漆喰の匂いもようやく薄れてきた首相官邸のある日の朝。新築中物件としてこの出現したこの総理官邸も初めての主、加治隆介が住み始めてはや1ヶ月が過ぎようとしていた。
 そして、主を待つ食堂のテーブルの上にはその日の朝刊が並べられている。


帝都日報一面見出し
大怪獣の脅威、出動できない自衛隊

大日新聞一面見出し
よりいっそうの防衛努力を求む

旭日新聞一面見出し
未知の脅威に対し、有効手段を持たないままか



「悪く言われるのが首相の宿命とは言え、さすがに三日と置かずに2つも都市が壊滅したら庇ってくれるマスコミも少なくなりましたね」
 その日も加持隆介は非公式な打ち合わせを兼ねて朝食に何人かを招いていた。



 

加治首相の議

  


「申し訳ありません。自衛隊が速やかに臨戦体制に移行できなかったために、これだけの非難を浴びる結果になってしまって」
 土方防衛庁長官が責任を感じて加治首相にお詫びを入れた。
「いえ、自衛隊はあの状況でよくやってくれましたよ。ブードはあの日、撃沈はできなかったものの、次の日にSOSUSで発見した後の対応は見事にブードを追い払ったではありませんか。責任を感じるなら平穏だった2ヶ月の間に気が緩んでしまった我々にも責任はあります」
 マジンガーZを始め沖女の女子高生たちの活躍によって新ヤイヅシティで撃退された機械獣軍団であったが、その母艦である怪潜ブードはその場では取り逃がしていた。しかし次の日に日本近海に再接近したブードがSOSUS(水中固定聴音システム)に引っかかり、それをP-3Cが追跡しつづけて護衛艦隊が見事に追い払っていたのであった。それを知る土門 敬一郎 危機管理政策担当大臣が慰めるように発言し、加治もそれに続けた。
「土門さんの言う通りです。それに対使徒ゼルエル防衛戦においても海自の戦艦、おっとこれは言ってはいけない事でしたね、大型打撃護衛艦「ナガト」も試験運用中でありながら、良く使徒に対抗できました。私も就任演説で何度も人類の常識外の敵が存在していることを強調していたのに、その事実をつい見過ごしていた私が一番責任があります」
 わざとらしい冗談に励まされながら、少しは元気を取り戻したような土方長官であった。
「だから首相は、どうしてもGアイランドに向かうのですか?」
 三人のやり取りを聞いていた細井官房長官が加治に問い掛ける。
「ええ、五十嵐君が使徒と呼ばれる敵とエヴァンゲリオンの正体を説明してもらうにうってつけの人物が、Gアイランドに現れたことを付きとめてくれましたからね」

 話題に出た五十嵐君とは、元の世界で国家保安局長を務めていた人物である。もちろんこの場にいるどの人々とも同じ世界出身ではなかったが、未確認の情報、例えば新聞の三面記事の片隅から国家的大事件の陰謀を嗅ぎつける能力が同業者の中でもぴか一である事を自ら証明したために現内閣情報室長に配属され、さらに来週に予定されている連合政府組織改正の後には情報調査本部長に就任する予定である。
 使徒と呼ばれる敵とエヴァンゲリオンの正体を説明してもらうにうってつけの人物、つまり碇 唯の事をGGGからの正式連絡前に首相に報告したのは五十嵐室長であるが、その情報をキャッチしたのは元の世界からの知り合いの101と呼ばれるフリーエージェントである。断っておくがこの人物がいなかったとしても五十嵐氏の本部長就任は間違いなかっただろうというのが、その業界筋の評価である。もっともこの評価を下したのが五十嵐のそっくりさんの「静かなる中条」国際警察機構長官であるから、本当の事と受け取ってよいものか・・・
 101は五十嵐が局長を勤めていた国家保安局の調査員ではない。彼が持つ特殊能力を狙うCIAに追われ、逆にCIAによって作られた彼の力をコピーした能力者を全滅させたことによって諜報の世界で名を馳せたフリーエージェントである。時空融合前から消息不明であったが1ヶ月ほど前に五十嵐に接触してきてから、過去の経緯もあり五十嵐の諜報活動に協力してもらっていた。

 話は首相官邸に戻る。朝食会に招かれているのは今まで発言した者達だけではない。国家公安委員会の委員長に就任した岡山出身の柾木 勝仁 氏と連合政府に科学顧問として参加してくれた鷲羽・フィッツジェラルド・小林氏「鷲羽ちゃんと呼んで」
  ・
  ・
  ・
 話は首相官邸に戻る。朝食会に招かれているのは今まで発言した者達だけではない。国家公安委員会の委員長に就任した岡山出身の柾木 勝仁 氏と、連合政府に科学顧問として参加してくれた脅威の天災科学者 鷲羽ちゃんの2名が同じ場にいた。「なんか気になるわね〜」
 それはともかくこの科学者は、総理の私的詰問機関であった科学技術審議会が時空融合の対策を科学的に練るために開催された時に参加したとたん、あの岸田博士をもへこませた押しの強さにあっという間に審議会を牛耳ってしまい、首相府の正式機関に確定した総合科学技術会議の常任オブザーバーにも内定させてしまった人物である。この押しに対抗できた科学者は他に水原 誠氏、正確には彼の妻イフリータしかいなかった。
 国家公安委員長の柾木勝仁氏は実は樹雷皇家王位継承者のひとり、遥照である。そのことを知らない地元住民の要望により一日本人 柾木 勝仁として臨時議会の代表に担ぎ出されたのである。柾木勝仁自身は臨時議会が終わり次第すぐに辞めるつもりではいたが、そのまま成り行きで連合議会議員にも選ばれ、果ては国家公安委員会委員長に就任してしまったのである。しかし柾木 勝仁はあくまで普通の人間として国家公安委員長を勤め上げるつもりでおり、事実これまで樹雷皇家の力は一度も使わないでいた。そして彼が超人的能力を持っていると言う事は加治を始め、政府の誰もが知らないことである。僅かな例外として超能力者である101と情報のエキスパート五十嵐 内閣情報室長が知っていた。しかし超能力を使わないで普通の人間として社会で暮らすという柾木家の方針は101も理解するものであるし、五十嵐も借りが山ほどある101と情報機関の活動をも監視するほど権限が強化された国家公安委員長の両方に睨まれてはその情報を握りつぶすしかなかったのである。パワーバランスを保つために国際警察機構のエキスパートに対抗できる能力者を常に求めている五十嵐としてはとても残念なことではあったが。

 さて、細井官房長官の発言を聞いて柾木氏が意見した。
「総理自ら出陣するには些か気が早いと考えますが、それともここに呼ぶ訳にもいかんのですか?」
「普通ならば、土門さん達の稟議書にサインして碇博士の事情聴取を専門家に任すべきなんでしょう。しかし、碇博士が実家に電話した内容が首相として見逃すことができないんですよ」
 碇博士の発言を知らない柾木、鷲羽ちゃんの2名が浮かべた疑問の表情を見て取った細井官房長官が説明を入れた。
「実は使徒ゼルエルが出現した日に碇博士がGアイランドを訪問していたんです。そしてゼルエルが撃退された後、博士も実家に電話連絡をしたんですがそのとき家族の方に『Gアイランドにいる人間は全員、死ぬ。一両日中には日本全土が灰燼に帰す』って言ってしまい、それを横で聞いていた人たちがパニックを起こしてしまった事件があったんです」
「そう。そして日本全土を灰燼に帰すというエヴァンゲリオンは今、そのパイロットの少年を取り込んでしまっているんです。他に手段が無かったとはいえ少年を戦いに向かわせた事と言い、そういう危険な兵器であったと言う事を知らなかった事と言い、エヴァンゲリオンに関しては自衛隊の最高指揮権者として判断の誤りが多すぎました。一人の大人としてもこれ以上見逃しているわけにはいきません」
「だから直接当事者に会って判断するということですか?」
「そうです。土門さん。百聞は一見に如かずとも言いますし、そんな危険かもしれない兵器を運用しなければならない首相としては、できるだけ早く問題認識をしなければいけません。今日パイロットの救出が成功したら直ちに碇博士と話し合って、エヴァンゲリオンをどうするのか決めるつもりです」
「そこまで考えておられましたか。しかし、そんな危険な兵器ならばこちらから出かけずともよろしいのでは?」
「いえいえ、柾木さん。自衛隊の全火力を持ってエヴァンゲリオンを殲滅させる事態に陥ったとしたら、碇博士の発言が正しいならば例え北海道の離島に居たとしても1日で危険になるでしょう。それに最終決断をするにはその場に居たほうが良いでしょう」
「だとしたらなおの事危険ではありませんですか。首相は私たちに首相ごと吹き飛ばせと命令させるおつもりですか?」
 土方長官が、つい声を荒げて発言した。
「そうです。必要ならば私ごと吹き飛ばす命令も発令する覚悟です。柾木さんを今日の朝食にお招きしたのも、いざと言う時の証人になってもらうためです」
「そこまで覚悟なされているのなら、止める事はできませんな。細井さん」
「ええ、柾木さん。まったく加治さんはこう覚悟を決めたら信念を曲げる人ではありませんからね」
 加治が国会議員に初当選して以来の長い付き合いとはいえ、改めて加治の頑固な一面を見せ付けられた思いのする官房長官であった。
「そうすると護衛のほうはどうします?最悪の場合、自分も首相ごと吹き飛ぶことになるんですよ。そういう任務だとすると人選が大変ですね」
 細井官房長官の発言に、加治は初めてそれに思い至ったようだった。
「うっ、それに鷲羽さ「鷲羽ちゃんと呼んで」・・・鷲羽ちゃんか水原君のどちらかに一緒に付いて来て貰って意見を聞くつもりだったんですが。一人で行くしかないですね」
「あ、それなら大丈夫よ。自衛隊の全火力って言ったって、たかが化学反応でしょ?この鷲羽ちゃんにそんなちんけな爆発は効かないわよ。それよりそのエヴァンゲリオンの方に興味があるわ〜」
「鷲羽殿。興味があるからといって勝手に実験に使わないようにしていただきたいものですな」
「柾木殿。私がそんな女に見えますか?」
「見える!」(見えますね)(見えるな)(見えます)(見えた)
 きっぱり肯定された鷲羽ちゃんであった。
 そこに加治の日常生活の世話をしているメイドロボたちが朝食を運んできた。首相官邸には首相の業務を支援する公的な秘書官たちとは別に、衣食住といった私的生活を支援する目的で来栖川製メイドロボのHM-12マルチタイプとHM-13セリオタイプがそれぞれ購入されている。
 彼女たちに続いて内閣調査室長の五十嵐も入ってきた。
「首相、101と連絡が取れました。Gアイランドでの護衛を依頼しましたので大船に乗ったつもりでご視察してきてください」
「それは心強い。五十嵐室長が自慢する101に護衛してもらえるなら他に護衛は要りませんね。鷲羽ちゃんも自信がありそうですし。では今日の訪問には鷲羽ちゃんと101に、それと記録係にセリオにも付いてきてもらいましょう。いいねセリオ。君のうそ発見プログラムにも期待するよ」
「わかったわ」
「了解しました、マスター」
 鷲羽ちゃんとセリオの返事でこの話題が終わり、後は朝食を取りながらいろいろな話題に触れていった。

 そして加治首相は2度目のGアイランド訪問に出発した。
 6月11日の朝の出来事であった。


Bパート(君の名は・・・)へと続く



 いいかげん、一押しの首相加治隆介が活躍できるように舞台を整えんと。
 ということで、サルベージ作業をGアイランドの貴賓室で見学しているという設定にしました。
 それにしても水原 誠とイフリータが動かなかったな。(^_^;)
 後はあれかな、加治の性格なら、リリスにカヲルが乗っていることを知った時点で一旦攻撃を停止させて交渉するかもしれないな。
 ということで後は任せます。(((((((;^_^)

Ver1.1の言い訳。(__)
 これを書いている最中も原作を隅から隅まで見たつもりだったんですが、ある日インターネットでジャイアントロボの情報を検索していたら元ねたのほうに国家保安局長の名前が載っていることを発見しました。原作を急遽見直したら、ちゃんと乗っていることを確認してしまい、急いで情報本部長の名前を訂正しました。
 これで出演者の名前を間違えたのは2度目だ。(T_T)(アイングラッドさんに注意されたのも含めて3度目)
 細かい表現も若干追加・変更して提供します。


感想はeingradさんか、もしくは直接こちらへ。


<EINGRADの感想>
 岡田”雪達磨”さん、大量の投稿大変にありがとうございます。
 私は自分で書いたものも、人から預かったものを掲載するときも最低三回は読みなおして確認をするのですが、リニューアルされた外伝第一話Aパートと予告編、それにこの第四話を読むたびにゾクゾクするような高揚感を味わいました。
 実は、この第四話は少し前に投稿して貰った物なのですが、登場人物等に私がクレームをつけてしまい、岡田”雪達磨”さんには申し訳無かったのですが書き直ししてもらったものなのです。
 その為、岡田”雪達磨”さんの原案ならば”白眉”鷲羽さんが総合科学技術会議常任オブザーバーになるところだったのですが、流石にあそこまで凄い科学技術の持ち主では・・・と云う事と彼女の性格からして表には出てこないだろうな・・・と云う点から比較的制御しやすいプリティーサミーの鷲羽・フィッツジェラルド・小林さんになってしまったのであります。
 あ、ちなみに岡山の柾木邸にはOVA版の彼ら(彼女らの方が正確か?)がひっそりと(^^;暮らしております。
 更にちなみに、本編で魔法少女が魔法を使うシーンも出てくる予定は有りませんので・・・読みたい人は自分で書いて投稿しましょう。随時投稿募集中。
 さて、この有能な加治首相がGアイランドでシンジのサルベージを見守っている、と。
 ようやく引越しの荷物も落ち着き、原稿書き用のコンピューターも立ち上がりましたのでこの状況も踏まえた本編の続きを書かなければ!
 う〜ん。岡田”雪達磨”さんに負けないように頑張らねば。ではでは。

SSを読んだ方は下の「送信」ボタンを押してください。
何話が読まれているかがわかります。
その他の項目は必ずしも必要ではありません。
でも、書いてもらえると嬉しいです。






 ・  お名前  ・ 

 ・メールアドレス・ 




★この話はどうでしたか?

好き 嫌い 普通


★評価は?

特上 良い 普通 悪い