「ひっさびさのお呼びね!」
 「アスカ……よくそんな気になれるね」
 シンジはあきれていたが、アスカは気にも掛けていなかった。
 「何言ってるのよシンジ、あたし達がこうやってのんびり学生やっていられるのは、エヴァのパイロットだからじゃない! そりゃあたし達の出番がない方がいいって事は認めるわよ……けどね、必要なときに必要な力を振るって、何が悪いのよ!」
 「アスカ……」
 ちょっと心配そうになるシンジ。と、その隣でぼそぼそとした声が聞こえてきた。
 「心配する事はないわ……休み前のテストが赤点すれすれで、鬱憤がたまっているだけだから」
 「ぬぁんですって〜〜〜〜っ!!」
 大噴火するアスカであったが、レイは素知らぬ顔でドラゴンたちをなでている。
 一回り大きくなった彼ら達だが、シンジは少し不安に思っている事がある。
 (かわいいんだけど……どこまで大きくなるのかなあ)
 幸い自分たちなら、彼らが巨大になっても飼っている事は可能だろうが、問題がない訳ではない。
 もしエヴァ並みに大きくなったりでもしたら、さすがに手元には置けなくなる。そしてドラゴンというのは、えてしてそういうものなのだ。



 「すまんなシンジ君」
 SCEBAIに着いたシンジ達は、状況の説明のため、中央司令室に案内された。この一年、エリアルのサポートだけでなく、各種特機の研究や改造、またいざというときの司令塔として、あくまでも一研究所であったSCEBAIも、今やちょっとした(いや、かなり強大な)軍事基地的な側面も持つようになっている。
 岸田博士は、そこで簡単に事情を説明した。
 「お休みの所をすまないな。ニュースは見ていたかね?」
 「ええ」
 代表してシンジが答える。
 「青海に出現した怪ロボットは全長約五〇メートル、エヴァよりも巨大だ。そして何より驚異なのは、ATフィールドほどではないものの、それと同質のバリアを備えているという事なのだ」
 「ええっ!」
 アスカは本気でびっくりした。
 「どうやって? ATフィールドの解析って、まだ全然進んでいないんでしょう?」
 「まだの筈」
 レイは、エヴァ同様にATフィールドを形成できる。エヴァは定期点検以外で活性化させるわけにはいかないため、かわりに研究者から協力を求められていたので、この手の話もよく知っていた。
 「私がフィールドを『生みだそう』とする意識を再現できれば、ATフィールドを機械的に制御できるはず……でも、まだ成功はしていない」
 「天本もいろいろやっとるがの」
 岸田博士は、友の顔を思い浮かべながら、そうつぶやいた。
 去年暮れの改造人間事件の時、彼が別世界において、犯罪組織で人体改造を担当していた天才科学者にそっくりだった事がわかり、その後の調査からも、その人物……死神博士が天本博士の同位存在……平行世界の同一人物であることはほぼ確実だと見られている。
 ちなみに彼はそれを聞かされたとき、うかつにもこう口走ったそうである。
 「ええい、うらやましい」と。
 それはさておき。
 「今連合政府でもいろいろと手を打っているが、相手のバリアはATフィールドに似た特性を持っているため、通常兵器の攻撃が、ほとんど意味をなしていない。いよいよ打つ手がなくなった場合、最後の手段としてエヴァンゲリオンが投入される事になる……出来ればそこまではしたくないというのが、加治首相を初めとする中央の意見じゃがな。だからすぐに出動というわけじゃない。しばらくはここで様子を見守りながら、いざというときに備えていてくれたまえ。なんなら宿題でも手伝ってもらうか? アスカ君、確か歴史が赤点ぎりぎりじゃったとおもったが。お〜い、部下A……」
 「余計なお世話よっ!」ガスッ
 ほかは文句なく優秀なのに、歴史だけは苦手なアスカである。
 岸田教授は、そんなアスカの逆鱗に触れてしまったのだ。
 もっともそのアスカも、中間テスト後に、ふとした過ちが元で、生涯日本の歴史には苦しめられる事になるとは、とうてい想像の埒外にあった。



 「あーあー、博士も一言多いんだから」
 「……バカ」








裏側の勇者達

エピソード:4


神威の拳


L−part






 さて、そのころの有明。
 「みんな、悪いね。今日のショーは延期だよ」
 巴里自治区、シャノワール地下。
 巴里華撃団の作戦司令室である。
 そこに全部で6+3人と1匹の人物(?)がいた。
 引っ越しに伴って多少改造されたが、見た目はほぼ元のままだ。
 細長い円筒形の椅子に座る隊員達を前にして、グラン・マは今の事態と、政府からの要請を伝えた。
 「今青海で暴れている巨大メカだけどね、どうやらあいつは、霊的な防御力を保持しているらしい」
 「……乗り手が我々のような霊能力を保持していると?」
 グリシーヌが画面を見ながら聞く。
 「その辺はまだわからないらしいね」
 グラン・マも画面を見つめながら言う。画面の中では、二回り小さい赤と青、そして鋼色の人型ロボットが必死になって暴れる敵ロボットの動きを牽制していた。
 その甲斐はあって、ロボットは出現地点からほとんど動いていない。
 「ただね、そのせいで見ての通り、普通の攻撃はまるで通らないらしい。が、同時期に格闘大会の会場を襲った人型兵器は、ある種の霊力を帯びた攻撃で傷ついたらしいから、あたし達なら、あの守りを突破できるんじゃないかと期待されているみたいだね」
 「しかし……光武とあの敵では、大きさが違いすぎます」
 華撃団隊長、大神一郎は、ある意味当然とも言える意見を述べた。
 「ま、そりゃ当然だね」
 しかしグラン・マは、気にせずに言葉を続けた。
 「日本政府だって、あたし達にあれが倒せるなんて、思っちゃいないだろう。ただ、今はとにかく、あのバリアを何とかしたいらしい。何でもあいつは、あのバリアが維持できなくなれば、倒すまでもなく勝手に自壊しちまうらしい……だから、とにかくあいつのバリアに負荷を与えてもらいたいんだって、あの、なんて言ったっけ? アルシュ、じゃなくって」
 「鷲羽ですか?」
 「そうそう、鷲羽」
 大神に言われて、ぽんと手を打つグラン・マ。
 「日本語は自在になっても、日本人の名前は覚えにくくてねぇ……ともかく、鷲羽博士に言わせるとそういう事らしいんだよね。だから無理はしなくていい。やられないように気を付けながら、出来るだけ霊力を帯びた攻撃……必殺攻撃を中心にたたき込むようにするんだ。間合いの狭いムッシュやロベリアは特に用心して」
 「へっ、あんなウスノロにやられるほど抜けちゃいないさ」
 「ま、あんた達なら平気だと思うけどね。出動準備は出来ている。ムッシュ、あんたは覚えてなくても、この子達はあんたの指揮の下、半年にわたって厳しい戦いをくぐり抜けてきている。帝撃でやっていたようにやってくれれば、きちんと合わせられるから、遠慮なくこき使ってあげな」
 「わかりました」
 大神は力強く答えると、5人の乙女達のほうを振り返った。
 まだ見知らぬ顔だ。だが、その5人から、はっきりと自分を『信頼』する気配を感じて、大神の心は奮い立った。
 (人々の信頼がある限り、あなたは無敵です)
 2度の訪問で知り合った、妙神山の主、小竜姫の言葉を、改めて胸に刻む。
 「みんな、行くぞ! 帝……巴里華撃団、出動!」
 「「「「「了解!」」」」」
 5人の乙女が、綺麗に唱和した。







 「これはかなりの機体だな」
 実戦初登場となった光武F2の手応えを、大神は全身で噛みしめていた。
 「そうだろう隊長、帝撃の光武にも引けを取らないと思うが」
 グリシーヌからそういわれ、大神も頷く。
 「感じからすると、光武の操作性と神武のパワーを併せ持っているみたいだな。今帝撃にある光武より、遙かに高性能だ」
 「でも、あっちは近々新型になるんですよね」
 「こら、いちいちうらやましがるな、エリカ」
 帝撃団員の修行に合わせて、光武の改修が行われる事になっていた。霊力工学の研究が進んだ事により、電子工学と光武の融合が可能になったためである。
 「ほんまはこっちに行きたいんやけどな」とは紅蘭の言である。
 この1ヶ月の間に、フレームを初めとする大規模な改修を行い、彼らが修行から帰ってくる1ヶ月後よりあとは、調整をしながら仕上げていく予定になっている。
 「計算によれば、この改修で、ほぼこの光武F2と同程度の基本性能になるらしいね。だからって訳じゃないけど、名前も『光武弐式』になるそうだ」
 「おそろいですね」
 「エリカ、無駄口はここまでだ。もうすぐ現場に着くぞ」
 「ええ、もう?」
 「目と鼻の先だろうが! 最初から」
 二人のやりとりを聞いていたほかの隊員から、思わず声が漏れた。
 「まだ歓迎会の時のノリが残ってるね、二人とも」
 「同感だ、コクリコ」
 「……(こくり)」







 「巴里華撃団、参上!」

 「おう、援軍か!」



 慶一郎と宗介が様子をうかがっていた戦場に、また新たな部隊が出撃していた。
 「今度の部隊は小型装甲兵か。逐次投入は戦術的に誤っているぞ」
 「無理を言うな……あれは帝国華撃団の『光武』か? にしてはなんか『パリ』って名乗っていたみたいだったが」
 「部隊名だろう」
 細かい事は気にしない宗介であった。
 「しかし……なんでいかにも場違いな部隊が出てきたんだ?」
 疑問に思う慶一郎であったが、すぐにそれは氷解した。
 小さいながらも、彼らからはまるで『神威の拳』を使用しているかのような攻撃が、次々と炸裂したからである。しかもその攻撃は、微弱ながらも、確実に相手のバリアを貫通しているのだ。
 「なるほど……さすがは音に聞こえた特殊部隊。こういう理由だったのか」
 帝撃が特殊部隊として帝都区にあるのは有名であったが、その力の源が『霊力』なのはあまり大っぴらにされていない。今では正式に機密指定されている。
 だが、慶一郎の目には明らかであった。彼の目には、光武の機体が纏っている<神気>が見えている。

 光武に使用されているシルスウス鋼は、電気に対する銅のように、霊力に対して高い伝導性があり、有害な霊力の遮蔽や、自身の霊力の蓄積を可能としている。そのため、霊力の可視性が高い今の世界では、活動中の光武はうっすらと光って見える。
 ましてや神威の拳に熟達してた慶一郎には、彼らの霊力を<神気>として捕らえるなど、造作もない事であった。
 (大正期のポンコツのはずなのに、やたらに強いと思ってたら、そういうわけだったとはな)
 ふと慶一郎は、年度初めに校長が言っていた事を思い出していた。
 (ひょっとして俺や草g、それに美雪ちゃん達が目を付けられているって言う理由……これか?)
 彼はその答えを知らなかったが、実は大当たりであった。







 「おう、こりゃあありがたいぜ!」
 「こら、油断するな、炎竜」
 華撃団との連携によって、今まで全く無傷だった相手に、ほんの少しずつであったが、有効打が入り始めた。そして、戦いの中、相手のバリアの特性が、やはり少しずつであるが、見え始めていた。
 「どうやらこのバリア、完全に『自動』じゃないみたいだな」
 「ああ、ガードを『固める』っていう意識によって、強度が変わるみたいだ」
 「なら、やりようはあるぞ、二人とも!」
 そう、手数が増えた事により、さしものベヘモスも、全体的にわたって均一なバリアを維持する事が困難になっていた。
 特に巴里華撃団の放つ攻撃は、鉄壁を誇ったベヘモスの『障壁』を、易々と貫いてしまうのである。残念ながらその下の装甲も大変に厚いため、サイズの差がネックになってそれほど有効とはならない。だが、そのために乱れたバリアの隙間を縫って、凱や氷竜、炎竜の攻撃が、十発に一発とは言え、当たり始めたのである。
 「たとえ俺たちの攻撃をすべて阻むとも、勇気を持ってそれを貫いてやる!」
 また一撃、凱の攻撃が『障壁』を突き破る。ダメージはわずかであったが、決して0ではないのだ。
 だが、相手だとて、それを看過していたわけではなかったのである。



 『嫌だ、嫌だ、嫌だ……お前達、みんな、潰してやるうっっっっ!』



 ベヘモスのコックピットでは、『タクマ』……こちらの世界では、ややシスコン気味の、平凡な少年に過ぎなかった彼は、シャフトエンタープライズの『影』によって拉致され、薬物を大量に投与されていた。
 それも、雑多なものを、あまりにも大量に。
 ある種の薬物が、『ラムダ・ドライバ』を起動するための精神波を活性化させる事は、宗介達の世界でも知られていた。もちろん、大変危険な麻薬である。それに加えて彼には、様々な世界からもたらされた、『サイキックウェーブ・ドラッグ』……人間を一時的に超人・超能力化させるタイプの薬物が無差別に投与されていた。
 結果、『ベヘモス』のラムダドライバは、常識はずれの出力で起動していた。
 ……タクマの命をむしばみながら。



 「うおっ!」
 「なにいっ……ぐはっ!」
 「氷竜、炎竜!」
 それは突然に起こった。氷竜と炎竜が、目に見えない『何か』にはじき飛ばされたのである。
 GGGチームは、一瞬、何が起こったのかが理解できなかった。センサーに映らない『何か』が、自分たちをはじき飛ばしたのだ。
 だが、巴里華撃団の隊員達には、そして、この戦いを見ていた慶一郎と宗介には、何が起こったのかがわかっていた。
 慶一郎や華撃団団員は『視る』事が出来たため。
 宗介は『知って』いたため。



 「まずいな」
 宗介がつぶやく。
 「タクマは……ラムダドライバを『攻撃的』に使う方法に気がついたらしい」
 「神飛拳によく似ているな……ますます、『ラムダドライバ』っていう奴が、機械の力で『神威の拳』を再現するシステムなのは間違いないな。全く、とんでもない世の中になったもんだ」
 そういう割には、どこか嬉しそうな慶一郎であった。
 「慶一郎殿……」
 と、どことなく浮かれる慶一郎に、宗介はただでさえ堅物な態度を、よりいっそう堅くして言った。
 「改めてお願いする。今回の事が終わったら、俺に『神威の拳』を伝授してほしい。どうやらあの技を学ぶのは、俺にとって、『有益』なのではなく、『必須』なことのようだ」
 慶一郎は、そんな宗介の頭を、ぽんぽんと軽く叩いた。
 「そんなに頑なになるな」
 「え……?」
 宗介は、慶一郎の言う事が理解できなかった。
 「『神威の拳』は、そんなに堅苦しいものじゃない。そういう態度だと、かえって習得に苦労する事になるぞ。風のように、火のように……ある意味、無責任な奴等が自分の思うがままに生きようとして身につける方がふさわしいような技だからな。何故か知らんが、この技はそういう部分において、自由奔放というか、いい加減な奴のほうが覚えるのが早い。これは俺の感覚だが、神威の拳の技は、『技』である前に、『表現』……とでも言うみたいな所があるんでな。まあ、俺も教師の癖して、うまく説明するのは苦手なんだが」
 「『技』である前に、『表現』みたいな……」
 その言葉が、宗介にある男の姿を思い起こさせた。
 ベルファンガン・クルーゾー中尉。
 『君の戦い方は“技(スキル)”であっても“芸(アート)”ではない』
 偶然か、必然か、慶一郎の言った言葉は、彼の言葉と、ぴたりと重なった。
 「ああ、中断しちまったが、草gとあの二階堂という男の戦いは見ただろう? それと、あの……なんだったっけ、あのデカブツ」
 「コダールか?」
 「そう、それ。あれに無茶な喧嘩をふっかけた、草gやケン・マスターズ達の姿を」
 慶一郎の顔には、何とも言えない、不敵な笑みが浮かんでいた。
 「みんな、楽しそうだっただろう……ただ敵を倒すだけじゃない。奴等は自分を誇っている。驕りではなく、自分の技と力を出し切る事を、心底からな。これは軍隊的な戦い方とは、真っ向から対立する考えだ。俺だってそのことは熟知しているし、お前さんもその口だろう。だがな、この二つは常に対立するものじゃあない。むしろ、相反するはずの二つを、一つに統合できる奴こそが、真の『強者』と言えるんじゃないかな。ただ勝つためだけの戦いは、ついには己をも殺してしまう。そこには、自分に対する自信……『誇り』がないからだ。誇りは『信念』から生まれる。それを無くした奴は……腐っちまうのさ。俺の一番嫌いなタイプの奴だ」
 「誇りと……信念」
 かつての宗介に、それはなかった。迷い、悩み、ベルファンガン中尉に叩きのめされた時や、はじめてアルコールに手を出した時には、それが信じられなくなっていた。
 でも、今の宗介には、それが理解できていた。
 あのときの、かなめとの再会の喜び。一年間の平穏。
 それが、宗介にとっては、またとない『糧』となっていた。
 それを貫き、護るためにも。
 自分は、あの技を身につける必要がある。理解する必要がある。
 そして宗介は、慶一郎を見た。
 この人物は、やはり自分より年上だという事が、よくわかった。
 「堅苦しいのは、治りそうもない。それでも良ければ、お願いする」
 「ははは、それだけ言えれば上等だ」
 慶一郎は、破顔一笑しながら、宗介に向き直った。
 「あとな、俺の事は南雲でいい。慶一郎でもな。殿、なんて付けられると、どうも落ち着かない」
 「そういうわけにはいかない」
 あくまでまじめに言う宗介。と、その時慶一郎の脳裏に、うまい言い方がひらめいた。
 「じゃあ南雲先生にしておけ。考えてみれば俺は教師でお前は生徒。ほかにどんな言い方がある」
 「……肯定だ。考えてみればその通りだ。それしかない」
 宗介も、生真面目な顔をして頷いた。







 一方、凱や華撃団側には、そんな余裕はなかった。
 「まずい、奴め、霊力の守りを、攻撃に転じてきたぞ!」
 「きゃああああ!」
 「危ない、コクリコ!」
 霊力攻撃は避けたものの、ベヘモスが暴れるせいで飛び散った瓦礫の一つが、コクリコの光武を直撃しそうになった。そのとたん、遙かに離れていたところにいたはずの大神の光武が、まるで瞬間移動でもしたかのように現れ、瓦礫をはじき飛ばす。
 「ありがとう……イチロー」
 「油断するな、攻撃はどこから来るかわからないぞ!」
 小竜姫によると、これもまた、大神の持つ特殊な霊力……共感と統合の作用だという。
 「危機によって、互いに高まった霊力が、瞬間的に空間を越えて同調し、防御フィールドを展開するんですね。合体攻撃の防御版です。ただ、無意識的に発動したりしたら大神さん自身が消耗し尽くしてしまいますので、やはり無意識レベルによってリミッターがかかっているみたいです。ですからある程度大神さん自身が、守りたいと思う相手に対して能動的に意識を向けていないと、この防御技は発動できませんよ。また、お互いの霊力や、危機の度合いにもよりますが、大体、1回の戦闘中だと、3回くらいが限界でしょうね。それ以上使用するのは、大神さんでも危険です。命に関わりますよ。ただし、そのことをふまえていれば、かなり有効なコンビネーションになりますね。3回限りとはいえ、あなた方が敵対するレベルの敵では、この防御を崩すのはまず無理だと思います。というか、この防御を崩せる敵と戦ったら、まあ帝撃、巴里、全員そろっていても瞬殺されてしまいます」
 これを聞いた大神は、戦闘中、やむを得ず突出、孤立する仲間に対して、適宜注意を払ってきた。
 今のが、その3回目であった。
 (もう、後がない、か……)
 大神自身が慣れていないため、完全なコンビネーションとは言えなかったが、巴里の隊員達は、巧みに大神に合わせる動きをしてくれた。こちらは知らなくても向こうは知っているというのは、確かなようだ。ただ、それだけに大神側も完璧であれば、攻撃はともかく、防御でこれほど苦戦する事はなかったであろう。乱暴に振るわれているだけの攻撃であったが、その有効範囲は広い。隊員達とのわずかなずれが生んだ隙にも、容赦なく潜り込んでくる。
 「だが、ここで引き下がるわけにはいかない!」
 自分で自分を鼓舞し、周辺の状況に気を配る。
 と、氷竜の放った一撃が、バリアをうまい事すり抜け、相手の足に命中した。ほんのわずかであるが、相手の体がかしぐ。
 (もう一息か! 一気に足を砕いて、動きを止める!)
 大神はそう判断して、隊員達に命令を伝える。
 「いまだ、あの足を落としきるぞ! 『火』作戦だ!」
 「「「「「了解!」」」」」
 大神の声に合わせ、元気よく乙女達の声が返る。
 必殺の気合を込めて、エリカのマシンガンが唸り、コクリコのマジックと花火の矢が宙を裂く。それに合わせて、グリシーヌの斧と、ロベリアの爪が、それぞれ水と炎の気を纏いながら、完璧なタイミングで振り下ろされる。
 5人の攻撃と霊力が、完璧なタイミングで、崩れた足へと命中した。
 「やったあっ!」
 「取ったか!」
 喜色に包まれる巴里華撃団。だが。
 「いかん、みんな!」
 一歩引いていた大神には見えていた。自分たちが大きな失敗をした事が。
 攻撃が命中する瞬間、ベヘモスの、足部の防御力が急上昇した。ベヘモスはダメージを負うと、反射的にその部分をかばおうとする。ある意味、人間の防御反応に酷似した挙動を示すのだ。
 狙うなら、むしろ背中とかを狙わねばならなかったのだ。
 完璧なはずの同時攻撃は、強大化したバリアによって、すべて阻まれていた。それどころか、敵の防衛反応か、強大な力を持った力場が、体勢の崩れた団員達に襲いかかる。
 「きゃあっ!」
 「しまった!」
 「イチロー!」
 「抜かった!」
 「大神さんっ!」
 五人の心の叫びが、同時に大神に突き刺さる。
 「みんなっ!」
 大神も心の底から叫ぶ。
 (たとえこの命尽きるとも、みんなを殺させはしないっ!)



 その瞬間、エリカ達は見た。
 攻撃が当たる一瞬、大神の光武F2が五体に分身して、それぞれをかばったのを。
 だが、次の瞬間、大神機は元通りの一体に戻った。
 そして大きくはじき飛ばされる。
 5体分のダメージが、すべて大神機に直撃していた。
 「大神さん!」
 「隊長!」
 「イチロー!」
 「隊長!」
 「大神さん!」
 5人の乙女の絶叫が、空間内にこだましていた。







 (う……ここは、俺は、一体……)
 大神は薄れゆく意識の中、自分が奇妙な場所に浮いているのに気がついた。
 (確か、みんなの危機に、とっさに五人ともかばおうとしちゃって……それで……)
 (全く同感だ)
 (ああ、さすがは『俺』だよ)
 どこかで聞いたような声がする。うっすらと目を開けた大神の目が、そのまま丸くなった。
 そこには大勢の人がいた。総勢26人。数えるまでもなく、即座に理解できた。
 なぜならそこにいたのは、13人の、彼が護り導くべき乙女達と、その脇に一人ずつ控える、13人の、『自分』だったのだから。
 (どういう事だ、これは……)
 (俺はお前だよ、『未だ定まらぬ大神一郎』)
 サクラ君の隣にいた大神が、そう言った。
 (より正確に言えば、『お前の未来の一つ』とも言えるか)
 (俺の、未来?)
 (そうだ)
 そして彼は驚くべき事を告げた。
 (ここにいるのは、みんなお前さ。誰が本物で誰が偽物とかいう事はない。この時空融合で一つになってしまった、お前の記憶だ)
 (俺の……記憶?)
 (そうだ)
 彼は言う。あまりにも信じられぬような事実を。
 (まあ、こんなもんが開けたのは、お前が無茶をやったおかげだけどな。俺たちはこの時空融合によってお前の中に統合・封印されていた、『未来の可能性』なんだよ)
 (なんだ、それは……)
 (まあ、俺以外にはそう起こる事じゃあないな。こっちに来て、小竜姫様も言っていただろう? 俺には並はずれた共感・統合の能力があるって)
 (ああ)
 (それがな、よりにもよって、時空融合の時点でも発動しちまってたんだよ。微妙に異なる歴史……違いは基本的にただ一点、お前、というか俺が、誰に心を引かれ、誰と心を結び合ったかだけが違う、それぞれの世界の俺を、未だ定まっていない、無垢のお前が統合してしまったんだ)
 (その数なんと13人分。つまりは、俺は原則として、帝国、巴里、どっちかの華撃団の誰かと、深い仲になる運命だったって言う事なんだろうな)
 (俺が……彼女たちの誰かと)
 (まあ、それでも所詮俺たちは、『選ばれなかったもの』だ。世界は可能性の広いお前を選択した。だが、どうもそれだけじゃやっていけないみたいだな)
 (特に巴里の5人に対する知識の欠落は、この先また危機を呼び込みかねん)
 エリカの脇にいた大神が言う。
 (確かに……俺が彼女たちの事をもっとよく知っていれば、今回だって、ここまで苦戦はしていなかったはずだ……彼女たちの力を以ってすれば)
 (そうだな、そこでだ。その穴を、俺たちが埋めてやる)
 (どういう事だ?)
 (この世の大神、俺たちを『統合』しろ)
 ロベリアの脇の大神が言う。
 (本来なら、まあ巴里の5人分で足りる筈なんだが、どうもそう言う器用な真似は出来ないらしい。やるんなら全員一度だ)
 (一時的に混乱するが、不要な知識や記憶は、多分すぐに薄れる。夢みたいなものだしな)
 (だが、その前にこれだけは覚えておけ。不要な記憶が薄れきるまでなら、お前は俺たちの記憶を受け継ぐ事により、一度だけ、『最終奥義』が使えるはずだ。13人の乙女達、そしてお前を信じる人たちの信頼が、究極点に達してはじめて使える、最強最大の必殺技が)
 (さあ、受け取れ、俺よ)
 (あり得た可能性……13の未来の絆を)
 そして13人の大神は、それぞれの乙女に別れを告げると、大神に触れた。
 (受け取れ、真なる『俺』よ!)
 その瞬間、大神の心は、白い光に満たされた。







 「隊長、しっかりしろ!」
 「大神さん!」
 「イチロー、目を覚まして!」
 ……幾多もの声に、大神は目を開いた。
 「みんな……俺は、大丈夫だ」
 そう、大神は無事だった。機体にも、何故か傷一つ見あたらない。
 「無理してあたしの邪魔はするんじゃないぜ、やばそうなら引っ込んでろ」
 「相変わらずだな、ロベリア」
 そのとたん、ロベリアのみならず、華撃団5人は全員自分の耳を疑った。
 「……大丈夫、イチロー」
 「夢を……見ていた気がするよ」
 戦闘中でなければ、全員が一斉に後ずさりしているところだ。
 「……おい、本当にやばくないか、隊長」
 「かもしれんな、ロベリア。最悪の事も考えておく必要があるな、このぶんだと」
 「心配するな、みんな」
 しかし大神は、ゆらゆらとしたおぼつかない動きで、ベヘモスの足下へと向かっていった。
 「大神さん、危ない!」
 「いいえ……大丈夫です」
 「……花火?」
 慌てて飛び出そうとするエリカを、花火が押さえていた。グリシーヌがいぶかしげにしながらも、親友のほうを見る。
 「あの動き……はじめてみましたが、おそらくは伝え聞く、二天一流が奥義の一つ、『弱法師(よろぼし)』の歩み……今の大神さんに、当たる攻撃はありません」
 「なんかふらふらしてるけど?」
 「でも……ご覧なさい、ほら」
 まるで風に舞う木の葉であった。霊力によるもののみならず、舞い散る瓦礫すらも、今の大神にはかすりもしない。
 「その夢の中では、俺は巴里で生活していた。みんなと共に、シゾーやレオン、ピトンにナーデル、コルボー・カルマール公爵と言った怪人を、力を合わせて撃退していった」
 「「「「「……!!」」」」」
 全員の息が止まりかけた。巴里で共に戦った事は告げたが、敵の事は、ただ『怪人達』としか言ってなかったのだ。
 「個々の力はあっても、チームワークが今ひとつ……それを教えてくれたのが、帝撃のみんなだったんだよな……」
 「大神さん……」
 エリカの声が震える。
 「ただ……こっから先は、さすがに夢だな。間違いなくオーク巨樹を倒した事はわかるんだけど、途中経過がめちゃくちゃだ。なんかグリシーヌに婿入りする事にしたような気もするし、ロベリアと将来を誓ったような気もするし……」
 「な……」
 「何言ってんだい、隊長!」
 グリシーヌとロベリアが、光武の中で真っ赤になっていた。
 「なんか知らないけど、みんなとやたらに仲が良くなった気もするんだ。夢だからかな。はは、俺も結構、いい加減な男だったみたいだ。君たちのみならず、帝撃のみんなとも、そう言う関係になっちゃっているような夢だったんだからな」
 「そ、それは……さすがに神様もお許しにならないと思います」
 「何寝ぼけた事言ってるのよエリカ、けどイチローもやっぱり男だったって言う事?」
 ボケたエリカも、突っ込んだコクリコも、無言の花火も、実は真っ赤っかだ。
 「面目ない」
 そのままゆらり、ゆらりと歩みながら、大神の光武はベヘモスの足下へとたどり着く。
 「大神さん!」
 「ああ、花火君。なんか知らないが、君の旦那様に謝っていたような記憶もあったりする。だけど……これだけは、間違いなく言える気がする」
 そして大神の二刀が、高々と掲げられる。
 「俺は、何があろうと、君たちを守り抜く! だから、君たちも、力を貸してくれ!」
 「「「「「はいっ!」」」」」
 その言葉に、誰一人として遅延はなかった。
 そしてそれを受け、大神を中心にして、すさまじい光が立ち上る。
 「みんなの力を……一つに束ねる」
 そして、その衝撃は、とてつもない波動となって、付近を席巻する。



 「狼虎……」



 大神機を中心に、ものすごい量の霊力が集中する!

 この時、各地の霊力研究施設において、実験中の機材や計器が吹き飛ぶという事故が多発していた。後々鷲羽ちゃんは、このデータを取り逃した事を、心底悔しがる事になる。
 そして、その余波は、思いもかけないところに波及していた。







 「な、なに、この気配……」
 「どうしたの、カナちゃん」
 ホテルのスイートルーム……飛鈴の取っていた部屋で、かなめはとつぜん奇妙な悪寒に襲われていた。
 「なんか、とてつもないものが動いたような……」
 かなめの顔色は、見る間に真っ青になっていく。
 「ちょっと、カナちゃん。凄い顔色だよ! 飛鈴さん、カナちゃんが!」
 「どうしたの……!」
 だが、異変はそれだけではなかった。
 「あ、ああ、ああアアあアあアア……お、おがぉ……ああ、きょきよきききよげげ、けげんりりりりりりりりりり、きき、きねきはバババ……」
 とつぜんかなめは、機関銃のように言葉を放ちはじめた。
 何かがあふれ出すかのように。
 「カナちゃん、しっかりして! 宗介君……こんな時に、どこにいるのよ!」
 だが、かなめの異常は止まるどころか、より一層酷くなっていった。
 「だ、ただたたまタマタダマれれれれダマル、かか、かっせ、せせせい、しし、ししんくくくくシンクロに、に、キョ、きょきょきょきょきょきょ……めめめめいめいめ、てててテ、テッテッテッ、あば、あば、あばばばば」
 「しっかりしなさい!」
 まるで発狂したとしか思えないかなめに対して、飛鈴はその身を拘束しようとした。
 だが、その寸前、かなめの目に光が戻った。
 「ただ、だ、だ、だまらっしゃい!」
 「カナちゃん、大丈夫!」
 心配そうに聞く恭子に、かなめはいつもの微笑みを浮かべて答えた。
 「ん……もう大丈夫。ごめんね、心配かけて」
 「ううん、大丈夫ならいいんだけど」
 そのまま恭子をなだめていたかなめは、突如振り向くと、飛鈴に向けていった。
 「いけない! すいません飛鈴さん、電話ありますか!」
 「ええ、多分それが通じると思うけど……」
 その言葉も終わらぬうちに、かなめは受話器を取り上げると、ものすごい速さでボタンをプッシュしていた。
 そして数秒後。
 「もしもし、宗介! 手短に言うわ! すぐそこに、あんたの相棒が飛んでくるわ! 何、なんでそんなことがですって! あたしにだってよくわかんないわよ! 多分テッサに聞いた方が早いわ! とにかく、すぐ来るからね!」
 そう言うと、かなめは受話器を叩きつけるように置いた。
 「……一体、なんだったの?」
 ぽかんとした表情で聞く飛鈴に、かなめは答えた。
 「あたしにもよくわかんないわよ。ただ、わかったの。宗介の、一番大切な仲間が、すぐそこに来てるって。それをあいつに伝えただけ」
 「……さっぱりわかんないんだけど」
 「だからあたしに聞かないでよ! あたしにだって、よくわかんないんだから」
 そんなかなめの様子を、一緒に避難してきた中学生組は、心配そうに見つめていた。







 「なんだったんだ? 今の電話」
 「さあ。俺にもよくわからない」
 この答えを、宗介が知るのは、ほんの少し後の事であった。
 実際、今目の前で、とんでもない事が起こっていて、宗介も電話に集中できていなかったのだ。
 それは……







 「滅却……」



 爆発的な霊力が、あたりの空間すら揺るがす。
 不可視に近かったベヘモスの『障壁』が、そのあおりを受けてはっきりと見えていた。
 そして光武F2の中、大神の脳裏を、愛すべき13人の乙女の姿がよぎる。

 「大神さん」
 「隊長!」
 「イチロー……」
 「隊長」
 「大神さん……」

 そして、みんなの見守る中、解放の言霊が、大神の口からほとばしった。



 !!!




 その瞬間、空間が震えた。
 すさまじい衝撃が、ベヘモスを貫く。
 そして……



 ベヘモスは、まだ、立っていた。
 だが、傷は深い。
 衝撃の余波であろうか。魔獣を守る障壁は、うっすらと色づいて見えた。
 その加減で、どこが弱っているのかが一目で見て取れる。
 「凄い技だ……」
 「これが、帝国華撃団の実力か……」
 氷竜も炎竜も、思わず呆然とその光景に見とれてしまう。
 「二人とも、油断するな!」
 そこに鋭いガイの叱咤がとんだ。
 「まだ相手は立っている! 戦いは終わっていない! それに見ろ! 敵のバリアの強弱が、はっきりと見えるようになっている! 今なら、互角に戦えるぞ!」
 「い、いけない!」
 「失礼しました、隊長!」
 と、その時やはり冷静な氷竜が、それに気がついた。
 「隊長、今の攻撃で、華撃団の方が限界に達したみたいです。隊長は彼らの保護をお願いします」
 「よし、そちらは任せた!」







 「そんな、まさか……あれは、ムッシュなら出来るかもしれないとは思っていたけど……」
 帝撃地下司令室で、グラン・マは大きく口を開けていた。
 「グラン・マ、光武各機、今の攻撃で完全に力を使い果たしています。大神機だけでなく、ほかの機も。今、銀色の人が、みんなを保護していますが」
 「加治首相に連絡しておいて、メル。シーは収容の手配を」
 グラン・マは、様子を見ながら、的確に指示を出していく。
 そして、ひっそりとつぶやく。
 「何があったというの……一体」



 そしてこの3分後、戦いは第一のクライマックスを迎える事となる。






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