スーパーSF大戦 第11話 c−part.「接見! エマーン商業帝國先遣艦隊」



 皇紀弐千六百壱年或いは西暦1941年、我が大日本帝國海軍連合艦隊によって行われる予定であった真珠湾奇襲攻撃はその準備段階で頓挫することとなった。
 読者諸氏も経験した通り驚天動地の出来事が我が邦友達のみならず、この地球上に存在する全ての人間に襲いかかったのである。
 原因は未だ以て不明であるが、平行世界(異なる歴史を持つ兄弟世界の事であるらしい)がまるでゴッタ煮の様に混ざり合ってしまった事は読者諸氏も身を以て体験された筈だ。その後の混乱も正直筆舌に尽くしがたい。
 だが、我が帝國にとっては大東亜戦争が回避されたことは天佑であったかも知れない。
 何故ならばほぼ全ての世界で我が大日本帝國は米國との決戦に敗れる事は歴史的事実であったからだ。
 さて、政府筋の発表によるとこの日本列島には様々な世界の日本国が出現している事が確認された。
 現在ではそれらは連合して一つの政体を作り上げた訳であるが、それらは主に我らの時代より五〇年から六〇年もの歳月が経っている世界が多かった。
 それでは、五〇年もの技術格差が存在する我らが連合艦隊は無用の長物と化してしまうのであろうか?
 しかし、幸いなことに、それは回避する事が出来たのだ。
 連合国側に支配された大日本帝國では、全ての侵略行為を禁ずる憲法が制定された為に大規模な海軍力、特に航空母艦の保有は政府内からも行うべきではないとされた事から、この新世紀の混乱の中集まった軍事組織で唯一我らの連合艦隊だけが航空母艦を保有していたのであった。
 さりとてハッキリとした国際情勢が見えない為、仮想敵国も定められない事から矢張り連合艦隊不必要説が国会でも流れていた様であるが(この時代の内閣には陸、海軍大臣が存在しない!)、今回我々の世界で言う欧州に存在するエマーン商業帝国との通商交渉のための先遣隊の護衛としてとして今、太平洋を南下しているところである。
 交渉の様子などは後日、報道する予定である。乞うご期待。

 帝國速報「社説」皇紀弐千六百壱年4月1日改め新世紀元年6月4日より






 帝都日報社会部所属の記者、高垣進策はエマーン帝国との通商条約を結ぶためスエズを目指して進む先遣通商艦隊の上にいた。
 彼はようやくコンタクトのとれた未知の文明との交渉に赴く為に大胆に改造されこの艦隊に加わった元連合艦隊籍のフネと護衛艦の姿を眺めていた。
 このエマーン通商先遣交渉団護衛艦隊には航空母艦「赤城」「蒼龍」、巡洋戦艦「穂高」、イージス艦DD173「こんごう」、垂直離着陸機搭載型護衛艦DDV001「あかぎ」対空駆逐艦、対潜駆逐艦、高速戦闘支援艦AOE「しこつ」等の連合艦隊艦と自衛隊の護衛艦群高速艦を中心とした艦隊と青所属の6号艦・高機動攻撃型潜水艦「りゅうおう」(その水中速度なんと40ノット!)が空中、海上、海中の情報を有機的に組み合わせ未知の驚異に対して警戒しつつ現在インド洋上を航海していた。
 尚、連合艦に所属していた旧式艦は日本各所のドックにて応急的に近代化改装が行われていた。
 改造のポイントは次の通り、通信用施設と索敵用電波探知機の設置と索敵電探連動対空制御システムの構築と艦隊データーリンクシステムの搭載。
 対空兵装の近代化として各対空砲塔に射撃管制システムからの射撃目標の指定が成される耐熱耐衝撃液晶表示板の設置及び対空砲弾の近接信管の採用。更に91式携帯地対空誘導弾の配備が行われた。
 又、船の機関にも手を入れていて、発電器をより高性能な物に変更していたため多量に消費される電力消費に対応できるようにした。
 その情報処理系を管制するために20世紀後半の自衛官が派遣されていたが、旧軍の軍人がいざという時に操作できるようにタッチパネル式の漢字を多用した入力システムも備え付けられていた。
 大空を舞い、艦隊周囲を周回しているのは「赤城」から飛び立ったSH−60J対潜哨戒ヘリと九七式艦上攻撃機に電子装備と発動機の近代化改修を施した九七式対空型/対潜型電子警戒機の3機種である。
 短時間しか準備期間が無かった為、エンジンの換装などの大幅な変更は出来なかったが点火プラグ、ピストンリングの材質及び形状の向上、エンジンオイルの変更、ハイオクタン価のガソリン等の民生技術の採用だけで飛躍的に性能が向上した「誉」一一型発動機は予想以上の性能を出していた。
 最初は燃料混合比等の自動調節機能なども入れようとしていたのだが歴戦の勇士達はそれを好まなかった為取りやめになったと云う経緯もあったのだが、その他の改良については非常な好評を得ていた。
 その他「赤城」「蒼龍」に搭載された零式艦上戦闘機二一型改と九九式艦上爆撃機改も新素材による機体構造の強化及び軽量化と防弾板の設置(風防の硝子もただの板ガラスから防弾式のアクリル板に変更された)、発動機の性能向上この2点は防御力の向上と機動力の向上をもたらした。しかも重量はかさんだが機動力の向上によってその身軽さは損なわれていなかった。
 その他にも通信/航法用の電子システムの搭載、緊急推進用のロケットモーターの搭載、AAM−3赤外線誘導空対空ミサイル&AIM−7F/Mセミアクティブ・レーダーホーミング大型空対空全天候ミサイルの搭載と簡易電子装備の搭載と二〇ミリ機関砲の改良等が行われ戦闘能力の向上が図られた。
 これもCAD(ComputerAdidDesign=電子設計技術)とCAM(ComputerAdedMachinary=電子機器による加工制御生産技術)を総合的に組み合わせた工業システムが確立されていたからである。
 もっとも、戦力の向上は行われたがそれが二〇〇〇年代以上の科学技術を持つ仮想敵国の軍隊にどれだけの有効性を持つかは疑問であった。
 ただ、数の有効性から護衛に限れば任務に成功する可能性は高かった。
 さて、エマーン通商艦隊は現在インド洋沖100キロの位置を航行中であった。
 沖合を通ればそれだけ危険が少ないのだが、目的地に着くまでの航路近くに存在する文明を調査する任務も与えられていたのだ。
 この場合、ふたつの任務の兼任は危険性が高いのだが・・・。
 事件は6月9日一二:〇〇に発生した。
 艦隊の旗艦は巡洋戦艦「穂高」であった。
 この艦が旗艦に選ばれたのは一番装甲の厚く、少々の事では沈まないのが理由であった。
 その艦隊司令部に連絡が入ったのは一二:〇二、上空を旋回し対空監視をしていた九七式対空電子哨戒機の電探に感が入った。
 直ぐにそのデーターはデーターリンクシステムによって艦隊司令部に届けられ、対空哨戒図に映し出された。
 艦隊指揮官は南雲中将、航空自衛隊の派遣参謀杖鏡空将、交渉団の遣エマーン武官の樫村大尉がそれを見つめた。
 杖鏡空将は自衛隊派遣の電探オペレーターに訊いた。
「所属不明機だと?」
「はい! 4つの所属不明の物体が現在高度2万メートルをマッハ2のスピードでこちらに向かって降下中であります。IFS(敵味方識別信号)の反応は有りません」
「ふむ、IFSに反応が無いと言うことは少なくとも味方ではないな。南雲中将、どうやら味方ではない機がこちらへ向かって来ているようです、通信による敵味方の確認を行いますが万一に備えて対空戦闘準備を発令してもよろしいでしょうか」
「そうだな、第1種警戒態勢の発令及び対空戦闘準備」
「了解しました。全艦に通達、第1種警戒態勢発令、対空戦闘準備。各艦のデーターリンクの最終チェックを行え。初の実戦だ、気を引き締めて行け」
 杖鏡空将が復唱すると発令所から輪形陣を取っていた艦隊に連絡が渡った。

 高垣進策は遣エマーン通商団が詰めている「穂高」甲板上でぼんやりとインド洋の暑い海を眺めていたのだが突然警報が鳴り響いたかと思うと、ハッチから無数の水兵が飛び出してきて甲板上に設置された対空機銃座に取り付いた。
 彼らは機銃座に新設された液晶画面のカヴァーを剥ぎ取ると電源を入れ、訓練通りに目標に向けて銃口を向けた。
 進策は何事かと一番近くの機銃座の水兵に声を掛けた。
「何事ですか?」
 すると水兵は殺気立った声で怒鳴り返してきた。
「何って空襲に決まってんだろ! 民間人はさっさと避難しろ!」
 そう言うと水兵は側のハッチを指さし、その後は液晶画面に指示された方角を睨み付けた。
 進策は手元のライカを眺め、新聞記者として交戦の様子を撮影したい衝動に駆られたが肩を竦めるとハッチの中へ飛び込み指定された部屋に駆け戻った。
 その頃航空母艦「赤城」「蒼龍」の甲板上は戦場になっていた。
 甲板にズラリと並ぶ零戦に整備員達が群がり二〇ミリ機関砲の弾薬補給、AAM−3赤外線追尾式誘導弾の取り付け安全装置の解除、燃料の補給、機体コンディションの最終チェックを行い、それが終わった時点でパイロットに整備状態の報告がされて行った。
 零戦はパイロットを伴った時点でエレベーターに乗せられ順次飛行甲板へと運ばれて行く。
 それらは甲板後部に集められ、暖機運転を行いつつ発進の時を待った。
 本日は晴天の上に風が弱かったので、空母は風上に向かって全速力で疾走を始め合成風力を少しでも高めようとした。無論艦隊全体もそれに従う。それについてこられる艦しか今回は派遣していないからだ。
 ようやく満足できる風力に達した飛行甲板ではレシプロエンジンの立てる音とプロペラの風切り音が鳴り響いていた。
 甲板指揮者がフラッグを振ると甲板整備員達は急いで艦橋脇の避難所に待避した。
 それを確認すると甲板管理者がパイロットにゼスチャーで発艦を促した。
 パイロットはそれに答え、脚のブレーキを外すとエンジン回転数を上げプロペラピッチを最適値へと変更した。
 その途端、プロペラから聞こえていた風切り音が重く変化し、機体後部へ送る空気の量が激増した。
 そしてそのまま力強い音を立てて甲板を走り始めた。
 機能向上の為の改修を受けた零戦はいつになく好調なエンジン音を響かせながら排気音を響かせながら順々に大空目掛けて駆け上がっていった。
 「赤城」からは零戦が三〇機、「蒼龍」からは九九式艦爆改と九七式艦攻改が一〇機ずつの計五〇機、そして護衛艦「あかぎ」からはハリアーUが六機スキージャンプ型甲板から発進し高度五〇〇〇メートルで編隊を組みアンノウン機の迎撃体制を整えつつあった。
 その頃イージス艦「こんごう」ではアンノウン機に対して交信を試みようと必死の努力が続けられていた。
「どうだ、連絡は取れたのか」
 「こんごう」艦長の豊田一佐は徐々に接近しつつある4つの光点(ブリップ)を睨みながら訊いた。
 それには交信の様子を見ていた副長が答えた。
「いえ、未だに・・・」
「そうか、それでは自衛艦初の戦闘に突入も止む無しか」
「そうですね」
 この混沌とした現状に於いて、自分たちの自衛隊の力が必要とされているのは皆承知していたが、実際に「敵」と交戦するとなると学校で受けてきた人権教育、同じ人間同士が血を流すことに対して残念な想いが浮かび上がってくるのを押さえきれなかった。
 そこに通信士の叫ぶような報告が入った。
「艦長! 交信が入りました! アンノウン機よりです」
「何! それで所属は!? 交戦の意志の有無は?」
「は、ただ今より確認します。(以後英語に拠る会話)こちら日本国自動防衛軍(JapanSelfDefenceForce)、貴機の所属を知らせよOver」
<こちらマルスベース第2次地球降下部隊スコードロン第21機甲戦闘中隊所属スティック・バーナード中尉。現在インビットの追撃を受けている、至急援護を頼む>
 この交信を訊いていた豊田一佐は通信士のマイクを奪い取るようにしてスティック中尉に問い質した。
「こちら日本国自衛隊所属遣エマーン通商団護衛艦隊垂直離着陸機搭載型護衛艦「あかぎ」艦長の豊田一佐だ、インビットとは何だ、現在我々は護衛任務中のため余計な戦闘を行う余裕はない。君の所属とインビットの関係を説明せよ」
<なに?! 戦闘中だぞ、クソ! インビットとは外宇宙より地球を侵略した化け物のことだその位知らない訳ないだろう! 私の所属する第21機甲戦闘中隊は火星駐留軍より編成された第2次地球奪還軍である。大気圏突入の際未知の障壁に阻まれ機体にガタが来ているんだ、着艦の許可を求める>
 豊田一佐はマイクを切ると艦隊無線に切り替え、旗艦に現状を報告した。
 旗艦「穂高」C.I.C戦闘指揮所では「攻撃だ!」「いや、様子を見よう」と参謀達の間で激しい意見交換が行われた。
 その様子を見ていた南雲中将であったが今迄では考えられない新兵器を手にしたからであろうか、普段よりも積極的な行動に出た。
「打って出る! 何故ならばいま我々の持つ兵力が世界に通用する物であるのかどうかを試す必要があるではないか。ならば積極果敢に敵に挑み、実地を以て教訓と成すべきである。航空撃滅戦の後、全艦の火力を以て敵に挑むべし全隊第一種戦闘配置直ちに対空戦闘準備」
 南雲中将がそう号令を発すると参謀達はそれらを各担当箇所に伝え始めた。
 中将はその様子を満足そうに眺めていたが、横に控えていた杖鏡空将が呟く様な声で南雲中将に訊いた。
「南雲中将、救援を求めてきた火星軍の戦闘機については如何致しましょうか」
「ふむ、それは君の方で収容してくれたまえ、変わった甲板をした君たちの小型空母ならばある程度自由に動けるだろう」
「はぁ、了解しました」
 杖鏡空将は南雲中将の許可を得ると対空戦闘の中枢となるイージス艦DD173「こんごう」とDDV001「あかぎ」に連絡を取り、未確認飛行物体の識別コードUN−01を友軍機FR−01、UN−02〜04を敵性機AL−01〜03と再入力し直した。
 また、「あかぎ」は輪形陣中央部から辺縁部に移動しスティック中尉の収容準備を始めた。

 戦闘開始

 スティックは自機であるブースターとしてトレッドを接続した宇宙/航空可変戦闘機レギオスを戦闘機形態であるアーモファイターから高機動戦闘形態であるアーモダイバーへとスイッチを切り替えた。
 すると後部をトレッドと接続しているレギオスのエンジンユニットが機体下部にシフトしロボットの足に変形した。
 足の先端からロケットを噴射し急制動を掛けたレギオスは急激にスピードと推力を失いM2からM0.5までスピードを落とした後急降下していった。
 後ろから追撃していたインビットの戦闘ユニット/イーガーは急にスピードを落としたレギオスに対応しきれずオーバーランしてしまった。
 慌てて追撃しようとバランスを崩したところに無数のミサイルが殺到した。

 少し時を戻す。
 AIM−7F/Mセミアクティブ・レーダーホーミング大型空対空全天候ミサイルを搭載した九七式艦攻改と九九式艦爆改はDD173イージス艦「こんごう」から送られてくるデーターから敵機群から友軍機が離脱したことを確認した。
 同時に九七式艦攻改電子偵察機の下に吊したレーダーポッドに敵機の照準諸源が入力されたことが後部座席に設置されたディスプレイに表示された。
 特殊噴進弾攻撃部隊隊長の後藤大尉はクリアーなデジタル無線機で隷下の九七式艦攻改隊と九九式艦爆改隊に命令を下した。
「特殊噴進弾攻撃部隊各機に告ぐ、AIM−7F発射後AIM−7F電子誘導機以外は輪形陣外部の遊弋ポイントにて待機。電子誘導機は護衛の零戦と共に誘導終了まで敵機に接近、後に離脱。AIM−7Fは距離一万にて発射、以上通信終わり「送レ」」
 その通信を受け取った各機は翼をバンクさせ意思を表示した。
 九七式艦攻改と九九式艦爆改は重いミサイルを吊しながらも着々とその距離を詰めていった。
 やがてディスプレイに表示されていた相対距離が一万メートルを切った。
 だが、直ぐにはミサイルは発射されなかった。
 後藤大尉は距離が一万に達したのを確認したが直ぐには発射釦を押さなかった。
 しかし、何か手応えを感じた瞬間、距離九千九百五十八メートルで発射釦を押し込んだ。
 既に距離一万三千メートルの時点からロックオンを告げる警告音がコクピットに鳴り響いていたが、それに加えて機体下部のハードポイントからミサイルが切り離される警告音が加わった。
 機体に掛かっていた負荷が無くなった瞬間後藤機は100メートルも上昇してしまいパイロットは慌てて水平を保つ様に操縦桿を操った。
 ベテランの飛行兵の操縦により重い機体は直ぐに安定を取り戻すと大きく旋回しながら遊弋ポイントに向けて旋回を始めた。
 AIM−7Fは後藤機の機体から切り離されると10メートルほど落下した後、赤い炎と白い煙りを吹き出しながらM2の猛スピードで前方の空へと消えていった。
 後藤機がミサイルを発射したことを確認したその他の機体も一斉にミサイルを発射した、その数総計20発。通常の空戦なら全機撃墜間違いなしの過飽和攻撃である。
 インビットのイーガーはレギオスを追撃しようとしたバランスを崩した瞬間をAIM−7Fに襲われた。  3機の内1機は後藤機の発射したAIM−7Fをまともに喰らい一瞬でその体をバラバラにしながら空中へ四散した。
 しかし、残りの2機は突然反動推進のロケットモーターを停止しまるで石のように落下を始めた。
 そのスピードは接近中だったAIM−7Fの射角から一瞬の内に外れ、必死で追尾しようとしたAIM−7Fは急角度で追いすがろうとしたがその構造が許す最大限のG(折り曲げ加重)を越えてしまい次々と爆発四散するか、誘導圏を外れ全てが流れ弾として飛び去ってしまった。
 追ってくるミサイルがないことを確認するとイーガーは海面ギリギリを飛行中のレギオス目掛けて追撃を開始した。
 艦爆艦攻隊の攻撃が失敗に終わったことを知った零戦隊は迫りくるイーガー目掛けて最短距離を取り急降下を開始した。
 零戦改は最高スピード550キロ毎時で接近しつつ、AAM−3赤外線追尾式誘導弾のシーカーをオンした。
 しかし、イーガーは発する赤外線の量が少ないのかなかなかロックオンしなかった。
 だが、距離二〇〇〇メートルまで接近すると次々とロックオンし始めた。
 既に兵装自由使用の命が出ていたため、ロックオンされた機体から次々にAAM−3が発射された。
 零戦乗りとしては格闘戦こそがその真髄と考えられていたため機体を重くするミサイルは出来るだけ早く厄介払いしたかったのがその理由である。
 しかし、次々と襲いかかるAAM−3をイーガーは軽々とかわしていった。
 最後の航空迎撃である接近戦では飛行速度はイーガーが完全に勝っていたため、必然的に一撃離脱戦法を取らざるを得なかった。
 零戦改は3機毎に小隊を組み、大きく3方向から接近していった。
 最初に接敵したのは坂巻中尉率いる小隊であった。
 海上10メートルを飛ぶように(無論飛んでいるのだが)進むイーガーに命中弾を与えるため坂巻少尉はイーガーと同じ高度を斜め前方より近付いていった。
 この高度では大きなうねりによって生じた三角波と接触し墜落する危険が高かった。
 現に波飛沫が零戦の防弾風防に掛かっていた。
 しかし神経を削り取るような恐怖感を克服し、3機はイーガーの前方九〇〇メートルまで接近した。
 彼らは京セラ製の光学照準機で微妙な迎え角をつけ、二〇ミリ弾を連射しながら急速に接近していった。
 照準機の中の敵機イーガーの姿が急激に大きくなり、小さな点に過ぎなかったイーガーの姿が細かい部分までハッキリと見えるようになり一瞬の後、すれ違った。
 残念なことに照準機と実際の弾道に微妙なズレが見られた為命中弾はたったの一発(一六〇〇発中)であった。しかも敵の厚い装甲に弾かれ、ダメージは皆無であった。
 しかし、彼らはその事を気にする余裕はなかった。
「坂巻中尉、あれは何なんでありますか!?」
 隊内無線を開いて部下の吉富一飛曹が恐慌を忍ばせた叫び声で訊いてきた。
 しかし、坂巻中尉には返す答えは無かった。
 空を飛ぶ存在は彼らの中ではある程度の許容範囲を持っているはずであった。最低でも翼を持ってその揚力で飛ぶ、確かに未来文明ではヘリコプターなどの垂直離着陸機を持っていたが、それでもその原理は理解できたのだ。
 しかし、今彼らが見た物はそれらとも完全にかけ離れた物だった。
 赤い体色をしたそれは正に空飛ぶ一つ目のカニであった。
 彼らはすぐさま上昇するとトンボを切ってイーガーの飛び去った方へ追撃を始めた。

 その後も零戦の小隊が代わる代わる接近し20ミリ機関砲を浴びせかけた。
 だが、相対速度が訓練時の想定速度を大きく上回っていた為、ただでさえ命中率の低い20ミリ弾の命中率は1パーセントを下回っていた。
 たまたま命中した弾丸も分厚い装甲に阻まれダメージを与えられなかったのだ。
 零戦隊の追撃を振り切ったイーガーは真っ直ぐにレギオス目掛け突き進んでいった。  実はイーガーなどのインビット達にはHBTと云うレギオス等を創った地球文明が生み出した、水素を主原料とする高エネルギーシステムの反応を感知するセンサーを持っていたのだ。
 その為にガソリンを燃料とするレシプロ航空機は完全に無視されてしまっていたのである。
 もっともイーガーと零戦が巴戦を行ったら運動性では互角かも知れないがイーガーの射角の広いレーザー光線砲によって勝負にならなかったであろう。
 航空機の迎撃網が突破された事を知った「穂高」C.I.Cではイージス艦のデーターリンクにより艦隊対空戦闘の準備が始まっていた。
 輪形陣を構成している防空駆逐艦の対空機銃、両用砲、携帯用SAMが接近してくるイーガーの方向へと砲口を向けた。
 まず、友軍機と認識されたレギオスが輪形陣の端をかすめるように接近し、シグナルに導かれ「あかぎ」の甲板上に垂直着陸した。
 するとスティックは接続していたトレッドを切り離し、「あかぎ」甲板上でアーモソルジャー、つまり人型の戦闘ロボットへと変形した。
 それは80mmビームキャノンを構えると射撃体勢に入った。
 甲板上では着陸管制官が突然人型に変形した航空機に度肝を抜かれて呆然としていた。
 子供の頃見ていたTV番組では良くあるトランスフォームであったが、実際に見てみると圧倒されてしまう程の迫力があるのだ。
 スティックがそのまま攻撃態勢でいるのに気付いた艦長の豊田一佐はステルス形状効果を持つのっぺりとした艦橋からスピーカーでスティックに連絡した。
「スティック中尉、これから我が艦隊の迎撃射撃が始まる。照準に狂いが生じる可能性があるので発砲は控えて貰いたい」
「はぁ、しかし・・・、いえ了解しました。ただし、輪形陣の中に入ってきた場合は迎撃の許可をお願いします。多分奴らは私を追ってくる筈ですから」
「うん? 分かった。各個艦毎の対空戦闘に入ったら連絡をする。以上だ」
「Thank you Sir,」

 遣エマーン通商団護衛艦隊旗艦「穂高」はその主砲である四〇サンチ砲を遙か海上へと向けた。
 艦橋の高楼にある主砲統制室では砲術長が完全自動制御となってしまった弾道計算を眺めていた。
「ふぅむ、確かに精度が良くなったのは認めるが、何か味気ないのぅ」
 白ひげを蓄えた貫禄のある初老の将校は凄まじい勢いで数字が流れて行くコンピューター画面を眺めていた。
 この「穂高」に設置された並列式スーパーコンピューターはイージス艦からのレーダー情報や穂高艦橋直上に設置された各種測定機器による諸源を入力され最適な射撃データーを弾き出した。
 オペレーターが射撃データーが揃ったことを砲術長に報告すると彼、宮島大佐は重々しく肯いた。
 オペレーターが自動射撃システムを起動すると、「穂高」の上に配置されていた無骨な主砲(前甲板・三連装1基、連装1基/後甲板・三連装1基)が音を立てて回転した。
 方角を定めるとそれらの砲塔は射角を求めてフラフラと動き続けた。
 実際は空中移動目標を撃墜するため、最新の諸源によって弾き出された結果を追従しているに過ぎない。  既に各砲塔には近接信管を組み込んだ対空用の主砲弾である三式弾改が装填されていた。
 彼女の甲板では先ほどまで水兵達が対空機銃座に着いていたのだが、主砲発射の合図と共に待機所へと姿を隠していた。
 何故なら、四〇センチ砲の射撃時に発生する熱風と爆風による衝撃波は凄まじく、生身の人間が甲板上に立っていたとすると衝撃だけでバラバラになってしまうからだ。
「敵機の距離二〇〇〇〇メートル。射撃準備完了」
「射ェッ!!!」
 砲術長の号令と共に主砲の引き金が引かれた。
 ドカーン! と音と云うよりも地鳴りのような衝撃が発生し「穂高」の船体を揺るがせた。
 だが、各砲塔の砲は一発ずつしか発射されなかった。
 実は同時に連装砲を撃つと、隣り合った砲弾が発生させる衝撃波により命中精度が低下する事が知られていたからだ。(プラス・データーが揃っていたのが現代式の単装砲の物しかなかった為、連装砲射撃時の弾道に与える風のデーターが無かったのだ)
 一〇秒後更に三発の三式弾が目標目掛けて山なりに飛翔していった。
 穂高の艦橋では、電探が捉えた主砲弾と敵機の映像がディスプレイに表示されていた。
 見る見る両者は接近して行き、重なった。

 主砲より打ち出された砲弾は、ほとんど水平に近い弾道軌道を描きながら敵機に近付いていった。
 そして、計算通り敵機の前方50メートルまで接近した瞬間に弾頭より発せられていた電波が敵機に反射され、弾頭の受信機に受信された。
 直ちに信管に電気が走り、弾頭の炸薬を炸裂させた。
 炸薬の周りに詰め込まれた野球のボール位の鉄球と弾頭の破片が無数に飛び散り半径六〇メートル以内に存在した全ての物を引き裂いた。

 遠くから、対空駆逐艦から見えたその光景は非常に綺麗と言える物だった。
 突然敵機の1機が立て続けに起こった3発の花火のような閃光に包まれたかと思うと周辺に水柱が立った。
 50秒後に崩れた水柱の中にはインビットの緑色の体液に染まった海水が漂っているだけだった。
 1機撃墜、残り1機。
 そのイーガーは海上15メートルの高度を脇目も振らずに「あかぎ」艦上のレギオス目掛けて飛んでいた。
 輪形陣の外殻を占める対空駆逐艦の射撃圏内に入った途端、まるで船が爆発したかの様な勢いで、ありとあらゆる対空砲火がイーガー目掛けて飛んでいった。
 だが、相対速度がほとんどマッハに近いこの状態では例えコンピューター制御による射撃で近接信管を用いても容易に直撃弾が出るわけではなかった。
 一つ誤算だったのは対空砲撃の発する熱戦が強烈すぎて、赤外線を頼って誘導する携帯用対空誘導弾が使えなかったことだ。
 それでも数多くバラ蒔かれた砲弾の破片を浴びてイーガーの装甲には数多くの傷が付いていた。
 続いて自衛隊の護衛艦からハープーンSSM計12発が発射された。
 撃ち出された直後のスピードは目で追える程度の緩やかなモノであったが、見る見るうちに音速を超え視界から消えていった。
 だが、インビットはエネルギーを感知するシステムを持っていた。
 その為、慣性の力によって接近する大砲の弾と違い、エネルギーを発っしながら近付いてくるミサイルはイーガーによってシッカリと捕捉されるモノであったのだ。
 本来なら避けようがないレーダー照準のハープーンSSMであったが、イーガーは軽々とそれを避けきってしまったのだ。
 しかし、イーガーの必死の突撃もイージス艦「こんごう」の近接防御の射程に入った瞬間終わってしまった。
 ドップラーレーダー等の最新技術によって精密観測されたイーガーの座標に向けて単装速射砲の鎌首が向けられ、20mmCIWSの弾幕が振りまかれた。
 20mm弾は戦車並のイーガーの装甲は破れなかった物のその前面装甲に一条の傷を付けた。
 そして1秒間隔で次々に撃ち出された五吋(127ミリ)砲弾がイーガーの曲面装甲に次々と弾かれながらも遂に中央のひとつ眼に命中した。
 中枢神経系を打ち抜かれたイーガーはグラリと体勢を崩すと海面に激突、そのまま回転しながら海面を走っていたが2本のカニのハサミの様な腕が弾け飛び2本しかない脚も消し飛び大爆発と共にその姿を消した。
 「こんごう」と「穂高」のCICのディスプレイから最後のブリップが姿を消した瞬間、ホッとした空気が流れた。
 「穂高」CICでは南雲中将が戦闘終了を宣言し、第1種戦闘態勢から第2種警戒態勢への移行を指示した。
 その放送が流れた瞬間、それを勝利宣言と受け取った艦隊隊員達の歓声が響いた。

 「あかぎ」飛行甲板上、可変戦闘機レギオス。
 全てのイーガーが撃墜されたのを確認したスティック中尉は人型のアーモソルジャー形態から飛行機に手足を付けたようなアーモダイバー形態へ移行させ、イグニッションを切った。
 甲板員が慌てて駆けつけると彼はコクピットから降りヘルメットを脱いだ。
 彼はパイロットスーツとは一風異なった装甲服に身を包んでいた。
 アメリカ風の軍服を着た自衛官達とはかなり毛並みの異なった戦闘思想に基づいた兵器体系を持っている為であろう。
 そうこうしていると艦橋から士官が一人出てきてスティック中尉をミーティングルームへと連れて行った。

 インド洋上での迎撃戦から一〇日が過ぎ、いよいよ中近東は紅海のスエズへと遣エマーン通商団を乗せた護衛艦隊は到達した。
 その後、敵対的な勢力による攻撃などは発生しなかった。
 だが途中で幾つかの新たな文明との接触があり、それらについては後日改めて通商団を派遣することになっていた。
 さて、先の戦闘で保護したスティック中尉だが、その目的地であるアメリカ大陸へ渡りたいという意向から護衛艦隊が日本に帰還したあと在日米軍によるアメリカ調査団と共にアメリカへ渡るという手筈になった。
 勿論、それと引き替えにレギオスの構造やエネルギーシステムのデーターを引き替えにしたが。
 なにしろ現在の日本列島は海外貿易が異変前と比べて格段に減っており、早く自前で調達できる安価なエネルギーシステムの確立が求められていたのだ。
 その点HBTシステムは水素をその基本としているので水資源が豊富な日本列島向けのエネルギーシステムであると言えた。
 さて、艦隊はエマーン商業帝國との会合ポイントへと集結していた。
 現在でも艦隊は未知の敵勢力の攻撃を警戒して対潜哨戒機や駆逐艦による水中監視を続けている。
 ただ、紅海は海底の形状が複雑であった為、監視は大洋に比べて難しかった。
 予定よりも一日早くポイントへ到着していたため夜間を通じて警戒に当たり、何事もなく翌朝を迎えることが出来た。
 そして予定会見時刻の09:00を目前とした08:50、地平線の向こうから複数の空中移動物体が「こんごう」の3次元レーダーに捉えられた。
 それの反応は駆逐艦ほどもある大型の物体なのだが、その速度は極めて低速だった。
 人類の生み出した飛行物体でこの動きに該当する物はツェッペリン製の飛行船位の物だった。
 その為、「穂高」にいたエマーン交渉団の中にいた文明学者はエマーンを一九〇〇年代のドイツ程度と予測していた。
 南雲中将は直ぐに航空母艦「赤城」から上空支援機である零戦改を30機、そして機動航空護衛艦「あかぎ」からハリアーU攻撃機3機が偵察に飛び立たせた。
 「あかぎ」から飛び立ったハリアーU3機は編隊を組んで目標へと向かった。
「米崎一尉」
「なんだ? 鹿島三尉」
 ハリアーU搭乗員である鹿島三尉は小隊長である米崎一尉に編隊無線で呼びかけた。
「エマーンってどんな奴らなんですかねぇ」
「さぁな、少なくとも人間だと思うが、それだって確証があるわけじゃない。少なくとも日本人とアメリカ人くらいは考え方に違いはあるだろうな、何しろ奴さん達は帝國を名乗っているんだぜ」
「本物の帝国主義者だったら厄介ですね」
「ああ、まぁそれでもユーラシア大陸を挟んで両端にいるわけだから直接侵略って事はないだろうがな」
「交渉は上手く行くんでしょうか」
「わからん、そこら辺は政府の仕事だ。まぁ俺達に出来るのはその交渉を行わせる為の場を確保すること位だ。な、・・・。さて、そろそろ接触するぞ、火器の安全装置を再チェック。間違えても暴発させるなよ」
「了解、火器の再チェック問題有りません」
「小隊長、三番機も問題有りません」
「了解した、よし、それでは一番先頭にいる未確認物体の側方三〇〇メートルをパスし、R一〇〇〇でターン、先頭の飛行物体に平行し飛行する」
「了解」
「了解」
 相手に警戒させない為に速度を落としたハリアーUは少しずつ目標に向かっていった。 点であったそれが肉眼で確認できるようになると、相手が飛行船レベルの文明を持つ訳ではないことが分かった。
「小隊長、あれは一体なんでしょうか」
 鹿島三尉は驚きを隠しきれずに米崎一尉に訊いた。
 彼らの目の前に浮いていた物は横幅30メートル縦長100メートル高さ15メートルの、双胴型の胴体にトタン屋根のような傾斜をつけた正に空飛ぶ家そのものとしか形容出来ない物であった。
 勿論硬式飛行船なんかではない、恐らく反重力機関以上のテクノロジーを駆使していた。
「そんな事はオレにも分からん。しかし、これは、少なくとも俺達よりはレベルが上の文明を相手にしなくてはいけないようだな」
 米崎一尉がそう呟いている頃、その飛行物体の艦橋では。
 先頭のハウス(エマーン人たちも家と云う認識をしていた)にはこの通商の交渉頭として任命されていたエマーン評議会で大きな勢力を誇っていたラース家の家長カルゾ・ラースの妻エイミー・ラース(22)とその3歳になる子供ミムジィ・ラース、そしてつい先日双子の妹がもう一つの勢力トーブ家に嫁いだばかりのシャイア・メイスン(17)がいた。
 艦橋では会見ポイントから急速に接近してくる3機の機体を解析していた。
「エイミー様」
 アナライザーを操作していた男がエイミーに報告した。
「あの機体からは重力制御システム並びに慣性制御システムを使用している如何なる兆候も見あたりません」
「あらまぁ、それはつまり我々の知らない未知のシステムを使用しているって事?」
「いいえ、どうやら油を燃やしてその燃焼ガスを吹き出して推力を得ているようです、それプラス機体の揚力も使用していますね。かなり原始的な代物です」
「ははぁ、なるほど。どうして貿易品の中に地下オイルが入っているのか分からなかったけど・・・そう言う事ね」
 彼女は少し考え込むとニッと笑った。
「つまり、かなり有利な商売が出来るって訳ね」
 それを聞いたシャイアはエイミーに訊いた。
「あの・・・、エイミー様。それは・・・」
「うん、科学レベルが違うもの、サンプルを上げればその商品をほしがるでしょうけど、多分模倣も出来ないじゃない、つまり独占販売が出来るって事よ。パンパカパーン、この商品のお求めの際はラース印のこの商品をどうぞ!」
 エイミー・ラースは宣伝用のスマイルで自分の家の関連会社の宣伝をしてみた。
 その発言が気になったシャイアは小声でエイミーに言った。
「エイミー様、その発言はちょっと拙いのでは、トーブ家の者が黙ってませんよ」
「あら、この交渉団の権利を競り落としたのは私たちラース家なんだから、これは黙認事項よ。」
 エイミーはさも当然のように言った。
 しかしそれを聞いたシャイアは上層階級社会の常識にはついてゆけず押し黙ってしまった。
 商業学校では機会は平等に、独占禁止法令に抵触する事はしてはならないと教えられてきたにも関わらず、実際の現場ではこうして優先占有が横行している。
 やはり基本的に民主主義の皮を被ってはいるが基底は帝国主義である事が見て取れた。
 実際、学校を卒業してから交易の上位企業に入社してみたモノのこうしたやり方が横行している現実を見て彼女はかなりウンザリしていた。
 その上、女性の適齢期は18歳までと云うエマーン人独特の社会での婚礼平均年齢は16歳。周りの人間が早く結婚しろと囃し立て五月蠅いくらいだった。
 交易隊の中で彼女は商売の才能を有していたが買い手と売り手のフェアなやり方が好きなのであって、特定の家系だからと言ってコネを使って独占的に商売する同業者のなんて多いことか、彼女はそんな同業者が大っ嫌いだった。
 その現場を見てきた彼女に言い寄ってくる男どもはよりによって彼女の一番毛嫌いしているその手の男ばかり、彼女の尊敬できる男は他のバカ女に取られてしまったし、ふと気付けば出産可能上限年齢まで後1年足らず。
 彼らエマーンの女性達が女性として認められる期間は短い。
 それは古代エマーン人達の置かれた環境に起因していた。
 古代エマーン人達の社会は過酷であった。
 外敵は多く、女性といえども戦いに参加しなければならない時代が続いたのだ。
 その為、古代人達にとっては年長者と言える18歳の誕生日頃になると平均体温が2度上昇し子供達を守るため体が活動的に変化するのだが、脆弱な卵巣はその体温の上昇に耐えられず壊れてしまう。
 その期間が過ぎれば受胎が不可能になり、女性が女性としては見られなくなる非情な世界、それがエマーンであった。
 シャイアは最早残りの自分の人生は子供を育てるという至上の生き方を選べず商売に生きるしか無いと半ば諦めていた。

「エイミー様、会見場所まであと5分ほどで到着します」
 操縦士がエイミーに指示を促す。
「そうね、それでは全艦隊に連絡してちょうだい。全艦隊は会見ポイントより1キロ手前で停止、私とシャイアあと会計官5名がディグであちらに赴きます」
「はっ」
「それじゃあシャイア行きましょう」
「はいエイミー様」
 彼女らは会計官を引き連れてハウスの下、双胴の間になっているドックから10人乗りのディグ、つまり慣性制御システムを搭載したコミューターに乗り込み眼前の海にプカプカと海面に浮かんでいる鉄製の船に向かっていった。
 ディグが近付いて行くと直援の零戦が数機警戒しながら周囲を廻っているのが見えた。
 それを見たエイミーは、不思議な物を見たとばかりに隣りに座っていたシャイアに訊いた。
「あら、あれは?」
「あれですか、あれは未開の文明で初期に見られる飛行機械の一種ですね。前方のプロペラで空気を後方に送りその反動で前方に進むんです」
「流石、シャイア良く知ってるわね」
「はい、こんな事も有ろうかと機械文明史を勉強してきましたから。しかし、このレベルでは相対性理論も確立していないかも知れませんね、せめて原子物理学を理解していなければ慣性制御システムは整備も出来ないかも知れませんよ」
「それならばそれでいいのよ一定期間はなかなか故障しないように造れば良いんだから、お客様の社会が私たちの製品で溢れかえるのが理想よね、ダンピングしてでも彼らの市場を私たちの製品で埋め尽くすのよ、そして代換製品がコスト的に自前で生産できなくなれば・・・、フフフ私たちの要求を受け入れざるを得ない状況になるわよね。そうなれば絞り出せるだけ絞り上げればそれまでの投資コストは悠々回収できるわ」
「それは少し酷いのでは」
「・・・シャイア、私たちの歴史はシェアの食い合いで出来上がってきたわ。せっかく初めて手の内を知られたエマーン人以外の商売相手が出来たのよ、躊躇している暇はないわ」
 エイミー・ラースはその瞳を野望でギラギラと光らせながらシャイアに語りかけた。
 そう、あくまで彼女らの世界エマーンは商業帝國なのだ。
 だが、正直一般市民出身のシャイアはその考え方について行けなかった。
 彼女は人知れず溜め息をついた。
「エイミー様、相手国の通商団と連絡が取れました。あの船に着艦する様に指示が出されましたが」
 このディグ専属パイロットが護衛艦隊から送られた通信をエイミーに報告した。
「構わないわ、直ぐに着艦して」
「ハ、了解しました。」
 ディグは「穂高」に向けて高度を下げていった。

 一方迎える側の日本通商団は半ばパニックに陥っていた。
 日本政府が想定していた文明レベルを遙かに凌駕していたからだ。
 一方的すぎる文明の格差があると一方がもう片方を圧倒してしまう事が多い、更に彼らは商業と云う頭文字を付けてはいるモノの帝國であるのだ。
 彼らが帝国主義者であるならば圧倒的な弱者である相手に対しては容赦なく搾取するであろう。(その通り)
 基本的に日本という国では模倣できる技術は全て模倣して、自国での再生産によって産業基盤を築いてきた。
 だから、相手の持っている技術を消化出来るかどうかに日本の将来が掛かっていると云っても過言ではなかったのだ。
 さて、通商団の委員と随員は海軍鼓笛隊の歓迎演奏をバックミュージックに「穂高」の前甲板、第1主砲塔の前に並んでいた。
 その中には帝國日報社会部所属の記者・高垣進策も居た。
 彼は記者としては特別に随員の中に加わることが出来た。
 彼のカメラ好きが評価されたという事だろうか。
 今も前に吊したライカを愛しげに撫でていた。
 ただ非常に残念なことに、ライカの生産国は独逸、つまり現在エマーン商業帝國が存在している場所にあった。
 そして、その場所に独逸が出現したという情報は入っていない、つまり新式のライカ社のカメラやレンズが手に入らないと言う事を意味していた。
 確かに未来文明の日本のメーカーも素晴らしい。
 キヤノンやミノルタ、その他のメーカーも最高だ。
 しかし、彼には質実剛健、手慣れたライカがもっとも評価が高かったのだ。
 閑話休題。
 最初は皆、エマーンの飛行機械が近寄ってきていることに気付かなかった。
 空飛ぶ機械は爆音を上げるのが当然と思っていたからだ、しかし、エマーンの飛行デバイスは慣性制御システムによって飛行していたため極少ない音しか発していなかったのだ。
 ふと気付いた時には10メートル位の大きさのディグが彼らの頭上に迫っていた。
 それは音もなく落下してくると着陸脚を延ばし、甲板にランディングした。
 機体の側面が開き、中から身分の高そうな柔らかそうな素材のツナギを着た女性が2人と如何にも制服然とした服装の男女5名が降りてきた。
 日本側の交渉団委員長の通産省の役人と外務省の役人が進み出た。
 身分の高そうな女性の内、年かさの方(と言っても20代前半であったが)が微笑みを浮かべながら歩み寄った。
「初めまして、エマーン商業帝國通商担当をしてますラース家代表の妻・エイミー・ラースです。よろしくお願いします」
 彼女はエマーン語で話したが、腕輪に仕込んだ反応翻訳機がそれを日本語に直した。
 彼女が手を差し出したので通産省の役人がそれを握り返した。
「初めまして、わたくし日本国通産省の次官桜木敦夫ともうします。以後よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそお会い出来て幸運ですわ」
 エイミーがニッコリ笑うとそれに連れて彼女の背中に垂れていた2本の触角が持ち上がりクルリと輪を作った。
 驚きに目を見張る日本側交渉団の面々。
「あ、あのそれは一体」
 桜木が震える声で訊くと、エイミーは最初何を質問しているか気が付かなかった様だったが不意に気付くと説明した。
「これは私たちに生えている触角です。女性なら2本、男性なら1本脊髄近くの神経節から伸びています。あなた達には生えていないのですか、お可哀想に・・・」
 エイミーは同情の視線を送った。
 彼女らエマーン人にとって触角が生えていないと言うことは人間にとって利き腕が切断された様な不幸な出来事、同情すべき不幸な事であった。
 だが、そうとは知らない日本側は困惑するばかりであった。
 その頃高垣は一人の女性に目を奪われていた。
 それは少し垂れ目で薄茶色の髪をした優しい雰囲気を漂わせたシャイア・メースンであった。
 彼女はメモと書類を挟んだバインダーを抱え、エイミーの補佐をしていた。
 するとひとりの歓迎団の歓待役の男がシャイアに近付いて質問した。
「いいえ、私たちには宗教的禁忌に抵触する食物はございませんわ」
「分かりました」
 一応の挨拶が済むと交渉団はエマーン側の人間と共に「穂高」の応対室に案内した。
 もともと応対室は皇室や華族などが来た時に使用する物であったので十分以上に綺麗に飾り立てられていた為、特別な改造をする事もなくそのまま使用された。
 会談の様子は特に記さない。
 通商は正常に行われることになった。両国の船舶とハウスは自由貿易をモットーにお互いを行き来することになった。
 だが、エマーン人達が石油を使用していなかったため新規に油田を造らなくてはならないと云う事を知らせると日本側はいったん落胆したが、油田の合弁事業に参加できないかと質問すると一応の了解が取れたので一応満足の出来る会談であったと言えるだろう。
 さて、会談は3日間に渡って行われたのだがその2日目の事。
 シャイアは会談が済んだ後の空き時間に夕涼みに「穂高」甲板に出ていた。
 ここ紅海は赤道直下の海上であったが、周りを砂漠に囲まれていたため海上でありながら乾いた空気が吹いていた。
 地球全体が緩やかな統一政体として纏まっていたエマーン商業帝國内部にも国に近いブロック構造があった、それがそれぞれのファミリーが所属している氏族単位のコロニー群である。
 まだ年齢の若いシャイアは初めてこう云った大規模な契約交渉の場に就いたため、その緊張により結構疲れていた。
 甲板の上に座り込むと天の壁の向こうにユラユラと揺れる星達を眺めていた。

 しばらくの間何も考えずに座っていたのだが、突然近くでコトリと小さく機械が動作する音が聞こえた。
 シャイアがそちらを振り向くと一人の男が立っていた。
「アナタは?」
 シャイアに質問された成年は照れたような笑いを浮かべると持っていたカメラを降ろした。
「こんにちは、今回の交渉団の随員として参加させていただいております高垣進策という新聞記者です」
「新聞、マスコミの方ですか。ああ、そう言えば初日にお見かけしましたね」
「ええ、主に記事を書いています。」
「そうですか、ところで何か?」
「いや、取り立てて用事はないのですが、あはは。えっと色々質問をしたいのですが」
「交渉内容については」
「ああ〜、イヤイヤ。ごく一般的な事でいいんですよ。これから私たちの社会はお付き合いをしなければならない、だけども相手のことを知らなければ無用な摩擦が発生することもあります。それを回避するためにも我々新聞が代表するマス・コミュニケーションが情報を広める必要があります。もちろん、もし宜しければですが」
「ええ、それならば喜んでお手伝いしましょう。私たちエマーン人は相手との交渉を喜びとする民ですから」
「それはよかった。ありがとうございます。さて・・・・・・」
 進策は次々と当たり障りのない、しかし鋭い質問をシャイアに投げ掛けていった。
 時々エマーンの秘密や色々と拙い事に抵触してしまうような物もあったが、そこは若くして才覚を伸ばしてきたシャイアはさらりとかわして見せた。
 さて、進策の質問は夕暮れが進み地平線が赤々と燃える頃まで続いた。
「男女平等の思想は我々エマーンにもあります。しかし、私たちの場合肉体的な性差が顕著な為どうしても社会的に差別されているなぁと感じることが多いですね、特に私たち女の場合」
「それは一体どう云う事でしょうか」
「私たちエマーン人の女性の受胎可能年齢が低いと云う事に起因しているのですが、我々の社会では16歳で成人し社会に出ます。ですがそれから結婚が出来る期間が僅か3年足らずしかないんです。ですから19歳未満の女は結婚相手を捜す期間として社会的に認識されています、我々女性の側も必死ですしね。その後は短い期間に沢山産んだ子供達の教育に当てられるか、受胎可能期間を過ぎて結婚できなかった者は商売にのめり込むかのどっちか、はぁ、わたしもそうなりそうだなぁ」
「不躾な事を訊きますが、お幾つなのですか?」
 進策は恐る恐る質問したが、案の定キッとした目つきで睨まれた。
「失礼しました」
「いいえ、個人的な事を訊かれたので驚いただけです」
 そう言うと二人の間の会話が途切れてしまった。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・ええとですね」
「17です」
「は?」
「ご質問の答えですよ。別に隠す必要もありませんし、適齢期もギリギリの瀬戸際です」
「どうして又、アナタのように美しい方なら幾らでも結婚の引き合いが有りそうなものだ」
 進策が思わず本心からの疑問を口にしてしまい、それを聞いたシャイアは照れから顔を真っ赤に染めた。  恥ずかしさから顔を伏せてしまったシャイアは、しばらくの沈黙の後の後呟くように云った。
「ここからはオフレコにして貰えます?」
「オフレコ・・・、ええ記事にするつもりは有りませんよ」
「実は、好きだった人がいたんです。私たちの幼なじみで、いいとこの家柄でした。トーブ家と言えばエマーンを二分する名家の一つです」
「ちょっといいですか? 私たち、と云うのは?」
「ああ、さっき言い忘れましたけどエマーンの子供は双子で産まれてくる事が多いのです。やはりこれも出産期間が限られていることに起因するわけですが、それで私たちと言うのは、私と私の双子の妹であるマニーシャ・・・・・・・トーブの事です」
「アレ・・・苗字が」
「ええ、つい先日結婚しましたの、彼と。ふふ、綺麗な花嫁と花婿姿でしたわ」
「はぁ、なるほど」
・・・・・これは、彼女が身を引いたかな?
 進策は直感でそう閃いた。
 一種芸能記者にも通じる才能だ。
「ですから、まぁ、そう言うわけです。お分かりになりましたかしら」
「さすがに、そこまで鈍感じゃありませんからね。どうも根ほり葉ほり済みませんでした」
「いいえ、このインタビューが両国の親善に役立つので有ればいっこうに構いません。あ、そうそう」
「何でしょう」
「さっき私の方に向けて何か機械を使ってましたが、アレ、何ですか?」
「あ、これですか」
 進策は首から下げていたライカを手に取った。
「かの独逸帝国はライカ社のカメラです」
「カメラ、写真機ですね。それで私を?」
「あ、いやその。・・・はい。つい」
「それ、一枚頂けませんか?」
「ええ、それじゃあ急いで現像して貰いますので、明日にでも」
「いえ、今じゃ・・・。出来ないんですの?」
「カメラのフィルムは現像してからプリントするまで時間が掛かりますので、ちょっと今すぐと云う訳には行かないんですよ。これからこの軍艦の現像所も貸して貰わなければなりませんし」
「なるほど・・・(確かに有望な市場だ事。これだったら二〇世代位昔のデジカメでも爆発的に売れるかも。早速見積書を作らなきゃ)」
 シャイアは先ほど迄の表情を隠し、内心に沸き上がった感情を抑えきれなかった。
「それでは、もう遅くなりましたからそろそろ戻ります。明日、写真を下さいね」
「ええ、喜んで。お休みなさい」
「お休みなさい、進策さん」

   翌日・日エ通商会談3日目。
 会談も終わり、既に交易の基本ラインがまとまっていた。
 シャイアは、昨日と同じ場所で進策を待っていた。
「シャイアさん、お待たせしました」
 進策は少し遅れたお詫びを言うと、彼女に封筒を渡した。
「これが昨日のお写真ですか?」
「はい、綺麗に取れていると思っています」
「見せて貰ってもよろしいですか?」
 シャイアは進策の返事を待たずして封筒を開けた。
「へぇ、写真というのはモノトーンの2Dなんですね」
「不勉強で済みませんが2Dとはどう云う意味なんでしょうか」
「あら、2ディメンジョン、つまり平面という意味ですわ。それにしても良い画像ですね、何画素位使っているのかしら」
「ええと画素ですか?」
「はい。つまりどれくらいの解像度で撮影しているかと云う事ですけど・・・。つまり、写真一枚当たりどれくらいの細かい点が集合しているかと云う事です」
「点ですか・・・・・・。これはレンズから入った光が銀を塗った撮影用フィルムに当たって、それが記録されますので、点の数というのは少し分かり兼ねます」
「つまり分子単位で記録されるアナログと云う事ですね」
「ええ、それで良いと思いますよ」 多分ですが
「日本ではこの写真が発達しているんですか」
「ええ、ですが私の時代より後の世界ではカラー写真や電脳式磁気カメラ(デジカメ)と云うのも流通している様ですが」
「ええ! このフォーマットで統一されているのでは無いんですか」
「つまり・・・日本列島には数え切れないほどの時空がモザイクのように融合したのですよ。その為、様々な規格が溢れてしまったと云う訳です。エマーンは時空変動の際、どうしましたか?」
「いえ、私たちのエマーン国は全地球を包括する世界同盟みたいな物でして、その中心部分だけがまとまって時空変動に巻き込まれましたから・・・範囲で云ったら、えーっとあなた方の地図で云うと北欧、西欧、東欧、南欧すべてくるめて同一のエマーンです」
「そうですか、はぁ」
 進策は思わず溜め息をついてしまった。
 それを見たシャイアは進策の態度を、自国に対するエマーンの優位性に憂いを憶えてしまったのだと考えた。
 しかし、その実体はライカの本社がある独逸がこの世界には存在しない、つまり新しいライカの製品が手に入らないばかりか交換用の部品まで手に入らないと云う彼にとっては絶望的な状況が目に浮かんだ為だった。
 しかし、日本は世界の中でもライカコレクターが多いお国柄の為、中古品ならば手に入れやすい状況では有った。しかも彼にとっては新機種も多い。
 だが、それと気付かずシャイアは進策に気落ちするなと声を掛けた。
 進策は気を紛らわせる為、東の海上を眺めた。
 この辺一帯は乾燥地帯を通り乾燥し澄んだ空気が吹き付けている為、風が強い日は砂が舞ってしまい見通しが悪くなるのだが、幸い今日は穏やかな天候であったので水平線の彼方まで見通せてた。
 だからであろう、水平線上に軍艦に知識のある者ならば誰でも知っている第2次世界大戦開戦時世界最強と謳われた弩級戦艦の艦橋を見分けることが出来たのは。
「長門? しかしあのフネはいま呉で近代化改装を受けている筈だが・・・」
「あの。どうかしましたか?」
 突然何かに気を取られた様子の進策に不審を感じ、シャイアは進策と同じ方向に目を凝らしてみた。
「いえ、大したことでは無いと」
「そうですか」
 シャイアは艶然とした笑みを浮かべた。
 進策は暫しそれに見とれていたが、矢張り先に見た長門級の艦橋が気になり再度そちらを睨み付けるように目を凝らした。
 わずかな凸凹としか判別出来なかったが、特徴的なシルエットから矢張り長門級の艦橋としか思えなかった。
 それは彼が目視する内に見る見る姿を現していく。
 地球は丸みを帯びているため、水平線の向こうから姿を現すフネはその構造物の天辺から姿を現すのは船乗りの常識であったが、しかしその長門級の艦橋の姿の現し方はそれとは違って見えた。まるで海中から潜水艦のように浮上してくるような・・・。
 完全に姿を現した長門級戦艦は主砲をこの艦隊へと向けた。
 それの意味するところに気付いた進策は浮き足だった。
「どうしましたの」
「シャイアさん、他の交渉団の皆さんはどうしました?」
「え、もうハウスの方へ戻りましたわ。いまこの艦隊にいるのは私だけですけど」
「それは幸いと言うべきかも知れませんね」
「???」
「シャイアさん、これから少しの間ハウスの方へは戻れないかも知れません、覚悟を決めていて貰えますか」
「どういうことですの」
「それは・・・」
 進策が長門級戦艦の方を指さした瞬間、それは光を放ち、直後煙りに包まれた。
「いけない! シャイアさん早く中へ」
「は、はい」
 進策はシャイアの手を取ると「穂高」の集中防護隔壁内にある貴賓室へと駆けだした。
 一方、「穂高」内部にあるCICでは突然現れた長門級戦艦に対しパニックになっていた。
 通信室では所属不明艦に対して所属を明らかにせよと通信を発し続けていたが、相手は完全に沈黙を守っていた。
 CICのレーダー管制官はそのブリップから8つの光が分離し、こちらに向かって来たのを確認した。
「敵艦発砲しました!」
 彼の悲鳴のような報告に環境要員達は殺気立った。
「これは・・・、駆逐艦「涼風」が狙われています!」
「何!」
 南雲中将が声を上げた瞬間、駆逐艦「涼風」の周囲は長門のカラーである「緑(事実不明)」色の100メートルオーバーの水柱に取り囲まれ、2分後水柱が鎮まったその場所には破片すら浮いていなかった。
「「涼風」撃沈!」
「畜生め。各艦回避運動、砲雷撃戦用意。準備の整った艦から攻撃開始だ」
 南雲が指示した指令は直ぐに艦隊へ届き、艦隊の各艦は止まっていたスクリューを全力回転させ、必死で敵の攻撃から身を守ろうとその体を動かし出した。
 航空母艦「赤城」「蒼龍」に積んでいた艦攻、艦爆は対空戦用に改造されていたため、この戦闘に参加できなかった。
 思わぬ誤算である、が、現代戦を基準にすると人命が著しく消耗される航空機による攻撃は望ましい物では無かったため、護衛艦によるミサイル攻撃によって代用としていたのだ。
 この時、海面下では艦隊に付随する唯一の潜水艦、青の6号「りゅうおう」が2重反転スクリュー推進から電磁誘導推進へと切り替え迎撃に向かっていた。
 その青の6号から「穂高」へと通信が送られた。
「南雲中将、青の6号より通信です」
「よし、読め」
「はい。敵艦の正体はゾーンダイク軍ベルク指揮下の可潜戦艦ナガトワンダーと確認。ワレ、これより迎撃に向かう。とのことです」
「ナガト、やはり長門なのか! どう云うことなのだ、長門は水爆実験の後、爆薬を使って沈められたと聞いていたが」
 南雲は傍らの海上自衛隊自衛官の徳永2佐は南雲の質問に答えようとしたが、少し逡巡した後、説明を諦めた。
「分かりません、が、アレが長門と同様の戦力を持っていることは確かです」
「ふむ、仕方ないか。駆逐艦隊は単縦陣にて突撃し雷撃戦を行う。護衛艦以下は「穂高」を護衛しつつ後退。対艦噴進弾にて攻撃を行う」
「了解」
 南雲の指令に基づき、駆逐艦らは「涼風」の弔い合戦とばかりに勢いづき、その舳先をナガトワンダーへと向けて突撃していった。
 彼らの武器は酸素魚雷、アメリカ艦隊を沈める為に続けた訓練の成果が今試されようとしていた。
 また、唯一の対艦攻撃能力を保持する航空機ハリアーUであったが、南雲中将がその存在を忘れていたため今回はその真価を発揮できなかった。
 「穂高」を護衛しつつ湾内奥深く進んで行く護衛艦隊であったが、途中諸源入力が終わった護衛艦「むらさめ」「はるさめ」からSSM−1B艦対艦ミサイル8発が飛び出していった。
 SSM−1B対艦ミサイルは艦から放たれた瞬間の初速は非常にのろかったが、噴射炎を輝かせ見る見るうちにマッハを突破し、ナガトワンダーへと飛び去った。
 だが、ナガトワンダーの方も黙って手をこまねいていた訳ではない。
 順調に進んでいたSSM−1B対艦ミサイル6発は突然その進路を狂わせると有らぬ方向へ飛び去り暴発した。
 ナガトワンダーから発せられたECMがミサイル誘導装置を狂わせたのだ。
 しかし、残り2発はナガトワンダーの撃ち出す濃密な対空弾幕をくぐり抜けてその横っ面に痛烈な打撃を浴びせた。
 灼熱の炎と爆煙がナガトワンダーを包み込み、対空砲火が途切れた。
 しかし、それが消え去って尚ナガトワンダーはその姿を止めていたのだ。
 もともと対艦ミサイルはアルミで出来た現代の軍艦を攻撃するために開発された物である。
 第2次大戦以前の鋼鉄の装甲によって鎧われた軍艦を沈める為の撤甲弾を持っていない。
 その為、装甲の表面で爆発してしまい、見た目は派手だがその効力は非常に低いと言わざる終えなかった。
 だが、まったくの無駄では無かった。
 主砲、前鐘楼の装甲を破壊することは出来なかったが、繊細な構造物であるレーダー等の電波施設と装甲の薄い小火器類はまとめて吹き飛ばされ、最早その用を足してはいなかったのだ。
 それを見て取った複合生体人間である敵艦長ベルクは引け際と取ったのか、進路を反転させると船体を海面下へ沈め始めた。
 だが、行きがけの駄賃とばかりに後部甲板の主砲を接近しつつある駆逐艦隊へと向け、四〇センチ砲を斉射した。
 その直撃を受ければ駆逐艦などひとたまりもない。
 だがその直前その船体の側面に魚雷四発が命中していた。
 その衝撃により船体喫水線下の装甲されていない生体部分に激しい損傷を与えたらしく、主砲の軸線が大きくズレていたため撃ち出された主砲弾は有らぬ海面で虚しく水柱を上げただけである。
 ナガトワンダーは核実験場として名高いビキニ環礁に埋もれていた日本海軍旗艦戦艦長門をゾーンダイクの創り上げた複合生体人間(キメラ)達が掘り出し改装を施した物である。
 主砲塔は通常の40センチ砲を打ち出せるほかに40センチ長魚雷の水中発射機構を搭載。
 朽ち果てた機関の代わりに喫水線下の船体構造をゾーンダイクお得意の生体工学によって作り出された300メートルの生体ベースに乗せた可潜戦艦として生まれ変わっていた。
 そのナガトワンダー、通称「幽霊船」が放とうとした死の砲弾から駆逐艦隊を救った魚雷を放った者は、青の6号である。
 「穂高」に通信を送った後、電磁推進に切り替えた青の六号は水中を四〇ノットもの高速でナガトワンダー「幽霊船」へと接近していった。
 それは水面を進む駆逐艦隊よりも8ノットも速い速度であった。
 実際、充分な推力と形状をしていれば水中を進む物体は水上艦よりも抵抗を受けないため高速で移動できるのである。
 青の6号艦長の伊賀は魚雷命中の報告を受けると満足そうに肯いた。
「どうだ、奴の状態は」
 伊賀艦長は聴音手の山田マキオに訊いた。
「・・・・・・敵に与えた損害は不明ですが、敵艦は水上より海中へ潜行を開始。方位を反転、敵は湾外へ向けて逃走を開始しました。」
「そうか・・・ロレンツィニの反応はどうだ」
 伊賀は伏兵に備えて鮫の感覚器を複製した水中の電磁波を感知し索敵を行うロレンツィニシステムを取り扱う10歳の少女「黄 美鈴」に声を掛けた。
「・・・幽霊船以外いません」
「そうか、また奴との戦いが続くとは、腐れ縁だな」
「艦長、追撃しましょう。奴もそれなりの損傷を追っています」
「・・・ふむ・・・」
 伊賀艦長は副長であるロシア人ユーリ・マヤコフスキーの進言を検討してみたが、今は艦隊護衛が第1任務のためそれを退けた。
「まぁいい、次にあったら叩けばいいことだ」
「しかし」
「今は艦隊の護衛が任務だ。第一、奴らの戦力が掴めん。単体でこの世界に来たのか、それとも我々と同様に本拠地ごと、南極のストリームベースごと来ているのか。もしも後者なら・・・厄介だな」
「はい、もしもそうなら奴は、ゾーンダイクはもう一度この世界を水没させようとするでしょう」
「そうだな。よし副長、護衛艦隊へ通信。敵戦力の撤退を確認、ワレは引き続き哨戒任務に当たる、以上だ」
「了解、護衛艦隊へ通信しておきます。」
「ああ、皆も悪いがもう一働きしてくれ。通常の潜水艦ならともかく、ベルクが出張っているようじゃ、上の連中の対潜装備では心許ないからな。」

 青の6号からの通信を受け取った「穂高」では南雲中将が艦隊を警戒態勢へと移行させていた。
 CIC内にはホッとした空気が流れたが、その直後入った電文によってそれも一瞬で消え去った。
「もう一度報告したまえ」
「はい、日本時間本日〇六二五、地球帝國日本領ハワイ県がハルゼー艦隊の空襲を受けました。ハルゼー艦隊による真珠湾攻撃です」

 電文を検討した南雲中将は明日帰還の予定を本日中に繰り上げる事を決定した。


 午前7時30分、ハワイ諸島。
 一九九六年アメリカより八〇〇〇億(ドル・円)によって買収されたハワイ州は二〇〇八年アメリカ軍の攻撃により再び戦火にまみえた。
 そして今回、3度目の真珠湾攻撃をハルゼー艦隊によって受けたのが昨日午前11時のことであった。
 幸い、日曜日であったことと、港湾施設に対する急降下爆撃及び水平爆撃のみであったため民間人に対する被害は被害が判明する前の予想よりも少ないモノであった。
 しかし、誤爆による民間人への被害はバカにならないモノであった為、日系米系市民の怒りは沸騰寸前であった。
 ここに至り、ハワイ県県知事はハワイ県に存在する軍事組織にハルゼー艦隊に対する軍事力の行使を阻止して貰おうとした。
 しかし、すっかりと観光地と化していたここハワイ県には軍の組織はごく僅かな警備隊と軍事物資の貯蔵庫しかなく、相手に対して攻勢を駆けられる装備を持った正規軍は存在しなかったのだ。
 だがたまたまであったのだが、ここハワイに臨海学校で来ていた地球帝國宇宙軍付属沖縄女子高等学校の生徒達が持ち込んでいたマシーン兵器があったのだ。
 県知事は藁にもすがるつもりで学校側の責任者、オオタコウイチロウ少佐に連絡を入れた。

 ここハワイには宇宙軍付属の基地の片隅に、沖女の研修施設があった。
 彼女らは沖縄からここへ臨海学校に来ていて、今回の時空融合に巻き込まれてしまっていた。
 2週間の臨海学校の予定であったが、既に1ヶ月近くここに留まっていた。
 勿論その間もマシーン兵器の訓練を受け続けていた。
 実は沖女の存在する沖縄もこの世界に転移していたため還ることも可能だったのだが、ちょっとした事情からここハワイに足止めされていたのだった。
 さて、県知事からハルゼー艦隊に対する停戦交渉についての作戦を依頼されたオオタコーチは朝礼で朝礼台の上に立ち全校生徒を前にしていた。
 彼は敵宇宙怪獣との戦闘で負った負傷のため右手に松葉杖を構え体を支え、潰された右目を隠すため濃いサングラスを掛けていた。
 彼が朝礼台の上に立つとざわついていた女生徒たちの声も静まっていった。
 オオタコーチが左手で拡声器を口元に運ぶと一瞬ハウリングが耳をついたが、かれはそれに構わず校庭中に響き渡る大きな声で生徒たちに告げた。
「いいか、良く聞け。昨日行われた敵に対し我々が停戦の交渉に行くことになった」
 オオタがそう告げると女生徒たちのほぼ全員が大きな驚きの声を上げた。
 そんな中でも落ち着いているのは3年生の全校生徒でもっともトップ部隊に近いと言われていた「薔薇の女王」アマノカズミくらいであった。
 しかし、このパートの主人公とも言うべきタカヤノリコは周りの女子たちと一緒に驚きながら話をしていた。
「静かにしないか!」
 いつまでも静まらない女生徒たちに業を煮やしたオオタが怒鳴りつけると一瞬で声が止んだ。
「今回の作戦は停戦交渉と言っても、実際は奇襲による敵旗艦の乗っ取りである。その為、今回は選抜メンバープラス私の計5名に拠って行われる」
 オオタがそこで声を区切り全員を見渡すと、全員食い入るように彼の次の言葉を待っていた。
「既に2名は決定している、来たまえ」
 彼が声を掛けるとソ連の軍服を着た赤毛の少女とトップ部隊の制服を着た金髪の少女が朝礼台に上った。
「彼女たちは既にトップ部隊に配属されていた正式の軍人である。今回は彼女たち2名と沖女の2名で作戦を決行する。自己紹介をしたまえ」
 オオタが拡声器を赤毛の少女に渡すと彼女は自信満々に大きな胸を反らせてから声を出した。
「皆さん初めまして、私はソ連月面基地からトップ部隊に配属されたユング・フロイトです」
 その彼女の名前を聞いた途端、ええっと言った声がそこかしこから聞こえてきた。
「何々、誰なのアレ」「ええ、知らないの? ノリコ。天才の呼び名も高いソ連のユングフロイトよ」「ふーん、凄いんだー彼女」「それにしてもやっぱりあのジンガイ、噂以上の胸してるわねぇ」「ホントホント、何かキモチワリー」「その割には腰がくびれてて悔しいわね」「それを言わないで・・・」
 ユングはざわめきの中から「天才」と云うワードを聞き取ると口の端を自慢げに吊り上げた。
「皆さんの中にもウワサが来ているようだから言わせて貰うわ。今回の作戦、私が出るからには安心して貰って結構よ、フフフ」
 彼女はスイカのような胸を揺らして踵を返すと、呆然としている沖女の女子を後目に拡声器をもうひとりの金髪に渡した。
「こんにちは、私はユングのパートナーを務めていますリンダ・ヤマモト、アメリカの日系7世です。私の遠い祖先と同じ日本人であるあなた方と同じ作戦に参加できることを嬉しく思います。以後よろしく」
 彼女は最後に敬礼を決めて、拡声器をオオタコーチに手渡した。
 ハッキリ言って彼女の方はユングと違って余り目立つ性ではなかったがトップ部隊に配属される実力は自信となって彼女の顔に現れているようだった。
「と、云う事だ。選抜メンバーは昼食の後発表される。それまでは通常の訓練を続けるように、以上だ、解散!」
 オオタの号令と共にきれいに整列していた生徒達はバラバラになり、それぞれの目的場所に向かって歩き出した。
 ノリコは親友のヒグチキミコと共に自分のマシーン兵器が置いてある格納庫に向かっていた。
「ねぇねぇキミコ、選抜メンバーって誰になるのかなぁ。ひとりはお姉さまに決定よね」
「当たり前でしょ、多分もうひとりは3年のカシワラさんに決まりじゃないのぉ」
「そっかぁ。もしかしたらって事ないかなぁ」
「ないない、確かに臨海学校に来てからのノリコの特訓は凄いけど、ノリコまだマニュアルで基本動作しか出来ないじゃない」
「ううっ、まぁそうなんだけどねぇ」
 彼女たちはテクテクと格納庫の中にはいると、約10メートル位の高さをしたマシーン兵器、RX−7がメンテナンスデッキに固定され鎮座していた。
 ノリコが脇腹に隠されている釦を押すと胴体部分がせり上がり、中のコクピットが曝し出された。
 「稼働部注意」黄色と黒の警告帯で注意書きされている装甲板を跨ぎ、ノリコとキミコはそれぞれのRX−7に乗り込んだ。
 ノリコがイグニッションスイッチを入れると、機体の主要炉の燃料である水の縮退物質であるアイスセカンドが輝き、機体に震えが走った。
「乗用口閉鎖、モード切替回送から走行へ」
 ノリコがコクピット内に無数に存在するスイッチの内コクピット開閉スイッチを入れると胴体部分が閉鎖された。
 ノリコの目の前に降りてきた機体のメイン画面に灯がともり、各種計器に機体状態が表示された。
「メインバランサー、正常稼働。2nd,3rd共に良好。その他オールグリーン。キミコはどう?」
 ノリコが通信機に手をやると隣の機体で同じように発進手順を踏んでいたキミコのコクピット内が映し出された。
『こっちも問題ないわ』
「それじゃあ行くわよキミコ」
『OK ノリコ』
「メンテナンスデッキ、オープン。RX−7・ナウシカ、タカヤノリコ行っきまーす!」
 ノリコの濃いセリフを聞いたキミコは画面の中で思わず脱力していた。
『ノリコ、いい加減アニメの真似すんの止めなよ』
「えーっ、だってサンライズの傑作アニメ「機動戦士ガンダム」の主人公、アムロ・レイの発進する時のセリフだよ、格好いいじゃん」
『はぁ、まぁいいけどネ』
 ノリコはオートバランサーのスイッチを入れたままマシーン兵器が運用できる広い校庭の真ん中に彼女の愛機ナウシカを持っていった。
 この愛称は、本来の歴史では「宇宙駆けるオタク」と呼ばれたタカヤノリコが悩みに悩んだ末、20世紀末に作られた宮崎駿雄の名作風の谷のナウシカの主人公ナウシカから貰った名前だった。
 他にも「メーヴェ」「シータ」「ラピュタ」「ドーラ」「ジジ」「トトロ」ファイブスターストーリーズから「レッド・ミラージュ」「ジュノーン」等が候補に挙がったのだが。
 それはともかく、校庭の真ん中でノリコとキミコはオートバランサーのスイッチをOFFした。
 実戦ではオートモードで行動することは相手にコンピューターのパターンを読まれてしまい敗れる可能性が高いからだ。
 そのため、自分の五感のみを使い機体をコントロールすることをパイロットには求められていた。
 スイッチを切った瞬間、慌てて、姿勢制御するべく手足のコントロール、重心の偏向、その他を同時に行ったが、その格好は初めて竹馬に乗った人間のように酷く不安定であった。
 しかし、臨海学校で鍛えた成果か、直ぐに調子を取り戻すと真っ直ぐ直立することが出来た。
『こっちもいいわよノリコォ』
「それじゃ準備運動しましょうか、ラジオ体操第1用意、ポチッとな」
 ノリコがスイッチを押すと機体のスピーカーからラジオ体操の音楽が流れ始めた。
 ノリコとキミコはコクピット内部の操縦桿、出力調整フットペダル、その他の釦を全身を使って立て続けに操作し完全マニュアルモードでRX−7の機体を自分の思うがままに動かすことが出来た。
 ハッキリ言って、考えるだけで動かせるエヴァンゲリオンに比べて原始的な操縦系とも言えるが、自分が何をしているかをハッキリ自覚してから行動しなければならないと言う点から言えばこちらの方が軍用機に向いたシステムと言えなくもない。
 一通りの訓練を終え、RX−7を格納庫にしまったノリコとキミコは昼食を取りに食堂へ向かった。
「ねぇキミコ。今週の乙女座は?」
「日頃の努力が報われるとき。何事にも勇気を出してトライ! 中傷されてもめげないこと。食べ過ぎ・寝冷え・深ヅメに注意 また 外から帰ったら必ずうがいを。臨時収入があるけどムダづかいはキンモツ。ラッキーカラーはレモンイエロー。ラッキーナンバー 0と3。グッズはフィリックスのハンカチ。素敵な出会いが待っている」
 一気に捲し立てたキミコにノリコは感心の眼差しを向けた。
「へー、よくそんだけ憶えてるね」
「ノリコがいつもいつもいつもいつも私に聞くからでしょ」
 彼女たちが食堂前の掲示板の前に通りかかるとそこには人集りが出来ていた。
「どうしたんだろ、あ、もしかして選抜メンバーの発表かしら」
 ノリコが人を掻き分けて掲示板の前に立つと、その後から「コネよコネ」「全滅娘がヤーネ」「忌々しいったら」と言った声が聞こえてきた。
 その声が聞こえてきた瞬間、選ばれたのが誰であるか直ぐに分かってしまった。
「あたし、選ばれた?」
 掲示板には選抜メンバー2名の氏名が載っていた。

 「アマノカズミ」「タカヤノリコ」








 早速であったが、ノリコ、アマノ、ユング、リンダの4名は直ぐに作戦の為の特訓を受けることになった。
 今回、敵は海上に浮かぶ航空母艦である。
 それを奇襲によって制圧、指揮官を押さえ現在の世界状況を説明し停戦に持ち込むことが重要であった。
 その為にRX−7を運ぶのが、2名乗り二〇メートル級の可潜ジェットスキーであった。
 ユングとリンダ、アマノとノリコの2チームに分かれ、乗り慣れないジェットスキーの特訓を受けた。
 ジェットスキーの操縦を担当するのはリンダとノリコ、後部に座るマシーン兵器にはユングとアマノが乗っていた。
 後部のユング機ミーシャとアマノ機ジゼルは先制攻撃時先に航空母艦に飛び乗る役である為操縦は出来ない。
 流石トップ部隊に配属されたリンダはそつなく操縦できたが、片やノリコの操縦するジェットスキーと言えば・・・。
「お姉さま キャアア、」 ドッスーン。
 地響きを立ててノリコの乗るジェットスキーは海上に沈んでいる暗礁に乗り上げた。
 ハァッ、っと後のアマノは溜め息を吐いた。
「お姉さまゴメンナサイ・・・」
 意気消沈したノリコの顔がモニターに映し出された。
「ううん、いいのよタカヤさん。今出来なくても明日までに出来るようになればいいのだから」
「はい、頑張ります」
 モニターの中のノリコは発奮して頑張りを見せていたが、モニターが切れた瞬間アマノは深い溜め息を吐いた。
「やっぱり・・・、彼女には無理ね・・・」
 午後7時、夕飯の時間になってもノリコの特訓は続いていた。
 午後8時、練習用のジェットスキー2台目がお釈迦になった時点でオオタコーチの雷が落ちた。
「タカヤー! もっとキチンと操縦できないのかぁ!」
 ノリコは顔を赤くして恥ずかしがったが、反論できるはずもなくそのまま黙りこくってしまった。
「もういい、アマノ。お前は戻れ。タカヤ話がある、降りてこい」
「ハイ・・・、コーチ」
 アマノはジゼルをジェットスキーから降ろすと、古流泳法で海を泳いでいってしまった。
 ノリコは暗礁の上にマシーン兵器を立たせると、オオタの乗る艀に乗り移った。
 オオタは目の前にノリコが立つと切り出した。
「何か言い訳はあるか」
「コーチ! ワタシ、私には出来ません。こんなのイジメです、私には無理です、酷すぎます・・・」
「言いたいことはそれだけか」
「私はお姉さまみたいな天才じゃないんです、才能なんか・・・」
「バカヤロウ!」
 オオタは大声でノリコに怒鳴りつけた。
 突然の大声にビクッとして固まるノリコ。
「私には才能はありませんだ? 確かにお前とアマノには決定的な違いがある。今からそれを見せてやる。ついて来い!」
 オオタは艀を港につけると、宿舎の裏山にある長い階段を持つ神社へと向かった。
 道から少し離れた木の下でオオタは立ち止まった。
「良いかタカヤ。お前に欠けているモノの正体・・・。それがアレだ!」
 彼は松葉杖を階段の遙か上の方へ指し示した。
 暗い山の中、断続的に微かに聞こえる金属音。
 それは徐々に近付いてきていた。
 それをじっと見ていたノリコであったが、それが近付いてくるに連れその揺れる影がハッキリとした形になってきた。
「ハッ・・・お姉さま。お姉さまが鉄下駄を履いて」(そんな事したらふくらはぎが太くなってしまいます。お姉さま)
「タカヤ、確かにお前には才能がない。それは努力の分がスッパリと抜け落ちているからだ。そうする事に努力しなければ才能なぞ開花するはずがない。良いかタカヤ、目標に向かって努力しろ。血の汗を流せ、涙を拭くな、泣きたい時はコートで泣け。思いこんだら試練の道を行くのだ。そうすれば必ずお前の才能は開花する、筈だ。」
 さしものオオタも先ほどまでのノリコの失態ぶりに疲れたのか、やや語尾が下がった。
「分かりましたコーチ。私・・・・・・頑張ります!」
「良し、分かったら早速特訓再開だ!」
「はい!」
 ノリコはダッシュで港まで走ると、艀に飛び乗った。
 待つこと暫し、ようやくコーチが姿を見せたが、艀には乗らなかった。
「あの、コーチ?」
「何をしているタカヤ、早く行け」
「でも、私このフネは操縦できません」
「ああ、早くしろ」
「ですからぁ」
 ノリコは焦れったそうにコーチに艀が動かせないと主張したのだがコーチは微動だにしなかった。
「タカヤ、お前の乗る船はここにはない」
「えぇえぇぇぇ、じゃあどうしたら」
「どうしたら、だと。ここからマシーン兵器まで遠泳1キロ! さっさと行かんか!」
「は、はいぃぃぃぃぃ」
 ノリコは泣く泣くまるで水着のようなハイグレの体操服のまま海に飛び込んだ。
 流石の体育会系のノリコにもこの仕打ちは余りにもキツかった。
 それから30分後、息も絶え絶えにノリコは自らの乗機ナウシカに辿り着いた。
 真っ暗な闇の中、荒れる海を相手にしてノリコもクタクタになっていた。
「はぁはぁはぁ、海のトリトンじゃないんだから、こんな夜中に遠泳はないわよね」
 彼女は肩で息をしながらマシーン兵器に乗り込んだ。
「はぁああ〜。お腹空いたなぁ。まったく、こんなにお腹空いてちゃ本番も何もないわよ〜」
 そう言うと彼女は座席の後に隠していたポテトチップスやチョコレートを取り出すとバクバクと頬張り始めた。
 ようやく人心地着いたノリコは壊れて動かなくなったジェットスキーの側面をガンガンと叩き、イグニッションを入れた。
 途端にグルグルと異音を立てながらジェットスキーのエンジンが掛かる。
「よし、今度こそ」
 彼女はジェットスキーからマシーン兵器を降ろすと、潮が退き始めて傾きが大きくなったジェットスキーを暗礁から押し戻し始めた。
 押したり退いたり、散々苦労しながらようやくジェットスキーを暗礁から引きずり降ろしたノリコ。
 彼女はジェットスキーにマシーン兵器を乗り込ませると、スタート地点へ持っていった。
「さぁ、今度こそ上手く行くんだから。スタート地点からゴールまで暗礁の数は10ヶ所。制限時間は2分。ノリコ、ファイト!」
 彼女は両手で頬を叩くと気合いを入れ、アクセルをふかした。
「ゴー!!」
 彼女の合図と共にマシーン兵器の手がジェットスキーのアクセルを踏み込むと、ジェットスキーは波を蹴立てて突進を始めた。
 彼女の脇のディスプレイにはスタート地点とゴール、そして現在の所用時間が表示されていた。

「はぁ、疲れたよ〜」
 ノリコはあれから特訓を繰り返すこと10回、ようやく満足行く結果が出せた為疲れた足(マシーン兵器の)を引きずって基地に戻ってきた。
 現在時刻は午後11時。
 宿舎の灯りも消えてひっそりと静まり返っていた。
 疲れた体を休めようと格納庫へ向かうノリコであったが、その前に1台のマシーン兵器が立ちふさがった。 「選抜メンバーに選ばれておめでとうタカヤさん。特訓の成果は如何だったのかしら? 少しは動けるようになったの? もっともアナタのことだから又コネでも使ったのでしょうけど?」
 ノリコはいきなり立ちふさがったマシーン兵器に驚き、思わず操縦を止めてしまった。
「何とか言ったらどうなの? この全滅娘!」
 そのマシーン兵器の操縦者はすぐに声を出さなかったノリコが自分を無視したのかと思い叫び声を上げた。
「違うモン。私コネなんて使ってない!」
「フン! 口では何とでも言えるのよ。あぁ〜あ、まったく何にも知らない顔してチャッカリしたものねぇ。実力もない小娘がシャシャリ出ても周りが迷惑するだけなのよ!」
 メインモニターに相手の操縦者から通話ウィンドウが開かれた。
「カシワラさん・・・」
「ああら、流石にコネで蹴落とした相手の名前は知ってるって訳ね」
「だから私は、」
「お黙り! そこまでして選抜メンバーに選ばれたいならまず実力を示して貰わないと納得出来ないわ! 私との勝負! 受けて貰うわ!」
 彼女がスピーカーでガ鳴り立てる物だから宿舎の灯りが一斉に点き始め、何事かと沖女の面々が顔を覗かせた。
 ノリコが帰ってきたら直ぐに夜食を出せるように準備していたキミコは、ノリコのナウシカを見つけるとパジャマ姿のまま校庭に飛び出してきた。
 また、最上階の外来用の部屋でも灯りが点き、ひとりの金髪が何事かと外を見た。
 その背後からネグリジェに身を包んだ赤毛が眠そうな目を隠そうともせずに起きてきた。
「フゥワァァァ、何・・・リンダ。こんな夜中に何かあったの?」
「ユング・・・、ほらあの子、あのおミソちゃんがジャパンのメンバーの突き上げを喰ってるみたい」
「あぁ、あの子帰ってきたんだ。まぁあんなお粗末さんじゃあねぇ・・・仕方ないかな?」
「あら、可哀想」
 ユングは薄い笑いを浮かべて校庭のマシーン兵器を眺める。
「ふぅ〜ん。かなりの特訓を積んだみたいねぇ。機体がボロボロ。特訓の成果、見せて貰いましょうよ」
「それもそうね」
 ふたりはヨタヨタと後ずさるノリコ機を見て含み笑いを浮かべた。
 一方ノリコは激しい迫力で迫るカシワラ機に押されて校庭の真ん中まで来てしまった。
「さぁ行くわよ! 全滅娘!!」
 カシワラは有無を言わさずダッシュすると連続してノリコ機にパンチの連打を浴びせた。
「ホーホッホッホッホ!! マシーン兵器の操縦を始めたばかりのアナタには未だ格闘戦は無理のようね」
 カシワラは通話ウィンドウを開くとノリコに言い放った、その顔は血管が浮き出し、十年の恋いも醒めてしまうようなかなり鬼気迫る迫力を出していた。
 とても花の乙女のする顔つきではない。
「みんなにぃ! アナタのぉ! 実力をぉ! 見てぇ! 貰いな、さぁいぃぃぃ!!!」
 彼女は連続パンチでノリコの戦意を奪った後、ノリコ機の頭部を手で掴んだ後腹を蹴飛ばした。
 その反動で校庭はずれのサッカーゴールにぶつかり、それを大破させてようやく止まるノリコ機。
 よろよろと立ち上がろうとするが、直ぐにカシワラ機が駆け寄り転がるノリコ機にピストンキックの連撃を浴びせる。
「ホラホラ、どうしたの? アナタの実力はこんな物なの? やっぱりアナタはあのタカヤ提督の娘、全滅娘なのよぉ」
「くぅ!」
 ノリコは何とか機体のコントロールを取り戻そうとするが、イニシチアブを取られてしまいどうともする事が出来ない。
 それを見かねたキミコが通信機でカシワラに懇願する。
「カシワラさん止めて下さい! ノリコは特訓から帰ってきたばかりなんですよ! いきなり戦闘なんて無理です!」
「何言ってんの!? 実戦はこんな物じゃないのよ!」
 しかしカシワラは剣もほろろにそれを制した。
 しかもその会話を聞いていたオオタコーチはその意見に賛成を示し、一言だけ通話を入れた。
「その通りだ」
 呆気にとられたカシワラは直ぐに消えたそのウィンドウを眺めてしまった。
 だが、ピストンキックは激しさを増すばかりでノリコには一瞬の隙も見せない。
 そんな中、ノリコは一所懸命考えていた。
 最初の内は、この理不尽な仕打ちについて。
 しかし、いつまで経っても止まないキック、全滅娘全滅娘と五月蠅いセリフに段々と腹が立ち血が冷えたのか、それともカシワラの実戦はこんな物ではないと言う台詞に触発されたのか、いずれにしろノリコは初めて冷静に考え始めた。
 どうすればこの攻撃のタイミングを外し、反撃に出るかを。
「どうするのノリコ、こんな時にどうしたら良いの?」
 彼女は今まで経験してきた過去を振り返り始めた。
 どこかに何かヒントがあるはずだと信じて。
 その時、彼女の脳裏に閃く物があった、それは彼女ならではのモノと言っていいだろう。普通は別のことを思い出すはずだ。
 それは昔見たある物語の場面である。
 彼女の脳裏に浮かんでいたものはある有名ブランドのロボットアニメの一場面であった。
 スランプに陥った主人公が謎の覆面ガンダムファイターによって、闘いの真髄を教えられると云う。
 つまりノリコが幼い頃大阪のテレビで再放送し思いっきりハマった史上もっとも濃いと言われるサンライズのアニメ、「機動武闘伝Gガンダム」の場面である。
 そこで主人公ドモン・カッシュは叫んでいた。
「俺のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ! 必殺! シャイニングゥ、フィンガァァー!!!!」
 と言う映像が一瞬の内にノリコの脳裏を走った。
 その瞬間、ノリコは閃いた。
「そうか、明鏡止水の心・・・、分かりました師匠。やって見る!!」
 思い立つとノリコは素早かった。
 いきなりモニターの電源を全てオフにしたのだ。
「まさか!」 アマノカズミは驚きに声を上げた。
「モニターを切った!」 ヒグチキミコは心労で貧血を起こしそうになった。
「ウソォ!」 リンダは絶句した。
「死ぬ気!?」 ユングは目を見張った。
 ただひとり、オオタコーチのみノリコの勝利を確信したかのようにサングラスを輝かせた。
「バ・バ・バカにしてぇぇぇぇぇぇ!!」
 舐められたと思ったカシワラはキレた。
「これで終わりよぉぉぉぉ!」
 彼女はマシーン兵器をバックステップさせると右手に内蔵された電磁銛をセットした。
「必殺! トライアングル・アターック」
 すかさず三角形の断面をした電磁銛をノリコ機に叩き込もうと踏み込んだのだ。
 彼女は自分の勝利を確信した。
 しかし!
 気配を察したか、ノリコは一瞬の内に立ち上がるとそのまま地を蹴り空中高く飛び上がったのだ。
 姿を消したノリコの反応に追いつかず、カシワラ機の電磁銛は地面に突き刺さってしまった。
 姿を見失ったカシワラは素早く左右を確認するがノリコ機の姿は見えない。
「跳んだ!」
 上、にカシワラが気付いた瞬間、既に勝負は決していた。
「イ・ナ・ヅ・マ・キィイーッックゥ!!!!」
 ノリコは空中で姿勢を変えると、両足をそろえてカシワラ機にその全体重を叩き込んだ。
 不意を突かれたカシワラ機は防御も取れず、校庭の反対側、プールまで吹き飛ばされて金網とプールサイドを破壊してようやく停止した。
 カシワラは自分が何故敗れたのか、衝撃を受けて呆然としていた。
 だが、ノリコの稲妻キックが如何に優れた技術か知っているカシワラは、ノリコの持っている優れた素質に気付かされ、たたきのめされた。
 だが、ようやく得心がいったのか、その顔には微笑みすら浮いていた。
「フッ、負けたわ」
 また、同じくノリコの稲妻キックを見て呆然としていたアマノカズミは知らずの内に呟いていた。
「まさか、僅か一ヶ月しかマシーン兵器の操縦をしていないあの子が、あの稲妻キックを?! 信じられない」
 更に宿舎の来賓室で決闘を見ていたリンダとユングも笑いを口に浮かべながら感心していた。
「へぇ? なかなかやるじゃないのあの子、確かに選抜されるだけの実力は持っている訳ね」
「ふふ、本当ね。「薔薇の女王」と稲妻キックのおミソちゃん。ヤポネの人間もなかなかやるじゃない、気に入ったわ」
 彼女たちは面白い出し物を見た後のように満足そうに微笑むとベッドへ戻った。
「さぁ、明日はいよいよ作戦開始よ。リンダ、早く寝ましょ。何より美容に悪いわ、ニキビでも出来ちゃったらた〜いへん」
「ハイハイ、りょーかい」
 沖女の少女達は明日のために、暫しの休息に入った。

 翌朝、と言っても早朝5時。
 ここ真珠湾にほど近い沖女の訓練港から5台のマシーン兵器を乗せた3艇のジェットスキーが発進しようとしていた。
 近くの防波堤の上には沖女の生徒達が鈴なりになって出発しようとしていた5台のマシーン兵器に声援を送っていた。
 彼らこそがハルゼー機動艦隊制圧部隊として編成された第一特務部隊。
 そのメンバーは指揮官としてオオタ・コウイチロウ少佐、乗機はセルジオ。1号艇に乗船し、指揮官機そしてバックアップ。
 2号艇にはユング・フロイト中尉、乗機はミーシャ。そしてリンダ・ヤマモト少尉、乗機はプラート。オフェンスとディフェンスを担当。
 3号艇にはアマノ・カズミ少尉見習い、乗機はジゼル。そしてタカヤ・ノリコ少尉見習い、乗機はナウシカ。同じくオフェンスとディフェンスを担当。
 3艇は薄暮が広がる海原をスルスルと沖に向けて滑り出した。
 彼らは第2次世界大戦当時の技術力しか持たないハルゼー艦隊と異なりハワイに設置された3次元レーダーによってハルゼー艦隊の位置を常に捕捉していたのだ。
 前回の襲撃時、ハワイ県にはろくな兵力がなかったため、ハルゼー艦隊の艦載機はほとんど消耗していなかった。
 おそらく今回も総力戦で挑み掛かってくるだろう。何しろ彼らにとって真珠湾は絶対不可侵の母港であったのだ。
 それが一夜にして仮想敵国の日本に占領されていたと云うのは彼らにとって絶対許せない暴虐なのであった。特にまだ人種差別が公然と横行していた時代人であった性もある。
 その為、前回以上の攻撃を今度は市街地に向けて行うことが想定された。
 既にハワイ県マウイ市の市街地には避難勧告が発令され、もし作戦が失敗した際の被害を最小限に止めるべく避難が終了していた。
 3艇のジェットスキーはハルゼー艦隊が敷いている警戒網、輪形陣の外側まで潜行しながら侵入していた。
 駆逐艦に発見される恐れがあるため、音声信号を用いず身振り手振りで合図を交わす2号艇3号艇。
 そして輪形陣の外周をくぐり抜けた瞬間、彼らは水面に飛び出し猛烈な速度でハルゼー座乗の艦、航空母艦エンタープライズへ突入した。

 その時駆逐艦ブキャナンに勤務しているジョージ・スミス兵曹は夜勤が終わり、甲板からエンタープライズを眺めていた。
 一昨日の襲撃作戦の時も実際に戦闘に参加したのはエンタープライズ搭載機のみで、彼らの出番はなかった。
 別にそのことに不満はなかったのだが、早や1ヶ月もの間、こうしてハワイ周辺海域を遊弋し敵の情報収集を行いつつ襲撃の機会を狙っていたのだ。
 もはや退屈の極み、早く陸に上がりたい心で一杯だった。
 早くハワイ攻略を完了してくれよとばかりに彼は今まさに早朝の出撃準備を進めているエンタープライズに祈りを掛けるようにしていた。
 彼が眠気から大きな欠伸をした瞬間、突然大音響と共に海面にふたりの人を乗せた超小型艇がエンタープライズに突撃するのを発見した。(これは少し距離が開いていたせいでスケール観が乏しくなっていたせいであるが、誰が一体10メートルサイズのロボット兵器がフネに乗っているなどと思いつくだろう)
 一体どこから? なぞと考える間もなく彼は艦橋に駆け込み叫んだ。
「敵小型艇襲来! 3時の方向、本艦の脇をすり抜けてエンタープライズに突っ込んで行きます」
 彼の報告を聞いた艦橋のメンバーは浮き足立ち、彼の指示した方向に目をやった。
 すると確かに1〜2人乗りのわずか3メートルくらいの小型艇にアメリカンフットボールのプロテクターの様な物をつけた人間が乗り、エンタープライズに向かって行くのを見つけた。
 艦長は通信士に平文と通信灯で敵小型艇の襲来をエンタープライズに報告させ、機銃と主砲に射撃を命令した。
 駆逐艦から突然爆発したような大音響と共に無数の火線が伸びた。
 その音に気付いた他の艦も平文で発信された敵小型艇襲来の報を見て、そちらの方へ砲塔を向けた。
 物凄い数の砲弾が彼女たちに向けられていた。
 しかし、それらは全て敵の手前の海面に叩き付けられたのである。
 彼らが気付いたときには遅かった。敵が20メートル級の魚雷艇クラスである事に気付いた時には敵は余りにもエンタープライズに近づきすぎていたのだ。

「イヤッホゥイ! 敵陣突破、残るは本陣エンタープライズ! 見よ! 東方は赤く燃えているっ!!」
 妙にハイテンションになってしまったノリコを見てユングとリンダは唖然とした。
「コラッ、タカヤ! 敵を目前にして臆さないことは良しとしよう。しかし、その油断が命を落とすことになるのだ。今回の作戦、敵も味方も犠牲を出さずに迅速に行動しなければならない。分かっているな、タカヤ」
「・・・はい、コーチ」
「分かったなら良い」
 ノリコはたしなめられ、一瞬の間意気消沈したが、今はそんな時ではないと思い直し操縦に専念した。
 エンタープライズに接近し後方の外輪陣からの火線は消えたのだが、今度は前方から必死の勢いで突進してくる2隻の駆逐艦、パターソンとバークレーがエンタープライズの姿を隠すように立ちふさがった。
 彼らの決死の覚悟により進行ルートを塞がれてしまったが、ノリコとリンダは構わず突進させた。
 2隻の駆逐艦の艦長は激突覚悟で突っ込んでくる日本軍の小型艇に恐怖を憶えたが進路を変えるわけにも行かず、せめて直前に撃沈してやろうとあらゆる砲塔から砲弾を撃ち込んだ。
 両者の距離が10メートルまで接近した時、駆逐艦の艦長は衝撃に備えろとの命令を発令。
 砲塔員以外は近くの備品にしがみついた。
 だが、いつまでも衝撃は訪れなかった。
 マシーン兵器では激突直前まで接近させたリンダとノリコが相方に合図を送った。
「お姉さま!」「ええ、分かっていてよ」
「ユング!」「任せて」
 カズミとユングはほぼ同時にジェットスキーから飛び上がり、駆逐艦の砲塔を踏み台にし、跳躍と同時に背中のロケットモーターを全開にしてエンタープライズに向かってジャンプした。。
 ジゼルとミーシャが離れると同時にノリコとリンダはジェットスキーを急速反転させた。
 ほとんどIターンに近いスピンターンは操縦者のノリコとリンダに過酷なGを与えたが見事にふたりとも耐え抜いた。
 そしてすぐさまジェットスキーを可潜モードに切り替えると水中へと潜った。その為姿を見失った駆逐艦は水面監視に忙しく、まさか水中に潜んでいるとは思いもよらなかった。
 ジゼルとミーシャは今にも発艦準備が済んでいそうなたくさんの航空機が並ぶ飛行甲板のど真ん中に強行着艦した。
 彼女らは器用に飛行機と甲板要員を避けながらハルゼーがいる艦橋へと駆け寄った。
 すかさず艦橋に取り付くと艦橋の硝子を割り、スピーカーを使って投降を呼びかけた。
「我々は地球帝國軍の者です。アメリカ海軍中将ハルゼー閣下ですね」
 アマノ・カズミがそう呼びかけると、その勇猛果敢さからアメリカ海軍にブル・ハルゼー有り、と呼ばれている男が指揮官用の椅子に座ったままアマノ・カズミに向き直った。
「何?! 地球帝國だぁ? おいおいいつからここはアメージングストーリーの世界になったんだ」
「あなた方は気付いておられないと思いますが、現在の地球上は今まさに・・・」
「ふざけるな! 我々はニップどもと戦争を始めようかって所だ! いつの間にかは知らんが我々アメリカの委託統治領であるハワイをニップどもに奪われたんだ。取り返さずにおめおめと本国へは戻れん」
「アメリカ合衆国は、1940年代の合衆国はこの地球上に存在しません。我々地球帝國はあなた方との戦争状態を望んでおりません。停戦を申し込みます」
「嘘をつけ、合衆国が僅か1ヶ月で負けるわけがない。それに使者の顔も見せずに停戦などおこがましいわ」
「承知いたしました。取り敢えず一時的でも構いません、武装解除をお願いします」
「断る、第一そんな張りボテで何が出来る」
 ハルゼー中将はマシーン兵器を指さした。
 それを聞いたユングは無言で電磁棒を伸ばすと飛行甲板に突き立てた。
 その途端、青白い火花が飛び散って甲板にいた甲板要員がバタリと倒れた。
 更に無人のダグラスSBDドーントレスを掴み上げて海に叩き込んだ。
 流石にハルゼーもブルってしまった。
 慌てたアマノは通信回線をミーシャに開く。
「一寸ちょっとユング・フロイトさん」
「何よ「薔薇の女王」。こういう分からんちんには実力で示すのが一番なのよ」
「彼らの中に心臓が弱い人間がいたらどうするのよ」
「そんなのが軍艦に乗り込んでる訳ないでしょ」
「あなた、コーチの言う事が聞けないの?」
「う、分かったわよ」
 ようやく暴れるのを止めたミーシャを確認するとアマノは再度ハルゼーに武器を突きつけ武装解除を迫った。
 流石のブル・ハルゼーもこのマシーン兵器の威力に驚き、直接会見することを条件に停戦交渉に応じることになった。
 アマノが合図を送ると、水中で待機していた1号艇2号艇3号艇が浮上。
 オオタのセルジオ、ノリコのナウシカが航空甲板に上がって来た。
 リンダはジェットスキーの見張りである。
 既に停戦の話は艦隊中に連絡していた。エンタープライズの水兵達も甲板に並べてあった航空機から武装を取り外し格納庫へと戻すのに大わらわであった。
 甲板に立ち並ぶ4機のマシーン兵器の前に参謀達を引き連れたハルゼーが姿を現した。
 それを認めたアマノは昇降ハッチを開け、タラップを使ってマシーン兵器の下に立った。
 少なくとも彼女は彼らに多大なるインパクトを与えた様である。
 まぁ、それも仕方がないことで、彼女の着ている沖女で支給された体操着兼パイロットスーツは彼らの時代では有り得ないハイレグカット。かてて加えて戦場に女性が出ていることに対する彼らの倫理観が綯い交ぜになってハルゼーは顔を見た途端に怒鳴りつけようとしたセリフを忘れた。
「初めまして、わたくしは地球帝國付属沖縄女子高等学校、ハワイ臨時防衛軍所属少尉待遇のアマノ・カズミと」
「お姉さま危ない!」
 ノリコの声が響いた瞬間、昇降ハッチからひとりの水兵がマシンガンを構えて飛び出してきた。
 ハルゼーが制止する間もなく、その水兵は引き金を引いた。
 弾丸は狙い違わずアマノに発射され続けた。
「キャアアアアアア!!      ?・・・・・・・・・・・痛くない」
 確かに彼女は銃口が自分の方に向いていることを確認していたし、発射音も確認していたのに何故? と云う思いで頭が占められた。
 彼女が水兵の方を向くと、いち早く水兵に気付いたノリコが咄嗟にマシーン兵器の腕を伸ばしてアマノを撃ち抜くはずだった弾丸を全て遮っていた。
 水兵は巨人を目の前にして恐慌状態に入ったのか、銃倉に入っていた弾丸を全て撃ち尽くしたのに気付かずその引き金を引き続けていた。
「お姉さまに・・・」
 ナウシカからノリコの声が響き、ゆらぁとした感じでその水兵にマシーン兵器は向き直った。
「お姉さまに何するのよぉ!」
 ノリコはその水兵をマシーン兵器の手で鷲掴みにすると、頭上高く持ち上げた。
「停戦の使者を、あまつさえか弱き女性の、しかもお姉さまの可憐な命を散らそうとは! 例えナチスドイツのゲシュタポが許そうともこの私が許さない! 覚悟!」
 彼女はスピーカーを全開にしてそう叫ぶと、水兵を握ったその手を大きく振り被った。
「水でもかぶって、反省なさ〜い!!!!」
 ノリコはその水兵を海高く投げ込んだ。
 さて、ただでさえ航空母艦の飛行甲板は航空機離発着のために高く作ってある。
 それプラス放り投げられた高さが加わった物だから彼は海面40メートルもの高さから海面に叩き付けられた。
 一般人なら全身打撲で即死、運が良くても骨折である。
 だが、卑怯者では有ったが曲がりなりにも水兵であった彼は上手に足から水面に飛び込み無事だった。
 直ちに直援の駆逐艦からカッターが降ろされ、水兵を拾い上げた。その後MPに拘束されたが。
 さて、さしものハルゼーもこの失態に対しては平謝りであった。
 アマノとオオタがエンタープライズの会議室に通されると、アマノにハルゼーから長衣が渡された。どうやら余りにも扇情的な格好をしている為、艦内風紀維持が保たれない事を懸念した彼が急いで用意させたものらしい。
 そこで行われた交渉の場でアマノとオオタ中佐から様々な情報と物的証拠を提示されたハルゼーは渋々ながら停戦に同意し真珠湾に向かう事となった。

 遣エマーン通商艦隊はエマーン商業帝國との会談を終え、紅海を一路日本へ向けて進んでいた。
 ハワイに於けるハルゼー艦隊との停戦は既に衛星回線を通じてこの艦隊へも通達されていた。その為、いよいよアメリカとの艦隊決戦かと緊張が高まっていた旧軍関係者の気も穏やかになり、気が抜けてしまったようであった。
 何しろ彼らはアメリカとの艦隊決戦の為に厳しい訓練を月月火水木金金と続けてきたのであるから。
 艦隊は旅程を順調に進め、もう既に左手に見えるアラビア半島の東端が水平線の彼方に見え隠れしていた。
 ゾーンダイク軍による襲撃はあれ以来起こっていなかった。
 艦隊の船も撃沈された「涼風」以外に損害はなく、現在順調に航海を続けていた。
 エマーンの空飛ぶ商船艦隊も会談が終わるととっとと本国へ引き揚げていってしまった。
 交渉も上手く行き意気揚々と帰還する艦隊であったが、ひとりだけ悩める男がいた。
 帝都日報記者の高垣進策である。
 彼は「穂高」の士官室の一室を割り当てられていた為、悠々とした船旅を楽しんでいた。往路は。
 その復路の事であったが、彼が一目惚れしたエマーン人のシャイア・メイソンは日本艦隊が帰還を始めても「穂高」艦内にいた。
 戦闘中及び戦闘後、する事が無く手持ちぶさたであった彼女は自主的に高垣進策のインタビューの続きを受けていたのだ。
 そしてタイミングを見計らって彼女の乗ってきた慣性制御システム搭載の軽飛行デバイス・ディグに戻るとエマーン艦隊に連絡を入れたのだった。
「あ、もしもし。シャイアですけどエイミー様に繋いで下さい」
 シャイアは落ち着き払って受話器の向こうに連絡を入れた。
 するとかなり慌ただしい気配が受話器の向こう側で起こっていることに気付いた。
「もしもしシャイア!?」
「あ、エイミー様。連絡が遅れて申し訳ございませんでした」
「申し訳ございませんじゃ・・・。無事なら無事と早く連絡を入れなさい。こっちじゃ貴女が戦闘に巻き込まれて死んだんじゃないかと、もう心配で心配で」
「はい、申し訳ございません」
「それで今は何処にいるのです?」
「はい、今は日本艦隊の旗艦「穂高」の船上です」
「ええ! そんな、もうとっくにディグの航続距離から外れているじゃない」
「それなんですけど、わたくし押し掛けする事に決めましたので。後のことは宜しくお願いします。」
「あら、あらあらまあまあまあ・・・そう言うことなら仕方ないわねえ。そうだ、ついでに日本国派遣エマーン駐在大使の権利を売って上げる」
「・・・幾らです?」
「たった十万ポッキリ」
「買った」
「売った」
「それじゃあ、私の実家の方に連絡をお願いします」
「ええ、頑張ってね。あ、ちょっと待ってね・・・ほら、ミムジィもお姉ちゃんに挨拶しなさい」
「オネエチャン、バイバ〜イ」
「うん、ミムジィちゃんも元気でね、バイバ〜イ」
 シャイアは通信をオフにすると振り返った。
 彼女の後では、これから帰って行くシャイアを見送ろうと高垣進策が立っていた。
 彼は名残惜しそうな表情を浮かべるとシャイアの手を握った。
「これからお帰りですか・・・寂しくなります」
「本当に寂しくなります?」
「ええ、もう大変・・・残念です」
「さうですか。」フッ
 シャイアは口元に笑みを浮かべた。
「実は私、先ほど外交官として日本へ行く許可を貰いました。連れていって貰えませんか? 貴方の国へ」
 と、体の線がハッキリと出るツナギを着た上、実に色っぽく迫ったものだから彼は赤くなって肯くばかりであった。
 ここまでは彼もただ単にチャンスが出来たと思っていただけであるのだが、彼はまだ適齢期間際のエマーン人の女性心理というものを良く知らなかった。
 彼はエマーン交渉団の委員会詰め所に彼女を案内した。
 彼女は日本国への入国許可と外交官特権を確認すると与えられたキャビンに本国との連絡回線や情報端末を並べて商売相手となる日本国の情報を集める準備を進めた。
 また、それとは別に今夜半に予定していた勝負に向けて気合いを入れていた。
 その結果、高垣進策のコメント。
「押し掛け女房に手を出す時は、覚悟を決めてからにしよう」以上。



<後書き>
 今回はいつもと趣を変えてIf戦記物風にしてみました。
 しかも長いし。
 色々とくどい所やら、判りづらい所がありましたらご勘弁下さい。何しろ資料と首っ引きで書きましたので正しい性能を発揮しているのかどうかも判らない有様。
 多分戦術とか、詳しい人が読んだらちゃんちゃら笑っちまう様な話でしょう。
 誰か詳しい人、校正に挑戦してみませんか?
 さてさて、それにしてもせっかくEVA更新ページに登録されたというのに、エヴァ関係が出てきたのがたった一言では・・・。
 まぁ仕方が無いですね、それでは失礼します。
「ちょっと待ったぁ!!」
 ビシっ!!
 彼女は指を突き付けると良く分からないことを言い出した。
「アンタアタシのこと出さないって云って本当に出さなかったわね」
 アスカは理不尽なことを云った。そもそもこの話が3分割されているのは主人公的存在であるエヴァ組の3人が出てこない話を書くためでありまして、これは予定されていたことなのです。
「あと、わざわざ感想を送ってくれた篠原さんから指摘を受けてたでしょう。地球防衛軍TDF、テレストリアル・ディフェンス・フォースをテラ・ディフェンス・フォースですって? ハハハ、ちゃんちゃら可笑しいわね」
 ははぁ、篠原さんご指摘どうもありがとうございました。順次修正しますです、ハイ。
 ではそう言う事で、さよぉならぁ。
「待ちなさい。まだアタシの用件は済んじゃいないのよ」
 ダッシュ!
「問答無用!」
 彼女はファイティングポーズを取ると軽いステップを踏んでいたが、いきなり鋭いパンチを顔面に叩き込んだ。
 NERVで鍛え上げられたアスカの格闘センスは一般人には対処のしようがある筈もない、顔を仰け反らせて地面に倒れ込むアイングラッドD。
「アイングラッドD?」
 彼女は訝しげに自らが殴り倒した1999.6/5に三〇路に突入したばかりの男に近寄った。
 そのまま彼女は周りをグルグル回りながらそれを観察していたが、ひとつ気になる点を見つけた。あの箇所にあの威力のパンチを受ければ口を切り多少の出血がある筈なのにそれが見あたらなかった。
「まさか!」
 アスカは急ぎ屈み込むとマジマジとアイングラッドDの顔を覗き込んだ。
 あることに気付いた彼女はハッと息を止めた。
「・・・・・・こ、これは人形?!」
 途端に彼女はキョロキョロと辺りを見渡すが、目的のものは見つからなかった。
 フフフ、こんな事もあろうかと第11話b−partで使ってたダミー人形を用意して置いたのさ。
 かてて加えてこの迷彩、完璧に君の目からは消えている筈だ。
 見つけられるものなら見つけてみたまい、わはははははは。
 ちなみにこのセリフはダミー人形の口から流れているので私は安全だ。
「ちっくしょお! 見つけたら只じゃ済まないわよ」
 アスカは怒りの余り狼の遠吠えの様な雄叫びを上げた。かなり怖いです・・・
 さてと、長居は無用だな、こう云う時はさっさと退散するに限る。ではさらば。
「何処に行くの・・・?」
 おおう! びびった、綾波レイちゃんではないですか、いえ人違いです。わたくしはアイングラッドなどと言う者ではありません。
「・・・誰もそんな事言ってないわ、そう、貴方がこの話の作者、そうなのね」
 ハテ何のことでしょうか。
「私の出番が無かったわ。余り目立っていないのに、この2ヶ月全く出番が無いの」
 ふむふむ成る程、それはお可哀想に。安心してくれ、僕はいつでも応援しているよ。では!
「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ、逃げちゃダメなんですよアイングラッドさん」
 うぅ、碇シンジくんまで。
 ハッ! これだけ騒いで目立ってしまうと・・・
 不意に俺の肩に後からポンって感じで「白魚のような愛らしい」手が置かれた。
 囲まれた? 拙い、まずいっすよぉ。
「アイングラッドさん、そんなお世辞はアスカに通用しないと思いますけど・・・。多分」
 彼は俺の後にいる人物をチラチラと見ながらそう言った。そうだ!
 シンジくん、アスカちゃんが日本語の言い回しが苦手だからってそこまで言う事はないんじゃないかな?
「え、ぼくそんなつもりじゃ」
 へー、じゃあどういう事かな?
「だから、アスカって元々綺麗だから事実を言っても心を動かされないんじゃないかなって」
「えっ、イヤだシンジったら。そんな本当のこと」真っ赤。
「シンジくん、私は違うの?」どことなく不満げ。
「も、勿論、綾・・・レイも負けず劣らずさ」動転し狼狽え気味。
「ちょっとシンジ、アンタその八方美人な所止めなさいよ」
「えっと、ゴメン」
 よし、思っていた展開と違うが俺のことは忘れているな、今だ! 抜き足差し足忍び足。
 チャキッ、冷たい金属が俺の首筋に当てられた。
「ヤッホー! シンジくん、やっと会えたねー」
「マナ! やっぱりマナなんだね」
「うん、コイツ脅して来ちゃった」
 ゴリッとしたモノが首筋に冷たい軌跡を残す。
 コイツは止めて貰いたいなぁ。
「逃亡兵は銃殺よ(ハートマーク)」
 私は兵隊ではないのですが。
「あら、スパイと戦時に私服で軍事活動している兵隊は軍事裁判無しに銃殺なのよ」
 知ってるけど、違うんだー
「ふ、分かってるわよそんな事、ただね、早く本編でシンジに会いたいなぁって、お願いしているだけじゃない」
 てっぽうを突き付けて?
「こんな小口径の自動小銃なんて只のか弱い少女の自衛手段よ」
「怖い女、シンジ、あんなのと付き合うとロクな事無いわよ」
「・・・そうね、アレだったら・・・(コロッ)もうちょっとして明るい性格に変わる私の方が良いよねー、シンちゃん」
 抱きつき。
「レ、レイ」狼狽えるシンジ。
「「あぁー、アンタ(レイさん)何やってんのよ(るんですかぁ)」」
 アスカとマナは慌てて明るい性格にトランスフォームし、シンジに抱きついたレイを引き剥がしに掛かった。
「いやぁ、私とシンちゃんの仲を赤毛と栗毛が引き裂くよぉ」
 プチン、プッツン
「レイ・・・(ムカピー!)、加持さん直伝マーシャルアーツの威力を、受っけなさぁい」
「キリヤマ流柔術、貫弾殺!」
 ぴぎゃぁああああ、どて、ゴロゴロ、コテン。
「いったぁい、ちょっとふたりとも、ATフィールド張ってなかったら大怪我してたよぉ、もう。あんな風に」
 レイが指さす方には、全身に赤い化粧を施したシンジの姿があった。
 今度はトマトジュースじゃないようだ。第六話七話参照。
「あぁシンジシンジシンジィ」
「シンジくん、シンジくん?」
 ふたりはダッシュで自分がうち倒してしまったシンジに駆け寄った。
「ゴメンねシンジィ」
「ごめんなさいシンジくん。私のために」
 良し、完全に注意は向こうに向いた。今だ、脱出ぅ。


 今はこれが精一杯、明日はどっちだ。ごめんなさい、疲れています。

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