スーパーSF大戦



第11話 a-part. 「花見にゆこう」




 エヴァチルドレンにGGGからの転属が告げられてから丸1日、土曜日になっていた。
 3人は意気消沈していたが、それとは関係なく元気に食欲旺盛を示していたトカゲたちに引きずられるように3人は食欲旺盛であった。
 翌日の土曜日をくら〜く過ごしていた彼らであったが、やがてその雰囲気に飽き飽きしたアスカが立ち上がった。
「ちょっとアンタたち! こんな風にグダグダしてたって始まらないわ。どうせなら前向きに行きましょう、前向きに!」
「だってアスカ・・・」
「シンジ、シンジの言いたいことは分かってるわ。でもね、彼らの言い分にも間違いはないし、それにアタシは過去に捕らわれて後ろ向きでいるのがイヤなの。分かる?」
「え、あ、うん」
「それに次の就職先まで世話してくれたんだから良いじゃない。レイも分かってるんでしょ」
「命令だもの。従うわ」
「ちょ〜っち違うんだけど。いいわ。良いこと、私たちの目的は生きて元の世界に必ず戻る事。その為にはどの様な事をしてでも生き延びる事、それを忘れちゃダメよ」
「うん、そうだねアスカ。もう一度帰ってミサトさんにただいまって言わなくちゃね」
「そうそう、まぁ、ミサトなんかどうでも良いんだけど一応私たちの保護者だし、それより加持さんにキチンと報告しなきゃいけないし、ね」
「うん、分かったよアスカ」
「よろしい。でさシンジ」
「なに? アスカ」
「花見ってなに?」
「はっ.....えっと確か春に咲いていた桜って花を眺める鑑賞会だった筈だけど」
「ふぅん、ってことは少し気合いの入った服装をしていく必要がある訳ね」
「え、どうして?」
「だって鑑賞会でしょ、だったらそれなりのフォーマルな格好じゃないと恥ずかしいじゃない」
「そんなものかな」
「勿論よ、さぁレイ。そうと決まったら明日着る服を決めましょう」
「何故?」
「アンタじゃこう言う時のTPOが分からないんじゃないかとおもってね。第一、私がキメキメの格好していってるのにレイがふつうの格好じゃ見劣りしちゃって可哀想じゃない。折角の良い素材してるんだから、バッチリ決めなきゃ」
「そうなの?」
 レイはチラリと横目でシンジの方を盗み見しながらアスカに訊いた。
「そうなの。じゃあレイ、あなたの持っている服をアタシの部屋に持ってきてね、一緒に決めちゃいましょう」
「・・・ええ、そうするわ」
 話が決まるとアスカは立ち上がり玄関の方へと向かった。
「ああ、そうそうシンジ」
 だが途中で突然思いついたように振り返ると、話の早さについて行き損ねていたシンジに質問した。
「なにアスカ」
「サクラの花って、なに色?」
 アスカは自分の知らない花であることを思い出し、服装の色を吟味する際の参考にサクラの花の色を訊いた。
 それに対しシンジは深く考えずに間髪入れずに答えた。
「桜色」
 ふぅっとアスカはため息をつくとこめかみに指を当てて首を振った。
「アンタバカァ!? それじゃどう云う色なのか全然わっかんないじゃないの!」
「あ、そうかゴメンゴメン。絵の具の色で覚えてたから、つい」
「ふむ、つまり以前はかなりメジャーな存在だった訳ね、そのサクラってのは。そしてこの世界には沢山あるわけだ。で、具体的にはどんな色なの」
「えーと、ピンクっぽい色、だったかな? 確か」
「今いち信頼性に欠けるわね」
 それまでシンジとアスカの会話を訊いているだけだったレイだったが、不意にアスカに答えた。
「・・・私知ってるわ」
「レイの方が信頼性は高いわね」
「ちぇっ」
「で、どんな色なの」
「FFB6BC」
「RGB?」
「ええ、そうよ」
「分かったわ」
「それじゃ、すぐ行くから」
「ええ、わかったわ。シンジ?」
「なにアスカ」
「覗くなよ」
 たちまちの内に顔を真っ赤に染めたシンジが抗議をあげた。
「アスカ!」
「アハハハ、冗談冗談」
 アスカは笑い声を上げながら自分の部屋へ戻った。
「まったくもう、アスカは、最近わざとああやってからかうから困っちゃうよ。さて」
 シンジは台所へ行くと下ごしらえをしてあった弁当の材料に手をつけ始めた。
「でも何だってお弁当がいるのかな?」
 シンジはミコトに頼まれて5〜6人分の料理を作り、タッパーに詰め込んでいった。
 実は、日本はセカンドインパクト以降、常夏の国になってしまったため、その国土に生えていた桜の木がほとんど枯れてしまいシンジたちの世代は花見と云う習慣を知らなかったのだ。


 さらに翌日、日曜日、快晴。
 五月も終盤、季節はすでに初夏に入ろうとしていたが、上野公園ではサクラの花が満開になっていた。
 これはこの公園が転移以前に早春で有ったことから起こった椿事であった。
 GGGのメンバーは国内の情報を収集していた時に得たこの機会を逃さずに花見兼送別会という事で宴会を執り行おうと云うのだ。
 日曜日、午前11時頃GGGの仕事を一段落させた彼らは警戒任務をバックアップに引き継ぎ、電車に乗って上野駅へと向かっていた。
 メンバーはメインオーダールームの面々プラスサクラ秘書とエヴァのチルドレンである。天海一家は残念ながら別の用事があると言うことで一家で遊園地へと行っていたのだ。
 ちなみに何故電車で行くかと言えば、近くに駐車場が無いためであった。
 まさか私用の宴会に公用車で乗り付けるわけにもいかなかったからである。
 電車の中ではアスカがシンジに文句をたれていた。
「ちょっとシンジ、お花見って外で飲めや歌えやの宴会をする事じゃないの、アンタ日本人でしょ」
「そうだけど、ボク花見なんてしたことないし。知らなくても仕方ないよ」
「言い訳はいらないのよ。気張った格好していって恥じかいちゃう所だったじゃない」
 アスカは出発直前になってデータベースを調べたところ「花より団子、団子3兄弟」など関連項目とともに花見についての情報を手に入れていた。
 それによると野外で散る桜を愛でながら大根や沢庵を摘みながらお茶や水を飲むというって、それは落語の熊さん八っつぁんである。
「う、ゴメン」
「まぁまぁアスカ、そんなに怒るなって。知らないものは仕方ないさ」
 いきり立つアスカを火麻参謀がパワフルな肉体をムキムキとさせながら宥めようとした。
 余計なことを言わないで、とアスカは言うつもりだった。
 しかし、アスカは火麻参謀の様なムキムキマンが苦手であったため叫ぼうとした声を飲み込みながら視線を逸らしてしまった。
「そうそう、分かってもらえれば良いんだ」
火麻参謀は豪快に笑いながらシンジの肩を力一杯叩いた。
華奢な体格であるシンジはよろけながら咳き込んでしまった。
「お、どうしたんだシンジ。うん、お前ももう少し体を鍛えないといかんぞ。ワハハハ、どうだこの筋肉を! 見て! 参考にしろ!」
 シンジはそれを見て引いてしまった。
「うん? 何だったらこのオレ様がシンジを鍛えてやろうか?」
 その言葉に女性陣全員が否定の言葉を挙げた。
「ノー! 火麻参謀ダメでーす。」
「そうですよ参謀。せっかくこんなに可愛いのに」
 GGGのオペレーターであるスワンとミコトは火麻参謀の側に立っていたシンジの腕を掴むとふたりでシンジを抱きしめた。
 思わず顔が真っ赤に染まるシンジ、するとそのシンジを奪い取るようにアスカが腕を引っ張った。
「そうよ、シンジはこのままでも充分格好いいんだから」
 さらにシンジの前にレイが立ちふさがった。
「シンジくんは私が守るもの」
 そんな女性陣の反応にあっけに取られる火麻参謀であったが、他の男性陣は半分やっかみを込めながら笑い声を上げた。
 さて、そんなこんなで一同は上野駅に到着した。
 この上野駅は彼らの知っている時代のものではなく、各所に木造建築が残ったかなりレトロな構造をしていた。
 そんな中、電車用の高架線だけが新品で、異彩を放っていた。
 彼らがホームに降りると、大きな鈴を持った駅員が「上野、うえ〜のー」と声を上げながら鈴を鳴らしていた。
 6つのホームの中には蒸気機関車の曳かれた旅客列車の姿まであった。
「これはまた、鉄道マニアが見たら涙を流して喜ぶ光景だな」
 GGGの大河長官は思わず呟いていた。
 改札から出て未舗装の道路を上野公園に向かうと、その沿道には平屋、多くて2階建ての店が建ち並んでいた。
 その古色蒼然とした雰囲気の町並みを彼らは歩いていたが、彼らは周りの人たちの注目を集めてしまっていた。
 良く良く周りを見てみると、周りの人たちの大部分は着物を着ていたし、洋服もモダンな物でも肌の露出はほとんどなかった。
 しかし、アスカもレイも袖無しのワンピース姿であったし、ミコトもワンレンの股下10センチと言った超ミニ、スワンに至ってはヘソ出し超カットジーンズと言った二〇〇〇年代でも希な格好であったので、周りの人間はチンドン屋でも見るかのような奇異な視線を浴びせていたのだった。
 シンジも短パンであったが、褌一丁で町を出歩く男も多かったのでこっちは全然問題なかった。
 そんな中を歩いて行くと、上野公園は花見の客で一杯であった。
 とは言え、そこかしこに空き地があったため一番桜が良さそうな場所を見極めると、その隣で宴会を張っていた団体に大河長官が声をかけた。
「あのーっ、ちょっと宜しいかな?」
「はいっ?」
 大河長官に声をかけられた女性が振り返った。
 彼女は桜色のワンピースを着た、日本的な雰囲気を持つ美人であった。
 ちょっとした女優のようである。
「この隣で我々も花見をしたいのですが、宜しいですかな」
「え、あ、ハイハイ。司令・・・じゃなくて米田支配人」
「ん〜? なんだぁ、どうしたいさくら、ヒィック」
 彼女の面々の中では最高齢の男が赤い顔にとろーんとした目つきで返事をした。
「こちらの方々が、隣でお花見の席を開きたいそうなんですけど、構いませんよね?」
「ああ、構わないよぅ。なにしろ美人は大歓迎だ」
「それはよかった、それでは失礼します」
「おぉ〜い、大神、おめぇ手伝ってやんなぁ」
「分かりました、支配人」
「てやんでぃ、お堅い奴だなぁ」
 米田と呼ばれた老人が、その座に入っていた若い男に声をかけると、すでに腰を浮かしていた大神は立ち上がった。
 どうやら声が掛かることを予想していたようだ。
 彼はとなりでビニールシートを鞄から取り出していたスワンに近寄った。
「あ、お手伝いしましょう」
「オー、ご親切にどうもデース」
 スワンがニッコリ笑い返事を返すと大神は顔を赤らめて照れた。
 すると彼の同僚達(主に女性)の発するムッとした気配が大神の背中に突き刺さった。
 彼は冷や汗を浮かべながらスワンから敷物を受け取った。
 彼がビニール製の広い敷布を広げ始めると、それまでミコトと話をしていた凱がそれに気づき大神に声をかけた。
「あ、どうもすいません。今手を貸します」
「どうもお願いします」
 大神とガイが各辺4メートルの敷布を敷くと、ミコトとシンジが持ってきた弁当を並べ始めた。
 料理と酒類(日本酒、ビール、何故かウォッカまで各種取り揃え)を並べ終えると大河長官が音頭をとるべく冷えたビールを満たしたコップを掲げて立ち上がった。
「今日は皆の慰労を行うべくこうして集まってもらったわけだが、まだまだ我々を取り巻く環境は危うい物と言わざるを得ない。また、我々の仲間であった碇シンジ君、惣流アスカラングレー君、綾波レイ君の3名の転任も決まり私個人としても寂しい限りだ。だがしかし、我々は明日も戦い続けねばならない、それが勇者としての我々の使命だからだ。しかし、今日は飲もう。そしてその活力を以て英気を養い、戦いの糧としよう。それでは・・・グラスは行き渡ったかな? よし、それでは我らGGGの未来と彼らの健闘を祈願し、乾杯ーっ!」
 「「「「「「「「「かんぱーい」」」」」」」」」
 大河長官の音頭とともに彼らは酒宴を始めた。
 シンジとレイだけはコップにジュースを汲んでいたがアスカはグラスになみなみと満たしたビールをゴキュゴキュと飲み下していた。
「プハーっ、旨い!」
「あれぇ〜? アスカちゃん未成年なのにビールなんて飲んじゃっていけないんだー」
 アスカと同じく、ビールを飲み干したばかりのミコトが赤い顔をしてアスカに突っ込んだ。
「なーに言ってんのよ。ドイツじゃこんな物水よ、水。それよりもっと、ねぇシンジ、そのハンバーグ取ってよ」
「あ、ちょっと待ってて。他には何か取る?」
「じゃあ、その卵焼きも」
「はいはい、はいどうぞ」
「アリガト、シンジ」
「えへへーっアスカちゃんシンジくんにベタベタじゃーん」
「な、なに言ってんのよ。まったくもう」
「あ、この卵焼き美味しそー」
 ミコトはそこでニッと笑うとアスカの皿に乗っていた卵焼きを指で摘むとそのまま自分の口に運んだ。
「えへへーっイッタダキーィ」
「ああーっアタシの卵焼き取ったぁ!」
「アスカアスカ、まだあるからさ」
 シンジはタッパーから次の卵焼きを取るとアスカの皿に盛った。
「むぅ、ちょっとミコト、もう私の取らないでよね。どうしたの?」
 アスカがミコトに文句を言おうと振り返ると、ミコトは口をもぐもぐさせたまま呆然としていた。
 やがてゴクンと飲み込むと妙に無表情なままシンジの方に向き直った。
 当のシンジは給仕に忙しくて気づいていなかったが。「はい、レイ。肉類は入ってないから」「ありがとうシンジ君」
 ミコトはアスカに問いかけた。
「ねぇアスカちゃん」
「な、なに?」
「これってシンジくんが作ったのよね?」
「そうよ。まずいっての?」
 ミコトは首を左右に振るとひとつ溜め息をついた。
「・・・私のより美味しい・・・ってどうしてぇ!」
「ふっ、勝った」勝ったのはシンジの料理だが。


 大河長官と火麻参謀は升に日本酒を満たして、それを口に運んでいた。
「う〜む。サクラの花を愛でながら飲む日本酒。日本人にうまれて良かったなぁ」
 グビり。
「まったくだぜ、おっとっと桜さんどうもありがとうございます」
 普段は豪気で通している火麻参謀も大人の魅力満載の桜秘書の前では恐縮気味である。
「いいえ、さぁどうぞお飲みなってください」にこりっ
「は、頂きます」グビグビゴックン
 火麻は一気に飲み干した。
「プハーっ! うめぇ」
 火麻が思わず感嘆の声を上げると大河が思いも寄らぬ事を言ってきた。
「おいおい檄、今日の花見はサクラだぞ、梅じゃなくてな! ワハハハハハ、なんちゃって。どうだい桜くん、今の私のジョークは」
 大河長官が桜さんの方を振り向くが、桜はどこか引きつった笑いを浮かべながら桜の木を見上げていた。どうやら聞かなかった振りを通すらしい。
「おやおやどうもそちらさんもいける口のようで」
 隣りから先ほどの老人、米田支配人が一升瓶を片手に大河長官に声をかけてきた。
 大河も上機嫌で隣りに座り込んだ米田に向き直る。
「いやぁ。本日は絶好の花見日和ですなぁ。あ、わたくしこう云う者です。」
 大河長官は名刺を取り出し米田に手渡した。
「ううん? ほう! 宇宙開発公団総裁! 大河幸太郎、ほほう。これは豪気ですなぁ! ワハハハハハ!」
「いや、まったく! ワハハハ。で、貴方は」
「あ、こいつは気付きませんで。私は帝國歌劇団の支配人をしております米田一基と言います。ぜひ今度うちの自慢の女優達の公演を見に来て下さいな」
「ほほう、あちらの彼女たちですか?」
「美人揃いでしょう。」
「まったく、しかし! うちの職員も負けてはいませんぞ。なぁ桜くん」
「はい?」
「どうかしましたか総裁」
大河が桜を呼ぶと当の彼女だけでなく歌劇団の真宮寺さくらまでも振り返ってしまった。
「おお! そちらの美人もさくらくんですか、いやぁさくらって名前の女性には美人が多いんですかなぁ、ワハハハハハ」
「ヒック! 全くまったく、ワハハハハ」
 ふたつの団体のリーダー達は脳天まで完全に酔いが回ってしまっていた。


 一方シンジは、篭の中に閉じこめてあったドラゴンたちをそこから出した。
「よしよしエース。こんな狭いところに閉じこめてゴメンね。」
 シンジが声を掛けると青銅火蜥蜴のエースは瞳を緑色に輝かせ、優しい声を出した。
 それをみてしんじは微笑む。
「皆に迷惑が掛からないように大人しくするんだよ」
「ねぇお兄ちゃんなにしてるの?」
「うわ」
 シンジは突然後ろから掛けられた声に必要以上に驚いた。
 慌てて振り返ると完璧な金髪をした11歳くらいの少女が興味深そうにシンジの手元を覗いていた。
 シンジは慌てて篭のふたを閉めた。
「あはは、いや何でもないよ。君は誰?」
「むぅ。ひとに名前を聞くときにはまず自分から名乗るモノなのよ。ね、ジャンポール?」
 少女は自らが抱えていた熊のぬいぐるみに話し掛けた。
 実際の所、シンジとこの少女の年齢は3歳しか違わないのだが、少女の雰囲気は大切に育てられた者に独特に漂う雰囲気のせいで実際の年齢よりも幼く見えていた。
「え、あゴメンね。ボクはシンジ、碇シンジって言うんだ。お嬢ちゃん」
「アイリス子供じゃないモン。そんな風に言わないで」
「ゴメン。えーと、じゃあ〜、お名前をお聞きして宜しいでしょうか」
「うん、良いよ。私はイリス・シャトーブリアン。みんなはアイリスって呼んでるよ」
「よろしくアイリス」
「えへへ」
 挨拶がすむとアイリスはさっきシンジが隠した篭の方をしきりと気にしだした。
「どうしたの?」
「ねぇお兄ちゃん。その篭の中・・・」
「え、ああこれ? 予備のお弁当が入ってるんだ。ボクが作った物なんだけど・・・食べる?」
 そう言うとシンジは並べてあるタッパーから適当に数点盛るとアイリスに手渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう! あ、そうだ。お返しにあたしたちの持ってきたの持ってくるね」
 アイリスが自分たちの方へ戻っていくとシンジは篭のふたを開いた。
 すると不満げな声を上げたエースが顔を出した。
「あははゴメンね。今食べ物上げるからさ」
 シンジが火蜥蜴たちの好きそうな魚類肉類の簡単な料理を皿に盛り篭の前に置くと、篭の中から3匹の火蜥蜴たちの首が伸びてきてガツガツと食べ始めた。
 シンジは彼らの食欲が満たされるのを心地よい精神感応で受け取った。


 アイリスは自分の席に戻るとシンジから貰った料理を下に置き、桐島カンナが作った沖縄料理とマリア・タチバナが作ったロシア料理のピロシキをバスケットの中から取った。
 「お、アイリス旨そうな料理じゃないか。ひとつ貰うぜぇ」
 そう言うと197センチと云うナイスバディを持つ琉球空手の使い手であるカンナがアイリスの置いた皿から料理を引ったくるとパクッと食べた。
「うお! こいつぁなかなか、おいマリアこいつを味見してみてくれよ」
「へぇ、どれどれ。ふむ、確かになかなかイけるわね。アイリスこれは?」
 クールな印象を与える日露混血の186センチ、立派な体格を持つマリアはアイリスに問いかける。
「あっちのシンジ兄ちゃんが作ったんだって。今からお返しの料理持っていこうとしてたんだけどぉ。いいかなマリア」
「ええ、勿論構わないわ。しかし、この料理、純然たる日本料理に西洋的な調味料や手法を導入して味わいを増している。さくらの作る料理も美味しいけれど、私たちにはこの方が馴染みやすいわ。レシピを聞いておくのも悪くないわね」
「よし、ちまちま持ってくのも面倒臭せぇ。向こうに持ってくぜ」
 そう言うとカンナはバスケットごと掴み上げるとGGG組の宴へ乱入した。


「はい、凱。あーんして」
「おいおいミコト、恥ずかしいから止めてくれよ」
「ちぇっ良いじゃないのたまには。ねぇ凱?」
「ん? どうしたミコト」
「平和って良いね」
 凱はその言葉を聞くと肯いた。ミコトは数年前に発生したEI−01侵入事件によって両親を亡くしていた。
 そのしみじみした口調の裏に隠されている感情に気付いた凱はミコトの頭を抱き寄せるとその耳元に呟いた。
「・・・・・・・・・・」
「うん、アリガト、凱」


 そんなアツアツの雰囲気を作るふたりのすぐ側では3人の男女、猿頭寺耕助 牛山一男、スワン・ホワイトがそんなふたりを優しく見守っていた。
 こちらは酒も進み全員がトローンとした目付きに変わってしまっている。
「アーア、良いですネー、ミコトは。羨ましいデス」
「あれ、スワンには居なかったっけ、好きな人」
「今は居ませんデース。悪かったデスね、ウッシー」
「いや、別にそう言うつもりじゃ」
「まぁまぁ、折角の花見なんですから」くいっ「ぷはぁ、仲良くしようじゃありませんか」
「そうですね」
「それはそうと猿頭寺サーン。ワタシひとつあなたにものもーしマース」
「はい?」
「メインオーダールームのコンソールですガ? 段々アナタの私物がワタシの方へ押し寄せて来ていますデス。今度帰ったら整理整頓して下さーい」
「う〜ん。そうですかぁ。しかし、必要な資料とかがあるんですよ」
 ボスッ!
スワンの拳が地面にめり込んだ。
「資料は構いませーん。シカシ、ペットボトルの空き瓶やゴミ類、時々脱いで異様な芳香を放つ靴下なんかが放置されているのは許せませーん。絶対全く片づけなサーい! ヒック!」
 猿頭寺はスワンが放つ迫力に思わずビビってしまった。
「は、ハイ」
「それとアナタは自分の衛生状態に気を使わな過ぎマース。一日一回はシャワーを浴びる事を約束シるのです」
「いやしかし、そんな暇は無いのですが」
「ワターシの言うことが聞けないと言うのですか?」
 ジロッとスワンは猿頭寺を睨み付けた。
 完全な絡み酒である。
 猿頭寺は助けを求めて牛山を見たがうんうんと肯いているばかりであった。
 彼は観念したのかガックリと頭を落とすと(酒の席での事だから覚えておるまいと考え)彼女の要求をのんだ。
「それからですネー」
「まだあるのですか?」
「まだまだ有りマスです」
 この調子でスワンの要求は延々50項目にも及んだという。ちなみに後日その要求項目はタイプ打ちされた契約用紙として猿頭寺に提出されたという事だ。


 ヒートアップし始めた花見を楽しげに見ていた獅子王麗雄博士はひとり楽しそうにしていたが、やがて何かが気になったらしく背後の鞄からなにやら取り出した。
 パンパカパーン!
 彼はまるでピエロのような形をしたマイク付きの機械を振り上げると陽気な声を出した。
「うむうむ、みんな楽しくやっておるのぉ。しかし何じゃなこう云う時はやっぱり歌がなければツマラン。そこで儂の発明したカラオケくんの出番じゃーい!」
 しかし、その「発明」と言うキーワードを聞いたもう一人のマッドサイエンティスト李 紅蘭がキラーン! とメガネを光らせてそれに対抗するかのように声を張り上げた。
「ちょっと待ったりヤー。発明やったらウチの出番や!」
 そう言うとそれまで料理に目もくれずいじっていた機械を振り上げた。
「これがウチの発明した伴奏くんや!」
「なんじゃとー。フフン、しかしボクちゃんの方が格好いいモンね」
「なんやてーっ、ウチの伴奏くんの方がエエに決まっとるわ」
「ヒュ〜ゥ、チッチッチッ。確かに君の発明も素晴らしい。だが日本じゃ2番目じゃわい」
「それじゃ一番は誰やっちゅうねん」
 獅子王博士は笑い顔を浮かべ親指を伸ばすと自分を指さした。
「ムッキー。それならオッちゃんウチと勝負や」
「おおう、望むところよ。それじゃあセーノでスイッチオンな」
「よっしゃあ」
「「スイッチオン」や!」
 それを聞いていたソレッタ織姫とレニ・ミルヒシュトラーセはさっさと李 紅蘭の側から離れた。
 ポチッとな。
 ドッカーン!
 紅蘭の喇叭のような「伴奏くん」が大量の煙とともに爆発した。
「くわぁ、またやってもーた」
 紅蘭は咳き込むとそのまま動かなくなった。
 獅子王博士の勝ち。
 かと云うとそうでもないようだ。
「・・・一体なにをするの?」
「ああ! レイくんちょっとまっていてくれ。いま助けるから」
 暴走したカラオケくんは胴体から手足を延ばし綾波レイの手足を掴むとそのままドジョウすくいを踊り始めた。
 麗雄博士は慌てて暴走したカラオケくんを止めようとするが素早い動きに振り回されて捕まえることが出来なかった。
「キャハハハハハハ! 何してんのよレイ! アハハハハハ!」
 その様子を見て酔っぱらったアスカは笑い転げた。
 レイはそんなアスカを黙って睨み付けていたが、何も出来ないので睨み付けるだけであった。
 その様子を見ていたカンナ(彼女は自分作った沖縄料理を手土産にシンジの作った料理をモリモリと食べていた)は不適な笑いを浮かべると立ち上がり、獅子王博士の肩に手を置いた。
「おい爺さん」
「じ、爺さん・・・。何じゃな」
「あいつは壊しちまっても構わねぇんだろ」
「ああ・・・。出来るのかね」
「おうよ、こんなモノ食後の腹ごなしにもなりゃしないぜ」
「頼むよ、え〜と」
「カンナ、桐島カンナってんだ。宜しくな」
 そう言うと半身を傾け沖縄空手の構えのまま静かにレイと暴走したカラオケくんに近寄った。
「! ヒュウ!」
 彼女が気合いを入れると常人には目にも止まらぬ速度で右手左手右足が閃いた。
 カンナがダンっ! と右足を大地に踏みしめるとそれまで動きの止まらなかったカラオケくんの手足がバラバラになり地面に落下した。
 安心したのか疲れたのか、レイはそのまま地面に女の子座りでへたり込んでしまった。
 カンナはそんなレイを右腕だけで支えるとシンジの隣りにまで連れていった。
「ほら、レイ」
 シンジは何も言わないレイを促すと、彼女もシンジの言いたいことに気付いたのかカンナの方へ向き直った。
「あの、ありがとう・・・」
「あっはっは、良いって事よ。それより怪我は大丈夫なのか?」
「ええ、問題有りません」
「ふうん、それは良かった。しっかしお前レニに似てるなぁ」
 そう言うとカンナはレニの方へ顎をしゃくった。
 そこにはまるで凛々しい男の子のような風体の少女が物静かにシンジのハンバーグを摘んでいた。
「・・・・・・美味しい、本場ドイツの味がする」
「えっへん、そりゃそうよアタシがシンジを鍛えたんだから」
 そこではアスカが鼻高々と自慢げに胸を反らせていた。
「ちぇっ、鍛えたってアスカは文句つけるだけだったじゃないか」ブツブツ
 シンジが小さな声で文句を言うと、それを聞き取ったアスカがシンジの背後から忍び寄ってきた。
「なぁんか言ったぁ? シンジィ」
「え、いや何も言ってないよ」
「ふぅん、本当? しっっっかり聞こえてんのよ、このバカシンジ!」
 アスカはシンジの首を取るとそのままヘッドロックを掛けた。
 しかし、腕が首に決まっていなかったので何やら気持ちのいい思いをしたとは後日のシンジ談。
「うわぁ、アスカ、ギブギブ!」
「問答無用!」
「ギヤアアアアア」
 コテン、とシンジは崩れた。
 するとレイがすぐさまシンジを起きあがらせた。
 レイはシンジの襟首を掴むと前後に大きく振り始めた。
「シンジくん、起きて」
 レイはシンジが起きないと見るや更に大きくシンジの体を振りはじめた。
 それを見かねたカンナがレイを止めた。
「おっと、シンジはアタイが起こしてやるよ。貸しな」
「・・・・・・」
「料理の礼だよ。任せなって」
 そう言うと、シンジを受け取ったカンナはシンジの背中に膝をあてがい、気合いと共に喝を押し込んだ。
「あ痛てててて!!」
 彼は悲鳴と共に目を覚ました。
 目を覚ましたは良いが、そのまま空をボーっと見続けていた。
「知らない天井だ・・・」
「どーこに天井があるってんだよぉ、このスットコドッコイ」
 カンナはシンジのボケに対し鋭いつっこみをシンジに叩き込んだ。
 ドゴッと鈍い音が響いたが、今度は何とか気絶しないで済んだようだ。
 そんなこんなで2者合同宴会と化してしまった花見は楽しく過ぎていった。



 その時までは。




 突然シンジの篭の中から低い、警告するような声が響いた。  帝國歌劇団とGGGのメンバーはキョトンとしていたが、火蜥蜴のマスターとなった3人のエヴァ・チルドレンには緊張が走った。
 この声、鳴き方は何か危険な事が近付いている警告の声なのであった。


 その時、突然上野公園の上空に闖入した異形の者は公園敷地内に標的を発見したのか、その周囲の上空を旋回していた。
 その姿はまさに悪夢の産物、例えるならば皮を剥がれたカワウソにコウモリの翼を付けたような、それは悪魔の眷属そのものであった。
 それは地上の様子を睥睨していたが、その物の頭部には眼球は存在していなかった。
 前腕の先端についている鈎爪は一撫でで人間を引き裂く鋭さを持ち、それを振るう機会を虎視眈々と狙っているようであった。


「ん? シンジくんアスカくんそれにレイくんも一体どうかしたのかね?」
 大河長官は突然緊張に身を固めた彼らに問いかけた。
 その大河長官もすっかり酒が回っているようで些か呂律が怪しい。
「いえ、その分からないんですが。イヤな感じがするんです」
 彼ら3人は落ち着かずに当たり360度を監視したが何も怪しいモノは発見できなかった。
 だが、火蜥蜴から送られてくる「恐怖」の心象は刻一刻と増え続けていった。
 その様子にいかに花見で気が緩んでいたとはいえ、百戦錬磨の戦士が集うこの面子達はいつでも非常の事態に対処できるすべく緊張を増していった。
 ふと、彼らの上に影が差した瞬間、突然虚空から現れた9匹の火蜥蜴たちが上空に向けて鋭い警告の声を上げた。
 その瞬間レイは鋭い声を全員に投げかけた。
「上から来る!」
 その場にいた全員が空を見上げると、大きな翼を持った体長7メートルくらいのそれが今まさに降下しようと翼をひるがえした。
 その正体を瞬時に認識した大神少尉が命令を発した。
「降魔か! 帝國華撃団花組、出動!!」
 その号令は先ほどまで酒に酔っていた歌劇団のメンバーの体から酒精を滅し、瞬時に戦闘態勢へと移行させた。
「「「「「「「「了解!!!!」」」」」」」」
 大神少尉の号令に、歌劇団のメンバーらしく全員の復唱が綺麗なハーモニーとなって響いた。
「なんなのだ、あれは。まだ我々の知らない敵が存在するというのか!」
 大河長官は絶句するように呟くと、その横で酒瓶を抱えていた米田司令が恐ろしく透き通った声で返答した。
「そう、あれこそは我らが帝都を脅かす存在、その名も降魔です」
「貴方は・・・?」
「申し遅れました、私は帝國歌劇団支配人にして大日本帝國対降魔迎撃部隊帝國華撃団総司令長官米田一基中将です。あなたはガッツィー・ジオイド・ガード長官大河幸太郎殿に相違御座いませんな?」
「ええ、それにしてもあれは一体・・・」
「あれは降魔です。今はそれ以上説明している暇はありません。さぁ部下を連れて避難して下さい。ここは我ら帝國華撃団に任せて貰いましょう」
「分かりました。ガイ!」
「了解! アルティメットスーツ、装着!」
 ガイはそう言うといきなりすべての服を脱ぎ全裸になった。
 突然の出来事にきゃあと声を上げ、目を覆った指の隙間から覗き見る帝國華撃団の乙女達。
 しかし、ガイの肉体は鋼鉄で構成されていた。
 そして彼は背負ってきた巨大なトランクからガイ専用の装甲服=アルティメットスーツを取り出し、装着した。
 その間に大神少尉は公園の外に待機していた貨車に向けて走り出す。
 そしてその後を少し遅れて華撃団の乙女達も走り出した。しかし、ひとり真宮寺さくらだけは霊剣荒鷹を構えると降下してくる降魔に向き直った。
「さくら!」
「ここはわたしが! 長官もお早く!」
「ええい、しょうがないかぁ。さくら、無理はするなよ!」
「分かってます!」
 そう言うとさくらは前方20メートルの位置に着地した降魔に向かって荒鷹を構えなおした。
 するとその横にガイが立っているのに気付いた。
「何をしているの? 早く逃げて」
「いや、ここはオレも闘わせて貰う、オレも勇者だからな」
「ダメ! 降魔には通常の攻撃は効かないわ」
「君こそ、生身で闘うのは無理だ」
「確かに、あれに生身で立ち向かうのは無茶だわ、でも、この公園にいる人たちが避難するまでは、仲間が駆けつけてくれるまでの時間を私が稼がなくちゃならないのよ」
「そうだろう? それはオレも同じだ」
 さくらはしばしの間思案していたが、無言で降魔に集中した。
「死ぬかもしれませんよ」
「大丈夫、おれは史上最強のサイボーグ、サイボーグガイだ!」
「さい・ぼーぐ?」
「ああ、戦闘用に機械の体になった人間だ。君、あれは強いのか」
 ガイは未知数の力を持つ降魔にどう戦うか躊躇していた。
「ええ、あれを倒すことが出来るのは選ばれた力を持つ者のみ。」
「わかった、ならば! イークイップ!!」
 ガイは自分の髪を掴むと頭を円を描くように振り回す。するとガイの全身が金色に光った。
 さくらはガイから放たれる見知らぬ気に圧倒された。
「はぁ、これがサイボーグの力」
「イークイップの限界時間まで時間がない、オレが攻撃するから、君には援護を頼む」
「分かりました。気を付けて下さいね」
 ガイは親指を立ててそれに答えた。
「行くぞ! てりゃあああああ!!!」
 ガイは人間の限界を超えたスピードで降魔へと走った。
「ウィル・ナイフ!」
 緑色に光るナイフを右手に構え、猛スピードで突進し降魔の右前腕へ斬りつけた。
 通常の武器では傷つかないはずの降魔であったが、その腕は大きな傷を負った。
 傷に怒ったのか、降魔はそのまま体を大きく振ると尻尾でガイを薙ぎ払おうとした。
 しかし、ガイの反応速度は常人のそれを大きく凌ぐ。難なくそれをかわすと尻尾の付け根に拳を叩き込んだ。
 怒りの唸り声を上げ、降魔はガイから距離を少し取った。
 するとそれに気付いたさくらがガイに叫んだ。
「気を付けて! 降魔は酸を吐きます」
「なに?! うおっ」
 慌てて降魔の吐き出した酸を避けるガイだったが、地面のぬかるみに足を取られそのまま地面に転倒してしまった。
「しまった!」
 しめたとばかりに降魔はガイに酸を浴びせようと息を吸い込む仕草を見せた。ガイ、絶体絶命のピンチである。
「間に合わない!」


「破邪剣征・桜花霧翔ーっ!!!」


 突然さくらの声が響き渡ると彼女の方からエネルギーの塊が飛んできた。
 それは降魔の横腹に突き刺さると、そのまま降魔は大地に転がった。
「なに!」
 ガイは慌ててさくらを見ると、彼女は霊剣荒鷹を構えたまま肩で息をしていた。
「今の攻撃を生身の人間が?」
「ガイさん、気を付けて! 降魔はまだ生きています」
「しまった」
 降魔は一瞬で飛び上がると、翼を羽ばたかせさくらへと突き進んだ。
 しかし、さくらは破邪剣征・桜花霧翔を放ったばかりで次の一撃が打てるまでかなりの時間が必要だったのだ。
「きゃあああああああ!」
 さくらが悲鳴を上げた。
「ウィル・ナイフ!」
 ガイがウィル・ナイフを投げつけるとそれは降魔の翼の付け根に突き刺さった。
 痛みに悶えた降魔はひとつ悲鳴を上げると公園出口の方へと目標を変えた。
 そこには避難する人たちを守っているGGGのメンバーの姿があった。
「しまった! 今行くぞ! う!」
 その瞬間、イークイップ状態であったガイの制限時間が到達した。
 途端に身動きがとれなくなるガイ。
「そんな、ミコトーっ!!!」


「えっ?」
 ガイの絶叫を聞きつけたミコトがガイの方に振り向く。
 するとものすごい勢いで降魔が突っ込んでくるのがミコトの目に入った。
「キャアアー!!」
 ミコトが悲鳴を上げると同時に、スワンと火麻参謀は懐から取り出した拳銃を構え、連射の許す限りの早さ
で弾丸を撃ち込んだ。
 スワンの持つデザートイーグルと火麻参謀の44マグナムスペシャルは驚異的なストッピングパワーで降魔の速度を鈍らせるが、本体に対してダメージを与えるまでには至っていなかった。
 たちまちミコトの上に覆い被さるように飛びかかってきた降魔は、その鋭い鈎爪を振り下ろした。
 誰もが目を伏せた瞬間、その横にいた綾波レイは降魔をキッと睨みつけると、その隠された力を解放した。
 降魔の鈎爪はミコトの眼前20センチでオレンジ色に光る八角形の壁に阻まれていた。
「ダメ、みんなは私が守るの、だから、アナタは許さない!」
 レイは顔を歪ませ、更に力を込めた。
 レイの作り出したATフィールドは更に強い光を放ち、降魔を公園の中央へと弾き返した。
「綾波・・・」
「レイ・・・」
 シンジとアスカはレイの側に駆け寄った。
 レイは戸惑った表情で自分を見ているアスカとシンジに振り向いた。
「ふたりとも無事でよかった。ふたりは私が・・・守・・るもの」
 レイはふたりに向かって綺麗な笑顔を浮かべ、気絶した。
「レイ!」
「レイィ!」
 シンジとアスカは地面に崩れるようにして倒れたレイに駆け寄ると抱きしめた。 


 はじき飛ばされ、地面に転がった降魔は辺りを見渡した。
 すると先ほど自分を攻撃してきたふたりが目に入った。
 しかも、未だに身動きが出来ないようであった為、降魔は一番華奢なさくらを攻撃することに決めた。
 まだ息の荒いさくらは気丈にも霊剣・荒鷹を構え直すと呼吸を整えた。
 だが、未だに満足な戦闘レベルに達していないことは明らかだった。
 降魔は嘲った感情を隠すこともなく、ゆっくりとさくらへ近付いていった。
 そこへ、イークイップ直後の停止状態から解放されたガイが両手を広げて立ちふさがる。
「待てぇ、まずオレが相手だ!」
「ガイさん」
「君の仲間はもうすぐ来る! それまではオレが必ず守る!! だからもう少し頑張るんだ!!!」
「はい!」
 ガイはこの圧倒的に不利な状況にも関わらず勇気を振り絞り降魔の攻撃をギリギリのところで回避し続けた。
 降魔の爪はガイのアルティメットスーツに深い傷を次々に刻み込んで行く。
「くそぅ。このままでは埒が開かないぜ。」
「ガイさん、逃げて」
「そうは行くか! オレは勇者、サイボーグガイなんだー! テリャアアアーッ!」
 ガイが渾身の力を込めて降魔の前腕を掴むと逆関節の方向へと捻り上げた。
 怯んだ降魔は2〜3歩後ずさった。
 猛り狂った降魔は只ならぬ吼え声を上げた。
 その瞬間、ガイとさくらの周囲に8色の煙が立ち上った。
「帝國華撃団! 見参!!」
 煙の中から身長2メートル50センチの鉄の人型機械が姿を現した。
「みんな!」
「待たせたね、さくらくん。それとガイくん。ここは僕らが引き受けた。さぁ退がるんだ」
「分かった任せる。頼むぞ! 大神くん」
 そう言うとガイはさくらを抱え上げると公園出口の方へ駆けていった。
「了解。皆! 火作戦で行くぞ」
「「「「「「「了解」」」」」」」
 火力重視の作戦「火」を実施した華撃団の光武・改は、降魔に逃げられないように周りを取り囲んだ。
「行くぜ、セイリャアア」
 虎型霊子甲冑光武改は搭乗者の霊子と現代の物を遙かに凌ぐ高効率の蒸気機関を併用している為、その馬力
はその機体からは想像できないほどの出力を誇る。
 かてて加えて、その斬撃は霊子によって強化された刃により、この世に破壊できぬ物がないほどであった。
 それにより如何な降魔の肉体であろうとも、慣れた乗り手によって操られた光武改の攻撃に耐えることは出来ないのだ。
 大神一尉が放った一撃は大きく降魔を切り裂いた。
 翼を切り裂かれた降魔は脱出路を探すが、周りはすべて囲まれてしまっていた。
 必死になっていた降魔は神崎すみれ機が見せた隙を見逃しはしなかった。
「ふっ掛かったわね。止めはわたくしが刺しますわ! 神崎風塵流連雀の舞!!
 わざと見せた隙に釣られ、自分目掛けて突進してきた降魔に必殺技を繰り出した。
 スミレの光武改が薙刀を振るうと気の塊が降魔をズタズタに切り裂いた。
 その死体はまるで霞か何かのように消え去ってしまった。


「見てくれました少尉、私の活躍を」
 光武から降りたすみれは自慢げに髪を掻き上げると、大神少尉に近寄り腕を絡める。
「いや、ハハハ。流石すみれくん、いつもながら素晴らしい技の冴えだね」
「まぁ少尉ったらお上手です事。おほほほほ」
「ちぇっ、しょってやがらぁ」
「何ですってカンナさん。わたくしの可憐な技の何処が拙いって言うんですの。これだから山猿はいけませんわね」
「何だとこのサボテン女ぁ」
「何ですって!」
 今にも掴み合いの喧嘩になりそうだった所に大神がフォローを入れた。
「まぁまぁまぁふたりとも、それよりいつものアレ行かなくちゃ」
「ふん、まぁ少尉がそう言うなら。勘弁して上げますわ」
「へっ、そっちこそ」
「「フンッ!!」」
 ふたりとも顔を背けあうと帝國華撃団戦史記録係のキャメラの前に並んだ。
「さぁ、GGGの皆さんも並んで下さい」
 大神に誘われるとガイとスワン、火麻参謀がカメラの前に立った。
「行きますよ! 勝利のポーズ キメ!」


 シンジとアスカは近くの木陰で気絶したままのレイを看ていた。
 レイは先ほど気絶してから未だに目を覚ましていなかったのだ。
「アスカ、レイは大丈夫かな」
「見たところ異常はないようだし。只の疲労だと思う。だけど」
「ATフィールド」
 シンジがそう呟くとアスカも肯いた。
「ええ、使徒のみが作れる筈のATフィールド、それをレイが作ったのよ。どうしよう。アタシこのままじゃレイのこと拒絶しちゃう」
「ボクは、レイのことを守りたい。だってレイだって言ってたじゃない。僕たちを見て笑って、僕たちを守るって。だからボクもレイを守りたいんだ」
「ファースト・・・チルドレン。綾波レイ・・・。ネルフって一体何なの?」
 アスカは初めて自分が元来所属していた組織について大きな疑問を抱いた。



<中書き>
 しまったぁ! アイングラッド一生の(内に無数にある)失敗だ。
 最初は短編を3つの予定だったのに、いつの間にやら最長の長編と化してしまうとは。
 とにかく、都合上この話は第11話のaパートと言うことにしておきます。
 しかし、この話は長さの割には意外とスムーズに書けました。面白いかどうかは別にして。
 でもここに来てエヴァ組がすこし暗くなってしまいました。
 しかし、あくまでも彼らには明るく楽しく暮らして貰う予定です。
 今はその生活のための不安材料を解消している段階、産みの苦しみみたいな物です。
 初志貫徹! オー!
H11.4/18.エヴァチルドレンのパートを若干変更





パートbに続く。



スーパーSF大戦のページに戻る


日本連合 連合議会


 岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
 感想、ネタ等を書きこんでください。
 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。



ご感想を下さい!





 ・  お名前  ・ 

 ・メールアドレス・ 




★この話はどうでしたか?

好き 嫌い 普通


★評価は?

特上 良い 普通 悪い