作者: アイングラッド

スーパーSF大戦
第23話
7/3午前3時00分

面堂・パート


 面堂家は現在、ほぼ戦争状態と云っても良い状態に突入していた。
 核兵器の攻撃にも耐えられる地下司令室で終太郎が指示した通り、面堂家の敷地に隣接する鉄道、中央本線と西武鉄道、東武電鉄に繋がっている引込み線から面堂家地下シェルター駅に直接通勤型の電車が乗り込んで来ており、それに詰め込まれた避難民たちは東京ビッグサイトの数十倍と言う広々とした地下広場に避難していた。
 それらに対するケアも勿論大変だが、それよりも現在の問題はどんどんと近づいてくる未確認飛行物体への警戒だった。
 何しろ面堂家といえば、時空融合後の混乱期に於いて『経済的に』日本連合を立ち上げた御三家のひとつである。
 世界征服を目論む武装勢力からすれば最重要施設である事は確かであったので、警戒してし過ぎると言う事は無いのだ。
 現在面堂家は、時空融合前に有していた私設軍隊を現状の社会情勢に合わせて非武装化した警備班が各所の塹壕や防衛拠点を固めていた。
 それらの中には独逸第三帝国のタイガー戦車、パンター戦車、ケーニヒスティガー戦車や西ドイツから輸入したレオパルド、レオパルド2と言う強力な機甲部隊が配備されていたが、以前の世界ならともかく、経済力だけでゴリ押しが出来る政府ではなくなっていたので装甲、防楯は現状に合わせて強化されたか或いはそのままだが、主砲塔は神戸の武装警察戦車大隊に準じたスタン兵装に変更されている。
 これは時空融合後の断固とした政府の方針で決められた武力保持団体規制法によって定められた基準をクリアーする為に行った装備変更で、運用も面堂邸私有地及び私道のみに限定された上で装備の定期検査と高率の税金を以て面堂邸の私設警備会社と云う事になっている。
 よって以前運用していた戦闘航空機部隊は面堂財閥系列の航空会社へ移行しているし海上戦力も面堂財閥系列の海運会社へと移籍済みだ。
 ただ、面堂終太郎コレクションの機甲兵器や航空兵器は整備された状態で地下倉庫に厳重に保管されているし、旧私設軍隊の隊員であった警備員自体も傭兵並みに鍛えられているので、準軍事組織と政府に認識されているのは確かである。
 実際の所、元の世界並みに我が儘を通すと指定団体入りしてしまうので、政府の監査の元での運用が義務づけられていた。
 現状を分析すると時空融合後に出現し始めた武装集団の中にはそれでは対抗し切れない程に強力な物が多かったのだが、国民の権力を集約する政府の管理下に無い軍事組織が国内に存在する事は容認出来ないと云う事から、この手の私設軍隊は軒並み解体するか自衛隊へと移籍吸収されていたのだ。
 その為、現在の所シャフトエンタープライズ・ジャパン・ガードセキュリティーが準軍事レイバーを装備している他はここまで重武装の警備会社も存在しないのである。
 さて、終太郎が対使徒用に準備させていた列車砲ドーラをこの未確認機に向かって使用しようかと言う案も出ていた。
 そして実際にドーラの大砲を使用する為にこの面堂家の敷地を横切る敵の高度と速度は観測され続けているが、その機会は遂に訪れなかった。

 終太郎は商社に不可欠な情報収集部門、諜報部の構成員である黒メガネ部隊を引き連れ全てのモニターが目に入る司令室の中央に設えた席に座り現在何が起こっているか読み取ろうとしていた。
 流石面堂家と言うべきだろうか、通常なら政府から発表されるまで時間が掛かる情報もリアルタイムで表示されており、現在首都圏を覆うきな臭い状況が余す所無く映し出されている。
 ふと気づいた様に終太郎は傍らの黒メガネに質問を掛ける。
「了子はどうした?」
「はっ、了子様は現在、ご学友の方達と共に了子の館パート2にてお月見の会を開いておいでです」
「なにぃ? この状況でか? しかも夜中だぞ!?」
「はい、その様で」
「まったく、仕方の無い奴だ。現在の状況が伝わってないのじゃないか?」
「いえ、了子様直属の黒子部隊からしっかりと状況は伝わっているかと…確認しますか?」
「いや、良い。あいつの事だ、どうせ面白がっているだけだろう。ふむ、現在の首都圏の情報を報告しろ」
 そう終太郎が命じるとその黒メガネはメモ帳を片手に報告を始める。
「現在、首都圏での武装テロリストの活動は以下の場所にて発生しています。品川駅を占拠したテロリストですが、現在の所犯行声明は出ていません。ただ、服装などの点からドクターヘル配下のブロッケン伯爵隷下の鉄仮面部隊だと分析されています。現在実際にテロ行為が発生しているのは品川駅だけですが、都内各所に不穏な動きをしている集団が多く報告されており、今後も予断は許さない状況であるかと。又、現在接近中の飛行物体の動向も不明であり、テロの範疇を超えて都内での大規模戦闘への移行も可能性は高いですな。それから、第三新東京市に於いて実施されている第二ヤシマ作戦は現在第一段階を遂行中。第五使徒は箱根へと侵攻しつつあります」
「何もかもこれからだ、と言う事だな」
「左様で御座います」

 終太郎が地下で今後の対策に頭を悩ませている頃、面堂家敷地内に点々と建っている瀟洒な館のひとつ、了子の館パート2の2階テラスでは。
「了子様ぁ。面白いものが見えるかもって一体なんですか」
 了子の通う女学園の制服を着た魔神英子にそっくりな少女が和服を着込んだ了子に質問する。
 すると一緒に大徳寺美子に似た容姿の女生徒がうんうんと頷く。
 そんな様子を見た了子は微笑を浮かべて答えを返す。
「うふふ、まあ見てなさいな」
「へー、そうなんですか。どんな物なのかしらー」
 胸の前で手を組んでわくわくしている寿詩子に似ていない取り巻きの女の子を見て了子は悪戯を企む者の笑みを浮かべる。
 実際の所、了子という人間は賑やかし屋の性質を持っている。
 云ってみれば、火の無い所に黄燐煙幕を焚く様な人物だ。
 だが、状況を把握、支配下に置いてから行動する慎重さを兼ね備えた了子であっても想定外の出来事は多い。
 相克界によって真っ黒な夜空を失ったこの世界に於いて、ボンヤリとした濃淡のある灰色の夜空の一角に機首の印象が獅子舞の頭の様な、巨大で奇妙な飛行物体が東京の行政中心部である新宿都庁目掛けて飛んでいた。
 その巨大な飛行要塞は面堂家の敷地の中からも視認出来る位置にあり、了子は黒子に教えられてそれを見た。
「皆さん、見えましたわ」
「え? どれどれ、どれですの、了子様」
「ホラあちらに…」
 了子が南の空を指差した一瞬、西の空から太陽が昇ったような激しい閃光が走り、眩い光の束は一直線にそれに向かった。

「若っ!! 」
「何だっ!?」
 対空監視用のコンソールに向かっていたキリコ・キューピイに似た黒メガネがそのアクシデントに驚き、怒声を上げるように終太郎へと報告する。
「アンノウンが撃墜されました」
「何だとぉ!? 誰だ、相手は」
「方角は、箱根。第三新東京市方面ですっ!」
「っちぃ、流れ弾だと言うのか」
 終太郎は現在の激しく流動する状況に対応出来る様、更なる情報収集を部下たちに命じた。





スーパーSF大戦のページへ







 ・  お名前  ・ 

 ・メールアドレス・ 




★この話はどうでしたか?

好き 嫌い 普通


★評価は?

特上 良い 普通 悪い