エピローグ

 

 

 

PM7:00 国会議事堂プレス室

 

「それでは今回の事件についてご説明させていただきます」

国会議事堂内プレス室には民放各社とNHK、多くのジャーナリスト達が集まっていた。

演壇に立ち説明をしているのは加治自らである。その傍らにはセリオと土方防衛相が立っている。

「事の発端は、本日午後12時10分ごろ防衛省敷地内にテロリストが突如武力侵攻したことに始まりました。テロリストは、制止に出た警務隊員二名と輸送トラックの運転手一名を射殺し、本省敷地内にある防衛技術研究所を占拠、一階正面エントランスにいた職員六名及び取材に来ていたテレビクルー二名を射殺しました。この地点では、我々政府首脳にこの情報は入っていませんでした。

その四分後、敷地内を移動していた隊員が異変に気づき本部に通報、施設内各所に連絡を取った結果、技研との通信が不可能になっていたため、二分後の午後12時16分、十名からなる偵察部隊を技研に派遣しました。

この部隊が敵の攻撃を受け全滅したのが午後12時19分。一個戦闘班を全滅させる破壊力を持った敵軍の出現に対し、本日午後12時20分デフコン3を発令しました。

デフコン3発令と同時に、本省より半径1500m圏内の世帯全てに避難命令を発令、同圏内を立ち入り制限区画に指定しました。

午後12時30分、陸上自衛隊第一師団所属の各駐屯地よりの増援を集め、技研施設及び本省周辺部を完全に包囲、付近へのテロリストの逃走を防ぐと同時に、火事場泥棒を始めとした便乗犯の警戒に当たりました。

午後12時56分、内部の無線を傍受していた部隊より、地下研究施設にあるN2核地雷がテロリストの危機にさらされていることが判明・・・・・・」

ここで一部マスコミが騒ぎ出した。

 

「核兵器があったんですか!?」

「どういうことです!?日本は非核三原則を国是としていたのではないのですか?」

「シビリアンコントロールはどうなってるんだ!!」

 

「落ち着いてください、みなさんお静かに!!」

周囲にいた官僚やセリオ、土方防衛相が声を上げて制止する。

さすがに国の重鎮の声を無視するわけにもいかず、渋々ながら静かになるマスコミ関係者達。

「このN2核地雷についてなのですが、これは融合後の第二・第三新東京市郊外で発見された物を解体の為に運び込んでいた物です。融合後の日本においても非核三原則は国是であり、今後ともそれを変えるつもりはありません」

 

この件について加治に非は無い。加治は技研地下に核兵器が保存されていることは知っていたが、それらは非活性化されているという報告しか受け取っていないからである。

実際、起爆装置は取り除かれ、プルトニウムやウランも外された上で東海村などの原子力施設に運ばれていたのだが、一発だけ研究用に残されていたのだ。

ちなみに今回の事件で発覚したのだが、N2爆雷に対しては量産化研究が行われていた。

これらの行為は全て斎藤を始めとした主任達が勝手に進めていたことであり、政府首脳はおろか技研内部の人間も知る者は少なかった。

後日、加治は救出された主任達を呼んで激怒し、組織の統制を乱した彼らに対し法治国家としての制裁を加えた。

 

「さて話を戻します、核兵器がテロリストの脅威にさらされていることが判明したため、本日午後12時58分、デフコン2を発令、自衛隊全ての部隊に即応体制を取らせました。

午後1時頃、福岡県各所において連続爆破事件が発生、これによる犠牲者を救出するため陸上自衛隊東北方面隊の大部分が出動しました。

これによって、福島県を中心とした地域で戦力の空白が発生。これに乗じた原子力発電所襲撃を防ぐため、福島県警に機動隊出動を要請しました。

しかし本日午後1時15分、敵勢力の攻撃を受け機動隊が全滅、我々は一連の事件を敵勢力による軍事行動と認識、東北方面隊の動かせる限りの部隊を原子力施設の防衛に向かわせました」

ここで具体的な規模は伏せておく。それはオメガの存在を隠すためである。

「同時刻、緊急招集された部隊による技研への突入が開始されました。多大な犠牲を払いましたが、本日午後1時20分、突入した特殊部隊によりテロリスト全員が逮捕されました。

逮捕されたテロリストによりますと、福島県周辺で発生した一連の事件も彼らの別働隊が行っていたということです。

なお、福島県周辺部に展開していたと思われる敵部隊についてなのですが、急遽降下させた第一空挺師団による山狩りが現在も続いておりますが、いまだに発見の報は入ってきていません。

付近の住民の皆様は戸締りをよくして、誘導の警察官や自衛隊員に従ってください。今回の公式発表は以上です。ご質問をどうぞ」

 

加治が質問の許可を出すと、直ぐにその場に居合わせたマスコミ関係者全てが手を上げた。

「・・・それでは、そこの貴方」

坊主頭の男を指差して言う。

「テレビジャパンの矢島です。わが国のデフコン体制に関して詳しくお話いただけないでしょうか?」

「わかりました、わが国のデフコン体制は米軍のそれに酷似しており、発令前の平時状態、準有事状態の5から最高ランクの1まで六種類あります。

発令前の平時状態についての説明はあえて要らないでしょう。

次に準有事状態のデフコン5ですが、これは有事が発生すると想定された場合に発令されます」

「具体的には?」

「情報機関や外電、公安などから上がってきた情報を元に攻撃、およびそれに準じた行動があると推定された場合です。この場合、警務隊を除く部隊に先制攻撃権はありません。

デフコン5発令と同時に、我々政府は可能な限り事態を沈静化させるために、武力行使を除いたありとあらゆる措置を取ります」

「なるほど、それでは万が一突然奇襲された場合にはどうなるのですか?」

矢島が尋ねる。

「突然奇襲された場合は、一足飛ばしでデフコン3に移行します。この場合、自衛隊全部隊に先制攻撃権が与えられます」

「なるほど」

「次にデフコン4ですが、これは平和的解決方法が失敗した場合に発令されます。デフコン4発令と同時に、自衛隊全部隊に防衛出動待機命令が下され、各メーカーへの武器弾薬増産の依頼、予備・即応自衛官の召集が行われます。また、正式に作戦案を立てその作戦に基づき敵軍予想進路上、及び作戦区域全域の住民の強制退去を行います。これは今回の事件でも行われたので皆様のご存知かと思います。これは住民の皆様の安全を守るためにやむおえなく行う行動であり、速やかな事態の解決に必要不可欠なことであります。なにとぞ、国民の皆様のご理解をお願いしたいと思います」

「その件につきましては、我々マスコミが責任を持って国民に伝えていきたいと思います」

矢島が答える。

「ありがとうございます。なお、この際現場で誘導に当たる自衛官達に臨時の警察権を供与します」

「なぜですか?」

「避難活動中、あるいは避難後、犯罪を行った者の身柄を速やかに拘束するためです」

「なるほど、つまり避難後は警察官も作戦区域から退去させるということですね?」

「ええ、それからデフコン4発令下では作戦任務中の部隊及び警務隊に先制攻撃権が認められます」

「その他の部隊は?」

「その他の部隊に関しましては正当防衛に限りますが、中隊長の指示で明らかに害意を持つ者への先制攻撃は許可されます。これは隊員たちの生命を守るためにやむおえなく制定した措置です」

「隊員たちの、といいますと民間人の場合はどうなるのですか?」

「それは自衛隊法に明記してありますように、部隊が、国民の生命・財産を脅かす脅威に遭遇した場合、これに対して攻撃をすることは許可されています」

「それでは問題はありませんな」

「ご納得いただけて幸いです。なお、デフコン4発令と同時に自衛隊への一部国内法の免除を行います」

「国内法の免除といいますと?」

「作戦行動の妨げとなる国内法、例えば道路交通法や河川法、森林法などです」

 

つまり、部隊の優先通行権や河川、森林などに陣地を構築する際に接触する国内法を一部免除することにより、自衛隊の行動に枠をはめないようにするのである。

 

「さて、デフコン3ですが、これは有事が発生した場合に発令されます。まず、内閣総理大臣による特別非常事態宣言が発令されます。作戦区域周辺部の国民の皆様は地震が発生した場合と同じように、指定の避難所へ速やかに避難してください。指定の避難所には自衛隊による輸送部隊が待機しておりますので、それによって一時的な疎開をしていただきます。これはデフコン4で強制退去される方も同じです。次に、指示を受けた部隊は、全力で障害を排除し作戦を全うします。その際戦闘によって生じた損害は、後日防衛省地方連絡部へ申請していただければ被害に応じた損害をお支払いいたします」

「一時的な疎開といわれましたが、具体的にはどうされるのですか?」

「幸い、第三新東京市、及び第二新東京市にかなりの空き住宅がありますので、そちらへ一時疎開していただきます。なお、疎開中は政府より支給金がありますが、それについては後日担当部署より詳細が送られることとなっておりますので、そちらをご参照ください」

「わかりました」

「さて、デフコン3発令により、自衛隊全部隊に実包装填の許可が出ます。作戦区域周辺の部隊は基地及び基地周辺部の警戒。その他の部隊は基地の警備を行います」

「実包装填ということは、万が一の場合は戦闘が行われるということですか?」

「そうです。そのために作戦区域周辺部の住民の皆様にも避難していただくわけです」

「なるほど」

「デフコン2及び1ですが、これは極めて深刻な事態が発生した場合及び、敵侵攻軍により自衛隊が多大な損害を受けた場合に発令されます。

今回の場合は、東京の真ん中で核兵器が使用される恐れがあったために発令されましたが、実際にデフコン2・1が発令されることは極めてまれです」

「発令された場合はどうなるのですか?」

「陸海空特各自衛隊の投入できるだけの戦力を全て投入します」

「・・・・・・なるほど」

「ご納得いただけましたか?」

「ええ、ありがとうございました」

椅子に座る矢島。

「それでは、本日の記者会見はここまでとさせて頂きます」

それではと挨拶すると、加治たちはプレス室から退出していった。

加治達が退出すると同時に、記者達は携帯を掛けまくった。

 

 

太平洋上

 

日本近海をステルス処理を施された駆逐艦(ルー・ゲーリッグ)がゆっくりと航行している。

艦橋を残してほとんど潜行しているため衛星によって発見される可能性はほとんど無い上に、ステルス性、静粛性も万全のこの急造艦は、日本からの脱出者を載せて一路ある場所を目指していた。

人影がほとんど無い第二艦橋で、技研にいたサングラスの男が衛星電話を掛けていた。

 

「・・・・・・・・・」

「はい、そうです」

「・・・・・・・・・」

「はい、申し訳ありません」

「・・・・・・・・・」

「はい、その件につきましては万全です」

「・・・・・・・・・」

「勿論です。あの男は私の正体を知りませんし、他の連中も同様です」

「・・・・・・・・・」

「そうです、誰も私の正体に気がついてはおりません」

「・・・・・・・・・」

「はい、分かっております。大統領」

 

 

 


とうとう『パンドラの箱』が終了しました。

連載開始からわずか数ヶ月、あっという間でした。

本来でしたら、この話を書くに当たって協力していただいた数名の友人に感想を書いていただこうと思ったのですが、「やっぱりいいや」との事でしたので感想は抜きです。

 

自分としては初の投稿作品ということもありまして、至らないところだらけでしたが、アイングラッド様を始めとした多くの方に協力していただきとても感謝しております。

中編冒頭部を考えていただいた雪達磨さん、メールにて感想・提案を下さった皆様、ありがとうございました。

 

実は、現在既に新しい企画を構想中です。

七月前には第一話が出来ると思いますので、それまでしばしのお別れです。

それでは、縁がありましたらどこかでお会いしましょう。

(別にネットをやめるわけじゃないので、掲示板や皆様へのメールなどは続けますよ)

 

 




<アイングラッドの感想>
 12編にも渡る長期連載御苦労さまでした。
 どうでしょうか。話を作る楽しさは実感してもらえたでしょうか。
 色々口を出させて頂きましたので、もしかしたら大変さや面倒臭さの方が先だったかもしれませんが・・・これに挫けず、予定している次の話を書いてください。
 楽しみにしています。ではでは。








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