作者:アイングラッド

第23話

面堂パート

7月2日午後の部

 午前の授業が終了すると、そそくさと帰り支度を始めた面堂にしのぶが声を掛ける。

「あら、面堂さん、今日は早退?」
「ええ、ちょっとした野暮用で」
「またご親戚にご不幸でも?」
「いえいえ、あそうだ、しのぶさん今日は寄り道せずに家に帰って下さいね」
「え・・・あ、はい」

 突然の言葉に何か思い当たるのか、思わず頷くしのぶ。だがそんな終太郎の真意に気付かず、茶々を入れる天敵がいた。

「まぁ〜たラムにちょっかい出そうと悪巧みしているんじゃないのか?」

 類は友を呼んだのか、本人にとっては大変に不本意ながらも、自他共に認める面堂のライバルたる諸星あたるである。  
 学力、教養、容姿、財力、全てに於いて終太郎が勝っているにも関わらず、最も大事なものを手に入れている男だ。

「フン、生憎とそこまで暇でもないんでね。失礼する」
「おう、帰れ帰れ。目障りな気障野郎がいなくなって清々するわ」
「フン、それはこっちのセリフだ諸星。貴様の不抜けた間抜け面なんぞ見てられんよ」
「なんだと?」
「なんだよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「にっひっひっひっひっひ」
「ふっふっふっふっふっふ」

 売り言葉に買い言葉、一瞬にして険悪になった二人は向かい合ったかと思うと直ちに戦闘体制を整えた。

「一遍貴様とは決着を着けねばならないと思っていた所だ、諸星」

 そう言いながら日本刀を正眼に構える面堂。

「くっくっく、返り討ちにしちゃる」

 と口元に笑いを浮かべながら巨大な木槌を構える諸星。
 そんな一触即発の状態に呆れながらも、脇で見ていたしのぶが一応声を掛ける。

「ちょっと止しなさいよ二人とも」
「止めるなしのぶ!」
「そうですしのぶさん、これは男と男の神聖な戦いなのです。ボクはこの一戦でこいつと雌雄を決する覚悟なのです」

 等とやっていると日本語文化に詳しくないインベーダーのラムが傍らで騒ぎを眺めていた竜之介に訊いた。

『竜之介、雌雄を決するってどういう事だっちゃ?』
『あぁ!? し、しゆうを決するか? あ〜、あれだ、そのぉ』

 そんな事を訊かれると思っていなかった藤波竜之介(♀)は思わず口篭もった。
 格闘馬鹿の浜茶屋親父に育てられた竜之介は文系に弱い、よって、字義通りの意味を口にした。

『つまり雌雄を決するってのはオスとメスを決めるって書くから、負けた方が嫁になるって事なんじゃないか?』
『ぬわにぃ〜#』

 その解釈を聞いたラムの角の間に紫電が走った。

「安心しろ諸星、例えお前が亡き者になってもラムさんの面倒はこのボクが一生見てやるからな」
「へっ、ラムは俺のもんじゃ、お前になんかやらんわ」

 こちらも売り言葉に買い言葉、あたるは普段なら思ってても絶対に口になぞ出す事の無い言葉で面堂を挑発する。するとあたるの背後から暗い口調で語りかける鬼娘がいた。

「ダーリン・・・」

 ラムに本心を聞かれた!? 心の底からの意地っ張りであるあたるは本気で焦った。
 何とか誤魔化そうと口を開くがラムの語りかけてくる言葉は理解し難い物であった。

「わっラムいい今のはだな」
「女に浮気するだけに飽き足らず、終太郎にまで手を出すなんて、ウチ・・・、ダーリンは情けないって思わないのケ?!」
「何の話じゃ!?」

 涙を浮かべながら抗議するラムの態度に疑問の声を上げる、しかし。

「信じられんちゃ! もう呆れ果てて言い訳なんて聞く気になれないっちゃ! 天誅!!」
「お前の言ってる事は訳が分からんわ〜!!」

「おっと、もうこんな時間か。時間を無駄にしている暇はないな」

 ちゅど〜ん! と爆発を起こして吹き飛んでゆく諸星を呆然と見ていた面堂であったが、腕時計を確認し、ヘリの到着時間が近い事を見て取るとそのまま校庭へ出て行った。
 バタバタとしたローター音を響かせてツインローターの大型ヘリが友引高校の校庭へ着地した、その騒音に学校中の生徒達が興味深そうに見守る中、固太りで中年に差し掛かった生活指導の英語教師、温泉マークが騒動を聞き職員室から駆け出してきた。

「何だなんだ〜! こらぁ〜面堂!」
「すいません先生、急ぎの用事があるので早退させて頂きます!」
「ヘリ通学は禁止だと言っとろぉがぁーっ!!」

 温泉マークの怒鳴り声をバックに終太郎を乗せたヘリは面堂邸のセキュリティー管理を行う、地下指令室近くにあるヘリポートへと 着陸した。
 終太郎は足早にリノリウムの廊下に甲高い足音を立て、核シェルターをも兼ねた厚さ数メートルの扉をくぐり、厳重な警備態勢下にある指令室へと到着した。

「終太郎様、入室っ!」

 警備員の入室報告を聞いた指令室オペレーターは一斉に立ち上がり終太郎へ敬礼を行おうと腕を上げ掛けるが、それを手の一振りで素早く制すると終太郎は手近にいた室長へと口を開く。

「挨拶は構わん、状況を報告せよ」
「ハッ! 政府機関より公表されている現在の使徒針路予想図をメインスクリーンへ」
「了解」

 室長の指示に従い投影された使徒針路予想図は、ぶっちゃけて言うと台風予想図の(台)の代わりに(怪)の字が書かれた物と思っ て貰えば良いだろう。
 使徒の現在位置と侵攻方向と移動速度、その周辺に攻撃による破壊危険区域が丸く描かれ、3時間後、6時間後の未来予想針路が扇状に拡大されて行っている。
 直感的に理解しやすい図形である事に加え、敵によって異なる行動パターンを示すのに都合が良い為に現在の所、特異生物部、通称 怪獣Gメン達によって研究が続けられている物であるが、ほぼ完成に近い状態の様だ。
 今後、怪獣の出現による災害発生が予想される時には怪獣の性質を熟知した専門家集団である特異生物部から各省庁、一般向けにこ れらが公表される事になる。
 進路上の交通機関、破壊される事により被害を広げる可能性の高い危険な施設、怪獣の移動能力と地形を加味した進路予想、それらに毒ガス情報が有れば風向きをも計算に入れた推薦避難方向と経路が割り出され、それらを元に関係省庁が避難計画を立て、マスコミ が広報するのである。
 彼らは怪獣Gメンであるが使徒も一種の巨大生命体と考えられた為、彼らにお鉢が回ってきたというワケだ。
 ちなみに、台風予想図を元にしようと提案したのは『怪獣第一発見率ナンバーワン』の元刑事さんである。
 さて、メインスクリーンに映し出された予想図には(怪)の現在地がしっかりと示されている。
 それが既に硫黄島近くを通過した事を確認した終太郎は面堂家警戒レベルを通常時からレベル2に引き上げる様に指示。
 面堂邸内のセキュリティーレベルが引き上げられると共に、武装警備隊(私設軍隊)の動きも慌ただしくなっていく。
 一般職員の部署以外の移動が制限され、各区画に警備要員が武装状態で立哨する為に大変に物々しくなる。
 そう言う訳で、面堂家の人間と言えど自由に屋敷内を散歩出来る物ではないのだが、何故か黒子と了子が屋敷のセキュリティー司令という重職を務める終太郎の慰問の為、指令室に来襲した。

「お兄様、お役目ご苦労様です」

 そう言ってニッコリと微笑みを浮かべた和服の美少女(15歳)がウマ(劇で使用する様な二人の人間の着ぐるみである)の鞍の上 から終太郎へ挨拶を送る、が終太郎はそれを手の平で『シッシッ』と追い払う様なジェスチャーを返す。

「了子! ここは関係者以外立ち入り禁止だ。なぜここにいるっ!?」
「あら酷いですわ、私はただひとえにお兄様の身を案じてここへ参りましたのに」
「フン、どうせお前の事だ。痺れ薬入りの飲み物でも持ってきたのだろう。誰がその手に乗るか」
「そ、そんな! ひどい、お兄様の事を、私はこんなに案じていますのに! ああ、涙が出てきてしまいます、だって女の子なのだも の。うう、しくしく。ああ、しくしく」
「ええい、うっとおしい。嘘泣きなどするな!」
「嘘泣きだなんて! ああ、お兄様にこんなに私は信用されていないなんて! もはやこの私の存在している意味などございましょうか。私は心 の底からの悲しみに眦を濡らしておりますのに。嗚呼、なんて悲しい事でしょう。うるうるうる」
「泣くなと言うのに」

 流石に根負けしたのか終太郎が反省した声で了子を慰めようと声を掛けた、すると指令室で作業していた黒服達が一斉に囃し立てる 。

「「「「「♪あーらーらーこーらーらー。坊ぉ〜っちゃんがぁなーかしたー♪」」」」」
「お前らなぁ!?」

 流石に怒声を以て黒服達を睨み付ける終太郎であったが、その脇では相変わらず、オヨヨと泣き崩れ続けている妹の了子の様子に『 こんなひねくれた奴にも少しはかわいい所が有ったのか』と思い直した。
 さすがに頭から悪質なイタズラをすると決めてかかったのは拙かったな、と優しい声で了子に質問する。

「わかったわかった。で、一体何の用があるんだ?」
「ぐすっ、はい。おいしいお紅茶の葉を手に入れましたの。丁度お三時ですし、是非お兄様にご賞味頂こうと」
「ふむ。分かった分かった。ではおいしく淹れてくれよ。痺れ薬は抜きでな」
「まあ、ひどいお兄様、そんなモノは入れません」

 少し拗ねた仕草を見せた了子であったが、後に控えていた黒子に用意させたティーポットにたっぷりのお湯を入れ、作法通りに紅茶を蒸らす。
 優雅な動作で如何にもお嬢様と云った風に優しく微笑み、ティーソーサーと共にルビーの様な紅茶を終太郎へと差し出した。

「はいどうぞお兄様」
「うむ、頂こうか」

 終太郎は軽く匂いを嗅ぎそれを一口含む。

「うん。まろやかな舌触り、上達したな了子」
「はい、痺れ薬など入れていませんもの。当然ですわ」
「ふふふ、お前はいつも痺れ薬を入れるからなぁ。ふっはっはっはっは」
「ええ、ですから今回は笑い薬を仕込んでみましたのよ、うふふふふ」
「あっはっはっはっは、そうかそうか、笑い薬かぁ、ふははははははは」
「おーっほっほっほっ」
「なーっはっはっはっりょうこぉーひっひっひ」
「きゃあ♪ お兄様ったら引っかかった♪」
「ふはははははっ、り、了子、お前はなぁ〜、いひひひひ、そっそこへなおれぇ」
「うふふふふふ、つかまえてごらんなさぁ〜い♪」

 結局薬が抜けて執務に戻るまで一時間余りを要したという。

 さて、政府筋に顔の利く面堂家では、自衛隊が採取した最新の使徒の情報を仕入れる事に成功していた。
 メインスクリーンには自衛隊が使徒に攻撃を仕掛けた際の映像データー等、様々な情報が矢継ぎ早に提示されて行く。

「むぅ、やはりATフィールドか」
「はい。絶対領域と呼ばれるATフィールドを無効化する手段が知られていない以上、通常兵力に対する目的で製作された通常兵器では効果はないかと思われます」
「バスターバンカーを直上から命中させれば」
「近付く前に撃墜されますな」
「それもそうか・・・よし、ではいざという時の為にアレを用意しておけ」
「アレ・・・と申しますと」
「ボクの秘蔵兵器コレクションNo.1だ」
「まさか、列車砲を実戦で、機動要塞相手にですか?!」
「出来ない、とは言わさんぞ」
「・・・そうですな、条件としては至近距離からの一発勝負、値段の張る超合金面堂スペシャルをふんだんに使った撤甲弾を強装薬で、な らば勝機も無い訳では無いとは思いますが。しかし、使徒情報では」

 そう言うと彼は、怪獣Gメンが編纂し政府が発表した「使徒情報」の進路予想図の中心部に書かれた(怪)と書かれた使徒の移動予想範囲を示した。

「最終予定地は第三新東京市となっておりますが?」
「そこを使徒が狙うと云う根拠の何たるかが分からん、油断は出来んよ」
「やはり政府の機密情報は掴めませんでしたか」
「ああ、残念ながらな。我が精鋭の情報部ならばS級機密までなら背景から確度の高い事実と同じ情報を推測する事は可能なのだが、 残念ながら情報源の少ないSS級の機密情報らしい。政府に今までの貸しをチラつかせるか、情報戦を仕掛ければ情報を得る事は可能だろうがな。ま、無理に聞き出す事もあるまい、諦めてやるさ」

 そう言う彼の脳裏には、自信過剰の末、政府を挑発した政経複合体の事が横切っていた。

「まったく、政府が我々面堂財閥の云うことを聞かない等、時空融合以前なら考えられない事ですなぁ」
「ああ、だが今の政府は並じゃない。良い気になって突いてみれば痛い目を見るのは、こちらだろうからな。もちろん、覚悟を決めて勝負を仕掛けた時には只でやられてやるつもりもないが、そう なれば双方共に痛い目に遭う結果以外にないだろう。大人の我々は顕示欲の強いコドモの跳ねっ返りとは違うのだよ、そうだろう?」
「まったくでございます。若」


<面堂パート 7/2 午後の部 終了>



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