プロローグ・そもそもの始まり


・ 西暦2050年 ・
 東西に分かれて争った世界大戦は宇宙をも、その領域としていた。
 戦争の発端は、大戦前に国連によって建設された軌道エレベーター。
 宇宙への輸送を極めてローコストにて可能にしたそれを手に入れることは宇宙の覇権を握ることに等しかった。
 建設が完了した時点で、それまで辛うじて協力関係にあった東西政治部は新たな時代の覇権を握るためにすべての軍事力を使って、赤道直下のブラジルはアマゾン河口付近に建造された第1軌道エレベーターへと侵攻を開始したのである。
 新興勢力である東側国連合はいちはやく、機動部隊を軌道エレベーター基底部に展開し、その勢力下に置いていた。
 それに対し、大国が揃っている西側諸国連合は自らの生存権の侵害を口実に静止衛星軌道上の宇宙港を航宙部隊によって制圧し、今まさに軌道降下部隊の先陣が大気圏に突入しようとしていたのである。
 その時、衛星軌道上の航宙母艦St.バーナード号では軌道降下兵へのブリーフィングが行われていた。
「Aウェポン、アトミック兵器:核分裂・核融合反応兵器。Bウェポン、バイオミック兵器:生物・細菌兵器。Cウェポン、ケミカル兵器:化学・毒ガス兵器。そして今回は新開発のDウェポン、ディメンジョン兵器:超時空破砕兵器を史上初めて用いて戦うことになる。ただし、軌道エレベーターに対する攻撃は禁止されている。これらの広域破壊兵器は作戦の失敗と共に用いる事となる。やつらに我々先進諸国が遅れを取るわけにはいかないのだ。何か質問はないか?」
 ブリーフィングルームで作戦本部参謀隷下の局員が説明を終えた。
 彼は比較的広い室内の(無重量状態のため)天井にまでぎっしりと詰まった戦闘機乗り達を見渡し、質問のないことを確認すると説明を終了した。
 それと共にパイロット達は無重量状態の通路を格納庫に向けて進み出した。
「おい、桂!」
 その内のひとり精悍な顔をした中尉が、いかにも軽薄そうな笑いを浮かべている同僚に声を掛けた。
「なんだよオルソン」
「昨日は夜遅くまでどこ行ってたんだ? 点呼をごまかすのに苦労したんだぜ? ひとつ貸しだな」
「それじゃ今回の作戦から帰ってきたら一杯奢るよ。それでいいだろ」
「わかったよ。それからなあまり手間をかけるなよな」
「なに、俺の愛しいティナが放してくれなくてサ。」
「おいおい、先週はアマンダとか言ってなかったか? 」
「あれ? そうだっけ? 」
「まったく、お前と来たら、・・・その内刺されるぞ」
「なぁに、可愛い女の子相手だったら本望さ」
「勝手にしろ」
 数刻後、桂木 桂とオルソンの所属する第3降下軌道歩兵小隊の頭上では地上からの対空攻撃が宇宙に向かって打ち下ろされていた。
 桂たちの乗るマシーンは大気圏突入能力を持ったガウォーク型の戦闘機で格闘戦とVTOL能力に優れた機体ブロンコ2であった。
 彼らの機体は地表に対しての視界を確保するためコクピットを地球に向けていた。
 その為、かれらの主観では上空に浮かぶ地球に向けて攻撃を避けつつ大気圏突入を続けていた。
 桂とオルソンは卓越した操縦技術で敵が撃ち出した高々度迎撃ミサイルや亜宇宙戦闘機の攻撃をかわしつつ、敵戦闘機に攻撃を加え、撃墜数を稼いでいた。
 彼ら西側先進諸国の作戦では戦闘機が制空権を確保しつつ、攻撃機にて対空拠点を攻撃し地上降下兵を以て軌道エレベーター基部を制圧する手筈であったのだが、情報部が手に入れていた情報と異なり、敵はコストパフォーマンスに優れた兵器を多数配備しており数で圧倒的な戦力を誇っていた。
 それらを用い濃密な攻撃をおこない、制空戦闘機隊、地上攻撃機隊と降下部隊に重大な損害を与えていた。
 攻撃開始より2時間が経過、既に損害は今後の作戦に影響を及ぼすレベルにまで達してしまった。
 ここに至って西側作戦部総本部は軌道エレベーターの制圧を断念。
 今後の政治的観点から東側諸国の宇宙領域での勢力拡大を防ぐため、制圧から破壊へと方針転換を決定。
 艦隊に残った予備戦力を編成し直し強行降下部隊を結成した。
 現在地表に向けて攻撃を続けている部隊は陽動としてXポイントへ攻撃を開始し、少数の重機動兵器に護衛させたD兵器=超時空振動弾を地表へと降下させたのである。
 それが地上に到達したと同時に各部隊に対し、退避勧告がなされた。
 傷ついた部隊は緊急上昇、それぞれ大気圏上層にまで降下してきた気圏突入母艦に帰還していった。
 だが、そんな中、カウントダウンを続けるD兵器に向かって行く2機のブロンコ2の姿があった。
 桂とオルソンの2機である。
 オルソンは桂に向かって通信を行っていた。
「桂、作戦は終了したんだ。早く帰還しろ」
「なに言ってんだ! ここまで頑張って駄目だったから破壊しますだと?! それでいいのかオルソン!」
「命令は絶対だ、桂。こんな事をしてタダで済むと思っているのか? 銃殺刑だぞ」
「へっ、命令違反が怖くて戦争が出来ますかっての」
「よせっ! ケーイ!」
 桂の操縦するブロンコ2はD兵器の正面に着地すると、機体下面からマニピュレーターを延ばし、D兵器にアクセスを始めた。
 しばらく設定をいじっていると、D兵器上面のパネルが開き信管のような物が姿を現した。
「よし、これを引き抜けば」
 そこにオルソンのブロンコ2が降下してきた。
「桂、これの構造を分かっているのか?」
「へへっ、こんなものケチャップと同じでね、蓋をひねればそれまでよっと」
 桂のブロンコ2は無造作に信管様の部品をひねった。
 その瞬間にD兵器は作動した、念密に設定された攻撃範囲は桂によって「無制限」に変更されたまま。
そして世界に光が満ちた。


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