一台のパトカーが、Gアイランド内を走っていた。一見ただの高速型のパトカーだが、その正体はGGGが誇る勇者の一人、隠密作戦・電子戦を得意とするボルフォッグである。
 以前は無人のまま自動走行していたのだが、「謎の暴走車」「白昼の怪」などと騒がれてしまったため、今では出来る限り運転席に警官の姿をホログラフで表示させるようにしている。停車していなければ、たいていの人はそれが映像だと気が付いたりはしない。よく見ると運転していないのがバレバレなのであるが(笑)。
 ボルフォッグは、護少年を迎えに行くために市街地を疾走していた。青海の騒ぎが注目されているせいか、Gアイランド内にも、人の姿が極度に少ない。危険だからと言うより、テレビから目が離せないせいであろう。
 大した時間もかからないうちに、ボルフォッグは護の家に到着していた。
 なお、以前の世界と違い、こちらではすでに護の力と使命に関して、両親との間に説明と合意が為されていた。
 それは次のような理由と事情からであった。
 一つは世界環境の激変のため、彼の力を隠しておく訳にはいかなかったこと。
 二つには加治首相の方針である、『未成年者を戦場には出来るだけ引き出さない』という意向のため、代替手段のない護少年の力を借りるには、両親にも筋を通しておかねばならなかったこと。
 そして、実は両親の方にもいくつかの変化があった。一つはGGGの隠れ蓑としての役割も果たしていた宇宙開発公団が、この時空融合に対応するため、技術の見直しや計画の変更(相剋界やナデシコの存在もあり、スペースシャトル形式の宇宙往還機はほぼ意味が無くなっている)に対応するため大幅な組織改編が必要となったことである。大河長官その他も、以前は秘密裏にされていたGGG長官としての任務を公にしており、当然それは研究者であった護の父にも及んだ。別に宇宙開発公団がGGGに取り込まれたというわけではないが、意識に変化を及ぼすには十分すぎるくらいの影響があったといえよう。
 ちなみに今彼はSCEBAIその他と共同で、ナデシコ型重力制御装置のマイナーダウンを研究している。
 そして実はこれが一番大きかったのであるが、相剋界の存在によって、逆に護は何があろうとも宇宙からの迎えによって連れ去られる心配がなくなっていた。たとえギャレオンが護を連れ去ったとしても、地球から出て行くことは不可能なのだ。誰も言葉にはしなかったが、特にお母さんがすんなり納得できたのは、このためと言ってもよい。
 それ故に、今ではこんな光景も見られた。
 時刻は護が連絡をいれる前である。



 「あ……」
 テレビの中継で凱の様子を逐一眺めていた護は、突如『それ』を感じた。
 先の加治首相の方針もあり、ゾンダーの件で彼の力を必要としない限り、GGGが出動しても護にお呼びがかかることは当然ない。勇者ロボの元に遊びに行くことは出来たが、出動には立ち会えなくなっていた。まあ当然ではあるが。
 だが、どうやら今回は違ったようだ。
 「あら? 護ちゃん、どうしたの……まあ」
 お母さんがちょっとびっくりしたような顔で護を見る。護の髪が、ほんのりと緑に輝き、逆立っていたからだ。
 「ゾンダー……とは、ちょっと違うみたい。でも、凄くよく似ている……コロッケとメンチカツくらい」
 今夜の天海家、夕食のおかずはコロッケだった。
 「あら、メンチカツの方がよかった? ならそう言ってくれればよかったのに」
 護は思わずこけた。だが『反応』は、集中力が乱れたにもかかわらず、ますます強くなる。
 「ママ、そういう意味じゃないんじゃないかな……」
 お父さんもちょっとあきれていた。気を取り直して、護の方を向く。
 「行くんだな、護」
 「うん、電話してくる」
 そして今では堂々と、直通回線の番号をコールする。
 返事はすぐに来た。
 「ボルフォッグが迎えに来るって」



 そして天海家の玄関で、護を見送る両親。
 「行ってきます!」
 「怪我しないようにね。ボルフォッグさん、護ちゃんをよろしく」
 『お任せください』
 氷竜達よりやや反響の多い声が車から響く。
 そして少年を乗せた車は、パトライトを点灯させながら、高速湾岸線の入り口へ向けて疾走していった。




裏側の勇者達

エピソード:4


神威の拳


O−part




 青海の戦場は、奇妙な雰囲気に包まれていた。
 超竜神とギャレオンに押さえつけられながらも、激しく暴れて抵抗するベヘモス怪獣、それを攻める宗介のアーバレストと慶一郎や格闘家、そして『勇者』獅子王凱。だがそこに、今新たな敵が乱入してきていた。
 ゾンダリアン四天王のうちの二人、プリマーダとピッツァ。
 慶一郎はその二人から、異様な気配を感じていた。
 (あいつら……何故だ、昔、あいつらと同じ気配を持っていた奴に会ったことがある気がする……)
 同じ事は、実は草g静馬も感じていた。
 (なんかあの鳥みたいな兄ちゃん、刹羅の奴に似ているような気がすんなぁ)
 その気は<闇神威>と言われていることを、二人ともまだ知らなかった。
 京極家も当然今の時空に存在しているが、今回の大会も、刹羅が体調を崩したため参加してきたのは不動秋嵩だけだったので、静馬もそれを知る機会はなかった。
 慶一郎は、正確に相手の力量を読みとっていた。女の方は、強いがまだ対抗できないわけではない。だが、鳥男の方は……強かった。あの凱という男でも、太刀打ちできないと思われるほどに。
 自分でも単独では相手にしたくない。奴とやったら、全力の殺し合いだ。そこまで思考がいって、やっと慶一郎は、京極幻弥の事を思い出した。
 (ちっ……けどまずいな。今はこちらからも手を放せない)
 格闘家達の実力もものすごいとはいえ、数ある中では、やはり慶一郎の力が頭一つ上であった。ケン・マスターズとリョウ・サカザキがそれに続いている。
 今、こちらの手を抜くことも出来なかった。
 そして宗介もまた、手出しが出来なかった。アーバレストは、と言うかASは、ああいう敵を相手にするようには設計されていない。
 見守るしかなかった。
 幾人かの格闘家は、凱やさくらの手助けをしようとした。が、それが間に合わないうちに、戦いは始まってしまっていた。
 気を使う格闘家ですら、うかつに手を出せない戦いが。



 「ぐあっ」
 「遅いぞ! 勇者とやら!」
 凱はピッツァの機動力に翻弄されていた。今の自分の戦闘力では、大空を自由に飛翔するピッツァを捕らえきれていなかった。
 「仕方がないか……いくぞ!」
 凱は最後の切り札を起動させた。凱の全身のリミッターが外れていく。
 「ハイパーモード!」
 爆発的な力が凱の全身を金色に染めていた。



 「くそっ!」
 「ほらほらお嬢さん、どうしたの?」
 一方春日野さくらは、プリマーダに奪い取られた封魔石を取り戻そうとしていたが、どうしても彼女に攻撃が当たらない。相手はふらふらと踊っているのにもかかわらずである。
 こんなやりにくい相手は始めてであった。さくらの額から、汗が流れる。
 しばらくそのままの状態が続いていたが、やがてプリマーダがけだるそうに言った。
 「残念だけど期待はずれね。そろそろあなたのお相手も飽きましたわ」
 その言葉と共に、プリマーダの動きが柔から剛に切り変わった。だがさくらは対応できない。その一瞬、かつて二つの動きを極めた、ある暗殺拳の使い手のことを思い出したのだが、一手遅れてしまった。
 (しまった! 彼女の動き、一見違って見えるけど、よく考えると元さんの動きに似ていたじゃない!)
 悪ふざけというか、こちらをからかっていると思われた、ふらふらとした踊りにも似た動作こそが、実は高度に制御された戦いの動きであることに、さくらはやっと気が付いたのだ。
 (ごめん! みんな!)
 何とか自分の全身に防御の気を巡らせる。技そのものはよけられなくても、それによる衝撃を殺すことは出来る。
 だが、その一撃は来なかった。
 さくらも一瞬気が付かなかった。
 「油断大敵、ですことよ」
 プリマーダが動きを切り替えたその一瞬。まさにその一瞬の隙を、その人物は狙っていた。
 柔らかい水が、固い氷に変わる一瞬を。
 「かりんさん!」
 「全く情けないですわ。我が終生のライバルが、この程度の敵に後れを取るとは」
 巨大財閥の総帥にして、空前の実力を持つ格闘家、神月かりんは、プリマーダの体を巧みに拘束していた。



 「人間にしてはなかなかなりますわね」
 捕らえられたプリマーダではあるが、口調には余裕があった。
 「減らず口もそれくらいにしておきなさい」
 かりんは気にもとめずに、完全に決めた関節を容赦なく折りにいく。
 だがその途中で顔色が変わった。折れるはずの関節が、びくともしない。
 「無駄ですわよ、非力なお嬢さん」
 見た目は美女でもさすがはゾンダリアン、完璧に決まった関節技を、桁違いのパワーとタフネスで、強引に振り払った。かりんの体全体があっさりと宙に舞う。
 吹き飛ばされたかりんはきちんと受け身を取って事なきを得たものの、思わず呆然としてしまった。そこにプリマーダが余裕を持って説明する。
 「関節構造の脆弱さを突く形で四肢を拘束する……面白い技術だけど、残念ながらその程度の力では、脆弱な方向に力をかけたところで、私を破壊など出来ませんわ、ほほほほほ」
 「くっ、神月の人間としては恥ずかしい失態ですね……」
 相手の力量を見違えると言うことは、神月の人間にとってはまがう事なき失策であり、屈辱である。特に、対戦相手ではなく、敵を前にした時は。
 だがこれは仕方がなかろう。長い歴史の中でも、未だ異星人と格闘した記録を残した人間はいない。ましてや自分の時空以外のとなれば何をいわんやである。
 「さくらさん」
 かりんは自分の隣に立つ、友にしてライバルに声をかけた。
 「どうやら彼女を倒すには、私が押さえてあなたがとどめを刺すしかありませんわ。私の『気』では、まだ彼女に有効打を与えるだけの鍛錬が足りていませんし」
 「わかった。でもね、どっちかって言うと、倒すより彼女の持っているあの青い石を奪う方が大事だよ。彼女、あれを取りに来たみたいだし」
 「なるほど……敵の欲することを妨害せよ、ですわね」
 そしてかりんとさくらは、改めてプリマーダに向かい合った。



 そして、凱の方は。
 「ぐはっ!」
 「うぉっ!」
 互いにカウンターに決まった一撃を受けて、二人はのけぞった。
 ハイパー化によって凱の運動能力はピッツァよりやや上のレベルになったが、相手には自在に飛翔できるという強みがある。
 何とか捕まえたい凱であったが、ピッツァもそれを許さない。
 今この二人のあいだに割って入れるのは、多分慶一郎だけだったであろう。
 ……いや。
 もう一人、存在していた。
 何度目かの攻防の後、凱ががっくりと膝を付いた。
 「むっ……そうか、その強化、時間制限があったな?」
 ピッツァは自分の打撃によって凱が膝を付いたのではないことを、正確に見取っていた。
 金色の光が、ゆっくりと収まっていく。
 「悪いな勇者……その命、戴く!」
 とどめの一撃を、ピッツァは繰り出した。
 だが、それが命中する寸前、横合いからすさまじい一撃をピッツァは受けた。
 「ぐはっ! 何者!」
 これ以上ないタイミングで、顔面にカウンターの肘を入れられたピッツァは、顔を押さえながらそちらを見た。
 「……とどめを刺そうとして驕ったな、戦士よ」
 そこに立つのは、帷子を編み込んだ、真紅の胴着を着た男。
 「あなたは……」
 何とか立ち上がった凱に、男は言った。
 「我もまた、形は違えど汝と同じさだめを持つもの。鋼の意志を持って、悪しき者を屠るもの。そして、武神の名を継ぐもの」
 「武神……」
 「然り」
 男はうなずき、油断なくピッツァを見定めながら言葉を続けた。
 「こちらの世に来て一年余り、我は姿、形、敵は違えど、我と同じさだめを受け継ぐ者の存在を知った……いわば魂の兄弟とも言うべき存在を。汝もまた、その一人」
 「あなたの言うことはわからないが、これだけはわかる」
 凱も自らの足で立ち上がって答える。
 「あなたもまた……悪を憎む心を持っているんだな。ならあなたも『勇者』だ!」
 しかし男はそれを否定する。
 「『勇者』とは、守るべき正義と、守るべき者を持った者にのみ与えられる称号なり。守るべき者も正義も未だ持たぬ我は、勇者にはあらず、ただの『もののふ』なり」
 そして男は動いた。体勢を立て直したピッツァに、怒濤のような攻撃をかける。
 ピッツァとて負けてはいない。すべての攻撃を捌く。
 「人間にしてはやるが、所詮はそれまで!」
 相手の攻め手が切れたところに、反撃の一撃を打ち込むピッツァ。しかし眼前の男は、腹にいいのを一撃もらいながらも、にやりと笑った。
 「戦士……汝の敵は……強大だが、単一の敵だったようだな。それでは我には……『武神流』には勝てぬ」
 「なにっ! どういう……」
 ピッツァはそれを問うことは出来なかった。
 「お前の敵は一人じゃないんだぜ!」
 ハイパーモードの反動で全身の力を使い果たしていた凱の、最後の一撃がピッツァに決まっていた。
 「そういうことだ。武神流は、常に『多対一』の戦いを念頭に置く。汝の戦い方には、多数の敵を相手にする経験が不足していた」
 「覚えておこう……だが!」
 傷つきながらも、ピッツァは立ち上がった。
 「むっ……やるな」
 「我が闘志は、その程度では挫けん!」
 もはや飛翔する力すら失った戦士であったが、その瞳から、光は失われていなかった。



 「なんという……!」
 プリマーダも驚いていた。一人が二人になったところで、何が出来る、そう高を括っていた。
 だが、二人が組んだことによって、その戦闘力は2倍どころか、4倍、いや、8倍以上になっていた。
 踊るような自分の動きにも、かりんは惑わされない。的確に動きを合わせ、こちらの動きを巧みに妨害する。そしてふと気が付くと、いつの間にか自分は、逃れられない一点に誘導されている。
 そしてそこにたたき込まれるさくらの豪拳。ゾンダリアンである自分にすら痛撃を与える拳。
 プリマーダがそのことを自覚した時には、すでにかなりのダメージを受けていた。全力で戦えば何とかなる相手であったが、彼女の手には封魔石が収まっている。これを手放すことは出来ない。
 さしもの彼女も、焦りを感じていた。
 だが、ここで思わぬ水が入った。
 二つの外的要因によって。



 「これで……ラストだ!」
 ゾンダリアン達との死闘と同時に、ベヘモスに対する攻撃も続いていた。
 白い機動兵器……アーバレストから放たれた正拳の一撃が、ベヘモス魔獣の肉体の奥深くに潜り込む。そしてそこから引き抜かれる、今までのものより一回り大きい封魔石。
 それが抜き取られた瞬間、巨獣は苦悶するように震えた後、みるみるうちに崩れ落ちていった。肉になっていた身体が、再び金属片と化していく。そしてコックピットの部位からは、青ざめた顔をした少年が現れていた。
 そしてもう一つ。
 「凱兄ちゃん!」
 背中から緑に輝く光の羽を生やした少年が、凱の元へと飛んできた。
 「護!」
 凱の声にも、喜びの響きがともる。
 そして、ゾンダリアンの側でも。
 「ここは撤退しますよ、プリマーダ、ピッツァ」
 二人の背後に現れる、パイプを手にした老紳士。
 「ポロネズ! 私は、まだ」
 「彼の少年が出てきた以上は、こちらの方が不利です」
 「……やむを得んか」
 その言葉に、ピッツァも、渋々と言った感じでうなずいた。
 「サイボーグ、そして赤い胴着の男! 名を聞いておこう!」
 その問いに、凱は胸を張って答える。
 「俺は凱、獅子王凱だ!」
 そして胴着の男も。
 「我も又、『ガイ』という。『武神流』のガイと覚えていただきたい」
 そしてポロネズは言った。
 「この場は引きましょう。皆様の健闘に敬意を表して。その前に……ペンチノン、いつまで遊んでいるのですか
 思わずその場にいた人間が、突如語調を強めたポロネズに注目した瞬間であった。
 いつの間にか姿を現した、道化じみた水兵服の小男が、その姿からは想像も付かない素早さで、アーバレストが引き抜いた特大の封魔石をその手の中から奪い取っていた。
 「遊ンでいタわケジゃなイ。ちゃンスをうカがっていタんダ」
 その言葉とともに、ポロネズの隣に並ぶ。
 「しまった!」
 宗介がそう叫んだ時はもう遅かった。ゾンダリアンの姿は、そのままずぶずぶと、地面に同化するように消えてしまっていた。
 大小二つの封魔石と共に。
 慶一郎達が駆けつけた時は、後の祭りであった。







 「逃げられたか……まあ、仕方ないか」
 慶一郎はそうつぶやくと、もっと大事な仕事に取りかかることにした。
 協力してくれたみんなから、封魔石を預かって地面に並べる。その数合計10個。
 そして宙に浮いている護に声をかけた。
 「君が緑の妖精か!」
 護はいきなり妖精などと言われてびっくりしたが、今の自分の姿を思って苦笑する。
 「僕は妖精じゃないけど、まあそうみえるかも。用事はそれのことでしょ?」
 護にはそれが、ゾンダー核とよく似たものなのに気が付いていた。
 そして自分には、それを『浄解』出来ることも。
 「これは、今は何ともないが、放っておくと危険な物なんだ。君ならこれを安全に処理できると、ある人から教えてもらった! 出来るか!」
 「出来るよ」
 慶一郎の質問に、護ははっきりと答えた。それと同時に、後を追ってきたボルフォッグも言った。
 「今本部から連絡が。サンプルとして1つだけ残して置いてほしいそうです」
 慶一郎は不安にはなったが、とりあえずよしとすることにした。封魔石の一つを、護に手渡す。護はそれを、ボルフォッグの車内にしまった。
 そのやりとりを見て、慶一郎は思う。
 (あの少年とGGGの彼らは知り合いっぽいしな。まあ、いざとなったら彼らが何とかするだろう)
 そして護は、皆の見守る中、浄解を始めた。

     

 護の指から発せられた緑の光が封魔石に触れると、封魔石はきらきらと輝く光になって分解されていく。
 「ほお〜、こりゃ凄い」
 感心したようにうなずく慶一郎。
 そこに、何ともすまなそうな声が、上から降ってきた。
 「あの、申し訳ないが……」
 超竜神の声であった。
 「そこの白い機動兵器の方と、隊長を助けてくださった方、申し訳ないけれども、GGGまでご同行願えないか、とのことです」
 その声が、本当に申し訳なさそうだったので、慶一郎は思いっきり吹き出していた。
 「……めんどくさいが、まあこれだけ騒ぎになっちまったんだ。いいぜ、つきあってやるよ。そうそう、一つ聞いていいか?」
 「答えられることなら」
 超竜神は真面目に答える。
 「そこの緑の妖精、あんた達の仲間か?」
 「はい。素性その他はお教えできませんが」
 「いや、仲間だってわかればいいんだ」
 おそらくこの先も、大体1、2ヶ月に一度くらいの割合で封魔柱が降ってくることは間違いない。となると、又核の処理に彼の手を借りなければならなくなるのだ。
 「……妥協、しなけりゃならんだろうな。まあ、仕方ないか」
 世間の法律などは気にしない慶一郎は、それだけに約束を重んじる。レイハへの恩に報いるためならば、そのくらいの妥協は出来る。
 それこそが、慶一郎が慶一郎らしくいるための、己に課した掟なのだから。
 「ご案内します」
 音もなく開いたボルフォッグの車内に、慶一郎はためらうことなく乗り込んだ。






 「はあ〜、何とかなったね」
 上空で経緯を見ていた木之本さくらは溜息をついた。
 と、そこに電話がかかってきた。
 「あ、知世ちゃん、どうしたの?」
 『お疲れ様でした、さくらちゃん。ばっちりとさくらちゃんの勇姿は望遠レンズでビデオに収めさせていただきましたわ』
 「ひょえ〜……(^^;)
 相変わらずの知世に、苦笑いするさくらであった。
 『で、大事なお話なんですけど』
 「なに?」
 一転して真面目になった知世の声に、さくらも真面目になる。
 『多分新聞社さんやテレビ局さんにも、さくらちゃんの勇姿が取られちゃっていると思うんですの。生中継の分は仕方がないとしても、記録に残っていると、この先さくらちゃんのことを探ろうとする人がいっぱい来るかも知れませんわ』
 「変装していても?」
 一応今回のコスチュームも、覆面を付けている。
 『ええ、さすがにきちんと記録を取った上で調べられたら、隠しきれないかも知れませんわ。そこでですね、私の分を除いて、さくらちゃんの写真や何かの記録は、消してしまった方がいいと思いますの。できますかしら』
 「う〜ん」
 他人を助けるためならいくらでも知恵が出てくるさくらも、こういう問題にはすぐに答えが出てこない。
 と、脇から的確なアドバイスが飛んできた。
 「主よ、それなら『消』と『盾』を使えばいい」
 「あ、『月』さん、そうなの?」
 「『消』はそういう物も消せるんやけど、今のさくらじゃまだ知世の物だけ消さずにおくっていう微妙なコントロールは難しいさかいな」
 ケルベロスに突っ込まれて、さくらはちょっとふくれた。
 「ケロちゃん、あたしそんなに不器用?」
 「主、保険だと思えばいい」
 「……それもそうか」
 月にたしなめられて、さくらも納得した。
 「やり方はわかるか、主」
 「何となくだけど。やってみる」
 そしてさくらは2枚のカードを取り出した。
 「我が友、大道寺知世の持つ我の記録を、我が魔力の干渉より守り賜え、『盾(シールド!)』」
 「我が姿よ、我を写せし記録より消えよ! 『消(イレイズ)!』」
 続けざまに放たれる魔力。
 「お見事、主」
 月はきちんと正解を出した主を褒め称えた。
 それでもさくらは知世に連絡をする。
 「知世ちゃん、ビデオ消えてないよね」
 『大丈夫ですけど』
 「うん、ならいいの」
 結果、この呪文によって、近隣のカメラやビデオの中から、さくらの映像だけがものの見事に消え失せてしまった。生き残ったのは、生中継の様子を、地方で録画していた分のものだけだったのである。
 なお、この干渉は、思わぬ所にまで及んでいた。
 大神の難を乗り切った霊力・魔力記録器機も、このだめ押しによって完膚無きまでにデータを消去されてしまったのだ。
 それを知った鷲羽ちゃんの怒りと落ち込みは、天地を貫くほどになったという。



 それでも、こうして長い5月5日の乱は、無事に終息したのであった。







 ……数々の余波と問題を残しながらも。






日本連合 連合議会


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