作者:アイングラッド

スーパーSF大戦

第23話


7/2 午後

横島ファイル・パート

 横島忠夫は美神除霊事務所による平日昼間の拘束によって、いままでの出席率は芳しくない物であった。
 だが、先日の美神美智恵による美神令子との接触禁止により、彼も普通の高校生として朝のホームルームから出席を果たしていた。
 もっとも、彼が何日も連続して朝から出てきた時にはクラスメイト達から不安がられ、本物の横島なのかクガダチによって判断させようという意見もあった様だが。
 まあ、それは兎も角、それまでの様にアルバイトに専念している割には極度の貧乏暮らしをしていたハングリー精神逞しすぎる横島が、ピートに差し入れられた弁当を横取りする事もなくパンを買って食べていると、放送部による昼の番組が中断され校長による『傾聴』の声が響いた。
 ♪ピンポンパンポーン♪↑

「えー、おほん。全校生徒へ、本日十二時過ぎに政府により静岡県、神奈川県、東京都と埼玉県の一部に敵襲警戒注意報、避難注意報が発令された。先生方とも検討した所、本日の午後の授業は中止、注意報が解除されるまでの間は学校を閉鎖する事に決定された」

 そこまで校長が喋ると、各教室からドッと歓声が上がる。

「静かに、各生徒はこれから担任の先生が教室に戻るから、直ぐに着席しホームルームにて諸注意を良く聞く事。特に横島! 暇になったからと云って外に出て軟派なんぞするなよ。以上」

 ♪ピンポンパンポーン♪↓

「コラーッ! 人を名指しで指名してんじゃねーっての。俺が一体何をしたんじゃ」

 そう言って横島は吠えるが、彼の近くで同じく食事を取っていた大男のタイガー寅吉『通称・タイガー』と美形のヴァンパイアハーフピエトロ・ド・ブラドー『通称・ピート』が苦笑しながら突っ込む。

「流石校長、押さえるべき相手をしっかりと抑えてますジャ」
「あに?!」
「ハハ、横島さん。やはり普段の行いが…」
「ううっチクショー。俺が何をしたんだってんだ」

 自分だけが名指しで呼ばれた屈辱に思わず愚痴る横島だったが、まじめな性格のピートはいちいちそれに取り合い、横島が引き起こした数々の事件を列挙しようとする。

「そうですねー、例えば…」
「良い…、言わんで良い。チクショー、なんだかとってもチクショー」

 流石に今まで自分が何をしてきたかの自覚はあった様で、やり場の無いストレスを発散させる為、窓を開け放ち叫んだ。

「青い空なんか、大っ嫌いじゃーっ!!」
「夕陽に向かって遠吠え、青春だわ」

 まるで一昔前のスポ根青春群像劇みたいに窓の外に向かって大声で叫ぶ横島を見て、セーラー服の机妖怪『愛子』が呟く。
 ちなみに窓は東向きだし日没まで六時間以上あるのだが、そこの所はいつもの事だ。

「おらーっ静かにしろぉ。こら横島、叫んでないで早く席に着かんか。ホームルームを始めるぞ」
「ウィーッス」

 そうして担任による学校閉鎖の知らせと、自宅での避難注意、その他諸々の諸注意が終わると、生徒達は一斉に教室から飛び出していった。
 当然の事ながら部活動も禁止、今日ばかりは全員が帰宅部である。
 横島もそれらの内に入っていたのだが、彼が校門を出ようとした所でポケットが震えた。

「っと、携帯か…隊長からか。また厄介な事なんだろうなぁ〜」

 ブツブツと呟きながら彼は携帯を取ると、耳に近付けた。

「ハイ、横島です」
『あ、横島クン? 美智恵です。これから出て来られるかしら』
「えー、隊長。学校から自宅でおとなしくしてろって言われてんスけど」
『大丈夫、私が公的な任務で彼方の事を呼び出しているのですから、心配する事はありません』
「なるほど…了解しました。で、何処へ行けば良いんです?」
『取り敢えずオカルトGメンの事務所まで来て頂戴。後の事はそこで説明します』
「うっ…あそこですか…」

 その場所を聞いて横島は躊躇した。
 何しろオカルトGメンの事務所は美神除霊事務所の直ぐ隣にあり、もしもバッタリ令子と鉢合わせしてしまったらかなり気まずい。

『あ、令子だったらまだ事務所に来ていないみたい。ここの所、姿を見せていないのよねー。ま、あの頑固者でも流石に反省したって所でしょ。心配しなくても大丈夫よ』
「えっ、本当に大丈夫なんですか?」
『母親の私が言うんだから間違いないわ』

 と、美智恵は自信満々に断言した。
 とは言え根拠は令子の性格による物だけに、信憑性は高い。その為、横島はあっさり頷いた。

「へーい、了解しました」

 と云う訳で横島は私鉄に乗って美神除霊事務所の隣にあるオカルトGメン事務所へと顔を出した。

「ちわーっス。横島ですけど」

 赤いバンダナと云う分かり易い特徴を持った少年が顔を出すと、オカルトGメン設立の為に稼働を始めた事務方の面々(美人も多い)も挨拶を返す。
 当然の様な顔をしている横島の顔はこの場にいる全員が知っている。
 何しろ横島は彼らオカルトGメンにとっても重要な人材なのだ。
 彼ら事務方の人間はオカルトGメンに所属しているとは言え、基本的に霊力を持っていない普通の人々である。実働班のメンバーもチラホラと顔を出してはいるのだが、時空融合前の時点に於いても独立して開業できるような強力な霊能力者は少なく、強力なオカルトアイテムの多用によって除霊を行っていたのである。
 よって時空融合によって出現した霊能力の実在を疑問視している数多くの一般市民にオカルトGメンの有用性を示すには、彼の様な強力な霊能力者の存在は欠かせず、又、オカルトアイテムの生産技術と工房が喪失してしまった今、独力で何でも出来る彼は実に貴重な人材なのだ。
 この組織の未来は彼の双肩に掛かっていると言っても過言ではなかったりする。
 とは言え、別の世界にも霊能力者の存在が確認されていた上、オカルトGメンがそれらの代表として霊能力者の組織作りを主導している現在、唯一無二という訳でもないのだが。
 又、オカルトアイテム自体も友引町の錯乱坊何某と云う自称高僧やその姪である巫女さくらによる札、注連縄、祓い棒などの別系統のオカルトアイテムの作成も進められている為、このオカルトGメン事務所は除霊作業自体は開店休業状態であるにもかかわらず、果てしなく忙しい状態であった。

「横島クンか、美神隊長なら事務長室にいる。珈琲が飲みたいなら自分で淹れていってくれたまえ」

 そう言って目の前のPCに向かって書類作成をしているのはオカルトGメンの中では珍しく霊能力の高い西条輝彦という男で、腰まで伸ばした長髪を振り乱して作業を続けていた。
 横島が横目で西条の事を観察してみると、ダンディーで決めている彼の目の下には厚いクマが出ており、疲労の色が濃い。
 実家が資産家で、美神美智恵の直弟子でもある彼は『高貴なる義務』をモットーとしており、自らがそれに従わなければならない人材であると自負していた。
 よって美智恵に扱き使われている訳だ。
 普段なら彼と横島は前世からの因縁めいた対立関係にあり、即座に険悪な状態になる事が多いのだが、今回ばかりは横島もちょっかいを出す気はなく、「ウーッス」と言ってそのまま事務長室へと入っていった。

「ちわーっス隊長」

 ノックもせずに扉を開けて部屋にはいると意外な人物がいた。

「あ、横島さん」
「おキヌちゃん、どうしたの?」
「あ、はい。コレから実家の方へ行こうとしてた所で」
「にぃにー」

 おキヌと話していると横島の太股の辺りにボフッと圧力を感じた。
 思わず下を見ると今年二歳になる美神美智恵の次女、ひのめが嬉しそうに巻き付いていた。
 おキヌは思わず苦笑して話を継ぐ。

「ひのめちゃんを預かって、今から人骨温泉の実家に向かう所だったんです」
「ふーん、おキヌちゃん帰っちゃうのかぁ」
「あ、で、でも直ぐに帰ってきますよ。それにシロちゃんとタマモちゃんも一緒ですし」
「それは、却って大変じゃない?」
「えへへ…。大丈夫です。シロちゃんなら電車から落ちても匂いを嗅いで追いついてくるでしょうから」
「…あはは…なるほどね」

 深読みすると怖い考えになりそうだったので、横島は話を変える事にした。

「ひのめちゃん、おキヌちゃんの言う事を聞いて大人しくできるかなぁ?」

 そう言いながら彼はひのめの脇の下に腕を入れて顔の上へと持ち上げた。
 母親と充分なスキンシップをしているとは言え、この様なダイナミックなアクションで遊ばれる事が少ないひのめはキャッキャキャッキャと歓声を上げる。

「あ、そろそろ電車の時間なので、横島さん、隊長、行ってきますね」
「おキヌちゃん、気を付けてね」
「ひのめの事よろしくね、氷室さん」
「はい、では行ってきます」

 そう言うと彼女はペコリと頭を下げ、ひのめの手を引いて部屋から退出して行く。

「にぃにー、ばいばい」

 バタム。

「ふぅ、さてと横島クン」
「ハイ隊長」

 横島は少しばかり緊張しながら返事を返す。
 何しろ、美智恵関係の仕事は厄介な事になると、大概は決まっていた。
 彼の緊張も経験則から言えばおかしな物ではないのだ。
 この目の前の美しい女性は見た目の華やかしさと同等以上の苛烈さを以て行動する事を知っている。
 なので、この様に何らかの意志を込めて睨み付けられると、非常にストレスを感じるのだ。

「あの…隊長?」

 沈黙が痛かったので何やらアクションを起こして貰おうと声を掛けてみるが、ジロリと見返される。

『ううっ、一体俺が何をしたっていうんじゃぁ!』
「横島クン」
「ヒャ、ハイ!」
「ヒノメったら横島クンばっかりに挨拶してぇ、横島クンずるーい。実の母親を無視して行っちゃうしぃ〜、シクシク、私ったら『また』子育てに失敗したのかしら…」
「あ゛〜…隊長ぅ〜」

 そうであった。この目の前の女性はそれ以上に子煩悩であったのだ。
 しかも最初の子供、美神令子の子育てには『壮絶に』失敗したと、当の本人である令子を除く関係者全員が認識していた。
 厳しく躾て後に対アシュタロス対策での都合上とは言え、疎遠にしていた父親に子育てを任せるという放棄主義的な環境に令子を放りだした事情があったので、積み木崩し的な、それはもう壮絶に苛烈な人格へと成長を遂げてしまったのだ。
 現在の令子の特徴を論うとすれば『自らを魂の父親と名乗ったアシュタロスの、令子の前世である女悪魔メフィストフェレスから刻印されていた魂の呪縛をも打ち砕く、父親と云う存在に反発するファザーコンプレックス』『現世利益最優先の金の亡者』『自らの為なら他者の都合を顧みない利己主義』等が挙げられる。
 それが彼女の土壌である『人の良さ』、『聡明な頭脳』、『圧倒的な霊能、身体能力』の上に成り立っているのだから、もう訳が分からない人格になっているのだ。
 そう言った訳で、美智恵は次女のひのめの教育に心血を注いでいた。ただ、霊能関係の組織の立ち上げに忙しく、それに専念出来ない事が気懸かりとなっていたのだが。

「大丈夫ですって隊長。ヒノメちゃんは素直に育っているじゃないですか」
「そうね、母親よりも好きな男の人を優先する位、素直だわ。はぁ〜…令子もこれ位、いえ1/10でも素直になってくれれば、ヒノメに新しいお兄ちゃんが出来ていたかもしれないのにねぇ〜」
「ハハ、それはともかく。今日の任務はなんなんスか?」
「あ、そうそう。今日は組織立ち上げの挨拶回りをするから、荷物持ちお願い」
「…了解です」

 『結局荷物持ちかいっ!』と内心の不満を胸に、素直に頷く横島であった。

 さて、夏至も近く陽の長い今日この頃、夕焼けの時間も午後6時半を過ぎる様になっていたが、横島忠夫は東京タワーの特別展望台の上に立っていた。
 ここは彼の魂の恋人、ルシオラが消えた場所であり、世界が変わってもこだわり続ける思い出の場所である。
 午後の時間、美智恵に従って永田町周辺を歩き回っていた横島であったが、使徒襲来によって発令された避難注意報によって関連省庁や関連機関も忙しい場所は手が空かず、そうでない所は避難準備に入った為、この時間には美智恵の荷物持ちから解放されていた。
 既に首都東京、特に重要な機関が集中しているこの一帯からは人影が少なくなっていた。
 新世紀に入って2年目、日本連合の人間は昔なら考えられない程、危険に関して敏感になっていた。
 しかも以前なら単純に『政治が悪い、政府は責任を取れ』と言っていれば済んだのだが、時空融合後に現れた『敵』はそれほど生易しい相手ではなく、呑気な事をしていればそのままお陀仏になってしまう程に危険な相手であった。
 よって、避難注意報が出された途端、周囲の住民は実家や別荘、旅行会社がパックで企画販売したり保険会社が用意した避難場所へと移動をし始めていた。
 因みに都合によりこの場所から動けない住民や避難の途中に通り掛かった避難民用に、充分なシェルターも用意されている。
 そう云った訳で公共機関や大通りを除いた場所以外の人影は、この時間帯にしては異常に疎らである。
 当然の事ながらこの東京タワーも営業は中止していて、この巨大な鉄の塔の中に人影はない。
 西の山陰へ沈んで行く真っ赤な夕陽に何を思うのか、じっと見詰める横島。
 すぅっと釣瓶落としに沈んで行く夕陽が完全に見えなくなり、真っ赤に彩られた空も徐々に薄暗くなって行くと、彼は満足したのか帰ろうとして文珠に『浮』の文字を投影する。
 だが次の瞬間彼は戦慄を覚えた。
 直下足許100メートルの大展望台から膨大な魔力を感じたのだ。
 そう、彼女たちは異世界での役目を終え、その異世界から魔法によって『送り返されてきた』。
 だがしかし、彼女たちはまだ知らない。
 この世界が彼女たちの居た世界そのものではない事を。

<7/2 午後 横島パート終了>



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