江戸川 仁はその日、公休日であった。
時空融合後、それまで内閣官房内にあった公権力横領捜査室を古巣の最高検察庁の特捜部と合併させ、そのまま初代公権力横領捜査部長となった江戸川は、新世界での捜査活動にもなれて久々の休日を過ごしていた。
ピンポーン
「江戸川さ〜ん、お届け物です」
貴重な時間を減らす横槍が入った。
「どうも、江戸川さん。お歳暮です」
「お歳暮!?。困るよ、私は役目上そういう物は受け取れんのだ」
「そう言われても、私はただ届けるだけです。受け取っていただけないとこちらが困ります」
玄関に届いた荷物がお歳暮と聞いた江戸川は役目柄受け取るわけにもいかず、宅配便のセールスドライバーと押し問答した挙句に何とか最高検察庁内に在る自分の事務所のほうに届けなおすようにした。
そして後日、差出人を内偵するうちに、これが連合政府全体に及ぶちょっとした問題である事が判明したのである。
スーパーSF大戦 外伝
加治首相の議
第五話 安全保障会議
エピローグ ある日の危機管
正月のある日、連合政府各機関で危機管理に携わる責任者が危機管理部門交流会議に参加する為、土門グループ・ジェミニ・タワー・ビルに集合していた。
危機管理対策本部は首相官邸と首相府双方に跨って建築された大深度地下施設に置かれているが、土門危機管理担当補佐官縁のPHI本部であった東京・旧台場地区の土門グループ・ジェミニ・タワー・ビルにもバックアップ施設が置かれていた。と言うより首相官邸地下施設が完成するまではこちらがメインであった。今でも平時からデフコン5であるならば危機管理部門交流会議はこちらで開かれる事が多い。
危機管理対策本部は危機管理担当補佐官土門 敬一郎を本部長とし、ナンバー2として官僚から事務次官を置いているが、今の次官は外務省出身の鳴海 弘という。
土門 敬一郎は、元の世界で父親 土門 巌を始めとした経済界の後押しを受けて、PHI(プロジェクト・ヒューミント)を実行していた。最初は名の通り人的情報が主体であったが最終的には偵察衛星も保有し、民間組織では有るが政府に代わって危機管理を有効的に行う優秀な情報機関を構築するのに成功していたのである。今は自衛隊に所属しているERETも、このプロジェクトのもう一面の成果である実行部隊であった。
そしてPHIにはPHI先端技術交流会議と言うものが有った。これは警察・外務省など各省庁の安全保障担当者を集め、それぞれの機関が持つ情報を一元化し、国家として統一した行動を取るようにさせようとするものであった。
そして土門補佐官とはまた別世界の出身である鳴海次官も同様に、警察や海保、自衛隊、大蔵省税関部などの有志を集めて領事作戦部を組織していた。
この組織も国家の正式機関ではなく、外務省参事であった鳴海が麻薬に対する個人的な復讐から始めたものであった。動機はともあれ、この領事作戦部も数々の事件に有効的に機能したため、時空融合後の日本でも同じ事をしようとする者達が集まったのである。
連合政府成立後この二組織が母体となり、一言で言えば危機が発生した時如何にすばやく事態を収拾するかを平時から検討し、有事の際に実行する危機管理対策本部が創立されたのである。もちろん二組織が行っていた各部門から人を集めた連絡会議は、危機管理部門交流会議と言う名で引き継がれている。
「・・・で、四国の海援隊からよろしくお願いしますとお歳暮が届いたんだが、役目柄受け取る訳にはいかんし、それに個人的な付き合いを始めている訳でもない。内偵をしたらこの会議のメンバーの幾人かにも届けられているようだが、どう考えればよろしいのかな?」
最高検察庁公権力横領捜査部の部長、江戸川 仁が年末に届けられたお歳暮を話題にしている。これが時代劇で言う『山吹色のお菓子』であれば、何も考えずに贈賄で摘発すればいいのだが、中身をあらゆる方向で何度調べても『四国観光協会推薦 四国名産品お徳詰め合わせセット』(定価5000円)以外の何者でもなかった。それでも私生活で交流の無い人物からのお歳暮なので、役目柄内偵をしたら日本連合政府で情報機関、特殊部隊と見なされている組織の責任者たちに同じ物が送られている事が突き止められ、この交流会議で急遽報告したのである。
さて責任者たちが顔を見合わせながら、誰が理由を知っているか目で合図しあう中で、情報調査本部の五十嵐本部長が立ち上がった。
「申し訳ない。以前、四国圏警察本部のラリーさんから四国圏内限定という特殊部隊設立の相談を受けまして、彼女からの相談は警護任務部隊だったんですが、他に情報調査機関の設立も相談を受けました。どうも思い当たる節はそれしかないんですよ」
これを聴いた江戸川部長が、五十嵐本部長へ質問を重ねた。
「何か特別な便宜を図ったのですかな」
「いえいえ、滅相もない。私が協力したのは彼女の構想が連合政府の戦略に反しないか判断しただけで、後は危機管への登録手続きの仕方を、結構やり方は広報されていませんでしたので、それを教えただけです。他になんもやましい事はしておりません。私も責任ある立場が贈収賄なんぞやったら日本連合そのものが破滅する事は十分承知しています。ただ・・・」
「ただ?」
「最後に彼女に伝えた言葉が誤解されて受け止められたのではないかと思います」
この危機管理部門交流会議が開かれる数ヶ月前の事である。四国の某所でこんな会話があった。
「…新ヤイヅシティとか川崎の方ではいろいろと賑やかだったらしいが…」
「丁度いい機会ですから四国圏の治安維持組織についても確認しておきましょうか。ラリーさん」
「今回はヤイヅや川崎だったが、いつ何時こっちに飛び火してくるか分からんしな」
四国圏が誇る傾国の美女達の内の二人、四国圏自治政府の財務委員会委員長(兼、公安担当)ラリー=シャイアン女史と総合商社 海援隊の企画部長 福岡 田鶴子 女史である。
「まずは四国圏自治政府の有する『四国圏警察本部』。まあ、これは元々の香川・愛媛・徳島・高知の四つの県警を統合したものですけどね」
「そうだな、規模が違うくらいで中身自体は他の地域の警察組織と変わらないな。その代わり能力向上とモラル強化には気を使ったがな」
「特車隊の新設計画もあがってますけど。まだレイバーを使うか戦車隊にするかとかは決まってませんが」
「それはまだ検討中だな。確認すべきところと言えばそれくらいだ」
「次は特殊部隊ですね」
「とりあえずは2つだな。まず一つは田鶴子さんのところの「海援隊」が保有する「海援隊・後方処理課」の面々だ。「岡田 以蔵」課長率いるその部隊の作戦遂行能力は日本連合政府の秘匿特殊部隊にまさるともおとらんとか…詳しいことは企業秘密とかで教えてくれん」
「あら、それを言いますのラリーさん。それだったらラリーさんが構想中の「All-round Mobile Police」で通称「A・M・P」だったかしら。作戦遂行能力に加え霊能力に関しても連合政府の対降魔秘匿部隊にも負けないとか…」
「くく…」
「ふふ…」
…
「…とまあこんなところだな」
「問題は連合政府の方針と整合性が取れているか、ですわね」
「そうだな。噂によると危機管が知らない特殊部隊はテロ組織だと見なされるらしい」
「私たちの特殊部隊も連合政府の方針に反していると誤解されたら大変ですわね」
「どう理解を求めれば良いのか・・・」
「はあ…」
「ふう…」
その後、ラリー=シャイアンは秋山経済相に相談し、秋山は土門危機管理担当補佐官に話を持っていき、土門は五十嵐情報調査本部長に話を持っていったのである。
「まず、連合政府における特殊部隊の有り様を説明しましょうか」
「お願いします」
高知市内の某所で行われた、五十嵐情報調査本部長とラリー=シャイアン財務委員長の会談である。
五十嵐は持ってきた資料を見せながら、連合政府における特殊部隊の取り扱いを説明し始めた。
「まず、加治首相のお考えを説明しましょう。首相は次のようなお考えをもっております」
特殊部隊については、限定された特殊な条件下における作戦または特殊能力を持つ敵性体に対処する任務を持つ部隊の総称と定義しよう。ここで重要なのはその特殊部隊の中には非合法活動を任務とする物があるということだ。そしてそれは往々にして国民の前には非公開どころか存在自体隠されている事も有る。
しかし秘密裏にするのは、長期的に見て道を誤らす元となると確信している。今は理想どおり機能していても、10年後20年後を考えると私兵に使われかねない完全非公開な非合法活動専門部隊は設置出来ない。非合法活動自体テロ行為にあたるのではないか?
何より我が父が総理大臣の指示で殺された事と、わが党の某元総理が人の死を積極的に願うことを口走ったことも有る。そんな者達に非合法活動専門部隊を国民にも秘密裏に与えたらどうなると思うか?安易な手段として使われるのではないかと懸念する。犯罪に使われてしかも責任を取る事も無い。圧制の手段に使われてしまうのが落ちである。
確かに非合法活動でしか解決しない状況と言うものもあるだろう。しかし、私はそれを理由に完全秘密組織を許可する気は無い。特殊部隊を設置するにあたり、隊員個人の情報は公開しないが、少なくともこういう目的でこういう特殊部隊は存在すると公表するであろう。最低、組織の名称は完全公開し、許される範囲でその目的も公開する。
「お父上と兄を殺害され御自分もテロの標的にされ誘拐されかけた経験をお持ちの割には、安易に非合法活動に走らない自制心をお持ちです。我々も首相の方針に従って、特殊部隊を編成しています」
連合政府が所有する数々の特殊部隊、例えばERETや帝国華撃団など隊員プロフィールは公開されていないがその名前と基本任務が一般市民(と呼ぶには憚りがある某怪盗も含まれているが)に知れ渡っているのが、その証拠であろう。
「ずいぶんと理想的なお考えですが、それで治安が守れるのかな?」
「『犯罪者と同じレベルでしか対処できんのかね?』ってプロフェッショナル心理を射抜く発言をされてしまえば、我々もそれに応えなければいけませんからね」
国民の目から見えないところでこそこそ解決するより、国民の賞賛を受けて栄光の元で名を高める方が、任務に就く隊員たちの士気も高まろうと言う目的も有った。
会談は、特殊部隊等の構成説明にも触れていた。
大まかに分けて、情報収集任務組織と実力行使任務部隊に分けられる。例えば特異生物部とMATが代表的な対応である。この二つみたいに完全に分かれている例は他にはまず無いが、目的とする仮想敵に合わせて大体似たような関係で組織が編成されていると思って欲しい。後は、国民生活に深く関わる任務が多いところは暴走するのを防ぐ目的で、同種の機関を複数設置してそれぞれ牽制させあっている。編成に関する注意はこのくらいであろう。
「後は、活動範囲ですね。四国圏自治政府の機関が四国圏外で大体的に活動されると、連合政府の立場がなくなってしまいますから」
「それは問題ない。基本的にAMPは四国圏内で要人や原発など要所の警備活動を行う事になっておる。時には要人警護で圏外に出ることもあろうが、その場合はその任務のみに限定される。四国圏外で活動する事は先の状況を除いてまずあるまい」
「ならば、今後連合政府と共同作戦をスムーズに行えるように、まず危機管の方に登録することをお勧めします。原発のような重要エネルギープラントの警備活動も、デフコン3、敵によってはデフコン4が発令される万が一の時には連合政府が一括して指揮するようにしていますからな」
「登録方法はどうなっておられる?」
「新規登録したい部隊は、各自治体警察本部や警察庁、自衛隊地域連絡部等を通して危機管理対策本部が受け付ける手配になっております。事務の委託で四国圏警察本部にも窓口が有ったと思いましたが」
「なるほど、あれがそうだったか、了解した。後一点。知り合いの民間企業で情報収集と分析を生業とする者が居るんだが、その者も危機管に登録せねば成らんのか?民間特殊ボランティアと言う形で登録されている者達が居ると聴いたが」
「あくまでも民間の調査機関で、実力行使をするような物ではないんですな?」
「あぁ、そう聞いておる。だが海外で活動する場合は自衛用の小火器を携帯する事もあるそうだが。国内でどうだかは聞いておらん」
「まぁ、国内に置いては銃刀法に準じた行動を取るように希望します。海外では社会情勢が違いますからね。必要なら携帯しても国内法規で規制する訳には行きませんから、現地の習慣に合わせてください。国内に戻りますが、その企業が調査機関に徹して武器を持って実力行動に出ないなら基本的に制限しません。登録の必要があるのは実力行使する力を持つものに限られています。もっとも、連合政府にハッキングを仕掛けたり、国家機密を覗こうと深く踏み込もうなら、統幕の電脳部や私の情報調査本部でも容赦しませんが」
ここで機密レベルについて簡単に説明しよう。時空融合後、一年も経たずに一般市民が知れば混乱を招く重大な情報が山のように集まってしまった。政府内でも日常業務には不必要な、知れば有害なだけの情報である。知るべき人間知らせないで置く人間を区別する為にこの情報を分類する必要に迫られた。
この分類は大まかに以下のようになっている。
そして会談の最後に五十嵐が発言した言葉が、
「我々の苦手な裏経済情報の収集分析に徹するなら、私の情報調査本部を始め連合政府の各情報機関と情報交換できる良い関係が築けそうですね。まあ、ギブアンドテイクで仲良くしましょう」
「これは諜報の世界では、異なる機関から情報を貰おうとするなら、同じ価値のある情報を渡さなければ成らない事を一言で言ったんですが、その意味が伝わらなかったようですね」
同じ価値、といっても物々交換のようなものである。五十嵐がラリーに伝えたのは、それぞれが収拾した情報を互いに交換できるような良い関係を作りましょうということであった。
「とにかく我々は受け取ったものは封を切らずに冷蔵保存しております。これをどうしましょうか」
五十嵐は最後に危機管理対策本部の責任者である土門補佐官に向かって言った。
「今回のは向こうは日常の挨拶のつもりで贈ってこられたのだろうが、やはり僅かな金品も『李下に冠を正さず』という方針でいく事を広報したほうが良いだろう」
「賛成です。案外こういう些細なお歳暮が10年20年後の一大贈収賄事件に成長してしまう物かもしれませんね」
土門補佐官の意見に、広報担当主席補佐官 大森 洋一郎が賛成した。彼は続いてこう提案した。
「あて先が個人名でも責任ある役職にある間は贈賄と見なすと宣言するしか無いでしょう。今回はまだ方針が決定する前に送られたものですから、方針を広報した上で受け取ったものを公明正大な場所で消費したと言う事を国民の前に示して贈収賄は無かったとするべきでしょう」
こうしてラリーさんから送られたお歳暮は品目を全て公開した上で、国会内の議員食堂で消費されたのであった。
同じ頃、四国の某所。
例によって美女が二人、小手試しに連合政府に仕掛けたいたずらの結果報告を読んでいた。
「あらら、皆さんにご迷惑をお掛けしてしまった用ですわ」
「だが、今回の件は後方処理課の能力の一端を示すものでもあったのだろう?」
「ええ、今回のお中元は公開・非公開に関わらず『ご自宅へ』、『直接』、全ての人に『同時刻に』贈らせていただきましたのですけど、どうやら通じなかったようで・・・」
「言わずにやったのはまずかったな。まぁ、『届いた』と言う事実に目が行って、『何時』届いたかには気付かなかったんだろう。私も知らなければ気付かなかったかもしれん。しかし、公明正大な人達だ」
「四国圏なんて政・財が裏表の形でくっついてますからねえ」
「お〜い田鶴子さ〜。橋本さぁに送るろでぃのヌイグルミは何処に置いとってたかの?」
<<騒音により、状況不明>>
「とにかく、ものの形で贈るのはまずかったな」
「ま、よろしいでしょう。とりあえずこの次は四国圏の諸事情とか、経済界から見た各国の情報でも贈らせていただきましょう」
その発言が出た数分後、訪問者がやって来た。
ピンポ〜ン
「海援隊さ〜ん。電報です」
その電報を読んだ田鶴子さんは固まった。
「ツギノオクリモノハオフタカタノオハナシドオリ、ケイザイジョウホウデオネガイシマス キキカンイチドウ」
気が付いた時には、既に電報を届けた人物は消えていた。
おしまい。
後書き
何とか五話が終わって良かった、良かった。
このあと危機管は四国圏最大の謎を追っていくことになります。
?「ほ〜う、それは見逃せない話だな」
雪「いえいえ、たいした話では有りません。傾国の美女たちの年齢とかスリーサイズを調べ・・・はっ!誰と話しているんだ(゚゚;)(;゚゚)」
ラ&田&千&彩「甘い!」
<<騒音により、状況不明>>
加「SSSSSSSSS級機密情報に指定する必要があるか。これ以上犠牲者を出さないように」
惨劇の後を見て、某国首相がつぶやいたとさ。