作者:ペテン師さん

スーパーSF大戦


外伝

ある公務員の日常(?)









 洋の東西、古今を問わず、国家の転覆を企む組織にとって最も邪魔な機関は警察である。
 軍隊ではと言う人もいると思うが、軍隊には司法警察権は無いため、平時においてその手の組織にとってはあまり脅威にはならない。逮捕権や捜査権を持たないためだ。戒厳令や治安出動を命ぜられたときは別だが。
 それゆえ警察幹部は、右左関係なく過激派の暗殺リストのトップに上がるのだ。
 これはそんな警察において「過激派」を自称し、その自称に違わぬ行動を取る警視総監のお話。

 警視庁公安部は国家を揺るがしかねない事件を未然に防ぐための部署である。
 それゆえ他の部署とはあまり仲が良くない。特に刑事部とは思い切り管轄が被る為、犬猿の仲と言っても良いだろうか。例えば、酔っぱらいが国会前でがなっている場合は刑事部の出番だが、左翼がデモった場合は公安部の私服警官の出番となる。
 そして、過激派や武装テロリストの情報を真っ先に察知し、実際に行動を起こす前に逮捕するのが公安部各課の現在の主な仕事であった。

「それは本当か、村神課長」
「はい、ほぼ間違いない情報です。連中の協力者からの資料です。裏もとってあります」

 警視庁公安部長の元山静彦警視監は公安総務課長の村神康警視正の言葉に「とうとう来たか」と思った。
 机の上には「全国ドラム缶製造業者名簿」と書かれたコピー用紙が10束上がっていた。
 ただし、その名簿の名前は全て警察庁・警視庁の警備公安関係幹部の名前が連なっていた。つまりこれは「過激派の暗殺リスト」なのだ。
 トップには五島田正晴警察庁長官や畑野彰警視総監、それに公安部の責任者である元山の名前もあった。

「私はともかく、総監や長官がやられては一大事だな。村神君、至急警備部の正木部長や高見警備一課長と相談して、長官と総監に警護を付けるようしよう」
「解りました、早速打ち合わせをしてきます」


 警察庁警備局警備課長の佐々敦之警視長も五島田長官に警護を付ける事には賛成だった。
「カミソリ五島田」と異名を持つ警察界のドンは自分の身辺警護には全く関心を寄せていない人物である。若い頃から五島田(それでも当時50代)はそんな人間だったが、年を取った(時空融合時70代)現在なら護衛を付けるかもしれない。と、佐々は密かに期待していた。

「長官、とうとう過激派は警察幹部に対してテロを仕掛ける決意を固めたようです。長官にもしもの事が有れば、全国の警察官の士気に影響します。つきましては、長官には身辺警護の為の護衛を警視庁の警護課から出そうと思うのですが」

 警察庁長官室で佐々がそのように報告する。五島田は最初大人しく聞いていたが、佐々の言葉が終わると途端に反対をした。

「あんなぁ、佐々君。わしが護衛を付けるのが好きやないのは知っとるやろ。君、わしの下で何年仕事しとるんか。それに、警察官が警察官守ってどないするんや」

 徳島訛りの関西弁で反論される。
 しかし佐々もそう簡単に諦める訳にもいかない。

「しかし長官。むざむざ過激派に警察の総大将を襲われたとあっては、日本警察の名折れです。どうか考え直してください」
「わしはもう70をとうに過ぎとる。今更死んだとしても、年寄りが少し早めに冥途に逝くだけや。その年寄りのためにワザワザ人数を裂く必要はない。護衛なんぞ要らんわい」
「しかし長官・・・」

 なおも食い下がろうとする佐々。

「護衛は要りません。身辺警護も結構です」

 五島田の口調が丁寧なものになった。

(ヤバイ! 本当にへそを曲げてしまった!!)

 五島田との付き合いは結構長い佐々は、普段は徳島訛りの関西弁から、丁寧な標準語に変わったときは五島田が本気で怒った時かへそを曲げた時である事を知っていた。
 そしてこうなってしまったら、梃子でも意見を曲げない事も。

「わ、解りました。警視庁の方には護衛は無用と返答しておきます」
「・・・ほな、よろしくな」

 年齢を重ねていても優秀であることは変わっていないが、偏屈さも変わっていない五島田であった。
 部下である佐々の苦労も絶えなかった。

 しかし、警視総監の場合はもっと凄かった。

「なるほど、とうとう来たな」

 畑野彰警視総監は過激派の闇討ちリストを読んでニヤリと笑った。

「ええ、ですから総監にもしもの事があったら、警視庁の志気に係わりますので出退庁時に警護課から何人か護衛を出したいので、了承願えないでしょうか」
「警護だと? 何を言っているんだ君たちは。却下だ却下」

 警備部長の正木俊介本部長は警備第一課長と警護課長を伴って、畑野に伺いを立てたがあっさりと却下されてしまった。・・・一秒了承ではなく一秒却下だった。

「大体、警察官ってのは市民を守るものだろうが。警察官が警察官に守ってもらってどうするんだ。駆逐艦が駆逐艦守るようなもんだ。駆逐艦ってのは弱い商船を守るもんだろうに」

 畑野の言葉はまさに正論であった。そもそも日本連合の警察官は国民のための警察官なのだから。

「それに俺はな、旧自治体警察時代の神戸市警刑事課長の時は拳銃を腰のベルトにぶち込んで、よくヤクザの本部に先頭に立ってガサ掛けに行ったもんだ」

 畑野はよくこの話をする。確かに旧自治体警察時代や兵庫県警時代の武勇伝は凄まじく、下手な漫画や小説よりも面白い。
 実際、後に日本最大の暴力団組織幹部になる男に手錠を掛け、チェーンデスマッチをやらかす程である。
 それでも、ここで終わっていればまだ良かったのだが、畑野節はこんな事では止まってはくれなかった。

「そうだ、今日からオレは拳銃、常時装填、常時携行だ」

 いい事思いついた、といった顔でとんでもない事を言う。

「そ、総監、それはちょっと。ならせめて車にボディーガードだけでも乗り込ませてください」

 警備一課長の高見が翻意を促し、妥協案をだす。

「車にボディガード同乗させる? いらねえ、いらねえ、内側からドアをロックしてな、オレが自分で自分を守る。オレを襲ってみろ、バーンッってくらわしてやる!」

 しかし全く聞く耳を持たない。そして畑野は、さらに凄いことを言い出した。


「それとだ、このリストに乗っている幹部も全員、拳銃の常時装填、常時携帯をしろ。もし過激派に襲われたら、容赦無く拳銃をぶっ放せ。責任は俺が取る! 過激派にやられました、なんて言ってみろ、硫黄島か小笠原に飛ばしてやるからな!!」

「「「なっ」」」

 三人とも唖然としてしまったのは無理ないだろう。総監直々に「テロリストに襲われたら銃を撃て!」と言われたら大抵の警官は面食らう(七曲署等一部の警察署に置いて喝采を浴びるのだが)。何しろ日本警察は「銃を撃たない」事を至上命題としているのだから。

「警備部長、各部署へそう通達を出しておくんだ。あ、明日から早速だぞ」
「わ、解りました」

 正木自身、元居た世界では結構、いやかなり過激な命令を出す事も在った。しかし時空融合後、警視庁警備部長に任じられてからは、そうそう過激な命令は出さなくなった。その大きな原因の一つが自分の上司の影響からだ。言うまでもなく目の前の警視総監のせいだった。
 トップが過激な思考と行動力を持っていた場合、その部下はかなりの割合で抑え役にまわる事が多い。正木の場合もご多分に漏れずそうなってしまっていた。恐らく、もし警視総監が慎重派な人間だったら、彼は積極的で過激な助言をしたことだろう。

 だがしかし、この拳銃携行命令、警備公安の幹部達は実は余りいい顔をしなかった。
 警備公安幹部の大半は俗に「警察戦国時代」、「九九〇日戦争」と言われた、第二次安保闘争の時代から時空融合によってこの世界に来た者達だった。
 そして当時の彼等は一種の「男の美学」により、どんなに荒れた警備実施(デモ隊との衝突等)でも丸腰の私服で現場に臨むことが多かった。拳銃を携行した場合、部下の機動隊員達に「臆病者」とのレッテルが貼られることも在ったからだ。
 そして現場の機動隊員は「臆病者」の命令は聞かない。どんなに階級が高かろうが、だ。
 その為、警視総監直々の命令にも係わらず一週間も経った頃には、警備部の幹部は誰も拳銃を携行するものが居なくなってしまった。

 警視庁警備部参事官の室井慎次警視正は警備実施担当の参事官である。
 彼は時空融合以前もこの職に就いており、その後は警察庁に転任したのだが、時空融合後の組織再編成において降格抜擢の形で再び警備部参事官の職に就いていた。
 そして室井はその期待に遺憾なく応えていた。
 室井は書類を脇に抱え、畑野警視総監の部屋に向かっていた。
 警視総監室がある階にエレベーターが着いた時、見知った自分の部下とばったり遭遇した。

「ああ、高見君。君も総監の所か」
「ええ、先日の警備実施の報告に」

 そして二言三言話している内に、高見は妙な事を言いだした。

「所で室井さん。拳銃は持ってきてますか?」
「変なことを聞くな、君は。何で警視庁の中で拳銃を持って歩かないといけないんだ?」
「実はですね・・・」


『総監、先日の警備に付いての報告を持ってきました』
『うん、では報告してくれ』

 高見は手元のレポートに書かれた事を、私見を交えずに報告する。この場合、報告者は決してレポートに私見を混ぜたりしてはならない。どうしても意見が在る場合は、全ての報告を終えてから私見を述べるのが正しい。
 報告者はトップに正確な情報を伝えるのが仕事なのだから。
 しかし、畑野は報告を上の空気味に聞いているようであった。
 そして何やら腰の辺りをジロジロ見ているではないか。

『・・・高見君』
『はっ』
『君、拳銃はどうした』

 高見も警備部の幹部であり、直接機動隊員と接することが多々あるため、拳銃を携帯していたのは通達が出された日だけで、あとは警視庁の地下にある銃器保管室に入れっぱなしにしていた。

『いえ、ここ本庁の中ですし、別に付ける必要が・・・』

 ありませんし、と続けようとしたが、畑野の顔には怒気が浮かんでいた為言葉がそれ以上出せなかった。

『馬鹿野郎! 俺が常時装填・常時携帯と言ったら常時装填・常時携帯だ!!』
『は、はいっ』
『俺は通達を出して以来、家にも拳銃を持ち帰って居るんだ。見ろ、これを』

 そう言って、自分の腰のホルスターから拳銃を抜き出した。
 よく見るとそれは、アメリカの特殊部隊も使っている「H&K Mk23 U・S・SOCOM」自動拳銃であった。普通で在れば間違っても警察官が持つような拳銃ではない。

『解ったら、今直ぐ拳銃を持ってこい。報告はそれからだ!』


「・・・で、今やっと報告が終わった所なんです」
「さ、災難だったな」

 その話を来て冷や汗を隠せない室井。確かに高見の腰のベルトには拳銃のホルスターが吊ってあった。
 因みに高見の拳銃は「S&W M37エアウェイト」で、長らく日本警察の正式拳銃であった「ニューナンブM60」の後継機種である。

「だから室井さんも総監室に行く前に、別室庶務(警察では副官の事をこう呼ぶ)に言って拳銃持ってこさせた方が良いですよ。じゃなきゃ落ちますよ、カミナリ・・・」
「わ、解った」

 そう言って回れ右しようとする室井だったが、最後にこう言った。

「時代は変わったな、まさか警視総監室に行くときだけ武装するなんて夢にも思わなかったよ」



 畑野は勇敢で優秀な警察官僚であり現場を重視する人間である。
 だから現場の人間からは好かれてはいるのだが、たまに今回のような無茶苦茶な命令を出すこともあった。
 しかしそれでも、彼は帝都の治安を預かる「護民官」なのだ。

 日本連合初代警視総監 畑野彰。
 自らを過激派警察官と称する漢であった。



 終わり







 おまけ

「総監そう言えば、何処からそんなゴツイ拳銃持ってきたんですか?」
「・・・・・・・・・未来の極道は軍隊みたいな武装をしていたんだな」

・・・地下4階の押収品保管庫にある押収品だったらしい。




 後書き
 この作品を書くにあたり、初代内閣安全保障室長 佐々淳之氏著書「東大落城」内のエピソードを参考にして、スーパーSF大戦風にアレンジしました。
 今回はの登場キャラは「突入せよ あさま山荘事件」、「踊る大捜査線」から出演してもらいました。
 本来はお茶濁しの為に掲示板にちょこっと書いた作品なのですが、何時の間にやら本投稿する事に(苦笑)。




日本連合 連合議会


 岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
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 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


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