作者:ペテン師さん

 

 

 

スーパーSF大戦

 

新世紀の警視庁警備部

 

 

 

 

 

 

 日本近海の海原を一隻の船が疾走している。大きさからすると貨物船のようだが、そのスピードは通常の貨物船には絶対に出せないスピードだ。

 北日本鉱業新太平洋フェリー所属の高速貨物フェリー「第二ほっかいどう丸」。

 最高速力、実に30ノット。東京〜苫小牧間を従来の30時間から20時間で結ぶ、国内最大の高速フェリーである。8.5メートル級トラック200台、乗用車46台のキャパシティも国内最大級である。

 時空融合で出現した三菱重工のドッグで発見された物を、北日本鉱業が競売で競り落とし(他の競争相手も少なかった為)現在は同社の目玉として活躍している。同型船に「さんふらわあ しんとまこまい」が有り、東京〜苫小牧間のデイリーサービスを行っている。

 ちなみに、上二隻の原型船「さんふらわあ とまこまい」と「ほっかいどう丸」はそれぞれ別会社が運行している。

 新太平洋フェリーを含むこの三社は業務上極めて良好な関係にあり、その為業務成績も相乗効果により高い利益を上げていた。

 名前が似ていて紛らわしいのが唯一の不満らしいが。

 

 

「・・・・・・・・・う〜ん」

「大丈夫ですか? 杉田さん。顔色悪いですよ」

「ああ、大丈夫・・・だと思う。少し横になれば」

「でも、杉田さんが船に弱いなんて以外です」

「なんか、昔っから船乗ると酔っちゃうんだよな、俺」

 「第二ほっかいどう丸」のドライバー室のベッドで横になってうんうん唸っているのは、警視庁警備部特科車両二課(特車二課)パトレイバー中隊第二小隊所属の杉田庄一巡査。その側で心配そうにしているのは杉田の同僚である空谷みどり巡査。それぞれ、イングラム3号機のパイロットと指揮を担当している、いわば相棒同士である。

 女性らしくみどりは小柄でかわいらしい面持ちだが、杉田は顔がやや童顔で身長も平均という以外は、いかにも機動隊員と言った体格をしている。肩幅がありがっしりしているが着やせしているので普段はそんな感じはしないのだが。

 特車二課配属前は第六機動隊に居た、と杉田は自己紹介の時同僚達に述べている。一応、剣道・柔道・日本拳法各二段で珍しいところでは銃剣道も初段である。機動隊のブルーの出動服(乱闘服)とジュラルミンの盾がよく似合いそうだ。

 

【これは捕捉ですが、警視庁警備部所属の特車二課パトレイバー中隊は一応機動隊のお仲間です。機動隊は第一〜第九機動隊まであり、他に特型警備車と呼ばれる装甲車を保有する特車隊(特車一課)が存在しています。これは「連合赤軍浅間山荘事件」で活躍した装甲車です】

 

 そんな「いかにも警察官」な杉田が船に弱い事を知ったみどりは心配する反面、少し嬉しかった。(杉田さんも普通の人だったんですね)、と。

 みどりは杉田に僅かながらコンプレックスを持っていた。同じレイバー養成学校の同期生ながら自分とは絶対的な差のあるレイバーの操縦技術。そして、無人操縦ながら黒いレイバー(グリフォン)と野明のアルフォンス(イングラム一号機)に勝った戦歴。

 みどりで無くともコンプレックスは生まれるだろう。しかし彼女の性格故か、それ以上の嫉妬のような物は抱かなかった。

(それに、弱いところを見せるって、私のことを信用しているからなんでしょうねぇ)

 杉田はみどりのことを完全に信用している。今回の事と、今まで任務をこなしてきても、みどりの指示を殆ど無視したことがないのが、その良い証拠であろう(某二号機パイロットは平気で命令無視、独断専行しますが(爆))。

「はい、これ酔い止めの薬です」

「ありがと・・・。あと5分位したら五味丘さん達の所に行こう」

「そうですね」

 

 

 彼等特車二課員が何故に北海道行きの高速フェリーに乗っているか。

 時間は少々遡る・・・

 

 

 

「つまり、そう言うこと。何か質問は?」

「「「「「「ハーイ、ハイハイハイ!」」」」」」

 後藤の言葉に第二小隊員が元気よく手を挙げる。

「じゃ、篠原」

「はい隊長。訳が分かんないんでちゃんと説明して下さい

 

ビクッ!「説明? 何処??」

 

「やっぱ、ちゃんと言わなきゃダメ?」

 全員ウンっと肯く。

「実はさ〜、この前本庁に北海道警から依頼が在ったんだよね。「今度、北海道警でもパトレイバー隊を創設するので、その実技指導をお願いしたい」って。んで、今の所唯一のパトレイバー隊を運用しているウチにお鉢が回ってきたって言う訳」

「隊長、それでしたら八王子多摩分校の特機研修所から教官を派遣すれば宜しいんじゃないでしょうか?」

 後藤の答えに熊耳が疑問を挟む。

 特車二課の他にも様々なレイバー関連施設が時空融合の影響で日本連合に現れていた。レイバーメーカーの篠原重工やシャフトジャパン等の社屋及び製造工場と各技術者、それに民間のレイバー教習所とその教官もである。その中の一つに警視庁警察学校多摩分校特機研修所(通称「レイバーの穴」)も含まれていた。

 レイバーの穴はその名の通り、パトレイバーの基本操縦訓練から運用研究までこなす、現在の日本連合で唯一のパトレイバーパイロットの養成施設である。

「うん、俺もそう思って色々聞いてみたんだけどさ、佐久間が言うには「こっちは5月までに一個小隊分のレイバー要員を仕立てなきゃならないんだ。それくらいなら特車二課でも出来るだろう」だって。まあ、あっちはあっちで手一杯て事さ」

 佐久間とはレイバーの穴の教官である。

 ちなみに、5月25日は機動隊創設記念日であり、それまでに3個小隊を確保させようと言うのが警備部の思惑らしい。12機のパトレイバーと指揮車が観閲式で行進する予定も立っている。

 通常機動隊の一個中隊は70名であるが、特車二課はかなり特殊な部隊なので現在の所中隊員は総勢20名に満たない。本来で在れば、一個小隊(4機態勢として)に最低12名は必要なのだが。そこで警視庁は、特車二課パトレイバー中隊を7月までに「4個小隊4機態勢」にまで拡充したいところであるが、如何せん機材は集まっても人員がなかなか確保できずにいた。

 そしてその状況下で専門の教官を北海道にまで派遣するのは至難の業である。

 そこである警備部の人間が思い立った。

 

「だったら直接特車二課の人間に行ってもらおう。現場の人間が直に教えるんだから、効果もあるだろうし」

 

 それはそれで間違ってはいない判断なのだが、問題もあった。第一小隊はともかく第二小隊にまともに教官が出来るのか、と言う物だ。

 第一小隊の人員のみ派遣するとなると第一小隊の負担が大きくなってしまう。第二小隊は・・・言わずもがなである(爆笑)。

 更に言えば、一個小隊丸々派遣すると、残った小隊は常時待機状態になってしまい、疲労度が上がりそれに伴って判断力も低下してしまうだろう。つまり、いざ出動となった時、現場で致命的な判断ミスを誘発する可能性が高くなってしまう。

 そこで両小隊から二名ずつ(パイロットと指揮担当)を派遣することになったが、現在第一小隊のレイバーは小隊長の南雲しのぶが纏めて指揮を執っているため、警備部から別の人間を臨時に混成小隊長として派遣することになった。

 そして、第一小隊からは零式AV「ピースメーカー」1号機と同パイロット五味丘努巡査部長、第二小隊から98式AV「イングラム」3号機(電子戦仕様)と同パイロット杉田庄一巡査及び同指揮担当空谷みどり巡査、両キャリア操縦兼整備員として整備班から4名選抜された。

 

 

「遅くなりました、申し訳在りません」

 「第二ほっかいどう丸」の臨時会議室として使用させてもらっている船員用食堂には、既に混成レイバー小隊の面々が集まっていた。

 其処に一番最後になって入室してきたのは杉田とみどり。入室して開口一番に謝罪をしたのは杉田だった。元機動隊員だけ在ってその辺りのことはキチンとしている。

「うん、丁度予定時間の5分前だ。別に君達が遅刻した訳じゃない。私達が早く来ていただけだ」

 そう応えたのは北海道派遣小隊の小隊長を務める相沢義衛警部補。頭の回転が速そうな若者で、時空融合前に第一種国家公務員試験を合格して警視庁に採用された、俗に言う「キャリア」である。

 なぜそんな前途有望なキャリアが特車二課の臨時とは言え小隊長に志願したか、警視庁内部でもかなり話題になったが本人曰く「昔のリベンジ」だそうだ。

 基本的に真面目な人間だが融通も利く、それが相沢に対する杉田の第一印象だった。

「それでは少し早いが会議を始めよう。机の上の資料をみてくれ」

 二人が席について会議が始まった。

 資料には今後の予定のタイムスケジュール、北海道警が使用する予定のレイバーの基本性能、レイバーによる格闘訓練プログラム、指揮車からの指揮訓練プログラム、部隊規模での警備訓練プログラム、民間警備レイバーへ対する警備訓練プログラム等々が事細かく書かれていた。

「小隊長、随分精密な訓練プログラムですね」

 五味丘も唸るほどだから、かなり緻密な内容らしい。これを作成したのが実質部外者だった相沢なのだから相当苦労したことだろう。

「ああ、実は出港直前までかかっていて、実はあまり寝ていないんだ」

「大丈夫ですか? 少し寝ていた方が良いですよ」

「あっちに付くまでまだ半日以上かかりますし、入港前2時間もあれば打ち合わせ出来ると思います」

 流石に睡眠不足でぶっ倒れられても困るので、3人とも相沢に寝るように促す。

 出港してから4時間は立っているし、目的地の苫小牧港に到着するのはあと16時間先だ。ここで無理する必要はない。

「ではすまないが、少し寝かせてもらう。君達も休むように。会議の続きは・・・」

 相沢は腕時計をみて、

「明朝8時30分から行う。それまで訓練プログラムの基本的な案件は頭に入れておいてくれ・・・。じゃあお休み」

 と言って食堂を後にした。

 相沢が出ていった後も五味岡達は食堂にいた。先程の資料を検討しているようだ。

「二課の小隊を指揮するようになって殆ど日が経ってないのに、随分綿密で理に適った訓練計画だ」

「そうですね、とてもキャリアとは思えない程です。相当量の資料と睨めっこしていたんでしょう」

 五味丘と杉田は相沢の作った資料を読んで明日に備えていた。

「それにしても、北海道警特車隊の使うパトレイバーがSR−70とはね」

「何か問題でもあるんですか?」

 五味丘の言葉に反応したのは、何となく手持ちぶさただったみどりである。

「いやね、SR−70は時空融合する前、一度パイソンの後継機として次期主力パトレイバー候補になった機体だったんだ。試験配備されたSR−70で何度か出動したこともあったよ」

「だから五味岡さん今回派遣員として北海道まで行かされたんでしょうね」

 なるほど、と言った感じで杉田が納得する。

 実際に使っていたことがあるから、訓練でもその時の知識が役に立つことは疑いえない事だからだ。

「まあね。あの当時でもかなりレベル的には高い機体だったし、パトレイバーとしてのキャパシティも問題はないだろう。もっとも、今第一小隊で使っているゼロと比較するパワーとスピードで若干劣るだろうけど」

 彼等はその後も打ち合わせを続け、就寝したのは午後11時頃であった。

 

 

 

「はい、特車二課後藤です。・・・ああ、こりゃ警備一課長、どうも」

『夜分済まないが、今夜は第二小隊が当直ですか』

 東京湾の埋立地にある特車二課棟の小隊長室で夜間待機任務に就いていた後藤の元に一本の電話がかかってきた。電話の主は、警視庁警備部警備一課課長の高見公人警視正だった。

 警備一課とは主に機動隊の出動や運用を管理する部署で、特車一課と特車二課も基本的に警備一課からの命令で出動する。つまり、警備一課課長であるこの高見警視正は警視庁指揮下の全機動隊と特車隊の司令官とも言える人だ。

「ええ、まあ。幸い今の所出動もありませんし、少々暇なんですがね」

『ははははは、警察と軍隊と医者が暇なのは平和な証拠ですよ』

 後藤の軽口に怒りもせず、逆に笑う高見。

 階級が3つも上の高見が後藤に丁寧語を使うのは、後藤の生年月日が高見の父親と近いせいだろう。

「所で一課長、こんな夜遅く電話なんて、何かあったんですか」

『ああ、実は詫びの電話なんですけどね』

「詫び、ですか」

『先日無理を言って、其方から北海道に隊員を派遣させてしまった件についてですよ。只でさえ忙しい上、隊員数が少ない特車二課隊員を出させてしまったでしょう。流石に済まないと思って』

「いえいえ、気にせんで下さい。ウチの連中まだ若いですから、多少ハードでも死にゃしませんて」

『そうですか? なら良いんですけど』

「それに若いウチから見聞を広めるのは良いことですから。よく言うじゃないですか、「獅子は我が子を千尋の谷に落とし、這い上がってきた子を更に突き落とす」って」

『はっはっはっはっは! 突き落としてどうするんですか』

 後藤の冗談も笑って流してしまう高見。

 後藤は時空融合によって出現した、自分より若い上司を気に入っていた。キャリア出身にも係わらず、変に威張ったりメンツに拘ったりしない。こうして後藤に電話をかけてきたりするのが何よりの証拠である。非を非として認められる人間は少ないが、高見は数少ない例外と言える。しかもキャリアでこんな事をするのは彼くらいかも知れない。

「あ、後、臨時の小隊長で派遣された彼ですけど」

『相沢警部補ですか。何か?』

「いえいえ、彼、二課の電算室や資料室に籠もって随分と熱心に色々調べていましてね。ああ言う熱心で真面目なキャリアが何でウチに来たのかな、と」

『本人が強く希望したんですよ、「警視庁の上層部には特車二課の特性に熟知した人間がおりません。ですから自分が行ってその特性を勉強してきます」とね。言われてみればその通りです。警備一課長でありながら、私もそんなに知っている訳では無いですからね。それに相沢警部補は優秀ですし、将来彼が上に来たときも、今回の派遣は決しては無駄にはならないでしょうから』

「成る程。あのまま育ってくれれば、立派なキャリアになるでしょうねぇ」

 何処の世界・職業でも下積みで苦労した人間が上層部に行った場合、大成する事が多い。特に特車二課で苦労したら、この先何処の部署に配属されてもやっていけるだろう。

(胃に穴が空くのが先かも知れないけどね)

 ふと、そんなことも思ってしまう後藤であった。

『そう言えば彼、時空融合以前に一時期特車二課へ配属された事があると言っていましたよ』

「私は聞いたことありませんが」

『恐らく此処とは別な次元の特車二課だと思いますよ。彼の話を聞いていると』

 自分がその人を知っていても、その人は自分を知らない。これは時空融合で誕生した日本連合で多数見られた現象である。様々な時代・時空がモザイクのようになって出現したのだからある意味当然とも言えるのだが。

『まあ相沢警部補は、既に第三小隊長として本庁の人事じゃ本決まりですから、鍛えてやって下さい』

「はあ。じゃ一年くらい、上手いことやってみますわ」

 

ビィービィービィー

 

【第一管区より通報。千代田区お茶の水において五〇一発生。第二小隊全機出動せよ! 繰り返す。千代田区お茶の水において五〇一発生。第二小隊全機出動せよ!】

 

 不意にスピーカーから出動命令が発せられた。

「では一課長、出動命令が出たのでこの辺で」

『そのようですね。ではこれで』

 そう言って電話は切られた。

「さ〜て、お仕事お仕事」

 受話器を戻した後藤は、そう言ってレイバーハンガーに降りていくのであった。

 

 

 

 

 

終わり

 


<アイングラッドの感想>
 ペテン師さん、新シリーズですね?
 とは言え、「北日本鉱業」とも緊密にリンクしていそうですけど。
 ゲーム版の新隊員達の活躍が楽しみです。
 では、続きを楽しみに待っています。




日本連合 連合議会


 岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
 感想、ネタ等を書きこんでください。
 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


スーパーSF大戦のページへ







 ・  お名前  ・ 

 ・メールアドレス・ 




★この話はどうでしたか?

好き 嫌い 普通


★評価は?

特上 良い 普通 悪い