品川西部・ヌーベルトキオ。
 元の世界では東京湾を埋め尽くしていたと言われるこの都市は、やや怪談じみた事実と共にここに出現した。
 出現したのは元の都市のほんの一部……大操車場と、この都市の中心であった大財閥の邸宅、その近くの商店街などである。
 だが、そこには誰もいなかった。マリー・セレステス号ではないが、どう見ても直前まで人が住んでいたとしか思えないこの街に、住人は全くいなかった。
 いや、一人だけいた。元、であったが。
 たった一人、病院の一室で、冷たくなっていた少女以外は。



 現在、この事実は秘密にされている。
 大操車場は中川財閥に引き取られ、新幹線の車両基地になっている。場所がちょうどよかったのだ。元々の世界でも、新幹線の車両基地はここにあったからである。
 なお、GGGのライナーガオーが、普段ここに留置されているのは秘密である(笑)。



 今では中川系の人々が中心となってこの街に移り住み、ごく普通のニュータウンとなっている。
 その住民達は、5月5日、対岸でとんでもないことが起きたのを、特等席で見ることが出来たという。
 青海のコンテナヤードから、全長50mもの、巨大なロボットが立ち上がるのを。




裏側の勇者達


エピソード:4


神威の拳


K−part





 お祭り騒ぎだったお台場・有明付近は、一転して大混乱となった。
 すさまじいスピードで道路を駆け抜けていく身長10mの人型ロボット、殺到するパトカーとレイバー、繰り返し報道される政府公報。
 「ただいまお台場・有明地区にデフコン4が発令されました。フェスティバルに参加している方は、警察および自衛隊員の指示に従って、速やかに避難してください。繰り返します……」
 そんな中を、人の流れに逆行して、怪ロボットを追いかけている人物が見える。
 身長2m近い巨漢と、謎のぬいぐるみであった。
 どちらもそのフォルムに似合わない異常な俊敏さで、巧みに人の波を泳ぎわたっている。
 「ふもっふ、ふももふもっふ」
 ぬいぐるみ……相良宗介設計の強化装甲服・ボン太君試作型が、なにやらしゃべったが、謎のボイスチェンジャーによって『ボン太君語』に翻訳されてしまい、訳がわからない。読者にも訳がわからないのはまずいので、ここは今慶一郎が持っている無線機から流れてくる、宗介の言葉をそのまま書き写そう。
 「あなたの使う技にも驚いたが、彼女にはもっと驚いたな」
 「ああ、李家の魔術……噂には聞いていたが、大したものだ。となると去年の暮れのマジカルエミ、あれも『本物』かもな」
 「かも知れない。俺は本来魔術のようなものは詐術にすぎないと思っていたが、認識を改める必要がありそうだ。少なくともこの世界には、本物の『魔術師』がいる。いずれ対魔術師用の戦術を構築する必要があるだろう」
 「おいおい……」
 慶一郎はあきれたが、宗介にとってはそれが当然であることを、彼は理解していた。
 戦争ボケと言われるほど徹底してリアルな危険の中で過ごしてきた宗介のような人物にとっては、魔法使いを見ても驚く前にいかにして戦うかを考えるのはある意味当然である。どんなに荒唐無稽であろうとも、彼らの目にとっては、それは『新兵器』と何ら変わるものではない。その程度のことなのである。
 スタジアムの混乱の中、飛鈴は裏切り者……飛兄弟を押さえることに成功していた。
 ゲリラの少年たちも、待機していた警官隊に取り押さえられた。
 残る敵は、ガウルンのみである。慶一郎と宗介は、あとの押さえを飛鈴たちに任せて、ガウルンを追ったのである。
 「格闘家たちからはダメージを受けていたが、本来あの『ヴェノム』……いや、『コダール』にはラムダドライバが搭載されている。おそらく通常兵器では全く歯が立たない」
 「下手をすれば戦えるのは俺だけ……か」
 慶一郎がぼやく。彼らの技が通じたと言うことは、『神威の拳』は、ラムダドライバの守りを破ることが出来る……ラムダドライバとは、ある意味機械的に再現された『神威の拳』に他ならないことの証明であった。
 「ところで慶一郎、あなたの格闘家としての評価は、どのくらいなのだ?」
 「自慢する訳じゃないが……さっきの連中より、少し俺の方が上、って位だな」
 「『アーバレスト』があれば、俺でも互角に戦えるが、無い物ねだりをしても始まらない……おっと、地元の軍が出てきた」
 「そうか、ちょっとお手並み拝見と行くか」
 有明の路上で、降下してきた空挺レイバーたちが、『コダール』を取り囲んだ。



 本来なら警告が行くのだろうが、そんなもので止まる相手ではないことは明白であった。レイバーサイズの巨大な銃から、弾丸が発射される。
 だが、それらは全くなんの被害も、『コダール』にあたえることは出来なかった。
 「馬鹿なっ!」
 パイロットたちは自分たちの目が信じられなかった。自分たちの銃弾は、着弾の寸前、宙に止まったのである。
 そしてコダールからの反撃で、レイバーたちはすべて打ち砕かれていた。
 たったの一薙ぎであった。
 ガウルンが逃走を優先していたのは幸いであった。そうでなければ。彼らは決して生き残れなかったであろう。
 「だめだこりゃ」
 その様子を背後から見ていた慶一郎は、思わずそうつぶやいていた。
 距離もだいぶ離されている。さすがに歩幅が違いすぎた。旋駆けなどの技といえども、長時間走るのには向かない。ボン太君スーツも、走る速さまではそう速くならない。走る速度は、純粋にピッチとストライドの積で決まるからだ。
 足を速く動かすか、歩幅を大きくしない限り、人の移動速度は速くならない。簡単な理屈である。
 そして『コダール』は、青海のコンテナヤードに姿を消した。
 「まずいな、あそこに入られると視界が効かない」
 「ああ」
 そう答えた宗介の声に、慶一郎はかすかなおののきが含まれていることを感じた。
 「どうした?」
 それに対して無線機から流れてくる彼の声は、確かにふるえを伴っていた。
 「ちょっとしたデジャビューだ……以前話した『ベヒモス』が現れたのが、ちょうどここだったんでな……」
 それを聞いて慶一郎は、ふとイヤな予感に囚われた。
 話によれば『ベヒモス』は、とてつもなく巨大なメカである。つまり、しまうのに場所を取る。運び込むにも同様だ。密かに運び込むには、分解したパーツの状態で搬入するしかない。
 そしてここは、巨大なコンテナがいくつも並ぶ場所である。前回ここから巨大メカが出現したというのには、それなりの理由があるのだ。
 そう思ったときであった。
 慶一郎は突然、とてつもない<邪気>を感じ取った。それは先ほどのガウルンすら上回るもの。はっきり言えば、ソルバニアで相手をしてきた、『怪獣』のそれに近いものであった。
 「おいおい……」
 そうつぶやく慶一郎と時を同じくして、全長50mにも及ぶそのメカニズムは、物理法則を頭から無視して立ち上がっていた。



 「なんだあれは!」
 「馬鹿な……あの巨大さでありながら、あれはどちらかと言えばレイバーに似た構造をしているぞ! 確かあの形状では……」
 「そう、股関節部分が自重に耐えきれなくなって自壊するはずよ。あのメカは少なくとも自分の体重を消せる……重力制御能力を持っていることになるわね」
 防衛庁CICセンターで、加治首相や土方国防相、生え抜きの制服組、そしてすっ飛んできた鷲羽ちゃんが現場からの中継映像を見て頭を抱えていた。
 この時点でデフコンレベルは3に上がっている。陸自を投入する予定であったが、この巨大な相手に、それで追いつくわけがないのは明白であった。
 「これは……特機を投入しないと追いつけませんね」
 土方国防相が冷静に事態を判断する。
 「せめてあの半分なら、陸自のWAPが投入できるが、あれではいくら何でも無謀だ」
 「しかし手をこまねいているわけにも行きません」
 加治首相も苦汁を飲んだ顔つきになる。
 「特機を投入するにしても、時間的に間に合いません。あのサイズに対抗できるとなると、グレートマジンガーでも少々キツい。50mクラスとなるとゲッターロボしかありません。彼らは?」
 「出動を要請しましたが、出動準備に2時間はかかると言うことです。間の悪いことに、定期点検を始めてしまっていたところだそうで」
 しかし、この危機を黙ってみていられない人物が、現場のすぐ側にいた。
 「首相! Gアイランドから通信です!」
 「彼らが動いてくれるのか!」
 彼らが動いてくれれば、2重の意味で助かる。まず彼らの現在位置は川崎だ。有明とは目と鼻の先である。
 さらに驚異のGツール、ディバイディングドライバーによって、安全な戦闘域を確保することが可能になる。
 「ニュースは見ましたし、こちらからも観測出来ます」
 GGG長官、大河幸太郎は、非常用回線の中で、いつもの笑みを浮かべていた。
 「とりあえず民間の方の避難の助けにと、氷竜・炎竜の二人を派遣しております。状況によっては、我らの勇者に出てもらうことも考慮の上です」
 「ご協力感謝します」
 GGGはかなりいろいろな面で日本の防衛を担っている組織であるが、決して軍組織ではなく、また日本の平和を守る義務があるわけではない。ゾンダーのような、通常の人類組織では対抗できない驚異に立ち向かうための組織であり、勇者なのである。
 それ故に原則として機械獣が自衛隊基地を襲ったなどという状況下では、彼らの出動を要請することはない。
 青海に現れた怪ロボットも、どちらかと言えばこちらの状況に近い。
 だが、罪のない民間の人が巻き込まれるのを見逃すほど、彼らは非情ではなかった。



 「久々の出動だな、氷竜!」
 「ああ、だが浮かれるな。本来僕たちの出番は、ない方が理想的なんだぞ」
 「わかってるって、そんなこと!」
 巨大な消防車にも見える2台の多目的救助車が、しゃべりながら湾岸線を突き進む。
 13号地のインターから、青海方面へ向かった二台の車は、幸いにして付近の人間の避難がほぼ終わっていることを知った。
 「よかったな、これならあのデカブツの動きを止めておけば大丈夫だ」
 「そうだな。相手は未知の巨大ロボットだ。無理はせず、まず足止めを狙おう」
 そして2台の意志ある車は、交差点にかかる「ゆりかもめ」の高架をくぐり抜けると、大きく叫んだ。

 「「システム・チェ−−−−ンジ!」」

 それと同時に、赤と青、2台の車は、みるみるうちに人型へと変形していく。
 赤と青、二人の勇者ロボは、自分の倍以上もある巨大兵器の前に、敢然と立ちふさがった。



 「ふもっふ(変わった巨大兵器だな)」
 「ああ、俺もよくは知らんが、確かあれじゃなかったかな? 自立した意識を持つ、AIロボとか言う」
 神谷が詳しいんだがな、とつぶやきつつ目の前を見た慶一郎の脇で、宗介はボン太君スーツの頭部をはずした。
 「さすがにコダールならまだしも、あれが出てきたとなると、今の俺の手には負えない。おそらくあの近辺には、タクマをあれに乗せた、奴等の仲間が潜んでいるはずなのだが……」
 「いくら何でも、近づけねえなあ」
 宗介は現実的な人間であったし、慶一郎も、やってやれなくはないだろうが、やや分が悪い。
 『あれ』と戦え、と言う方がまだ楽だ。
 ソルバニアではあの手の巨獣と戦うこともしょっちゅうであったが、あれと直接的に戦うのと、あれが暴れる脇で人捜しをするのでは、後者の方が難しい。
 万が一下の人間との戦闘中に、上からあいつの足が降ってきたら、いくら慶一郎でも命に関わる。
 そして宗介は、今ここに奴と戦う武器がないことが残念であった。
 2体のロボットは、巧みな連携で、『ベヒモス』に牽制のための攻撃を掛ける。
 だがその攻撃は、彼が維持する『障壁』の前に、ことごとくはじかれていた。



 「オイ氷竜、何かいやなものを見た気がしないか?」
 「ああ、確かに。どうやら奴は強力なバリアシステムを維持している。しかも完全に一致してはいないが、これとよく似たバリアを持つ敵と、僕たちは戦っている」
 「使徒・ゼルエル……あれほど堅くはなさそうだが、こいつから感じるバリアの気配は、あの忌々しいATフィールドにそっくりだぜ!」

 あの戦いからほぼ1年、いろいろと研究も進み、ATフィールドがある種の精神的な力……拒絶の意志によって時空間そのものを歪ませるバリアとなっていることを、GGGの科学者達は知っていた。霊力工学の研究により、ATフィールドが霊力場からの干渉による空間障壁場であることはほぼ確立している。ただ、その事実は判明したものの、トリニティーにおける攪乱波の生成と同様、どのような霊力場の変動があのATフィールドを生み出すのかは、全く解析が進んでいなかった。
 ATフィールドを生み出す『霊的思考』を行えるのは、未だにエヴァンゲリオンと使徒、そして綾波レイだけなのである。
 ただ、その特性故に、Gストーンを思考中枢に持つ彼らは、ATフィールドより発せられる独特の『気配』を、その記憶回路に留めていたのである。
 そしてATフィールドを破る手段は、今のところ3つしかない。

 1つ、同種のフィールドで中和する。

 以前は謎だったATフィールドの展開、侵食も、霊力工学の原理からすればごく当たり前の現象であった。こちらの時空間からの影響ははねのける絶対障壁・ATフィールドも、それを構成している霊界次元側からの干渉にはもろい。壁に映る映画の映像を攻撃してもなんにもならないが、元のフィルムに傷が付けば映像も傷つく、ただそれだけのことだったのである。

 「エヴァンゲリオンなら突破できるかもしれないですが……」
 「おう、使徒でもないのにシンジたちの手を煩わせられるかってんだい!」

 2つ、Gツールの力によって空間をねじ曲げる。

 これが可能なことは、かつてガオガイガーが証明している。
 ATフィールドも原理が特異とは言え、空間変形型障壁……ディストーションフィールドの親戚であるのは事実である。ナデシコのそれは空間を歪ませて攻撃を『そらす』ものだが、ATフィールドは空間に一種の『ずれ』を作り出すものである。
 これが完全な『断層』レベルになれば相剋界の境界面とほぼ同様の状態になるが、ATフィールドはさすがにそこまでは行かない。空間の変形による局所的な重力障壁を生じさせるレベルである。
 この手の空間障壁のレベルを下から並べるとほぼこうなる。

 ディストーションフィールド/空間の定量歪曲
 ↓
 プロテクトシェード(ウォールを含む)/空間歪曲+攻撃反射制御
 ↓
 ATフィールド/空間障壁化。変形された空間そのものを武器にすることも可能。
 ↓
 相剋界/時空間断層。隔絶場であり、質量を持つものは突破不可能。

 なお、今ベヒモスが展開している『障壁』は、ディストーションフィールドとプロテクトシェードの中間くらいである。
 ここで特徴的なことは、高度な空間制御には、いずれも霊力工学が絡んでいるという事実である。エマーンは慣性制御技術を所持しているが、それを応用したバリアシステムのようなものは制作されていない。これから想像できることだが、エマーン式慣性制御は、物体の質量/エネルギー系をある程度制御できても、大規模な時空間に対する影響を与えることは出来ないと思われる。

 「畜生、なんて堅いフィールドだ! こっちの攻撃がまるで効いてねえ!」
 「ああ、相手に武器がほとんど装備されてなくてよかったぜ。かわすだけなら何とかなるからな」
 「けど氷竜、なんかこいつ……馬鹿っぽくないか? ある意味ゾンダー以下だぜ、こいつの攻撃パターン」
 「うむ。しかし……じり貧だぞこれは。たとえシンメトリカルドッキングしたとしても、俺たちのパワーじゃ、どうもこのフィールドを突き破ることは出来そうにない」

 3つ、超越的な攻撃力で無理矢理突き破る。

 原理や強度は違っていても、空間歪曲型のバリアは、いずれも『斥力場』に分類されるバリアである。攻撃側の力Fを、反発する逆ベクトルF’の力で打ち消す(あるいはそらす)タイプのバリアである。さしものATフィールドでも、広義の意味ではエネルギー保存則に従っている。よって桁違いの大エネルギーをぶつければ、さすがに場を維持しきれなくなってバリアは崩壊する。
 使徒(真)の持つフィールド強度は、あまりにも強大であるが。

 「ええい、埒があかないぜ!」

 炎竜がそう吐き捨てるように言ったときであった。

 「待たせたな! 二人とも!」
 「「隊長!」」

 ガイガーモードの獅子王凱が、敢然とその姿を現したのだ!



 (でかいな……)

 ガイはこの巨体を持ち、また謎のバリアを展開しているこの敵に、今のまま戦っても大して被害を与えられないことを、瞬間的に計算していた。
 そしてそれは、GGGメインオーダールームに、要請となって伝えられる。
 「長官! ガイよりファイナルフュージョンの要請です!」
 「よし、ファイナルフュージョン、承認!」
 大河長官により、ファイナルフュージョンのプロテクトが解かれる。
 オペレーター、卯都木命の前に表示された各マシンのステータスが、次々と『OK』に変わっていく。
 「ファイナルフュージョン、プログラム・ドライブ!」
 そして彼女の叫びと友に、その手が大きく振りかぶられる。ファイナルフュージョンの最終セーフティスイッチは、誤動作防止のため、アクリルカバーで密閉されている。鍛えてはいるが、元が非力な女性の命では、勢いをつけないと、カバーを割れないのである。
 が、久しぶりに振り上げられたその手が、何故かそこで止まってしまった。
 「何事だ! 卯都木君!」
 大河長官の声に、返答をかえしたのは命ではなく、整備担当の牛山であった。
 「大変です長官! ライナーガオーに異常発生! ヌーベルトキオ操車場で、逃走した人型メカが自爆して、出動用の線路が破損! ライナーガオー自身は無事ですが、脱輪転倒して、すぐには発進できません!
 命の前のステータス画面も、上から4番目にあったライナーガオーの帯が、『ALATE』の赤色に変わっている。
 「なんてことだあっ!」



 「たーまやー」
 『コダールxm』を、線路脇で自爆させたガウルンは、あおりを受けて転倒する新幹線をみて、ぱちぱちと手をたたいた。
 「あれでいいのかい、旦那」
 そういうと隣にいた黒眼鏡の男と、やはり眼鏡を掛けてはいたが、どこかにやけた男は、大きく頷いた。
 「お見事。せっかくの時間稼ぎだ。無粋な邪魔は入れたくないしね」
 「んじゃおれは消えるぜ」
 「そっちの方々にもよろしく」
 ガウルンの姿が消えると、黒眼鏡を掛けていた男が、にやけた男に話しかける。
 「素直に自爆させてしまってよかったのですか? あの機体に使われている技術は、我々のものより遙かに高度ですよ。解析できれば一気に優位に立つことも出来るでしょうに」
 「駄目駄目黒崎君、商売はね、信用が第一なんだよ」
 シャフトエンタープライズ企画七課課長、内海は、遙か遠くを見つめながらそういった。
 「こっちの方が力が劣るときに、強気に出たってなんの得にもならないよ。今はおとなしく協力している方が、絶対得だって」
 「ですがあの男は信用できません」
 「あの男は、ね」
 不満げな黒崎を、内海はなだめた。
 「けど、彼が依頼を受けた組織は、君が思っているより、遙かに根が深いんだよ。僕にはわかる。あれをうかつに敵に回さない方がいいってね。なに、最後に笑えばいいんだよ、最後にね」
 「……わかりました、課長」
 毎度胃が痛くなる思いをしつつも、従うしかない黒崎であった。



 「なんですって! ガオガイガー合体不能!」
 「いかん、さすがにガイ君といえども、ガオガイガーになれねば、圧倒的に不利だぞ!」
 国防省CICルームは騒然となった。
 「敵の根は思ったより深いのか……」
 加治首相の声にも、力がこもる。
 「GGGより緊急通信です!」
 「つないでくれ」
 土方の命令により回線が接続されると、スクリーンに獅子王博士の顔が映し出された。



 「ガイたちの報告によると、あのロボット、見た目より遙かに剣呑じゃぞ」
 「どういう事ですか?」
 「そっちに鷲羽ちゃんはおるかの」
 「いるわよ」
 彼女の顔を確認すると、獅子王博士は、おもむろに言い始めた。
 「あ奴、どう考えても物理的におかしいことには気づいとるじゃろ、そっちも」
 「ええ」
 鷲羽ちゃんは、大きく頷いた。
 「あの巨体、物理学的に見ると、明らかに自重を支えきれないのよね。最低限、重力制御システムを内蔵しているっていうこと。かなり高度な文明の産物よ、あれは」
 「どうやらそんなもんじゃないらしい」
 獅子王博士は、頭を抱えつつ、とんでもない台詞を吐いた。
 「あ奴の張っている障壁は、ATフィールドによく似た性質を持っていると言うんじゃ。強度的にはプロテクトシェードほど頑丈な訳じゃなさそうだが、恒常的に張り続けられると言うところが驚異じゃよ。氷竜・炎竜の手持ち武器では傷一つつけられんらしい」
 「なんですって!」
 鷲羽ちゃんの声も、思わず引きつっていた。その慌てぶりに、加治首相は不思議そうに彼女に聞いた。
 「何かまずいことでも」
 「まずいなんてもんじゃないわ……よく聞いてよね、首相。GストーンによるAIを持つ彼らが敵のフィールドに対してATフィールドと同様の感覚を持つって事はね、敵は何らかの形で霊力工学を取り込んでいるって事になるのよ! Gストーンは精霊石同様、霊力的なエネルギーに反応するわ。その彼らが一様にそういうのならほぼ間違いはない。敵のバリアは……霊力空間制御型バリヤーよ!」
 「な……」
 首相を始めとした、上層部の人間の顔色が一気に変わった。この状況下では、機密が漏れたと言うより、むしろ敵の方が遙かに高度な技術を持っていると解釈するのが正しい。
 「土方さん」
 「わかっています」
 いちいち指令は必要なかった。彼らはすでに、なすべき事を理解していたのだから。
 「ゲッターロボの出動は中止してくれたまえ。相手があのようなものとなると……彼らでも手におえん。あのロボットに対抗するためには、霊力工学に基づいた攻撃手段か、空間制御技術が必要か……」
 「首相」
 目をモニターから離さぬまま、鷲羽ちゃんは加治首相に声を掛けた。
 「使えるものはすべてつぎ込む覚悟がいるわね……最悪、エヴァの投入が必要になるわ、この調子じゃ」
 「また、彼らに頼ることになるのか……」
 苦渋を飲み干したような顔になる加治。
 「シンジ君たちに連絡を。ただし、彼らは最後の切り札だ。今動かせる戦力は?」
 「現時点で協力要請が可能な組織はGSの一部と帝国華撃団くらいしかありません。その帝撃も、本体は昨日妙神山へ修行に行ってしまっており、おととい巴里から到着した、もう一つの華撃団……巴里華撃団しかありません」
 「最悪のタイミングね」
 その報告に、鷲羽ちゃんがつぶやく。
 「でも、ない袖は振れないわ。駄目で元々。連絡だけは取ってみた方がいいわね」
 「そうしましょう」
 「わかりました。直ちに手配いたします」
 首相の決断に、土方長官以下防衛省の人間が、一斉に動いた。
 だが、間の悪いときには、さらに悪いことが重なるものである。
 「たつなみより緊急入電! 東京湾に怪潜水艦が出現した模様!」
 「なにっ!」
 5月5日の混迷は、さらに深まっていった。



 だが、これですらまだ中盤戦だとは、さしもの加治たちも想像することすら出来なかったのである。






日本連合 連合議会


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