時は、未だ日本が大陸と地続きだった時代……
今では殆どが絶滅してしまった生き物がたくさん暮らしていた時代が在った。
その中でも一際大きく、獰猛なハンター…
剣歯虎……
この物語は…古のハンターでもある彼等の物語である…。
一匹の若い剣歯虎は、昨夜仕留めたオオツノジカの味を反芻しつつ木陰でまどろんでいた。
本来なら若いナウマン象をサーベル状の犬歯で確実に仕留めて獲物にしていた所だが……
思わぬ邪魔が入った…
そう…人間だった…。
ナウマン像の群れを追いかけてここまで進出してきた嫌な奴らだ…
奴らは集団で獲物を足場の悪い湿地帯に追い込み手に持った槍で確実に仕留めて行った…。
俺の獲物だ!と威嚇の唸り声を上げた、然し奴らの返答は投げ槍となって帰ってきた!
どす!!
ぶす!!
彼はもう少しで投げ槍に貫かれる所だった。
『忌々しい人間共め!俺の獲物を横取りしやがって!これで何回目だ!!』
彼は、そう叫んでいたが奴らの数が段々増えている事に気がついた。
『不味いな…あれだけの数を相手にするのは…』
彼には今だ経験も実力も無かった、親離れをしてそんなに経っていないのが現状だった。
今の彼に出来ることは逃げ出す事だけだった、遠くでナウマン象の断末魔の悲鳴と人間共の歓声が木霊している…
『ウオォォォォ!俺の獲物ォォォォ!!』彼は叫んでいた!
虚しさと怒りで我を忘れて彼は叫び続けた……。
彼が空腹を満たしたのは夜に入ってからだった。
さすがの人間達も夜は狩に出ない、今の所は…
オオツノジカの首筋に短剣の様な牙を立てて引き裂く!
『やっと捕まえた…』
獲物を引き倒しながら思わず呟く…
オオツノジカは暫らくもがいていたが、やがて…動かなくなった…
彼は美味そうに獲物を腹から食べ始めた…
遅い晩餐はこうして始まったのだった…。
今は昼時だろうか?
彼はまどろみながらも周囲の警戒を怠らなかった。
サーベル状 の犬歯を持つ彼は…いったい何物なのだろうか?。
スミロドン!更新世を支配した最強の肉食類、現代?のトラとほぼ同じ位の大きさでの両側に突き出した犬歯は強力な武器で、長さは24センチ位もあり、まさに短剣その物!
牙は強度と鋭利さを保つ為、断面は楕円形となっており薄くなった刃に当たる部分には鋸歯状の小さなでこぼこがついていた様だ。
この牙を使ってゾウのように大きく、分厚い皮膚をもった動物を襲っていたと思われる。
以上が彼のプロフィールである。
彼のもう一つの特徴、それは片方の目が潰れていた事だ、親元を離れ初めて本当の生存競争に叩き込まれた彼は様々な事を体験した…
獲物の採りずらさ…他の雄との縄張り争い…ナウマン象の集団の恐怖…
そして…その過程で失った片方の目…
然し!彼は様々な困難を乗り切り、今もこの世に生を受けていた。
この若い剣歯虎は後に、こう呼ばれる
隻眼の龍と………。
暫らく周囲を伺っていた彼は妙なことに気がついた。空が真っ赤に染まっていた…
『こ…こんなの初めてだぞ!?』
彼は驚愕していた。そして辺りが閃光に包まれていた!。
『なっ!何が起きたんだ!!』
廻りを見ると、様々な動物達が悲痛な泣き声を発していた…
『何が起きているんだ!!』
彼の言葉も空しく…総てが閃光に溶け込んでいった………………。
この時、彼らの身に何が起こったのだろう…
その答えは気まぐれな女神様でも判りかねないかもしれない…。