私立江東学園の巨大な寮の、これまた広大な食堂。
そこに集まった彼ら(男性2名、女性7名、火蜥蜴9匹)は談笑を続けていた。
話の中心はやはり先程までの話題の中心であったタカヤ ノリコと彼女の4代前の先祖ではないかと思われる二人の少年少女の事であった。
さっきまではそのショックに固まっていた少女であったが、相方の少年をぶっ飛ばして少しは気が晴れたのか、その自分と同じ名前と言うノリコの母親に付いて興味が沸いてきたようだ。
「ねぇねぇ、それであなたのお母さんてどう言うポリシーを持って行動してた人なの? 私の子孫だって言うならやっぱり菜食主義者で平和主義者なのかしら?」
一同は少女にぶっ飛ばされて床にノびているメガネの少年と、同じく床に転がっているシンジを横目で見ながら、このあまりにも都合の良い物の見方をする少女に「正体見たり、外道照射霊波光線!!」みたいな視線を浴びせたのだが、少女の質問を聞いたノリコだけは口をパクパクさせながら何か言いづらそうな顔をしていた。
「ん? どうしたのノリコ」
「え・・・え!? 別に何でも無いわ。えっと、そうそう確か私のお母さんの旧姓は伊藤だったかなぁ? でね東京出身なのよ」
「へぇー、で?」
「・・・・・・」
「どう言うポリシーと言うか、座右の銘は?」
「・・・分からない」
「分からないって、あなたはきちんとお母さんに育てられたんでしょ。私がお母さんに育てられてたら絶対そう言うことは聞いて、私もそれに従っていたと思うわ。そうでしょ」
「だから、その、つまり。ここじゃ言えない・・・また今度にするって事で」
「何をはぐらかせてるのよ。自分の母親の言ってたことでしょ、恥ずかしい事無いじゃないの。言って頂戴。私には聞く権利が有るわ」
「(そうかなぁ)どうしても?」
「ええ」
しばしの間逡巡するノリコ、そして他人事ながら妙にゴネるノリコに関心を引かれる一同。
ノリコはここに居るメンバーに男性陣がいないことを改めて確認するとチョイチョイと指を振って少女の耳のそばに口を寄せた。
「あのネ」
いつのまにか全員が耳を寄せ、耳をそばだてているのには気付いていたのだが、ノリコは構わず小声で母親がいつも言っていた自らの価値観を述べた。
「・・・・・・・・・・・・」
その瞬間、キャーッ!! とかヤダヤダとか凄い騒動になった。
一体何を言ったのだろうか。気になる人は「Bye Bye Blue Water PART2」を聞くこと。
で、それが落ち着いた頃、ノリコは少女の胸に下がっているペンダントに気がついた。
「あ、そのペンダント」
少女はノリコに言われてペンダントを手に取った。
「これ? これは孤児だった私がただひとつだけ持っていた物なんだけど。これがどうしたの?」
「それと同じ物私も持ってる。お母さんから貰ったんだけど、ちょっと待っててね。いつも肌身放さず持っていなさいって言われてたから、ここに、入って、あった!」
ノリコがポケットに入れられていたそれを引き出すと、目の前にかざした。
ふたりが持つその宝石は寸分たがわない青く透き通った菱形にカットされた石で、幾分少女の方が透明度が高かった。
ノリコの持つものの方が若干くすんだような色合いで有る。
ふたりの声がハモって聞こえた瞬間、ふたつのブルウォーターが一瞬輝いた。
その瞬間、地球の何処かに眠っている古代遺跡にスイッチが入った。
<同時刻・地中海海中の潜水艦群 その旗艦ガーフィッシュMk−II 零号艦 指揮所>
多数の潜水艦乗組員が狭い艦内にひしめき合っていた。
彼らは独特な一つ目の意匠を施した軍服に身を包み、顔面をも白い仮面で覆い個人と言うものの存在を一切認めぬ現代の民主主義とは相反した全体主義的な雰囲気を醸し出していた。
その彼らが所属していたのは古来よりアフリカに存在した今は亡きタルテソス王国の末裔達によって始まった全ての人類を管理下に置こうと画策する秘密結社ネオアトランティスである。
彼らは時空融合の間際、地中海に有るフランス領の島を武力にて占拠し島民を強制的に労働に従事させ彼らの海中艦隊秘密基地と星雲間レーザー通信塔「バベルの塔」の複製品の建造に入っていた。
だが、仇敵ネモ船長率いるノーチラス号と謎の三人組の活躍によって反射衛星砲としての転用が可能なバベルの塔は崩壊。
まんまとノーチラス号には逃げられた。
そして通常戦力による追撃戦を行おうと、海中艦隊を集結したところに時空融合に遭遇したので有る。
基本的に19世紀並みの稚拙な通信技術しか持たない彼らでは有ったがノーチラス号を見失い、ヨーロッパ各支部からの定時連絡を含めた全ての外部からの連絡を一切絶たれたネオアトランティスは再度武力による世界制服を執り行おうと七つの海に先行偵察隊として十数隻の硬化テクタイトの装甲を持つ装甲潜水艦、初期型ガーフィッシュを送り出していた。
それらからの報告によると、現在ヨーロッパ近辺には艦船を用いた通商活動を行う文明が無く、彼らの秘密兵器で有る発掘兵器「エクス・デウス・マキナ」等と同様の反重力機関を用いた文明が出現しており、通商破壊作戦には向かない事、そしてアメリカ大陸には未だに艦船を利用した文明があることから彼らの第1目標はアメリカ大陸周辺海域と決定した。
そして、ガーフィッシュMk−IIを中心とした通商破壊作戦従事艦隊はジブラルタル海峡を抜けて大西洋へと踏み出した。
だが、そこへ思いも寄らぬ存在が忍び寄っていたので有る。
現在、海洋を中心に活動する集団は幾つかが日本連合と中華共同体などに報告されていたが、その活動範囲が海中と云う監視が容易でない世界での物であったため日本連合に協力的な「青」を除いてその活動はほとんど掴めていなかった。
その中でも最も人類に対して敵対的で有ると思われていた存在がゾーンダイクが作り出した生体兵器群である。
彼らは紅海上で日本連合と接触した後、不審な動きをする一団を見つけた。
自らとフィールドを共通する人類達である。
ゾーンダイクの子供達は人類滅亡を急務と考える最先鋒たるベルクによって率いられており、彼らが自らの領域と考える海洋に進出している人間たちを許すことはできなかった。
その為、内洋型の海中人間たるミューティオにその基地の偵察を行わせ、彼らが大西洋に出てきたところを待ち伏せていたのだ。
ベルクが乗りこんだナガトワンダーとムスカ級生体潜水艦20体の待ち伏せを受けたネオアトランティス海中艦隊は壊滅的なダメージを受けて地中海へと敗退した。
先刻の戦闘で未知の生体兵器群の攻撃を受けたネオアトランティス軍はジブラルタル海峡に比較的無傷なガーフィッシュを警戒に貼りつけて戦力の立て直しを図り今となっては彼らの最終防衛線である秘密基地に戻るしかなかったのだ。
その秘密基地にてこの結末を聞いていたネオアトランティスの総統ガーゴイルは激昂していた。
既にこの作戦の総指揮官たる幹部は床に開いた穴より死体置き場へ直行しており、周りに居る残りの幹部達もガーゴイルを刺激しない様に俯いて押し黙っていた。
だが、そこへ思いもしない所から急報が入った。
「ガーゴイル様!」
今本部にて通信関係の総指揮を担当している士官が今し方入った電文を書き記した紙を持ってその会議室へ飛び込んできた。
「何だね。今我々は今回の作戦についての「対策」を練っているのだよ。それを中断しなければならない程の急用だと言うのかね!」
ガーゴイルは彼が決めたルールを破って会議室に飛び込んできた男を睨み付けた。
それまで興奮気味にしていた士官であったが、それを見てブルッと身を震わせたが今更何をしても遅い事に気付き先程入った電文を読み上げた。
「ハ、太平洋を哨戒中のガーフィッシュ26号より入電。南太平洋イースター島近海にてレッドノアと思しき物体の活動を確認。現在、確認のため現場へ急行中。以上です。」
「なに、レッドノアだと! 分かった」
「ハイ、失礼します」
報告を済ませた士官はさっと踵を返すと部屋の出口へと向かった。
「ああ、休んでくれたまえ、永遠にな」
彼がパチンと指を鳴らすと士官の足元の床が突然無くなり、声を出すまもなく彼はその中へと消えた。
「馬鹿め、ルールはきちんと守られなければならぬとあれほど言っておいたものを、愚かな。信賞必罰とはこの事だよ」