『パンドラの箱』

Cパート




 新世紀2年3月11日、遂にWAP試作1号機が完成した。
 この記念すべき日を祝う為、技研では関係者を集めてのささやかなパーティーが開かれていた。
 参加者は、技研側からは研究に携わった研究員全員、陸自からは『P計画』に協力した幹部十数名であった。

 新世紀2年3月11日PM10:16 陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地正面ゲート

「あっちはいいよなぁ」

 パーティーの方を見ながら衛兵が言う。

「長い間開発してた新型が完成したんだ。今日ぐらいは勘弁してやろうぜ」
「それもそうだな………ん?」

 不意に衛兵がゲートの外を見る。

「どうした?」

 つられて同僚も外を見る。
 そこには美しい女性が一人立っていた。

「あのぉ……」
「お嬢さん、こんな夜更けにどうしました?」

 にこやかに笑いながら女性に近づく。

「あのぉ、今日ここで技研の式典があると聞いたんですが……」
「ああ関係者の方ですか、それでは身分証明書の………」

 不意に黙り込む。

「おい、どうした?」

 崩れ落ちるように同僚が倒れる。

「おい!!どうした?おい!!くそ、貴様、そこを動くな!!」

 慌てて銃を向ける。
 銃を向けられた女性は、慌てるかと思いきや笑い出した。

「そんな銃で私を倒す事は出来ない」
「うるせえ!!」

 挑発され、思わず引き金を引いてしまう。
 辺りに満ちる銃声。
 目を閉じていた衛兵が恐る恐る目を開けると、先ほどの女性は同じ場所に立っていた。
 ゆっくりと煙がはれてくる。
 そして、女性の顔が見えた。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 銃声を聞きつけて駆け付けた警務隊(自衛隊内の警察)が目にした物は、既に事切れた兵士の死体であった。





「……はははは、さすがは斎藤さん。あんな短期間で人型を作ってしまうとは」
「いえいえ、部下が優秀だったからですよ」
「ですがそれにしても素晴らしい機体ですな」

 そう言って、陸自の二佐は傍らのWAP試作1号を見上げた。

「特機に迫る性能を持ちながら、コストは90式2台分、そして何よりこの外見!!もはや芸術品と言っても過言ではないですな」
「ありがとうございます」(なんで何より外見なんだよ!)
「これが量産の暁には、わが陸自もようやく本土防衛に参加できると言う物です」
「ええ、幸いな事に霧島重工の整備機器がそのまま残されていましたからね、1年後を目標に量産を開始する予定です。量産が開始されるまでは予備パーツを組んで作った2機と共に第1独立機動中隊を結成する予定です」
「そうですか、既に3機も出来あがっていたのですか」
「はい、富士総合火力演習には支援隊も含め正規の1個中隊規模で参加できます」
「わかりました、本部は市ヶ谷のままで良いとして、偵察や対空の部隊をこちらで用意いたしましょう」
「お心遣い痛み入ります」
「いえいえ、お気になさらずに」

 そのとき、突然駐屯地中に警報が流れた。

<駐屯地内に敵武装集団が侵入!! 駐屯地内に敵武装集団が侵入!! 総員第一種戦闘配備!! 敵軍の規模、武装は不明! 既に二人やられた!! 各員注意せよ!! 繰り返す! 駐屯地内に敵武装集団が侵入!! 総員第一種戦闘配備!!>

「な、なんだって!!こうしちゃいられない。おい!研究員の皆さんを技研の中にお連れしろ!1個小隊を付けてお守りするんだ!!急げ!!」
「はっ!さあ皆さん、こちらへ」

 小隊長につれられて、研究員達は技研の中へ入っていった。
 技研に入ると、斎藤はすぐさま警備に命じて、正面玄関以外の全てのドア、窓にシャッターを下ろさせた。

「敵の狙いは恐らく我々だ!全員武器を取れ!敵に目に物見せてやる!」



 駐屯地内は大騒ぎであった。
 そこら中をジープが走り回り、サーチライトがせわしなく動き回る。

「そっちはいたかぁ!」
「いいえ!」
「こっちも異常無しです!」

 宿舎周りを捜索していた第3小隊の小隊長が声を張り上げる。

「いいか、敵は一瞬で二人もやったんだ、恐らくプロだぞ。各員気を引き締め………」

 不意に黙り込む小隊長。

「……小隊長?」

 不思議そうに見守る部下の前で、小隊長はゆっくりと倒れていく。
 その後ろには無気味に笑う女性がいた。
 いや、女性と言う表現は不適当である。
 なぜなら、それの顔には生々しい弾痕がたくさん付いていたのである。

「う、うてぇ!!」

 たちまち一斉掃射が始まる。
 しかし、アンドロイドに当たった弾はむなしい音を立てて跳ね返される。

「う、うて、撃ぇ!!撃ちまくれ!!」

 雨のように降り注ぐ銃弾を物ともせず、アンドロイドは一気に小隊に突進した。
 一番手前にいた二士を引き倒すと、そのまま急所に一撃を加え絶命させる。
 小隊は一気にパニックに陥った。

「に、逃げろぉ!!!」
「う、うわぁぁぁぁ」

 蜘蛛の子を散らすように慌てて逃げ出す。
 しかし、アンドロイドは恐ろしく冷静に一人一人隊員を殺していく。
 怯えきった三曹がふと気がつくと、小隊で生きているのは自分だけであった。
 辺りを見まわすと、アンドロイドと目が合った。

「や、やめてくれ、やめろぉぉぉぉぉぉぉ」

 夜の駐屯地に断末魔の声が響き渡った。



 同日PM11:31 市ヶ谷駐屯地第一師団司令室

「こちら本部、第3小隊応答せよ」
「………」
「こちら本部、第3小隊応答せよ」
「………」
「……だめです、どうやら第3小隊も全滅のようです」

 オペレーターがあきらめたように言う。

「この一時間で四個小隊が全滅か、敵は相当なプロだな」

 師団長がコンソールを見ながら言う。

「司令、技研より新型機を起動すると言ってきました。いかがいたしますか?」

 報告を聞いた司令は、少し考えたがすぐに決断を下した。

「よろしい、許可を出そう」
「はっ!」



 同時刻 技研内格納庫

「起動シークエンス作動………作動を確認」

 ディスプレイに技研のロゴが映る。

「起動準備完了。いつでも行けます」
<了解、それでは1号機起動、速やかに敵軍を排除してください>
「了解」

 WAP試作1号機はゆっくりと立ちあがると地面に足を下ろした。
 そして光学走査で周囲を見渡すと、戦闘が行われている地点に向けて一気に加速した。

 WAPの脚の下にはローラーダッシュという機構がついている。
 これを使用することによって整地面ではなんと時速190kmまで出す事が出来るのである。



 第1師団は敵部隊相手に大苦戦していた。

「目標捕捉、撃ぇ!!」

 車体を揺るがせて120ミリ榴弾が打ち出される。
 が、すでにそこに目標はおらず、かわりに倉庫が消し飛んだ。

「どこ行った!!」
「分かりません!!」

 その時、車体に衝撃が走る。

「どうした!?」
「RPGです!」
「なにぃ!!」
「損傷軽微、戦闘続行可能です!」

 RPGとはロシア製の対戦車ロケットのことである。
 ちなみに、正式名称はRPG−7
 ロシア語での名称[ルコイ・プロトニヴォタン・グラスオトメチ]の頭文字を取ってRPGといわれている。

「戦車長!どうしますか?」
「バカ野郎!普通科に連絡して周囲を固めてもらえ」
「はっ!」

 言っている間にも砲塔を旋回させ、発射地点に向ける。

「撃ぇ!」

 着弾地点で敵が吹き飛ぶのが見える。

「他の戦車はどうした!?遅すぎるぞ!」

 戦車長が怒鳴る。

「格納庫付近で戦闘が発生している為、搭乗できないとのことです!!」
「畜生!」

 そう言っている間にも車体に衝撃が走る。

「戦車長!囲まれています!!」

 部下の二士が絶叫する。

「ここまでか………」

 あきらめた戦車長が呟くと同時に、上空からロケット弾のシャワーが降り注いだ。
 一瞬、爆炎で辺りが昼間のように明るくなる。

「なっ、なんだ!?敵の新手か!?」
<ご安心を、友軍です>

 通信と同時に上空から一機の人型が降りてきた。
 ブースターをふかしながら静かに着地したその機体の肩には、自衛隊機であることを示す日の丸が付いていた。
 着地した所にRPGが飛んでくる。人型は避けようともせずにそれを受けた。
 320ミリの鉄板すら撃ちぬくロケット弾を受けながら、自衛隊機は無傷であった。
 そして、両腕に持っている機関砲をロケットの発射位置に向け、発砲した。
 45ミリ機関砲の威力は凄まじく、敵は一瞬でミンチにされた。

「すげぇ」

 その様子をモニターで見ていた戦車長はそう呟くのが精一杯であった。

 敵の抵抗を排除した自衛隊機は改めてアンドロイドの方を向いた。
 アンドロイドはゆっくりと笑うと、一気に距離を詰めてきた。
 自衛隊機は、牽制の弾丸をばら撒きながら、ブーストで上空に舞いあがる。
 アンドロイドはジグザグに動いて弾幕をすり抜ける。
 自衛隊機はそのまま空中で反転し、肩の分離ミサイルを発射する。
 ミサイルが空中で弾け、その中から29発の子弾がばら撒かれる。
 それを飛びのいて避けるアンドロイド。
 しかし、飛びのいたその先には銃口が待っていた。

「ゲームオーバーだ」



 こうして、市ヶ谷駐屯地を騒がせた事件は終結した。


 この事件による被害は
死者   121名
重軽傷者 211名
被害総額 6億2195万円



 翌朝、斎藤のオフィスには一人の背広姿の男がいた。

「どうやら、連中は『パンドラの箱』については存在すら知らなかったようです」
「それならいいんだ、わざわざすまんな」
「いえ、斎藤さんこそ、今回は災難でしたね」
「ああ、まさか駐屯地が敵襲を受けるとは思わなかったからな」
「その件なんですが、どうやら今回の敵、新ヤエヅの奴と同じらしいですよ」
「やはりな、どうりで機銃が効かないはずだ」
「ええ、よく生き残れましたね」
「第7研究室の岡村さんが徹甲弾を完成させてなかったらやばかったよ」
「今後は、警備についてさらに強化が必要ですね」
「ああ、俺からも師団長に言っておく」


 

どーもー!T・Mです!

今回始めて戦闘を書いてみました。

難しいですねぇ皆さん良く書けますよね、驚きです。

 

さて、遂にWAPが出てきました。

軽快な運動性と、頑丈な装甲。そして圧倒的なまでの火力。

いいですねぇーつよいですねぇー。

 

えーと次回のお話は

第1回陸上自衛隊富士総合火力演習のお話です。

当然ながらただ演習の様子を書くだけの話ではありません。

まあ、詳しい内容は見てのお楽しみと言う事で……

それでは!




<アイングラッドの感想>

 T・Mさん、立て続けの投稿ありがとうございました。(投稿受付は3日連続でした)
 やはり現在想定されている以外の常識外れの敵に対してはそれなりの装備が必要と言う所でしょうか。
 戦車ではビル街の影を利用した高機動戦斗に追いつけない様ですし。
 神戸のニューポートシティーのボナパルド豆戦車だったらガミアQ3の様な小型高機動の運動能力を持つ相手に最適なんでしょうが。
 この様な高性能機が90式の2台分だったら安い買い物でしょう。
 勿論、戦車の方が有利に戦える戦闘領域も有りますので万能だとは言えませんが。
−−WAPって匍匐前進は出来るのかな? 意味ないか・・・。塹壕戦用の特殊装備として特大のスコップは装備されるのでしょうか。空挺レイバー用のを流用とか?
 何にしろこれで陸自の戦術にも幅が出来て日本に攻めて来る機動兵器に対応しやすくなったのは確かですし。
 T・Mさんの今後の活躍に期待します。
 ではでは。




日本連合 連合議会


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 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


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