中華共同体に属する地域の一角にひっそりと佇むひとつの小島があった。
一見するとただの簡素な漁業を営む過疎の島なのであったが、その実体はその外観を大きく裏切る物であった。
その島の一角には、何処かの豪商の所有する物なのであろうか一軒の別荘が建っていた。
事実、その所有権は一切後ろ暗いところのない商人が保有していることになっていた。
見た限りでは別荘を訪れたその家族とその客人、そして屋敷を管理している管理人の姿しか目に入らなかったのだ。
その為であろう、散々BF団と対決してきた国際警察機構の追及の手を逃れて今も平穏に日々を過ごしていた。
現在、この島の地下に広がる地下要塞にはBF団の誇る十傑集のなかでも指導者格である混世魔王樊瑞と、その被保護者でありかつて樊瑞と共に戦った衝撃のアルベルトの唯一の遺児であり尚かつ現在最も十傑集に近い位置にいる超能力者、サニー・ザ・マジシャンが滞在していた。
衝撃のアルベルトが亡くなったあの「地球静止作戦」からこちら、サニーは以前にも増して修行に打ち込むようになり現在ではBF団のエージェントの中でも十指を数える実力を持つほどになっていた。
だが、あくまでもそれは樊瑞の元で身につけた能力であって、彼女が実地で身につけた物ではないのだ。
彼女のBF団に対する忠誠は疑うところがない物であったが、実際にその実力を発揮できる物なのかどうか、それを試す時が迫ってきていた。
現在のBF団の状況を書き記すと、彼らの拠点であり聖地であった遙けきバビロンの地にあった超古代宇宙文明の遺跡バべルの塔は彼らの盟主であるビッグファイアーと共に失われた。
現在、密かに調査団をかつてのバビロンの地へと送り込んでいたが時空融合の副産物なのか、特殊能力を持つ特A級エージェントすら近寄る事すら出来ない破壊的な砂嵐や地磁気異状により方向感覚を狂わされて全く見当違いの方向へと進んでいたり、数々の超常現象に阻まれてバベルの塔を確認する事すら不可能であった。
実際には外伝に有るように”バビルの塔”がその主たるバビル2世と共に出現していたのだが
今現在この地球に存在するのは中華共同体の周辺に存在したアジトとエージェント達のみである。
特に指導者層である十傑集はその数を多く失い、もしも偶々樊瑞がこの地にいなければ誇り高きBF団は空中分解、若しくは只の理想もない暴力集団に成り下がっていたかも知れなかったのだ。
だがしかし、現在分かっている地球の諸勢力の中でも一,二を争う戦闘能力を持つBF団としてはこれを機会にBF団設立以来の祈念である「世界征服」を実行することに対して吝かではなかったのだ。
当年取って十四才になるサニーは十傑集の中でも実力者であった「衝撃のアルベルト」と国際警察機構に属していた豪傑のひとり「青 湖三丈」との間に出来た一人娘である。
さて、その複雑な生い立ちのサニーが地下図書館の高梯子の上に座り魔導書や物理学の本を読み漁っていると厳めしい顔をした樊瑞が姿を現した。
彼は一頻り悩んでいたようだが、さっさと親バカ的な悩みを捨ててサニーに声を掛けた。
「サニーよ」
「はい、おじ様」
サニーは座っていた高梯子から樊瑞へと向き直り、直ぐに自分が相手に対し失礼な位置にいることに気付くとサイコキネシスによって自分の体を釣り上げ、ふんわりと床に足を付けた。
「何のご用でしょう」
「うむ、儂は長らくお前の修行を手伝ってきた」
「はい、今の私があるのも、すべてはおじ様のおかげでございます」
「うむ別にそれは良い。だが、そろそろお前も自分の足で立つときが来たように思える」
「え?」
「だが、まだまだお前が一人前になったとは言えない。なによりお前には経験が不足しているのだからな」
「はい・・・」
彼女は樊瑞の指摘に頭を下げた。
「そこで、儂はBF団の仮の指導者として、そしてお前の師匠として命令する」
「ハッ・・・はい!」
サニーは突然の提案に驚きを憶えると共に、初めてのお使いに心躍らせた。
「BF団エージェント、サニー・ザ・マジシャンよ。隣国である日本連合へと潜入し、あのロボット共の性能とその操縦者達の能力を調べてくるのだ」
「はい、おじ様。 いえ! 我らの! ビッグファイアーの為に!!」
彼女は少し迷った物の、直ぐに気合いの入った声で右手を高々と掲げBF団のメンバー共通の敬礼を叫んだ。
「うむ。期待しているぞ。サニー。さて、今までのお前の頑張りに対して師匠として褒美を出そう」
「いえ、私はそんな・・・」
「いや、これは受け取って貰わなければならぬ。これは助力となるように儂が拵えた物だが、サニー、お前がBF団の一員として正しい資質を持っているかどうか、お前を監視する為の物でもあるのだ」
そう言うと樊瑞は鋭く口笛を吹くと真っ黒に濡れた羽根を持つ一羽のカラスを召喚した。
彼は札を懐から取り出すとそのカラスに貼り付け、十文銭を束ねた剣を振るい空中に炎の文様を描いた。
気合いと共にそれをカラスに叩き付けると一瞬にしてカラスの姿は炎に包まれ、その身を紅蓮の炎が取り囲んだ。
「あぁ・・・ええ!!?」
サニーはその残酷な光景にハッと息を呑んだが、それは直ぐに驚きの声に変わった。
なんと炎に包まれたカラスが宙返りした途端、炎は煙と消え、そこには小学高学年くらいの少年が立っていたのだ。
「よぉ、初めましてお姫様。おいらカブってんだ。これからヨロシクな」
その少年は小憎らしい笑いを浮かべると手を差し出した。
「よ、よろしく」
彼女の師匠の樊瑞は仙術を極めた超人である。
だが、そんな彼でもこの様な風に術を使って使い魔を呼び出すことは滅多になくその凄まじいまでの術にサニーは完全に呑まれていた。
「さて、これからお前達は日本へ飛びそこで姉弟として生活して貰う。そこでサニー、お前は学校へ通うのだ」
「学校・・・ですか?」
「うむ、そう言えばお前は学校と言うところへ行ったことはなかったな」
「はいおじ様」
「ならばそこで様々なことを学んでくるのだ。勿論術に関することはそこでは一切秘密にせねばならぬ。決して正体を知られてはならぬ、正体を知られた時には任務に失敗した物と見なし直ちに召喚する。しかし、自分の力は大いに活用せよ。そこでエージェントとして大事なことを、そして人間の裏表、感情の機微について学ぶのだ。分かったな」
「はい、おじ様!」
「だが、努々油断する事なかれ、その学校はロボットパイロットの保護を優先して設立された敵のスパイ達によって守られた敵の中枢なり。敵の精鋭、そして恐らくは我々以外のスパイも潜入しているに違いあるまい、それらを出し抜き目的を果たすのだ」
「はい」
「うむ、それでは詳しくは担当の者から説明があるが、我々が今一番注目している者達がコレだ」
そう言うと樊瑞は幻視の術を使い、空中に画像を浮かび上がらせた。
そこには先日のGアイランドでのエヴァンゲリオン達の戦いが浮かび上がりパイロット3名の顔が固定された。
「これらのロボットが発するバリアーは下手をするとあの衝撃のアルベルトであっても太刀打ちできぬ程の威力を持っている」
「そんな!? まさかお父様でもと!?」
「だが、事実なのだ。お前は大陸帰りの孤児としてそこのカブと共にこの江東学園に編入される。そこでのお前の名前は夢野サリーだ」
「夢野サリー・・・」
「サニー、いやさサリーよ。私はお前に期待している、お前ならきっとそれに応えてくれるだろう」
「ええ、必ずやこのロボットの秘密を握り、ここへ帰還して見せます」
「よし、それでこそは、だ。 我らの!!」
「「「ビッグファイアーの為に!!!」」」