スーパーSF大戦 外伝

加治首相の議


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「ほう、今の世界は<新宿>が世界に広がったような物だね」
 チェコはプラハ随一の魔道士、ミス グレタ ヘンデルは、狩賀博士に頼まれた占いの結果をこう伝えた。それを聴いているのは狩賀の他に、スーパーソルジャーたちと九龍、別当家、そして工藤明彦であった。
 場所は時空融合から一夜明けた六本木の防衛庁である。

 十六夜京也と片桐さやかは『進化』の階梯を上がる為に旅立った。
 彼らの旅立ちを見送った魔界都市
<新宿>が本来の場所に帰り、<新宿>の内外で事実を知る者共が大宇宙を見上げ彼らのこれからに思いを馳せている最中に、世界は紅い闇に包まれた。
 赤い闇の中で一人また一人と見えざる網のような物で絡め取られていく者達が多い中、グレタやスーパーソルジャーの異名を持つ自衛隊超常能力戦略部隊の一同はこの闇の中で絡みつく網をその精神力で何とか防いでいた。そして永遠に続くかと思われた見えない網との闘争も終わる時が来た。
 気が付けばミス・グレタ・ヘンデルは病室のベッドに寝かされていた。隣には狩賀博士、自衛隊超常能力戦略部隊のスーパーソルジャーを創り上げた人物、が眠っていた。円谷大作、有川真吾、本田龍、上村信人、高山六平、中野太吉、大林朱美の7人のスーパーソルジャーも同じ部屋に寝かされていた。
 『神』、魔界都市
<新宿>に現れた無から有を無機質から生命を創り出せる『進化』を司る者をそう呼べるのであれば、『神』を追いかけている最中に仲間となった者たちの無事を、疲れでぼんやりとした頭で確認したグレタはまた眠ろうとした。が、その時重要な事に気が付いた。
「狩賀博士!早く起きないか。死んだ筈の者達がここに居るよ」
 そう、先の『神』をめぐる戦いの最中、スーパーソルジャーの半数が死亡していたのである。
 グレタの声にベットに寝ていた者達は跳ね起きた。
 そして生き残った者達と死んだ筈の者たちは互いに向き合ったのである。
「ゆ、夢なのか、これは。大林・・・」
「副長・・・」
 有川三佐と大林三佐は他の誰よりも先に互いを見つめ合った。気が付けば二人は立ち上がり、今にも触れ合えるところまで近づいていた。そして二人は互いの心に秘めていた思いを溢れ出していた。
「朱美!」
「真吾さん!」
 簡単に言えば愛しさと喜びのあまり抱き合ったのである。
 たちまち騒ぎ出す仲間たち。思い思いに「やっぱり」とか「憎いよ、このぅ」とか祝福の言葉をかけている。
 流石に病室で騒ぐと、「静かにしなさ〜い!」と、乱入してくる人も居る訳で。
「貴方たちはいったい何者ですか?官姓名を名乗りなさい」
 女性幹部自衛官が騒いでいるスーパーソルジャー達を叱り付けた。
「私は円谷大作一佐です。超常能力戦略部隊の隊長を務めています。ここは一体何処ですか?」
 円谷隊長が代表して答えた。
 相手が一佐だと聴いた女性は驚いて申告した。
「失礼しました!私は陸上自衛隊公安部の別当家三尉です。ここは防衛庁内の医務室です。皆さんが憔悴しきっていたので、医務室に保護しました。しかし一佐たちは何処から来たのですか?一佐達は公安部長の前に空虚から突然出現しました。それに超常能力戦略部隊とは、そんな超能力部隊は聴いたことが無いですが」
 円谷の申告に驚いた表情で別当家三尉が問い返した。
 その問いに、円谷隊長と狩賀博士が顔を見合わせた。その時、狩賀の視界にカレンダーが入った。198X年のカレンダーである。彼らは199X年に生きていたはずであった。
 その意味に気付いた狩賀博士が代わって別当家三尉へ問い掛ける。
「君、そのカレンダーは正しいのかね?」
「ええ、そうですが?」
 それが何か?と問いかけようとする言葉より先に、狩賀博士が動いた。
「"シグマ"を探してくる」
 そう一言を残し、病室を出て行ったのである。
 止めようとした別当家三尉は狩賀が起こした風によって、吹き飛ばされた。
「お嬢さん、怪我は無い?」
 サングラスをかけたままの男、本田に受け止められて怪我は無い様である。
「大変、早く止めないと」
 助けられた礼もそこそこに部屋を飛び出して狩賀を追いかける別当家であった。
 後はどうなったか想像つくだろう。
 有り得ぬ物を推測できるコンピュータで無いコンピュータ、非コンピュータ"シグマ"を求め、彼を押し止めようとする一般隊員たちを風で吹き飛ばしながら防衛庁内を彷徨った狩賀博士は、ようやくこの防衛庁が自分のいた防衛庁と違う事を認識したのである。そして部下の所に戻ろうと振り返った先に、二人の男が立っていた。
 別当家の連絡によって帰ってきた九龍一尉と、好奇心だけでついて来た工藤明彦である。
「おい、貴様が何者かは知らんが大人しく部屋に戻ってもらおう」
 九龍が一歩前へ踏み出し、狩賀へ呼びかけた。
「私に命令できるのは総理大臣だけだ。行く手を遮るのなら容赦はせんぞ」
 狩賀は応えた。
 ようやく追いついた別当家や円谷以下の者達が声をかける直前にそれは始まり、一瞬で終わった。
 狩賀の足元から吹き上がった突風が廊下を削りながら九龍を襲った。九龍が普通の男ならばそれまでの自衛官たちと同じように抗う術も無く吹き飛ばされていたろう。だが九龍は只の男ではない。狩賀が放った風は九龍の目の前で二つに分かれ、九龍の体にはそよ風一つ吹き付ける事は無かった。
 九龍は陸上自衛隊公安部超常遊撃隊隊長を務める男。工藤から念法を習う以前より
PK(サイコキネシス)を駆使しているのである。念法を使わずPKだけで狩賀の風を躱したのであった。
「大人しくする気はないようだな。遠慮なくやらしてもらう」
 今度は九龍が仕掛ける番である。だが。
「降参する。ここが何処なのかはわからんが、私も防衛庁の一員だ。現在自分にとって異常事態であることは認識している。大人しく諸君の指示に従う」
 あっけなく騒動は治まった。
「なるほど、別当家三尉。狩賀博士の"風"を躱せるとは、なかなかの実力の持ち主だ。あの男が君らの超常遊撃部隊を仕切っているんだね」
 二人の対決を見届けた円谷一佐が、自分と同じく超常能力者を率いる男を気に入ったように感想を漏らした。
 さて、狩賀の風に巻き込まれて怪我を負った自衛官達は、スーパーソルジャーの紅一点、大林朱美三佐の治癒能力でたちどころに復活していった。こう言った訳で人的被害は0になったが、六本木の防衛庁は当分使い物にならなくなっていた。これも狩賀の所為である。
 狩賀には"風"を以って攻撃と防御が出来る超常能力の他に、「コンピュータ殺し」の異名を持つ超推理力を持つ。
催眠(トランス)状態に陥るまで推理する狩賀の思考が近くにあるコンピュータを狂わせてしまうのである。狩賀が防衛庁内を探し回る最中、現状を分析する為に超推理力を働かせたおかげで、庁内の電子機器は全てイカれてしまった。
 その所為で六本木の防衛庁が日本中の自衛隊を指揮する事は無く、市ヶ谷に出現した防衛庁の指揮下に一本化されたのであるが、六本木防衛庁の人々がそれを知るのは夜明け前に市ヶ谷からやってきた偵察ヘリが着陸してその情報を伝えたからである。

 そして九龍と別当家の上司である自衛隊公安部長、弓添一佐が市ヶ谷へ連絡しに行く事になった。
 ミス グレタ ヘンデルの占いにこうあったからである。
<新宿>並に混乱した今の世界を乗り切る可能性を持つ指導者が市ヶ谷に居るらしい。あの『神』が全てを台無しにしてしまいそうな<新宿>を封印し、あんたら『死んだ者』を生き返らせたのも、その人を助ける為らしいね」
 生き返ったものを指差しながら、グレタは言った。
「その人は新たなる『選ばれし者』なのか?」
 狩賀が再度グレタに訊ねた。
「それは違うらしいね。『選ばれし者』に近いって言ったら、そこの工藤さんが一番近いんじゃが、あんたは『神』のお誘いを断ったんだってねぇ」
 グレタに話を振られた工藤が憮然として応えた。彼らが今まで誰を追いかけていたのか、その話を聴いたとき、夢の中であった爺さんだと気が付いてそれを皆に話してもいた。
「まあね。あんな爺さんがそれほど偉いとは思わなかったんでね」
 内心、南風ひとみのためにもっと接触しているべきであったかと後悔していた工藤でもある。
 それを知っているのかいないのか、グレタは占い結果を続けて話した。
「その指導者は、占いでは単なる『人』らしいね。ただ、新しい力の核になりうる可能性を持っている。またはそれを導く為の管理者か。これ以上詳しい占いは出せないね。けど、まぁ少なくともグレタ婆さんの占いに流されるような意志の弱い人じゃ無さそうじゃ」
 ちょうどその時、市ヶ谷から総理大臣の緊急記者会見が始まった。
 テレビを見た一同は、あの人なら混乱の中を導ける意志の強さを持っていそうだ、と納得したのである。
 そして彼らは影からその人となりを観察し彼の身を守る為にその日の夕方、市ヶ谷へ向かって行った。

続きます。


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