「ホワイトハウスへの通信回線は?」

 疲れきった表情のカーター大佐がオペレーターに言う。

「問題ありません。若干ノイズが聞こえはしますが許容範囲内です」
「自衛隊の方は?」
「ご指示があれば今すぐにでも」
「わかった・・・参謀長閣下、準備が整ったとのことです」

 傍らで苦虫を腹いっぱい食べたような表情をしている参謀長の方を見ながら大佐。

「確か君は日本に長い事いたんだよな?」
「はい・・・それがなにか?」
「ならば君が交渉したまえ、私はどうもあの連中が苦手なんだ」
「はっ」

 敬礼をすると、カーター大佐はインカムを装着した。

「交渉役のカーター大佐です。自衛艦隊応答願います」

東部戦線 Bパート




 『平和主義』の日本をよく知っている参謀長は、日本が危険な戦闘地域に踏み込んでまで攻撃に参加するとは考えられないと思っていた。
 PKOでテロリストがうろつく地域に自国軍を派遣する際に、自動小銃を持たせるのか否かで散々揉めたような国だ。艦隊司令がGOといっても政府が許すはずがない。
 せいぜいが脱出する強襲揚陸艦をメキシコ湾の対岸まで護衛するぐらいであろう。
 失敗するとわかっている交渉をわざわざ自分がする事は無い。経歴に傷がつくのは大昔からきた反抗的な大佐だけで十分だ。
 自分はその後の撤退戦で一人でも多く将校を脱出させればそれでいい。この若造はお終い、俺は国家を救った英雄となってなんとか面目は保たれる。
 仮に合衆国が崩壊したとしても、家族を引き連れて日本にでも亡命すればいい。非常識すぎるほど強力な武装を数多く持つあの国ならば、自分が寿命を終えるまでくらいまではあの不愉快なブリキ野郎どもと会わなくても済むだろうしな。
 軍人として以前に人として最低の考えを参謀長がしていると、自衛隊側から応答があった。

<こちら海上自衛隊大西洋調査艦隊です。感度良好>
「単刀直入になってしまうのですが、わが軍の巻き返し作戦の際に、支援砲撃をしていただきたいのです」
<了解しました>
「えっ?」

 思わず声が出てしまう参謀長。
 予測していた答えと180度違う回答に、思わず顔が呆けてしまう。
 断られた時に恫喝してやろうと別回線で待機していたホワイトハウスのメンバーも同様である。

<ご安心を、そちらの状況はこちらでも常にモニターしておりました。周辺海域の自衛艦艇はそちらの作戦開始と同時に斉射できるようにスタンバイしつつあります>
「は、はあ。それでは作戦開始時刻に関してなのですが・・・」
<あ、少々お待ちください>

 それまではきはきと答えていた相手は、時間の話になると急に待ったをかけてきた。

<・・・・・・はあ、2時間後、ですか?・・・・・・ハァ〜またSSS機密ですか、わかりました>

 なにやら向こうは向こうで揉めているらしい。

<お待たせいたしました。作戦開始時刻なのですが、ちょっといろいろありまして最低でも2時間はいただけませんと全艦艇の用意が・・・>

 やはり無理とでも言うのか!?と騒然としていた司令部は、その言葉で一気に落ち着いた。

「あ、それならば問題ありません。こちらも空軍やら脱出用艦艇だので作戦開始時刻は4時間後となっていますから」

 カーター大佐の作戦案をより確実にするために、米軍はあるだけのFAE(燃料気化爆弾)や長距離空対地ミサイル、巡航ミサイルなどをかき集めており、それらの準備が整う4時間後を作戦開始時刻としていたのである。

<了解しました。一応こちらの準備が完了しましたら、再びそちらへ連絡を入れます>
「了解。協力に感謝します。所で攻撃の内訳は?」
<少々お待ちください・・・えーと、大型の拡散弾とチャフ・電波妨害物質、スモークに閃光弾、それと対地仕様のVLSといったところです>
「あの、ミサイルの類はほぼ100%迎撃されてしまうのですが?」
<それについては大丈夫だそうです>
「なるほど、それではまた」
<了解。通信終わり>

 通信を終えたカーター大佐が後ろを振り向くと、安堵の表情を浮かべた兵士達の笑顔があった。

「援軍に加えて自衛隊が来てくれるってよ」
「戦艦がいるんだろ?それじゃあ一個師団が援護にきたのと同じじゃないか!助かるぞ!!」
「生きて帰れるぞ!!」

 絶望的な戦況の中突如射し込んで来た一筋の光に、兵士達は生き残れる可能性を見出したようだ。
 本国からの増援に加えて自衛隊がその総力をあげて支援をしてくれると言う話は瞬く間に東部戦線中に広がった。
 敵の猛攻にさらされる最前線の塹壕の中で、慌しく砲撃を繰り返す砲兵陣地の中で、重傷者達がうめき声をあげる野戦病院の中で、兵士達は、士官たちは、4時間後に全てを託す事を決めた。



 そして4時間後。



「主砲斉射!VLS発射ッ!!!」

 艦隊中からその言葉が聞こえてくると同時に、鋼鉄の乙女達の体から数え切れないほどの光が飛び出した。

「自衛艦隊の攻撃開始時刻です」

 オペレーターがそういうのと同時に、陣地の上空を数え切れないほどの砲弾とミサイルが通過していった。

「着弾しだい全軍攻撃を開始せよ!!」

 叫んでいる間にも上空を第二陣と思われる物が通過する。
 第一陣のメインは三式対地散弾。
 一発一発が対戦車ライフルを凌ぐ破壊力を発揮する散弾をこれでもか!というほど詰め込んだ恐ろしく高価な砲弾は、値段に見合った性能を発揮した。
 なんと、ただの一撃で250体ものロボットを破壊してしまったのだ。とは言っても十分すぎるほど戦力に余裕があるムーなので、その程度の損害は直ぐに埋められてしまう。
 そこへ飛来したのはミサイルを中心とする第二陣なのだが、ムーにミサイルが通じないのは以前に証明済み。
 たちまち空を埋め尽くすようなレーザーによって全てのミサイルが迎撃される。

「人の話を聞いていなかったのか連中は」

 呆れた顔をしながら双眼鏡をのぞいているカーター大佐が呟く。
 迎撃されたミサイルは銀色の幕やピンクの粉をばら撒きながらむなしく空中を漂い・・・・・・

「なるほど、考えたな」

 真相に気づいた大佐がニヤリと笑う。
 そう、自衛隊は初めから迎撃される事を前提にして、チャフや総合火力演習襲撃事件で猛威を振るった電波攪乱物質(コピー)をミサイルに搭載させていたのだ。

<閃光弾いきます>

 自衛隊から警告が入ってくる。

「総員対閃光防御!!」

 この時ばかりは最前線で小銃を撃っていた兵士達も塹壕に身を潜めて目をつぶる。
 そこへやや遅れて閃光弾がメインの第三陣が飛び込んでくる。
 空気中を漂う電波攪乱物質やチャフ、スモークのせいで照準がつけずらいというのに数の暴力で強引に迎撃する。
 その瞬間、凄まじい閃光があたりを満たす。
 限度をはるかに越えた光量によってカメラの回線を焼ききられたロボットがでたらめな照準であたりを撃ち始める。
 そこへ体制を立て直した米軍が正確な射撃を加える。
 たちまち煙を噴きながら倒れこむロボット。

「空爆開始まであと5分!」

 緊張したオペレーターが叫ぶ。

「最前線の部隊を下げろ!撤収を確認しだい爆破パイプラインを起爆、MLRSスタンバイ!」

 指揮官が叫ぶ。

「了解・・・・・・第一次爆破開始しました!」

 当初の作戦案には当然ながら修正が加えられていた、一ヶ所だけではなく、当初の予定に加えてもう一ヶ所で爆破を行うことにしたのだ。
 これによって敵の進撃速度を更に落とそうと言うのが目的である。
 第一次爆破によって前線各所でストップを余儀なくされたムーは、その分の兵力を分散させて迂回路を取るはずだったのだが、驚くべき方法で進撃を再開した。
 なんと、最前列のロボットを次々と溝の中に突き落とし、その上を渡り始めたのだ。

<ザザ・・こちら監視ポイント04!連中はクレージーだ!ワァ!!>

 その衝撃的映像を送り届けた直後に撃破された偵察部隊の驚きも分かる。

「どうするのかね大佐?」

 偉そうに椅子に座りながら参謀長が言う。
 もちろん彼の頭の中では再び家族を連れての日本への亡命プランが策定されている。

「どうしようもありません。敵の戦力を多少なりとも削れたと言う事で良しとしましょう」
「そんな無責任な事で!」

 激昂して立ち上がろうとする別の参謀。
 奇跡が起きたのはその瞬間だった。
 日本の宇宙戦艦とやらから放たれた大口径高出力レーザー砲と思われる光学兵器が、明らかに異常と思われる低速で敵陣に突き刺さったのである。
 そして眩いばかりの光芒が前線から押し寄せ、次に襲い掛かってきた熱風が司令部ごと周囲を消し飛ばした・・・・・・・とならなければいけないのだが、そうはならなかった。
 それを見た時、大佐は働きすぎでついにキテしまったのかと思った。
 日本から撤収してきた在日米軍を初めとした過去の米軍は、未来の米軍にとって嘲笑の対象にしかならなかった。
 『時代遅れの原始人』
 それが彼らに与えられた称号だった。
 彼らからしてみれば、厳しい軍務を終えてさあ休暇だと言う時に、街角で綺麗な女性に口笛を吹いたくらいで逮捕されてしまう馬鹿馬鹿しい未来社会にそんな事を言われるのは心外だったのだが。
 とにかく、WW2の頃の日系人部隊並の待遇に閉口しつつも軍人としての任務を果たしていた彼らは、とにかく自分達が社会に認められるようにがむしゃらに戦った。
 そういうわけで、まだまだ若いカーター大佐もそれなりに苦労していたのである。
 ひたすら自分のことを馬鹿にしてくる参謀長相手に戦いを挑んだり、今までの経験を生かしてこの場にいる全員の命をかけた作戦を立案・実行したり・・・・・・

「まあ、疲れてるんだろうな」

 目をこすってもう一度前線をみると、状況は悪化していた。

「あの」

 横にいるほかの参謀に声をかける。

「ん?」

 その参謀も呆けたような顔をして前線の方をみている。

「申し訳ないのですが、前線の状況を言っていただけませんか?どうも自分の目は駄目になってしまったようなのです」
「あ、ああ。なんか空気がピンク色になっているような、それで無数の・・・あれはハートマーク?のような物が、しかも空のあれはなんだ?」
「・・・・・・ご説明ありがとうございます」

 疲れた声でそう言うと席へ付く。
 同じ頃、前線では自分達になぜかは知らないが敵のレーザーが効かなくなったことを知った兵士達が雄叫びを上げながら突撃を開始していた。

「叩き潰せぇ!」
「ぶっ殺してやる!!」

『プリティーコケティッシュボンバー』(P・C・B)によって和やかになった環境下で、兵士達は仲間の仇を討つためにあるだけの弾薬と怨念を動けないロボット達に叩き込んだ。
 倒れたロボットの頭を踏みつける者、既に動かなくなったロボットに小銃を撃ち続ける者、弾倉が空になっているのにも気づかずに引き金を引き続ける者。
 砲を傷つけないように後ろへ向けた戦車がロボット達をひき殺し、工兵隊が高性能爆薬を使って敵を吹き飛ばすだけでは足りず、つるはしやスコップでモノアイや間接部分を叩き壊そうとする。
 人間の獣性が100%発揮された戦場に冷静さを取り戻させたのは司令部からの通信だった。

<前線部隊聞こえるか!?これより総攻撃を開始する!直ぐに塹壕へ戻れ!!>
<こちらファントム03!これより攻撃を開始する!ありったけぶち込むからしっかりタコツボに入ってろよぉ!>
<巡航ミサイル発射が完了した!目標到達まで2分!!>
<こちら海上自衛隊です。ただいまより攻撃を再開します>

 どうやら他の連中はこの異常事態をあまり気にしないようだ。
 続けざまに入る通信にオペレーターたちが素早く反応して、あらかじめ決められた指示を出す。

「MLRS、自走砲、その他もろもろ全弾撃ちまくれ!!」
<了解!>

 各地に配置された砲兵陣地から無数の対地ロケットや砲弾が放たれる。
 それに自衛艦隊から再び放たれた砲弾やミサイル、攻撃機や爆撃機から放たれた対地ミサイル、本土や各地から発射された巡航ミサイルが合流し、あの『硫黄島』に匹敵する史上空前規模の砲撃が開始された。
 第一陣として敵軍上空で炸裂したのは、電波攪乱物質とチャフにスモークを加えたスペシャルミックスだった。
 たちまち上空はスモークとチャフ、そしてピンクの雲に覆われた。
 既に組織的な迎撃など不可能になっていた敵は、微弱すぎるレーザーを打ち上げるが、スモークに遮られてまともな効果がでない。
 その隙に殺戮、いや大量破壊を繰り返していた米兵達は慌てて陣地へと飛び込んでいく。
 そこへ第二陣、三式対置散弾やらMLRSやら各種砲弾やら対地ミサイルやらが唸りを上げて飛び込んできた。
 MLRSから発射された対地ロケットが上空でケースから無数の子弾をばら撒き、ミニ絨毯爆撃を各地で発生させる。
 そこへ203mmや155mm砲弾の制圧射撃が加えられ、攻撃機から投下されたクラスター爆弾がやはり子弾をばら撒く。
 この第二陣によって、前線部隊の突撃で壊滅状態だった第一列、第二列に加えて、第三列・第四列・第五列、そしてその後方の予備兵力までもが大打撃を受けた。
 そして第三陣、気化弾による攻撃が開始された。

<エアーストライクワン、目標上空に到達>

 高空を飛んでいたB−52Hの編隊があらかじめ決められた形に展開を始める。

「全機爆撃ポイントへ到達。ファイナルカウントダウン」

 機長が指示を出す。

「10秒前・・・・・・5・4・3・2・1・投下!投下!」

 高空から一斉に投下された気化爆弾たちは、赤外線画像誘導によって角度を修正しながら正確に敵部隊中枢上空10mに達した。
 その瞬間、液体燃料の酸化エチレンが霧状に広がって周囲に散らばり、一瞬遅れて作動した信管によって周辺の空気を巻き込んでの大爆発を巻き起こした。
 小型の戦術核に相当する熱量と圧力は直径1km圏内のロボットをぐちゃぐちゃの金属の塊へと変え、続いて押し寄せた爆風によって難を逃れた連中を根こそぎなぎ倒した。
 この悪夢を戦線の各所で起こされたからたまらない。たちまちムーの大軍勢の中間に大きな穴があいてしまい、配置転換の為に軍団の足が止まった。
 あっという間の出来事だったと言う事と、P・C・Bの影響もあって、ムー側の対応が酷く遅れたその隙を突いて、米軍はこの戦争中ずっと待ち望んでいた展開、絨毯爆撃を開始した。
 あるだけの在庫を詰め込んだB−52Hが上空を埋め尽くすように大挙してムーの部隊に爆弾の雨を降らせる。
 既に決着は付きつつあった。
 P・C・Bと戦略爆撃によってその大半を失ったムーは、戦力の建て直しを行うために、前衛だけ進撃速度を落として後衛と合流させようとするのだが、最前線付近では未だに魔法の効果が残っており、幾らレーザーの斉射を浴びせても効かない。
 反対に米軍の砲兵部隊は、一両でも多くの戦車を持ち帰るために自走砲などの放棄が決定されたため、有終の美を飾らせてやろうと砲身寿命を気にせずに連続射撃を繰り返す。
 上空からは在庫一掃を狙った軍産複合体の強い意向で遠慮なく撃ち込まれて来る巡航ミサイルの雨。
 そして次々と各所で起爆される爆破パイプライン。炸裂するチャフ、撒き散らされる電波攪乱物質・・・・・・




「勝ったな」

 次々と入ってくる報告に思わずにやけるカーター大佐。

「そのようだな」

 いつのまにか傍らに立った指揮官が言う。

「やりましたね閣下。我が軍の勝利です」
「勝利?あれだけの犠牲を払ってか?」
「はい、勝利です。我々は敵により多くの損害を与えたのですから」
「なるほど、時にカーター君」
「はい」
「帰ったら君の昇進を要請しようかと思う」
「何故ですか?」
「今回の作戦が成功したのは君の活躍があったからだ」
「い、いえそんな、自分はただ・・・」
「度を越えた謙遜は嫌味にしかならんぞ」
「は、はあ」
「合衆国はこの先、建国以来の混乱に見舞われるだろう。その時に君のように優秀な指揮官が一人でも多くいれば、それだけ兵士達が助かる」
「・・・・・・・・・」
「優秀なものにはそれ相応の役職に就いてもらったほうがいいからな」
「ありがとうございます」

 指揮官の方を向き、見事な敬礼をする大佐。

「なに、礼には及ばんさ。どの道今回の作戦で将官も多少死んだからな。その穴埋めくらいに思っていてくれればいい」

 笑いながら答礼する指揮官。

「本当に、ありがとうございます」

 かみ締めるように再び礼を言う大佐。

「気にするな。それよりこれから撤収戦が始まるぞ」
「ご安心を、すでに負傷者及び歩兵部隊の一部が乗船を完了しております」
「素晴らしい。さて、それでは前線部隊にも撤収を指示しようか」
「そうですね」

 こうして、米軍は悪夢の東部戦線からの撤退に成功した。
 自衛艦隊に守られつつメキシコ湾を横断した部隊は、一時療養の後に再び南米戦線へと回されていった。
 この戦いでカーター大佐が立案した作戦は『オペレーション・ファーストスター』と名づけられ、特に地峡部分などでの戦闘で重宝される事となる。
 なお、この戦いで得られたムーの残骸はその後のレーザー兵器や小型の動力源開発などに多大な影響を及ぼす事となるのだが、それはまた別の機会に。




日本連合 連合議会


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