スーパーＳＦ大戦　外伝

　その時、工藤明彦は闇の中で老人と遭遇していた。
　老人の目の前には地図が置かれていたが、工藤の目の前で地図の一点から発した光に地図は切り裂かれ、また一つになろうとする一部始終が行われていた。
「面白い。わしが用意した都市と同じくらい、進化の可能性が高まる」
　老人はそう呟くと、工藤に振り向いた。
「人間と言うものは、わしの様な者ですら驚く事を平気で行う」
「意識してやっているとは思えませんがね」
「だが、わしを驚かせた事には変わりない。お主がわしの所に来たのも世界が一度崩壊して組み立て直っている最中で鍵が開いていた為でもあるが、おぬし自身にも素質がある」
　誉め言葉と受け取った工藤は、少し胸を張った。おだてに乗りやすい性質である。
「ところで『選ばれし者』と同じ技を使う者よ。高みに上る試練を受けるか？」
　工藤はその問いかけに肩をすくめた。
「ごめんだね。俺は好きな女、一人救えなかった。彼女を置いて一人高みに上ったからといって何に成る。別口をあたってくれ」
　工藤の拒否にもがっかりした様子も見せずに老人は一言漏らした。
「そうか」
　その瞬間、世界は反転した。

「・・・・・・・・・工藤さん、工藤さん、工藤さん、工藤さん」
　一緒に暮らしている女性の声で工藤は目が覚めた。
「南風さん、どうしたんだ？」
「工藤らしくないな。この異常現象に気付かないのか？」
　工藤の起き抜けの寝ぼけた声に、窓から外を見ていた男が振り返り声をかけた。原宿近くの比較的静かな住宅地にある古い木造家屋の一室とは言え、いつも遠くに聞こえる都会の喧騒が完全に絶えて室内は異常に静まり返っている。
　今、目が覚めたのは工藤明彦。この部屋の借主である。関西の漫才師に似た風貌を持つおっさんだが、女子供には安心感を与える雰囲気をもっている。良い意味で父親や兄貴に守られていると感じさせるのだろうが、看板に出している指圧･整体治療所に通う奥様族には別の理由で持てている・・・らしい。
　その彼を介抱していたのは、同居している南風ひとみ。
　美女である。
　その美しさの裏に悲劇が隠れている、そんなタイプの悲しい美人である。
　ひとみに介抱されながら工藤は嘆いた。
「妙な爺さんに会っていたような気がするが、俺は何時の間に眠っていたんだ？」
　工藤は外を見ていた男、九龍に尋ねた。この部屋の住人である工藤とひとみ、そして彼を訪ねてきた九龍と共にビールを飲み交わしていたのだが、それ位で潰れるような男たちではない。
「さあな。俺も気がついたらお前が眠り、外も内も真っ暗になっていた。ここら辺一帯が停電しているらしいが、気付く前に世界が崩壊したような気もする」
　工藤はその答えを聞くと自分も窓の近くに行って外をうかがった。
「なるほど、世界が崩壊して組み立て直っている最中、か」
「さすが念法者。何か感じているのか？」
　工藤の台詞を聴いた九龍が感嘆した。
「うんにゃ。何処か変な闇の中であった爺さんが言っていたんだよ」
「なんだそれは、夢でも見ていたのか？」
「夢、というか幽体離脱っぽかったんだが、あの爺さんが言ってたように世界に何かが起きたようだな。お前さんも原隊に早いとこ連絡した方がいいんじゃないか？」
　九龍は陸上自衛隊公安部に所属する自衛官である。防衛庁で勤務している為、暇があると工藤の元に遊びに来ていた。いや、工藤の持つ妖魔をも打ち倒す念法の技を教えてもらい、庁舎内で人知れず訓練と言うより修行していた成果を見せに来ている。
「言われんでも連絡しようとしたさ。だがお前の部屋には電話は無い。大家の婆さんに頼もうかとも思ったが、こんな夜中に起こしたんじゃあ後で祟られそうだ。もっとも別当家には、ここに来る事は知らせているからあっちから直ぐに連絡が入るはずなんだが」
　九龍が憮然として応えた。ちなみに大家の婆さんこと根白楊婆さんは店子に似て、と言うのも変だがとにかく謎の中国人である。南風ひとみの病も見破ったし、工藤を驚かせた事も一度や二度の事ではない。
　ともかくさほど経たずにアパートの前にジープが止まった。
「薫ちゃんからの連絡かな？」
「そうだろう、あの顔には見覚えがある」
　ジープから降りたのは防衛庁に務める一般隊員らしかった。さほど経たずにその隊員が工藤の部屋にやってきた。
「九龍一尉ですね。別当家三尉からの伝言です。『至急本庁に戻っていただきたい』との事です」
　伝言を受け取った九龍は更に質問した。
「他に何か言っていなかったか？それに街の様子は」
「はい。別当家 三尉からはこの通信機を預かっています。それに街は大停電です。ビル、街灯の他、信号機さえも消えていました」
「ご苦労。先に車で待っていたまえ」
　九龍は隊員をジープに戻すと通信機を使い、別当家 薫 三尉と連絡を取り始めた。
『隊長！早く戻ってきてください』
　普段の冷静さとは１８０度違う焦った声で別当家三尉が通信機に出た。
「別当家、何があった。冷静になって報告しろ」
　九龍の一喝で冷静さを取り戻したのか別当家は何とか報告をはじめた。
『何が起きたかは実際に戻ってこられないと信じられないかもしれません。今この部屋には我々に匹敵する隊員がいます。工藤氏の協力が必要かもしれません』
「？我々ってあっち用か」
　確認する九龍に別当家は否定しなかった。とりあえず直ぐ戻ると伝えて通信を切った九龍は工藤に振り返った。
「どうする？行くか？」
「あぁ。南風さん留守番を頼む」
　工藤と九龍の二人は、後を南風ひとみに頼むと六本木にある防衛庁に出かけていった。

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