作者:アイングラッド

スーパーSF大戦

第23話


7/2 午前

横島ファイル・パート

 横島忠夫の朝は遅い。
 本来は、の話であるが。
 だが、今日も遅刻ギリギリまで惰眠を貪ろうとする、彼の試みは脆くも破られた。
 『バンッ』と扉の蝶番が弾け飛ぶような勢いで玄関が外から開けられると「先生っ! おはようでござる、散歩に行くでござるよ」と、まるで肉付きの骨を目の前にした犬の様な勢いで、銀髪に赤いメッシュが入った少女が吼えた。
 まだ朝早いのに。
 因みに午前四時の事である。

「う」

 彼の主観では、つい先程床に就いたばかり、まだ満足な睡眠を取ったとはとても言えない時間である。だが、目の前の少女はそんな彼の様子など目に入った様子もなく、怒濤の勢いで彼に畳み掛けた。

「う? れ・し・い、『嬉しい』でござるな。それでこそ拙者の師匠でござるよ、早く散歩に行くでござる」

 横島が絞り出した頭文字ひとつを都合の良い言葉に決めつけた彼女は足音も高く部屋に侵入し、容赦なく彼の布団をはぎ取った。
 本来なら此処で『ああ、これは青春の熱いリビドーとパトスが、見んといて〜』だの『この熱いたぎりを〜って俺はロリコンやないんや〜!』だの吼え立てる所だったが、今日は妙に暗い顔をしてボソリと呟いたのであった。

「なぁシロ、昨日で美神さんの所から出なくちゃならなかったってのに、どうしてそんなに元気になれるんだ」

 その真面目顔に流石のシロも少し引いたが、次の瞬間にはケロリとした顔で言い放つ。

「拙者も先生もオキヌ殿もタマモの奴も、美神殿も元気に暮らしているでござる。これに勝る事はないでござろう。そんなに落ち込んで、先生らしくないでござるよ?」
「はぁ〜、そうは言ってもなぁ」

 すっかり気持ちを切り替えたシロとは対照的に、横島はいつもの快活さは身を潜めガックリと肩を落としてそう言った。その様子に何か感じ取ったのか、何かを決意した様子でシロは言った。

「・・・先生、先生には気分転換が必要の様でござるな、拙者に任せて下され」
「ってなにをする気だ? (まぁ大体予想は出来るが)」
「もちろん、気分転換には新鮮で綺麗な朝の木々の空気をたっぷり吸い込むのが一番でござる、しゅぱぁ〜つ」

 そういうとシロは横島の手を握り締め、彼の抗議も耳に入らない様子で、物凄い勢いで走り始めた。
 後ろ手に引っ張る横島が必死の形相でわめき立て続けると、ようやくそれが意識に入ったのかニコリと微笑み横島に言う。

「分かりました先生、気持ちが落ち着く所、今日は奥秩父の森にするでござるよ。少し遠出になり申すが、お任せ下され」
「んな事ぁ言ってねぇ〜!」という横島の絶叫は肝心のシロの耳にだけは入らなかった。

 ブレーキの壊れたダンプカーという表現があるが、彼女の散歩に付き合わされるのは「レールが無くなったジェットコースター」みたいなスリルとサスペンスを体感するだろう。と言うか体感した訳だが。
 まあ、シロも悪気があったわけではなし、と言うか悪気でこんな事をされたらさしもの横島もプッツンと切れる事だろう。
 だが、確かに早朝の強制森林浴の旅・体感時間で約半日から帰ってくると、何となく心の底に感じていたやるせなさが薄れている様な気がしないでもなかった。
 だから、帰ってきた横島はシロの頭を軽く撫で付けてやったのだ。
 勿論、それを嬉しく感じたシロが「先生、拙者達が避難から帰ってきたら、今度はもっと早く来るでござるよ」と言いながらオキヌとタマモの居る宿舎に帰って行ったのも無理はない。ぞっとしない話ではあるが。
 それはともかく飛び出していったオンボロアパートに帰ってきたのが朝八時、もう既に学校に行く時間であった。
 彼の通う高校は、特にこれと言った特徴の無い極々平凡な公立校なのだが、日本連合の鍵を握る神秘学と云う点に於いては非常に重要なアプローチを与えてくれるだろう。
 何しろ彼らの世界はGS(ゴーストスイーパー)の存在した世界であり、一般人に認識された妖怪達が存在しているのだから。
 実際の所、机の付喪神たる机妖怪(GS世界でも日本人に於ける人外とそうでない者の境界は、その社会に於ける常識の基盤となる聖書や聖典によってその存在が明確に区分されている宗教を持たないが故に、神霊人妖魔は比較的なだらかな繋がりを持っていた。と言うわけで付喪『神』であり机『妖怪』であっても何の矛盾もない)の愛子やダンピール(いわゆるヴァンパイアハーフ)のピエトロ・ド・ブラドー通称ピート、そして音楽室のお化けメゾ・ピアノ等が在校しているのである。
 とはいえ、一般人にとって騒霊(ポルター・ガイスト)を始めとする幽霊や妖怪はGSに依頼して退治されて然るべき存在であったのだが、この学校では横島を筆頭にオカルト関係者が多く集まっていたのが原因か、その手の騒動が多発している内に一般生徒達の妖怪変化に対する偏見も少なかったのである。
 前振りは長かったが、つまりはこういう事である。
 横島の隣の席の女生徒が、木製の机の天板から上半身を生やしていても別段異常な事ではなく、「極めて日常の光景なのである」と言う事であった。

「おはよー、横島くん♪」
「お、愛子おはようさん、宿題見せてくれ」

 朝一番の挨拶が、如何にも単刀直入というか切羽詰まった言葉であった為、さしもの彼女もズッコケた。

「がく、な、なによ〜朝一番にクラスメイトに掛ける言葉がそれなの?」
「何言ってんだよ、クラスメイトじゃなけりゃ宿題写させてくれなんて言うわけ無いだろ?」

 さも当然、と言う風に答える横島に、愛子はいつものフレーズに合うシチュエーションを当て嵌めてみた。
 すると如何にも「青春」という感じに当て嵌まるではないか、彼女は嬉々としてこう言った。

「そ、そうよね♪ 授業が始まるまでの短かな時間に、ダメなクラスメイトに宿題を見させてあげる優等生、青春だわ♪」
「ダメは余計じゃ、放っとけ」
「まったくもう、宿題はきちんと自分でやってこなくちゃダメじゃないの。分かってるの? 横島君」
「うっせぃ、そんな暇があったらバイトに励んでるわい」
「もー、仕方ないんだから。ハイ、一時限目のノート。早くしなさいよ」
「悪い愛子、感謝感謝」

 そう言って愛子からノートを受け取った横島は必死扱いて綺麗に書かれた宿題を写して行った、しかし完全に丸写しでは直ぐにバレる確率が高いのだが、大丈夫だろうか。

<7/2 午前 横島パート終了>





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