スーパーSF大戦

新世紀元年−地底編−

 

 

 

「首相、来週の北海道への視察についてですが」

内閣官房長官 細井義文が来週のスケジュールについての話をする。

「一日目の午前中は札幌の北海道自治政府行政委員長と会談、午後からは函館の五稜郭の復興工事を視察。・・・・・・」

次々にスケジュールを読み上げていく官房長官の言葉を、時々肯きながら聞いているのは日本連合首相 加治隆介。幾ら自分の選んだ道とは言え、相も変わらず多忙なようだ。

「最終日ですが、北海道の新興企業、北日本鉱業所有鉱山の視察になっています。何か変更すべき事はありますか?」

「いいえ、スケジュール通り進めましょう。緊急事態が起こらなければ、ですが」

二月下旬のスケジュールがこうして決まった。

最終日の行動スケジュールはつい先程、予定に入れられたのだが。

北日本鉱業代表取締役社長 尾上二郎が会談した一週間後のことであった。

 

 

 

そんなこんなで北海道視察最終日。

北日本鉱業北海道鉱山は尾上二郎の生家敷地内にある。

そこに今回地底世界を視察するメンバーが朝早くから集まっていた。

昨晩は二郎の実家に宿泊したのだろう。二郎の実家は豪壮な煉瓦造りの二階建で部屋数も多く、大勢が宿泊するのにも無理がなかった。

「お早う御座います、尾上社長。今日は宜しくお願いします」

「皆さんお早う御座います。それでは早速ですが、地底世界をご案内致しますのでお車にお乗り下さい」

加治が代表して挨拶し、二郎がそれを返す。そして加治達を車に促した。

 

一行は電気自動車に分乗して地底を目指して出発した。ちなみに、二郎達が元居た世界は電気自動車の技術が発展しており、元の世界から一緒にやってきた電気自動車を改良した物に普段から乗っていた。本来はガソリンエンジン車の排ガスで地底の空気を汚さないために電気自動車を利用しているのだ。

二郎は今回のために、わざわざリムジンタイプの電気自動車を制作させている。勿論、加治の安全のためと、自分も加治の車に同乗して地底を案内するためだ。まあ、既存のリムジンに電気自動車のエンジンを搭載しただけなのだが(他の世界の技術も使っているので、二郎達の世界の物よりも性能は上がっている。後に判明したことだが、二郎達の世界の電気自動車技術が一番発展していた)。

 

地底へと続く道は、加治達が想像していたよりも整備されていた。片側二車線で、一車線の道路幅も広い。下手な高速道路よりも道路状況が良さそうだ。

その道路を時速百キロのスピードで下っていった。

「尾上社長、随分と整備された道路ですね。ドイツのアウトバーンみたいな道路幅もある」

「地底に資材を運ぶための道路なのですが、当初は一車線で道路幅も通常のようにしようとしていたのです。ですが建設担当の日田が「そんな将来の発展性がない物を作ってどうする」と強引に設計の変更をしたんです。お陰で作業に時間が掛かりましたが、その後の機材搬入や労務者の移動効率が予定よりも良い数字を出したんですよ」

「成る程、先見性があったんですね、その方は」

「先見性と言うより、建築関係に対するある種の拘りでしょう」

更にリムジンは地底への道を順調に進んでいく。

二時間ほど走行して到着したのは大きなサービスエリアの様な場所だった。

「皆さん、申し訳ありませんが此処からはヘリでの移動になります。長丁場になりますのでトイレに行きたい方は基地のトイレを使って下さい。それと、酔いそうな方もトイレで存分に出してきて下さい」

二郎の冗談に一同が笑った。笑わなかったのは、加治付きのメイドロボHM13・セリオ=アユミくらいである。

「私は乗り物には酔わない質なんだが、少し小腹が減りました。何か摘む物は無いですか」

内閣官房長官の細井義文が訊ねる。

「ヘリの中にスナック類が置いてありますが、揺れて、とてもじゃありません飲食は出来ませんよ」

「う〜ん、じゃあダイエットと言うことにして我慢しましょう」

「そうなんですか? 昼食は北海道産のビーフステーキだったんですが」

「ダイエットは明日からにします」

二郎と細井のやり取りを聞いて一同は大爆笑した。

「それでは、ヘリにお乗り下さい」

笑いが一頻りすんだ後、フランス・アエロスパシアルAS−332L輸送ヘリに一行を促す二郎だった。

 

「いや、本当に地底でヘリを飛ばせるとは思いませんでしたよ」

現在の高度はマイナス一七〇〇〇メートルの「地の底」である。尤もヘリの高度計にマイナス一七〇〇〇と表示されているわけではないが。

加治達も流石に違和感を感じる。

「私も最初はそうでした。何回もヘリに乗れば直ぐに慣れますよ」

ヘリの内部は幾重にも防音機材を張っているので、大声を出さずに会話が出来た。

そうしてヘリは長いトンネル状の空間に入っていった。トンネルと言っても、天井まで約四〇〇メートル程有り、幅も三〇〇メートル近い回廊だからヘリも楽々飛行できた。

 

そして長いトンネルを抜けると急に視界が開ける。

「ほう・・・」

思わず感嘆の声を上げる加治。

地底二万メートルの都市が加治達の目の前に現れた。都市自体が光を発しているように見える。勿論人工の光だが、夏の日の太陽には及ばないが蛍光灯より明るく、柔らかそうな光。

「あれが我が北日本鉱業が建設した地底都市です。現在、採掘労働者及び各種技術者、更に都市の各種サービス業者の家族併せて約六〇〇〇世帯が居住しています。将来的にあの都市には一万世帯が居住出来るようになります」

二郎の説明に一同も感嘆の声を上げる。

「ちょい待ち。一万世帯の人間が住めるようにするって言ったけど、それじゃあ、熱の問題じゃどうする訳? 地底だと熱の逃げ道が無いじゃない」

その中で唯一疑問の声を上げたのは、視察団の一人で連合政府の科学オブザーバー鷲羽・フィッツ「鷲羽ちゃんって呼んで!」、・・・鷲羽ちゃんだった。

地上では例え相当量の熱が生み出されても、その熱は宇宙空間に放出されるか海水で冷やされる。(現在の世界では相剋界が在って宇宙への放出に制限がかけられており、温室効果の様な状況にある。SSS級機密)

極端な話、密室でストーブがんがん焚くと室温が上がり、簡単に下がらないのと同じである。そして人間が生活する上で熱は確実に生み出されるし、人間自体が熱源でもある。

「それについては後ほどお話しします。もうヘリが着陸しますし、昼食の後にでも」

二郎が言ったとおりヘリは着陸態勢にはいっていた。

 

加治達が休憩の為に案内されたのは地底世界のホテルだった。二階建てで一階に大小の会議室や各種催し物が開ける会場が五カ所ずつ。二階が客室が七十部屋ある、地方都市のホテル程度の設備だ。その会議室の一つで加治達は昼食を摂っていた。

「いや、美味いステーキですな。東京で食ったら三千円はしますよ」

細井は舌鼓を打ちながらステーキを食べている。

昼食はメインのステーキを始め、ご飯とパンの主食、野菜のサラダ、スープとそれなりにボリュームがあり豪華だった。

「私は東京でステーキは食べないんですが、そんなにかかるんですか」

二郎の実家でも昔から酪農を営んでいおり、ステーキは高い物ではないという意識があったから細井の言葉には驚いている。

「大体そんな物ですよ」

加治もそう言って肯く。ブランド牛は特に高く、前沢牛の様な黒毛和牛種は元々値が張っていたし、更に時空融合の影響もあり酪農業者そのものが少なくなっていた。

そうこうしている内食事が終わり、皆お茶を飲んで食休みに入った。

 

「さて、皆さん一息吐いたところで地底世界の説明に入りたいのですが、宜しいでしょうか」

十五分程度の休みを挟み、会議室で北日本鉱業社長 尾上二郎が地底視察に訪れた人たちを見回し、そして説明を始めた。

「まず、先程の昼食のメニュー。あれの材料は全て地底の農場・牧場で栽培・収穫した物です」

会議室がざわめく。

「それは本当ですか、尾上社長」

細井が訊ねる。ちなみに先程の昼食でステーキを一番沢山食べたのは彼だ。

「でもどうやって。地底には太陽がないから植物は光合成出来ないでしょうに」

「細井ちゃん、太陽が無くても普通の電灯の光が在れば植物は光合成出来るのよ。極端な話、ランプの明かりでもね」

細井の疑問に答えたのは鷲羽ちゃんであった。彼女は小学校で理科を教えていたからその程度のことは解る。

「その通りです、鷲羽博士。現在地底農場の耕作可能面積は五万ヘクタールで、米・小麦・大豆等の穀類、各種野菜類やメロンやスイカ、パイナップル等の果実類も栽培・収穫しております」

「な〜るほど。で、牛は此処で取れた飼料を食べて育ったわけ?」

「いいえ、違います。牛などの家畜類の飼料は地底で発見したバクテリアです」

「「「「「バクテリア?」」」」」

加治達の声がハモった。

「バクテリアについては、発見者である北海食品株式会社取締役の東が説明いたします」

東が起立し自己紹介をする。北海食品は北日本鉱業傘下の企業で、主に牛肉の販売で最近では首都圏にも名が通ってきた会社である。その事業規模は一月ごとに大きくなっており、現在までに時空融合で出現し倒産三秒前の雪印食品を買収したり、釧路・八戸にある海産物の缶詰工場もその経営下に置いている。

特に、牛肉の卸値の安さと安定した供給よって、海外からの牛肉の輸入が途絶えた大手牛丼チェーン店へほぼ独占的に牛肉を販売しており、時空融合後の日本連合において生鮮食料品売上高は、多くの有名企業を押しのけトップ20に入るほどだ。

海産物に関しても、釧路や稚内の漁協と専属契約を結んでいたりして、北海道の漁業関係にも深く食い込んでいた。北海道で水揚げされる魚介類のシェアの内約20%程は北海食品が絡んでいる。

「私達は地底の調査のため、今我々が居る空間、私達は第一巨大空間と呼んでいますが、そこの探検を行いました。そして湖に沿って電気自動車で探検をしておりました」

「ちょっと待って下さい。こんな地下に湖ですって」

東が説明の途中であったが、思わず加治が質問をした。しかし、説明を中断されたにも係わらず丁寧にそれに答える東。

「はい、概算でですが直径二百キロの大きな湖です。鉱物が相当溶け込んでいるので、名水と言って良いほど美味しいですよ。そうそう、そのお茶やコーヒーもその水を使っています。厚生省の水質調査でも全く問題在りませんでしたし」

へぇ、と言った感じで目の前のお茶やコーヒーを眺める一同。

「成る程ね、湖の水が気化熱を奪っていたのね」

つまり地底空間が熱くなろうとすると、湖の水が蒸発しその水蒸気が気化熱を奪い、地底空間の温度を下げる。

鷲羽もさっき二郎に質問した答えが聞けて納得したようだ。

東は更に説明を続ける。

「話を続けます。その湖に沿って進んだ所、今度は川が在り湖へ流れ込んでいました。それに沿って三十キロほど進んだら、再び巨大な空間に出まして、そこでそのバクテリアが大量に発見されたんです。で、これがそのバクテリアです」

東はそう言ってバクテリアの実物を見せた。実験用の透明な皿に入っていて、それを加治達に手にとらせて見せる。色は褐色で土状をしていた。特に鷲羽ちゃんは興味津々の表情でバクテリアを眺めていた。

「は〜い、質問」

案の定食らいついてきた。

「どうぞ、鷲羽博士」

鷲羽ちゃん

「・・・は?」

「私のことは、鷲羽ちゃんって呼んで」

「え〜と・・・」

東が困った顔で加治の方を見る。黙って首を左右に振る加治であった。

「・・・はい、鷲羽ちゃん」

東の言葉に満足そうに肯き改めて質問する。

「さっきの説明聞いてると、このバクテリアは水分を吸収して自分の養分にしているみたいだけど、それだけじゃ繁殖する材料にしてはちょっと無理が在るんじゃない?」

流石に質問が鋭い。サンプルを一見しただけでその事に気付いてしまった。

「その通りです、鷲羽ちゃん。バクテリアが繁殖するには水分と、他にあとアルコール分が必要なのが解っています」

「地底にアルコール分? 何処にそんなのが在るのよ」

アルコール分の出所が解らなくなった鷲羽。その答えを出したのは以外にも加治であった。

「それはもしかして、原油から発生するアルコール分ですか」

「首相、何処でそれを!?」

東が少々狼狽するが、今度は二郎が間に入った。

「ああ、この前首相官邸に行った時に俺が話した。あれ、お前には言ってなかったけ」

「俺はつい最近まで、プラントに詰めてたからな。尾上からの説明済みなんだな。良かった、秘密が漏れたかと思ったよ」

地底情報についての機密保持に、北日本鉱業幹部達は時空融合以前から神経質なくらい気を使っていた。その為、東は加治が地底の情報でもトップクラスに当たる資源についての情報を口に出したのを驚いたのだ。

 

「中断してしまいました、申し訳在りません」

東の謝罪により再びバクテリアの説明が始まる。

「このバクテリアは気体のみを吸収し、個体や液体状の物は吸収しない性質のようです」

「気化した水蒸気やアルコールしか受け付けないの?」

「はい。それと、これが最も重要な情報なのですが」

一旦言葉を切り、辺りを見回す東。

「炭酸ガスも一酸化炭素も、窒素化合物や硫黄化合物、二酸化炭素でさえも吸収してしまうのです。このバクテリアは」

「マジで!?」

鷲羽が驚きのあまり思わず大声を上げた。

つまり、北日本鉱業の所有する地底世界は、「食料の供給が出来、鉱山資源も大量に採掘できる上、有毒ガスの発生も抑止出来る。人間が生活する上で問題がない」。すなわち・・・

「やろうと思えば何時でも日本連合からの独立が出来る、と」

加治は真っ直ぐ二郎を見る。

「やろうと思えば出来ないことは無いですが、そんなことやるつもりは在りません。第一、此処(地底)に住んでいる従業員達も反対しますよ。それに、独立なんて馬鹿なことやっている余裕なんてありません。地上も大変なのに、地下でもこれ以上面倒事を増やすなんて」

二郎も目を逸らさずに加治を見る。

暫くして加治は相好を崩した。

「成る程、嘘は言っていないみたいですね。解りました、貴方を信じますよ」

「有り難う御座います」

二郎も笑った。

 

稀代の名宰相と北海道の青年実業家の間に確固たる信頼関係の第一歩が生まれた瞬間であった。

 

「尾上、それに首相。続けて良い?」

東が控えめながらツッコミを入れる。

「悪い」

「申し訳ない。どうぞ」

二人は素直に謝罪する。

「牛の飼料として使っているバクテリアですが、主な成分はタンパク質と炭水化物でタンパク質がバクテリアの構成の約五〇%を占めています。それに各種ビタミンも多く含まれている、食料としては理想的な物です」

「で、美味しいの? そのバクテリア」

質問は主に鷲羽ちゃんがする事に、いつの間にかほぼ暗黙の内に決まった様だ。

「全然味がしないんですよ。ただ、先程言ったように牛等の家畜飼料としてはほぼ理想的です。少しの塩を加えると喜んで食べてくれました。実質的に、餌代は塩の料金だけなんですから、日本全国に供給できるほど大量飼育が可能なんです。それに、肉質も良いのは先程皆さん体験したと思いますが」

苦笑して東が答える。東は元々農学の専門家だったから、バクテリアの成分を見て飼料に使おうと提案したのだ。

 

 

「それでは最後になりましたが、以前加治首相から言われていた鉱石についてです」

そう言って二郎は加治を見る。

「あの鉱石を集めてくれ、と言われたので取り敢えず集めたのですが、あれは一体何なんです? 私達の知識では珍しいだけの価値が無いような石なんですが」

加治は少し困った様子だ。

この鉱石こそ、日本連合の最重要戦略物資の一つである「精霊石」の原石なのだ。前回、首相官邸を二郎達が訪れたときにお土産として置いていった石が精霊石だった。その事を知った加治は、詳しいことを伏せながら、その石をどれだけ集められるかを北海道に来る前に電話で問うたのだ。

精霊石等のオカルト関係の情報はほぼSSS機密になっているので、当然ながら二郎達には精霊石の価値が解らない。

当然であろう。彼等が元居た世界では妖怪や幽霊の類は殆ど居なかったのだから。

当惑しながら加治は随行員達を見渡した。何人かが肯くのを見て二郎に訊ねる。

「尾上社長。これから我々が話すことは、日本連合にとって最重要国家機密にあたります。此処から先のことを知りたいのであれば、後ほど宣誓書を書いて貰い、他の誰にも他言しないで頂きたい。それでも宜しいですか」

逆に驚いたのは二郎達であった。まさかそんなに大げさな物だったとは夢にも思わなかったからだ。

(どうする、みんな)

(そんなにたいそうな物だったのか、あの石)

(清水はどう思う?)

(俺は知って置いた方が良いと思う。何も知らないままだと不気味でしょうがない)

(そうだな。此処にいるのは幹部だけだし。お前達も喋らないだろうな)

(勿論)

(喋ったら只じゃ済まないだろうしな)

(それにこの機会を逃したら、政府とのパイプを作る機会も無くなるだろうし)

(じゃあ、それで良いな)

((((おう))))

二郎の言葉に速水、吉田、清水、東の四人全員肯く。

「お待たせいたしました。解りました、後ほど誓約書を書きますのでこの石について詳しい説明をしていただきますか」

「そうですか。それでは説明しましょう。美神さんお願いします」

「はい、首相」

加治に促されて起立したのは、オカルトGメン設立委員会代表の美神美智恵であった。

(彼女の詳しい説明は省きます。ゴールドアームさんのSSを見て下さいな、と言うか上手く説明できません(笑))

そして、精霊石についての説明と、精霊石の重要性についての説明がなされる。

当然、南米で行われる邦人救出作戦に付いても触れられた。

説明された北日本鉱業幹部達は文字通り、顔の色が変わってしまった。今までは北の新興企業として、まあそれなりに自由な商業活動が行えたのだが、こんな話を聞いてしまったらこれからの商業活動には政府が目を光らせる事は間違いないだろう。機密漏洩防止と精霊石の管理についてだ。

何しろ核兵器を遙かに上回る兵器になる上、世界のミリタリーバランスを根底から覆しかねない程の代物なのだ、精霊石を利用したオカルトグッズは。

(本当にとんでも無い世界に来ちまったなあ)

まさか自分達の鉱山からそんな物が採掘されていたとは夢にも思っていなかった二郎であった。

「そこで尾上社長」

美神の声で我に返った二郎。まだ顔が青い。

「日本連合は、これから発掘される精霊石を全て、適正価格で買い取りたいと思っています。勿論、北日本鉱業に損はさせませんが」

「ええ・・・。それについての詳細は後日、経営担当の清水と商談の詰めをして頂きたいと思います」

(まて尾上。俺に面倒事を全部押し付けるつもりか)

(すまん。代わりに八戸と青森の造船所の件、俺が行って話を付けるから)

(・・・ついでに海援隊グループの事もやってくれ。やっぱり社長が行った方が話が付きやすいからな)

(恩に着る)

(話を任せられたついでに、幾つかお歴々に提案したいことが在るんだが、良いか?)

(解った。構わない)

「今、尾上社長に精霊石の件を一任された副社長の清水です。これから精霊石関連の案件は全て私が担当いたしますので、宜しくお願いします」

早速清水は、持ち前の経営術と交渉術を披露していく。

「早速ですが提案が在ります。宜しいでしょうか、首相」

「何でしょうか」

「先程。美神女史が言っていた精霊石の製造についてなのですが、その加工・製造の工場も地底に造りませんか。そうすれば、精霊石の原石の発掘から製品の製造まで一貫してこなせると思うのですが」

これは防諜上でも魅力的な提案であった。地底にはいま二郎達が居る巨大な空間の他、無数とも言える横穴も空いており、工場一軒すっぽり入るような空間も数多く発見されていた。

そこで精霊石を加工すれば、後は完成品を他の商品と一緒に地上まで運んでいける。

つまり、精霊石が人の目に触れるのは最低限にまで抑えられるのだ。

だが・・・

「申し訳在りませんが、それは出来ません。何故なら精霊石は普通の鉱物とは違い、加工方法が複雑で北日本鉱業さんの設備では加工できないのです」

「う〜ん、そうなんですか。残念です、地底世界ならば機密も十分に守れると思って提案してみたんですが」

そう言った清水だが、あまり残念がっては居ないみたいだった。清水にしても言ってみただけで本当に加工できるとは思っていなかったようだ。第一、加工の仕方も解らない。

「加工は出来なくても、精霊石を使用した製品は作れますよ。例えば・・・」

「例えば?」

「銃弾とか」

美神の言葉に清水はギョッとした。

「銃弾のような消費物資は人工合成物を使用しているのですが、やはり威力の面で天然物に劣ります。ですから、カッティングにさえ注意していただければ此方でも製造出来ると思いますが」

「成る程。カットくらいなら従来の技術を応用すれば、何とかなるかも知れませんね。解りました、取り敢えず敷地と設備だけは用意しておきましょう」

 

日本連合最大の精霊石銃弾製造メーカー「(株)北日本精機工」誕生秘話である。

 

「じゃあ、原石は採掘してそれは何処に運んだら良いんでしょうか」

「それは全て此方で手配いたします。物が物だけに堂々と購入するわけにもいきませんから」

「それじゃあ、こうしたらどうでしょう。日銀に購入して貰う金を輸送するときに、精霊石の原石も一緒の便で送ればカモフラージュになるんじゃ」

「成る程、それも良い案ですね。早速検討してみましょう」

清水の提案を加治も取り敢えず候補に入れるようだ。無論、結論を出すのは東京に帰ってからだが。

ちなみに、時空融合前までは各企業の資産は有価証券・ゴルフ会員権等が主流であったが、時空融合によって全て無効になってしまった。その為、日本連合は再び金本位制に戻ることになるのだが、そこで一つ問題が起こった。日銀の金庫の中に、需要を賄えるだけの金がなかったのだ。そこに秘密裏に大量の金を供給したのが北日本鉱業、正確に言えば清水の判断によるものだった。日銀に供給した金の総量は約200トン。需要を賄って更にお釣りが来る量である。しかもそれらを全て日銀へ無償援助したのである。これによって経済的な混乱を修めるのに少なからず寄与したのだが、清水の目的が最初からその辺りにあったらしい(金額にして約2000億円)。これがきっかけで、日本連合内部にコネができたのであった。

ちなみに未だ金は発掘されており暫く供給不足に悩むことはない。

その200トンとは別に、他にも電子機器用の金や銀も販売していたため、昨年度までの北日本鉱業総資産量は、所得税と法人税を気にしなければならないほどの物であった。その一番の上得意が御三家の一つであり、当主が美少女格闘家の神月財閥である。

もっともその後税金対策も含め、規模の拡大(室蘭ドックの買収(戦艦摩利志天・空母仁王等のトンデモ艦を作っていた。他にも多数出現したが纏めて買い取った)、閉山された鉱山の買収及び鉱山の整備(調べた結果、洒落にならないほどの予想埋蔵量が計測された。石炭だけで楽にバブル期の消費量で1000年分あった)、倒産0.1秒前の雪印の買収(これはやすく買いたたいた)、旧東日本フェリー及び東日本海フェリーの航路と高速フェリーを競売で落札(フェリーは全て30ノット出せる物に交換。便数も増やした)、時空融合で出現した新技術を使用した機材の購入、等々)を行ったため瞬く間に北日本鉱業は急成長した。

それにより問題も多かったが、北日本鉱業はオーナーであると言う姿勢を示し、買収先の企業に経営は今まで通りやっていただくと説明したので、現場や買収された企業上層部の反発は少なかった(雪印没落の戦犯達は全員首を飛ばした。退職金を払ってやったのは二郎の慈悲であろう)。買収したのは良いがそれらの経営ノウハウを北日本鉱業が持っていない為だ。

雪印は社名を「スノーカンパニー」に変更し、品質管理の徹底をはかり信頼回復に務めた。そのかい有って、以前ほどではないが着実にシェアをのばしている。

「取り敢えず、第一回目の指定された分量の原石は予定通り送れそうです。採掘現場がレイバーの使用可能な箇所だったのが幸いしました。いや、あれは本当に便利ですよ。重機並の性能でいて人間と殆ど変わらない動きが可能なんですから。作業の幅が広がって。こんな時は時空融合万歳って言えるんですが」

鉱山長の速水はレイバーの事をしきりに誉める。確かにバッテリー式のレイバーなら排ガスで地底の空気を汚すこともないし、熱の発生も或る程度抑えられる。地底での作業には正に打って付けな代物であった。

労働力に関しても、融合当時大量の失業者が生まれたから労働力の確保は容易であった。

 

夕方頃には加治一行は再び電気リムジンに乗って地上に戻っていった。

二郎は当然の様に加治達を見送っていったが、清水と速水はそのまま地底に残っていた。

残った二人の元に、他の北日本鉱業幹部、労務兼地底都市行政担当の水谷と地底エネルギー管理担当の桜井がやって来る。

「やあ、清水。どうだった、我等が選出した首相閣下は?」

そう言ったのは桜井。彼は今まで新型火力発電所の工事状況の確認のため現場に詰めていたので、会議の内容までは知らない。

「ああ、予想以上の人だったよ。とても信頼できそうな人だ。あの人で在れば、例え地底の秘密全てを明かしてもいいとさえ思えた」

「お前が其処まで言えるほどの政治家なのか?」

「俺も清水と同意見だ。俺が知る限り、最も優れた政治家だろうよ」

「速水もか」

速水はともかく清水がこんな事を言うとは思わなかった桜井。普段の清水は頭に超が付くくらいの現実主義者で、人物評価もシビアだ。その男に此処まで言わしめる政治家なのだ加持隆介という男は。

「残念。俺も会ってみたかったな、加治首相にさ」

と桜井。

「何れ又、機会があるだろうさ。・・・俺も会ってみたかったよ」

水谷も残念がっている。

「それはそうと、何の用だ」

「そうそう、忘れるところだった。清水、ちょっと東京で調達して欲しい物が有るんだけどさ」

普段清水は北日本鉱業東京支社に詰めているため、北海道には滅多にやってこなかった。時空融合時も東京に居たが、北日本鉱業の存在力か、それとも本人のあくの強さ故か。東京支社事融合に巻き込まれていた。

現在の東京支社の主な業務は営業と資材調達、情報収集である。

「何だ水谷」

「レイバー5〜6機仕入れて欲しいんだ」

「レイバー? 速水の所で使っているようなタイプか?」

清水は発掘・建設用に使用している篠原製レイバーを思い浮かべた。

「いや、ああ言った作業用のレイバーじゃなくて、警備用のレイバー。以前上(地上)のニュース見たんだけど、レイバーを使用した犯罪が増えてきたみたいなんだ」

「ああ、そうらしいな。東京でもたまに起こっている」

「だろう。こっち(地底都市)も今の所問題は無いんだけど、何か起こってからじゃ遅いから、保安官達の正式装備に加えておきたいんだ」

「と言うことは、篠原のイングラムあたりか?」

「そう、ああいったヤツ」

水谷は地底都市の責任者と言うだけあって、治安維持も重要な仕事の一つである。これから地底に居住する人間が増えると言うことは、必然的にトラブルも増えると言うこともよく理解している。それによって犯罪件数も増える可能性もあり、相手がレイバーを使わないともかぎらない。

「解った。何とか揃えてみるが、イングラムじゃ無くても良いんだよな」

「うん、特に機種は限定しない。その辺りは清水に任すよ」

 

 

後に、特車二科第二小隊から警備用レイバー運用講習の為に人員が派遣されることになった。

彼等は必然的に騒動も呼び込むことになるのは、また別なお話である。

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

追加版のおまけ

 

 

此処は東京湾に浮かぶ埋立地。

警視庁一の金食い虫、特科車両二科パトロールレイバー中隊(特車二科)の駐屯地である。

夕方に入り辺りが少し肌寒くなった頃、出動していた第二小隊の指揮車とレイバーキャリアーが帰還してきた。

新世紀二年に入り全国的に大量のレイバー需要を生み出していたが、それに正比例してレイバーを使用した犯罪が急造した。そのため、現在の所警視庁が保有する唯一のパトレイバー部隊である特車二科は大忙しであった。

 

「あ〜、疲れたぁ」

篠原重工製98式AV「イングラム」一号機パイロット泉野明巡査はイングラムを降りた早々弱音を吐く。

「まったく、喧嘩にレイバー使うなっちゅうんじゃ」

そう相づちを打ったのは一号指揮担当の篠原遊馬巡査。彼はかの大手レイバーメーカー「篠原重工」の御曹司であるが、何故かこんな所で地方公務員をやっていたりする。本人曰く「親父にはめられた」そうだ。

「何だ何だ情けない。こんな事でへこたれおって、貴様らそれでも警察官か?」

二人を叱咤するのは二号機パイロット太田功巡査。「歩く人間火薬庫」と呼ばれ、犯罪者よりも身内である警察に恐れられている漢だ(笑)。

「太田君、貴方もリボルバーを使わないで犯人を逮捕できれば、立派な警察官なのにね」

そう言って太田に説教したのは二号指揮担当の熊耳武緒巡査部長である。太田も頭が上がらない数少ない人物で、香港時代には「ジャックナイフ」の異名を持っていた才女だ。

「じゅ、巡査部長殿。自分は迅速に賊を取り押さえようと・・・」

「シャラップ! それなら最初の一撃で相手を行動不能にするべきよ。ただ銃を撃てば良いって物じゃ無いでしょ」

太田の反論を止めたのは香貫花=クランシー巡査部長。元NY市警の刑事だったが時空融合時、偶々日本に居たためそれに巻き込まれ、いつの間にか特車二科第二小隊に居着いてしまった。

彼女も武緒とはタイプこそ違うが才女で、キャリアウーマンと言う言葉がよく似合う。

太田は彼女にも頭が上がらないのだ(笑)。

香貫花の乗る機体は「イングラム」ではなく、「イングラム」の後継機で第一小隊が使っている篠原重工製零式AV「ピースメーカー」のプロトタイプである。プロトタイプではあるが量産期に何ら劣る所はない。

「まったくだ。うかうかしてると、後輩に追い抜かれちまうぜ、太田」

「なんだとぉ!」

遊馬の茶々に激昂する太田。遊馬の減らず口とそれに反応する太田、の図は殆ど日常茶飯事になってしまっているため誰も止めようとはしない。

「機体のチェック終わりました、って遊馬さんと太田さんまたやっているんですか?」

その二人を呆れ顔でみているのは三号機パイロットの杉田庄一巡査。

「出動から帰ってきたばかりなのに、元気ですねぇ」

それにおっとりとした相づちを打ったのは三号指揮担当の空谷みどり巡査。この二人も特車二科第二小隊の隊員であったが、野明達のいた時空とは少し異なった世界の人間だ。

「黒いレイバー事件」が終わって暫く経ってから時空融合に遭遇した特車二科だが、杉田達はそれから更に一年後の世界から来ていた。最初は偽警官かと疑われていたが、特車二科しか知らない秘密(主に第二小隊の、とてもじゃないが他人に言えない秘密(爆))を事細かに話した結果、ようやく二人は特車二科の人間であったことが確認された。

その後杉田とみどりは、正式に第二小隊に配属されて従来通りの任務に従事している。

これによって、遊馬は元通り一号指揮担当に戻り野明とのコンビを復活させたのだった。

ちなみに杉田の技量は遊馬よりも遙かに上である。本職のレイバーパイロットである杉田に本職がレイバー指揮の遊馬が勝てる通りはなかった。みどりが言うには「無人操縦でしたけどグリフォンと一号機に勝ったこともあるんですよ」、それほどの実力があるのだ。

一号機に勝ったと聞いた野明が更に詰め寄り、詳細を聞いた後、杉田を追いかけ回してボコボコに伸してしまったのは余談である(笑)。

 

「若いもんは元気があっていいねえ。ホント」

特車二科第二小隊長の後藤喜一警部補は煙草をくわえてそう呟いた。

「ご苦労様。どうだったの、今日は?」

第一小隊長の南雲しのぶ警部補が労をねぎらう言葉をかけ、今日の出動の結果を聞いてきた。

「只の喧嘩。理由は、次の競馬のレースでどの馬が勝つかで口論になって、近くにあったレイバー持ち出したんだって」

「・・・まったく」

しのぶも呆れ気味であった。

「所でしのぶさん。それだけの為にわざわざお出迎えしてきた訳じゃないよね?」

後藤は普段はそうでも無いが、時折妙に鋭いところがある。

「さすがね後藤さん。福島課長がお呼びよ。直ぐに課長室に来るようにって」

「課長が? 何かやったかなぁ・・・」

「あら、何かやったのかしら」

「別に、「普段通り」だったよ、今日も」

太田の発砲も既に「普段通り」の範疇にはいるらしい。

「そう? なら良いけど」

しのぶもそれ以上は追求しようとはしなかった。

「何でも、特車二科から北海道にレイバーを派遣するから、その事についての話し合いだそうよ。予定ではウチの第一小隊と後藤さんの第二小隊から一機づつ派遣するらしいわ」

「北海道? 何でまた」

「それは課長に直接聞いた方が良いんじゃない」

「それもそうだねぇ」

そう言って二人の中間管理職は課長室に向かうのだった。

 

 

 

ホントに終わり

 

 

 

スペシャルサンクスです、Ver7さん。

 

 

 

 

 

 

 

後書きへ


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