裏側の勇者達

エピソード2 神秘学への道 その1


F−part









 修業場の扉を抜けると、そこは銭湯だった。意識の底が白くなった。

 「……」
 「……」
 「……」

 まじめに修業のことを考えていた三人、大神、カンナ、すみれの3人は、ものの見事に絶句していた。

 「あの……ここが」
 「本当に日本……いや、世界でも有数の霊的修業場なんですの?」
 「何でそこいらへんにでもありそうな銭湯なんだよ……」

 さすがにここで美神さんが爆笑した。

 「ま、さすがにそう思うわよね」
 「ひどいじゃないですか、美神さんまで」

 小竜姫も顔を真っ赤にしている。

 「ごめんごめん」

 謝りつつも、美神さんは花組のみんなに向かって言った。

 「ここは玄関みたいなものよ。本当の修業場は期待に違わぬ所だから安心して」
 「なんでぃ、びっくりさせんなよ」

 どうやら一番張り切っていたカンナが元気よく答えた。
 ところが、そのとたんなぜか小竜姫は下を向いた。

 「……どうかしたの?」
 「それが……いろいろ事情がありまして、しばらく修業場は使えないんです」

 一同はものの見事にずっこけた。


 「全く、どっちにしてもすぐに修業できる訳じゃなかったのなら、先にそういえばよかったのに」

 美神さんはたしなめるように言った。

 「とりあえず順を追って説明しますから」

 やや離れたところから小竜姫の声がする。
 以前は単なる銭湯だった修業場の門前は、ちょっとしたクアハウス並の設備に建て替えられていた。

 「実は時空融合のあおりもありましたので、ちょっと改修したんです」

 お茶を持ってきながら、小竜姫が説明する。今皆がいるのは、ちょっとしたサロンであった。
 そこで一同は、あまりにも衝撃的な話を聞かされていた。

 「修業場が使えないのは、この時空融合は、この人界だけでなく、天界、魔界にまで及んでいるせいなんです」

 この一言で、全員がものの見事にせっかくのお茶を吹き出した。

 「な、何よそれ!」
 「……まあ、こうして神様が目の前にいる以上、今更驚くことじゃねえのかもしれないけどな」

 美神と米田、見事に対称的な二人であった。

 「天界の最高神がどかっと出現したりして、一時は物凄く大変でしたけど、元々天界は平和主義者が多いですから、割とすんなり意思の統一が出来ました。地上の宗教界が、覇を競ってるのとは大違いですね」

 ちょっと落ち込む人間達であった。

 「それに同じ神格の神様は、そのまま合体して一人になるって事も出来ましたからね。同じ存在が複数存在しても別に問題なかったですし。そういう点でもあそこまで混沌となった人界……特に日本なんかはずいぶん立派ですよ。あっという間に立ち直りましたもの」
 「あの首相が出来た人ですものねー。うちんとこのボケ総理とは大違いだもの」
 「俺も同感だな。大神はどう思う?」

 いきなり話が政治談義に切り替わって、大神は混乱した。

 「いいっ、いや、その、立派な人だと思います」
 「そうか、よく見習っとけよ」
 「は?」

 大神は米田が何を言おうとしているのか分からなかった。
 それを見て米田は小さく呟いた。

 「……まだちと早いか」
 「あの、なにか」
 「いや、いいって。悪ぃ、話を続けてくれ」

 米田が頭を下げた。それを受けて小竜姫は続きを話し始めた。

 「で、天界はどうにか収まったんですけど、問題は魔界でした。ある程度パターンのあった天界に対して、魔界は文字通りの混沌の坩堝となりました。元々仲間内でも争いのある魔族です。融合直後はちょっとした大乱闘になりました。
 今ではだいたい収まりつつありますが、困ったことに魔界の勢力は大きく2派に割れてしまいました。穏健派と過激派です。
 穏健派は私達の世界をはじめとする、神魔のバランスの取れたデタントの世界から来た魔族が中心となっていて、今まで通りの世界を維持する事を目的としています。対して過激派は、思いっきりハルマゲドンを起こしたがっている一派です」
 「おいおい……」

 米田があきれたような声で言った。

 「そんなのが起こっちまったら、この世はどうなるんでい」
 「まず人類は滅亡ですね」

 あっさりと小竜姫は言った。

 「冗談じゃありませんわ!」

 すみれもその言葉に激高する。

 「勝手に巻き添えを食らって人類滅亡なんて、絶対認めませんからね!」
 「当然神様達もそんなことは見過ごせません」

 まあまあ、と、すみれをなだめながら小竜姫が言った。

 「ただ、幸いというか不便というか、あの天に掛かる相剋界が、魔界の暴走を押さえてくれました。あそこは無数のパラレルワールド……いろいろな世界が、ごちゃ混ぜになっているところですから、外からはともかく、中から外へは神様ですらまず出られません」
 「どういう事? 光なら通れるんでしょ。なら光の属性の神様なら通れるんじゃ」

 美神さんがなかなか鋭いことを言う。

 「いえ、むしろ神様だから通れないんです」

 小竜姫の言葉はほかの人間にとっても意外なことであった。

 「融合したとはいえ、この世界に所属している人間に対し、神様は本質的に高位次元……こことは別の次元に所属しています。ですから、上から下へは道がつながっているんですけど、帰ろうとすると相剋界という、ランダム時空に引っかかっちゃうんです。上から下へは目的地が一つですが、下から上へは無限になっちゃいますから。神様といえども、刻々と変化し続ける相剋界の中から自分のいる世界を固定化し続けるのは無理ですよ」
 「なるほどね……」

 美神さんが納得したところへ、今度は米田が口を挟んだ。

 「おいおい、それじゃ相剋界は絶対突破できねえのかい?」

 米田司令には直接知らされてはいなかったが、相剋界の突破が重要な問題であることは彼も認識していた。

 「いえ、むしろあなた達の方が可能性がありますよ」

 小竜姫はそう答えた。

 「天界・魔界の者にとって、自分の故郷の世界と完全に切り離されることは絶対の消滅を意味しますが、人はそうではありませんから。肉体という、かけがえのない魂の故郷を持っている人間は、その存在そのものが一つの世界です。たとえ異世界に行っても消滅しませんから、その分遙かに有利です」
 「神様やってんのも大変なんだな」

 カンナがぼそりと言った。

 「苦労はどんな存在にも付き物です。あ、また話が少しずれましたね」

 お茶のお代わりを入れつつ、小竜姫は先を続けた。

 「先ほど言ったような事情で、天界や魔界の存在にとって、今この人界は一方通行の世界になっています。降臨や召還は可能ですが、一度この地に降りれば、少なくとも相剋界が消えるまで、二度と天界や魔界には帰れません。ですからよほどのことがない限り、人界でハルマゲドンが起こることはないでしょう。ただ、すでにこの地に存在している者は別です」

 最後の部分だけ言葉が鋭くなったのを、ここにいるみんなは聞き逃さなかった。

 「どういう事です?」

 みんなを代表するように、大神が聞いた。

 「この事情が判明する前に人界に降りた魔の者がいます。また、私のように最初から人界にいた神族や魔族、そして、片道切符を覚悟の上で人界に降りてくる魔界のエージェントなどは、当然この人界に関わってくるでしょう。特に都市の霊的防御を担う帝国華撃団のみなさんは、こういう存在と直接関わる機会も多くなると思います」
 「となるとますます修業しなきゃな」

 カンナがまだ見ぬ強敵を相手に闘志を燃やす。

 「はい。そのことは天界でも重要視していました。ですから準備が出来次第、あなた方にはここで修業する機会があると思います。あとで一人エージェントを送るという報告もあります」
 「天の、御使いですの?」
 「詳しくは私も知りませんので、それは後ほど。あと、そんな絡みもあって、紹介しておきたい人達がいます。もうそろそろだと思うんですけど」
 「そろそろ?」

 美神さんが不思議そうに言う。

 「はい。実は私と同じ、地上に降臨していた神族が、神力の調整のためにここに来ているんです。それがもうすぐ終わると思いますので。修業場が使えないのはそのためなんです」
 「ああ、そういえば来客があるって言ってたっけ」
 「どんな神様でしょうね。出来れば麗しき女神様ならいいんだけど……」

 美神さんや横島は平然としていたが、さすがに花組はそう落ち着いてもいられなかった。

 「おいおい、まだいるのかよ。今の日本は、結構人外魔境だな」
 「悪魔王サタンと戦ったあの日が、妙に遠く感じられますね……」

 呟く言葉も重い。
 そのとき、がらがらと扉の開く音がした。

 「あ、どうやら終わったみたいですね」

 小竜姫が立ち上がる。彼女の視線を追ったみんなが見たのは、
 浴衣を着た湯上がりの麗しい乙女達であった。
 彼女たちはあまりにも美しかった。横島がそのまま硬直して、飛びかかるのを忘れるくらい。

 「お疲れさまでした。どうですか、調子は」
 「ええ、もうすっかりよくなりました」

 答えたのは清楚という言葉がぴったり合いそうな美しい女性であった。その声も風のように涼やかに響く。

 「調整方法が泡風呂なのにはびっくりしましたけど」
 「竜脈から流れてくる神力を『地』と『火』と『水』と『気』の四元素を兼ね備えたものに宿らせようとすると、どうしてもそうなっちゃうのよね」
 「『地』より涌き、『火』によって熱せられ、内に『気』を取り込んでいる『水』……確かに発泡温泉だわ」

 そういったのは妖艶という言葉の似合う女性。やや浅黒い肌が、この人にはよく似合う。ややはすっぱな口調に、情熱という名の炎が絡んで見えた。

 「ちなみに成長を促す効果もあるから、あんたの胸もちょっとは育つんじゃないの」
 「ひどーい、ウルド」

 返事をしたのはまだ幼く見える女性。女の子、といった方がいい年頃。溌剌としたその様は、まさに水が弾けるよう。

 「ウルド……?」

 そしてその名に美神さんが反応した。

 「あのさ、小竜姫様」
 「何ですか、美神さん」

 彼女はおそるおそる小竜姫に耳打ちした。

 「あのさ、あの三人……残りの二人って、ヴェルダンディとスクルドって言う名前じゃない?」
 「……お知り合いですか? 別の世界出身のはずですけど」
 「ノルンの三女神じゃないの! 北欧系の大物よ! 世界樹ユグドラシルの管理者」
 「あら、よくご存じで」

 清楚な美女……ヴェルダンディが答えた。

 「確かに私たちはユグドラシルシステムの管理をしていましたけど」
 「バグ取りに追われる毎日だったけどね」

 いきなり飛び出した妙に現実的な言葉に、美神さんの気力が一気に萎えた。

 「聞かない方がいい気がする……」

 その脇で、スクルドが小竜姫の袖を引っ張っていた。

 「ね、ね、小竜姫さん、この人た……ち……」

 この人達は、と聞こうとしたのであろうが、その言葉がなぜか引きつりと共に中断された。顔を真っ赤にし、口元に力を込めて小竜姫の着物の袖に顔を埋めている。
 まるで……笑いをこらえているような……?
 みんなが不思議がっていると、ぷはっと息を抜いたスクルドが今度はウルドの元に行った。

 「どうしたのよ、スクルド」
 「姉さん、あの人」

 彼女の視線はすみれに向いていた。

 「人のことをじろじろ見るのは失礼……ぷははははっ!」

 こちらは耐えきれなかったのかいきなりひいひいと笑い出した。

 「何ですの! いきなり人のことを見て笑い出すなんて失礼じゃありません事!」

 と、それに割ってはいるように、再びがらがらと扉が開いた。
 中から出てきたのはタオル一枚の男性と、なぜか手にスポンジを持った女性であった。

 「わーっ、勘弁してくれ、ペイオース!」
 「ですからお背中をお流ししてあげるだけだと」

 とたんに三人の女神様が反応した。

 「螢一さん!」

 ヴェルダンディがカンナの目にすらとまらないスピードで螢一を確保し、ウルドとスクルドが見事なコンビネーションでペイオースといわれた女性を押さえ込んだ。

 「油断も隙もないわねっ!」
 「……着替えが遅いのかと思っていたら、こういう事だったのか」
 「別にあなた方に文句を言われる筋合いはございませんわっ!」

 スクルド達に押さえられたペイオースがそう叫ぶ。

 「ペイオース」

 そして彼女の前に、妙に迫力のあるヴェルダンディが立った。
 スクルドとウルドの目に、何かを期待する光が浮かぶ。

 「螢一さんは強制力の解除と再調整という大事な儀式の途中なんですよ。それを邪魔しないでください」

 期待の光はがっかりに変わっていた。

 「お姉さまったら……」
 「ホントに真面目なんだから」

 美神達一同も、あっけにとられたままこの一幕を見ていた。

 「花組のみんな並だな……」

 大神のつぶやきが、すべてを物語っていた。


 「そうそう、こんな事してる場合じゃありませんでした」

 先ほどの男性……森里螢一は、なんでも大事な作業の途中だったとかで、美女達にタオル一枚の所を見られ、真っ赤になりながら奥へ引っ込んでいった。小竜姫は彼を送り届けると、改めてお互いを紹介すべくみんなの方を見た。

 「?」

 なぜかその場が異様な緊張に満ちていた。
 場の中心にいたのは、二人の美女であった。
 一人は帝劇の誇るトップスター、神崎すみれ。
 向かい合うのは四人目の女神様。華麗という言葉の似合う大輪の薔薇、ペイオース。
 二人はじっとお互いを見つめていた。
 何か信じられないものを見るように。
 そして周りの人達は……必死に笑いをこらえていた。

 そう


 ふたりは



 まさに『うり二つ』であった。




 ただでさえそっくりなのに、服装の好みも、放っているオーラまでもが、鏡でも見ているかのようにこの二人はよく似ていた。

 「わたくし……神様の親戚はいないはずですけど」
 「わたくし……人間の親戚はおりませんけど」

 二人の言葉がハモった瞬間、あたりは爆笑に包まれた。


 結局この日は、神人混交の大宴会となった。


 「へえっ、ユグドラシルって、コンピューターのでかいやつだったのか」
 「そうよ美神お姉ちゃん、ま、世界そのものを管理するものだから、規模も複雑さも桁違いだけど」
 「ふーん、じゃあなた、こういうのには詳しい?」
 「よーっ、森里君とか言ったな、すげえじゃねえか、女神様を恋人にするとは、まあ飲め飲め」
 「よ、米田さん、いきなりそんなには……」
 「何かと苦労も多いんだろう」
 「ええ、でも楽しい苦労ですから。でも大神さんって、僕と大して年が違わないんですよね。でもなんか、ずっと大人に見えます」
 「そんなことはないさ、俺だってまだまだ若造だよ」
 「うらやましいっすーっ!」
 「わ、何だ、横島君」
 「ヴェルダンディさんと相思相愛の上、あんな美女、美少女に囲まれて」
 「そういう君も結構もててるじゃないか」
 「そんなことないっす!」
 (若いなぁ……)
 (若いですね……)
 (何か急におじさんになったような気が)
 (俺も)
 「あ、その唐揚げあたしの!」
 「酒がたんねーぞー!」
 「あなた、帝国歌劇団とかいうところの『トップスター』なのですね」
 「ええ、そうですわ」
 「さすがに女神たるあたくしにそっくりなだけのことはありますわね」
 「へぇ、そっちの世界じゃこういう部品使ってるのかあ」
 「こんなのもあるけど」
 「なにこれ……ああ呪符ね。こういうのはお姉さまの方が得意よ」
 「え、ほんと!」
 「あ、お姉さま〜」
 「……」
 「……」


 夜は更けていく……


 翌朝、全員が修業場の異空間に集合していた。

 「かーっ、さすがは神様お墨付きの修業場、こういう仕掛けだったとは」

 カンナは素直に感心している。

 「でも何でわざわざ集合を?」

 いぶかしげに聞く大神に、小竜姫は真面目な顔をして答えた。

 「今朝方天界より連絡がありまして、帝都駐在のエージェントを一人降臨させるとのことです」
 「帝都、ですか? 東京じゃなくて」
 「はい。会えば分かる、とのことでしたけど」

 よく分からないままであったが、そのとき、天空から一筋の光が降ってきた。
 荘厳な眺めに、一同、声も出ない。
 やがて光の中に、純白の翼を持つ天使のような姿が見え始めた。
 そしてその光が、かなり離れたところに降り立った。

 「……? ずいぶんずれてますね」

 小竜姫は不思議に思いながらも、みんなを引き連れてそちらに向かった。
 と、その足が急に止まる。
 光の御使いから、紛れもない瘴気が吹き出したのだ!
 美神さん達も、花組も、女神達も、一斉に身構えた。
 瘴気の中から、先ほどとは違う、黒き羽を持った人影が現れる。

 「どういう事?」
 「まさか、御使いに何か……」
 「魔族の侵攻ですか」

 人影は女性のようであった。白い肌に、黒いボンテージファッションが光る。

 「美神さんよりイケてますね……」
 「よけいなことは言わないの! あの魔力の強さ、感じてるでしょ!」

 ただし言葉だけで、手が出ないあたり、美神さんも緊張している。
 そのとき、魔物の口から言葉か漏れた。


 「久しぶりね、大神君」


 「ま、まさか!」
 「そんなはずは!」

 大神と米田の口から、絶叫ともいえる叫びが発せられた。
 そして目の前の魔……すさまじく美しくも妖艶なその魔物から、急速に魔気が抜けていった。
 気がついてみればそこにいるのは、美神さん達よりやや年上の、落ち着いた美女であった。
 なぜか旧陸軍の制服を着ている。
 そしてその女性は、大神達を横目に見ながら、小竜姫の前に立って、敬礼しながら言った。

 「天界所属名、天使ミカエルの24、魔界所属名、上級降魔殺女、そして、人界名藤枝あやめ、人界帝都駐在任務に着任いたします」
 「かしこまりました」

 小竜姫も敬礼を返す。
 そしてあやめは、あっけにとられている大神と米田の前に行くと、昔と同じように微笑んだ。

 「というわけですから、よろしくお願いします。米田司令、そして、大神君」
 「「あやめさん!」」

 カンナとすみれが、あやめに飛びかかって抱きついていた。
 しかしその影で、米田は浮かない顔をしていた。

 「司令……何か問題でも?」
 「いやな、一連の出来事を、どう報告しようかと思ってな。こんな突拍子もねぇ話、上が信じると思うか?」
 「それは関係ないのではないでしょうか」

 大神はそう答えた。

 「上にどう取られようと、ありのままを記述する……これが努めではないでしょうか。特に我々の判断力など飛び越してしまっている今の状況は」
 「それもそうか」

 米田は大きくうなずいた。


 そしてその影で。

 「……半神半魔?」
 ウルドがそっと小竜姫の耳元でささやく。

 「もっとややこしいらしいですけど。ただ、今魔界がらみの事件に関わっているのと、神魔双方の属性があるんで、彼女が地上にいれば、ホットラインの接続が可能になるんだそうです」
 「……その役、あたしの所にこなくてよかったわ」

 ため息をつくウルドであった。

 「でもなんか大変らしいですよ。ミカエルとしての彼女が封じていたサタンの化身の一つが、この時空融合で行方不明になってるとか。元々地上に強い憎しみを持っている化身ですし、機械技術にも通じている人だったそうで」
 「機械技術? 聞き捨てならないわね」
 「そうじゃないでしょ」
 「やれやれ、アシュタロスが終わったと思ったら今度はサタン? 当分仕事が無くなるおそれはなさそうね」

 再会の喜びに花組が沸く中、美神さんはしみじみとそう呟いた。




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