アイングラッドさんが本編を発表されましたので、そのAパートラストからの想像を。
ここからです。


加治首相の議

  B


 こうして連合政府の意見を統一し全ての準備を終えた加治首相は、アメリカ合衆国ホイットモア大統領とのホットラインによる直接交渉に入った。

 この時のホットラインは日本側が用意した物である。時空融合で太平洋上空静止軌道上の通信衛星は消滅していたが、アメリカは対ムー戦争の為とアジアとの通商が途絶えた事もあって、新しく通信衛星を打ち上げる機会を遅らせていた。そのためナデシコを使ってかなり頻繁に衛星を投入できる日本が通信衛星を提供したのであった。もちろん静止軌道は使えないので複数の低軌道衛星を中継していく方式が実用化され、今回も太平洋上で2〜3個の衛星を中継している。
 そしてホワイトハウスへはアメリカ側から見れば半世紀前の骨董品である衛星デジタル映像通信機が、在米日本大使館の総務部営繕課から通信技術者付きで持ち込まれ、日本連合首相官邸との通信回線を確保していた。
「大統領閣下、回線の準備が整いました。あと5分で加治首相との会談が可能です」
 技術者として派遣された伊賀野がホイットモア大統領に告げた。

 日米の首脳会談は仲裁役のカナダ合衆国首相を交えて始まった。証人が欲しかった日本、いざとなればカナダと共に日本を2対1で説得できるだろうと考えたアメリカ、日米両方に貸しを作り今後の国交に有利な立場を取ろうと考えたカナダと三者三様の考えで三者会談となったのである。

 最初に加治の発言が出た。
「ホイットモア大統領。最初に確認したいことがあります。顧問官と自称する男が在米日本人を人質とするが如き脅迫に等しい要求を我が国に突き付けて来ました。私は正義を愛するアメリカ合衆国が、こういう犯罪めいた脅迫を実行するとは思っていません。この自称米国政府高官を身分詐称および脅迫の現行犯で告訴するつもりでいます」
 これは見事な先制攻撃であった。加治の堂々とした態度は米国が無理に恫喝しても、日本からの援助は引き出せないであろう事を暗に示していた。顧問官が要求したことが米国政府の指示であると認めるならば、加治の言う「正義の国アメリカ」が既に死滅していることを大統領自身が自国民を含む北米各国に知らせるだけであった。カナダ首相もホットライン上とは言え同席している手前、仕方なく大統領はこう加治に伝えた。
『Mr. Prime Minister Kaji. その要求は我々の本意ではない。我々の望みは、あくまでも同盟国の義務を果たして欲しいということである。日米安保に基づく約定を実行し、自衛隊を派遣せよと要請しておるのだ』
「では大統領、アメリカ合衆国は人質を捕るような卑劣な真似をする計画は無いということですね」
『くどい。我が栄光ある合衆国がするはずは無いではないか』
 今日本に恫喝を掛けても味方が無くなるだけだと判断した大統領は、脅迫は合衆国の指示ではないことを強調してそれを否定した。
「了解しました、大統領閣下。では、日米間に誤解を招いた自称合衆国顧問官を脅迫および詐欺行為で告訴します。犯罪行為に対する正当な権利だと考えています」
 この瞬間、在米日本大使館から米国の裁判所に顧問官への告訴が出された。同時にアメリカのマスコミにも発表された。これに対しアメリカ合衆国政府には先の主張のこともあり、打つ手は無かった。


 そして交渉はアメリカの提示した3項目を日本が履行するかしないかについて行われていった。


「今の我が国は西暦2000年代に相当する世界が中心となって多くの平行世界が融合した国家となっております。つまり調査やPKFならばともかく戦闘を前提とした大規模な部隊の長期派遣は、法制的にも出来ない体制と成っております。それに時空融合は人類の滅亡を招く人類以外の敵性体を我が国に多く出現させました。これらを無視して全戦力を海外に出す訳にはまいりません」
 加治は今までに出現した敵の資料も提示して、物理的にも自衛隊の全戦力を出す訳にいかない状況を説明した。人類を守る為に戦っているのはアメリカだけでないとアピールしながら。
「それに日米安保に基づくと仰いましたが、我が国に保管してある日米安全保障条約には日本周辺および極東地域以外に自衛隊を派遣する条項はありません。つまり貴国が結んだ条約の相手であり大統領がご存知の2050年の日本国は、この世界に現れてはいないのです。我が国が結んでいない条約の履行を受け入れるわけにはいきません」
『ならば、日本が占領したハワイはどうする。あれこそ我が国が結んでいない条約に基づく不法占拠だ』
「いいえ大統領。ハワイの現地政府は日本国に属していたからこそ、時空融合直後に我が国へ連絡してきたのです。我が国が臨時政府を立ち上げた時も東京へ代表を送って来たので、そのまま日本連合に属することになりました。さらにアメリカ合衆国の状況が入ってきたときハワイで住民投票がありましたが、圧倒的に現状維持すなわち日本連合に属し続けることを選択しております」
 加治は時空融合以来のハワイの政治状況を簡単に伝えていった。アメリカの建前である民主主義、住民自治による選択の結果であると主張しているのである。
「大統領、一方的にハワイに関する条約は無効、自国有利な日米安保条約のみ有効と主張するのであれば、その矛盾を指摘します。さらに我が国は中国大陸に出現した中華共同体とは、時空融合以前の条約を免除し新たな状況に合わせて国交条約を結び直しました。北米各国もこの前例に倣う事を希望いたします」


 会談の空気は冷静な日本側と緊張が高まり始めたアメリカ側と2色に分かれ始めた。このままでは会談が決裂して、誰の為にもならないと判断したカナダ首相の提案により早くも1時間近い休憩を入れることになった。


「ガッデム!!何というタフネゴシエイターだ」
 日米会談の舞台となった会議室から大統領執務室に戻ったホイットモア大統領はドアが閉まった途端、開口一番こう叫んだ。
「2000年代の日本と聞いた時点で、無能な政治家だと判断したのが間違いでしたな」
 国務長官が加治を認めるような発言をした。実際、彼らの記憶に有る日本の政治家は無能な人材ばかりであって、今までにも苦も無くアメリカ有利な条件を引き出していたのである。だから今回も恫喝すれば簡単に譲歩を引き出せると考えていたのであった。
「全く忌々しい時空振動弾だ。アメリカを救うはずが我が国を滅ぼそうとする敵を出現させただけでなく、今また対等な国家を出現させるとはな。しかも下僕であった日本をだ!」
 屁理屈でも恫喝でも無く、第三者が見ても正当な主張で合衆国の要求をことごとく反論した加治隆介に、対等な政治家と感じたホイットモア大統領はそれを認めることすら忌まわしいものと感じて声を荒げていた。
「大統領閣下、ハワイは当分諦めて軍事協力をさせることに的を絞ったほうがよろしいのでは無いでしょうか」
 補佐官の中からこう提案が出た。米国本土が滅亡しようとしている時に領土問題で交渉を長引かせるわけにはいかないこと。また加治の日頃の言動をやっと分析させた結果から、「世界の平和」のために協力させるという大義名分が説得しやすいと考えられる。と、理由が挙げられた。
「良かろう、何とかして日本にも矢面に立ってもらわねばならぬ」
 こうしてアメリカの交渉方針は戦力の派遣要求を通す事に集中していった。


 しかし彼らの方針は、ホワイトハウスの誰もが気付かないうちに日本連合首相府に伝わっていたのであった。ホイットモア大統領が発した時空震動弾への呪いの言葉も含めて。


 今回の日米首脳会談を甘く見ていたアメリカとは逆に、日本ではできる限りの体制を整えて準備していた。儀典省から政策官庁に生まれ変わった外務省内の公開情報機関、国際情報局では省内の外交官の他に京都の王国政府の外交官や日本に帰化したヨーロッパ各国大使館の外交官の中からやり手と評判の者たちを集め、乏しい情報の中からアメリカが取りうる選択肢を分析していた。その分析結果を受けて首相府外交政策室と外務省総合外交政策局は必要な外交政策を論じていた。そして非公開の情報機関も活動していたのである。
 彼らは表向き、大使館内の設備を維持管理する総務部営繕課の作業員である。普段は館内の掃除や蛍光灯の取替えとかいった雑務をこなしているが、その実態は首相府情報調査本部に属する調査官でもある。普段から自衛隊その他機関から情報収集に来る人員を応援したり邦人を秘密理に保護したりしているが、特に大使館占拠テロに際して突入部隊の誘導を行わせる目的で危機管理本部が外務省に設置させたものである。
 今回、在米日本大使館の総務部営繕課からホワイトハウスに派遣された伊賀野も実は首相府情報調査本部所属調査官であり、101が唯一許した101の血液から作られた超能力者である。彼はテレパシーでホイットモア大統領以下アメリカ政府首脳の思考を監視していたのであった。首脳交渉のためとは言え衛星デジタル映像通信機を日本側に設置させたことがアメリカ最大の極秘事項が洩れた根本原因である。もちろんアメリカ側も通信機に余計なものが付いていない事は確認済みであったが、超能力者が出現しなかったアメリカ合衆国はそれに気付くことは無かった。


 1時間の休憩中に、日本連合の外交方針も多少変更された。物的証拠は得られていないとは言え、大統領本人の思考をテレパシーで探ったことにより今まで謎であった時空融合の原因が加治らの前に提示されたのである。
「何ということだ、自分達のミスを棚に上げて我々も戦争に引きずり込もうとは」
「まずは時空融合の原因となった事とヨーロッパ各国を消滅させた事を謝罪させるべきだ」
「どうやって。テレパシーで探りましたというのか?物的証拠が無ければ白を切られるだけだ」
 時空震動弾の情報が伝えられた部署のあちこちで、アメリカへの非難が沸き起こりつつあった。しかし外務省の分析は単に非難するだけでは最悪の状況になるという結果を出した。
「加治首相、我々の分析ではアメリカをこれ以上追い詰めることは、日米双方共に自滅への引き金を引きかねないようです。この混乱する世界を招いた責任を問うことは容易いですが、それでアメリカを追い詰めて自滅させることは避けた方がよろしいでしょう」
 倉木外交担当補佐官が代表して外務省で分析した事も含めて報告した。またそれを受けて土方防衛相も黒木情報分析局長の報告を思い出しながら手元の資料で再確認し、アメリカ滅亡後のムーの行動予測を報告した。
「北米のインビットがどう動くかで大幅に変化しますが、ムーとインビットが交戦しないという前提ですと北米大陸から人類が消滅するに1年半。そのままアラスカからベーリング海峡を経てシベリアに上陸する恐れがあります。1年半から2年後にはムーの日本列島上陸を阻止する戦闘をしている事になる事は確実です」
 加治隆介も方針を微妙に修正した。
「やはりアメリカが滅亡したら近い将来、わが国も同じ道を辿る事になりますか。私は日本人だけでなくありとあらゆる人類にできるだけ犠牲者を出さないように事を進めたいと思っていましたが、今回ばかりはアメリカに、何も知らないアメリカの一般市民にまだまだ矢面に立ちつづけて貰わなければ、1・2年という近い将来に我が国にも犠牲者が出てしまうことになりますか。残酷な話ですね」
 加治の発言に土門危機管理担当補佐官が首相を力づけるように言った。
「首相、予想外の出来事であったとは言え、ムーの脅威はアメリカが招いた事です。アメリカ市民には気の毒ですが、時空融合を引き起こした償いと割り切ってアメリカ市民の保護はアメリカに任せるしかありません。それに首相が望む世界の平和は言葉だけでは実現しないことは首相が一番ご存知ではないですか」
 土門補佐官の発言に、加治も覚悟を決めた。
「そうですね。我々も全人類も滅亡しない為にも、世界の平和を達成するにも我が国一国だけではあまりにも力不足です。中華共同体やエマーンの協力だけでなく、アメリカの力もまだまだ必要です。アメリカを滅亡させない為にも、やはりある程度の軍事協力する必要がありますね」
 ここで加治は山本海上幕僚長の方に顔を向けた。
「山本さん、事前の打ち合わせの通り、現状から見て機動打撃艦隊だけを派遣することになりそうですが、よろしいですか?」
「加治首相。自分は貴方が示してくれた『世界が平和であることが日本の幸福である』という目標に感動して、指揮下に入る決心を固めました。旧連合艦隊の将兵達もこの半年、未来社会で過ごす間に加治首相の政治思想を理解していると信じています。ムーを完全に撃破出来る実力が未だ備わっていないのは残念ですが、何時でも出撃可能です」
 こうして正式に機動打撃艦隊の派遣は決定した。
「さて、そろそろ会談も再開しますが、我々が時空震動弾に気が付いた事は尾首にも出さないように。第1級機密に指定します。またこの事は私の口から総合科学技術会議に伝えます」
 アメリカに秘密が洩れたことを知らせる訳にはいかなかった。アメリカが気付いた途端、どういう行動を取るか予測できなかったからである。時空融合の原因を研究している科学者たちにも協力してもらい、研究を継続している振りをしつづけてもらう必要もあった。
「さて、最後には恫喝に屈する弱い政治家の振りをしますか」


 こうして日米双方とも思惑を秘めて再開した会談で、アメリカは軍事派遣に拘った要求を突きつけてきた。特に過去のニュースで見たのか、エヴァンゲリオンと機動戦艦ナデシコの派遣を強く要求してきた。さすがにこの2件の要求に対しては加治も弱い政治家の振りも出来ず、全力をあげて断った。
「エヴァンゲリオンが一旦暴走すれば止める手立てはありません。対使徒戦にのみ出動させるようにしているのも他に迎撃手段が無いからです。使徒が居なければエヴァは今ごろ封印しています。それとナデシコは宇宙戦艦です。大気圏内ではその能力の数十%しか発揮出来ません。だからといってナデシコが大気圏外から全力で攻撃したら太平洋とカリブ海が繋がってしまいます。グアテマラ海峡を造っても良いというのであれば考慮いたしますが、その後の気象変化にまで責任を持てません。それでも良いのですか?」
 こうまで言われては、さすがに無理を通すことも出来ず要求は引き戻された。しかしこれで優位に立ったと思い込んだホイットモア大統領は、恫喝に近い調子でこれらに替わる戦力の派遣を要求してきた。
 日本側ではこの要求は既に折込済みであったので、具体的な派遣戦力は後日通知する事にして会談の場ではアメリカの一大反攻作戦「オペレーション・テイルズ・オブ・アメリカ」に協力する形で要求を飲むことにした。


 こうして会談は終了した。この後、機動打撃艦隊を派遣するために連合議会の承認を得ることになったが、数ヵ月後の連合議会市民院初選挙が戦闘目的の自衛隊派遣の是非を問う形で行われたことは致し方なかった事であった。



以下本編に続く


後書き Ver.1.0
 加治隆介氏の性格が変わったかな?



<アイングラッドの感想>
 うぉおおおっ!! 加治首相かっこいいっっ!
 男惚れしそうです。
 しかし、ここまで裏舞台をしっかり固められるとこちらとしても奮戦努力の決意を固めざるを得ませんね。
 では、頑張って続きを書くとしましょうか。
 岡田”雪達磨”さん。力作をどうもありがとうございました。



日本連合 連合議会

 岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
 感想、ネタ等を書きこんでください。
 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


スーパーSF大戦のページへ



SSを読んだ方は下の「送信」ボタンを押してください。
何話が読まれているかがわかります。
その他の項目は必ずしも必要ではありません。
でも、書いてもらえると嬉しいです。






 ・  お名前  ・ 

 ・メールアドレス・ 




★この話はどうでしたか?

好き 嫌い 普通


★評価は?

特上 良い 普通 悪い