裏側の勇者達

エピソード:4


神威の拳


アバンタイトル






 深海の中、一つの戦いが終わろうとしていた。
 光も届かぬ海の底を行く戦船が二隻、幾人もの子供を従えてダンスを踊る。
 やがてそのうちの一つが、疲れ果てたように沈んでいった。
 「敵、ムスカ級生体潜水艦、撃破……しました」
 その喜ばしい報告に返ってくる返事はなかった。その声が発せられた発令所は、すでに水浸しである。
 「ご苦労、諸君。で、こちらの被害は」
 「船殻大破、漏水箇所不明、センサー全滅……あと何分浮いていられるかも分かりません」
 「相打ち……だったか」
 艦長席で、この船の主……海江田四郎は、小さく呟いた。
 ニューヨーク上陸寸前、まるで様変わりしてしまった世界。独立戦闘国家『やまと』は、予定を変更し、じっくりと世界の情報を収集した。
 様変わりした世界において、『沈黙の艦隊』構想は残念ながら無意味であった。世界の滅亡を企むテロリストに対してはさすがの沈黙の艦隊も無力である。新生日本連合は同盟相手としてはかなり魅力的であったが、早急な結論を出すのは避けた。かの国は無数の世界が融合した結果、少々特殊ではあるがかなりの戦力を手に入れていたからである。
 「新生日本の首相は、どうやら汎世界的な安全保証機構の設立を狙っているようだな。それも国家間ではなく、ムーのロボット軍団をはじめとする、この地球全土を脅かすような敵に対するものとして」
 海江田は加治首相の一連の活動をそう読んでいた。
 「しかも日本の政治家にしては珍しく、野望はあっても私心がない。あくまで日本の平和のためでありながら、同時に世界のために尽くしている。それこそが究極的に日本に平和をもたらすことを、きちんと認識しているのだ。このセンスは並の政治家ではないな。さすがに無数の世界が集まれば、この私が従ってもいいと思うような人物もいるということか」
 あるとき海江田はクルー達にそう語った。
 「この発想が形を取り始めるのにはおそらくそう時間が掛からないだろう。3年以内には何らかの動きがあると思われる。我ら独立戦闘国家『やまと』は、来るべき時に設立される汎世界的防衛機構にこそ所属するのがふさわしい」
 だがさしもの海江田にとっても、ゾーンダイクの持つ海中戦力の強さは想像を絶していた。ただ一度の遭遇で、『やまと』はまもなく沈もうとしている。最新型、また相打ちとはいえ通常の潜水艦一隻でムスカ級を撃破したということが『奇跡』だと言うことにも気づかぬまま。
 だが、物語の神は、まだ彼が舞台から降りることを許しはしなかった。
 「探針音! これは……モールス符号です!」
 「報告せよ!」
 聴音手の叫びは、艦内に一条の光を呼び込んだ。
 「タ……ダ……チ……ニ……キ……ュ……ウ……ジ……ョ……ス……ミ……ス……リ……ル……」
 救助、が確認できたとき、一同は自分たちが生き延びたことを確信した。
 そして数時間後、今度は開いた口がふさがらなくなった。
 海江田ですら、思わず目をしばたいている。
 「初めまして、海江田艦長ですね。私が『トゥアハー・デ・ダナン』艦長、テレサ・テスタロッサです」
 銀髪の小さな女神が、にっこりと微笑んでいた。
 「ドキュメント・『沈黙の艦隊』」という日本語の表紙の本を小脇に抱えて。






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