作者: アイングラッド

スーパーSF大戦
 第23話
 7/3午前3時00分

 鈴原桃児・桃子・岬パート



 武装テロリストによる品川駅占拠を辛うじてすり抜けた鈴原桃児、桃子、岬達避難民の乗った特別列車は東海道線を東京方面へと移動していた。
 ただ、不審飛行物体が東北地方から進行しているのが確認されたため、常磐線、東北本線への移動は止められて、中央本線から甲信方面へと進路を変更しつつあった。
 ディーゼル機関車に牽かれた旧型の客車に乗っている乗客の内、北側の窓に近付いていた者達はその光景を目撃した。
 例え午前に回った深夜帯とは云え、大東京は不夜城である。
 通常時ならば煌めくネオンと街灯に照らされたメガロポリスは、最低限の光にひっそりと照らし出されて非常に人寂しい景色となっていた。
 乗車率が軽く一〇〇%を超えている客車内では深夜帯だというのに眠れず、外の景色を眺めている人間の割合が多かった。
 東海道線を走る列車が浜松町駅の手前に差し掛かった時、赤く浮かび上がる東京タワーの向こう側に突然光の束が走った。
 その閃光はうつらうつらと入眠状態に入っていた者も含めて全ての者を振り向かせた。
 すべての人たちがその目に焼き付けた光の筋は、だが数秒で消え去った。
 突然の出来事に乗客たちはざわざわと声を上げる。
 様々な事が口にされたがその中の一人の言葉が客車内の注目を浴び、一瞬で静寂に包み込まれる。
『今のビームって第三(新東京市)からじゃねぇのか?』
 突然、墓場に放り込まれた様な静寂に包み込まれ、皆の注目を浴びたその若者は狼狽しつつ、誰に言ったものでもないのだろうが言い訳めいた事を口にし始めた。
『だってよぉ、今のビームって西の方から始まって東に消えていったんだぜ。間違いないって』
 だがそれは、自分たちの住処であり逃げ出してきたばかりの故郷、第三新東京市で戦乱が始まった事を意味していた。
 狼狽した若者は更に皆の不安を煽る発言を繰り返す。
『俺たちが第三から避難させられたのだって、敵が攻めてきたからだって事だしよぅ、もしかしたら第三はもう…』
 元々自信無さげな性格なのか、沈黙されたまま注目されたその圧力に屈したかのようにベラベラと言葉を垂れ流す。
 だが、そんな彼の斜め後ろに座ったパンチパーマに薄い口髭それにサングラスを掛けたモロにヤクザ風の男が静かにそれを止めた。
『ニィさんもう良いから、黙んな』
『ウソじゃねぇって本当なんだよぉっ、ってうぉヤクザ…
『嘘じゃねえからっ、黙んなさいってんですよニィさん。ホラ、小さいお子さん達が怯えてるじゃございやせんか』
 そう言うとボックス席の片隅に座った中学生と小学生ふたりを指し示した。
 流石にそれを指摘されると恐慌に近い興奮状態も冷め、首を竦めた。
『うっ…すみません』
『いや、こちらこそ出過ぎた事を言いやした。勘弁しておくんなせぇ。それから、あっしは一応中学の数学教師でさぁ』
『えっ…』 ―――――――――――嘘クサ―――――
 それでそれらの会話は収まったが、車内に漂った不穏な、そして微妙な雰囲気は消え去る事無く漂ったままだ。
 陰鬱な雰囲気の中、ゴトンゴトンと響くレールの振動と音はその三人に不安げに感じられるのだろう。
 小学生の女の子たち二人、鈴原桃子と岬は俯いて押し黙っている。
 中学生の男の子、鈴原桃児は光の束が消え去った北の空を見詰めていたが、不意に二人の頭に手を置き撫で付ける。
「大丈夫や、心配せんでええて。お父ん達はふたりとも無事やし、ワイ達かて無事に避難できるわい。何も心配せんでええのんや」
「兄貴」
「桃児兄ぃ」
 強がって強張った笑いを見せる桃児にふたりも笑い返す。
『でもな兄貴、手、震えとるで。格好ワルいなぁ』
 そう心の中で呟くと桃子はちょっとだけ格好良い兄に肩を寄せた。





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