「いらっしゃませ〜(は〜と)」
　赤ん坊を抱いて入店する若い男女を姑娘が出迎えた。中華料理店だからウェイトレスが中華ドレスに身を包んで出迎えても可笑しくは無い。だがお店にはこんな女の子はいなかった筈、と二人は思った。
「あれ、始めてみる娘だね。僕らは張の知り合いだけど、居るかい？」
「マスターですね。ちょっと待ってください」
　姑娘は振り返ると奥に向かって走り、店主を呼んだ。
「マスター、お客様ですよ」
「やぁ、やぁ、ジョーにフランソワーズ。いらっしゃい」
　ウェイトレスに呼ばれて、奥からこの中華料理店『中華大飯店』の店主が出てきた。ジョーも挨拶を返した。
「やぁ、張」
「・・・」
「張？」
「大五郎」
「ふふふ、ジョー。挨拶はちゃんと呼ばなきゃ。ねぇ」
　一緒に入った女性に言われてようやく思い当たったか、若い男性は恥ずかしそうに礼儀にあった呼びかけをした。
「やぁ、こんにちは。張大人」
「ふふふ、張大人。こんにちは」
「良く来たアルネ。ジョー、フランソワーズ」
　ようやく礼儀にかなった挨拶が出て、無表情だった張の顔にも笑顔が戻り三人の会話が始まった。その奥で先ほどのウェイトレスが三人の為にテーブルの準備をしていた。が、時々外をチラチラッと見ている。
「よろしければあの新しいウェイトレスも紹介してくださらない？」
　彼女の行動に違和感を覚えたフランソワーズが張に頼んだ。
「アイヤ〜、やっぱり気になるね？」
「そりゃそうだよ、張大人。この店に似合わない程可愛い娘じゃないか。イテッ」
　ジョーが代わりに答えたが、テーブルの下で向こう脛を蹴られた様である。
「それに張？あの娘、テーブルメイキングより外が、うん、あのタバコの自動販売機に気を取られているじゃない。何か訳ありなの？」
　足を使った事をおくびにも出さないフランソワーズが、更に張に質問した。
「私が答えましょうか？張大人」
　店の奥から新しい声が聞こえてきた。ジョーとフランソワーズの二人はその声の持ち主と張を交互に見直した。
「張、この人は？」
「この人はローズバンクさんと言って、さっきの新しいウェイトレスのリンちゃんとその他の人たちの隊長をやっているよ」
　張に紹介された女性は、名前に反して日系人の黒髪の豊かな美人である。張に紹介された彼女は二人に自己紹介した。
「始めまして島村さん、フランソワーズさん。私は真理子・ローズバンク。アメリカに本社があった対テロリスト専門傭兵派遣会社ＣＡＴのディビジョンＭを率いています」
　彼女は笑顔で挨拶していたが、フランソワーズは自分の透視能力で彼女が着ているドレススーツの下に薔薇の棘、拳銃が隠されているのを、そして彼女の胸に薔薇の傷が在るのを見ていた。

カウンタ１００００Getと祝　サイボーグ００９　アニメ化記念と言う事で(^_^;)

スーパーＳＦ大戦　外伝

　時空融合が引き起こした日本経済の混乱も高橋是清と秋山吉正の大ベテラン・新進若手経済政治家コンビによる、新通貨流通と債権消滅から始まる日本経済の根本的再建政策が発表され実行に移されてから、状況は悪いながらもようやく終息の方向へと少しずつ向かい出した。新しい経済基準が定まった事により経済界も希望を見い出し、まずは防衛関連産業を中心に消滅した企業にとって変わるべく業界再編が始まりだした。これら企業による求人募集もあって、一時は８０％を超えようかと言う大失業率も業界や企業の再建が進むに連れて毎週５％減と言う記録的な回復を見せている。
　そして失業率の減少は消費者に購買意欲を少しずつ取り戻させ、一時は寂れた繁華街も再び賑わい出していた。

　６月初旬のトウキョウ・シンジュク。
　ここの裏通りに店を構える一軒の中華料理店『中華大飯店』も一頃の寂れ具合を払拭してようやく賑わいを取り戻していた。ジョーとフランソワーズそして真理子が出会う一週間前にあたる、この日曜日のお昼も久しぶりに外食を楽しもうという家族連れでにぎわっていた。
「はいはい、ジョー。ラーメンを食べ終わったら手伝って欲しいのコトヨ」
　カウンター席でラーメンをすする二人連れのうち、男性客に店を手伝えと店主の張々湖が要求した。
「張、これからフランソワーズとブリテンが出演する劇を見に行く約束をしているんだよ」
　ジョーと呼ばれた青年は、久しぶりのデートの途中だと言うのに手伝わされてたまるか、と言う思いをあからさまに断ったが。
「なおの事手伝える余裕はあるね。ブリテンの劇は夜になってからよ。夕方まで手伝ってもばちは当たらないね。」
「ジョー、しょうがないから手伝ってあげましょう」
　確かに張が一人で切り盛りするには、少しだけ多いお客が店内にいた。ジョーの隣に座るフランソワーズが手伝いを申し出た。
「しょうがないな。夜６時が開場時間だから、５時半まで手伝うよ」
　ジョーも根負けして張を手伝う事にした。二人が見に行こうとしているブリテンこと本名グレート・ブリテンは、新宿に程近い下北沢に在る地下劇場の一つで、劇団つきかげ＋一角獣の舞台に客演していた。ちなみに競演する俳優たちの中に将来『紅天女』で有名になる北島マヤという少女がいるらしいが、これは余談である。
「いらっしゃいませ。お二人様ですか？」
　なぜか姑娘の格好に着替えたフランソワーズがウェイトレスになって親子連れを出迎えた。
「いいえ、もう直ぐうちの人が来て３人になります」
　母親が応えた。程なくして父親が、店の向かいの自動販売機で買ったタバコを手に持って到着した。
「すいません、タバコの吸える席は在りますか？」
「あいや〜お父さん。タバコをお吸いになられるか」
「ええ、時空融合後は肩身の狭い思いをしています。やはりダメでしょうか」
　奥から出てきた張々湖の問いかけに父親は残念そうに嘆いた。このお父さん、タバコの緩やかな世界から急に嫌煙権の盛んな世界にやってきて肩身の狭い思いをしているようである。
「そんな事は無いアルよ。エアコンが効いてアルから好きなようにタバコをお吸いになるとヨロシ」
　張々湖は太ったお腹をポンと叩くとキセルを取り出し、大きく煙を吐き出した。
「ではこちらに来て下さい」
　ウェイトレスに導かれて、その家族はテーブルについた。
　親子三人は楽しく食事を取った。そして三人が笑って会話している最中に事件は起こった。
　買ったばかりのタバコの封を切り食後の一服をしたお父さんが、急に叫び声を上げて目の前のテーブルをひっくり返したのである。驚いたのは彼の家族である。
「どうしたの貴方」
「やめて〜お父さん」
　椅子を振り回し暴れまわっている父親の背中から腰に、妻と子供が泣きながらすがり付いて止め様としても父親は暴れまわっていた。
「いい加減にしろ」
　島村ジョーがサイボーグ戦士である自分が持つ能力の加速装置を使い、他の人間が気付かぬ一瞬のうちに父親の正面に立ちはだかると、そのまま両手を掴み床にねじ伏せた。
　押さえ込まれながらもまだ暫く暴れていた父親だったが、うめき声を一つ残して急に意識を失った。
「ジョー？」
「いいや、僕は何もしていない」
　フランソワーズが「何かした？」という気持ちでジョーに確かめたのだが、ジョーはただ押さえ込んでいただけである。
　気絶したままの父親が警察に連れて行かれたが、後に残ったのは料理ごとテーブルや椅子が散乱した店内であった。

「それが一週間前の出来事ね」
　ジョー、フランソワーズ、張、そして眠っている赤ん坊のイワンと同じテーブルに着いた真理子が先週起きた事件を３人に確認していた。
「そうですが貴方は何の権限があって、そんな事を調べているんですか？」
　ジョーが先週の出来事を認めると同時に質問を真理子に返した。真理子はそれに答えようとしたときに、張の言葉ではリンちゃんという名前のウェイトレスが真理子の傍にやってきた。
「隊長、例の販売機に男が近づいています。タバコの補充をするみたいです」
「顔写真は取れた？」
「デラが写しました。町田警部がその写真を元に身分の裏付けに走りました」
「そう、後は打ち合わせどおりにアイリーンとキムとでね。私はこの人たちに事情を説明しているから」
　二人の会話が終わると、リンは奥に戻り街中を歩くに目立たない服装に着替えた。そして金髪の白人女性と東洋系女性の二人と共に、作業を終えた男の尾行を始めて中華大飯店を出て行った。アイリーンとリン、キムの３人は日本でも目立たない小柄な体格である。
「さて、何処から説明しましょうか？」
　部下たちの行動開始を見守った真理子・ローズバンクは三人に振り返り、ニッコリと微笑んだ。

　日本連合首相、加治隆介は時空融合直後に使徒やゾンダーが出現した事件を目の当たりにした。その上に、諸外国との連絡が途切れ、最大の軍事同盟国アメリカからの援助を得られない現状に、全国家的な危機管理体制の再構築が早急に解決すべき重大な問題である事を十分に認識していた。その為に連合政府設立と同時に、元の世界でアメリカを出し抜いて本格的な危機管理体制、情報機関ＰＨＩと特殊部隊ＥＲＥＴの設立に成功した土門 敬一郎を危機管理政策担当相に任命し、自衛隊や警察その他の枠を越えた危機管理体制の構築を担当させた。土門担当相はそれに応え、まずは危機発生時の総合指揮を行う首相直属の機関、「危機管理対策本部」を立ち上げたのであった。
　最初に土門は日本に出現したそれぞれの世界の警察・自衛隊・その他諸々の防衛・治安組織や税関、防疫、災害対策など危機管理上必要と思われる部署の責任者を危機管理対策本部に招集し、各機関の横の繋がりを太くする様に「危機管理部門交流会議」を開催した。そして危機対応をシミュレートするに必要な情報を集める為に、夫々が今まで対応していた"敵"を報告するように命令した。しかし集まった"敵"情報の多くは容易に信じられないものであった。もちろん加治も土門も融合直後と言える時期に帝国華撃団やエスパー達と知り合っていたので全てを嘘として切り捨てるような事はしなかったが、事務方が信じ切れないうちに現実は防衛当局の常識を超えて脅威を突きつけるのであった。
　それは兎も角、情報を出した者達の中に元の世界で国家保安局長と言う要職に就いていた五十嵐と言う男がいた。彼はバビル２世とヨミという超能力者二人の闘争をバビル２世の側に立ち協力していた。五十嵐はその戦いを通じて、些細な出来事の影にも重大な危機が潜んでいる事が在るのを学んでいた。
　そして彼はその日も都内で発行されている新聞の事件面を隅から隅まで読んでいた。
「これもか」
　記事を読んで呟く彼の勘に引っかかった幾つかの事件があった。彼が見つけた事件は犯人の年齢も性別も社会的地位もばらばらであったが、事件経過が似ていた。つまりそれまで普通に過ごしていた人が急に暴れだし、急に気絶してしまうのである。その上、全員が何故そんな事をしたのか覚えが無いのである。
　五十嵐はこれに気付くと早速警視庁を訪れ、警視庁を再編中の暗闇警視に特捜の神代 恭介 警視正を交えて意見交換した。暗闇警視も神代特捜部長も五十嵐から指摘されるまでは気付いていなかった。事件を処理した警察署が全て異なり、その上犯人は直ぐに逮捕されているため、現場ではそれぞれ別々に発生した事件と考えて処理し終わっていたのである。
　暗闇警視は事件を分析しなおすように直ちに指示した。犯人達の精神鑑定が行われると共に、各署に残されていた遺留品は、分析する為に科学捜査研究所（S.R.I.）に持ち込まれる事になった。
　S.R.I.の牧 史郎は所員や警視庁との連絡を務める町田大蔵警部の協力で犯人達に共通する物を見つけ出そうとした。
　生活パターン、持ち物等物証は多かったが、時空融合でS.R.I.が受けた恩恵、パソコンによるデータ分析は膨大な量の分析を数分で終わらせていた。
　その結果、犯人の所持品で共通する物が一つ見つかった。牧の勘はこれこそが事件の鍵だと告げていた。そして直ぐに証明された。

　共通するもの、タバコを自分で吸おうとしたのである。

「１０分間だ。それだけ押さえ込めば、あとは気絶するだけだろう」
　牧 史郎は同じくS.R.I.の所員である三沢 京助にタバコを吸い始めてから１０分は取り押さえるように指示していた。犯人たちの事件後の精密検査では何ら異常が見つからなかったのであるから、暴れる以外は影響も後遺症も無いという判断である。
「しかし先輩。もし、そのタバコが原因だったとしても、そのタバコの何が原因かは先輩で無いと分析できません。僕が吸います」
「それはダメだ、助さん。君が暴れたら取り押さえられる者が居なくなる」
　牧の言う通り、S.R.I.一番の体育会系が三沢 京助である。
「では、残るはノムだけだな」
　二人はその場に居た３人目の男、野村 洋 21才　通称『ノム』、に視線を移した。

　そして、そのタバコが原因である事が直ぐに判明した。

　牧は残るタバコを分析し、ケシの種に似た物体が仕込まれている事が判った。もちろんタバコ好きの彼にとって、元々そんな物が仕込まれていない事は知っている。更なる化学分析やＤＮＡ鑑定の結果、新種の種、しかも地球外生物であることが判明した。これが持つ化学物質がタバコの熱で気化し、喫煙者はこのガスを吸い込んでしまう。このガスは人間が持つ他者への信頼感を感じさせる脳内物質の分泌を抑制し、吸引者に極度に強い不安感と攻撃衝動を与える事により、人間を凶暴化させてしまう。同時に記憶も阻害する事になり、被害者はタバコを吸った前後からの行動を記憶する事も無く、警察の事情聴取で解らないと言う陳述に終始する事になる。

　分析結果は直ちに暗闇警視へと送られ、さらにこの情報は立ち上がったばかりの危機管理対策本部で検討される事になった。
　一連の事件はケミカルテロによるものと直ぐに認識された。しかし地球外生物が使われている事から、一般警察の手に負えない事態に陥る事が直ぐに指摘された。また、T.D.F.との協力は取られる体制作りが進められてはいたが、ウルトラ警備隊を捜査に使うほどの協力体制は、未だに成立していなかった。
　そこで白羽の矢が立ったのがＣＡＴ日本支部とディビジョンＭである。
　対テロリスト対策専門の民間機関ＣＡＴに所属する実行部隊、ディビジョンＭにはこう言うテロリスト事件に対応した経験は豊富であるし、ケミカルテロにも経験がある。しかもテロリストの制圧だけでなく前段階の捜査にも力を発揮している。
　時空融合後の世界に出現した唯一のＣＡＴ、日本支部とディビジョンＭは組織の存続を図る為に連合政府と折衝を続けていた。幸いディビジョンＭは麻宮サキと共闘した縁があって、暗闇警視とは顔見知りであった。それ故に連合政府との交渉はスムーズに行われてはいたが、政府から独立した民間組織としてやっていけるかどうかは微妙なところであった。
　そこにケミカルテロ事件が発生した。
　危機管理対策本部は警察では対応不可能な反撃が在り得る上に、短期間でテロリストを発見殲滅する必要がある対テロ捜査には警察自衛隊とも経験が無い、もちろん捜査のみ制圧のみと言う個別の経験はあったが両者を一度に行った経験が無い事を憂慮していた。そこに暗闇警視からディビジョンＭを使って見ては、と言う提案が成された。もちろん連絡係として警視庁からも警官を出すようにはしたが、危機管理対策本部も彼女たちの実力を知るためにも、事件の捜査と犯人であるテロリストの制圧を依頼したのである。

「と言うわけで私たちがここに居るのよ。張さんのお店に潜り込んでいるのは、この店の前に置かれた自動販売機で事件の引き金になったタバコが売られていたからよ。さっき見たとおり、張り込みにも尾行にも最適でしたしね。これで犯人を逮捕すればこの事件の被害者も政府も、そして私たちも三方上手く納まるのよ」
　ここまで説明した彼女はジョーとフランソワーズに向かって更にお願いした。
「お願いだからお二人も私たちに協力してくれませんか？」
　彼女の頼みには、正直言ってジョーとフランソワーズは途惑った。
「協力といっても、僕たちは張とは知り合いですが、素人ですよ」
「ジョー、その事なんだけど・・・」
　張がすまなそうに口を挟んだ。
「マリーさん達がこの店に入る前に、わてらの事存分に調べたアルよ」
「もちろん捜査に使うお店の方が犯罪と関係ないことを知るためですけどね」
　真理子がニッコリと微笑んだ。
『『張、もしかして僕ら（私達）の事が？』』
『そう、しっかりばれたアルよ』
『何でまた？』
『やぁ、グレート。既にこのお店に？』
『ああ、しっかりと化けて入っているよ』
　三人の脳波通信機に四人目からの連絡が入った。彼はサイボーグ戦士の一人、００７グレートブリテンである。体細胞を自由に変化させ、いかなる姿にも化ける事が出来る。２階の大広間で昨日千秋楽を終えた劇団の仲間たちと打ち上げに来て、そのまま泊り込んでいたらしい。
　それは兎も角、真理子が彼らサイボーグ戦士の事を知っているのはジョーの所為である。
「何で僕が？」
「ほれ、直ぐ先の銀行に麻薬中毒者が人質篭城事件を引き起こした事がアル。解決に力を貸したお巡りさんは約束どおりマスコミには内緒にしてくれたアルが、やっぱりわてらの事を調べたようヨ」
「それで今回の件で警察からこのお店の情報を貰って、強制はしませんけどよろしければお手伝いいただけたらって・・・」
「どうして民間人の僕らを？」
「だって相手が地球人で無い可能性が五分五分ですの。か弱き乙女達には荷が重いですわ」

　その瞬間、店内の一同は絶対零度に凍りついた。

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