夜空に1発の花火が咲いた。

 爆発の瞬間、あらゆる波長の電磁波を強烈に放出し、それを見る電子の目を潰すはずである。爆発後はさらに赤外線を盛大に放射する宙に浮く火の玉を中心に色んな長さのアルミ辺を空中に漂よわせていた。
 それは地面に蠢く機械どもの目をくらます華であった。
 黒く染めたハーキュリーに似た機体が一機、赤く染まった夜空を左から右に飛んでいった。
 それが通過すると地上に爆炎が吹き上がり、数秒の間を置いて危険地帯から脱出するために汎用ヘリUH−60MJブラックホークの周りに集結しつつある兵士達に轟音が届いた。

「音無隊長。あれでどれだけやつらを足止めできると考えますか?」
 陸上自衛隊第一空挺連隊の徽章をつけた朝倉 隆平 一等陸尉が、傍らに立つ音無 誠次 三等陸佐に問い掛けた。
「奴等はしぶといからな。あれだけの火力では大して時間も稼げまい」
 そう言っているうちに閃光が一つ、ハーキュリーを貫いた。それを見た音無は急いで通信機を取り上げた。
「ちっ、言わんこっちゃない。こちらサイレントリーダー、『ブルドッグ』被害は?」
『こちらブルドッグ。綺麗に貫通しちまいやがった。直撃および破片による死傷者は無い。繰り返す、死傷者は無い。運動がしづらくなった以外はな』
「了解。無理せずに何時でもシースペクターと交代しろ」
 音無とブルドッグと名乗った機の機長、飛鳥 亮 三佐との交信を聞いていたように、対潜哨戒機P−3Cに似たシースペクターが飛来した。それもブルドックと同じように左から右に飛行して行った。ブルドッグも大きく旋回すると、シースペクターの後に続いた。
 ブルドッグもシースペクターも機体の左側に火力を集中した地上もしくは海上の目標を攻撃する戦術対地(対艦船)制圧攻撃機である。ブルドックはロッキード社の傑作輸送機ハーキュリーを改造した制圧攻撃機スペクターを更に空自仕様にした機体で、機種の前方赤外線監視機を収める四角い成型覆いの印象からブルドッグと名付けられた。シースペクターは海上自衛隊の対潜哨戒機P−3Cを対地対艇攻撃機に改造したAP−3C改がその正体である。
 彼らは迫り来るムーの戦闘ロボットの前衛集団に再び襲いかかった。今度は一斉射だけでなく、持ち込んだ全ての弾を、20ミリバルカン砲2機合計4門と105ミリ榴弾砲2機合計2門を、打ち込まんとする砲撃であった。
「やつらが飛び去った後は、草一つ残らない」
 ベトナム戦争で対地制圧攻撃機スペクターの攻撃を見た一兵士の言葉である。しかしこの戦場、メキシコ南部テワンテペク地峡南端の港町、サリナクルス近辺にあってはスペクターの後継機二機を持ってしても、迫り来る敵を足止めするには火力不足であった。



スーパーSF大戦 外伝


加治首相の議


 







 シースペクターが発砲するちょうど1ヶ月前の7月、北米大陸各国と連絡が取れた日本連合は、直ぐにメキシコから実行困難な救助要請を申し込まれた。

「セニョール カジ。ご存知の通り、我が祖国メキシコは南米に出現したムーという殺人ロボットにより滅亡の危機に晒されています。本国からは日本にも戦力を出させるように要請が届いておりますが・・・」
「ドミニコ大使。貴国の苦難は重々承知しております。しかし元々海外に派遣できる体制も整っていない上に、我が国も時空融合で粉々に分断され、謎の敵性体と戦いながら国をまとめている最中です。将来的には参戦しなければいけないと個人的には考えておりますが、今の段階ではその期待に答える術は持ち合わせていない現状である事をご理解願います」
 駐日メキシコ大使の要請に応じる手段が無く、拒否する加治首相であった。しかし事態はそれを許さなかった。
「閣下。2050年世界となった本国と違い、私も閣下とは別世界で有りますが2000年世界から来た人間ですので、その苦慮は良く理解しております。既に敗れた我が国軍はちょうど自衛隊と同じ装備でした。貴国から通常兵力が派遣されても、我が国軍と同様に米軍の盾にされてしまうのが落ちでしょう。あのスーパーロボット軍団も万能の兵器ではない事も既に承知しております」
「では派遣できないということはご理解いただけますか」
 駐米大使の理解に安堵した加治ではあったが、その直後に大使から指摘を受けた。
「しかし閣下。50年後の世界でも、やはり我が国には日本人が在留しております。首都メキシコシティには一番多く滞在しておりますが、南部であるためにムーの脅威を逸早く受けつつあります。我が国は既に自国民を避難させる事を優先し始めていますので、せめて日本人は日本の手で救出するよう行動していただけないでしょうか」

 この会見直後、加治は関係閣僚を集めメキシコ在留邦人を救出する検討に入り、出せる部隊を何とかやりくりして救出活動に向かわせたのである。そして一週間後に、ムーに襲われつつあるメキシコから日本人を救出する為の部隊がメキシコの首都、メキシコシティに到着した。
 メキシコシティより北部は治安が一応保たれていた為、チャーターしたジャンボジェット機を使いスムーズに邦人を脱出させる事が出来た。しかし隣国にまでムーが迫ったメキシコ南部ではメキシコ軍の防衛戦闘もアメリカ軍の最初の攻撃も失敗し、情勢は混乱を極めていた。そこから邦人を脱出させる為には武装した自衛隊を使い暴徒を排除しながら救出作業を行う必要があると考えられた。
 そこで更に一週間後、現地に到着したのが陸自からはシベリアから帰国した途端、出動する事になった土門陸将率いる第一空挺師団から土門直率の第一空挺連隊と音無三佐が率いる第一空挺団所属の特殊部隊、「サイレントコア」である。空自からは航空自衛隊に編成された航空救難団戦闘救難航空隊と、戦場制圧攻撃機スペクターの空自仕様機「ブルドッグ」、そして海上自衛隊からは改装を延期して救難輸送艦として投入された元連合艦隊籍の空母「蒼龍」「飛龍」「翔鶴」「瑞鶴」の四艦と元戦艦「金剛」と「霧島」、そしてステルス護衛艦「ゆきかぜ」を始めとした護衛艦隊。そして航空集団から対地対艇攻撃機AP-3C改「シースペクター」が出動してきた。
 司令部はサリナクルスの港に置き、ムーの戦闘ロボットがサリナクルスに突入すると予想される7日後までに周辺から避難してきた邦人を、沖合いの空母に避難させることになった。

 なお、メキシコ国内に展開した米軍はユカタン半島内に一本、そしてテワンテペク地峡に沿ってもう一本防衛戦線を構築中であり、特にアメリカ本土に直結するテワンテペク地峡の防衛戦線構築に忙しい米軍にとっては民間人救出に割く戦力を肩代わりしてくれる自衛隊の出動を歓迎していた。
 もっとも歓迎はしていたが、「防衛戦線構築が最優先されるため、諸君らから救援要請が出てもこちらから戦力は割けない」と釘を刺されてはいた。

 さて自衛隊が到着した現地は予想とは裏腹に秩序が保たれていた。しかしそれは自衛隊の救難部隊に希望を見い出したのではなく、大人たちが死の覚悟を決めたからであった。
「市長。これはどういうことです?」
 サリナクルス市長と直ちに面会した邦人救出部隊総司令、土門 康平 陸将が疑問を投げかけた。
「それはグアテマラから逃げてきた子供たちの話を聞いたからです・・・」

 市長は語った。
 メキシコ軍とムーが衝突する数日前、グアテマラ国境を越えて1台のトラックがウイストラまでたどり着いた。
 トラックの荷台には子供たちがすし詰めになっていた。いや運転していた者も14歳に成るかならないかといった少女である。大人は一人も乗っていなかった。
 その子供らが住んでいた、グアテマラのタフムルコ山中のとある一寒村にムーの侵攻が伝わったのは、その二週間前のことであった。
 隣村からやって来た血まみれの男は村に辿り着くなり、一言叫んで息絶えた。
「俺の村は皆殺しの目に会っただ〜。あれは悪魔だ!イエス様に祈っても嬲り殺しに会っただ〜。死にたくなかったら西へ、メキシコへ逃げろ〜」
 男の体は無数の傷に覆われていた。
 その姿を見た村の神父は、兎も角も男の最後の言葉を確かめる為に学校の教師をリーダーにして数人の男に様子を見に行かせた。果たして男の言葉どおり隣村は善男善女が殺戮されていた。
 迷信深い男達はただ祈るだけであったが、学校の教師は殺戮された死体の中に他と違う死体を見つけていた。
 それは手足を吹き飛ばされながら、殺された人々に謝っている女の子、ムーの家庭用アンドロイドの一体であった。彼女の話によってこの村を何が襲ったのかが男たちに伝えられた。それは本隊から分離し先行して北上するムーの先行偵察隊の一つであった。そのアンドロイドがムーの脅威を村人に説明している最中に攻撃してきたのである。
 ムーの戦闘ロボットを教えられた男達は半信半疑であったが、語り終えると同時に停止したアンドロイドの体をもって村に戻った。
 村に戻った男たちの話を聞き、アンドロイドの体を調べた神父は直ぐに全ての村人を避難させることにした。近隣の村々にも声を掛けて一斉に西へ、メキシコへと移動し始めた。
 だがその避難は些か遅かった。
 移動途中にムーの先行偵察部隊である3体の戦闘ロボットが襲い掛かってきたのである。男達は少ない武器で立ち向かったがその銃弾は甲高い音と共に弾かれ、たちまち3人捕まった。ムーのロボットは男たちを即死させず、死なない程度になぶりつづけたのである。
 それを見ていた残りの男達は苦しい決断をした。
 捕まった者を見捨てたのである。
 そして次の日、息絶えた男を投げ捨てたロボットが追いついてきた。
 前日決断を下した者が、ロボットの前に立ち時間稼ぎを行った。
 次の日、別の男が。また次の日には別の男が。数日して男たちが居なくなったら次は老婆が、老人が居なくなったら母親たちが残りの子供たちを逃がす為に少しずつ囮となって時間稼ぎをして行った。
 大人たちの尊い犠牲の元に、一握りの子供たちがようやくウイストラに辿り着いたのである。
 この話を聴いた大人たちはみな一様に思った。
「次は俺たちの番だ」と。

「ですから将軍閣下。私も含め大人たちは覚悟を決めています。ですがせめて子供たちを、できるだけ多くの子供たちを逃がしてあげたいのです」
 すでにメキシコ軍はムーを迎撃していたが、偵察で先行していた極少数集団に対してさえ敗れてしまった。その事を知った市民は一度は絶望のあまり暴徒化したが、グアテマラの子供たちの事を思い出し次は私たちの番だと覚悟を決めたのであった。

「唯一良い点は、撤退のタイミングはこっち持ちって言うことか」
 土門陸将は、地図を見ながら愚痴をこぼした。市長の願いを伝えた加治首相からは「邦人と共に市民の避難にも協力する事を許可します。救出活動の中止は現場の判断に一任します」と命令が帰ってきた。救出活動を中止し撤退するタイミングは自分の裁量に任されていたので自衛隊員が玉砕する心配はなかったが、現地の多くの人間を見殺しにする辛い選択が待っていた。
「土門総司令、戦況はそんなに悪いのですか」
 沖合いに待機している避難船団から「蒼龍」「飛龍」が所属していた連合艦隊二航戦の元司令、現派遣艦隊司令の山口多門海将補が連絡に来ている。なお、彼が指揮している派遣艦隊の空母のうち、蒼龍を除く三隻の空母は既に邦人はもとより子供たちや彼らを世話する少数の教師医師看護婦たちをメキシコ北部へ輸送する為に何度も往復している。
「撃破は無理と予想の内に有りましたが、今の我々では敵偵察ユニット一小隊すら、遅延させる事は至難の業です。特に攻撃ヘリによる航空支援がこれほど役立たずになるとは予想以上でした」

 元々在留邦人を対象とする短期間に出動と撤収を行う救出ミッションと言う事で、最大火力を有するが重量のある機甲師団の派遣は最初から考慮に無かった。その代わり、ムーとの交戦が確実視された為に第一空挺師団内の偵察ヘリ・対戦車ヘリは全機、更に戦場制圧機が2機も投入された。また歩兵ロボットの作戦使用も、対戦闘ロボット戦という事で、特別に許可された。
 そしてサリナクルス到着早々にステルス護衛艦ゆきかぜと陸自のヘリをも乗せたヘリ空母になった蒼龍に、サイレントコアと音無指揮下に置かれた朝倉小隊以下第一空挺連隊の3小隊を乗せて、哨戒と情報収集の為に太平洋岸沿いにウィストラ方面へ偵察させた。
 そしてサリナクルスから200Km離れた、ウィストラとのほぼ中間にあるトナラと言う名の町近くに蒼龍から汎用ヘリUH−60MJブラックホークで空輸された音無三佐以下は、山中に警戒ラインを構成して戦闘ロボットの接近に備えていた。

「よし、カメラを動かせ」
 OH−1改観測ヘリの機長が偵察員に命令した。ステルス護衛艦ゆきかぜから発進したOH−1改は山脈の影をNOEで飛んでサイレントコアが引いた警戒ラインを超えた観測予定地点に到着すると、ローターの更に上に突き出した球状の偵察ポッドを岩影からそろそろと突き出るように緩やかに上昇した。と言ってもポッドのみを空中に晒して、ヘリ自体は1mも上昇しなかった。
「どうした!」
「解りません。偵察ポッドの反応ロスト!」
 突然の衝撃がパイロット達を襲った。ムーの戦闘ロボットにとっては、僅かなレーダー波でも十分であった。偵察ポッドから発信されたレーダー波を感知したムー戦闘ロボットは直ちに電波が来た方へ反撃し、偵察ポッドを射抜いてしまった様である。幸いこの偵察ヘリは墜落しなかったが、後続の戦闘ヘリも常に反撃を受けていた。
 前線に出た戦闘ヘリはAH−1Sとその後継機であるステルス戦闘ヘリAH−2である。だがステルスヘリですら姿を晒して攻撃をかけるので、攻撃対象の戦闘ロボットが多ければ多いほどそれらからの反撃は確実に命中する。戦闘ヘリはムーのビームガンの一撃二撃には耐えられても集中砲火には耐え切れず、かなりの破損を受ける様になっていった。敵はそのうちローターを狙い撃ちする事を学習し、物影から上昇するや否やローターが真っ先に射抜かれるようになった。最初に撃墜されたヘリの近くには幸いにも朝倉小隊が歩兵ロボット「足軽」の鈴木二曹と共にいたのでヘリの乗員は何とか救出できたが、その後撃墜されるヘリにそうそう幸運が舞い込むわけは無く、見通しの良い空にあっては航空機は光学兵器の格好の的になってしまう事実の前にヘリや「ブルドッグ」、「シースペクター」共々全ての航空機の接近は禁止された。そしてこの戦訓はその後の航空機開発に生かされ、回転翼機はMATジャイロとその派生型に置き換わっていく事になる。
 航空機を封じ込まれた偵察部隊では、朝倉小隊が持ち込んだ物とゆきかぜに装備されていた十機の二〇式鳥形戦場偵察ユニット『羽衣』が、地上における救出部隊唯一の目となりつつあった。
「それから本国からの衛星情報によると、我々の抵抗が本体の注意を引いたのか奴等は進路をこちらに向けつつあります」
 こう言うと土門陸将は肩をすくめた。

 この時期ムーの本体は、ホンジュラスとエルサルバドルを蹂躙した後、グアテマラシティで大西洋(カリブ海)側と太平洋側の二手に強行偵察部隊と思われる大隊規模の1024機の戦闘ロボットからなる集団を二つ出していた。
 一つはそのまま北上し、これを仮にA集団と呼ぼう、ユカタン半島北上を開始した。
 もう一つが、これをB集団と呼ぶ、ケサルトナンゴを経てタフムルコ山の南でメキシコ国境を侵した。
これをメキシコ国軍が迎撃し、そして敗れた。
 B集団はメキシコ軍を破った後ウィストラまで侵攻したが、ここで更に512機づつ二手に分かれた。山一つ越えたコミタン・デ・ドミンクスを目指したB1集団と、そして太平洋岸をそのまま進んだB2集団である。それぞれ2個中隊規模の戦闘ロボットが米軍の攻撃をも物ともせずに着実に、だがゆっくりとメキシコ国内を侵攻しているのである。
 そしてサリナクルスを目指しているのが最後に挙げたB2集団であり、自衛隊が対応しなければならないムーの戦闘ロボット集団である。しかし今のところ陸上でムーと対抗できるのは対戦車ライフルを小銃のごとく操る鈴木二曹を始めとする歩兵ロボットしかいなかった。しかも、その集団から時折数機単位で先行するロボットを各個撃破する事しか成功していない。集団本体に仕掛ければ戦闘ヘリのように集中砲火を浴びるだけであった。
「と言うように、今の我々の地上戦力では歩兵2個中隊相当のB2集団も阻止できません。おかげでタッチの差で完全避難が間に合わない」
 それを聴いた山口海将補が提案してきた。
「この位置なら沖合いから金剛、霧島で砲撃可能です。どうせ36サンチ砲も使わなくなるんですからこの際手持ちの砲弾を全て撃ちこんで見てはどうでしょう」
 こう言うと山口は地図上の一点、テワンテペク市とサリナクルス市の間を指し示した。
「なるほど、海上からの攻撃は考えていませんでした。誘導ミサイルも狙撃されてしまうが、戦艦の主砲なら話は別だ。いかにムーの戦闘ロボットでも何らかの被害を受けるに違いない。作戦を詰めましょう」
 こうして海上からムーを攻撃する作戦が建てられた。
 使える艦艇は36サンチ砲が主砲の金剛・霧島と12ミリレールガン搭載のステルス護衛艦ゆきかぜの三隻である。ゆきかぜのレールガンは最初にチャフ弾を打ち込んだ後は、最後の予備火力として残しておく事にした。

 作戦は次のように推移した。
 サイレントコアや朝倉小隊がギリギリの距離を保って、ムーの先行偵察集団と接触し続けていた。彼らは予め計測していた着弾点にムーが進入した事を確認すると、作戦開始合図を司令部に上げた。その後は冒頭のようにゆきかぜからのチャフ弾とブルドッグとシースペクターからの波状攻撃がムーを足止めし、その隙にサイレントコアら地上部隊はUH−60MJに乗って急いで危険区域を離れた。
「よし。戦艦金剛霧島最後の砲撃だ。次を考えずに全弾打ち込め!」
 味方の安全を確認した山口司令の激で金剛と霧島の主砲が轟音と共に火を吹く。サリナクルス市街地上空を飛び越えた対空砲弾の三式弾が地上近くで破裂し、ムーが立ち止まっている一帯に鉄球を降り注いだ。対巡洋艦駆逐艦用の榴弾も打ち込まれた。流石に直撃する事は0に近かったが、運良く命中した榴弾は戦闘ロボットを完璧に破壊した。

 頃合を見て打ち込まれるゆきかぜからのチャフ弾のために、ムーの戦闘ロボットは落下してくる砲弾をレーダーで見ることは出来ないまま、金剛と霧島の砲撃によって打ち倒されていった。
 金剛と霧島の全力射撃で彼女たちの主砲は砲身命数が尽きたが、それと引き換えにムーのB2集団を壊滅させた。生き残った戦闘ロボットも海岸にまで出たところをゆきかぜのレールガンによる狙撃で仕留めた。

 こうして山一つ越えた内陸部を通過しているB1集団がテワンテペク地峡に侵攻してくるまでの時間を稼ぎ、サリナクルス市民最後の一人と共に邦人救出部隊は撤退したのであった。
 貴重な経験をもたらした救出作戦であったが、関係者は直ぐにこれ以上の行動を求められるとは夢にも思っていなかった。
 この国に日本連合自衛隊が戻ってくるのは僅か8ヵ月後の事である。


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