スーパーSF大戦 外伝

アバンタイトル

杉原千畝





皇紀2600年8月29日改め4月30日

 本来ならば領事館を閉じてベルリンへ向かう日ではあったが、行き先であるベルリンどころかドイツ第3帝国も我が大日本帝国も消滅した現時点では、予定通り行く事は叶わず。
 ドイツを始めヨーロッパにおかれた大使館領事館の何れとも連絡が取れす、我が唯一大日本帝国の国益を代表する責任者となった模様である。
 本国の情報はGGGなる組織と日本放送協会のそれぞれが流す短波放送でうかがい知る事が出来るが、傍受する本国の情勢も残念ながら甚だしく混乱しており、やはり大日本帝国も消失した模様である。だが幸いな事にも、有能なる日本人は一致協力して臨時政府を立ち上げ、国家を再建する動きを取り始めたと最新のニュースで流れている。
 東欧に残る同胞を保護するためにも本国との接触を一刻も早く実現しなければならないが、領事館の電信が出す電波はか細き様で、本国で受信した形跡は未だ無い。
 臨時政府との接触にリトアニア政府の協力を得ようにも、東西に出現した異世界の大国、エマーンと熊人間のソ連との交渉に忙しく、消滅した国家の領事館に割く時間は著しく少ない。
 今は生き延びるために東欧の情報を収集し、分析する毎日である。

大日本帝国カウナス領事代理(当時)杉原千畝の日記より





 大日本帝国カウナス領事代理、杉原千畝は報告書を書く手を止めると、机の端に置かれていた新聞を眺めて溜息を吐いた。

「やれやれ、まさかと思ったが本当に熊の国になったとは・・・」

 その新聞の1面には、リトアニア−ソ連国境でリトアニアを伺うソ連の人間、いや警官の制服を着こなし2本足で闊歩する熊の写真が載っていた。
 時空融合前にはナチスドイツの戦争かソ連がバルト3国を併合しようと言う記事が1面を飾っていたが、今では熊のソ連か西に出現したエマーンからの交渉団の記事に変わっていた。
 杉原は世界情勢を知るために日本から流れるGGGやNHKの短波放送を聴き続けていたが、それと同じくらいの時間をかけて多くの新聞を購入していた。
 一夜にして世界が変わってしまった事。伝説の「黒き森」を超える大樹海と化した東欧の大地。東西南北に出現した未知の国々、新たな隣人。
 こういった情報は日を追うごとに少なくなる発行部数の中から、優先的に回してくれる様に頼んだ新聞から得たのであった。
 そして今朝届いた新聞に依れば、ソ連は完全に別世界と化しているにもかかわらず、相変わらずバルト3国を併合しようという考えを持っているらしい。ソ連から見れば確かにバルト3国は、ロシア帝国以来のソビエト社会主義共和国連邦を形成する国々ではある。
 だが、杉原が着任しているリトアニアを始めとするラトビア、エストニアのバルト3国は、都市や農地以外がエマーン世界由来の大樹海に変わっていても、国民のほとんどがソ連に併合される直前かソ連崩壊直後の独立国でいた時代からやって来ていた。
 つまり「ソ連に併合されるのはまっぴらごめん」なのである。たとえソ連が人間の世界であってさえ、そう考える人々が多い。熊と化した今では言わずもがな。
 だが周辺諸国にとって幸いにも、ソ連自体がシベリアを始めとする領土の3分の2を消失した混乱状態を収拾するに手間取って外部へと軍事行動を取る余裕がなかった事と、バルト3国内のソ連崩壊後の世界から来た地区が今のソ連よりも遙かに高性能な兵器が揃った重工業地帯で有る事から、パワーバランスがかろうじて均等になっていたため、ソ連が攻め込んでくる心配は今のところ無かった。
 しかし、ソ連の膨張主義が修まる気配はなく、条件が揃えば何時でもソ連が侵攻して来るであろう事は火を見るよりも明らかであった。
 そのため、エストニア、ラトビア、そしてリトアニアのバルト3国は連邦国家を設立し、さらにスカンジナビア半島唯一の国家フィンランド、(他の2カ国は完全にエマーン世界に変化していた)と同盟を組んでソ連に対抗しようと言う動きが見られる。
 また、バルト海中央部に出現した中立国を標榜するメーアシャウム王国をこの同盟に参加させようと、ラトビアとリトアニアが交渉を開始しようとしていた。

 と、ここまで報告書を纏めた杉原千畝は、窓から差し込む日光が翳った事に気を取られた。何かが庭先に降りて来たその影である事に気が付いた杉原は、外を見ようと椅子から立ち上がり窓辺へと数歩動き出した。だが丁度その時、階下から杉原千畝を呼ぶ幸子夫人の声が届いてきた。

「あなた、お客さまです。急いで来て下さい」

 珍しく慌てている夫人の声に、「落ち着きなさい」とたしなめながら杉原は領事館の玄関まで降りた。

「一体何をそんなに慌てているんですか?えっ!」

 幸子夫人がいつもの礼儀をつい忘れて指さしてしまったお客の背中からは、触覚が2本くるりと輪を描いていた。

「初めまして。私、エマーン商業帝國はラース家の使いで参りました、シャイア・メイスンと申します。ご機嫌は如何ですか?」

 エマーンからやって来たお客は流暢なリトアニア語で挨拶してきた。そして彼女の背後には先ほど杉原の執筆を遮った影の正体、エマーンの10m程の大きさの飛行機械ディグが着陸していた。
 突然の訪問客に杉原夫妻は驚いたが、それでも時空融合以来久し振りに訪れたお客さまである。

「ありがとうございます。大日本帝国リトアニア領事代理の杉原千畝です。こちらこそよろしくお願いします。ところで今日はどんな御用件で参られたのですか?」

 挨拶と共に杉原千畝は領事代理としてシャイアに質問をした。もし彼女から入国ビザの申請をされても、今の本国と連絡を取れない情勢では発行も出来ないので、その場合は多少困った事にもなるのであった。しかしシャイアの答えはこうであった。

「はい、遠く極東の国々との交渉にエマーンを代表してラース家が執り行う事になりました。そこでまず彼方の国々の情報を探した所、このリトアニア共和国外務次官殿から閣下をご紹介されましたので、失礼を承知でご訪問しました。これが紹介状です」

 彼女はハンドバックから紹介状を取り出し、杉原千畝に手渡した。杉原はその紹介状をその場で読み終えると、彼女を歓迎する事にした。

「ふむ、私もあなた方の飛行機械、『ハウス』と言いましたな、その写真を新聞で見てから出来るだけ早くエマーンの方とお会いしたいと思っていました。玄関ではなんですから、どうぞお入り下さい」

 シャイア・メイスンを館内に招き入れた杉原千畝は、夫人にお茶の準備を申しつけると彼女を応接室へと案内した。
 そして杉原千畝とシャイア・メイスンの対談が本格的に始まった。これは後から考えれば日本とエマーンとの最初の、そして重要な交渉となったのである。

 さて、ラース家が杉原千畝に接触して来たには理由があった。
 時空融合でヨーロッパ、もちろんエマーンではエマーンの名称があったが、ここ以外の商売相手を失ったエマーン商業帝国では、新たな市場開拓に全ての氏族が動き出していた。
 いち早く時空融合で隣人が入れ替わった事を察知したのは、リトアニアの新聞にも載ったヨーロッパ周辺を周回する貨物輸送ハウスを動かす弱小の氏族達であった。
 彼らは時空融合直後に大手が牛耳る定期航路よりも早く到着した先でエマーンのコロニーが消滅している事に気が付いた。ヨーロッパ辺境では、コロニーの替わりに見知らぬ都市や街、集落が樹海の中にぽつんぽつんと出現しており、更にヨーロッパ域外へ出た者は全く未知の文明世界が広がっている事を知ったのである。
 ある者はいち早くエマーンへ飛び帰り、その情報を高値で報道各社やさらには大手氏族に売り込み、またある者は現地の行政機関と接触してその後の取引に優先権を得ようとした。
 だがエマーン内部でのそんな競争が巻き起こった一週間後には、エマーンらしく地球を幾つかに分割して、それぞれの優先交渉権を競売で競り落とす事になった。
 分割した基準は、ラジオなどの電波情報を元にした。エマーンの工業製品を捌く市場は、やはりある程度の科学技術を持っていた方が付加価値の高い製品を売り込みやすいので、相手が発信する電波の量で市場の大きさを測っていったのである。
 発する電波の量が一番大きかったのが、アメリカ合衆国を始めとする北米大陸であった。後に3大ネットワークや軍事関係が主な発信源である事が判明したが、その量は北米だけで受信量の3分の1を占めていた。
 次に大きな地域は、日本を含む極東アジア地区である。電波の量こそ極東アジア全てを合計して北米大陸とほぼ互角になるので、取引量は北米大陸と同等になると考えられた。しかし同時に電波に使われていた言語は多種多様であり、風俗習慣も異なる国が多い地区であるとも考えられた。従って利益を上げる前に相手の市場調査にかなり投資が必要だと、容易に予想された。
 残りのソ連や中東、南アジアなどその他の地区は、全てを合計してやっと残り3分の1に達している。
 また、南のアフリカ大陸からは電波が1つも届かなかったのでエマーン全体で調査する事になり、1年後に消滅する事になる未知の障壁に閉ざされている事を発見するのである。
 そして競売の結果だが、エマーンを2分するトーブ家とラース家が上位2地区、北米と極東アジアを競り落とし、そしてそれ以外の中小氏族が残りの地区を分け合うであろうとの予想も立ち、実際その通りになってしまったのであった。ちなみにイギリス(ロンドン)は社会システムが崩壊していたので、住人達は再建しようと努力していたが、商取引より援助が先に来るので中小氏族の何処も手を出そうとしなかった。ここがエマーンの興味を引くのは北米地区、とりわけ同じ英連邦のカナダ合衆国と取引を開始するにあたり、相手の心証を良くするために所謂企業イメージCMにロンドンを利用しようという考えが出てきてからである。
 エマーン2大氏族の活動の前に、杉原がいる東欧に関係する中小氏族の活動から軽く触れてみる。
 あまり儲かりそうもない地区しか手に入れられなかった中小氏族達は、それでもせっかくの独占市場から確実に利益を上げようと東欧へ、ソ連へ、その他へと派遣できるハウスをどんどん派遣していった。
 しかし、東欧はエマーンの原生林に覆われ、所々出現した異世界の都市相手ではエマーンのコロニー相手よりも市場は小さく、そこから満足に利益を上げる事は難しかった。
 ソ連との貿易も時空融合前から鉄のカーテンを閉じて一種の鎖国状態にある共産国家相手では、ハウスは追い返されて8月頃までなかなか国交を開く事が出来なかった。ようやく国交が成立したこの後の時代も含めて、共産主義のソ連と資本主義のエマーンとでは大規模な交易を行えば行おうとするほど問題が多発する始末。エマーンの意地に賭けて対ソ貿易を赤字にこそしなかったが、大きく利益を上げる事はエマーンが戦争のコントロールを覚えるまで無かったのである。
 さて有望市場第一位の北米を競り落としたトーブ家は確実な利益を求めてアメリカ合衆国政府と接触し、エマーンでは時代遅れの重力制御機関を大量輸出する契約を結ぶ事が出来た。もっとも、大量発注を受けすぎて処理能力をオーバーしかけた程であったが、その辺の詳しい経緯はまた別の章で語られるであろう。
 そしてラース家が競り落とした極東アジアには前述の理由も有って、当初ラース家はトーブ家に負けてしまったと誰もが考えていた。
 しかし今は利益が出なくとも、ラース家が担当する極東アジアの方が重要であると直ぐに知れ渡った。
 エマーンでも時空融合直後から流れていたラジオ放送を受信していた。それは複数の言語で流れていたが、何れもエマーンが知らない言語であったために、内容が解らなかった。だが、トーブ家が米国と接触して英語をエマーン語に翻訳できた時、そのラジオ放送がGGGから送信され、しかも時空融合を英語で説明している番組も流れている事が判明した。
 時空融合の原因と新たな地球の現状を掴むために調査活動をするのは、エマーンも例外ではない。もっとも商売相手を知る、と言う商人らしい動機も多々あったのだが。
 ともかく、時空融合を知る者が極東地域に存在するとエマーン中に知れ渡った時、そこでの商売に優先権を持つラース家に注目が集まり、時空融合の原因を掴んだ方がその後の世界の主導権を握れるという期待感の元、時空融合と関わらないと思われたトーブ家よりGGG相手と商取引をして原因を掴むであろうという思惑でラース家に投資が集まったのであった。
 もっともこの時点の投資家達は幸いである。
 後世、時空融合の原因と結果がエマーンを訪れた事件でアメリカ合衆国とGGGのどちらが時空融合の原因に近いか判明した時、反動でラース家の株が暴落するまで上昇を続ける株券で大もうけしたのだから。

 ともあれ、そんな未来に些か関わりがあるとも知らないシャイア・メイスンは、こんなエマーン内部の状況を次の様にオブラートに包んで杉原に言った。

「エマーンでは新しい取引相手を得るにあたり、各氏族が分担して各国と交渉する事になりまして、先ほども申し上げた様にラース家が極東地域での交渉優先権を得られました。そこで私たちは交渉の手始めとして閣下の様な極東出身者たちと接触しようと考えて、本日お伺いに参ったのです」
「だが、私が母国からのラジヲを聴く限り、私の知る國では無くなっている様だ。とても正しい情報を教えられるとは・・・」

 杉原は戸惑っていた。
 NHKの短波放送で、既に大日本帝国は亡い事を知り、臨時政府とその代表のプロフィールを聴く限り社会体制も大きく変化しているであろう事は容易に想像できていたのである。
 それでもシャイアは引き下がらなかった。

「閣下が母国の音声放送を理解できるという事は、言語は閣下の知っておられる物と同じなのでしょう?」
「まっ、多少意味合いや発音が違い、知らない単語が混じっている事もあるがね」
「それでもよろしいのです。100%とは言いません。有効的な商売をするにはお客さまの風俗を知り、相手の欲する物、こちらから提供できる物を伝えねばならないのです。我々エマーンが友好的な取引相手であると相手の言葉で伝えたいのです」
「まず日本語を学習したいのかね?」
「はい、そうです。もちろん教えて頂くには、ただとは申しません。ラース家でご提供できる物で閣下が今欲しがっている物が有れば、それをお礼にする事も考えましょう」

 杉原はシャイアの申し出を考慮し始めた。もちろん領事代理が勝手に取引を行うのは非常にまずい事なのだが、本国と連絡が取れない非常事態中であり、何より時空融合前に本国の指示に反して通過ビザをユダヤ人達に大量発行した事と比較しても、今更本国に無断で取引しても悪評が1つ増えるだけでこれ以上悪くはならないだろうと杉原は考えた。

「よろしいでしょう。日本語を始めとする日本の情報を教えるのと引き替えに、私にも提供して貰いたい物が有ります。1つお尋ねしますが、エマーンでも我が日本からの短波放送は受信しておられますかな?六〜三〇メガヘルツの電波(短波)を用いている音声放送なんですが」
「はい、受信しております」
「では同じ周波数、変調方式で放送できますかな?それが出来るなら最初の一回と、その後は向こうが指示するであろう帯域で日本と連絡を取る手伝いをして貰いたい。この地で権勢を誇るラース家でも、紹介が無ければ、日本政府と直ぐに交渉は出来ますまい。私の名がまだ本国に通用するかは不明だが、ラース家と日本政府の交渉の糸口位にはなるでしょう」

 シャイアは杉原の提案を聴くと、即決した。エマーン本国からラース家が所有する放送局で使われていた短波放送設備をリトアニアのラジオ局に譲り渡し、それを杉原に貸し出したのである。
 杉原は準備が整うと直ちに、と言っても日本の放送が中断した時刻を見計らってだが、それを使い日本に報告を開始した。

「こちら大日本帝国リトアニア領事代理、杉原千畝です。日本の方、応答願います。こちら・・・」

 そして杉原からの放送を受信した日本も驚き、特に短波放送を流していたNHKは直ぐに別の周波数を使う様に要請したが、杉原と連絡を取る様になった。
 度重なる交渉で杉原本人と確認した外務省は、過去の経緯を第三者の立場で見られる九条外務相と天津外務次官の決断によって、杉原を正式に日本臨時政府の代表として扱う事になる。
 ラース家も通信設備を杉原に提供した見返りを十分受け取った。
 杉原本人から日本語をレクチャーされ、日本政府との交渉を仲立ちしてもらい、紅海における両者の直接交渉へと繋げたのである。





皇紀改め新世紀元年7月1日

 今朝、この小さな領事館に入りきれないと思われる程、大勢の職員が日本から到着した。彼らは紅海で行われた日エ通商交渉の成功後、ラース家のハウスに乗ってヨーロッパまでやって来たのだ。
 その半数はこの領事館の整備を手伝った後、ロンドンに出現した日本大使館へと赴任してそこを再建する予定である。
 彼らは領事館到着後、休む間もなく一緒に運んできた貨物をほどき、瞬く間に通信設備を組み立てた。
 天空遙かに飛来する人工衛星なる物を使用して、日本本国と映像も使用して対話できる最新設備である。これでろくに日本との連絡も取れないまま旧式と化した電信機を使わずに済み、何時でも好きな時に連絡が取れると思った。だが、肝心な人工衛星の数が少なく通話できる時間は極限られた短い間だと、それを組み立てた営繕課の者に教えて貰った。
 そして正午には、その短い時間を使って、私は天津次官へこの数ヶ月間に収集整理したソ連やエマーンを含む東欧情勢と、我が国に直接危害を加える国が有ればソ連がその筆頭であろうという結論を伝えた。そしてソ連の活動を制するに、我が国単独で対抗するのではなく東欧諸国との連携も必要であるとも。よって、対ソ連外交だけでなく東欧との連携も視野に入れて対ソ外交を一元化するポストを用意していただきたいと提案した。
 これに対して天津外務次官は次の説明をした。

ソ連に限らずその他の諸外国も一新してしまい、外務省も従来の国別対応組織では十分に機能が発揮できないため、内局を総合調整部門、情報収集部門そして国際交流部門に分けて強化再編し、世界全体の流れをみて日本の国益、日本に住む人々の安全を確保し続ける事が最重要な国益であるとも言われたが、この国益を維持する外交を遂行する体制を整える。
 これは各国に置く大使館も同じ事で、国際交流・情報収集・邦人保護の三大任務を遂行する事を求められるで有ろう。そして大使はその国相手だけの外交を考えるのでなく、その置かれた地域の情勢、世界全体の情勢を視野に入れ、我が国の国益を考えた外交を行ってもらいたい。
 そして対ソ連外交も重要な問題になっている。
 我が国も時空融合で北樺太を併合し、シベリアに軍(自衛隊)が駐留するシャングリア基地が出現したため、対ソ連外交は非常にデリケートな物となった。
 おそらく米国の支援が期待できない今の状況では、ソ連の活動を制するには提案通りソ連周辺諸国の連携が必要であろう。

 そして次官は今後の私に、二つのポストを提案してくれた。これからも日本の外交官としてヨーロッパの地にもう暫く赴任して貰うつもりであると言う事である。
 1つはラース家と接触した事により、このまま正式に駐エマーン大使に就任する事。もう一つは私の専門を考えて、東欧とソ連を一元対応する東欧方面大使に就任する事である。
 私の答えは決まっていた。
 ラース家との交流も楽しかったが、私の専門が役に立ち、リトアニアの友人達の役にも立てる東欧方面大使の就任を受け入れた。
 正式な就任は一週間後、やはりこの衛星通信機を使用して外務相そして首相立ち会いの下で、私の知るお姿より多少お年を召された様な陛下の認証を受ける事になった。もっとも今は天皇陛下ではなく、国王陛下という称号らしい。

日本連合東欧方面大使 杉原千畝の日記より





後書き

 どうも、OkadaYukidaruma です。
 ペテン師さんの「ライジングサン・アイアンクロス」に刺激されて、杉原千畝を主人公にした短編を書き上げました。
 自分が直接続ける話しは考えていないのに、タイトルに『アバンタイトル』と入れたのはあちこちの作品の前段階の話しになってしまったからです。
 作者の皆さん、どんなもんでしょう?書きにくくしていませんか?

 ちなみに、この中で出てきた外務省の組織表はここの「外務省」にあります。天津外務次官は、まだ反映していませんが。\(__ ) ハンセィ
 では、次回にご期待下さい。


 感想は連合議会か、もしくは直接こちらへ。


<アイングラッドの感想>

 こんにちはアイングラッドです。
 OkadaYukidarumaさん、投稿ありがとうございました。
 ペテン師さんから始まった東欧州の事情も少しずつ話が広がってきました。
 そしてOkadaYukidarumaさんのアバンタイトル、と言う事で後書き恒例? の妄想的突発小話。
 注、以下の話は今突発的に思い付いた物であり、SSFW公式の物とはなっていませんので。

 真・エクソダス。

 東欧の混乱で出現した独逸第三帝国軍人の大部分は日本連合主導、面堂財閥スポンサーの元に「エクソダス」と云う作戦名にてはるばるロシア鉄道を越えてユーラシア大陸アジア方面へと移動を行った。
 だが、真にエクソダスをしたいと考えていたのは彼らであっただろうか。
 否、切実にそれを求めていたのはユダヤの民である事を否定出来る者は居ない。
 我々の時系列、そして出現した東欧ではヒトラーの台頭によりアーリアの血を引く「優等なる白人」を一等民族と規定し、以下各種民族を一方的に等級付けて区別し始めた。
 そしてヒトラーの狙いは的中した。
 自分達の最も身近に存在し、自分達とは異なる宗教を持ち、異なる律法に従う薄気味悪い奴ら、そして戒律により自営業を営む事の多かった裕福な資産家であるユダヤの民に不満の目を向けさせたのだ。
 この作戦は成功した、と言うよりも彼らの価値観からすれば人間>人家畜(奴隷)>家畜>ユダヤ人と言う古来からの価値観を蒸し返した物に過ぎなかったのだから、当然と言えば当然である。
 揺り返しにより出現していた東欧の歴史に於いても、元の世界での過去、1933(昭和8)年1月、ヒトラーは首相に就任。4月1日にユダヤ人排斥運動声明を行い、ユダヤ商店のボイコット、ユダヤ民族の公職からの追放、教師・芸術家・音楽家の締め出し、ニュルンベルク法(1935)によるドイツ市民資格剥奪、と矢継ぎ早にユダヤ人排斥政策が打ち出していった歴史を持っていた。
 これは伝染病の様にヨーロッパを席巻した、勿論ヒトラー程露骨な方法をとった者は居なかったが、彼の施策に影響された白人は多かった、と言う事だ。
 そして軍事的侵攻を始めた独逸の支配域に於いてはユダヤ民族は駆り立てられ、集められ、そして連行された強制収容所での出来事は・・・アンネの日記に詳しいので割愛する。
 この様な出来事を経験したユダヤ民族がこの地に拘る理由は少なかった。
 基本的に彼らは歴史的な民族受難の経験から、いつ略奪を受けても最低限行動を可能にする為の資金を保持しようとする傾向が強く、危機管理に掛けては他の民族の追随を許さない。(対極にいるのは勿論、日本民族である事は間違いないだろう)
 となれば、この前まで自分達に冷たい目を向けていた他の民族の中にいるのは得策ではない、そう判断し行動に出ようとするのは当然の事だった。
 最初は時空融合時に比較的資産の多い者達が様々なツテを伝ってヨーロッパ周辺からの脱出を始めた。
 シベリア鉄道の高額で稀少な正式の切符を買う者、エマーンの隊商に頼み込む者、陸路を荷馬車で移動する者と、それは多岐に渡ったが大半の者はそうは行かなかった。
 では彼らはこの地に留まるしかなかったのかと言うと、彼らのネットワークを舐めてはいけない。
 彼らは古来に於いてモーセの導きにより、シナイの地と云う民族移動の要衝に生活の基盤を持つに至った為、他民族の襲撃、遊牧民族の定期的な襲撃により古来より民族の離散、拡散を続けてきた。
 よって彼らユダヤの民はユーラシア大陸アフリカ大陸の各地に散って行き、混血を繰り返し、容姿によって同一民族と見る事が出来なくなっている程である。
 では、何を以てユダヤ民族をユダヤ民族としているかと云えば、ユダヤ教徒の母親を持ち自らをユダヤの民と自認し、ユダヤ教徒として『その名』を信仰する事である、よってキリスト教徒やイスラム教徒のユダヤ民族は存在し得ない。例外は原始キリスト教団の時代位だろう。
 彼らの拡散は古代ユダヤ王国の時代にまで遡る、その中で最も有名なのが『消えた十支族』であろうか。
 彼らの大半は残り二氏族に吸収された様だが、南へ、東へと小集団での移動を行った事も確かである。
 そう言った集団がユーラシアの各地に分散して存在していたらしい。その証拠に初期キリスト教、つまりユダヤ教キリスト派としての要素を強く残していた初期キリスト教の宣教師、キリスト本人の顔を知る彼らが東に向かった、そして一世紀を数えることなく彼らは東の果て、中華の地にまでその足跡を残している。
 キリスト教の伝播に新しいユダヤ教の教義に飢えていたそれらの小集団が関係していたのは間違いないだろう。
 さて、現在この世界のアジア、中華共同体は匈奴フンヌが西進を果たさなかった世界であるが、そこにもユダヤの民の姿は有るのだろうか。
 有るのである。
 十戒で知られるモーセが有名だが、彼らユダヤの民が古代エジプト王国によって他の地域からエジプトへと奴隷民族として連れてこられた事が知られている。
 旧約聖書の「出エジプト記」に書かれているエジプト脱出エクソダスしたモーセ率いるユダヤの民は約束の地カナンに到達したと書かれている。
 それくらい古い民族である彼らは匈奴の移動に端を発するゲルマン民族大移動がなかった世界に於いても中華の地にその姿があったのだ。
 そして例え世界は違えども、同じ『その名』を信じるユダヤ民族同士である。
 ゲットーに閉じこめられ常に迫害を受け続けられてきた彼らとて限度という物がある。民族絶滅を図られた同胞がいると聞いては黙ってはいられなかった。
 中華共同体内で活動を行っていた中華ユダヤ民族は数万人にも及ぶ欧州ユダヤ民族の脱出計画を練り始めていた。
 東欧に出現した独逸軍人達は自らの意志でアジアへと脱出エクソダスしたが、隣人に対して信頼を持てなくなったユダヤの民の方が切実に脱出エクソダスを求めていた。
 ヨーロッパからアジアへの交通路は幾つかあったが、時空融合によりその大半が失われていた。
 特に空路は危険が大きく選択肢から真っ先に外された。
 しかし、陸路にも人類の敵は多く、又機械的な交通手段が必要とされていた。
 陸上での大量輸送の花形と云えば鉄道である。
 北方を走るシベリア鉄道は既に抑えられていたし、例え隙間があったとしても迫害した側と席を同じくする事は出来ない。
 又、他の鉄道網としては涼(モンゴル)経由と天竺(インド)経由の路線が発見されていたがカスピ海の北方はソ連、南方は正体不明のロボット軍団に脅かせられていた為、整備しながら輸送を行うのは現時点では無理であった。
 そこで目を付けたのが先程日本連合が行った遣エマーン艦隊の辿ったインド洋を経由したルートである。
 紅海の最奥部へ中華共同体が唯一保有している過去から出現した燕国所属の戦艦「姫小宝チー・シャオパオ」を旗艦とした輸送船団を組み、そこで難民を拾い上げる計画である。
 当然難点もある、中華共同体の軍備を他国民の為に使用する事、そして東欧から難民を搬送する術だが、この時点でのエマーンの隊商は生命の危険に隣接する地域での活動を行っていなかった為にエマーン領域の外側に出現していた鉄道網を利用する事となった。
 ヨーロッパ中央部の交通の要衝、山国のアップフェルラントを経由して南下し、黒海西岸のルッチェランドで活動する機神兵団の護衛を受けて危険地帯を抜ける算段である。
 ちなみにわざわざ独逸南部とオーストリア北部の狭間にあるアップフェルラント王国を通過するかというと、少数だがユダヤ人グループが確認されていたので回収を行う為である。

<と云う訳で次回予告・・・このアバンタイトルの続きの後書きに書くオマケの(汗)>
「イヤルの月の第15日。晴れ。ゲシュタポから隠れていた私達家族は、『本来なら』発見されて処分所へと送られてしまう筈だったそうです。チャイナ共同体に随伴してきたヤーパン大使館の人が私達家族の事を知っていたのは意外だったけど、彼らがそう教えてくれました。現在私達ヨーロッパのユダヤ人は、中華共同体のユダヤ人を頼って列車に乗りイスタンブールからスエズ運河の紅海側へ向かっています。でも、エルサレムの周辺には鉄のゴーレムが人を襲っていると聞きます。心配です」
「イヤルの月の第25日。晴れ。いよいよスエズも間近になって、とうとう私達は襲われた。空を飛んで見張りをしていたキシンヘイダンのフガクという飛行機から連絡があったすぐ後に沢山のゴーレムが現れたのだ。キシンヘイダンのライジン、フージン、リュージンが戦いに行きましたがゴーレムの数が多く、私達の列車に近付いてくるのが見えました。口から火を噴くゴーレム、棘の付いた鉄球を振り回すゴーレムと古の賢者マギが創り上げたゴーレムより更に禍々しいその姿に私達は怯えて、震えて、逃げる事も出来ずにいました。そこへ、スエズの方から騎馬に乗ったチャイニーズの騎士が数騎現れたのです。アメリカの映画だったらともかく、この時代に騎兵隊なんてと思っていた私達の前で赤い馬に乗った騎士が手にした弓を引き絞ると・・・」

 以下、次回「アンネの日記」に続く。



日本連合 連合議会


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