作者: アイングラッド
天地・パート
天地たちは現在祖父が宛てがわれた宿舎に居た。
この場にいるメンバーは天地、魎呼、阿重霞、鷲羽と砂沙美それと美星。
全員が固唾を呑んで鷲羽が設置したモニターを注視している。
とは言っても居間のテーブルに並んだ茶菓子を齧りながら、であるが。
そのモニターなのだが、これは白眉鷲羽の持つ桁違いのオーバーテクノロジーの産物であるため、現代日本の様に映像機器をわざわざ設置せずとも空中に画面が浮かび上がっている。
そもそも何処からその映像を撮影しているのか、画面に映し出された使徒の真横、しかも至近距離からの映像が映し出され、各種パラメーターが解析データーを表示していた。
余談だが、日本連合の鷲羽・F・小林博士がこの解析パラメーターの諸元を知ったら、ここで用いられている技術の高等さに悶絶するのは確実だと思われる。
ちなみに美星一級刑事だが、ソファーに横たわって鼻提灯を出し入れしている。
その時、画面に表示されていた各種パラメーターのひとつが一気に出力を上げた。
「拙いわね」
鷲羽がそれを見て呟く。
「どうしたの? 鷲羽ちゃん」
「うん、天地殿。この使徒については説明したわよね」
「え、ああうん。僕らの世界の先史銀河文明に当たる、古代宙間文明のスターシードから生み出された生命体、だっけ?」
「ええ、単一の生命体としては桁違いのエネルギーを持っているわ」
「あら、鷲羽様。でも皇家の樹に比べたら…」
「阿重霞殿、別の世界に伸ばした根からエネルギーを吸い寄せる皇家の樹は別格でしょう。単体の通常の生物としては、って事よ。でね、このパラメーターが急上昇したって事は、今から攻撃が始まるって事なのよね〜」
「うげ、じゃあこの辺りってやばいんじゃ…」
「う〜ん確かにこちらに向かって来るみたいだけど、イヤ、それは大丈夫みたい。でもねー」
「鷲羽ちゃんには止められないの? その攻撃」
「止められるわよ。この天才鷲羽ちゃんに掛かればこんな出力の攻撃なんて小指一本でお茶の子さいさいよ〜♪」
天地の質問に当然とばかりに両肘を振って、鷲羽は『がはは』と笑った。
「だったら止めてあげれば良いのに」
天地は人差し指で頬を掻きながら苦笑した。だが、天地の疑問を鷲羽はあっさりと否定した。
「あらっ、私は止めないわよ」
「鷲羽ちゃんっ!? 」
その無慈悲な答えに天地は驚愕の余り声を上げた。
「だって、私が手を出したら何もかも解決してしまうんだけど、本当にそれで良いと思っているのかな? 天地殿は」
「何か拙いのかな」
鷲羽は含みを持たせて天地に問うが、天地はそれに気付かず手を出しても問題ないのではと返した。
しかしそれは鷲羽が天地に期待した返答と異なる物だった為、少しばかり婉曲に解説してみた。
「う〜ん。なんて言ったら良いのかな。例えれば、もしも全知全能な神様が存在したとして」
「え、それって」
「例えだから。もしもその神が『人間は神と違って不完全な存在だから、その努力は全て徒労に終わり、その結果は全てのものに対する害悪となるだろう。よって人間は神の言葉に定められた事以外の事をしてはならない。自分で考えて判断する事はしてはならない。人間は羊飼いに率いられる羊のように何も感じず、何も考えずに、ただ神の言葉を司る神官の言葉通りに行動する事以外はしてはならない』なんて言われたらその通りにする?」
「いや、幾ら何でもそんな酷い事を神様は言わないと思うけど」
鷲羽は何故か肩を竦めて軽く笑ったが、そのまま話を本筋に戻すべく口を開く。
「私が手を出すって事は、そういう事だから。この世界の人間が自分たちの力と努力を振り絞って今の状況をどうにかしようとしてるのに、勝手に『あらら、これはあんた達にはちょっと大変みたいねぇ。それじゃあ、私が軽くパッパとやっつけとくから適当にノンビリしててねぇ〜』じゃあねえ。一所懸命頑張っている人達に悪いっしょ」
「あぁ〜…確かに。まあ、そうなのかな」
どちらかと云うと天地としては命が掛かっているのだから、出来る限りの手助けをする事は良い事なのではないのかと考えてしまうのだ。
「って訳で基本的に私がする事はこの世界の経過観察かな。ま、どうしようも無くなったら手を出すとは思うけど。それまではね」
「それじゃあ、今回の旅行もこの事件の観察に?」
「ああ、それは別。目的はこれじゃないんだわ。だけど、それは秘密〜」
「鷲羽ちゃん、それってちょっと意地悪なんじゃあ」
「当然よお」