翌5月4日。
常盤恭子は、目が覚めるとやたら豪華なホテルの一室にいた。隣のベッドには疲れ果てた顔をしたかなめが寝ている。
「どうなってんの?」
近年まれに見る快適な目覚めの中、目に付いた扉を開けると、そこには扉の脇にもたれて眠っている宗介がいた。いや、眠っていた、というべきであろう。
扉が開くと同時に宗介は目を覚まし、きっちりと立ち上がったからだ。
「目が覚めたか、常磐」
「……ここどこ?」
そう聞く恭子に、宗介は真面目な顔をしていった。
「とある富豪が借りているホテルの一室だ。君が昨日の夜、よくわからん輩に襲われて気絶した後、事件は二転三転し、結果ここの方の世話になることになった。取りあえずここは安全だ。ゆっくりするといい」
しかし恭子はじっと宗介のことを眼鏡越しに見つめた。
「ソースケ君とカナちゃん、またなんかやっかいごとに巻き込まれたでしょ」
「い、いや……何事もない」
そう答えたものの、宗介は自分でも信じられないほど動揺した。
「あたしとカナちゃんは親友なんだよ」
どことなくひやりとした声で恭子は言った。
「だから何となく気がついてはいた……時々ソースケ君とカナちゃん、そろって姿を消すことがあるし。ここしばらくは何もなかったけど、でも、また、何か起きたんでしょ。そういう時の後って、カナちゃん、とってもつかれた顔してるもの……さっきもそんな顔してた。でも聞かれたくないんだって思ってたから、何も聞かなかった。だから今も何も聞かない。でもこれだけは答えて。また『何か』起こってるんでしょ、ソースケ君」
「……肯定だ」
そう答えることしか、宗介には出来なかった。
「分かった。約束だから後は何も聞かないよ」
恭子はにっこり微笑みながら言った。
「その代わり、カナちゃん泣かしたら許さないからね」
そう言って洗面台の方へ顔を洗いに行く。
宗介は自分がこの短時間にびっしょりと汗をかいているのに気がついた。
UVT予選二日目が始まり、コニーパレス有明に設置された巨大平面ディスプレイで実体無き兵器が戦い、フリーマーケットに人があふれ、ビッグサイトで創作欲が金銭に変わっていく中、もう一つの動きがここ、銀座に存在した。
大帝国劇場である。現在は二日にわたって、東京見物をしている巴里の人々向けの公演が行われている。
巴里からの観客を歓待する出し物として選ばれたのは、『カルメン』であった。
おや、と思うかもしれない。カルメンといえばフラメンコで有名なスペインを舞台としたオペラである。
しかしカルメンはれっきとしたフランス産のオペラなのである。1875年に巴里で上演され、初回が不評で作曲者が失意のうちに死んでしまい、その後に評価が高まったという曰く付きの作品である。
主役のカルメンにソレッタ・織姫、彼に恋するドン・ホセに桐島カンナ、闘牛士のエスカミーリョにマリア・タチバナという、とことんアダルティなキャストを配し、元のオペラから重要なエッセンスだけを抜き出して舞台劇化したものであったが、目の肥えたバリっ子にもこれが大受けした。後々ファンの要望により再演されることになるほどである。
そして4日の夕方、最終組の公演が無事に終了した。観客がバスに乗って次々と帰っていく中、帝劇の奥へと消えていく女性達の姿があった。
表向きは『シャノワール』のレビュアー達。しかしその実体は……
そう、もう一つの華撃団、『巴里華撃団』のメンバー達であった。
舞台が終わった余韻も醒めぬうちに、楽屋は手早く片付けられ、その姿を変えていた。織姫やカンナたちがシャワーで汗を流している間に、残りの隊員達がテーブルなどをセットしていく。壁には恒例の垂れ幕も掛かっていたりする。やがて大神も集計を終わらせてこちらに駆けつけてきた。
「どうにか格好が付いたみたいだな」
そこへ着替えの終わったマリア達もやってくる。ちょうど全員がそろった時、楽屋の入り口が開いた。
「こちらです」
椿の声と共に、何人かの女性の姿が見える。ちょっと緊張した大神が、ごくりとつばを飲み込んだ時であった。
「大神さ〜んっ! お久しぶりです〜〜〜〜〜っ!!」
ド派手な赤色をした、何となく耶蘇教の修道服のような服を着た栗毛の女性が、ズドドドドという音を立てつつ、いきなり大神に飛びついてきた。
「わ、わわわわわっ!」
声にならない声を上げる大神。その女性は大神の首根っこを捕まえ、そのままぶら下がっている。大きく見開かれた目が魅力的だった。それに加えてほんのりと匂い立つ香りと、胸にあたる柔らかいふくらみのダブルパンチで、大神の理性は危うく決壊しそうになるところであった。
「ちょ、ちょっと、落ち着いて……」
そう言うのが精一杯である。
もっとも、救いの手はすぐに現れた。
「いい加減にしろエリカ。気持ちは分かるが、今ここにいる隊長は我々の知っている隊長ではないと何度いった!」
マリアに匹敵する見事なブロンドの少女が、赤い修道服……だと思う……の少女、エリカを引っぺがしてくれた。
なんというか……マリアを若くしてすみれ君と織姫君のエッセンスを足したような女の子だな、と大神は思った。
少女はほんの僅かにだが、明らかな媚態を滲ませて大神のことを見ていた。
しかしそれもすぐに消え、毅然とした表情が残る。彼女の媚態に気がついたのは帝撃の女性陣でも大人の範疇に入る女性達だけであった。もちろん大神も全然分かっていない。
「失礼した。私はグリシーヌ=ブルーメール。そしてこれはエリカ=フォンティーヌ。そしてこちらがコクリコ、ロベリア=カルリーニ、北大路花火。以上五人、巴里華撃団の団員をつとめている。初めまして……大神隊長」
初めましての後に一瞬寂しさが漂ったのは気のせいか。
「あ、ずる〜い、グリシーヌ、一番いい所とった〜」
「お前があんなことをするからだ! 全く……」
ノリは完全にドツキ漫才である。その様子にまず紅蘭が、続いてアイリスが耐えられなくなり、ふぷっと吹き出した。いつの間にか笑いが帝撃側に伝染していく。
「ご、ごめんなさいね、笑ったりして……私、帝国華撃団、真宮寺さくらです」
笑いながらなので全然格好が付かない。
「あ〜ん、笑われてます〜」
「お前のせいだ!」
見事なボケっぷりとツッコミぶりに、ますます笑いが巻き起こる。
「り、李紅蘭や……ひっひっ」
「イ、イリ、イリス……あ、アイリスです……くくくっ」
全然まともな自己紹介にならない。
ただそのせいか、何とか自己紹介が一巡りした時には、お互いの間の垣根がすっかり取れていた。
「見ろエリカ、お前のせいですっかり私は漫才師扱いだ! 全くこの誇り高きブルーメール家の一員たる私が、なぜこのような屈辱を!」
「あ〜ん、ごめんなさい〜っ」
「……どう見ても半分は律儀に突っ込むグリシーヌのせいだぞ」
ロベリアにまであきれられるほど、彼女のツッコミは堂に入っていた。
ジュースやお酒も程良く回る頃には、乙女達は年の近いもの同志が仲良く会話をしていた。さくらと花火の間では日本古来の文化について話が弾み、そこにエリカがボケをかましてさくらがどんどん困惑し、大神が引っ張られグリシーヌが乱入しと、日本の文化がカオスの坩堝の中で重大な危機に陥っていた。コクリコとアイリスは今度は喧嘩することなく話が弾み、再会かなった両親の話もレニがうまく受け流したため、かえってうまくいっていた。紅蘭は巴里側から来た男性の一人、ジャンとこの世界の技術について熱心に意見を交換しあい、ロベリアはマリアやカンナといった大人の女性と、これまた大人の話をしていた。犯罪まがい、いや、犯罪そのものの話題も、かつて闇の世界に足を踏み入れていたマリアは拒絶することなく受け入れ、ロベリアも前の世界では気がつかなかったマリアの持つ深い闇に感心していた。恋人の扱いを巡っては少し熱くなったが。
その傍らではすみれと織姫がメルとシー、帝劇3人娘を交え、最新のファッションについての話で盛り上がっている。
そしてもっともアダルトな面々……米田司令とグラン・マ、迫水元大使、藤枝姉妹はもう少し真面目な話をしていた。帝都東京の霊的防御、自分たちのような霊力戦闘技術を持つ『GS』達の話、神魔の実在……どれもこれからの華撃団にとって欠かせない情報であった。
「あなた達も大変だね、ムッシュ・米田。あたし達がすぐに受け入れられた裏もようやく分かったわ」
「世界が変わっても都市の闇は深い、ということですな」
グラン・マと迫水はしみじみと言った。
「まあだいたい話は分かったわ。けど……いいのかい、ホントに」
「ああ……実際今が一番なんだよ。ここを逃すとこっちの隊員の強化は半年ほど延びちまうらしい」
「まあ最初は困惑するかもしれないけど……こっちは変な話、なれてるからね。ムッシュもすぐ馴染むと思いますわ」
話は大神を一時期、シャノワールへレンタルするということであった。
ここで話を少し戻そう。
今年の3月に、一日休みを取って、今度は帝撃全員で妙神山へ行った。小竜姫から修業の下準備が来たので一度来て欲しいという連絡が入ったからであった。今回の引率は令子達ではなく、美神美智恵、唐巣神父、そして西条の三人がつとめることになった。美智恵はこのとき、連合政府から、今後の魔族をはじめとする霊的侵攻に対抗するための組織の立ち上げを依頼されていた。前世界でアシュタロスに対抗した時の経験を買われての抜擢である。そのため彼女は各地の霊力戦闘能力を持つ人材、組織との接触に奔走していた。だがそれは決してうまくいっているわけではなかった。一例を挙げると、九州に存在していたという『あやかし特捜隊』は見事に空振りに終わった。肝心の霊力戦闘能力を持つ人物が融合前に旅立ったり、結婚してこの地を去っていたりで連絡が付いていなかったのである。そのほかいくつかの個人・組織をあたったが、どれも今ひとつ芳しい結果が出ていなかった。そんな中で帝撃は確実な実績を持つ、貴重な組織だったのである。
後の時代で警察庁霊力犯罪科……『オカルトGメン』と自衛隊秘匿対霊部隊『デビル・バスターズ』の双方を率い、魔霊戦役で八面六臂の大活躍をすることになる美神美智恵も、この時点では手駒の不足に悩むただの女性であった。
そして妙神山で小竜姫から、彼女らは修業に約1ヶ月の時間が必要なことを告げられたのである。
「華撃団団員のみなさんは、まだまだ霊的に成長する余地があります。こういう人にいわゆる促成栽培的な修業をさせると、せっかくの才能が完全に開花しきらない可能性が高いんです。じっくりとまず基礎を高めたいですね。出来れば全員一緒に」
そう彼女は言ったが、現実問題として帝撃は常に有事に備えていなければならない実働部隊である。全員が抜けることは不可能であった。だがここに巴里華撃団出現の報が届いていたのである。
そしてもう一つ、大神の持つ霊能力の特異性が小竜姫の指摘により明らかになったのだ。
「大神さんは修業する必要ありませんね。むしろ下手な修業は彼の持つ最大の力をたわめてしまいかねません」
小竜姫は大神や帝撃のメンバー達に対してそう言いきった。
「大神さんの力の本質は統合能力……自身の霊力はそれほどでもありませんが、制御能力と共感能力が桁外れに高いんです。ですから単独で行動しても大した力はありませんが、ちょうど今のみなさんのように複数の霊能者の中にいると、みなさんの霊能力に共鳴して飛躍的に力が増します。また逆にみなさんは大神さんがそばにいると、彼のおかげで霊能力の揺らぎが吸収されて遙かに力が安定し、効率が増します。特に大神さんとの間に強い信頼関係を持っていると、互いの霊力が共鳴して、双方共に霊力が強く発現することになります。まさに隊長をやるために生まれてきたと言っても過言じゃないですね」
「そう言えば、合体攻撃が発動できるときって、たいがい直前に隊長に助けられたりして、特に信頼関係が強くなっているときだったな」
マリアが今までの戦いを思い起こしつつそう言った。
「ですから大神さんはあまり修業しない方がいいです。もしするなら人と人との間に絆を結ぶ……いろんな人との交友を深く広く持つといいと思います。思いやる心、信じ合う心はそれがどんな相手であっても、すべて大神さん、あなたの力になります。人々の信頼を受けている限り、あなたは無敵でしょう。人の信を受け、天下万民の盾となる……それがあなたの定めなのです、大神さん」
「人の信を受け、天下万民の盾となる、か。いい言葉ですね。分かりました。俺はこの言葉を座右の銘として心に刻んでおきます」
小竜姫の言葉を、大神はありがたく受け取った。
「で、今回の検査の結果からすると……だいたい5月の頭に準備が整いますね。どうします?」
「うーん、そうしたいのはやまやまなんだがな、どうしても交代でになるかもしれん。帝都を空には出来ねぇからな」
このときはそう言って帰ったみんなであったが、この直後、巴里華撃団の話が飛び込んできたのだった。
何度かの話し合いの結果、後のことも考え、一月の間帝都の防衛を帝国華撃団に変わって巴里華撃団に担ってもらうことになったのである。帰ってきたら今度は巴里のメンバーが妙神山へ行くことになる。
そしてこの夜、彼女たちは妙神山へ向かって出発した。
だがこれが、ものの見事に裏目へと出ることになる。
さて一方、こちらは有明。
「ではよろしく頼む。明日の朝までには戻る」
「任せなさい、かなめさんの安全は、一族の誇りにかけて守るわ」
宗介は慶一郎と共に、一旦自宅へ帰宅することにした。
装備を整えるためである。相手がガウルンとなったら、今の純粋に護身用の装備では持ちこたえることは難しい。そのため、必要となる銃器その他の装備を取りに行くことになったのである。
慶一郎が一緒なのは、運搬のために車を出してもらうことと、慶一郎自身も銃器の扱いに長けているためである。
2人は、まず電車で大門まで戻り、そこでジープに乗り換えて宗介の部屋に向かうことになる。そして宗介は、飛天神社で少々驚くことになった。
「いくか、慶一郎」
「はい」
そこにいたのは、老いてなお立派な人物であった。背が高く、カリーニン少佐のような力強さと包容力にあふれている。
自然と宗介の頭が下がった。
「……いい若者だな。修羅道にありながら菩薩の心を忘れていない。最近の腐ったような若者とは一線を画しておる。これならあの弟子とも気が合うのではないか」
後半はどことなく笑いが滲んでいる。
「まあ……確かに、鉄斎先生」
慶一郎も苦笑いを浮かべた。そして宗介の方を向くと、慶一郎はおもむろに紹介を始めた。
「相良君、こちらは鬼塚鉄斎先生。御剣の師匠であり、美雪ちゃんのお爺さんにあたる。ちなみに先生は人を切れる剣術の達人だ」
「相良、宗介です」
宗介は一礼して名を名乗った。そして、思った。
不思議な、人物だ、と。
かなりの老齢なのに、なぜかその内側から、弾けるような若さと荒々しさがにじみ出ている。戦士の本能は絶対敵に回すなと語っているのに、なぜか挑みたくなる。
それでいて奇妙に懐かしい。ぴんと張った鋼のような雰囲気が、どこか宗介の心の琴線に触れるのだ。
そして思い出した。
マジードに似ているのだ。そして、ヤコブにも。
ちなみにマジードはかつて宗介がアフガンゲリラの一員として『カシム』の名を名乗っていた時のリーダーであり、ヤコブは彼に戦いの術を教えた老戦士だ。
もちろん姿形は全然似ていない。しかし魂の奥底に、何か共通するものがある。
宗介にはそれにふさわしい言葉を知らなかった。だがそんなものはどうでもいい。宗介はただ、この人物は信頼できる、それだけを心にとめた。
そしてもう一度、宗介は深々と礼をした。
鉄斎は、なぜかにやり、と微笑むと、三本の杖を小脇に抱えたまま、ジープに乗り込んだ。
「おい、若いの……宗介、とかいったな。早く乗れ」
「はい」
つい敬礼して返事をしてしまう宗介だった。
米軍払い下げ、年代物のジープが、タイヤをきしませて出発していった。
車は小一時間ほどして、調布市泉川の、宗介のアパートに到着した。
部屋にはいると、宗介は隠してあった装備を手際よくまとめた。武器だけでなく、無線機や防弾チョッキのたぐいも複数用意する。そして宗介は、とっておきの秘密兵器を運び出した。
「で、なんだい、こりゃ」
宗介が運び出してきた、高さ2メートル、縦横1メートル弱の箱を見て慶一郎は呟いた。
座席が一つ完全につぶれている。
「秘密兵器だ」
宗介はただそう言うだけで、特に説明はしなかった。
そしてその日の夜。
防衛省は、てんてこ舞いの忙しさであった。
「デフコン5が発令された! 直ちに警戒態勢に入れ!」
このほどようやっと稼働し始めたSOSUS網に、正体不明の音波が感知された。
何者かがSOSUS網を突破し、日本に向かっていることは明らかであった。
データを分析した結果、それはかなり巨大な潜水物体であることが明らかになった。
しかもその速度が常軌を逸していた。推定60kt。青の6号どころか、TSLやムスカ級より速いのである。
山本幕僚長は直ちに動いた。目的は不明だが、とにかく敵が速すぎる。その速度故、まともな追跡は不可能である。航空機を除いて、そもそも追いつくことが出来ないのだ。何とか待ち伏せるしかない。
だが謎の潜水艦はこちらの動きをあざ笑うように消息を絶った。
「気にくわねぇな」
東京沿岸を航海中だった深町一等海佐は、ぎりりと奥歯を噛みしめながら言った。
現在彼は新たに配備された青の6号『りゅうおう』のコピー艦である『たつなみ』(二代目)の艦橋にいた。本家にあるいくつかの特殊装備は運用が難しいため省かれていたが、その代わりにSCEBAI特製の新型センサーをいくつも付けている。実用度はこれから検証予定……つまりはテストだ。深町はあまり信用していない。
現在進水してから3ヶ月、ようやく乗組員達もこの艦になれてきたところである。
そんなところにデフコン5が発令され、それも海底からの侵入に対する警戒と言うことで、深町達にも動員が掛かっていた。
「でも何故我々はここなんですか?」
そんな意見が部下からも出る。
「情調が東京湾岸からテロリストが上陸するかもしれないって言う情報をつかんだらしいぞ。ま、噂だがな」
デフコン5を伝えた通信士が、同時に伝えてきたのだった。
場合によってはこここそが本命になると。
「やはり焼津を襲った奴ですかね……」
「いや、アレはあんなめちゃくちゃな速度は出なかったという。別口だろう?」
現在ターゲット艦はロスト中。全くと言っていいくらいSOSUS網からも消えてしまっている。
「消え方があいつそっくりだ……貴様じゃねえだろうな、海江田」
深町の頭の中には、前の世界で海江田が見せつけた奇跡のような操艦が、頭の中で渦巻いていた。
「大作も涼子も、南雲すらおらん。いったいどこいっとるんや」
明日の大会に備えてホテル入りした草g静馬は、寝心地のいいベッドに横たわりながらそう呟いた。
「けど有明っちゅうのは、結構遠いんやな」
バイクをかっ飛ばしてきたため、それなりにつかれていた静馬は、そのまま豪快に寝てしまった。
その後様子を見に訪れた大作も、いびきをかく静馬をみると、メモを残してそっと去っていった。
そして、夢と、希望と、熱き戦いと、重い絶望と、激動する運命を抱き込んだ、五月五日が明ける。
その日、日本連合は熱く燃えた。
少々暑苦しいほどに。