TDF(テレストリアル・ディフェンス・フォース/地球防衛軍)は元の世界においては、地球各地のみならず宇宙空間にまで前線基地を配置し、銀河を吹き荒れていた恒星間戦争の余波から地球を防衛する任務を負った、人類全ての守護神であった。
 だが、時空転移現象に巻き込まれこの混乱した世界に出現したのはウルトラ警備隊を擁する極東支部とそれに付帯する諸軍備施設、そしてアメリカ支部だけであった。
 これは逆に幸いであったかも知れない。何故なら元の世界で消滅した支部が2つで済んだと言う事を意味しているからだ。

 さて、現在の日本列島には様々な世界からの来訪者達が沢山集まって来ていることが分かっている。
 その数の多さ、その転移地域の狭さは他の地球各地の転移と比較して非常に際だっていた。
 これは時空振動弾の炸裂した地域と地球地磁気における相関から発生した現象であったことがGGGとTDFの研究から分かっていた。
 その時空転移現象により最も影響が大きかった日本列島であったが、GGGによる情報公開と政府組織の再編が奇跡的に素早く進んだ為、現在では東京を中心とした政府機関が日本全国の掌握と外敵からの防衛組織の再編を急速に進めていた。
 基本的には、列島各地に出現した政治組織と各軍事組織の統合にである。
 何しろ日本の場合、西暦二〇〇〇年を中心軸として前後一〇〇年の範囲で様々な文明が出現したため制度上の取り決めをするだけでも大仕事であったのだ。
 軍事組織の性格としては、二〇世紀後半に創設された自衛隊に準じる形で各地の陸海空に分類し振り分けられていっていた。
 だが、その中にはそれらに分類できない物や、特定の敵に対して特化された装備を持つ組織も多かった上にその敵もこの世界へと出現しており、それらは別枠として大雑把に防衛組織に組み込まれていた。
 例としてはGGG=ゾンダー、帝國華撃団=黒之巣会、降魔等が挙げられる。
 そして、陸海空の分類に当てはまらない物の中には、かなりの数量として人型戦闘機、若しくはロボット兵器が入っていた。
 それらはその特異な戦術要素によって作られていたが、意外と単体に於ける戦闘力が強大であることとその生存率の高さから陸海空に続く第4の軍事組織としてまとめられる事となった。特殊機動自衛隊、通称スーパーロボット軍団の誕生であった。
 ただ、ロボット等の整備運営管理は航空自衛隊よりもコストが掛かることが判明したので適当な整備施設とその科学力の高さから富士山麓に出現した国立科学研究所、通称SCEBAIに当面の管理が任される事になった。
 また、それらをバックアップするために各種機関から諜報や保安用の人員を確保し国家情報局を創設した。

 そうした物の内のひとつにパイロットの精神面その他を補佐する為の機関があった。
 これはそこに配属されるべく訓練を受ける一人の少女の話である。

キリヤマ マナ・もてなし嬢訓練生

スーパーSF大戦

第11話 part−b.

Girlie Girl.




 彼女は以前から優秀であった。栄えある地球防衛軍幼年学校に所属し、常に主席としてその名を示し続けてきたのだ。
 それを頼って彼女に特別の任務が要請されたのは不思議な事では無かったし、その任務を彼女が引き受けたのも至極当然のことであったのだ。
 彼女の名はキリヤマ マナ、その父親は地球防衛軍のエリート部隊であるウルトラ警備隊で隊長として活躍していた。
 代々軍人の家系で育てられた彼女は当然の如く軍のエリートとしての教育を受けるべく努力してきた。
 簡単に言えばガチガチの軍人莫迦である。
 彼女は幼年学校を飛び級していた為、現在最終学級にて実技、学科の訓練を受けていた。
 その彼女が任務を受けて出頭した場所はTDF極東支部の地下施設の一角にあった。
 マナは普段からポーカーフェイスで通していた為、一部の生徒からはやっかみを込めて冷たい子供服等と呼ばれていたが、今日ばかりはその様子が異なっていた。
 昔からの念願であった父の働く地球防衛軍の内部で任務を果たす時が来たのだ。見てくれ父ちゃん、私はやるゼ!
 と彼女が考えたかどうかは知らないが、通路の端々を見ながら思わず顔を弛めてしまっていた。
 時々すれ違う防衛軍の施設職員たちは何故こんな所にお子様が? と不思議そうな顔をしていたが誰も彼もが忙しそうに立ち去っていった。
 彼女の目指す場所はD4−126EF区画の第二〇三会議室、と言う名目になっているが実際はある特殊な客員講師の住処であった。
 マナはその部屋の扉の前に立つと、扉に掲げてあるルームナンバーを確認しひとつ深呼吸をした。
 どんな任務か具体的に説明されていなかったが、とにかく人類の為に必要な任務であることだけは入念に担当官に説明されていた。
 ようやく覚悟を決めると、マナはドアホーンのスイッチを押した。
 澄んだ電子音がスピーカーから耳に入ってきた。
 1秒、2秒、・・・6秒、・・・30秒待ったが何の応答もなかった。
 マナは、ここまでにため込んだ緊張が一気に抜けていくのを感じていた。
 もう一度スイッチを押そうと指を伸ばした瞬間、スピーカーから非常に魅力的な女性の声が流れてきた。
「カギは開いてるわ、中に入って来て」
 マナは居るなら何故すぐに応答しないのかとその非効率性に一瞬苛立った。
 だが、そんなことはおくびにも出さずにドアのオープン釦を押し、扉の中に足を踏み入れた。
「失礼いたします!」
 マナは部屋に入るなり机の上に座っていた人物に敬礼した。
「わたくしは地球防衛軍防衛大学校付属幼年学校に所属している認識番号1985JPN3089、キリヤマ マナ14歳であります。教官殿に置かれましては何卒ご指導の方を宜しくお願いいたします」
 マナは着任の報告のつもりで相手に伝えたのだが、相手の方としても報告書に添付されていた顔写真の少女がこんなに角張った事を言い出すとは思いも寄らなかったらしくキョトンとした表情をしていた。(性差なし・困惑の表情パターン3)
もてなし嬢 C’mel
 だが微かに口元を吊り上げ、小首を傾げると誰にでも安心感を与えるような笑顔を作った。(口唇部右側笑み微量−添付頭部傾斜パターン4−接続パターン3.4.〜真人広域・誘歓笑パターン6・<中>)
 マナは相手の女性が浮かべた表情を見た瞬間心の中からここ近年感じた事のない感情が沸き上がってくるのを感じていた。
「こんにちは、キリヤマ マナ。わたしがアナタに教育することになったク・メルです。よろしく願います」(女性向け・友好的微笑パターン1.会話−挨拶/非敵対的)
 そう言うと彼女はマナに向かってウインクを投げ掛けた。(魅了/転・男性向/ポーズ・挨拶−Aパターン1)
 マナは改めてク・メルと名乗った女性をマジマジと見やった。
 その女性は頭の天辺からつま先に至るまで、その全てが完璧に「女性」だった。
 彼女の体を形作っている肉体もそれが表現する仕草、口から出される台詞も、震える声も、何もかもが完璧に完成した方程式によって作られていた「女性」であった。
 ただ、耳の先がチョンと尖っている事と、瞳の形が縦長の三日月型をしていることだけが彼女が人間ではないと言う事を証明しているに過ぎなかった。
 彼女は瑞々しいまでのハツラツとした動作で机から降りると、広い室内にひとつだけ置かれた勉強机に座るようマナに指示した。(座型タイプ女性形2−3・動作パターン少女型活発タイプ2−4・座−立−跳/指示動作・パターン3−25・表情−凛*冷静)
 マナがそれに従い座席に就くと、ク・メルは色々と資料が入っているらしいバインダーを自分の机から教壇に運び女教師よろしくマナを見つめた。(表情・冷静パターン4)
「さて。私はアナタがどの様な任務を帯びているか知りません。私が要請されたのは、キリヤマ マナに対して「もてなし嬢」(ガーリィガール)としての技術を教えることです」
「もてなし嬢、ですか?」
 マナは困惑の表情を浮かべた。彼女は自分が危険な任務に就く物と思い、それに対する戦闘訓練を受ける物と思い、その覚悟を決めてからここの部屋のドアを叩いたのだ。
 だが、待ち受けていた物は彼女の想像の範囲外であった。
「はい。私は人類補完機構によって作られた下級民ですが、人類補完機構に属する他星系よりの訪問客をもてなす為の訓練を受けています」(誇らしげな表情パターン7.)
「それで、私が受けるもてなし嬢とは一体どう言う事をする物なのでしょうか」
 マナは不満げな表情になり、自分が受ける訓練とやらの内容を訊いた。
「ふむ、そうですね」(眉間幅寄せ眉尾下げ・口唇部窄め強/不満*困惑複合パターン5−6)
 ク・メルは少し考え込む表情を作ると説明を始めた。
「簡単に言えば、女性であることを武器にした職業ね。過去に存在した職業で言えば、芸者、舞妓、が近いけど・・・・・・」(表情・思案パターン2−3+4複合・右腕顎部添え/会話・語尾消失3.2.1.)
 ク・メルがそこで言い淀むとマナが口を挟んだ。
「ちょっと待って下さい! それじゃ私に売春婦になれと言うのですか!?」
 正確に言えば芸者や舞子は売春婦とイコールではないのだが、彼女の持っている知識ではそう言う風に考えられていた。
 このままでは誤解されたままの知識でマナを教育することになってしまう。それは大変に好ましくない。そこで、ク・メルは自らの所属する下級民ともてなし嬢の境遇を説明することにした。
「いいえ、簡潔に言えば売春婦とは全く正反対の存在と言えなくもありません。何故ならば、私たち下級民は人間ではないからです」(表情・微笑パターン3)
「え゛?」
 マナはク・メルの言葉に驚きを隠せなかった。
 何故なら彼女の前で話している美女はどう見ても活き活きとした人間の女性であったからだ。
「私たち下級民は人類補完機構によって動物の体を切って張って引き延ばし、人間の形に合わせた体の中に訓練し条件付けしたその動物の脳を組み込んだロボットなのよ」(表情・自己憐憫+微笑複合パターン23+4)
「えっ、動物・・・そうは見えないけど」
「私たち下級民には必ず真人と区別が付くように若干の特徴を残してあるの、例えばこの耳、この目」(表情・緩笑パターン2アレンジ流し目パターン2から3へ変移)
 そう言うとク・メルは自分の耳の先端を摘んで見せた。
「確かに、でもそれじゃ貴女は何なのですか」
「私の名はク・メル(C’Mel)。頭文字CはCATのC。わたくしは猫です、真人様」(表情・なし。従属モード・パターンA)
 ク・メルは目を閉じ表情を消すと頭を下げた。
「それでも私の持つ感情は本物です。私たち猫は人類が星の海を渡るより前から人間と共にありました。そしてピン・ヘッドとして人間と共に生きてきたのです。ああ、真人様、私たちはあなた達を愛しています」(表情・注目真剣パターン2から歓喜パターン1へ変移)
 マナはク・メルが見せた生の感情に唖然とした。だが、次の瞬間ク・メルはその歓喜の表情を消し落胆の表情を作った。
「しかし、私たち下級民はあくまでも動物であり、私が産む子供は可愛い子猫でしかありません。そして私たちには人権は存在しませんでした、あくまで私たちは人類に奉仕する道具、魅力的で有能な便利な道具なのです。ですから、私たちが真人様とカップリングを行うことは法律で禁じられています。もしそれを破れば真人様は脳洗浄−再教育、私は廃棄処分です。そんな私たちの職業であるもてなし嬢は全く売春婦とは異なる職業であることは分かると思うけど」(表情・憐憫+微笑複合パターン1+1から説得モードパターンB)
 そこまで聞いてマナもどことなく理解したらしくその目には光がともっていた。
「了解しました」
「より詳しく説明すると、もてなし嬢は遙かな過去、地球極東地域に存在した朝鮮半島の国家、その李氏朝鮮時代、中国からの使者をもてなす為に時の政府が擁していた公務員、妓生が最も近い職業と言えるの。彼女らは優れた知識と知能、歌舞音曲に優れ厳しい試験と訓練によって鍛えられたエリートとして存在してました。貴女もその肉体と知能を磨いて、女性として完成されたシステムを身につけるのです。もっとも、当時の李氏朝鮮は大半が貧民という名の奴隷で、女性に名前を付けることすらしなかった人権蹂躙国家でしたけどね(表情・悠然パターン2説得モードパターンA)
「ハッ、教官殿、了解しました。」
「納得してもらえて大変に嬉しいわ」(表情・喜びパターン3.諸手胸前合掌)
 ク・メルは両手を胸の前で打ち合わせてニッコリと笑顔を作った。
「それでは、これから貴女にもてなし嬢としての訓練を行いますが、予備知識として実践的人類心理学の履修と解剖学の勉強を行って貰います」(表情・微笑パターン4)
「教官、質問して宜しいでしょうか、」
「何?」(表情・疑問(無邪気)パターン1)
「心理学は理解できるのですが、何故解剖学まで?」
「ええ、それは簡単なことです。もてなし嬢はその体の全てを用いて相手に好感を与えるのが仕事です。その為には自分の体のどの筋肉にどれだけの力を掛ければ自分の体がどの様に動き、それが相手にどの様な効果を与えるかを計算しなければなりません、その為の解剖学であり心理学なのです」(表情・微笑パターン4・行動パターン巡歩1・ゼスチャー右手第2指屹立)
 それを聞いたマナは思わず感嘆のため息を漏らしていた。
「はぁ、なるほど。それは大変な訓練ですね」
「ええ、今日は座学だけにして置きますが、明日からはビシビシと鍛えますので、宜しく」(表情・脅迫(笑み)パターン3)
 その時ク・メルが作った笑みは、ク・メルの本心から浮かべた物に違いないとマナは確信した。


<講習2日目>

 その日、キリヤママナはいつに無くどよーんとした雰囲気で宿舎がある第3新東京市のアパートから双子山秘密ゲートに向かっていた。
 この第3新東京市は西暦二〇〇五年から転移してきていた。
 その為交通機関もそのほとんどが電気動力に成り代わっていたが、唯一前世紀から走っていた路線バスのみはディーゼルエンジンで走っていた。
 一九八〇年代の世界からやってきていたキリヤママナはその心地よい振動のバスから途中の寂しいバス停で降りると、双子山の方へ歩いていった。
 その途中で迷彩服を着込んだメガネの少年がモデルガンを持って走り回っているのを見つけた。
 思わず立ち止まってそれを眺めていると、向こうの少年もマナに気付いたらしく彼女の方を照れた笑いを浮かべて立っていた。
 しかしマナは少年のあまりにもぎこちない動きに、プロとして笑ってしまった。
 その少年はマナのリアクションにショックを受けたらしくショボーンとしてテントの方へと戻っていった。

 マナはク・メルの部屋の前に立ち、今日から本格的に始まるもてなし嬢の技術の習得の訓練の激しさに思いを馳せた。
 ようやく覚悟を決めると扉のホーンを鳴らした。
「おはようございます。キリヤマ マナですが」
「どうぞ入ってちょうだい」
「失礼します!」
 彼女は扉の開閉釦を押し、部屋の中に入った。
「おはようございます、教官殿。本日の訓練も宜しくお願いします!」
「はい、おはよう。それでは、今日は主に顔面の筋肉の分布について学習します。昨日出した課題は憶えた?」(挨拶・溌剌パターン1−確認モード1)
「はい、一応は」
「なかなか優秀ね、それではこちらのボードを見てください」(追笑パターン3)
 ク・メルが指し示したボードには人間の顔面の筋肉の分布が描かれていた。
 ボードは多数の線で区切られ、大きく4つ喜怒哀楽に分類され、さらに細かい区分けが成されていた。
 それぞれ一つの区切りの中にはどの筋肉がどの割合で操作すればどの様な表情になるかが数値と筋肉分布図、外観図で表されていた。
「今日はこのボードの図解に従って、顔面筋の制御トレーニングと心理戦の基礎学習を行います。ではそこに立って背筋を伸ばす」
 マナはク・メルの指示に従いク・メルの前に立った。
「笑ってみて」
「ハ、了解しました。にっこり」
 マナはク・メルの指示に従い唇の一端を引きつった感じで吊り上げてみた。
 ク・メルは数秒間それを観察していたが、極冷たい声でマナに質問した。
「何ですか、それは」(表情パターン冷徹・モードLEVEL3.)
「ハイ、笑顔であります」
 しかし、それはお世辞にも笑顔とは言える代物ではなかった。
 ク・メルは一瞬マナの顔をマジマジと観察し、それが本気であることを見て取ると「はぁっ」と溜め息を吐いた。
 彼女は額に手を押し当てて数秒間沈黙したが、やがて思い直したように顔を上げた。
「まぁ良いでしょう。余計な癖がついていない方が素直に教育を吸収することが出来るでしょうから。さて、この鏡を見てちょうだい」
 彼女は机の下からB2サイズの鏡を取り出すと、彼女の前に置いた。
 マナは顔の表情が変わらないように気をつけながら、鏡を覗き込んだ。
「笑ってる?」
「いいえ、どちらかと言えば威嚇している様に見えます」
「自分がどんな表情をしているか理解しているっていうのは良い傾向ですね。要は自分のしている事を理解し、それに対処することが出来れば必ず上手く行きますよ」(特殊説得モード・慈母の微笑み)
「ありがとうございます」
「でもね、表面的に顔の表情を変えても相手はその裏側にある物に気付いてしまうわ、だから必ず心を込めてね」(微笑パターン2)
「こころですか・・・」
「ええ、ハート、ソウル、相手は機械じゃない、心を持った存在だから短期的には騙せても結局バレるのが落ちよ」(自嘲パターン4)
「努力します」
「そうそう、では基礎訓練を始めましょう。顔面の筋肉の動きを完全に把握するのよ」
「はい、教官殿」


<講習1週間目頃の状況>

 ク・メルの厳しい教育の賜物か、マナの努力の賜物か、マナの実力は着実に育っていた。
 今では表情の基本パターンはマスターし、初歩的ながらゼスチャーの訓練と会話術の訓練を受けていた。
 もっとも、正式なもてなし嬢の訓練ではなく、あくまで1キャラクターに必要な物だけを抜粋して教育されていた為、正式な物に比べてかなり簡単ではあったが。
 ただ、技術的には進歩していたのだが未だに精神的にここへ来た当初とほとんど変化していなかった。
 つまりガチガチの軍人のままであったのである。
 これは計画に重大な支障を来す恐れがあったため早急に改善する必要があった。
 彼女が演じるはずのキャラクターは活力に満ちたネアカな人物として設定してあったからだ。


<講習4週間目>

 ハッキリ言ってク・メルは焦っていた。
 彼女の生徒、キリヤマ マナは技術的には問題ないのであるが精神的な変化がほとんど見られず、このままでは任務に就いた途端に何もかもが露見してしまうであろう事は彼女の経験上ほぼ確かであった。
 ク・メルはその原因を調べるため、マナの履歴に対するレポートを取り寄せ検討していた。
「地球防衛軍幼年学校所属少年兵キリヤマ マナに関するレポート」
・ウルトラ警備隊の鬼隊長キリヤマ隊長の養女
 両親共に不明。
 元々は飲んだくれの男と浮気性の母親の家庭に生まれたが、家庭内にはいざこざが絶えず、その為近所に住んでいたキリスト系新興宗教の女性が独断で保護(拉致とも言う)したが親たちは無関心であった。
 数年後、新興宗教が解散させられた時に機関によって保護、両親(その時点で離婚していた)が引き取りを拒否した為孤児院で3ヶ月ほど過ごした後、子供の居なかった霧山家に引き取られた。
 元来しっかりした性格であったため、真面目に勉強に取り組みメキメキと頭角を現していった。
 小学校卒業後、地球防衛軍幹部養成学校である地球防衛軍大学校付属幼年学校に入学。
 実技、教科ともに首席を独占、・・・か。
「なるほど、これは手強い家庭環境に育っているわね。まずこれから推測される原因は、養父母に対する深い愛情が起因しているわね。自分を救ってくれた養父母に対する愛情は、深い尊敬の念として彼女に刻み込まれている、そしてそれに答えようと養父の職業である地球防衛軍に最も近しい道を選んだ。しかし、元々真面目な彼女が硬直化した軍人精神を吹き込まれてしまったため現在では融通の利かない心になってしまった訳ね。ふ〜む、さて・・・・・・・」
 ク・メルはそれらのデーターから最も有効な対策を考えるべく思考し始めた。


<講習6週間目>

 最初はかなりぎこちなかったマナであったが、講習が始まってからはコツを掴んだのか表情の変化に使う筋肉の把握からそれらが相手に与える影響までキチンと把握した上で行動が出来るようになっていた。
 しかし、プロのもてなし嬢であるク・メルからするとまだまだ発展途上にあると言わざるを得ない感じであった。
 その頃になると、マナが支援を行うエヴァンゲリオンパイロット達の転校が決まり、若干のシナリオの変更があった物のキリヤマ マナが扮するキャラクターがシナリオライター達により決定されていた。
 キャラクター名・霧島マナ(14)性格・明朗快活。
 経歴・霧島耕助、佐知子との間に一人娘として誕生。いらい、何事もなく健康に育つ。
 役割・エヴァンゲリオンパイロット達の精神面でのケア、及び護衛任務。但し、護衛任務については極力表に出さないこと。
 また、パイロット達の家事は主にサードチルドレンが中心となっているため、それを軽減させる目的からサードチルドレン(碇シンジ/男/14)を中心に関係を結ぶ事。
 但し、セカンドチルドレン(惣流・アスカ・ラングレー/女/14)及びファーストチルドレン(綾波レイ/女/14)との間に恋愛感情の萌芽が見られるため、慎重を要す。
 以上の項目が決定し、それに沿った訓練が行われた。
{状況設定・富士山麓/裾野市私立江東高等学校付属中学2−A教室内}
パラメーター・国立科学研究所(SCEBAI)近傍に設置予定のこの学校は新設される。時空融合後に新設されエヴァパイロット達転校時には2ヶ月経過と設定されている。
 エヴァパイロット転校後1週間目(結果的には夏休み1ヵ月を経てプラス1週間となったが)、エヴァパイロット達と同一のクラスに転校の予定。
 そのクラスメートは関係組織の構成員が五名に1名の割合で極秘に任務につく。
 そんな大規模な組織となるため、今回の訓練が各種機関の初合同訓練となったのである。
 真新しい校舎の地下に設置されている地下施設は連合日本防衛機構と国立科学研究所SCEBAIによって運営されている。
 現在、地上部分の校舎は急ピッチで造営中であったが、2−A教室内の内装だけは終了していた。
 現在その教室は監視カメラにて監視されていた。
 その映像は地下の保安施設内で流されていた。
 それを人類補完機構派遣職員地球防衛軍所属のク・メルと各種諜報機関から派遣された教官が監視していた。
 教室内の席は空席が目立っていた。実は2年のクラスは1組しかなく、エヴァパイロットとその他同年代のロボットパイロット達の為にこの学校は作られたのだ、何という贅沢。その証拠に、この校舎は異様なまでのセキュリティーが施されており、戦車砲やミサイルの直撃に耐え、またBC兵器対策も完璧という白亜の要塞学園であった。
 教室内には12名の若い男女が座っていた。しかしごく普通の教室風景を異様にしているものがあった、この場にいないシンジ達の代用としてダミー人形が3体置かれていたのだ。
 しかもシンジ達の外観に似せており、動作も地下に設置されたSCEBAI謹製のニューロコンピューターYURIKAによって擬似的にシンジ達と同様の行動をすると言う、ちょっと怖い代物であった。
 地下保安区画の司令室で校長を兼ねる人物、岸田博士が所員A,Bに合図を送った。
「状況スタート」
「了解しました、状況スタート」
 ピンポーンとスピーカーから合図が流れると、それまで張りつめていた空気が一転して和やかで活気に満ちた学園生活のそれに代わった。流石その道のプロたちである。
 その時、キリヤマ改め霧島マナは職員室にいた。
 彼女の前にはICPOから派遣された刑事、春麗が座っていた。
 春麗だけは正式にエヴァチルドレンたちに護衛であることを知らせる予定である。
 いわば彼らの注意を引きつけ、他に疑問が沸かないようにするための囮である。
「それじゃあ霧島さん、教室に行きましょうか」
「はい、先生」
 春麗はジャージに上着を引っかけただけの格好で教室に向かった。
 後にシンジに「トウジみたい」と言われてしまったが、彼女の担当教科は体育であるためそれほどの違和感はなかった。
 教室に着くと春麗とマナはそのまま教室内に入った。
 生徒達は初めて見る顔に興味津々といった表情でマナを見ていた。もっともこの教室内にいる人間達は全員今日が初顔合わせであったのだが、それを気取らせる様なヘマはしていなかった。
「出席を取る前に皆さんに紹介します」
 春麗が教壇に立って宣言すると、マナも微笑みを浮かべて皆を見た。(微笑み魅了/モード男女無差別−パターン3)
 すると、プロであるはずの生徒達もマナのもてなし嬢として訓練された笑みに魅了されてしまい、思わずドキッとした表情になり彼女に魅入ってしまった。
「今日このクラスに転入になりましたキリヤマ マナさんです」
「え゛っ?」  一瞬挨拶しようと口を開き掛けたマナであったが、偽名である霧島でなくキリヤマと呼ばれたことに気付き、そのまま固まってしまった。
「あの、先生。キリヤマじゃなくって霧島なんですけど」
「えっ? あ、いっけない間違えちゃった。ゴメンネ」 チョップ!
 そう言って謝った春麗であったが、彼女の「ゴメンネ」には当たり判定があったため、そのチョップが見事にマナの眉間に決まった。
 不意打ちが見事に決まり見事にひっくり返るマナ。
 春麗もまさかこんな事になるとは思っていなかったため慌ててしまい謝り続けた。
「え、あ! ゴメンネ(ビシッ!)ゴメンネ(バシッ!)ゴメンネ(ベシッ!)」
 続けざまにチョップの連発を喰らったマナはそのままキュウっと気絶してしまった。

 それを監視していた各種機関の者達の間には失笑が漏れていた。
 この寸劇を見ていたICPO春麗上司のコメント「また恥を掻かせおって」
 すぐに状況が終了されたのは当然だった。

 マナが保健室で目を覚ましたのは直ぐのことだった。
「あれ、ここは? 知らない天井だわ」
 彼女は上半身を起き上がらせると周りを見渡した。
 すると小さく縮こまった春麗が隣で座っていた。
「起きた? マナさん。本当に今日はゴメンネ」 ハッシ
 マナは春麗が「ゴメンネ」と言った瞬間に目の前で両腕をクロスさせ、春麗のチョップを受け止めた。伊達に軍事教練で首席は取っていない。
「せ、先生。もう謝らなくても良いですから、(アセッ)」
「え、そ、そうね。こほん、はぁ〜あ。こんな調子で私上手くやっていけるのかしら」
「あは、そうですね」(笑/快活な笑いパターン2)
「そこまでキッパリ言い切らなくても・・・とほほ」
 明らかに落胆した春麗は精神的なダメージからグッタリと頭を下げた。
「ところで先生?」
「なにかしらマナさん」
「今日の訓練は・・・」
「状況は中断、さっきまで反省会があって散々叩かれちゃった。まぁ、名前を呼び間違えたのが悪かったんだけどね。それで、後日再訓練の予定だから今晩は地下施設で宿泊ね。それでお詫びと言っちゃ何なんだけど、アナタ格闘技はやる方?」
「ええ、まぁTDFの格闘術は異星人との格闘戦が前提ですから打撃が主ですけど」
「異星人との・・・まぁ確かに関節が無い宇宙人もいるのかな? あはは、私の世界じゃ宇宙人との接触はしていないから分かんないわ」
「そうですねぇ、サイズを別とすれば6割方は人間と似てますよ、でも中には烏賊みたいなのや何とも形容しがたいのもいますけどね」
「ふぅ〜ん。そんなのとストリートファイトしたくはないわね。それで、良かったら稽古つけて上げるけど」
「そうですねぇ。よろしくお願いします。でも、私強いですよ」(嗤い/挑発)
「へぇ、大した自信ね。それじゃあ少〜し揉んで上げましょう」フンフン
 春麗は鼻歌を歌いながら保健室から出ていった。
「それじゃあ午後8時に格闘技道場で待ってるわ」
「はーい。分かりました先生」
 マナは春麗を見送ると同じく地下施設にいるはずのク・メルに会うべくエレベーターに乗り込んだ。しかも気まずいことにさっき分かれたばかりの春麗と一緒のエレベーターである。
「あの〜、春麗先生。」
「何?」
「先生ってICPOの刑事ですよね」
「ええ、国際犯罪の撲滅の為に世界を駆けめぐる警察機構、それがICPOの理念よ。でもねー今回の時空融合騒ぎでアジア一帯以外の支部とは連絡が取れないのよねー」
「それで一つ聞きたいんですけど」
「機密事項以外で有れば、教え子に対して秘密はないわよマナちゃん」
「先生って恋人はいるんですか」
燃えよ春麗
「恋人!」
 一瞬春麗の脳裏に赤い鉢巻きを締めた日本人男性の姿が浮かび上がったが慌てて脳裏から振り払う。
「誰があんな風来坊なんか」
「ふ〜ん、やっぱり仕事に生きるキャリアウーマンには恋人は出来ないって事ですね」
「出来ないって、マナちゃん。ふふふふふふふふふ、」
 どこか怖い顔を浮かべた春麗が不気味な含み笑いを漏らしながらマナを睨め付けた。
「あ、なんかイヤな予感が」
「別にアナタに対して怒ってなんかいないわよ、ただし。今夜の稽古はハードになりそうだけど・・・ふふふふふ」
「ひぇー」(畏れ/おののきの表情)
「それじゃあ、稽古場で待ってるから、ふふふふふ」
 春麗は不気味な含み笑いを残しつつ警備室の方へ消えていった。
「ふぇーん・・・っと。さて、早速教官の元へ行かなければ」
 マナはそれまで作っていた顔を普段のモードに戻すと、サッサとク・メルの待機室へと向かった。
 彼女はその部屋の扉をノックすると中に向かって声を掛けた。
「キリヤマ マナ、入室します」
「どうぞ入ってちょうだい」
「ハッ、失礼します教官殿」
「(相変わらず堅いわねぇ)待ってたわ、ダメよ慎みを持たなくちゃ」
「は? それは一体どういう事でしょうか」
「あの先生のチョップを喰らって転んだとき、パンツが見えてたわよ少し」
「それは迂闊でした。以後気をつけます」
「(本当に女の子なの? この子)それで、今回のアナタの対応だけど・・・」
「はい、叱責は覚悟の上です」
「特に大きな問題点はないとの結論に達しました。よって明日の再訓練までは自由に行動して構いません以上です」
「・・・了解しました教官殿、それではこれより自室に戻り、一八〇〇より夕食、二〇〇〇より格闘道場にて春麗教官の格闘訓練の後、入浴、二三〇〇就寝の予定であります。それでは失礼します」
「はい、お休みなさい」
 マナは敬礼を決めると踵を返し、部屋から出ていった。
「ふー、硬直した精神では物事に対して柔軟に対処できないのに。仕方ない、ぶっつけ本番で実践して行けばその内何とかなるでしょう」
 ク・メルは誰とも無く肩を竦めると呟いた。

 二〇〇〇=午後八時に道場に行ったマナは、春麗教官の繰り出す非常識なまでの技に翻弄され、止めに気功拳を叩き込まれてそのままノックダウンされてしまった。
 世の中は広い、それを実感しながら彼女の意識は暗闇に飲み込まれていった。

 シンジ達がこの地に引っ越してきてスーパーロボット軍団が結成されるまで後一ヶ月程しかなかった。
 がんばれマナ、君こそが希望のひとつなのだから。




<後書き>
 はぁ〜。詰まった詰まった。
 前々から考えていた題材でしたがネタは出来ても文章にするのはこれまでの5倍以上の困難がありました。(当社比)
 しかも下手したら訓練風景の描写だけで終わっていた可能性も高かったし。
 えらい時間が掛かったせいで、後半に春麗が登場することにもなった訳ですが、これは以前メールを貰ったgrenadennさんのリクエストによるモノです。
 この様に、感想と共に要望をいただければ出来るだけ答えるようにします。
 だから感想を、もっと感想を! 感想のメールこそが次の作品への活動力となるのです。
 さて、これからのあらすじは実はほとんど決まっています。
 第1部はああなるし、第2部もこうなるし、そして第3部でようやくこの時空融合現象に一段落着く事になるのですが、ふっふっふ、何もかも元通りになってハッピーエンド、では終わりません。歴史は不可逆なモノなのです。
 しかし、あらすじは決まっていますが登場人物は幾らでも変更できますので、リクエストして下さいね。
 そう言えば最近ハマっているDUAL! も出したいなぁ、もう少し設定が分かってからでないと出せないけど。
 それではこれで失礼をば!

「ちょっと待ちなさいよ」
 ババーン、アスカ参上!
「どういう事ぉ」
 アスカはこちらの方を向くと指を突きつけた。
「呑気に解説なんかしてるんじゃないわよ」
 出来れば解説者と話をするってパターンは避けたかったのですが、ダメですか?
「絶対ダメ、納得行かないもの。どうしてアタシが出てこない訳ぇ。世界はこのアタシを求めているって言うのに」
 何故そこまで言い切れるかなぁ・・・。まぁ確かにこのEINGRADにメールをくれる人の大多数はアスカ人もしくはLAS人ですが。
「でしょう? だったらさっさと私の出番を書くこと、良いわね」
 そうは行きません、c−partはほとんど完璧に元連合艦隊派遣エマーン通商先遣護衛艦隊が舞台ですから、海外が舞台だって言うのにアナタを出すことは物理的に無理です。
「どうしてもぉ?」
 うっ、泣きついても無駄です、もう決めたんです。その代わり12話では活躍できるはずです。それまで我慢して下さい。
「分かったわ、その代わり・・・LAS風味を効かせるのよ」
「いいえ、LRSこそが正しい道よ」
「出たわね、レイ」
「ひとを幽霊みたいに言わないで」
「レイ・・・あなたはいったい何なの、ATフィールドを使えるアナタは。もしもアナタが使徒だって言うなら私は、アナタのことを・・・!」
 アスカは心の整理がつかないのか涙ながらに心中を吐露した。
 しかし、そこら辺は本編でやる予定なのでここでは無し! じゃあそう言うことでサヨナラー
「あっ、逃げた。待ちなさいよ、こらアインクラート」
「え、あれってエイングラッドじゃないの」
「EINGRADのEINは比べるのもおこがましいけどEINSTEINのEINと同じじゃんって言ってる間に逃げた。こらーっ待ちなさーい」
 アスカの声がフェードアウトして行くのと一緒にレイもその姿を消した。
 ふぅ、ようやく行った。
 それでは第11話c−partをお楽しみ下さい。





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part−cへ続く



































「いいえ、LMSこそが正しい道の筈。霧島マナ、シンジくんのハートをゲットする為にもガンバよ」
「アナタの任務は護衛でしょ。余計なことをして事態を複雑にしないでちょうだい」
「はっ、了解しました教官殿」
(堅い、堅すぎるわ、この娘) スーパーSF大戦のページへ



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