATジャイロが旭川駐屯地を離陸し、名寄方面に向かった。

同日午後11時20分 航空自衛隊千歳基地

旭川駐屯地から偵察隊が飛び立ってまもなく、自衛隊には緊張が走った。
突如として所属不明の飛行物体が10機以上、旭川近辺から留萌沖の上空に出現した事が長沼町のレーダーサイトで確認されたのだ。
直ちに千歳基地からアラート任務についていた第201飛行隊のF-15Jイーグル4機と支援として第204飛行隊のMig-29Jファルクラム4機、三菱F-2支援戦闘機4機が離陸すると北へ進路を取る。
この時点では出現した飛行物体が何者か全くわからなかったため、昨年に川崎市で大暴れしたイリスの悪夢が自衛隊関係者の脳裏を過ぎっていた。

あるいは、半月前の首都圏における無人戦闘機の様な物が現れた場合はどう対応を取るべきか。
否応無しに緊張が走った。

だが、この時点では現れた存在が同時期に判明したゾイド連邦には及ばないものの、十分に驚愕するべき存在であることを誰も知るも無かった……。

同時刻 北海道名寄市美深町

「っつー……何があったってのよ……」

オムニ軍軍総省直属第177特務大隊隊長 ヤオ・フェイルン海軍中佐は任務の最中、突然として自分たちを襲った謎の衝撃からやっとの思いで目を覚ました。

自分の体をチェックしてみる、何処にも外傷は無いようだ。

続いて機体チェック。
自己診断モードでは機体にも装備にも異常は見受けられない。
ただ、機体そのものは斜めにかしいだまま崖に顔面からめり込んでいるようだ。

どうやって脱出しようか、としばらく考えていると無線に通信が入った。

『こちらヒドラウィング、ハーディだ。無事なものは居るか?』
「こちらシルバーリード、ヤオ。機体が地面にめり込んでいる以外はほぼオールグリーン。誰か助け呼んでくんない?」

無線から聞こえたハーディの声に、ヤオはこたえる。他のメンバーの応答する声も次々と聞こえてきた。

『総員無事か……良かった』

無線機越しにもそうと判るハーディの安堵の声が聞こえてきた。

「それは良いんだけどさ、シルバーで誰か手の開いているのが居たらこっち来てくれない?地面にめり込んでいて脱出出来ないのよ」

機体そのものはノーダメージであり、後部脱出ハッチを開けて脱出するのは気が引けたのである。

「先輩!」
「セルか?早いところ引っ張り出してよコレ……」

そうヤオに声をかけたのはヤオの士官学校時代の後輩でもある銀髪のコンピュータことセルマ・シェーレ。

彼女はヤオ機の肩を後ろからつかむと、一気に引き起こした。
現在ドールズが使用しているパワーローダー、X4S型はオプション交換で白兵戦から電子戦まで対応できるマルチプル・ローダーである。

それゆえに製造コストが掛かり、本格的な量産化にはいまだ至ってないのであるが……。

「ありがと、セル。シルバーフォックス、全員動けるか!?」

セルマに助け起こされたヤオは、周囲を見回すと隊全員に聞こえるように通話を開いた。

「はい!」「何とか」「動けます!」「全装備異常なし、大丈夫です!」……。

全員無事なだけではなく戦闘も可能らしい。

「総員警戒態勢!周囲の様子に注意しろ!」

全員に檄を飛ばしたその直後だった。

『こちらグレイリード、ナミ。ヤオ、あの空見て!』

別動隊、グレイハウンドの指揮を執っていたタカス・ナミから切羽詰まったような声の通信が入った。

「何よナミ……月がどうしたってのよ?」

そういいながら空を見上げたヤオは、思わずその場で絶句した。

「ねぇ、今日ってどっちか皆既月食って言ってたっけ?」

オムニには二つの月があり、それぞれを「パルテナ」「アルテミス」と呼んでいる。
だが、今ドールズの上にある月は、その二つの月より大きな月が一つだけ、ぽっかりと浮かんでいるのだ。

「……たしか月食じゃあなかったハズですけど……」

ヤオのX4Sの傍らに居た電子戦専用ローダー、X4RRに乗っていたマーガレット・シュナイダーが自信なさげに答える。

『月が一つしかない惑星……って言ったら……』

現在オムニに住む人類が知っている月を一つしか持たない、人が住める星と言えば一つしかない。
だが、ヤオの中の常識と言うものがその答えを出すことを拒んでいた。

「ちょっと……冗談顔だけにしてよ……」

指揮官が混乱していては話にならない、ヤオは気を取り直すと亜空間通信センターの位置を確かめ残りの2部隊、ナミ率いるグレイハウンドとファン率いるブルーウルフに通信センターへ集合することを通達し、シルバーフォックス全体に移動の命令を下した。

「シルバーリードよりヒドラウィング、周囲の状況はどうなってんの?」

メンバーが通信センターに集結した事を確認すると、ヤオは上空管制機ヒドラウィングの第177特務大隊司令・ハーディに連絡を取った。

「フェイルン、頼むから驚かないで欲しい。お前たちが集合するまで周囲を警戒飛行してみたが、ここはどうもオムニではないらしい」
『……やはりか……』
「ハーディ、やっぱりあんたもそう思う?」

移動の最中も周辺環境やあたりに繁殖している植物を調べたが、多くがオムニには存在していない種類の被子植物であった。
PLDには植物辞典など搭載しているはずは無いので確証は得られないが、植物のほとんどがオムニには自生していないものであり多くが地球には自生しているが、オムニには持ち込まれていない種類のものであろう事が判明していた。

「それにこっちも燃料がおぼつかない上にウィングと連絡が取れない。連絡を取るのでこちらも通信センターへ降りる」

それから数分もせずに通信センターのヘリポートに大型垂直離着陸機であるVLC3をベースにした電子戦機、VE-1が降下してきた。
さて、ここからは時系列が少々入り乱れる事をご容赦願いたい。

午後11時25分、積丹半島沖20Km

スクランブルを受け千歳基地から飛び立った計12機のF-15、Mig-29、F-2からなる戦闘機隊は突如出現した領空侵犯機を目指し、亜音速で向かった。
これは進路上に札幌市を初めとした人口密集地帯が多く、音速飛行は影響が大きすぎるためだ。

最初に発見されてからすでに5分近い時間が過ぎている。
最初かなりばらけて発見されたUNKNOWN機の群れは、だんだんと留萌沖の洋上に集まりつつあることが確認された。

その数およそ14機、機種は特定できないが大型の……レーダー反応から行けばC-5Aギャラクシーより大きいと思われる輸送機が6機、それより小型の……おそらく戦闘機と思われるものが4機、それよりは大きい、速度から行くと大型ヘリコプターと思われるものが4機と言うのがレーダー分析により伝えられたことである。

「SIF照合、該当機体なし。ウィッチリードよりトレボー、アンノウンを確認。これより警告に移る。オーバー」
「こちらトレボー、了解した。アンノウンの機種は特定できない、慎重な対応を望む。オーバー」

千歳基地でのコールサインは、誰の趣味かわからないが人気のあったRPG「ウィザードリィ」にちなんで名づけられていた。
現在アンノウンに向かっている小隊のコールサインは以下の通りウィッチ-F15、シーフ-Mig29、プリースト-F2、と覚えておいていただきたい。
ウィッチリードを勤める牧瀬俊 三尉は機体が洋上に出たことを確認すると、推力を上げて接近を始めた。

「こちら日本連合国航空自衛隊、未確認機に告げる。貴機は日本国領土を侵犯している。直ちに我に返答をし、指示に従え。繰り返す」

国際共通周波数にあわせ、牧瀬は融合前にはお約束のように繰り返した警告メッセージを放つ。
だが、酷い空電のあと入った言葉に彼は唖然とせざるを得なかった。

『こちらはオムニ連邦軍第177特務大隊航空小隊、「ドールズウィング」。日本連合とは何だ?こちらは燃料がおぼつかない、最寄の基地まで誘導願いたい。オーバー』

女性と思われる声は、少なくともその言葉が冗談で言っている言葉でないことだけを牧瀬に伝えていた。

「ウィッチリードよりトレボー、所属不明機は敵対の意思希薄と思われる。どうやら時空融合の揺り戻しがあったようだ。オーバー」

すでに幾度か揺り戻し現象の影響で出現した航空機を誘導したこともあり、千歳基地の航空隊にとっては慣れた仕事であった。

「トレボーよりウィッチリード、現在名寄市郊外で揺り戻し現象が起きているが、それの影響の可能性がある。要らん刺激を避けて我々の基地までご案内しろ……何だ?」
「ウィッチリードよりトレボー、どうした?」

トレボー(千歳基地管制所)が語尾を妙に濁したことに牧瀬は戸惑った。

「トレボーよりウィッチリード、大変だ!現在ベースの近くでも揺り戻し現象が発生している。危険だ、お客さんは三沢へ誘導してくれ。オーバー」
「こちらウィッチリード、了解した。オーバー」

航空自衛隊千歳基地と民間空港である新千歳空港の南側には、緩衝地帯の役割も含めて大きな空白地帯がある。
だが、この地域がウィッチ小隊達が離陸してまもなく、見る見る内に二つの巨大な軍事基地へと変貌し始めたのだ。

「どういうことだ、コレは?」

基地司令は戸惑いと興奮が入り混じった口調で、調査班の出動を要請していた。
空間が安定し、光の膜が薄れた基地内に突入した調査班が見た建物には地球に似た惑星をかたどったシンボルと、陸自のWAPに似た人形兵器に天使が抱きついたイラストを記したイングシニアが描かれ、こう記されてあった。

『O.M.N.I 177esc Detachment of Limited Line Service』

午後11時30分 神奈川県川崎市Gアイランド GGG格納庫

さて、ここで場所は再びGGGに戻る。
北海道にて揺り戻し現象で幾つもの未確認物体が出現していた頃、GGG内の格納庫ではメカニックが総出で二機の戦闘機に取り付いてメンテナンスを実施していた。

「今回は緊急のミッションだから時間が無い。ハードポイント(パイロン)への火器装備はいいから機体のチェックを入念に頼む」
「ミサイルが機体内に納まらない?かまわねぇよ。今回は目的が戦闘じゃないんだから降ろしてくれ」

彼等の中心にいるパイロットスーツ姿の二人が、テキパキと指示を出しながら戦闘機の様子を見守る。
格納庫内にターレットトラックが到着すると、その荷台から新たな機材が降ろされ戦闘機の傍らに運ばれていく。

「しかし、まさか輸送作業の当日に出撃とはねぇ……」
「杞憂に終わればいいんだがな……」

戦闘機のパイロットである二人、イサム・ダイソンとガルド・ゴア・ボーマンの両名はそれぞれの機体――YF-19とYF-21――を前にして少し前にメインオーダールームへ呼び出されたことを思い出す。

5月末の揺り戻しでこの世界に出現して約半月、自分達の今後について等を話し合った安全保障会議も終わって新しい生活を始めた彼等。
この日は、機密保持の為に二機の戦闘機を防衛省の「パンドラの箱」に移すための作業でGGGに夜遅くまで残っていたのである。

技研まで機体を直接飛ばすのは機密保持と離着陸の関係上無理がある為、深夜中に大型トレーラーで陸上輸送するというのが今回の作業内容だった。
立会いに来ていた二人も、自分達の乗機が無事パンドラの箱に収納されるまでの作業を見届けるだけと思っていたのだが、機体の梱包作業にかかる直前で急遽中止の一報が入る。

何事かと思ったイサム達が、メインオーダールームからの呼び出しで到着すると、待っていたのは大河長官による出動準備要請だった。
そこで、揺り戻し現象が北海道で起こっていることを二人は知らされ、準備が整い次第すぐにでも偵察に飛んで欲しいと言われたのである。

「北海道まで飛んでの偵察任務……か」
「ま、当分は倉庫行きなんだからよ。その前に最後のフライトという感じで気を入れて行こうぜ。それに、政府の方からも許可が出たわけなんだから……ってありゃなんだ?」
「どうしたイサム?」

ガルドが作業光景を見ながらつぶやく。
一方でイサムも同様に作業の様子を見ていたが、そこに一台の大型トーイングトラクターが奇妙なパッケージを牽引してやってくるのを目に思わず言葉を止める。
すると、トーイングトラクターを自ら運転してきた獅子王博士が二人の前でトラクターを停車させた。

「いいものを持ってきたんじゃ。多分これがあれば任務ももっとやりやすくなると思ってな」
「獅子王博士、これは一体……?」

そのパッケージはちょうど、VFの腹に吊り下げると思われるような形状をしており、刃物を思わせる巨大なブレードアンテナが目立っていた。

「こいつは試製複合偵察ユニット「エレメント」。SR-X計画で用いる装備の一つとして技研で試作されておったのじゃが、こんなこともあろうかと緊急で回してもらったのじゃよ」
「なるほどねぇ……ありがたいけど、これ本当に俺達の機体へ取り付けて大丈夫なんですか?」

「エレメント」と呼ばれたユニットをまじまじと見ていたイサムが怪訝な表情を浮かべる。

「強度的にはなんら問題ないはずじゃよ。ただ、2機に取り付ける上で規格が合わない問題はあったが、そこは……」
「そこは?」
「ウチの整備班がハードポイントに合わせてアダプターを自作することで解決した」
「それはありがたい話です。博士」
「博士の太鼓判があれば、問題なしってとこだな」
「なに、こちらとしても機体のデータを取らせてもらえるいい機会だからの。それに、使い慣れた装備を持ち込めない代わりと思ってくれんか」

博士の言うとおり、今回の出撃に際して揺り戻し出現前から二機に装備されていた武装――具体的にはガンポッド、マイクロミサイル、FASTパック等――はこの時点で既に技研とSCEBAIへ送られていた。
これらは、主要消耗品のコピーと生産を目的とする分析に回される事が既に決まっていた為、揺り戻し出現後に行なわれた報告会が終わるやすぐ機体から取り外されたのである。

その為、二機に搭載される火器はレーザー機銃を除けば、いずれも他の自衛隊機に装備されているものと同じ規格の機銃やミサイルに置き換えられる予定だった。
結局、実際の動作テストも数える程しか行なってないのと「パンドラの箱」に収納されるのが近いこともあって今回のミッションでは取り外しているが……。

「俺達がこっちに現れてから、ほぼ毎日機体を見てくれてるんだ。不安なんてありゃしないぜ」
「大丈夫です。皆を信じていますから」

メカニック達が「エレメント」を二機の胴体下にあるハードポイントへ固定する作業を見ながら二人はそう話す。

イサムもガルドもGGGの整備スタッフを信頼している。

揺り戻し出現の直後は、開発スタッフ以外の人間が機体に手をつけることへの不安はあった。
だが、その後の報告会に先立って行なわれた事前調査の際、そして今日この日までの間にも機体を二人の予想より遥か丁寧に扱ってくれている事が、先の言葉となって現れているのである。

「ありがとう……さて、もうすぐ最終チェックも終わる。さっきの言葉は帰還したら君達二人の口から直接彼等にかけてやってくれんかの」
「ええ。それでは博士、我々はこれで……」
「行ってくるぜ!」

そう言って二人は、それぞれの乗機に向かった。

彼等の出動まであと僅か……。

午後11時40分 北海道美深町

「周囲のサーチを続けていてくれ、少しでも現状を把握したい」

ハーディの言葉が冷えた空気に響く。
ドールズはもてる電子能力をフルに活用して周辺地域の情報を得ようとしていた。

「放送されているラジオ・テレビなどを傍受した結果を分析すると、やはりここは地球……場所は日本の北海道北部と思われます」

情報を分析していたフレデリカ・アイクマンが代表して結果を報告する。その言葉に集まっていた隊員たちには失望ににたため息が流れていた。

PLDをセンター周辺の平地に車座に降着させ、無人のセンター本屋内にてドールズは会議を持っていた。
本来ならセンター内には研究のための職員が居たはずなのだが、まるで冗談のように人だけが居なくなっていたのだ。

「100%言い切ることは出来ないが、証拠は沢山有る。まずベースとの連絡が取れない。中央作戦司令室にもだ」
「広域ジャミングをかけられている可能性はありません。通信状況は極めてクリアですから」
「困ったな……」
「ジアスの謀略、と言う線はまずありえないわよね」

ヤオがもっともな事を言う。とてもではないが月を一つに見せたり地球のラジオやテレビの情報を流すなどと言う事をわざわざジアスがやるはずが無い。
やるとしたらとんでもなくクレイジーな事だ。

「それ以前に、航空隊との連絡が付かなくなっているのが気になりますが……」

セルマの言葉に、全員頷く。
これだけ電波がクリアな状況であればすでに連絡が取れているはずなのだが、直後の数分間以降は、通信確認が取れているブリップすらも表示されて無いのだ。

「仕方が無いわね……周囲への偵察隊を出すしかないのでは?」

ヤオが提案する。航空隊による回収を受けるために集合していたが、このまま居座っていても埒があかない。
少しでも周辺の状況を把握するためにも、偵察隊を出すべきだろう。

「了承した、ヤオ、ナミ、ファン。メンバーの選出を急いでくれ」
「了解!」

午後11時55分 太平洋上空 高度15000メートル

Gアイランドを飛び立ったYF-19とYF-21の二機は、一旦太平洋上に出るとマッハ3.3の速度を維持して現場である北海道名越市近郊を目指していた。
機体のスペックからすれば更に速く飛ぶことも可能だったが、今回は機密保持の点からアメリカのSR-71“ブラックーバード”に近いこの速度で飛ぶしかなかったのである。

『もうすぐ北海道に入る。二人とも機体の調子はどうじゃ?』

コクピットの通信ウィンドゥにはGGGのメンバーが入れ替わり立ちかわり顔を出し、連絡を取り続けている。
現在は獅子王博士が顔を出しているところだ。

「ああ、いいねぇ。絶好調っすよ」
『搭載している「エレメント」も異常ありません。このまま現場への飛行を続けます』

二人は互いの機体下部に吊り下げられた偵察ユニットへと目を向ける。
目視する限り異常は見られず、取り付け部のハードポイントから脱落する様子もなかった。

『「エレメント」の強度は設計上マッハ5までは耐えられると技研の技術者が言っておった。よほどのことがない限り問題なく動作するはずじゃよ』
「なるほどねぇ……それにしても、俺達の機体に殆ど手を入れずに新しいユニットを搭載するとは驚いたぜ博士」
『装備する際に機体へ手を加える必要があると思っていましたが、チェックして驚きました。まさか本当に無改造とは』

イサムとガルドが言う通り、彼等が乗るYF-19,21の両機は揺り戻しからGGGへの収容を経て今現在に到るまで、装備の一部取り外しを除けば機体には全く手を加えられてなかった。
今回装備した「エレメント」の取り付けに際しても、機体のハードポイントに合わせてエレメント側の接合部を機体にあわせる為改修したほどである。

二人にすればこれは驚きだった。
出現後に連合政府へ自分たちの情報を提供することに同意した以上、機体にどんな手を加えられてもそれは仕方がないと思っていた。
だが、機体のチェックをすると装備の取り外しを除けば異常を示す結果は出なかったのである。

『要するに、君達の機体がそれだけ重視されているということじゃよ。実は今回の出動についても政府、いや技研から色々要請があったんじゃ』

最後の一言に「?」となる二人へと博士は何があったのか説明する。

「パンドラの箱」に収められるまでの間、YF-19,21の両機は基本的に出動不可能という事実上の封印状態にあったが今回は限定的に政府からの許可が出た。
しかし、2機の可変戦闘機に用いられているテクノロジーは得がたいものであった為、事態を知り慌てた技研は政府経由で条件を出してきたのである。

その条件というのは、機密保持の観点から機体の運用は緊急時を除いて基本的にファイター形態に留める事や用途を偵察レベルに限定することだった。
主要消耗部品の第一ロットはおろか試作品すら出来ていない状況下では機体が損傷して実機のデータが失われるのを技研は恐れたのである。

GGGへまだ試作段階の「エレメント」を提供することに同意したのも、前出の様な条件にGGG側が同意したことへの見返りでもあったのだ。

『とにかく、無茶はせんでくれ。もっともその必要もないみたいじゃけどな』
『どういうことです?博士』
『それは、私から説明しよう』
「大河のオッサン……じゃねぇ、長官さん」

獅子王博士に代わって通信ウィンドゥに大河長官が出たことで二人は一瞬驚く。
長官が出てきたという事は、それだけ重要な情報を伝えるということなのだろう。

『緊張しなくてもいい、むしろこれから話すことは朗報と言うべき内容だ』
『何があったというのですか、大河長官?』
「もったいぶらず言ってくれよ」

朗報との一言に二人は緊張を解く。
もっとも、これがゴーストと一戦交えたときのような状況なら緊張も何も無いのだが……。

『実は君達に向かってもらっている場所とは別の所で領空侵犯する航空機の一団が出現したんだが、この一団と空自のスクランブルした飛行隊が接触し現在三沢基地へ誘導中とのことだ』
「なるほどね。つまりそれと俺達が向かう先に出現したモノと何か関係があるってことでいいのか?」
『揺り戻しの時刻や場所が同じ北海道内という事から、同一の世界から出現したと見ていいだろう。そして、件の航空機は今のところ敵対の意志もなく空自の誘導にしたがっているらしい』
『ですが、もしその一団と我々の目的地に出現していると思われる存在が敵対関係にあるとすれば、我々も戦闘に突入する可能性があるのではないですか?』

そこに両機の通信ウィンドゥがもう一つ開き、再度獅子王博士が会話に加わる。

『ガルド君の懸念はもっともじゃ。だがの、出現した存在が人類にとっての敵性体或いは攻撃的な組織なら、民間からの被害報告が来ていても可笑しくないはずなんじゃ』
『それに、もう一つの揺り戻しで出現したモノの存在からも、君達が交戦する可能性が低いと思われるのだよ』
「また何か出現したってのかよ?」
『君達には話してなかったが、航空機の一団を千歳基地に誘導する直前で基地周辺に軍事施設が出現した。基地の調査班が施設に向かったのだがその建物に「O.M.N.I 177esc Detachment of Limited Line Service」という文字を確認したそうだ」
『それと航空機の一団も、無線交信の際所属を「オムニ連邦軍第177特務大隊航空小隊“ドールズウィング”」と名乗ったそうじゃ。建物にあった文字も頭を取ると同じ“DoLLS(ドールズ)”なる。ここまで言えば解るじゃろ』

大河司令の言葉に続いた獅子王博士の言葉に、二人は納得がいったという表情を浮かべる。

『つまり、我々が向かっている場所に出現したのもやはりその“DoLLS”の類ではないかという事ですか?』
「恐らくじゃなくてほぼ確実にじゃねぇのか?場所もバラバラなのに同じ名前ってのはよ」

イサムの一言に大河司令も肯いてみせる。

『その通り、私も同じ事を考えていた。君達に向かってもらっている場所へ出現したのも場所は違えど“DoLLS”を名乗る組織の可能性が高い』
「なるほどね。さっきの話と合わせて考えりゃ、交戦する可能性は低いってことか……」
『揺り戻しから時間が経っているこの時点で被害報告が来ていないことを考えれば、“DoLLS”と我々日本連合のどちらが先に接触を図るにしても戦闘という最悪の事態に到る可能性は限りなくゼロに近い筈だ』

「戦う必要はほぼ無い」という事を知ってイサムとガルドは安堵する。
一方で獅子王博士は、技研の職員が悲鳴をあげて卒倒することはなさそうじゃな、と思った。

『了解です大河司令。とりあえず、我々はこのまま現場へと向かえばよいのですね』
『そうだ。もしその一団を見つけたら捕捉したまま情報収集の任務に入って欲しい』
「なら、戦闘は想定しなくていいみたいだけどよ……万一、最悪の事態ってことになったらどうするんだよ?」
『それについては既に空自の方で準備をしているとのことだ。君達は出現した存在の制圧など考えず、極力自衛に徹してくれ』
「了解……っと、どうやら目的地上空まであと少しだ」

最悪の事態に備えた準備が何であるのか、少し気になったイサムだがそれを聞くより先に目的地到達が近いことを知らせるアラームが鳴り響いた。
それと同時にガルドからの無線が入ってくる。

『イサム、「エレメント」を起動させるぞ』
「お前に言われなくても分かっているって」

直後、YF-19とYF-21に装備された「エレメント」のブレードアンテナが展開し情報収集を開始する。
果たしてこの偵察ユニットは初の実戦でどれ程の性能を発揮するのか……。

6月16日 午前0時
北海道美深町

偵察隊はまず索敵能力の高さと機動性、いざという時の火力が優先される。
自然とこの任務には、最新鋭で十分なペイロードと汎用性、機動性を持ったX4Sが中心になるのは必然であった。
偵察隊に編成されたメンバーは以下の通り。

第1偵察隊(αチーム):北方面中心
ヤオ・フェイルン中佐:X4S(マルチセンサー+リニアキャノン装備)
セルマ・シェーレ大尉:X4S(リニアキャノン+汎用ミサイル装備)

第2偵察隊(βチーム):東方面中心
タカス・ナミ中佐:X4S(マルチセンサー+リニアキャノン装備)
エイミー・パーシング大尉:X4S(リニアキャノン+汎用ミサイル装備)

第3偵察隊(γチーム):西方面中心
アリス・ノックス大尉:X4S(リニアキャノン+汎用ミサイル装備)
ミリセント・エヴァンス准尉:X4S(マルチセンサー+リニアキャノン装備)

第4偵察隊(Δチーム):南方面中心
ジュリア・レイバーグ少佐:X4S(マルチセンサー+リニアキャノン装備)
コウライ・ミキ特務軍曹:X4S(リニアキャノン+汎用ミサイル装備)

索敵距離と電子戦能力であれば標準でパッシブセンサーも搭載しているX4RRが有利なのだが、いかんせんペイロードが小さい上にいざという時の装甲の薄さを考えると、むしろその広い索敵範囲を生かすためにも高台上になっているセンター周辺に居た方が有利だという判断であった。

「出来るだけ交戦は避けるように、半径20km圏内の情報を入手後は速やかに戻れ!」

編成と装備の譲渡を終わらせ、それぞれの方向に向けて出発して10分ほどした後だった。
西方面に向かったミリセントとアリスは、数分もしないうちにセンターの西側を南北に走る道路に出た。

「こちらγチーム、エヴァンス。道に出ましたが敵らしい反応は見当たりません。オーバ」

マルチセンサの反応を見ながらミリィは報告を入れる。
それでも敵に発見される危険性を危惧してアクティブサーチは極力避けるようにしている。

『こちらヒドラウィング、ハーディ。了解した、引き続き偵察を続けてくれ。オーバ』
「了解です、オーバ」
「ミリィ、あちらの標識、見られて?」

実家がオムニ屈指の資産家であるアリスが、令嬢らしい丁寧な口調でミリィを呼んだ。

「国道……275号線?」

オムニでは、第2公用語の一つとして日本語を用いていた。
民族的にマイノリティであるはずの日本語をなぜ公用語として採用したのか判らないが、この場合は役に立った。

アリスが道路を伝って行ける所まで言ってみようと提案したときだった。
ミリセント機のマルチセンサが複数台の車両の接近を伝えていた。

「この音……アリスさん!、隠れます!!」

そういうとミリィはすばやく道路わきの鬱蒼とした森の中に隠れ、隠蔽姿勢を取った。
5分ほど息を潜めていると、暗視モードに切り替えたローダーの視界に10台以上の車両の群れが入って来た。

「見たこと無い形式……ですわね、ミリィ」
「えぇ、ずいぶん古臭いというか……たぶんあのAPCなんか複合装甲ですらありませんよ」

目の前を通過する車両は、ミリィたちの時代からすると当たり前の複合装甲独特の角ばったフォルムをしていなかった。
車体を主に鋳造で構築されたと思われる丸みの強い形状のキャタピラ式装甲車やMBTが轟々と音を立てて過ぎていく。
その中の何台かには、砲塔にかつての日本の国旗である日の丸の丸を赤い星に置き換えたようなペイントが施されていた。

「しかもエンジンの放熱量や排気ガスから行くとエンジンはおそらくガソリンか軽油です。あんなものオムニには絶対無いですよね」

21世紀初めから、ミリィたちの世界では内燃機関の燃料としては水素が一般的になっていた。
初期の頃はガソリンから改質機で水素を取り出して燃やしていたらしいが、有機ハイドライドを用いた安定化によりそれまでの石油燃料と変わらない感覚で水素を扱えるようになって以来、石油を燃料とする必要性がなくなっていたのだ。
地質タイムスケジュールでジュラ紀に相応し、石油などの有機資源が少ない オムニではなおさら水素燃料は重要といえるだろう。

「どうします?」
「ミリィ、今の画像は撮ってらっしゃいますわね?」
「はい、転送しておきます?」
「よろしくお願いしますわ」

南方面に向かったジュリアは、ウルベシ橋と言う名前の橋の袂に来た際、マルチセンサに複数のヘリらしいローター音を捕らえた。

「ミキ、下がって。あんた確か対空ミサイル持っていたわよね」
「はい、持ってますが……」

ミキの答えに、ジュリアは表情を硬くさせた。
元々迫力のある顔だ、と言われるジュリアだが、徹底した自信に裏打ちされたものであるゆえに頼れるものがある。

「いつでも撃てるようにしておいて、何があるか判らないから」
「わかりました。でも、ジアスのヘリじゃなかったら……」
「良いからやっといて」
「ハイ……」

しぶしぶながらミキは自分の機体が装備しているDRu35対空ミサイルのセイフティを解除する。
ドールズで戦う者にとって、小型ヘリや対戦車ヘリは天敵と言っていい存在である。
ましてや制空権が確保されていない空域に強襲輸送機や潜水艦から発射される大型巡航ミサイル・カーゴバードで突入する任務も多いため、PLDにとっての天敵である戦闘ヘリには不必要なまでに警戒心を抱いてしまうのだ。

マルチセンサーのスクリーンに映るブリップは3つ。
ヘリコプター4機と中型のティルトローター機らしい。

「どうします?」
「どうって……ローター音がライブラリに無い形式だからね。どうしたものか……」

接近するローター音は、オムニ陸軍航空隊が保有する対戦車ヘリの音でも無ければ、DoLLSの天敵HAT21小型ヘリでもHC11対戦車ヘリでも無かった。
石油燃料系ガスタービンの音だ。

「ROTで接近している……。もう少しでシルエットがはっきりしそうですけど……RRがあったらもっと楽なのに……」

X4S専用オプション、VP1肩装備型マルチセンサーは索敵範囲こそ両腕にマルチセンサーを装備したX4RRに匹敵するが情報処理・分析能力という面ではやはり専用設計され、ニューロコンピュータなどの高性能デバイスを有するX4RRには敵わない。

「距離2500!準備しておいて。攻撃するようだったらすぐに撃ちなさいよ!」
「はい!」

センサーのマイクを通じて伝わるローター音が一際強くなる。
シルエットが判明した瞬間、ジュリアは我が目を疑った。
暗闇の中、コンピュータによって調整された画像にはくっきりと日本国所属であることを示す赤い丸(ミートボール)と「陸上自衛隊」の白い文字が浮かんでいたのだ。

「陸上……自衛隊?」

右スティックのトリガーに置いた指をずらし、ジュリアは思わずヘルメットのバイザーを上げて目をこする。

「ミキ……あんたも見た?」

もう一度バイザーを戻し、見直す。
やはりミートボールと陸上自衛隊の表記が見えた。

「こりゃ、本当に私たち日本に来てるみたいだな……。あ~あファイナル・カウントダウンってか?、あはは、あはははははは……」
「レイバーグ少佐!大丈夫ですか?ちょっと!ジュリアさん!」

コクピットで馬鹿笑いを始めたジュリアに、思わず錯乱するミキであった。
東方面に向かったナミとエイミーは、約20分ほどの高速移動モードで山の頂にまで駆け上った。
とりあえず山の向こう側を見る必要性が有ると判断したためだ。

「エイミー、あれ……」
「牧場……街が見えますね……」

とりあえず、ナミはエイミーの腹が満腹であることに感謝した。エイミーは満腹であれば冷静沈着、もてる能力をすべて発揮してドールズでも1・2を争う対空屋ともスナイパーともなるのだが、少しでも空腹となるとおつむテンテンのおバカ娘になってしまうのだ(笑)。
後に某バターロールヘアの不幸娘やいい気になっている同人作家娘の存在を知ったドールズメンバーは「やっぱりえいみーって名前の女はバカになるのかしら……」と残り大多数のエイミーさんが聞いたら名誉毀損で訴えられそうな事を真剣に考えたという。

それはさておいて、ナミはこのまま一旦センターへ戻るか、この街の様子を偵察するかしばし悩んだ。
ここが本当に地球、日本であるとすればX4Sのような巨大な人形兵器はあるはずが無いし、街まで1,2時間程度で戻ってこられれば良いがもし夜が明けてしまった場合、X4Sを発見されると酷だ。
自爆させても証拠は残ってしまう。

「引き返すしかないわね……エイミー!戻るわよ!こちらβチーム、タカス。東の山の向こう側を観測したところ、中規模程度の農場と街を発見。無用な刺激を避けるためコレより帰投します。さらに言うと……北側にこちらの施設と酷似した建築物を確認しています」
『ヒドラウィング、ハーディだ。その施設はヤオとセルマが調査に向かっている。ジュリアからの報告で『陸上自衛隊』のヘリが向かっているらしいので早いところ戻ってきて欲しい。オーバ』
「了解、オーバ」
『ご苦労様』

問題は北方面に向かったヤオとセルマのαチームだった。
彼女たちは北へ向かって高速で移動を続けるうちに、先ほど自分たちが出発したばかりの地点に戻ってきたのかと一瞬錯覚した。

「セル、あたしたちさぁ、ちゃんと北に向かって走ってたよね?」
「えぇ、そのはずですけど……」

ヤオ達の目の前には、先ほどの建物と酷似した亜空間通信施設が夜空にそびえていた。

「「微妙に違う気もするね。まさか……地球政府もオムニと同じ亜空間通信施設を?」
「の、可能性はありますね」
「判った。こちらαチーム、ヤオ。地球政府の物かと思われる亜空間通信施設を発見……あれ?どうしたんだこれ?」
「せんぱ……ザザザザザ……」

急いで接触回線を開くと、セルマの声が聞こえてきた。

「先輩、これって……」
「十中八か九、ジャミングね。急いで隠れた方が良い!」

今まで居た地点を中心にした半径30mほどが、一気にバッと燃え上がった。

「榴弾砲?」

「砲撃地点はあの通信施設……?だけどあんな高台に200mm榴弾砲を揚げるか?」

だとするとPLD?いや地球には戦闘用としてPLDを装備している軍隊はありえない。

「セル!出来るだけ近づいてプローブを投げてみるから。援護して」
「判りました!」

紙一重とも言える距離で敵の放つ砲弾が炸裂する。
飛散した破片が装甲に当たる乾いた音が響いた。

「700……600……550……今だ!」

「セル!間合いを取るよ!」

「さて、何を撮って来たのかね……」

「PLD?」

肩の装備から行くとC型やRR型らしき機体も見える。

「……ですよね、多分。妙に華奢ですけど。」
「でも中にはX4に近い外見の奴も居たわね。」

「先ほどの榴弾砲ですけど……撃ったのは多分この四脚式でしょうね」

「この首なし……ひょっとしたらステルスタイプかも知れないわね。前にナミが研究してるって話していたことあったし」
「だとしたら……もう現れているかも……」
「!」

ボム!という爆発音を発して周囲のトドマツの茂みが吹き飛び、吹き飛ばされた落ち葉が光学迷彩で隠蔽したPLDのシルエットを映し出す。

「セル、電障弾!」

命中した電障弾は強力なEMPパルスを発射し、相手PLDを行動不能に持ち込むはず……であったがそのPLDは何とも感じずにサブマシンガンらしきものを連射した。

「!!」

だがX4Sのスペースチタニウムとカーボンナノチューブ、セラミックの複合装甲を舐めてはいけない。
4Sのハイパワーを活かして一気に間合いを詰めたヤオは、一気にそのPLDに襲い掛かった。

「DoLLSをなめるなぁ!」
「待ってください!」
「ほへ!?」

絶妙なオートバランスで設定されたバランサーのおかげで転倒だけは避けられたのだが、勢いはとまらずその光学迷彩を施したPLDに真正面から激突する。

森林の樹木に寄りかかるようにしてどうにか転倒だけは避けられた2体だが、まるで抱き合うようにして停止していた。
ハッチを開放して外に顔を出したヤオは、目の前のPLDが光学迷彩を解除し、だんだんと普通のPLDとしての外見に戻る光景を見る事となった。

「…………何、この機体……」

その首なしPLDのコクピットハッチが開くと、DoLLSのものに似たヘルメットを被った女性の姿が現れた。

「第177特務大隊DoLLS、ヤオ・フェイルン中佐でありますか?」
「え、ええ。そうだけど……」

「お会いできて光栄です。ヤオ中佐。私はあなたたちの時代から100年ほど経った時代の177特務大隊所属。ナガセ・マリ中尉であります!」

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