スーパーSF大戦


インターミッション


大西洋調査艦隊物語


プロローグ


 新世紀元年6月3日。
 海上自衛隊横須賀音楽隊の奏でる軍艦マーチを背景に、加治首相ら政府首脳とテレビカメラの集団に見送られて遣エマーン艦隊が華々しく出航した。そして、その喧騒を避けるようにひっそりと海上自衛隊横須賀基地に入港した一隻の軍艦があった。

「通信長、我々もあんな華々しく出航を見送られるようになるのは、何時の日なんでしょうか」
「どうした、あの艦隊の戦艦を見て羨ましくなったか?」
「そうではないですが、実際主砲が無くなった戦艦に乗って、主砲が健在なあの戦艦が注目を浴びて出航するのを見ると、自分でも意外な事に、何か気分が滅入ってしまうんですよ」

 その軍艦の通信室では通信科員一同がテレビで遣エマーン艦隊出航の生中継を見ていた。通信科の一人、香坂 日真名 少尉が通信長を務める春日 徹也 中佐にうらやましそうにぼやいた。香坂の思いは全乗員が共通に持つ思いである。

 この戦艦「越後」は呉で艤装が再開したA−140、後の特大型打撃護衛艦「ヤマト」を上回る45口径51サンチ砲を三連装砲塔三基九門を装備し、30ノットの高速性を誇る戦艦であった。だが、その世界で昭和10年に起きた日米軍事紛争でのマーシャル沖海戦の勝利後に呉軍港へ帰還する途中で時空融合に巻き込まれてしまったのである。
 たどり着いた呉軍港は彼らから見れば異世界の港であった。もちろん越後を修理する為のドックも砲身命数が尽きていた51サンチ砲の換えも用意されているはずが無かった。とりあえず連合艦隊籍の戦艦であることが認められ、水と食料は他の艦船と同様に補給されてはいたが、修理は1ヶ月間も放置されていた。
 待ちに待った指示がようやく来たら、越後の主砲は研究用に持ち去られ副砲や機関銃も全て撤去されて丸腰にされたのである。主砲塔三基の跡とマーシャル沖海戦での損傷個所を防水布で隠し、航海に必要な機関関係の応急修理だけを行って横須賀に向かった短い航海は、乗員たちに二度と立ち直れないかのような挫折感を与えていたのであった。ちなみにこのテレビを含む通信放送設備は、呉で海上自衛隊から支給された物である。

 だが乗組員の落ち込みとは裏腹にこの艦の艦長、斉藤 二郎 大佐は元気であった。主砲を撤去されて落ち込んでも良いはずの主砲発令所長の神 重徳 少佐も元気であった。この二人は艦橋上の見張り所に立ち、横須賀港沖を通り過ぎていく遣エマーン艦隊を眺めていた。

「どうかな、越後。異世界の艦であるあの穂高や護衛艦達にも船魂は宿っているのだろうか」

 艦長が言った「船魂」とは世界中の船乗りが共通して持つ伝説である。
 船はそれぞれ意思を、人格を、そして魂を持つ。その人格は商船軍艦を問わず全て女性である、とされていた。それを「船魂」という。しかし艦長が越後へ呼びかけるとは、意思が在ると考えているのだろうか。

「ええ、艦長さん。何処の世界でも船はやっぱり船。あの子達も船魂を持っていますわ」

 艦長の問いかけは 神 大佐からではなく、反対側に佇む少女から返ってきた。
 その女の子は年のころ12歳くらい。艶やかな黒髪をおかっぱに揃え、清楚な百合を染め抜いた着物をこじんまりと身に付け、その手には鞠を持っている。時々海から吹く突風も彼女の髪の毛一つ揺らしてはいない。軍艦にいることが間違いのように思える不思議な少女である。

「そうか、何処の世界でも船は船か。ならばこの艦もどの様な世界であろうともやっていけるな」

 艦長も同じことを考えていたが、彼より先に神 少佐が言葉を漏らした。

「あのぅ、神さん。何か確信があるんですの?乗組員の皆さんが、落ち込んでいるって言うのに」

 女の子が訊ねた。

「船魂でも解らない事があるのかな?」

 神 少佐は面白そうに訊ね返した。

「はぐらかさないで下さい。私だって落ち込んでいるんですよ。いーじす艦の『こんごう』さんから、対艦巨砲主義は半世紀も前に終焉したって言われて、しかも私の主砲も撤去されたんですから」
「なるほど。横須賀に向かう途中、軽くなった割に船脚が伸びなかったのは応急修理が拙かったと思っていたが、越後が落ち込んでいた為か」
「艦長までそんな事を言うんですか」

 斉藤艦長の言葉に女の子、この戦艦「越後」の船魂は怒った振りをした。
 越後の船魂を見て会話できる人間は、1600名を超える乗員の中でもこの場にいる斉藤艦長と神 少佐だけである。斉藤も、戦艦をからかえる艦長も世界中で自分だけだと思いながら、根拠を船魂の女の子に教えていった。

 時空融合後の世界に出現した日本は、多くの平行世界から成り立っている。それは連合艦隊に所属する軍艦も同じことであった。
 呉に出現した連合艦隊の殆んどは昭和16年11月、真珠湾攻撃に出撃しようとする直前に集結したところで時空融合に巻き込まれた。ベトナム、今は中華共同体に属する一国「越」、のメコン河口に出現した小沢提督の南遣艦隊も同じ時期に巻き込まれた口である。
 そして防衛庁の記録に無い、大日本帝国海軍連合艦隊籍の艦船も数多く出現していたのである。
 その代表例が遣エマーン艦隊の旗艦となった巡洋戦艦「穂高」であり、この斉藤 二郎 大佐が艦長を勤める戦艦「越後」である。

「あの『穂高』が遣エマーン艦隊の旗艦に選ばれたように、海軍、じゃぁ無かった、海上自衛隊の幕僚長に就任された山本 五十六 海軍大将は、戦艦にもある程度の役割があると考えておられると思って良いだろう。もちろん今のままでは能力不足であるから、近代化改装が必要だ。この横須賀に回航するように言われたのも、その為と内密の指示が出ていたんだよ」

 斉藤艦長の言葉どおり、シーレーン防衛の為に旧海軍艦艇でも駆り出さなければならないほど大量の艦艇を欲している状況である。戦艦「越後」も打撃護衛艦「エチゴ」に生まれ変わる為に横須賀に回航されたのである。

「私も最初に砲塔毎主砲を降ろすと聞いて愕然としました。しかし無い物はしょうがないですから、発想を変えて、未来の技術で百発百中の砲を付けてくれれば古い51サンチ砲と引き換えにしても十分おつりが来ますからな。しかし艦長。航空主兵論を張っていた山本 大将とは思えない決断ですな。戦艦なんぞ全て航母に改装しろと言っても不思議とは思えませんが」

 神 少佐が二人の話に入ってきた。なお航母と言うのは彼らの世界での航空母艦の呼び方である。

「戦艦を航母に改造しても、改造航母で運用できる飛行機は零戦や九九式艦上攻撃機しか無い。それらは我々から見れば超戦闘機であるが、現状ではミサイル運搬機にしかならないだろう。時間をかければハリアーIIも運用できるよう改造できるだろうが」
 ちょうど沖に見えた航空護衛艦「アカギ」を指差して斉藤艦長は話を続けた。
「あの「アカギ」に搭載されているハリアーIIにしても、本格的な制空戦闘機と対決するには力不足らしいからね。それに世界情勢がまだ不明だ。真に戦力となる航空機の目処が立つまでは本格的な航母の建造には手を付けず、今有る艦船をイージス護衛艦並みの戦力を待つように改造して使おうと言う苦肉の策だろうな」

 斉藤がここまで話したところで、「越後」は横須賀基地の一番大きなドックの前で一旦停止した。ここで斉藤艦長は話を締めくくった。

「ということで、越後よ。暫くは僕も艦長ではなく、また艤装委員長として越後の改装を担当する。半年後には生まれ変わった『エチゴ』でまた航海に乗り出すだろう。ちゃんと美人に仕上げるから、心配しないでいいよ」
「はい、艦長さん。よろしくお願いしますね」

 少女はそう言うと、笑顔を見せて空中へ消えていった。
 入れ替わるように艦橋内部から航海科の花田中尉が艦長たちを呼びに来た。

「艦長。入渠作業に入ります。指揮をお願いします」
「うん、いよいよ始まるな」

 戦艦「越後」は特大型打撃護衛艦「エチゴ」に生まれ変わる為の作業に入った。
 入渠に先だち、斉藤艦長から全乗員に訓示が発せられた。

「諸君。こちらは艦長の斉藤である。これより『越後』は改装工事に入るためドックに入渠する・・・」


つづく


後書き

 納得のいく架空戦記、軍事アクション小説を出す数少ない出版元、学研 歴史群像新書の最新刊、「軍艦越後の生涯 2 碧空の死天使」(著者:中里融司、イラスト:飯島祐輔) を読んで転びました。内容もとても良いですが、更にイラストの船魂「越後」の可憐さもさることながら、「対馬」こと元米戦艦「ヴァーモント」の「雌牛を思わせる胸」!が描かれた表紙裏のイラスト、そして「榛名」のメイド服の眼鏡っ娘(肩のねずみが可愛い!)のイラストで、SSFWに参加させたくなりました。
 自分が用意した役割は、タイトルどおり大西洋調査艦隊の旗艦です。
 南極、南米邦人救出関係でまた設定が変わってしまうかもしれませんが、越後たち可愛い船魂に免じて許してください。

後書き その2

 またもや勘違いで名前を間違えていました。拠って、急遽ヴァージョンアップしました。(しくしく・・・)

 感想は連合議会か、もしくは直接こちらへ。



 次回予告 おまけ

「こうして私は身動きできないようにされてしまったの。
そして大勢の男たちが、私の体をまさぐって、一枚一枚着物を剥いで行ったの。
本当、恥ずかしがる暇も無かったわ。気が付いたら、私、ぬ」


すぱこーん!

「こら越後、何を書いているんだ!!」

 特大型打撃護衛艦「越後」の艤装委員長、斉藤 二郎 一佐がハリセンで越後の船魂たる少女に突っ込んだ。

「何って、私の改装日記ですけど」
「これがか?これではまるでポ、げほげほ」


 大声では言えない単語を無理やり飲み込んだ為か、斉藤はむせてしまった。

「大丈夫ですか?艦長さん」
「ああ、大丈夫だ。越後も日記を書くならもっとまじめに書いてくれ」
「え〜、動けなくなってつまんないから、日記だけでも面白くしようと思ったのに」
「せんでええ、せんで!」


 では、引き続き大西洋調査艦隊物語をお楽しみください。





<アイングラッドの感想>  岡田”雪達磨”さん、ありがとうございました。



日本連合 連合議会


 岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
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 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


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