「始まったようだな」
 外部モニターから流れてくる歓声を聞いて、男はそう一人ごちた。
 「さて……そろそろ本当の仕事を始めるとするか……」
 不可視システムに守られた巨体を、そっと動かす。
 「カシム……かくれんぼが得意なのは、もはやお前さんたちだけの特権じゃあないんだぜ?」
 それは前の世界では、彼らの持ち得ないはずの『技術』であった。


裏側の勇者達

エピソード:4


神威の拳


J−Part




 観客たちの前で、世紀の一戦は始まろうとしていた。
 UVT大会の中でも、あえて別枠とされた者たちの戦い。
 その最初の決戦の火蓋が切られようとしていたのだ。
 「あんたが第一戦の相手かいな? 軟派なカッコの割には、ええ面構えしとるやないか」
 たたずむのはあまりにも暑苦しい野生児、草g静馬。
 「……気に入らんな」
 「へ? 何がや」
 「何もかもだ。名前、その面構え、その技……何もかもが、『あいつ』に似すぎているんだ、お前は」
 対する男は、雷神の闘士、二階堂紅丸。
 「そないなこと言われても困るで。俺はあくまで俺や! ほかの誰でもない、『草g静馬』なんや!」
 「だったらそこまで似るな!」
 紅丸にとって、目の前の男は、あまりにもある男に似ていた。もちろん性格などは似ても似つかない。だが、その名前と技は、否応もなく、彼の最大の友にしてライバルである、あの男を思い出させる。
 それ故に、紅丸には目の前の男が、彼を冒涜する存在に見えた。
 「FIGHT!」
 開始の合図と共に、紅丸は宙に飛んだ。
 観客は唖然とした。
 たいした助走も無しに、彼はどう見ても5メートル以上、宙に跳んでいた。
 ここが陸上の競技会なら、世界新間違い無しである。
 だが、こんなことは序の口であった。
 「へっ、下手なジャンプは、対空技の餌食やで!」
 静馬は余裕で敵の出方を見る。
 「まずは駆けつけ一杯、とっときや!」
 そして彼の体は、肩口から背中を使った体当たりの体勢になる。
 鉄山靠、という技に似ているが、彼のそれは、空中に向けて放たれていた。
 同時に広げられた手から、翼のように炎が巻き起こる。
 <焔舞い>……そういわれる技であった。狙い違わず、空中の紅丸を捕らえる。

 「さっすがナギー、あんな兄ちゃん、敵じゃないな」
 観客席ではしゃぐ沙羅。だが、それを見た慶一郎と涼子が、口をそろえていった。
 「「甘い」」
 ぴったり同期した言葉に、宗介を始めとするみんなが注目をしてしまった。二人も思わず目を見合わせてしまったが、ここは涼子が黙って引いた。
 「あの男、何か意図があって宙を跳んだに決まっている。そうじゃなければ、あんな見え見えのジャンプをするか」

 その通りであった。ジャンプの頂点で、紅丸の動きが急に変化した。
 自然の法則に逆らうかのように、放物線から直線に。そして同時に、彼は足を突き出すと錐もみ回転をしながら、静馬に向かって突っ込んでいった。
 「フライングドリル!」
 気合いの入った言葉とともに、静馬の土手っ腹に、えぐり混むようなキックが食い込んだ。
 為すすべもなく撃墜される静馬。

 「ほら、言ったとおりだ」
 「ナギーっ!」

 撃墜された静馬に、紅丸が追い打ちを掛けるべく迫る。
 起きあがりざまに跳んできたパンチを、スウェーで交わす静馬。
 「ほらほら、当たらんで! なんやそりゃ、間合いが遠い」
 だが、最後の、間合いが遠いと思っていたパンチは、それまでの一撃とは訳が違った。
 「雷神拳!」
 静馬の目には、そのパンチが広がったように見えた。
 「アカン!」
 とっさに防御を固めると同時に、本能的に<神気>を両腕に集める。
 そして彼の目の前で、稲妻が爆発した。
 「……ひゅう、間一髪やで。ごっついわざやなあ」
 一歩間合いをあけると、静馬は、<神気>を蓄積しつつ、慎重に相手の出方をうかがった。
 (どうやらこのあんちゃん、出身は違えど、かなり『神威の拳』に精通し取るようやな……七瀬の姉ちゃんと同じ『雷』の属性みたいやが、威力が桁違いや)
 紅丸は軽いフットワークで、やはりこちらの出方をうかがう。
 (それになんやしらへんけど、どうもあのあんちゃん、俺みたいな男との戦いに精通しとるで。なんかやりにくいな)
 一瞬悩むが、元々静馬という男、悩むこととは無縁である。
 「ええい、いったるわ!」
 そのときであった。
 静馬は不意に、強大な、<邪気>を感じた。
 そう、それは、そうとしか言えない禍々しさを放っていた。
 静馬ですら、目の前の敵を忘れるほどの。
 それは紅丸も一緒であった。いや、脇で控えていた、すべての闘士たちが、それを感じていた。
 そして、観客席にいた、慶一郎、涼子、宗介、かなめ、そして……さくらと小狼も。
 彼らの目が、一斉にそちらを向いた。
 そして……『悪魔』は、軽々とスタジアムの外壁を飛び越えて、そこに降り立った。



 「あれは!」
 宗介の目が、完全に戦闘時のそれに変わる。
 「ソースケ!」
 かなめと慶一郎も、宗介の方をちらりと見る。頷いた宗介を見て、慶一郎は飛鈴に言った。
 「あれか」
 「ええ、間違いないわ。香港をおそったのも、間違いなくあれよ」
 「済まないが飛鈴、みんなを」
 「任せて。あなたが戦ってくれるのなら、それはあたしが戦うのと同じ」
 それはとんでもなく意味深な言葉であったが、慶一郎はうっかり聞き流してしまった。
 目の前の敵に集中していたせいもある。
 「悪じゃな」
 「ああ、悪だ、ありゃ」
 「ここまで心が咎めぬ相手も珍しい。惜しむらくは、さすがにあれには生身じゃ勝てんと言うところか」
 極悪3爺ですら、そう評した。
 そして、『悪魔』……全長10m弱の人型機動兵器は、外部マイク全開で、こうのたまわった。

 「はっはっはっ、おもしろい事しているじゃねえか! 俺も飛び入りさせてくれ!」

 そして手に持ったマシンガンを、闘技場へ向けて乱射した。
 事ここに至って、観客たちも何が起こっているか理解した。
 「きゃあああああああっ!!!」
 パニックが巻き起こった。
 その時。
 「動くな!」
 人々が殺到した出入り口から、複数の、銃器を持った賊が乱入してきた。
 賊の一人が、拡声器を使って宣言する。
 「騒ぐな! 会場の出入り口は、我々が占拠した! この場を動かなければ、命は保証する。だが、みだりに騒いだり、動いた者は、容赦なく射殺する! おとなしくしろ!」
 その瞬間、群衆の動きは、ぴたりと止まった。







 「大変です! ここお台場特設スタジアムに、謎の機動兵器が乱入してきました!」
 その日、テレビ中継を見ていた人は、思わず固唾を呑んだ。
 無理もない。白昼堂々、こんな風にして登場してきた『敵』は、さすがにない。
 機械獣や怪獣がおそってきたヤイヅシティの例はあったが、白昼堂々、しかも『しゃべった』敵は、今までいなかった。
 連合政府も、迅速に反応した。デフコン5が4に引き上げられ、陸自習志野空挺レイバー部隊に、緊急出動が命じられた。
 だが、事実上、スタジアムの観客が全員人質に取られているようなものである。また、選手の中には、今の日本において支柱の一人でもある、神月財閥の総帥、神月かりん嬢もいるのである。
 「まずいことになったな……」
 国防省内部のCICルームにおいて、土方国防相はいつもの温厚そうな顔をゆがめていた。デフコン5の警備下を難なくすり抜けてくる敵である。たとえ一機でも、かなりの科学力を持った敵の可能性があった。
 おまけにスタジアム内の民間人をいわば人質に取られているようなものである。これでは手の打ちようがない。
 今できることは、万全の体制を整えた上で、事態を見守ることだけだった。
 だが、事態は思わぬ方向に動いたのである。
 ほかならぬ襲撃者自身の宣言によって。



 アリーナ席では、宗介たちが、やはり事態の推移を見守っていた。
 「油断した。まさかここまで大胆な手段を取ってくるとは」
 「ああ……いくら何でも、こんな手を取られちゃあ、なんにもできんぞ。さすがになんの関わりもない人を見殺しにするのは寝覚めが悪い」
 宗介にも慶一郎にも、為すすべがなかった。ここでかなめの身柄を要求されでもしたら、間違いなくかなめ自身が進んでその身を明け渡すであろう事は、宗介が一番よく知っていた。
 伊達で一年以上も護衛をしてはいない。ここで抵抗して無関係の人間が一人でも殺されたら、かなめはおそらく自分を一生許せなくなる。巻き添えを食らったのなら、ガウルンが無差別に攻撃を仕掛けた結果での死者ならば、まだそれを彼に対する怒りに転化出来る。だが、自分がくい止めることの出来た人物の死は、かなめは容認出来ないだろう。
 それが、千鳥かなめという少女であった。
 彼女は自分の首にナイフを突きつけたまま言うに違いない。
 「人質を解放して。さもなくば、あたしは死ぬわ」と。
 そしてみんなは、その時をじりじりと待った。
 だが、意外にもガウルンはかなめを要求したりはしなかった。
 「さあ……勝負だぜ、格闘家の諸君」
 その一言には、人質となっている観客すら唖然となった。
 「言わなかったかい? 俺は『飛び入り』に来たんだぜ? 真剣勝負だ。俺を倒せたら、人質は解放してやるよ。倒せたらな!」
 と、その時、場内に声が響き渡った。
 『のった!』
 場内の観客が、思わず舞台に注目する。
 見ると壇上では、先ほど戦いを繰り広げていた草g静馬が、司会者のマイクをぶんどっていた。
 『やいそこのデカブツ! お前このワイに喧嘩売ったな! おっしゃ! その喧嘩、買うたるわ!』
 そしてその言葉とともに、静馬は宙に舞った。
 全身に炎を纏わせ、全長10m近い、ロボットの頭部近くまで。
 「喰らえ! 爆炎奥義、<火の鳥>!!」
 そしてまさに文字通り『火の鳥』となった静馬は、そのままロボット……『コダールxm』の頭部に激突した。
 「うおっ!」
 さしものガウルンも、これには驚いた。頭部モニタが、衝撃でブラックアウトする。
 「驚いたな、これは……ラムダドライバの『障壁』をなんなくすり抜けるとは……忌々しいが、あのお坊ちゃんの心配事は大当たりって言うわけかい」
 コックピットの中で、ガウルンは、そうつぶやいた。

 (なんだい、そりゃ?)
 (疑問に思うのも当然だね、ミスター・ガウルン。でも、これは是非とも調べておかなきゃいけないことなんだ。日本やアメリカの一部に、ただの人間が、この『ラムダ・ドライバ』と似た力を発揮している例が見受けられる。キミにはそういう能力を持つ人間の力を見極めてもらいたい。そのためにこれを用意した。コダール・xm。今回の任務のために改良を加えたASだよ。後、こっちは『囮』にでもしてくれたまえ。準備は出来ている)
 (これか……ずいぶんごつい囮だな)
 (『以前の世界』では、思ったほど役に立たなかったからね。日本の『同志』の手によって、操縦者は確保されている。本当に必要なのはキミが回収してくる『データ』だ。コダールも用が終わったら壊しちゃっていいからね。と言うか、ちゃんと壊してきてね)
 (わかった。しかし贅沢な話だな。任務のためにアームスレイブ一機使い捨てか?)
 (それによって手に入るものに比べたら、全然惜しくないよ)

 「確かにな……ちょいとお遊びがすぎたせいで、カシムの奴は見失っちまったしな。まさか香港の奴等と手を組むとは予想外だったぜ。あのやろう、どこでそんなコネをつけてやがったんだ」
 自分の足下にお目当ての男がいるとは、実はガウルンも気がついていなかった。『本命』の任務に備えて、早くからこの『コダール』の中に潜んでいたせいで、連絡が行き届いていなかったのである。
 それに今はそのことを気にしている場合ではなかった。
 目の前の『人間たち』は、ガウルンの想像以上に『面白い』ものばかりだったのである。



 モニターが復元したとたん、最初に目に映ったのは、巨大な光の玉であった。
 通常のセンサーには、全く何も映ってはいない。
 だが、ラムダドライバに『同期』しているガウルンの精神には、それが巨大なエネルギーを持っていることがわかった。
 接触の寸前、『意識』を集中して、『壁』を作る。『光』と『壁』は、激しくぶつかり合った。
 「HYUU!」
 思わず口笛を吹くガウルン。
 「おいおい、これが『生身の人間』の放った攻撃かよ」
 モニターには、オレンジ色の道着を着た男が構えを解いたところが写っていた。



 「やるな、あんちゃん!」
 地に降り立った静馬が、オレンジ色の道着の男……リョウに声を掛けた。
 「だが、こいつ、とんでもないぞ。機械の癖して、どうやら『気』を使う」
 その言葉に紅丸が反応した。
 「なんだと!」
 「心当たりでも?」
 紅丸は、行方知れずの親友のことが気にかかっていた。
 「ちょいと分野は違うが、俺の親友も、こういうものを作りそうな組織に追われていてな」
 「おいおい、そっちもか?」
 答えたのは赤い空手着の男。ケン・マスターズ。
 「俺の親友も似たような事情だったぜ! ちょっとやっかいな奴に追い回されてな! 案外今頃、仲良く手を組んでいたりしてな!」
 そういいつつ、信じられないほどのスピードで、相手の足下に潜り込む。
 「デカけりゃいいっていうもんじゃないぜ! 神・龍・拳!」
 全身を錐もみ状にスピンさせながら、『気』を纏ったケンは一気に上昇する。
 信じられないことに、その一撃は『ラムダ・ドライバ』の障壁ごと、コダールの外部装甲をえぐり取っていた。
 観客も、ゲリラたちも、ガウルンも、さすがに唖然としたまま、『コダール』の前部に付けられた傷を見つめていた。



 その時だった。
 「ね、李君、今なら」
 「さくら! お前!」
 「だって、あたしなら何とか出来るんだよ! それを黙ってみてるなんて、あたし……」
 若い恋人たちは、なにやらもめていた。
 それを聞きつけた大人の恋人(?)たちが二人の方を見る。
 「どうかしたか?」
 「李くん……ひょっとして、さくらちゃんって……」
 「ああ。こう見えてもこいつ、クロウカードの伝承者だ」
 慶一郎にはなんのことかわからなかったが、飛鈴にはすぐにわかった。
 「なるほど……それがきっかけか」
 「言っとくが、あくまでもきっかけだぞ。こいつとのことは」
 「はいはい。そこまで見損なったりしないわよ。けど、意外ねえ……」
 「悪いが飛鈴、わかるように言ってくれ」
 「説明してもいい?」
 じれた慶一郎を無視して、飛鈴はまずさくらに聞いた。
 「はい。みなさんは信頼出来ると思いますし、それに……私もあんなひどいこと、黙ってみていられません」
 飛鈴はそれを聞くと、小狼をじっと見つめた。
 「本気でいい子を捕まえたわね、大切にしなさいよ」
 「当たり前だ」
 憮然として言い返す小狼。そして飛鈴は、慶一郎に言った。
 「ねえ、あなた今、何か顔を隠すもの持っていない?」
 「なんでだ」
 「あったら貸して。一発逆転の目があるのよ。どうにか出来れば、彼女がチャンスを作ってくれる」
 「こんなモンならあるぞ」
 慶一郎が差し出したのは、何枚かのセルロイド製のお面であった。
 「やっぱりね。持ってると思ったのよ」
 「なんでお前が知ってるんだ?」
 「前の世界でのあなたの行状、知らないとでも思ってたの?」
 「……ごもっともで」



 「おっどろいたな、こりゃ。なるほど、あのお坊ちゃんが知りたがるわけだ」
 さすがにガウルンも、素手でAS、それも『ラムダ・ドライバ』を装備したこの『コダール』を傷つけることが可能な人間がいるとは想像もしていなかった。
 「しかし……こりゃそろそろ引き時を考えた方がいいな」
 そう思っていた矢先であった。
 突然、舞台の下から。不思議な光が発生した。
 「なんだ!」
 そちらに注目したガウルンの目が丸くなった。
 「おいおい、どうなっちまったんだ? この日本は。マジでカートゥーンだぜ」
 そこには、セルロイドのお面をつけた少女が、長い杖を振るっていた。



 「星の力を秘めし鍵よ、契約の元、さくらが命ずる。封印解除(レリーズ)!」
 ある程度広さのあった舞台脇で、さくらは杖の封印を解く。声と共に、地面の上に、光り輝く魔法陣が浮かび上がった。
 被ったお面のせいでややしゃべりにくかったが、これならたとえテレビに映ったとしても、さくらの正体がばれる気遣いはない。
 そのさくらの手の中に、一枚のカードが現れる。
 「闇よ、すべてを覆い隠せ、『闇(ダーク)』!」
 そしてさくらは、手にした杖を、宙にとどまるカードにたたきつけた。
 その瞬間、カードはまばゆい光を放った。
 だが、それは一瞬のことだった。カードから美しい黒神の女性が現れたかと思うと、あたりはたちどころに目の前の人の顔すら見えない、漆黒の闇に閉ざされたのであった。



 「ナチュラルラ○チ?」
 少女の姿を見た者は、みな一様にそう思った。
 たまたまであったが、テレビカメラのうちの一台が、ちょうどさくらの姿を捉えていた。
 お面をつけていたのは正解だった。さもなくば危うく正体大公開になるところであった。



 「反対側は俺に任せろ!」
 暗闇の中、慶一郎は、素早く宗介に耳打ちした。
 「<旋駆け>で、一気に反対まで駆け抜ける。宗介は、控え室に向かってくれ。多分レックスを始めとして、関係者はその辺で捕らえられていると思う」
 「肯定だ。これだけ用意周到な敵なら、そうしているだろう。俺はそちらを解放する。それが適材適所だ」
 「近場の奴等はあたしがやるわ」
 「あたしもいるわよ」
 女傑二人も、言うことは頼もしい。
 「どれ、儂らも行くか」
 彼らに当たった奴等はかわいそうであろう。
 「殺さないでね。奴等の中には、私たちの手のものが混じっているから」
 「……ふん。まあそうしよう」
 恐るべきは爺、であった。
 「そうだ、これを」
 散り際に宗介は、そういって四角いものを慶一郎に渡した。
 「通信機だ」
 何も見えない闇の中で、慶一郎はそれを受け取った。



 テレビを見ていた人は混乱した。突然の奇現象、そしてすべてが闇に閉ざされる。
 外部から中継していたほかの局のカメラは、ドームがすっぽりと謎の闇に包まれたのを見た。



 「これは、魔法反応! それも、とてつもなく強力な!」
 トリニティの実験結果を整理していた鷲羽ちゃんは、突如振り切れたM探知機を見て叫んでいた。
 「もしもし、加治首相! ……あ、セリオ、首相は? え、今お台場の事件で大変だって? こっちも関係あるのよ! とにかくそっち行くから、今どこ……防衛庁ね、わかったわ」



 宗介は一旦駐車場へと向かった。
 幸い、広い内部駐車場すべてに、見張りが付いているわけではなかった。
 真の闇の中、迷いもせずに宗介は目指す車……慶一郎のジープにたどり着く。
 座席に積まれた大きな箱の存在を確認して、宗介の顔に笑みが走った。
 この中には、今彼が最も必要としている武器があるのだ。
 その時だった。
 不意に複数の人間の気配を宗介は感じた。
 「ご安心を、私たちは知世お嬢様の護衛の者です」
 宗介が反応するより早く、相手は声を掛けてきた。女性の声だ。同時に宗介の鼻は、かすかな体臭をかぎ取っている。紛れもなく女性のものであった。
 「……知世は無事だ」
 必要なことだけを宗介は伝える。
 と、また返事があった。
 「お嬢様の居場所は、元の座席ですね」
 「そうだが」
 「ありがとうございました」
 その声と共に、女性達が動く。
 「救出ならもう少し待った方がいいぞ」
 そういった宗介に、女性は意外な答えを返した。
 「いいえ、お届け物です。今、最も知世様の望んでいるものを」
 「……ふもっふ」
 「?」
 突然変わった宗介の声に、さしもの女性達も、一瞬見えない顔を見合わせた。



 「な、なんだ!」
 闇に閉ざされた中、パニックに襲われたゲリラたちは、思わず手にした銃の引き金を引きそうになる。今手にしているのは拳銃ではない。サブマシンガンだ。だが、その引き金が引かれることはなかった。
 「子供はもう寝る時間だ。ほら、お外は真っ暗だぜ」
 その言葉とともに首筋を強打され、男の意識も、周りを覆う闇に呑まれた。



 「さくらちゃん、今のうちに、これを」
 「ほえっ? 知世ちゃん、何?」
 「この場にふさわしいコスチュームが届きましたの。まだ『闇』さんの効果は残るのでしょう? 今のうちに着替えを。ちゃんとかわいい覆面もありますわ」
 「ははは……」
 こういう知世には、逆らえないさくらであった。



 そして闇が晴れたとき、形勢は一気に逆転していた。
 6カ所あった入り口に陣取っていた男達は、いずれもノされていた。
 そろいのお面をつけた者たちに。
 黄色のマスクをつけた、身長2mを超す巨漢。
 赤のマスクを被り、やはり赤っぽい色をした木刀を持つ長身の女性。
 緑のマスクをした、やはり緑の道服の少年。
 ピンクのマスクの、スタイリッシュな女性。
 そして、こちらはお面ではなく、さらし布のようなものを顔の下半分に巻いた、長身の老人。
 そして……舞台脇では、いつの間にか背中に大きなリボンをあしらった、アイドル歌手のようなコスチュームに身を包んだ少女が、やはり色違いの服に身を包んだ少女と一緒にいた。
 二人とも蝶をかたどったマスクをつけている。
 「マスクに合わせて、蝶々のイメージでまとめてみました。さくらちゃんはモンシロチョウ、私はクロシジミですの」
 「ひょえ〜」
 さくらがくだけている脇で、知世は傍らからマイクを拾い上げ、それが生きていることを確認すると、堂々と張りのある声で言った。元々知世は合唱コンクールその他で全国優勝をするほどの美声の持ち主である。天使の声は、会場中を貫いた。
 「もう大丈夫です! 悪い奴等は、みんなやっつけちゃいました!」
 しかもちょうどいいタイミングで、宗介が控え室にいた格闘家たちを解放していた。
 オーロラビジョンに、かりんの姿が大きく映る。
 『こちら控え室。私たちはたった今、彼によって解放されました』
 『ふもっふ』
 そこには黒光りする暴徒鎮圧用のゴム銃を構えた着ぐるみ……ボン太君が写っていた。
 『おとなしく投降しなさい。そうすれば悪いようにはしません』
 かりんの声が、『コダール』に響く。
 「やだね」
 だが、返事はその一言だった。
 「だが、ここは引いてやるよ、これは土産だ!」
 その言葉と同時に、『コダール』のマシンガンが火を噴く!
 しかし!

 「『盾』(シールド)!!」

 再び魔法少女の杖が一枚のカードに触れたとたん、巨大な光の幕が出現して、銃弾はすべて食い止められていた。
 しかしその間に、『コダール』は侵入してきたとき同様、軽々とスタジアムを飛び越えると、そのまま逃走した。



 「今のは……」
 場内の人々が我に返ったとき、彼らを救った謎の人物達は、いつの間にか姿を消していた。
 この時の彼らをモデルに、新時代の戦隊もの、『融合戦隊フュージョン5』が作られるのは、もう少し後になる。ちなみにこの戦隊もの、全融合世界でも初の、『女性がレッドになる』戦隊ものとして語り継がれたという。




<アイングラッドの感想>
 ううむ、相変わらずゾクゾクするような展開に参ってしまいます。
 設定ばかりでなく、引きつけるような話の内容の持って行き方は流石だな、としかコメントのしようがありません。
 皆さん、是非是非次の作品を書く原動力とすべく感想のメールを書きましょう。
 ではでは、ゴールドアームさんどうも素晴らしい物をありがとうございました。






日本連合 連合議会


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 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


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