作者:アイングラッド


 スーパーSF大戦
 第23話 打撃護衛艦『薩摩』の戦い


 ある意味、現作戦の失敗宣言とも言えるような発言に3人は驚いたが、どんな状況に於いても最善の努力を怠らない必要性は理解している。
 この間、マイクロ・ガンバスターは機体の安定化作業を行っていて戦力になるまでは暫し時間が必要であった。
 現在、第五使徒は稜線の下に隠れた高度に下がっている為にエヴァンゲリオンが居る陣地からは目視できない。
 しかし、迎撃が失敗した時にフォローする目的で幾つかの予備作戦が遂行されていて、その内のひとつが戦場から比較的近く、使徒のみならず各種武装テロリストの標的となり易い江東学園の防衛任務であった。
 現在、使徒防衛戦の隙を突いて利益を得ようとして複数の武装テロリストが表立って行動を開始していた。
 その事はエヴァンゲリオンパイロット達の集中力を保つ目的で雑音を排除していたのだが、正直これほどまでの同時多発テロがひとつのテロ組織だけではなく、複数のテロ組織が連携したり完全に単独であったりと、後の歴史家達を以てしても把握仕切れない混沌とした状況が発生していたのだった。
 比較的大きな勢力による物を上げてみよう。
 太平洋上から進入した飛行要塞グールによる新宿副都心上空で使徒に迎撃されたブロッケン伯爵による機械獣軍団。
 品川駅周辺を武力占拠する事により、鉄道輸送網にダメージを与えて民間人の避難計画を混乱させ、首都圏に政府と自衛隊の目を引きつけた所に目標を奪取しようと画策するダマスカス配下のテロ集団。
 その他にも未確認の非合法軍事集団が混沌とした情勢の中、自らの目的を果たすべくうごめいているのだ。
 その中のひとつ、箱根の地下に封じられたジオフロントから情報をサルベージするべく第三新東京を襲撃しようとするテロ組織があった。
 彼らは第五使徒襲撃による自衛隊の混乱を良いことに、十国峠方面から十数台の戦車と装甲車を連ねて芦ノ湖湖畔の東側を北上していった。
 使徒に対する迎撃体制に集中した隙を突かれた形になったのだが、彼らも荷電粒子砲が飛び交う中を進む事になるとは覚悟していなかった様であるが、怪我の功名と言えるのだろうか電探(レーダー)の感度が極端に落ちたお陰で自衛隊の目を盗んでまんまと国道75号線の下を通る林道を縫うように進み、九頭龍神社本宮を過ぎて桃源台港まで2キロの地点へと迫りつつあった。

 先頭を進むA1M1エイブラムスを中心にアメリカ軍で使用されていた戦闘車両や旧ソ連製のMBT群で構成された15両の集団がドロドロと云うエンジン音を響かせて狭い林道を進んでゆく。
 些か旧式ではあるが、コンバットプルーフを済ませた信頼性の高い兵器ばかりであり、それを操縦するテロリスト達の出身年代が第二次世界大戦時に青春時代を過ごし朝鮮戦争と中東戦争、ベトナム戦争に参加していた経験を持つ。
 よって、取り扱いに慣れた旧式戦車の操作には自信がある様で、意気揚々と進軍を続ける。

「ミスターK」

 エイブラムス主砲塔のキューポラから身を乗り出し周囲を警戒していた白髪にサングラスを掛けた髭の紳士に、車内から女性の声が掛けられた。

「ダイアナか、何か情勢に変化が?」
「いえ、いよいよ我ら『死ね死ね団』が日本人抹殺の為の第一歩を踏み出したのかと思うと、心が震える思いです。これもダマスカスと手を組んだミスターKの先見の明でありましょう」
「ふむ、太平洋戦争で酷い目にあった私からすればこの戦車も超兵器であるがな。地底戦車を失ったのが痛い」
「工場主任である私の責任です。ですが、ダマスカスから供給を受けたエイブラムスも劣化ウラン弾と云う強力な兵器を搭載しています。日本人どもが振りかざす超技術の源であるジオフロントを我々が占拠してしまえば、世界に日本への不信感を植え付けるニュースが発信され、今までのようにデカい顔をしていられなくなるでしょう。そして何れは」
「うむ。地球上から日本人という猿真似集団を廃し、正統な文明の担い手が正しい評価を受ける事が出来る正しい世界を作り出せる」

 第二次世界大戦中に日本軍による虐待を受け、日本人の抹殺を企む『死ね死ね団』の団長ミスターK。
 そして彼の薫陶を受けて日本に対する恨み辛みを抱いたキリスト系アジア人を中心とした『死ね死ね団』構成員。
 自らの信念に些かの疑念を抱く事もなく、未だに使徒に対する強い警戒態勢を取り足下の驚異に気付いていない無防備な自衛隊陣地へと戦車を進めた。
 彼らの自信の根拠は、現在ジオフロント周辺に展開している自衛隊は使徒に対する攻撃のバックアップを中心に構成されており、使徒を刺激しない戦力である兵員輸送車やトラックが多く、対機甲師団戦闘に向いていないと云う点に尽きる。
 尚克つ、首都圏に同時多発的に進撃しつつある敵性勢力の機動兵器群則ち『機械獣』『テロ・レイバー』『鉄板を溶接しただけの簡易装甲車』『武装ピックアップトラック』等への対応のために機甲師団は首都圏へと振り分けられていた為だ。
 その為もあり、旧式とは云え戦車は戦車、非装甲車両に対する攻撃力は健在だった。
 キュラキュラと履帯を軋ませて確実に湖岸に近い道を進む彼ら『死ね死ね団』の機甲部隊15両が桃源台港へと近付く。
 攻撃目標及びジオフロントへの突入口と目される大学の施設まで1キロまで近付いたが、阻止戦力も配置されてなければ警備員すら姿が見えない。
 これは普通科の自衛隊員達が荷電粒子が飛び交う使徒との戦闘の余波による余計な被害を避ける為の処置であったが、まさか使徒の進行直後に同様の進路を取って進撃してくる事は想定していなかった。
 自衛隊としては裏を掻かれた形になったが、『死ね死ね団』自体も偶然選んだ時期と進路が一致しただけであって情報戦に勝った訳ではない。
 迫り来る砲火の咆喉に徐々に気持ちが昂ぶる『死ね死ね団』はラストスパートとばかりにアクセルを吹かしてスピードを上げた。

「ふはははは、今現在この地に我々を撃破出来る陸上兵力は無いっ! 我々のっ! 勝ちだぁっ!」

 彼らが目指すジオフロント入り口が設置されている大学の入り口まであと僅か、地下に隠されている超科学を手に入れた後の事を夢想し、日本人の大虐殺に性的な快感にも似た高ぶりがミスターKを襲う。
 だがその瞬間、ノーマークだった左側の、つまり芦ノ湖から目も眩む強力な光が浴びせられた。
 その強力な探照灯の明かりは『死ね死ね団』の車両の列を煌々と照らし出す。

「何事だぁっ!」
『軍艦ですっ! 護衛艦…いえ、戦艦がこちらに向けて』
「なにぃっ!」

 彼の呼びかけにサーチライトを浴びずに湖面を視認出来る位置に居る装甲車両のメンバーから報告が入った。
 サーチライトの直撃に掌をひさしにして目を凝らすと、僅か100mほど離れた黒い湖面の上に護衛艦に採用されている灰色に塗られた船体が目に入った。
 観光パンフレットにも掲載されている有名なその艦の名は、前弩級戦艦『薩摩』。
 ご丁寧な事にその観光パンフレットに掲載されているのだが、艦体の舷側にシュルツェンの様に取り付けられた90式戦車と同等の複合装甲板によって近接戦闘に限って防御力が増しており芦ノ湖湖畔に存在する装甲目標に対する強い抑止力となっているのだ。
 ちなみに普段は満艦飾を施した上で芦ノ湖を遊弋しており、夜間はイルミネーションを輝かせて停泊した姿が観光客に愛される存在となっている。
 思わぬ強敵に過敏に反応したミスターKは直ぐさま攻撃の命を下す。

「怯むなっ! 所詮は100年前の日本人が作った猿まねの旧式艦だ。現代のアメリカやソ連が作った主力戦車が負けるはずが無いっ、撃てぇっ!」

 エイブラムスを始めとする戦後の主力戦車群の砲弾が薩摩の舷側装甲に殺到する。
 流石に150m近い船体を持つ薩摩を外す砲弾は無く、その悉くが空気を引き裂いて命中した。
 APFSDS弾頭の弾芯が激しく装甲を叩き、徹甲榴弾の爆炎が舷側を包む。
 確かにM1A1エイブラムスの44口径120mm滑腔砲M256の劣化ウランを用いたAPFSDS弾頭は500mmを超える均質圧延鋼板を貫通するが、現代主力戦車との撃ち合いを前提として増加装甲を張った薩摩には通じなかった。
 命中箇所に罅が入り凹みが発生しているが、艦としての機能には些かの障害も認められない。

「馬鹿なっ! 有効弾が無いだと!?」
「ミスターK、レーダーも積んでいない旧式艦ならば光学機器・測距儀を破壊すれば盲目になります」
「うむっ、艦上構造物を狙えっ」
「はっ!」

 船体には命中させられた『死ね死ね団』の戦車群だが、流石に目標が小さい艦橋上層部を狙うのは難しく各車は一斉に停車し、砲塔を薩摩の艦橋の上に搭載されている測距儀に向けた。
 だがその時、主砲であるアームストロング30.5cm(45口径)2基4門とビッカース25.4cm(40口径)6基12門の内右舷にある3基の上からレーザー測距儀の赤い光線が5本放たれた。
 少しの間地面を薙ぐように走査したレーザーの光は『死ね死ね団』の戦車群の先頭から5台をロックオンし、水圧ポンプが立てるゴンゴンと云う音を立てて砲塔の向きを変えて行く。
 暴力的なまでにでっかい大砲が自分に向けられる感覚は如何なる物か当事者にしか分からないが、砲口が徐々に真ん丸になる光景は絶望的な物である事は確かだった。

「発砲っ!!」

 咄嗟に射撃を命ずるミスターKにより砲弾が薩摩の上部構造に殺到する。
 その大部分が外れ湖水に水柱を立てたが、3発が命中し昼間艦橋が吹き飛び、光学測距儀のターレットを歪ませた。
 だが、レーザーと砲塔の向きが完全に一致するまでロックオンされたレーザー光線がズレる事は無かった。
 衝撃に強い戦闘用途に向いたレーザー測距儀だが実は自衛隊の戦闘レイバーであるヘルダイバーの頭部を流用した物で、首の柔軟性により衝撃を緩和、画像がブれる事無くロックオンが解除される事は無かったのだ。

「全速前進っ! 敵から離れろ」

 慌てて命ずるが、薩摩の主砲であるアームストロング社製造30.5cm(45口径)の連装砲が轟音と共に386kgの砲弾を吐き出す。
 副砲であるビッカース社製造25.4cm(40口径)の連装3基も続いて発砲し、高い命中精度でソ連製主力戦車のT−80,T−80U,T−90へと235kgの砲弾を叩き込んだ。
 積層装甲や爆発装甲に包まれ、APFSDS弾頭の高初速の弾芯を弾き返す装甲を有する主力戦車であるが、圧倒的な質量と爆発力によって標的となった戦車5機を完全に消滅させられた。
 些かオーバーキルではあるが、この融合世界では思いもよらぬ堅い装甲を有する機体が存在するやも知れず、ジオフロントと云う機密を保持する為にはこれ位の直接火力は必須であると認識されていた。
 現に『特異生物』、通称『怪獣』の中には薩摩クラスどころか金剛クラスの主砲弾に耐える存在も確認されている。
 初撃によって『死ね死ね団』の残存車両は指揮車と指導者の両方を失った事により混乱し、続いて行われた薩摩の砲撃によってあっという間に全滅を喫してしまった。
 これにて使徒襲撃の隙間を突いて盗人を働こうとした武装組織は絶滅した。
 だがこれは、この夜に行われた数ある戦闘の極一部に過ぎない。
 ブルーウォーターに惹かれてSCEBAIのある富士山麓の学園都市へと向かった第5使徒との再戦も近く、視点を次の戦場へと変えよう。







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